格ゲー全一Vtuber【完結】   作:難民180301

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配信/掲示板/フレフレ配信

 推しのグッズに埋もれる暗い部屋。

 

 ぼんやり浮かび上がるモニターの光の中に、折れ線と棒の複合グラフが表示されている。るー子のチャンネル登録者数と増加数を示したものだ。

 

 モニター前に肘をつき、手を組んだ姉がにんまり笑う。

 

「ふむ……」

 

 増加数は正月休み以来伸び悩んでいるものの、登録者数自体は着実に増えている。エゴサでもるー子アンチの数は多くなく、いたとしても手元配信アリな点を無理に指摘するものばかりで、好意的な意見がほとんど。配信を見て格ゲー久しぶりにやりたくなった、格ゲーを初めてみたなどの書き込みも多く、格ゲー布教を方針に据えた成果といえる。

 

 るー子は正月配信にてランクマ無双と雑談、用語解説くらいしかしていない。他ゲー実況など姉の考えていた企画のほとんどを使うことなく、ここまで数を得たのは望外といえる。世界はロリを求めているのかもしれない。ロリ体型の対極にある姉は涙を禁じ得ない。

 

 ともあれ、そろそろ頃合いだろう。姉は黒幕のような笑みを意識するあまり、引きつった気持ち悪い笑顔になって、こう言った。

 

「大会の段取り、組んでくか」

 

 第一目標のクリアは目前である。

 

 

 

ーーー

 

 

 

【指導力全一】格ゲーのおかげで彼女ができ面接も受かりました【雨乃るー子】

 

「はい、今日もやってこー」

 

コメント:

やってこー

クッソ胡散臭い配信タイトルなんなのwww

個人の感想です

危ない勧誘にでもあった?

初心者指導と聞いて

 

「はいその通り、今日は初心者のみなさんにどんどんアドバイスしていきたいと思います。勧誘とかじゃないわよ」

 

 るー子の声は心なしかいつもより弾んでいる。目標に向け順調に進んでいる手応えがあるからだ。

 

 正月休みの配信は雑談とランクマ、たまによそ様の狂犬とじゃれ合う定番の内容だったが、文字たちの流れは速くいつも活況だった。中でも「この配信見て初めて格ゲー始めました」という旨の文字が増えたことが、るー子の機嫌を良くした。

 

 格ゲー人口が増え、身体が闘争を求め、全体のレベルが上がって対戦が楽しくなる。配信の方針もあるが、そうでなくとも初心者の増加はどの方面にとっても僥倖だ。

 

 しかし初心者の苦労は多い。格ゲーは楽しいと思えるまでの道のりが長く、一人では挫折しやすい。そこでるー子が閃いたのが今回の初心者指導配信である。

 

「このランクマ全一の私が! リプレイを元に的確なアドバイスをしまして! 初心者文字さんたちもあっちゅー間に達人ってわけよ! 大船に乗った気でいなさい」

 

コメント:

めちゃくちゃイキっとるwww

受講料¥1,000

なんでだろう大船のはずなのに不安が

いつもよりはしゃいでるけど、何かいいことでもあった?

 

「あ、お金ありがとうございますうれしいです。いいこと? 別に? 私はいつもこんな感じよ。んふふ、今日は私のこと師匠って呼んでよねー」

 

 配信画面のるー子は満面の笑みで絶えず左右に揺れている。誰がどう見ても上機嫌だ。

 

 実際、特別にいいことがあったわけではない。ただ、自分のプレイが毎回褒められチヤホヤされる快感と、着実に目標に向かっている実感が相まってかつてないほど高揚している。なお、そのウキウキるー子に「かわいい」「頭ナデナデしたい」などのコメントが殺到しているが、これらはプレイに関係ないので自然にスルーした。

 

 さっそくゲーム画面を操作し、リプレイデータを漁る。事前にSNSで募っていたリスナーのプレイヤーIDで検索すると、目当てのリプレイが出てきた。このタイトルには一定期間内のオンラインマッチをリプレイとして記録し、誰でも閲覧できる機能があるのだ。

 

 さっそく初心者リスナーの試合を見ていく。かっこよくビシっと指導して初心者を一日で無差別帯まで導いてやるのだ。指導力まで全一なのだ。お調子に乗ったるー子の気分は有頂天に達し──

 

「ほっ、ほぇえー?」

 

 墜落した。

 

コメント:

ぽかーん

過去一間の抜けた声

絶句

お口に指突っ込みたい

どうでしょうかお師匠!

 

「どうでしょうかも何も……受け身ちゃんとして? なんでいつまでもダウンしてるの? それとカクハン、確定反撃。目の前で昇竜スカシてるのに中足一発で終わりはないわ。コンボが苦手? うーん、それなら──トレモやりましょう」

 

 困惑気味の早口でアドバイスを終了し、さっさと次のIDを検索。想定外の内容だったためうまく指導できなかった。しかし次こそは。

 

 そう意気込んだ間抜けな師匠の目論見はことごとく失敗に終わる。二人、三人、四人、五、六、七人目になっても同じ結論で終わってしまうのだ。トレモやって、の一言である。

 

コメント:

驚くほど内容薄くて草も生えない

指導力全一はフカシか〜?

お口にバナナ突っ込みたい

トレモやってきます……

まあアドバイスとか戦術以前の問題だからなぁ

買ってすぐに読み合いとか駆け引きできると思ってました

格ゲーは難しい

 

「ま、待って待って! た、確かに難しいけどそれ以上に楽しくって、えっとえっと……!」

 

 格ゲー、特にるー子のやりこむタイトルのシリーズは初心者に決して優しいとはいえない。コマンド入力、コンボ練習、システムの理解──楽しさを味わえるまでの関門が高くそびえる。それをうっちゃりオンラインマッチなどしようものなら、一方的で嫌な思いをするかもしれない。ひたすら楽しく姉をフルボッコにすることであっさり関門を突破してきたるー子には、想像もつかない苦労があるのだ。

 

 挙動不審なるー子を愛でる層半分、格ゲーを敬遠し始める層の半分に分かれるコメント欄。

 

『フレームとかも難しいし、向いてないのかな』

 

「そんなことない!」

 

 るー子の顔がズームインされる。

 

「確かに覚えることはたくさんあるし、一人でトレモするのは寂しいけど、でも……何がダメなのかな、とか、どうやったらうまくなれるかとか、いろいろ考えるの楽しいと思うの。それに、それにね」

 

 すぅ、と息継ぎ。

 

「あなたは一人じゃない。トレモでコンボが安定しなくてパッドをぶん投げてるのも、いつ使うのかもわかんない表裏ネタ見つけてニヤついてるのも、地味な重ね練習毎日やってるのも、私が知ってる。寂しくないから、あなただけじゃないから、だから──」

 

 格ゲー、やろ?

 

コメント:

やる(鋼の意志)

ありがとう元気でた

涙目幼女にガチ恋距離で迫られちゃやるしかねえよなぁ!

この圧はガー不

なんで今日のトレモでニヤついてたの知ってんのこえーよ

およそトレモでやることは全部知ってるんだろうな

アケコンとソフトポチってきた

しゃがみ強P昇竜が出なくてゲオったけど買い直すわ……

苦労の末の勝利はクソうめーぞ

ゴールド目標にがんばる

 

 格ゲーは孤独だ。タイマンでしばき合うシステム上、勝利も敗北も一人の肩にのしかかる。それでもトレモの寂しさくらいなら共有できていいだろう。指導力クソザコの全一Vtuberのチャンネルがそのはけ口だ。

 

 上向いていくコメントたちにるー子は目を見開き、晴れやかな笑顔を咲かせる。

 

「ありがとう。一緒にがんばっていこう、文字!」

 

 結局文字かよ。感動の文字たちは総ツッコミの濁流に流されあっという間に消えていった。

 

 それに伴いるー子のテンションが平生に戻る。順調な配信活動に浮かれていた子どもはもういない。初心者のレベルを把握した上で、冷静な思考が的確な指導方法を導き出す。

 

 コンボや知識は繰り返しやっていくうちに出来るようになる。今できていないのはもう仕方ないとして、取り急ぎ現時点で出来てる部分を探す。悪いところより良いところを探し褒めて伸ばすのだ。

 

 そうしてるー子は改めて画面に向き直り、初心者褒め殺し指導に取り掛かるのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

【格ゲー】つよつよVtuber雨乃るー子を語るスレPart5【全一】

 

315:名無しの文字勢

神回だった

 

316:名無しの文字勢

トレモやれを擦り出したときはハラハラしたが、涙目上目遣いズームインで全部吹っ飛んだ

 

317:名無しの文字勢

あんだけ表情豊かな立ち絵自作できるお姉ちゃんなにもんだよ

 

318:名無しの文字勢

「格ゲーやろうぜ私もやってんだからさ」を死ぬほどかわいく言ってみた結果www

 

319:名無しの文字勢

その後ひたすら褒めて伸ばす方針にシフトしたのマジで草

切り抜きが待たれる

 

320:名無しの文字勢

もう上がってるぞ

http//jgtmj……

【切り抜き】全肯定るーちゃん

 

『アイイイ対空バッチリィ! このランク帯で対空出るのはほんっとーに偉い最高天才っ! はい言ってるそばからまた上出たかっこいい! もーあなたは生涯対空出るわ断言する、きっと生まれてから死ぬまで対空が出ない瞬間は一度だってないわ。お母さんのお腹にいるときもたくさんのお孫さんに看取られるときも対空出るし、なんならお迎えに来た天使に対空決めてワンチャン延命もあるわね。ブロンズの山田さん! あなたは、えっとその、そう、最高よ!』

 

『はいっ、生発動えらい! 負けたけど実質勝ちでいい。どういうことかというとね、このゲームトリガー火力の押し付け合いがメインなところもあるから、ゲージの抱え落ちはほんっとーにもったいないの。それを分かって生発動したあなたは抱え落ちという概念にVリバを決めたに等しい! 初心者でそこまでシステム理解してるの天才、神童、キリ……キリン! あなたは初心者帯のキリンよ! モォーって鳴きなさいモォーって!』

 

『最速投げ暴れぇ! はいまた天才いたぁ! 今のは絶対当たる投げ暴れだったわ。というのもこの前のセットで無敵パナシ四回当てたでしょ? 相手はそれを警戒して密着有利なのにガード固めてたけど、そこに狙いすました投げ暴れが刺さったわけ。何がすごいって初心者なのに起き攻めと相手の心理状態完っ璧に理解して、駆け引きの末に暴れを通したってところね。ダイヤ帯でも難し……そこまで考えてなかった? テキトーにボタンガチャガチャしてただけ?』

 

『……』

 

『またまたぁケンキョなんだからー』

 

321:名無しの文字勢

怒涛の褒め殺しwww

 

322:名無しの文字勢

やることなすこと全部褒めちぎるーちゃん

 

323:名無しの文字勢

すげー無鉄砲なレバガチャをここまで称賛されると、ほんとに天才になった気がする

 

324:名無しの文字勢

真にすげーのはこのテンションのまま一時間以上しゃべり倒したるーちゃんなんだよなぁ

 

325:名無しの文字勢

勘違い系ライトノベルのヒロインと化したるーちゃん

 

326:名無しの文字勢

初心者「私の真意を説明してみせよ」

デミウるー子す「御意わよ!」

 

327:名無しの文字勢

 

328:名無しの文字勢

るーちゃんは御意なんて単語絶対知らない

だってキリンだぞキリン。意味不明過ぎるだろ

 

329:名無しの文字勢

あれどういう意味だったんだ? リアタイだと勢いに押されて誰も突っ込まなかったが

 

330:名無しの文字勢

文脈からして天才の類語、麒麟児だと思われ

ちなみに一時間で繰り返し使った単語のカウントは以下の通り

すごい:12回 えらい:25回 天才:26回 最高:30回

 

331:名無しの文字勢

うーんこれは語彙力ブロンズ

 

332:名無しの文字勢

いやでも指導力はウルマスあると思うわ。あんだけ褒められるとイヤでもやる気出る

ふと思ったんだが、もし初心者が急成長して、るー子ちゃんに勝つとかしたら、

どんだけ褒めてくれるんだ?

 

333:名無しの文字勢

その答えは君の目で確かめてくれ!

 

334:ブロンズ山田

誰かに褒められたのはいつぶりだろう。

生きがいが見つかった。今トレモやりまくってる

 

335:名無しの文字勢

そんな文字たちのために、道場を建てておいた。初心者同士で交流するのに利用してほしい。

↓のポータルサイトでもろもろ登録して連携する。

リンクhttp//jgtmj……

AnonLetters_Dojoで検索すると出てくる。

 

336:名無しの文字勢

こんな機能あったんか。ありがたく使わせてもらう。

 

337:名無しの文字勢

ギルドとかクランみたいな感じね

るーちゃん師範の道場はないの?

 

338:名無しの文字勢

ない。たぶん今後もなさそう。

上限100人だから、下手に建てると入門できた・できなかったで角が立つ。

 

339:名無しの文字勢

まあ、文字は文字同士で切磋琢磨していこうや

524:名無しの文字勢

すまねえるーちゃん……おじさんには無理だ。

格ゲーだけじゃなくて、もう何のゲームやってもしんどいとしか思えないんだ

 

525:名無しの文字勢

分かる。年取ってくるとどうしてもな。

俺も昔は12時間ぶっ通しでプレイできたけど、今は一時間で目と腰と肩が痛くなる。格ゲーとか絶対ムリだわ

 

526:名無しの文字勢

格ゲーは年齢関係なくね?

この前、四十路近いおじさんが実戦で9フレ差し返してるの見たぞ

 

527:名無しの文字勢

その人は人間卒業済みだから……

 

528:名無しの文字勢

一応、本人いわく11フレらしい。それでも人外だけど

 

529:名無しの文字勢

るーちゃんに自己投影して一緒に気持ちよくなるのが一番効率いい。動画勢こそ最強やで。

 

530:名無しの文字勢

るーちゃんと一緒に気持ちよくなる(意味深)

 

531:名無しの文字勢

>>529

効率て。趣味くらい非効率を楽しめよ

 

532:名無しの文字勢

その余裕がないっつってんだろクソガキ

 

533:名無しの文字勢

まあまあ、こいつを見て落ち着けよ

画像ファイル【デフォルメきゅーちゃんがプリントされたショーツを履いてなぜかドヤ顔しているるー子のファンアート】

【全裸に赤いリボンを巻きつけ赤面しているるー子のクリスマスイラスト】

 

534:名無しの文字勢

エッッッ

 

535:名無しの文字勢

光速で保存した

 

536:名無しの文字勢

ゲームってのはイヤイヤやるもんじゃない。動画勢も立派な楽しみ方の一つだ。それでいいじゃないか。

そんなことより、このスレの目的はるーちゃんの今日のパンツを議論することだ。

だろう?

 

537:名無しの文字勢

その通りだ。水玉、縞パン、動物パンツ、意表をついて紐ローライズティーバックふんどし禁断のノーパン。彼女の下腹部には我々の夢が広がっている。

 

538:名無しの文字勢

キッッッッッモ

 

539:名無しの文字勢

い つ も の

 

(以下、パンツ談義とファンアート)

ーーー

 

 

 

 格ゲーが面白いらしい。そんな認識がバーチャル配信業界に広まりつつある。

 

 きっかけは今話題の個人勢Vtuber、雨乃るー子だった。格ゲーを知らない層にも分かりやすいグローバルランキング一位の肩書きとそれに見合うプレイヤースキル、企業勢に匹敵する高品質なLIVE2Dに恵まれた声質。人目を引くに十分な素質を持つ彼女が、小さな流行の火種となった。

 

 その火を拡大させたのは霧子きゆうだ。ことあるごとにイキり散らしてあらゆる方面に噛み付いていき、お約束とばかり返り討ちに遭う狂犬。何をしでかすか分からないハラハラ感のみならず笑いどころではきっちりとお約束を守ってしまう彼女の生き様は昇天芸として多くの視聴者層に愛されている。それゆえに、例の力士事件から始まる惨敗物語も多数のリスナーの知るところとなり──格ゲー面白そう、の共通認識が生まれたのである。

 

 その認識はやがて小さな流行となり、今や大手事務所のボイドストリーミングも格ゲー配信を企画するほど。影響を受けたリスナーたちもプレイを始め、初心者が急速に増えている。

 

 そんなプチブームに乗っかる配信者が、また一人現れた。

 

【格ゲーデビュー!】きゅーちゃんをぶっ壊したいの!【なのニンこらぼ】

 

「こんにちはっ、大蛇院(だいじゃいん)なの! ワタシも格ゲーやるの!」

 

コメント:

こんにちはー

ついに大蛇院も格ゲーデビューか

大丈夫かその先は修羅の道だぞ

配信タイトルが物騒過ぎるww

なのたんもきゅーちゃんの切り抜き見た?

 

「見た見た見たのっ! 切り抜き全部とリアタイでも一回! きゅーちゃんの負け際に文字数いっぱいの草生やしまくってやったのよ!」

 

 草と呆れが入り乱れるコメント欄に笑顔を絶やさない彼女は大蛇院(だいじゃいん)ナノ。フレンジーフレンズ四天王の一角を担う蛇である。

 

 燃えるような赤毛を腰まで伸ばし、前髪はゴムでちょんまげにしてきれいなおでこが丸出し。着崩した赤い着物には鱗を思わせる網目模様が縫い込まれ、腰のあたりから太い蛇のしっぽが生える。サイズはちんまりしているが、常に見開いた目と蛇の瞳孔が相まって目力がすさまじいことになっており、常時ガンギマリ蛇とも揶揄される。

 

「あの二人の絡み見るの本当に楽しいの! 処刑を見世物にしていた時代の人たちはきっとこんな気持ちだったのね! ワタシも同期としてきゅーちゃんをいい声で鳴かせたいのよ!」

 

コメント:

かわいい顔して動機が邪悪すぎる

きゅーちゃんの頑張りを公開処刑扱いはやめたげてww

なぜフレフレはまっすぐに歪んでる子ばかりなのか

名は体を表す

つっても初心者にはハードル高いんじゃないか?

 

「もちろん先生がいるのよ! ニンニン!」

「いひっ、こんにちは。陰流(かげる)ニンです、はい……」

 

 配信画面上、ナノの隣にくノ一の立ち絵が現れる。事務所の仮眠室でシグルイの一巻冒頭と十一巻冒頭をダラダラ読みふけっていたところを捕まってスタジオへ連行された。コメントには「フレフレの相対的良心」としてニンを歓迎する内容が目立つが、先生ならそれこそきゅーちゃんのが適任なのではと訝しむ者もいる。

 

「私も、きゅーちゃんがやってるの横から見てるだけだから……先生頼むならきゅーちゃんのがいい……」

 

 これを受けたナノは悲しげに視線を落とす。

 

「きゅーちゃんは度重なる死闘の末帰らぬ人となったの……だからワタシが仇を討つのよ! ひゃはっ、こっちのが燃えるからやっぱりそういうことにするの! 遺影置いとくのよ〜」

 

 配信画面右上にモノクロのきゅーちゃんが現れ、むき身のうまい棒が数本お供えされる。配信タイトルは『きゅーちゃんの仇を討つの!』に変わった。やりたい放題である。

 

「さ、さすがにきゅーちゃんがかわいそうだと思う……」

「ワタシたちというものがありながら、ボイストの先輩方に格ゲー教えにいった畜生にはこのくらいでちょうどいいの! イヤならもっと構えなの!」

「いひっ、ヤキモチ……」

 

コメント:

火力高すぎてモチが炭になってんだよなぁ

てぇてぇ……のか?

ストレートな愛情表現は女の子の特権

開幕から飛ばしてて草

 

 格ゲーブームはボイドストリーミングにも影響しており、それに伴い講師役としてきゆうの需要が高まっている。さらに力士対策やるー子対策にも時間を割くのでフレフレメンバー同士の絡みが減り、ナノは器用なことに笑顔ではしゃぎつつヘソを曲げていた。

 

「前置きはこのくらいにして早速プレイしていくの。きゅーちゃんは大蛇院の活躍を地獄から見守っているがいいのよ!」

 

 ナチュラルに同期を地獄行きにしたナノは、ゲーム画面を操作し対戦モードへ移行。きゆうと同じお嬢様キャラを選択し、一方のニンはイメージ通り忍者を選ぶ。配信が間延びしないよう最低限の操作方法は事前に確認しているが、練習や打ち合わせはしていない。実戦で学ぶ腹積もりだ。

 

「……」

 

 ロード画面に入るや否や無言でにらみ合うナノとニン。ナノは初見で抜群の神プレイを見せつけコメントに褒められつつきゆうに構ってもらうため、ニンは自分を先生役の名目でかませ犬に選んだことを後悔させるため。割と引っ込み思案なところのあるニンだがきちんとフレフレの一員なのだ。この商売は舐められたら終わり、きゆうの隣で長く観戦してきた経験を活かしチャンネルの主役を奪取する。百年来のライバルが対峙しているがごときバチバチの空気にコメント欄は「いつもの」「これこれ」と期待を高まらせている。

 

 『ROUND 1 FIGHT』。ついに開戦の狼煙が上がり、初心者同士による熱い戦いが開かれる──

 

「技が出ないのぉ!」

「な、なんかジャンプが暴発する……」

 

 ──はずもなく、グダグダの様相である。両者ともに間合いの外でじたばたパンチやキック、投げスカを繰り返す。

 

「必殺技ってワンボタンじゃないの!? 大蛇院はオロチが撃ちたいのよ!」

「おっきな手裏剣ってどうやるの……? クナイより手裏剣がいい……」

 

コメント:

グダグダwww

開戦前の緊張感が死んだ

ジャンプ暴発するのあるある

オロチは236k, 2p。手裏剣はダメージ食らってVゲージないと出ない

マキビシならあるよ、中p中k同時押し

 

「マキビシ……いひっ、これかあ」

「うぎゃーなの! 236とか暗号言われてもわかんないのー!」

 

 忍者のポイ捨てするマキビシにサクサク体力を削られるお嬢様。コメント欄に助けを求めながら、ナノは認識の甘さを痛感していた。

 

 上級者の対戦を見慣れていると錯覚するが、通常技や必殺技を駆使したコンボは割と難しい。初心者なら相手の動かないトレーニングモードでも安定しないし、ましてや相手がランダムに動く実戦となると、コンボどころか投げや必殺技コマンドをド忘れすることすらある。見るのとやるのとでは大きく違う。

 

 忍者のマキビシになすすべもないお嬢様が倒れ、ラウンドを失う。いひひと笑うニンの一方、ナノは上ずった声を上げる。

 

「きゅーちゃんがこんなに難しいことしてたなんて知らなかったの! 感動反省慙愧尊敬の心持ちなのよ!」

 

コメント:

ははあ、きゅーちゃんに出来るくらいならとか思ってたな?

ぶっちゃけ俺も同じこと思ってました(元動画勢)

他のゲームで散々やらかしてる上、あの昇天ぷりだからな……

LP全一と対戦が成立してる時点で相当な猛者やぞ

※無差別帯は全人口の3%未満

それをガン処理できるロリがいるとかマ?

なのたん! オロチは↓↘→キックの後素早く↓パンチだよ!

 

「ありがとうなの! こう、こう、こう!?」

「いたっ……!?」

 

 分かりやすい矢印表記により学習したナノは、マキビシにすっ転びながらどうにかオロチを繰り出す。怯んだ忍者は負けじとマキビシ戦法を続けようとするが、お嬢様は狂ったようにオロチを擦る。

 

「アイデンティティ攻撃! アイデンティティ攻撃!」

「語呂悪すぎ……いひっ、スキあり!」

 

 ダメージを受けた忍者は特殊なゲージを消費し、大きな手裏剣を投げ放つ。オロチの出掛かりを先読みした入力なのでヒットは確実に思われた。

 

 しかし相手にその手があることは、事前にコメントで分かっている。

 

 お嬢様がなんなく手裏剣をしゃがんでやりすごし、とどめの一撃を放つ。

 

「スキありはこっちのセリフなの! ──なのっ!?」

「いひ?」

 

 お嬢様も忍者も目を疑った。なぜか手裏剣が軌道を変えてお嬢様の背後から襲いかかったからである。

 

 完全に油断していたお嬢様はあえなく手裏剣に刺されて倒れる。

 

「えっえっ」

 

 パニックになった大蛇院に構わずゲームは進む。続く二試合目の第一ラウンドも忍者のマキビシ、クナイ、手裏剣戦術により打ち負かされ、ナノはいきりたった。

 

「腑に落ちないの! 手裏剣とブーメランがごっちゃになってるのよ! ていうかこっちは身体一つで勝負してるのに武器使い過ぎなの! 人様に刃物を向けるのはいけないことなのよ!」

「だって忍者だもん」

「ぐぬぬ……! 今に見てるの!」

 

コメント:

忍者なら仕方ないな!

ノーガード戦法ww

レベル低すぎて別ゲーになってる

これパーティーゲームだったっけ?

いやまあ初心者ならこんなもんよ

こんな風に遊べる友達がいたらなぁ……

 

 そこからの戦いは、およそ試合と呼べるものではなかった。お互いにガードもせず相手の間合いにとどまってパンチ、キック、クナイマキビシ手裏剣を振り回し殴り合うだけ。見栄えのいいコンボも高度な駆け引きもない。特にお嬢様はやればやるほどオロチへの思い入れを強くし、気が触れたようにオロチを繰り返すオロチプレイに取り憑かれた。並みの初心者をしのぐワンパターン戦法である。

 

「オロチ! オロチ! ヒャハハッ、オロチかっけーのぉ!」

「クナイクナイマキビシ! いひっ、刃物でサクサクするの好きぃ……」

 

コメント:

こwれwはwひwどwいw

おいカメラ止めろ

アイドルが出しちゃまずい声出てるwww

チンパンかな?

ニンニン闇落ちしちゃーう

とっくにしてるんだよなぁ

 

 才能を感じさせる初見プレイ。配信はその目論見から遠く離れた類人猿の方がまだマシな試合に終始した。きゆうを良い声で鳴かせるのも仇を取るのも夢のまた夢だ。

 

 しかし──

 

「ヒャハッ、ヒャハハハハ、ヒーハハァッ!」

「いひっ、いひひひ、ひぃひひひ!」

 

 気のおけない友達とやる格ゲーは、腕前に関係なくとても楽しい。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 推しがやっているゲームにはなんとなく興味がわくもの。今まで格ゲーというジャンルすら知らなかった若年のリスナーたちが、じわじわと初心者デビューしていく。配信者と同じゼロからのスタートとなればオンラインで遭遇する機会もあるためその層のモチベーションは高く、プチ格ゲーブームの勢いは日に日に増していった。

 

 その流れを見越したようなタイミングで、SNSにある告知がなされる。

 

雨乃るー子@格ゲーVtuber

次の配信で初心者大会開きます

詳細とエントリーは以下のリンクから

http//〜〜

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