俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
あとサブタイトルのネタも………。
4月8日新学期二日目の朝だ、昨夜俺はいつの間にか不覚にも眠っていた様で起きたら午前3時50分だった。
俺は昨夜のクロボウズとの一件の事をたちばなへ連絡しディスクに収められた映像記録を送信すると香須美さんに報告したんだが、眠ってしまった為にそれが出来ずに起きて速攻送信した。
『べぇー、マジべぇ〜っしょ』と昨日から同じクラスになった騒がしい奴の口調が思わず乗り移ったけど、香須美さんマジですいませんでした。
昨夜の誓い通り俺はその後、朝の鍛錬を済ませ、シャワーを浴び朝飯を食べた後、時間が来たので学校へと向った。
そう言や俺ってば、晩飯食ってからの記憶が無いんだが一体どうやって自室まで行ってベッドで寝ていたんだろうかと小町に尋ねたら『お兄ちゃんって器用だよね、寝てるくせに小町の声に誘導されて自分の部屋まで歩いて行ったんだよ、ホント鬼の修行した人ってそんな事も出来んだね!』との事だった。
『記憶にございません』俺は何処ぞの政治家達の如くそう言いたかった、だってマジ覚えてないしな。
学校へ到着しリノリウムの床材で出来た廊下を進み教室へと到着すると、室内にはもう既に十人ほどの生徒が其々にグループで、或いは俺の様に単独で過ごしていた。
俺が教室の扉を開き室内に入室した際に僅かばかりの時間、皆に視線を向けられたんだが、それも本当に極僅かな数瞬の事で直ぐに俺からその視線を外し、まるで俺の存在などはじめから“眼中に無いですが何か”とでも言うのか、いや言う程でもないのか皆俺が入室する前迄の状態に戻ったのだろう、其々の時間を過ごし直し始めた。
「まぁ…良いけどね。」
俺は無造作に伸びた髪を掻き、自分にあてがわれた席へと向かい着席し授業が始まる迄の時間を一人のんびりうたた寝でもして過ごすつもりで居る。
ヒバ!朝のうたた寝最高だぜ、今週はローテに入ってないから昨日の様なイレギュラーでも起こらなきゃ、ゆっくり出来るからな。
「……フヒッ。」
「ひゃぁっ!?」
見上げると其処には一人の女子生徒がビクリと驚き露わな表情で慄いていらっしゃってますよ。
おいまたこのパターンかよ、マジ勘弁してそんなに俺って気持ち悪いのか、いい加減泣いちゃうよ俺だってさ……。
そそくさと立ち去る女子生徒、俺はその姿を見る事なく机に突っ伏して涙は、しないでちょっとだけ寝る事にする。
何なら俺って由比ヶ浜以外に知り合いなんか居やしないし、そんな俺に話し掛けるやつなんか居ないしな、ならばゆっくり寝てるかと、次第に生徒が増え始めた教室で俺はそう思っていたが…。
「あっ!やっはろーヒッキー!!」
その独特の挨拶と俺に付けられたあだ名を呼ぶ声に俺は伏せた顔を上げて見てみると、その手と○○をブンブンふりふりしながら、由比ヶ浜が俺の元へ駆けつけてきた。
それによりざわつき始める教室内、そして俺に向けられるヤロー達の嫉妬の眼差し、まぁ由比ヶ浜はこの学校内でもトップレベルに可愛いからな、お前等の気持ちも判らんでは無い。
「昨日はお疲れ様ヒッキー、それとおかえりなさい、怪我とかして無い大丈夫ヒッキー!?」
駆けつけるなり由比ヶ浜は俺に労りの言葉を掛けてくれた、うんマジ優しくて温かくて良いやつだよな由比ヶ浜は。
「おう…おはようさん由比ヶ浜、そのサンキューな、俺は大丈夫だ。」
俺の返事に由比ヶ浜は心から安心した様にホッと一息つき再び笑顔で俺に語りかけて来る、はぁ何か由比ヶ浜の笑顔って癒やされるよな、何なんだろうな存在そのものからマイナスイオンでも放出してんのかな、だとしたら一家に一人は由比ヶ浜がいりゃ空気清浄機とか要らないんじゃね?
俺は由比ヶ浜が語る話に相槌を打ちつつその様に、どうでも良さ気な事を思っていて、それを他の連中が怪訝な目を向け、ヒソヒソと何か言いながら見ているが知った事ではない。
そのヒソヒソたる囁きが治まったのはそれから後ほんの一分程が過ぎてからだった。
それは、ガラガラと教室の後ろ側の扉が開かれた音によってもたらされた静寂だった。
俺の席は教室の比較的後方に位置しているがその時俺は由比ヶ浜が俺の正面、教卓側に居る為に当然前方を向いていたのでその静寂を訝しく思いつつも後ろを振り向くのが面倒なのでスルーをきめこんでいたのだが、当然後方を見る形になっていた由比ヶ浜はその人物を視界に捉える訳で、その人物を確認した途端ににこやかに微笑みその人物に俺に対して行った様に大きく手を振り呼び掛けた。
「お〜い、やっはろーゆきのんこっちだよぉ!」
其処に現れたのはもう一人の俺の知人であり由比ヶ浜同様ごく少ない俺の友人であり、おそらくはこの入学したての一年を除きこの総武高校に於いて最も有名な人物と言っても過言では無い人物。
由比ヶ浜とは別方向だが、その整った美しい身形により学校一の美少女と呼び声高い少女。
俺は由比ヶ浜の挨拶によりその人物の正体が判明した為に後ろを向かない訳にもいかなくなり、おっとり動作で後ろを向きその人物に挨拶をする。
「よう、おはようさん雪ノ下、昨日は悪かったな。」
雪ノ下は俺達F組ではなく、ワンランク偏差値が高いJ組に所属する生徒でもあり、しかも学年トップの成績を堅持する才媛でもあるからな、そんな人物が目つきの悪いボッチ男の元へ由比ヶ浜共々訪ねて来るなんて驚愕を以て迎えられた事だろう。
「ええ、おはよう由比ヶ浜さん比企谷君、どうやら何処も怪我などはしていない様ね、安心したわ。」
雪ノ下は入室するとすぐ様俺達の元へと歩を進め、到着するなり由比ヶ浜同様俺を気遣ってくれた。
「……お、おう、おかげさんでな、この通りピンピンしているわ。」
「比企谷君、貴方何故最初に間が空いたうえにしかも言い淀んだのかしら、貴方もしかして昨日何か粗相でもしたのかしら、だとしたら「ゆきのんゆきのん、此処は教室だからさヒッキーへのお説教は後で部室でしようよ、ねっ。」……まあそうね、由比ヶ浜さんがそう言うのなら比企谷君、貴方には後でしっかりと事情聴取をするから決して逃げたりしては駄目よ。」
とても恐ろしくも良い笑顔で、雪ノ下に本日の放課後のスケジュールをこの場で言い渡された。
どうやら俺は放課後雪ノ下と由比ヶ浜から重要参考人か容疑者の如く事情聴取を受ける事が決定してしまったようだ。
なあお二人さん俺に弁明の機会はいただけるんでしょうかね、最初から判決ありきの魔女裁判じゃ無いよね…宜しければそうだと言っていただけないでしょうかね。
「だけど、無事に帰って来てくれて何よりだわ、お帰りなさい比企谷君…。」
雪ノ下が優しい眼差しで言ってくれた言葉に俺は由比ヶ浜の時と同様に彼女の暖かな気持ちに包まれた様に感じた。
その雪ノ下の表情を見ていたであろう教室内の他の生徒からの、男女問わずのため息が漏れ聞こえている。
「お、おう、ありがとうな雪ノ下、由比ヶ浜も改めてな…。」
朝のHRが始まるまでの短い時間、俺達三人は教室でとりとめも無い話を続けるつもりで居たのだが、それは由比ヶ浜を呼ぶ声により遮られた。
「あ〜っ結衣じゃん、あんたもう来てたん!?」
「やっ、ハロハロ結衣!」
髪を金髪に染めもみあげをクルリンとドリルにした派手な女子生徒(確か由比ヶ浜の知り合いだったっけ)と赤いメガネを掛けた肩の辺りまで伸ばしたボブなヘアスタイルの女子生徒、二人共俺目線で見て由比ヶ浜と雪ノ下には多少劣るかもだが、それでもかなり高レベルな身形をしているが、まぁ俺とはあまり関わりの無い方面の人物の様だしどうでもいいか。
「あっ、やっはろー優美子、姫菜!」
由比ヶ浜の挨拶に優美子と呼ばれたと思しき金髪ドリルは鷹揚に頷き返し、姫菜と思しき眼鏡っ娘の方は若干得体の知れないオーラを発しながらも右手をひらひらさせている。
…しかし何だったんだ今の奇妙なオーラは、何か一瞬寒気がしたんだけど。
その二人の女子は俺と雪ノ下を一瞥して、さも興味無さ気に由比ヶ浜に向き直ると由比ヶ浜を放課後遊びに行かないかと誘い始めた。
「ゴメンね優美子、あたし放課後は部活だからさ、行けないんだよね。」
由比ヶ浜は両手のひらを合わせて、誘いに乗れない事を詫びるのだが、それが金髪ドリルは気に入らないのか尚も由比ヶ浜を誘おうとする。
「ええ〜っちょっさぁ結衣、アンタ付き合い悪いじゃん、一日位でサボってもいいっしょ、付き合いなよ。」
この金髪マジかよ、よりによって雪ノ下の前でサボリ推奨するとか、何考えてんだよ。
「ちょっと其処の金髪さん、貴方と由比ヶ浜さんがどの様な関係なのかは知らないし知ろうとも思わないけれども、我が部の部員を無理矢理にサボタージュを唆せる様な不埒な発言は控えてもらえるかしら。」
ほら見ろよ奉仕部印絶対零度の刃を持つ氷の部長様がお怒りになってしまうんだからさ。
こころなしかこの室内の温度が何だか急激に低下したかの様に感じられるのは気の所為だよな……。
「あん、アンタ確か雪ノ下さんだっけか、アンタ話に割り込まないでくれる?第一アンタには関係無いっしょ!」
胸元で腕を組み雪ノ下を睨めつけ金髪ドリルだが…コイツって今の雪ノ下の話を聞いて無かったのかよ、雪ノ下は由比ヶ浜を我が部の部員って言ったんだよ、しかも俺達三人で話してたのに割り込んで来たのはコイツらの方だし、もしかして言っちゃ悪いがオツムのお出来のほうがおよろしく無い感じの人なのか?」
「なっ、ちょっさぁ何なんアンタら、確か比企何とかってたっけ?今のもしかあーしの事馬鹿にしてんの、もしそうだったら結衣のダチだからって勘弁しないかんね!?」
ほへ?何、今度は俺が金髪さんのダーゲットになった感じなの、しかし何でだろうか。
「ヒッキー今のは無いと思うな…。」
由比ヶ浜が何だか少し非難がましい眼差しでそう言うんだが、何でだ心当たりが無いんだが……。
「はぁ、比企谷君貴方今内心の声が口に出ていたのよ、けれど由比ヶ浜さんには悪いけれど私も比企谷君と同意見よ、フフフ……。」
そうだったのか、そりゃ金髪さんに悪い事したかなってか、何気に雪ノ下も俺の意見に便乗して来るし、何だか程よい感じにブラック雪ノ下ってるし。
「ちょっさぁ!アンタらあーしに喧嘩売ってんの!?上等じゃん!」
一触即発!
二人の女子が俺の頭上でメンチを切り合うと言う恐ろしい事態に俺と金髪ドリルさんのお連れの眼鏡っ娘さんは、若干引き気味にそれを眺めるしか出来無い。
だってこの状況、男の俺が迂闊に口出しでもしよう物なら、この二人の怖い系女子に何を言われるか解ったもんじゃないからな、触らぬ神に祟りなしだ。
しかし其処に一人の勇者が現れた、それは俺達奉仕部と金髪ドリルさんチーム共通の人物。
「ちょっと待ってゆきのんも優美子もさ、そんな喧嘩腰になんないでよ!
あのね優美子、ゆきのんはあたし達の部活の部長なんだ、だからさゆきのんは関係無くなんかないんだよ、でもゆきのんは話が分かんない人じゃ無いから、前もって約束とかしてたら赦してくれるから、また今度の機会にさ誘ってよね。」
「それからゆきのんも、あとヒッキーも確かにさ優美子にも悪いとこあったけどあんな言い方は無いと思うよ、あたしにとってヒッキーとゆきのんは大切な人だけど、優美子と姫菜もあたしにとっては友達だからさ、あんま悪く言わないで欲しいな。」
由比ヶ浜に窘められ雪ノ下と金髪さんの間には取り敢えず一旦休戦協定が結ばれた、二人共少しバツの悪そうな顔をしていたのが何だか俺には印象的だったがな。
「あはは、ゴメンね結衣、それと雪ノ下さんとヒキタニ君だっけ?」
赤眼鏡さんが金髪さんの背を押しながら俺達に詫びてこの場を後にする、金髪さんは休戦したとてもその不満が解消された訳ではなく、背を押されながらもぷりぷりと不満な気持ちを垂れ流しているんだが、てか俺はヒキタニでは無く比企谷なんですけどね。
HRの時間も差し迫り雪ノ下は自分のクラスへと戻り、由比ヶ浜達も自分の席へと戻りHRの時間へとそなえる。
これにより緊迫感に包まれた状態は緩和され教室内には再びそれぞれのグループによる内輪の会話が再開された。
自分の席に着いた由比ヶ浜が俺に笑顔で手を振っている…しかしこの一年で由比ヶ浜はかなり成長したよな、はじめの頃はなんかオドオドして居て人の顔色とか空気を読む様なヤツだったけど、今は雪ノ下にもあの金髪にもちゃんと意見を言える様になったしな。
「ヒッキー一緒に部活行こっ!」
放課後授業を終えて早々に由比ヶ浜が俺の所へとやって来て、元気ににこやかに誘いかけて来た。
「おう、そうだな、てか由比ヶ浜お前ちょっとテンション高く無ね?」
クラスの皆が部活へと或いは帰宅すべく動き始める中でのその誘いに、またしても俺に向けられる忌々しさタップリの視線を感じながら、俺は立ち上がりながら由比ヶ浜へ答える。
「えへへぇ、だって二年生になって最初の部活だからさ、あたしのテンション上がってる感じ!?」
「……何で最後が若干疑問形なんだよお前は。」
廊下へ向かい二人並んで歩きながらの会話、俺は元がボッチだったせいかあまり饒舌に話す方じゃ無いから、会話は由比ヶ浜が基本何か話題を振りそれに俺が答えるってのが俺達の普段のやり取りだったりする、其処に雪ノ下が加わっても同じ様な感じだ。
雪ノ下も離せば弁は立つのだが、如何せん彼女も基本ボッチ気質で読書家でもあり静謐を好む方なので、あまり自分から話し掛ける事は無く、由比ヶ浜に振られた話題に答えるって俺と同じ様なスタンスだ。
由比ヶ浜は俺と雪ノ下、ボッチ気質の二人を繋ぐ鎹の様な役割を担っている形になっていて、常々彼女には悪いと思うところはあるんだが、俺達三人の関係はそれで上手く行っているから、案外今の現状で良いのかもな。
「あっヒッキー、ゆきのんだよ!お〜いゆきのん!」
俺達の前を歩く雪ノ下の姿を見留めると由比ヶ浜は駆け足で雪ノ下に駆け寄って行く。
「あら、由比ヶ浜さんと比企谷君も一緒なのね丁度良かったわ、一緒に部室へ行きましょうか。」
「うん。」
俺達は前衛に由比ヶ浜と雪ノ下のツートップ、後衛に俺と言う立ち並びで校舎特別棟四階の部室へと向かい歩く。
雪ノ下と由比ヶ浜、女子二人の醸すゆるゆりな雰囲気の会話を一歩身を引いた立ち位置で、少しだけ保護者的目線で見守りつつ、たまに話を振られたら答えるってスタンスで。
当然ながら言わずもがなであろうが、この部室へと向かう最中にも他者の目線は由比ヶ浜と雪ノ下へと注がれ、その後ろに居る俺にもそのおこぼれの如き視線が突き刺さる、それは当然雪ノ下と由比ヶ浜へ向けられたそれとは真逆の感情がタップリと詰まっているんだけどな。
まぁそれは今に始まった事でもなし、どうでもいいんだが、今日はどうやらそれだけで終わりって事にはならなかったのだった、何故なら俺がいきなり背後から誰かに抱き着かれたからだった。
「やっと見つけましたよ先輩!」
俺は背に顔をグリグリと押し付けている感触をかんじつつ、その声に依ってその行動を行っている人物の正体に行き着いた。
周りの人々の痛い視線を浴びながら、そして振り返って俺を怖さを感じさせる二人の表情に、さてどうするべきかと思考しながらもありきたりに、背後に居る少女に答える。
「…あのだな一色、こんな衆人環視のもとでそう言った行動は控えてもらえると助かるんだが、ってかいい加減止めてくれマジで!」
それは昨夜の一件で知り合った一色警部の娘さんで、今年この総武高校へと入学をて来た新入生、一色いろは。
由比ヶ浜と雪ノ下の冷酷さの成分を多量に含んだ表情により俺はこれから部室にて開廷されるであろう裁判にて有罪判決を言い渡される事が既に確定しているであろう事に、ため息がこぼれ出るのを抑える事も適わなかった。
これから始まる厄介な時間を俺は乗り切る事が出来るのやら…………。