俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
大波○海岸にてトドロキさんと財前さんが放ったディスク達、その第一陣が野営地に帰還してきた。
そのディスク達が収めてきた映像データを確認すべくトドロキさんは左腕手首に装着している『変身鬼弦・音錠』へセットし、財前さんは未だ鬼として一人立ちを果たしていない関係から専用の変身音弦を支給されておらず、弦の鬼の弟子が訓練に使用する『変身鬼弦』を用いトドロキさんと同じくそれを左腕手首に装着し、これまた同じくディスクをセットし確認作業を行う。
此処は俺も手伝いとして変身音叉・音角を懐から取り出すべきかと思案する、思案はしているのだがそれを実行に移すのかと言われれば其処で躊躇ってしまうのが八幡クオリティだ。
いやだってさ『俺も手伝いますよ。』とかって言い辛いんだよコミュ力が低いから俺、何かすんません俺だって本当はそんなクオリティとか返上したいんだよマジに。
「……当たりです、やっぱりバケガニっすねしかも二体居ますよ師匠。」
俺が脳内でブツクサと思考をしている内に早々財前さんが当たりを引当ててしまった、ふう良かったぁって言いたい所だがディスクに収められている映像からバケガニは二体居るって事が確認された訳で、これで取り敢えず俺は何もする必要が無くなった訳だ。
「そうか、まぁ二体位なら何て事も無いな斬九郎の卒業検定には丁度良い位の物だ。」
トドロキさんは財前さんの報告に頷くと直ぐ様テーブル上に地図を拡げてこの海岸一帯の様子を確認する作業に入る、それに倣う様に財前さんも地図とにらめっこだ。
「第一陣に行ってもらったのはこの辺りっす、それで映像の様子からすると居るのはこの辺りにまで絞り込めるっすね師匠。」
「ああ間違い無いだろうな、よし斬九郎準備を終えたら早々に出発するぞ。」
ディスクから得た情報を元に地図と照らし合わせて財前さんが大凡の位置を特定し、トドロキさんもそれを是とし準備を促すと財前さんの顔に再び緊張の色が浮かぶ、そりゃそうだよな今日の働き次第で財前さんは一人立ちが出来るかどうかが決まるんだし、緊張するなって方がどうかしてる迄あると俺も思うし。
「はっ、ハイっす師匠……あ〜っ、けど俺何だかすっげえ緊張して来ましたっす、やっべぇなぁ……。」
そんでもって財前さんもそれを包み隠さずに申告してるしな、うむこう言う場合キャリア的に一応俺も財前さんよりかは先輩になるんだけど何か良いアドバイスでも贈れれば良いんだが、此処でもまた生来のコミュ下手が邪魔をして上手く言えそうに無いんだよな。
だが此処は一つ俺なりに何か言った方が良いだろう、折角此処まで出向いてきた訳だしな………良し意を決して言ってみよう、てのはちと大袈裟か。
「あの財ぜ「大丈夫だよ斬九郎、こんな状況なんだから緊張するなって方が可笑しいんだよ、寧ろ緊張して当たり前なんだ、俺だってそうだったしヒビキやカガヤキだってそうだった筈だ。
それに斬九郎、お前はこれ迄に何度か実際に鬼になって俺のアシストをしてくれた経験もあるじゃないか、だから自信を持って事にあたるんだ、ただし過信はせずにだぞ。」……そうっすね。」
しかしいざ言ってみようかと思えばこれである、財前さんにはトドロキさんって立派な師匠が居るんだし俺の出る幕は無いよな、うん。
やはり慣れない事はするもんじゃねぇなぁ…と八幡はしみじみと思う訳なんだわコレが。
トドロキさんのアドバイスに財前さんは真剣な表情を以て頷き『ハイっす!』と返事をし出発の準備を始める。
その財前さんの眼と表情には多少の緊張感が残っている様だが、さっき迄とは幾分か違ってみえる。
何てのかな、覚悟が決まったとかそんな感じって言えばいいのかな。
「良し俺の方は準備完了だ。」
トドロキさんはソフトギターケースから調整を済ませた自身の新たな音撃武器である『音撃真弦 烈斬』をとりだすと財前さんに告げ、更に続けて。
「斬九郎、今日からは此れを使って見るんだ。」
そう言ってトドロキさんはもう一つあったソフトギターケースを財前さんに手渡す、それを財前さんは恭しく両手受け取る。
それは例えるなら卒業式に於いて壇上で卒業証書を受け取る時の所作に近しいだろうか、ケースを受け取った財前さんはジッパーを開き中身を確認する。
「こっ…これ、師匠ッこれってまさか前にザンキさんと師匠が使っていたって言う『烈雷』ッ……ですか!?」
ケースより取り出し財前さんが手に取って見つめるそれは、当然の事だけど弦の鬼が使用する音撃武器たる音撃弦。
かつてはトドロキさんの師匠であるザンキさんが、そしてザンキさんから受け継ぎトドロキさんが使用して来た『音撃弦 烈雷』だ。
「ああ、ただし烈雷は長年受け継がれて来て不具合も出て来ていたからな、斬九郎お前に受け渡すに当たって大幅な改良が加えられているんだ。
だからその名称も改められた、その名も『音撃真弦 烈雷改』と。」
「……音撃真弦、烈雷…改、此れを俺にっすか………ゴクッ。」
財前さんは自身が受け取った烈雷改の出自を聞き唾を飲み込んだ、うん俺凄え解ります財前さんの今の気持ち。
自分が尊敬しているであろう師匠とその師匠が更に尊敬していて、事ある毎にその素晴らしさを吹聴している人物がかつて使用していたある種由緒ある代物を渡されたんだからな、そりゃあ当然だよなもうプレッシャー増々だわ。
けど財前さんに与えられるプレッシャーの源はそれだけに留まらなかった、それは再びトドロキさんの手から財前さんにもう一つのアイテムが手渡されたからなんだけど。
「しっ、師匠これが!?」
手渡されたそれを掌の上にかかげて財前さんは言葉に詰まりながらもトドロキさんに問う。
輝くメタルシルバーとメタリックグリーンそして鈍色のガンメタルで装飾されカッパー(銅色)の六本弦のギターを模した剣、音撃真弦 烈雷改と対を為す、弦の鬼が浄めの音を奏でる為の必需品であるそれについて。
「ああ、斬九郎お前の為の音撃震だ、今使っている訓練用の零式じゃ清めの音は放てないからな、昨日みどりさんから俺が受け取っておいたんだよ、名付けて『音撃震 雷迅』これからお前と共に魔化魍を清める相棒だからな粗末に扱うんじゃないぞ。」
『音撃震 雷迅』音撃真弦 烈雷改の本体中央部にそれを設置する事で初めて烈雷改は内蔵されている刃を展開し斬撃兵装としての本領を発揮でき、また同時に浄めの音を放つ事も出来るようになる。
謂わばそれは音撃弦の心臓部であり安全装置でもあるって事だ、てか俺は音撃弦を見る度に思う事があるんだが烈雷改を今見て改めて思った、それは……やっぱ音撃弦ってカッコイイわ、である。
何てったってやっぱ音撃武器の中で一番中二心を掻き立てれるのは音撃弦だよなぁ、と心底思うんだ。
とは言っても決して俺は太鼓や管をディスっている訳じゃ無いからな、何なら管だってリスペクッてるし太鼓に対する矜持だって持ってるし。
まぁ俺の事はこの際はどうでも良いんだよな、今語るべきは財前さんの事だっての八幡自重しなさい。
「ハイっす師匠!俺やりますッ!」
師匠たるトドロキさんから一人前の鬼としての装備品を拝領し決意を込めて力強く財前さんは返事をする、決して緊張が完全に解れた訳じゃ無いんだろうけどそれでも財前さんは前を向き立ち向かう覚悟を改めて決めた。
「その意気だぞ斬九郎、お前が独り立ちした暁にはザンキさんもお前に斬鬼の名を譲るんだって楽しみにしているんだからな!」
斬鬼の名を譲る、覚悟を決めた財前さんにトドロキさんは激励のつもりでそう言ったんだろうけど、トドロキさん今それを言うのは不味いんじゃないのではないでせうか………。
「うへっ……まっ、マジっすか師匠やっべぇ俺また緊張して来たっすよぉ、うはぁプレッシャー半端ねぇ。」
そうなりますよねぇやっぱり、実際俺もそうだったしね。
響鬼の名をお前に譲るって仁志さんに言われた時はマジで“うせやろ”って思ったし、何ならあまりの事にその時手にしていた音撃棒を落っことしそうになったしな。
「良しそれじゃ行こうか。」
「ハイ師匠。」
準備は万端整ったトドロキさんは財前さんを促し財前さんも応える、互いに頷き合いほぼ同時に俺へと向き直る。
「ヒビキ今日は態々来てくれてありがとう、マックスコーヒーも落花生最中も美味しかったよ。」
「っすね、ありがとうっすヒビキ君、俺も落花生最中メッチャハマりそうっすよマックスコーヒーはちょつと苦手かもっすけど。」
二人は俺に礼の言葉を述べてくれて、トドロキさんはマッ缶も最中も美味いと言ってくれたが財前さんはマッ缶をあまりお気に召さなかったみたいだな、うむ財前さんには何れマッ缶についてジックリと語り聞かせて洗脳…ってそれは無いっすね。
「お二人共お気を付けて、無事に戻られたら三人で一緒にラーメン食いに行きましょう、俺のオススメの店に案内しますんで、そんじゃあ行ってらっしゃいシュッ!」
俺も二人に激励を以て送り出す、マジでお二人には無事に戻って来てもらいたいものだ、男三人で食うラーメンってのもオツで美味いだろうしな。
「ああ良いなそれ、ヨシ斬九郎片が付いたら一緒にラーメン食べに行くぞ!」
「ハイ。」
ラーメン屋へ三人で行く事を約しトドロキさんと財前さんはディスクの先導のもと出陣して行った。
さて二人が戻って来るまで暇になってしまった訳なんだが、春先の海辺だと昼寝をするには寒すぎるしな、風邪をひいてしまっちゃどうしようも無いし止めておこう。
「ふう、時間的にはもうチョイで昼位だろうなってかそう言やスマホ見て無かったな。」
俺は椅子にもたれ自分のバッグからスマホを取り出し先ずは時間を確認しようと思っていたんだが、モニターにはメールの着信表示が飛び込んできた。
「……うわぁ、迷惑メールじゃ無いよな、多分。」
俺はスマホのモニターをスワイプしてメールを確認すると、所謂迷惑メールも確かに入っているけども。
「由比ヶ浜と雪ノ下と一色からか、まぁ読んで確認と返信すりゃちょっとは時間が潰れるよな。」
ぶっちゃけ、由比ヶ浜と雪ノ下からのメールによると現在二人は一緒に居るらしく、よければ俺も一緒に遊ばないかとのお誘いメールで、一色からのメールも同様でデートへのお誘いだった。
「しっかし、由比ヶ浜と雪ノ下の書く文章も相変わらずだよな、そんで一色はハートマーク多用し過ぎだろうが…。」
俺は言葉には出さずに読み進めた三人からのメールの内容に苦笑ともため息とも着かない気分でぼやいてしまった、由比ヶ浜は絵文字や何かよく分からんスタンプとかってのを多用して解読が必要な感じだし、雪ノ下のは何だか普通に手紙の文面みたいでともすると堅苦しくも感じられる。
「悪いが、今は、大波○海岸に居るからスマンが無理だ……っと、送信。」
三人に対して俺は同じ文面のメールを同時送信、一色は二人と別行動だから兎も角として由比ヶ浜と雪ノ下は一緒に居るからこのメールを読んだら手抜きとかって駄目出しとかしそうだよな。
ボンヤリしつつそんな事を思いつつも既に送信してしまったし、もうどうしようも無いからなそれに付いてはもう考えるのは止めよう、駄目出しが来たら来た時でそのと時に対処しよう。
それから数分後、やはり来ました二人からの駄目出しメール。
俺が大波○海岸に居るって事で一緒に遊ぶ事が出来ないってのは了承してくれたが、文面に対してはお怒りの様です。
「はぁ……コリャ二人には今度ご機嫌取りをしなきゃだろうな、あ〜ぁメンドくせぇ、まぁ取り敢えずは詫びのメールでも送っとくかな、二人別の文面で。」
別々の文面を考える、それも又やはり面倒臭いんだがトドロキさん達を待つ時間を潰すには丁度良いか、良しじゃあ考えてみよう。
「え〜っと此処は一つ手紙っぽい文面を考えてみるとするか…前略生きてくことは哀しい訳で哀しいからまた生きてく訳で露路裏のうす暗い赤ちょうちんが燈台の灯りのように見える訳で今夜は俺 飲みます、ってこんなもん送ったらマジもんで『迷惑メールでしょうが』だろうがっての馬鹿じゃないのか俺!」
はぁ我ながいざ真面目に考えようとしていたらコレだ、何でこうしょっちゅう俺の思考は何時の間にかあらぬ方へと逸れるんだろうか、我ながら度し難い事ですこと。
トドロキさんと財前さんが出立してから三十分程が過ぎた、順調に事が進んでいるならもうそろそろバケガニの討伐も終わっている頃だろうか。
果して財前さんは大丈夫だろうか、いざ本番となった時に変な風に緊張したりとかしてなきゃ良いけど、まぁその辺りはトドロキさんがフォローするだろうから何とかなるだろう。
「やっぱ、トドロキさんも嬉しいんだろうな、なんたって初めての弟子が独り立ち出来そうなんだからな。」
俺の時もカガヤキさんも仁志さんもすげぇ喜んでくれたし、やっぱ後進に何かを伝えるって事は喜ばしい事だろうし、またやり甲斐もあるんだろうか。
「はぁ〜、俺も何れは弟子を持つのかな、出来るのか俺に師匠とか…………うん、その時にならなきゃ解らん!」
イブキさんなんてもう十代の頃にはアワユキさんを弟子にとって指導していたって話だし、まぁイブキさんは吉野の総本山の惣領息子だから将来的に猛士全体の統括もやんなきゃだから周囲からの催促とかもあったのかもだ。
何かアレだな良い家に生まれるってのも何かと大変なんだろうな、柵とか組織内派閥とかでメッチャ苦労しそうだしメッチャ胃とかやられそうだよな。
イブキさんもだけど雪ノ下さんとか雪ノ下とかも将来そんな感じになるかもだよな、お三方強く生きなはれ。
まぁそう考えりゃ俺なんて庶民の家に生まれて良かったのかも知れんな、まぁ良家に比べりゃ資産とか何とか受け継ぐ物はほぼ無いけどな。
「まぁ俺が親父達から受け継いだ物なんて精々この頭の上のアホ毛くらいなモノだよな、多分。」
俺はテーブルの上に出来た自身の影、その頭部で微風に揺らめくアホ毛の影を見止めそんな事を思う、このアホ毛は俺と小町の数少ない共通点だし俺としてはそれなりの愛着がある。
「しかし何だなもし俺か小町にアホ毛が無かったらきっと他者からすると俺達は兄妹たって認識してもらえないまであるかもだな、あっぶねぇ〜あって良かったわ俺のアホ毛、もしコレが無かったらって考えたら………。」
よそう、言ってて悲しくなって来た。
それからほんの数分前、気が付くと俺の聴覚が此方に近付きつつある、合成音的な音を捉えた。
それは俺達鬼が良く知る、俺達にとっては掛け替えのない仲間とも言える存在であるところの、ディスクアニマルの鳴声だ。
俺はその鳴声が聞こえて来た方向へと顔を向ける、それは空を飛翔し此方へと戻って来た飛行型ディスクアニマル。
「アレってアサギワシだよな、まさか何かあったのか……。」
高速で飛行して来たアサギワシはやがて俺の元へ到着し、せわしなく鳴声を発しながらパタパタと羽を羽ばたかせホバリングし、俺に危急の要件を伝えようとしている様だ。
「解った、解ったってトドロキさん達に何か良くない事があったんだよな!?スマンが案内してくれ。」
俺がそう指示するとアサギワシは一声鳴いて地上三メートル程の高さまで上昇してもと来た方角へと引き返す。
そして俺もそれを追い野営地を離れ走り出す、最大速度300Km弱の速度で飛べるアサギワシと俺とではいくら俺達鬼が常人よりも遥かに早く走れるとは言えども、そのスピードにはかなりの開きがある。
なのでアサギワシは俺との距離を気にしながら時に滞空して俺が追いつくのを待つ。
しかも此処は平坦な砂浜では無く凹凸の激しい岩場だから普通に走れず足場によっては飛び跳ねたりしながら駆ける。
駆ける事凡そニ分弱、やがて俺の眼は寄り添う様に並び歩く二人の人影を捉えた。
『まさかだよな?』その人影を見止めた俺が最初に思った事はそれだった、駆け彼我の距離が縮まるにつれてはっきり大きく見え始め、クッ、俺が感じた良く無い事っヤツが現実となって俺の眼前に現れてしまった。
顔だけ変身を解いた轟鬼さんと財前さん、財前さんが足元の覚束無い轟鬼さんの肩に手を回し支え介添えして歩いている。
それは不測の事態が起こってしまった事を知らしめる証、鬼として十年を超えて活動して来たベテランの轟鬼さんほどの人が介添え無しに歩けない程負傷するだなんて、一体現場で何が起こったんだよ。
「轟鬼さんッ財前さんッ!!」
二人に呼び掛け、俺は二人の元へ早々に駆け着けるるべく疾走る速度を更に上げた。
歌詞引用 とんねるず 迷惑でしょうが