ただ無題でありたかった物語
立っていた。
涙を流し、握り拳から血を垂らし、それらすべてを雨で流して、それでも彼は己の力で立っていた。世界に屈したい、その願望を抱く己に屈していなかった。
残酷なことに、極めて残酷なことに、魔法界では決定された運命を覆すことができないという事実を覆すことができない。規定された物語はメタの概念であり、そこに干渉する手段を魔法族は持ち合わせていない。
つまり、予言者とは破滅的な才能である。古代ギリシアでモプソスとカルカスが予言の力を争ったような、愉快で幼稚な用途ですらも、そこには覚悟が求められる。断片的であっても未来を確定させてしまう恐怖。それを真に理解しうるのは予言者だけなのだから。
では、予言者の記憶を覗いたとき、そこに自身の破滅が含まれていたのなら、その絶望はいかばかりであっただろうか。例を挙げるなら、グリンデルバルド家は予言者の血筋だ。ゲラート・グリンデルバルドに開心術をかけた術師はその精神を維持できただろうか。
「はは、いや、まさか。お嬢さん、君には小説家の才能がある――」
ギルデロイ・ロックハートは予言者の瞳に己を見た。あれほど優れた容貌を称えられたというのに、ひどく歪な笑顔を浮かべて、涙すらにじませている。
詐欺師となり、愚かさを暴かれ、そして己の忘却術によってすべてを失う道化。自分の未来がそのように規定されていると知ったとき、恐怖しない者がいるだろうか。
ギルデロイと一晩を過ごしたエジプト人の予言者は、とうとう頬を伝いはじめたギルデロイの涙に舌を這わせた。蠱惑的なふるまいであるにもかかわらず、ギルデロイの目には彼女がオアシスを求めて喉を嗄らす砂漠の迷い人に見えた。
「これが運命。世界の、そしてあなたの。……ねえ、だから、忘れさせてくれる?」
私、疲れたの。
それはもう一度の夢に微睡む誘惑ではなく、ギルデロイの魔術を求める懇願だった。彼女はギルデロイが忘却術に長けていることを知っている。なぜなら、その未来を見たからだ。
この行為すらもあらかじめ決まっていたのかもしれない。どこから? ギルデロイ・ロックハートの誕生は決まっていたのか? では、姉たちの死は? この旅路は? 今この瞬間の、ギルデロイが抱える苦しみは?
ギルデロイは震える指を杖に添え、彼女のこめかみにあてがった。これほど心が悲鳴を上げていても、連れ添ってきた桜の杖はいつも通り応えてくれる。そして、予言の中の己がそうしていたように、その呪文を叫んだ。
「