格ゲー全一Vtuber【完結】   作:難民180301

8 / 8
おまけ:フレンジーフレンズ

雨乃るー子@フレフレ二期生

20時からサイハ先輩と格ゲー配信。

ラウンジやります。二先一回。LP制限なし。

パス:8888

 

 

 

ーーー

 

 

 

【対戦相手募集】先輩が思ってたより強いんだけど【サイるーコラボ】

 

「こんにちは、雨乃るー子よ。今日はサイハ先輩と格ゲーやってくわ」

「えっと、文字のみなさんこんにちは。震雷(しんらい)サイハです。今日はるーちゃんに格ゲーを教えてもらいます」

 

コメント:

やってこー

サイハさぁああん!

るー子、のけ

格ゲー配信久しぶりだなぁ

今日はクソザコるーちゃんなし?

 

「のけ、ってここ私のチャンネル! あとクソザコな私なんて今までもこれからもないっ!」

「うふふ」

 

 るー子が企業勢デビューして幾度目かの配信。画面にはるー子だけでなく、同じ箱所属の先輩が佇んでいる。

 

 震雷(しんらい)サイハ。フレフレ四天王の一角である鳥だ。黄色を基調に青をアクセントに添えたパーカーに身を包み、青みがかった艷やかな髪はポニーテール、黄金の瞳には謎の雷マークが刻まれており、肩甲骨のあたりから申し訳程度の小さな翼が突き出している。おっとり清楚な語り口と優しい声音からASMR需要も高いフレフレの古株だ。

 

 るー子はフレフレに所属してから格ゲー以外のジャンルを配信したが、散々な内容だった。アクションゲームでは3Dなのにキャラを前後にしか動かせず、ホラーゲームではガチ泣き。今回の配信は、そのせいで新規層に定着したクソザコゲーマーのイメージを払拭する好機である。

 

 おなじみの格ゲーを起動する間、さりげなくサイハが話を振った。

 

「るーちゃん、フレフレに入ってどう? いろいろたいへんじゃない?」

「そう、ですね。社会に出るのはたいへんだなって思います。でも事務所のみんな優しくて、助かってます」

「うふふ、そっかぁ。出会い頭にコブラツイストかけてくる大蛇院ちゃんも、るーちゃんにとっては優しいんだねぇ」

「えっいやそれは」

 

コメント:

飛ばしてんなぁなのたん

優しさ(物理)

フレフレの事務所にはリングとゴングが常設されてる説

蛇が獲物をシメにかかるのは当然や

 

 案外受け入れているコメントにるー子は目を白黒させた。一応事務所のイメージを気遣って言わなかったのだが、すでに手遅れだったらしい。

 

 事務所で生身にて行われた、新人雨乃るー子の顔見せ。無難にあいさつを終えたるー子に対する最速の反応は、大蛇院ナノの前ステコマ投げだった。

 

『きゅーちゃんは大蛇院のものなの! 外敵を排除排除排除なの!』

『訳わかんねーこと言ってんじゃねーですよ! えっと、るーちゃん! ここはきゅーに任せて先へ行くです!』

『先ってどこよ!?』

『いひひ、よろしくるーちゃん……シグルイ貸したげる……明日までに全部読んでね……』

『あ、ありがとうございます?』

『うふふ〜』

 

 きゆうとナノが格闘するのを尻目に結ばれる友誼。同席していた姉と小林は頭を抱えていた。

 

 波乱の初日を振り返りつつニンニンから借りた漫画の感想を述べていると、ゲームが起動される。腕前に関係なく対戦のできるラウンジモードに入り、サイハのアカウントで部屋を立てた。本日のメインは、主にサイハと視聴者の対戦にるー子が茶々を入れることだ。

 

 サイハのアカウントはすでにウルトラシルバーとなっており、初心者帯ではトップクラスである。

 

「サイハ先輩はいつから格ゲーやってるんです?」

「ナノちゃんたちと同じ時期。プレイ時間は30時間くらいかなー」

 

コメント:

割とやりこんでる

流行りに乗っかっていくぅ

ここまで流行るとは誰も予想してなかった

 

「あーブームに乗ったのはあるけど、それだけじゃないよ? 実は大きな野望があってぇ」

「野望? あ、対戦者来た」

 

 程なく、同じランク帯の対戦者がラウンジに入ってくる。パスワードをかけているので視聴者だ。キャラとステージを選んで対戦が始まる。

 

 サイハの使用キャラは暴君だった。今シーズン最強キャラと名高い高性能な必殺技、通常技を繰り出して的確にダメージをとっていく。

 

「タックルタックル膝と肘肘肘! 端に詰められるがVリバ連打! 離れたところに長い手足が伸びましてあっさりKO! 先輩が思ってたより強いんだけどぉ!」

「うふふ、対戦ありがとうございましたー」

 

コメント:

配信タイトル回収

ありがとうございました!

手足がなーがい

ついでに投げ間合いも広い

すぐゴールド行きそうだな

このゲーム肘とヒザがやたらつえーんだ

ゲージ全部Vリバwww

 

 るー子は「ほへー」とアホみたいな感心の声をあげる。打ち合わせで事前に知っていたことだが、サイハはかなり強い。キャラクターの強い部分を相手に押し付ける戦い方がしぜんと出来ている。るー子が何も助言せずともめきめき上達するだろう。ひとまず負けるまでは実況に専念することを決める。

 

 しかし、敗北は思ったより早くやってきた。

 

「あら、プラチナきたー」

「代わりましょうか?」

「ううん、平気。格上だけど私の暴君で下剋上しちゃうよー」

 

 ラウンジはパスワードを知っていれば、腕前に関係なく誰でも入れる。格上が入ってくるとるー子が代わる予定だったが、ここは先輩を立てておく。

 

 果たして勝負はというと──

 

「不意打ちタックルをしっかりガード! 上から振ってくるヒザァ、これもガード! 体力不利だがトリガー使えばあるぞ、あるぞ、しかしVリバ! 意地でもトリガーは使わないそのこだわりは何なんだ! あーっ!」

「あーっ!」

 

 相手は手堅い中級者だった。立ち回りで得た体力リードをきっちり守って一試合を取る。

 

「先輩ってVリバが大好きな人ですか?」

「そういうわけじゃないけど、でもこの子トリガー弱いよ? 変な鏡出すだけだもん」

「は?」

「へ?」

 

 るー子はぽかんと口を開けた。暴君のトリガーが弱い? 変な鏡? 何言ってるんだろうこの鳥。コメントもクエスチョンマークと草でいっぱいだ。

 

 ラウンジの設定は二試合先取なので、最低でももう一試合残っている。

 

「一試合だけ代わらせてもらっていいですか」

「う、うん。目怖いよ?」

 

 コメントにも確認を取ると快諾をもらえたので、るー子は気兼ねなく代打ちする。

 

 試合が始まって、立ち回りはあえて捨てた。暴君にダメージが蓄積し特殊なゲージがたまり、このタイトル特有のトリガーシステムが使えるようになる。

 

『エイジスリフレクター!』

「えっ、あれ、えーっ!?」

「はい」

 

 暴君が『変な鏡』のトリガーを使ったとたん、相手の体力が消し飛んだ。

 

コメント:

はいじゃないが

これがあるから最新作は

積み重ねたダメージが一瞬で……

エイジス2枚はあまりにも壊れてる

何回択れるんだよ!

るーちゃんって暴君もメイン?

 

「キャラ対策のために使ってたことがあるの」

 

 暴君は強いキャラだ。通常技、必殺技、投げ、そしてトリガーの『変な鏡』も極めて強い。

 

 トリガーとは簡単に言えば「用意された逆転の手段」だ。キャラごとに強さは違うが、暴君のトリガーは通常のゲージと組み合わせると一瞬で試合をひっくり返せる火力を発揮できる。相手がそれまでコツコツと稼いできた体力リードを消し飛ばし、勝利をもぎ取れるのだ。

 

 このシステムを敬遠するファンもいるが、るー子は割と好きだった。用意されたものであっても逆転劇は楽しい。その楽しさ、強さを知ってもらうために操作を代わった。

 

 さてこれを見た初心者、震雷サイハはというと。

 

「うふふふへへ」

「えっ」

 

 壊れていた。恍惚とした顔で息を荒げ、生身でも立ち絵でもよだれが垂れている。

 

コメント:

うわ出た

あーこれストライクゾーンか

何この子怖い

よだれエッッッ

凶鳥出たぁ!

 

「あ、あの、先輩?」

「ご、ごめ、じゅる、わ、私こういうの大好きで、たまんなく大好きで、うふへへっへ」

「どういうのが!? 怖い怖い怖い何!?」

「だからね、うふ、コツコツ積み上げたものをぶち壊すのが、好きなんだ」

 

 震雷サイハは壊すのが好きだ。特に苦労して地道に積み立てたものを崩すとなるとたまらない。幼い頃は砂場に一時間以上かけて作った立派な砂山を踏み潰すのが趣味だったし、今では半日かけて作るトランプタワーや一円玉タワーを潰して悦に浸っている。

 

(あー、こういう人だったっけ)

 

 るー子は多少怯みながらも納得する。脳裏によぎるのはデビュー間もないころ見かけたサイハの切り抜きだ。

 

 ブロック状の世界を舞台にしたクラフト系のゲームだった。サイハは素材や意匠にまで徹底的にこだわった邸宅を数日かけて建築。竣工したその建物を前にコメントと一緒になって達成感に浸っていると、おもむろに爆破した。

 

『うふふふへへっ、じゅる、ふへへふへぇ』

 

 嬌声とよだれ混じりの高笑い。あまりにも気持ちよくなりすぎて一度収益化を剥がされたその配信は、ファンの間で語り草になるとともに、フレンジーフレンズの方向性を印象づけた。

 

 そんなサイハにとって、トリガーシステムは神だった。相手がじっくり手堅く積み上げた体力リードを強引に奪い、押しつぶす。今まで他人の積み立てを崩すのを理性で抑えてきた分、なおさら輝いて見える。

 

「気に入ってもらえてよかったです!」

 

 ひとしきり納得したるー子は安堵の笑みを見せる。トリガーシステムは好かれるばかりのものではない。先輩が気に入ってくれたというなら素直に嬉しかった。

 

 サイハは嬉々としてるー子に詰め寄る。

 

「ね、これ練習したら野望も叶うかなー?」

「そういえば聞きそびれてました。なんですかそれ?」

「きゅーちゃんに勝ちたいんだぁ」

 

 勝ちたい勝ちたい勝ちたいなぁー、と夢見心地に語るサイハ。

 

「きゅーちゃんってこのゲーム発売日からやりこんでるんだ。そのやりこみをね、四年くらいのやりこみにね、私がたとえば50時間くらいのやりこみで勝っちゃったら……何かが崩れる素敵な音が、聞こえてくるんじゃないかなぁって」

 

コメント:

えぇ……(ドン引き)

満面の笑みですげーこと言ってる

フレフレはこんなやつばっかか!

そうやぞ

きゅーちゃんあらゆる方面からロックオンされてて草

百合ハーレムかな

これはてぇてぇに入りますか?

 

 やりこみは嘘をつかない。きゆうの強さはるー子もよく知っている。今のサイハが勝てる可能性は万に一つもないだろう。

 

 しかしこのモチベーションを保ち、きちんとした指導のもとやりこめばどうか。下剋上の起こりやすいゲームシステムにも鑑みれば、勝ち筋はないとはいえない。

 

 その考えに及んだとき、るー子はしぜんと笑っていた。

 

「あはっ、あはははあは、あはぁっ! いい! 先輩それすっごくいい! やりましょう、あの邪悪な狂犬を二人で討伐しましょう!」

「ほんと!? ありがとう!」

「あっ、さっきの方は対戦ありがとうございました! さっそくですが先輩、あの『変な鏡』の基本なんですが──」

 

 どっちが邪悪かこれもう分かんねえなというコメントはスルーして、二人は狂犬を倒す作戦を練習していく。

 

 ほんの少し歪な形ではあるが、霧子きゆうは愛されていた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 フレンジーフレンズは笑顔が絶えない素敵な事務所として知られている。

 

 二期生が入ったことで配信者は総勢8人となったが、とりわけ笑顔が人気の5人は四天王時代の流れを汲み、フレフレ五神と呼ばれ恐れられるようになった。

 

 プチ格ゲーブームの火付け役でもある彼女たちは、今日も笑う。

 

「あはっ、あははははあはは、あはぁっ!」

「いひっ、いひひひいひひーっひっひ!」

「ヒャハハハハハヒャッハハハハ!」

「うふ、うふふへへへふへへふへぇ!」

「グエエエエエ!」

 

 若干の悲鳴が混入しているのはご愛嬌。ときにドン引きされつつも、人生をめいっぱい楽しむ彼女たちの笑顔は絶えない。楽しくやかましく刹那的に進んでいく。

 

 それぞれの野望を胸に、いつか叶えるその日まで──

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