俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
一人では動く事もままならない程の手傷を負っていた轟鬼さんを俺は財前さんと二人で一旦野営地まで連れて行き、其処でトドロキさんには変身を解いてもらい財前さんにトドロキさんの着替えの介助をしてもらう。
その間に俺はたちばなへと連絡を入れ状況報告と救急車の手配を依頼、救急隊の到着までトドロキさんには野営地で横になっていてもらう事に。
幸いにしてと言っても良いのか分からないけど、トドロキさんの怪我は命に関わるものでは無かったが左上腕と左脚の脛辺りを骨折、他裂傷や打撲などを負っている事が大まかに確認が出来た。
「っ…すまないヒビキ……手を煩わせてしまって。」
痛みに耐えながらトドロキさんは俺に詫びる、その言葉に俺は礼など不要ですと答えて応急処置を行いながら二人には現場で何が遭ったのかを尋ねる。
「お、俺のせいなんす…俺を庇って師匠は……くっそう……。」
未だ変身を解かないでいる財前さんは左の掌に右の拳を打ち付け、悔しさを滲ませた声音で呟く。
「…ふぅ〜っ、斬九郎あれはお前のせいじゃ無い、あれは…不可抗力だ。」
痛みに耐え呼吸を整え気合を込めながらトドロキさんは財前さんにこの事態の責任は無いと告げる、その言葉に財前さんは『だけど師匠!』と尚も言い募ろうとするがトドロキさんはそれを押し留め更に諭す様に告げる。
「現に俺も…っ、お前と一緒に奴に動きを封じられてしまったじゃないか、だから責任って言うんだったら俺だって同罪だ。」
動きを封じられたって童子と姫になのか、まさかトドロキさん程の人が。
鬼の動きを封じるなんて、それほどの力を持った童子と姫が居るってのかよこの海岸には。
俺はトドロキさんと財前さんに現場での状況を詳しく聞こうと口を開きかけたその時、次第に此方に近付いてくるサイレンの音を知覚した、どうやら間もなく救急車が到着する様だ。
俺は二人に断りを入れ一度野営地を離れ駐車場へと向かう、この場に救急隊員の方達を案内する為に。
救急隊員の方達により担架に乗せられたトドロキさんは救急車へと搬送される途上、俺たちに向かい真剣な面持ちで。
「ヒビキすまないが後の事を頼む、そして斬九郎お前はもう十分に合格点を満たしているぞ、大丈夫だ自信を持て。」
俺と財前さんはそのトドロキさんからの要請と激励に返事をする、首を縦に振り頷いて。
その俺達の返事にトドロキさんは安堵のため息を一つ吐くと救急隊員の方達に
お願いしますと声を掛け、救急車へと運ばれて行く。
トドロキさんゆっくりと身体を休めて下さい、完治した暁には約束通りラーメン一緒に食いに行きましょう。
「そんじゃあ、たちばなにトドロキさんが病院へ向かった事を報告しましょうかね、その後現場で何が遭ったか詳しく話して下さい。」
隣に居る財前さんに呼び掛ける、これからの行動方針をどうするか決める為にも財前さんから報告を受けねばならないからな。
現状俺は何が起こったのか殆ど解っちゃいないんだから財前さんには辛い事かもだけど、トドロキさんは後の事を頼むって言ったんだから、そう言うって事はまだ魔化魍かもしくは童子か姫がまだ片付いてないって事なんだろうからな。
「……ハイっす、けど言葉だけじゃなくってディスクの映像も一緒に見てもらって良いっすか、その方が言葉だけより詳しく理解してもらえるでしょう。」
財前さんは俺の提案に自身の不甲斐なさによる憤りを抑え込む様に一度拳をグッと握り締めると、俺へ向き直りその様に応えてくれた。
「分かりました、それじゃ俺がたちばなに連絡している間にポータブルプレーヤーの準備をお願いします。」
役割分担を決め行動を開始する、と言っても然程時間が掛かる様な事でも無いんだけどな、何てか大して効果があるとは思えないけどこうやって少し間を取った方が財前さんの気持を落ち着けるのにも良いかもと思っただけの事だ。
「ヒビキ君準備出来ましたんでそんじゃあ再生を始めるっす、取り敢えずはバケガニを退治したところは飛ばしてその後から行くっス。」
「了解です、お願いします。」
準備は整いいよいよ映像を再生してもらう、バケガニを退治した後からって事は原因は魔化魍じゃ無いって事か、だったらやっぱり童子か姫がトドロキさんをあんな風に、俄には信じられないけどまぁそれは見ていれば解るか。
『やりました師匠!バケガニ二体討伐成功です!』
画面の中では鬼化した財前さんが轟鬼さんへ討伐成功の報告を喜色溢れる声で伝えている、ちなみに画面の中の映像では轟鬼さんがカメラの近く画面右端付近に見切れて映っていて、奥の方ざっと見轟鬼さんから十メートル程離れた位置に財前さんが位置していて、その全身は見切れることなく映されている。
『……ああ見事だった良くやったな斬九郎……。』
財前さんの功績を認め労いながらも轟鬼さんの声音には、何か不審感を孕んだ様な警戒感が感じられる。
『はい、ありがとうございます!?師匠どうかしたんすか?』
財前さんもその轟鬼さんの様子に気が付きそう呼び掛ける、と此処でカメラが動き轟鬼さんをバストアップで映し出した、何だかコイツ良い仕事してんな。
『おかしいと思わないか斬九郎、今祓ったバケガニだがかなりの大きさに成長していただろう、俺達は予め今日辺りバケガニが出現するって事前予測出来ていたし、その情報を持ってこの一帯に人を近付かせないように数日前から警察に依頼していた。』
『そ、そうッスよね言われてみれば童子と姫も見当たらないし、人を襲って喰ったって訳でも無いのに確かにデカかったッスよね。』
言葉をかわす二人がある程度良い感じに収まるようにディスクは移動している様で今映像は二人を適度な距離感で映している。
本当に凝ってやがるなアングルに、俺は映像を再生する為に回転を続けるアオイクマを若干呆れた眼で一瞥し、再びモニターを見つめる。
『ああ、だから油断するなよ斬九郎、まだ終わりじゃ無いかも知れないからな周囲の警戒を怠るな。』
『ハイっす!』
「師匠の指示で俺もディスク達も勿論師匠もっすけど皆で周囲を警戒して居たんですけど、この時は何も辺りには無かったんすよ。」
財前さんはモニターを見ながら解説を加えてくれた、確かに二人共ゆっくりと回りながらあたりを警戒している姿が映し出されているし、時々カメラに映った他のディスク達も同じ様に警戒しているんだが、結局この映像を収めたアオイクマは周囲の警戒よりも映像を撮ることに重きを置いてんじゃね?と俺は思わずにはいられない。
本当にディスク達ってそれぞれに個性があるんだな、式神って凄えって改めて俺は感心はしてやらんけど、いや若干してるのかそう思わなくも無い。
「この時はって事は、もしかして。」
「ハイ、そうなんッスよ確かに俺達以外居なかったはずなんです、けど気が付いたらって、見ててくださいもう直ぐ出て来ますから。」
画面の中の轟鬼さんと財前さんはなおも周囲を警戒して四方を見廻している、鬼面の下の素顔はこの時果してどの様な表情をしているのか。
『はっ!?』
そうしている内に轟鬼さんがピタリと動きを止め驚愕と不審の入り混じった声を漏らし一点を凝視した。
それに気が付いた財前さんもその轟鬼さんが見ている方向へと顔を向け、二人を捉えていたカメラ(アオイクマ)もそちらを映すべく動く、動きそしてそれをアップで捉えた。
そこに映し出されたのは存在は、黒い装束に見を包み顔が隠されていて表情などは見て取れない、左手にまるでレギュレータの様な計器などが取り付けられた錫杖を持つ不気味な存在。
『なっ誰だッお前はっ!?』
いきなり現れたそれに轟鬼さんが誰何の声を上げるが、それは無言のまま何も言わずただ錫杖を持ち立っている。
「何てんすかね、パッと見これ虚無僧とかそんな感じっすけど、初見見た瞬間俺何かこう心の底から湧いて来るみたいなすげぇイヤな感じがしたんすよ。」
財前さんはその黒い存在に対する印象を語るけど、俺としてはそれ虚無僧ってより修験者って感じがするんですけど、まぁ今はそんな些細な指摘とかしなくても良いよな。
画面は再びトドロキさんと財前さんを映し出す
、二人はその黒い修験者風の存在に警戒心を掻き立てられたのか臨戦態勢を取り音撃弦を構えようとしていたが。
『うっ!?』 『なっ!?』
その動きがピタリと止まり身体をプルプルと震わせている。
「この時俺達まるで身動きが取れなくなったんすよ、まるで金縛りにでもなったみたいに。」
『うっ、ぐぅッ!?』
身動きが取れぬ身でなおも二人は動こうと力を込めてもがく、此処でアオイクマは二人の様子が変だと感じたのだろうか、カメラを二人から黒い存在に変えて映す。
黒い存在は、錫杖を持たない右手を前に翳し構えているその動作はまるで。
「まるで映画の宇宙戦争に出てくる時代の騎士の理力の力みたいッスよね、何かああやって念力で相手の動きを止められるんすからね、あれマジでキツかったっすよ。」
念力か、それで動きを封じられてしまって轟鬼さんがあんな事になってしまったって言うのだろうか。
画面に映る二人はソレでも必死に身体の自由を取り戻そうと藻掻いている。
『ぐっ、ヌヌヌヌッ………。』
しかし二人の身体の自由を取り戻せない、そして此処で再びカメラは二人から黒い存在へと変わる。
「こっからッスよヒビキ君、よく見ていてくださいっす!」
財前さんが告げる、此処から新たな事態が起こるってそう言う事なんですね。
この黒い存在が一体何事を起こすって言うんだ、まさか在り来りな想像かもだがこの念力みたいな力で轟鬼さんを空高く持ち上げて地面に叩き付けるとか、いや先走ってアレコレ考えるよりも映像の記録を見れば答えは直ぐに解るんだからな、取り敢えずは続きを見せてもらおう。
『来た、こっからッス!』
財前さんは身を乗り出しモニター画面を指差すかの勢いと大きめの声を発して告げ、俺は財前さんを向き直る事もせずに頷いて画面を見続ける。
画面の中の黒い存在は左手に持った錫杖を上へと翳す、その瞬間錫杖から何か波動の様な物が発動されたのかそれが震源であるかの様に画面の映像がブレる。
そのブレは暫しの間続き、やがて収まる何か無数の黒い砂の様なカスのような物が渦を巻きながら錫杖に吸い寄せられて行く。
「……なっ、何なんでしょうねコレって、財前さんは現場に居てこの砂みたいな物が何か解りましたかね?」
画面を見ているだけじゃこの吸い寄せられて行くカスの正体がまるで分からんからな、なので現場に居た人に聞くしかないだろう。
「いや、それがッスけど俺と師匠は奴に身動きを止められてて彼奴しか見えて無かったから、分かんないっすけど。」
そうか、確かに二人共封じられてまともに動けなかったんだから周囲の状況なんて見えなかっただろうし、これは仕方が無いよな。
「けど、何ですか?財前さんなりのアレについての見解があるんですかね。」
財前さんは『けど』と言った、と言う事はもしかしたらと俺は思い至った訳なんだが、果して財前さんは。
「これはあくまでも俺の予想なんすけど、チョット一時停止するッスよ。」
財前さんはプレイヤーを操作して映像を停止して、モニターに映る錫杖付近に自らの指で指し示して見解を語る。
「見てくださいっス、この黒いカスって二つの方向から杖に向かって集まって行ってますよね。
そして俺達が祓ったバケガニは二体っした、そんで魔化魍って清められると土塊に還るっすよね。」
見解を解説をしながら財前さんは俺に確認を取る、確かに音撃によって清められた魔化魍は爆散して土塊に還る。
そうか、財前さんの推測ってのはそう言う事なのか、成程確かに。
「土塊に還った魔化魍を形成していたモノを奴は寄せ集めているって事なんですね、財前さんの見解は。」
財前さんは頷く、そして俺もその財前さんの見解に同意見だ、その考えが一番シックリと来る。
凄いな財前さん、まだ独り立ちもしていないのにこうやって状況を分析出来るんだからな、トドロキさんの言う通りもう充分に財前さんは独りでやって行けるだけの実力を身に付けているんだな。
そして再び続きを再生する、やがてバケガニの残滓と思われる黒いカスは全て錫杖に収められたのか、それはピタリと止まってしまった。
そして黒い存在は錫杖を降ろし次の動作に移る、黒い存在は次に海の方へと真っ直ぐに右手を伸ばす。
アオイクマは映像を黒い存在から海へと変える、コイツ本当にすげぇ空気が読めるんだな、ここまで来るとマジで感心するわ。
処々岩が波間に見え隠れするがそれ程荒れてはいない波打つ海、その一部に波紋のようなものが拡がりその中心部から何かが浮き上がって来た。
その浮き上がった物体は海から地上へと空に浮きながら近付いてくる、ってか確実にあの黒い存在が呼び寄せてんだよな。
「……あれって、蟹ですかね?しかもかなり大きいっすよね、こんな時に不謹慎っすけどすげぇ美味そうっすね。」
その大きな蟹の姿に俺は場違いにもそんな事を考えてしまった、いかんなこんな時に。
「いや、現場にいた時は分かんなかったッスけど確かにアレだけの大きさならそう思うのも仕方無いっすよ。
まぁそれはさておきッスね、続きを見ていてくださいっす。」
再び映像は黒い存在を映し出す、空に浮かぶ蟹はやがて黒い存在が翳す掌に掴み取られてしまった。
その掴み取った蟹を黒い存在は己が立つ側の岩場へと置くと左手に持つ、さっきバケガニの残滓と思われるカスを吸収した錫杖の先端石突を蟹の甲羅に突き刺した。
「まさか、アイツは自然界の蟹に魔化魍の残滓を……注入しているんですか、そんな事ができるモン何ですかね。」
俺はそんな感想を漏らすが、魔化魍の発生自体が未だ完全解明されている訳でもなし、また以前にも人為?的に魔化魍を作り出していた存在も居たそうだし、この黒い存在もそう言った者達に連なるのかも知れない。
「マジかよこんなヤツが存在しているなんて………。」
俺はそんな得体の知れない奴が存在しているって事に戦慄を覚え、背筋が寒くなるのを自覚した。
もしかしたら鳥肌が立ってるかもな、まぁそれは兎も角(閑話休題)この事も早急にたちばなへ報告しなければいけないだろう、こんな奴が顕れたからには猛士全体での情報共有と対策が必要になるだろうから。
だが、それも一旦置いて俺達は映像の確認を続ける、黒い存在は蟹の甲羅に突き刺した錫杖の石突をその身から抜き取った。
魔化魍のエキスの注入が完了したって事だろう、そしてこう言った場合のお約束通りならば当然………。
「「へっ!?」」
俺と財前さんの唖然とした声が期せずしてかぶってしまった。
「ざっ、財前さん今の見ましたよね、っか財前さんは現場でも見たんじゃないんですか!?」
「あっ、いやそれがッスね俺はこの時ずっとあいつが杖で突き刺した蟹に目が行っていたもんっすから、コレには気が付かなかったんすよ。」
俺と財前さんが映像を見て驚いた理由ってのは、それは画面の中の黒い存在の縮尺がいきなり変化したからだ。
いきなり変化した縮尺、それは要するに黒い存在が突然に本当に一瞬で蟹の側から離れてしまったから、簡単に言うとまるで瞬間移動でもしたかの様に画面奥方向へと後退していたからだ。
距離的には然程移動している訳じゃ無いが、なんの予備動作も無く移動していたって事実はいざ相対するとなると脅威に他ならないだろう、それに加えて相手の動きを封じてしまうんだからな、そう言った能力を踏まえて判断して……。
「俺達こんな奴を相手取る事が出来るのかよ………。」この一言、これに尽きるだろう。
「まぁあの黒い奴の事は取り敢えずは置いといてッスね、ここからッスよ見ててくださいヒビキ君。」
財前さんは画面に映る蟹を指し示してそちらに注目する様に俺を促し、そのお言葉に従い俺もアノ蟹を見る。
まぁ何となくだけど基本ラノベとかアニメが好きだった俺としてはこの先の展開が読める、うん先ず100パー。
画面の中の蟹はビクン、ビクンッと気持ち悪く痙攣しのたうち回る様に悍ましく撥ねる、そのその痙攣の様なビクビクはやがて収まり。
巨大化が始まる、もこもこと蟹を構成するパーツが不規則に肥大化して行く。
それはまるで昔見たアニメのキャラ、ピーキー過ぎてお前には無理だの人の肉体が歯止めなく肥大化して行く様に通じる物がある様に思える。
巨大化しながらやがて、蟹の形それ自体も変化し始める横長で平たかった体躯がまるで海老を彷彿させるかの様に縦長になり始め、二本しか無かった蟹鋏が四本から六本と増えその姿は異形としか形容出来ない物へと変化して行く。
そして遂に、変貌を遂げた蟹は鋏を三対六本も持った超大型魔化魍、名付けるならばバケガニ変異体とでも呼称すべきかへと成り果ててしまった。
「………………まっマジですか、何となく想像はしていましたけど、こんなにバカでかくなるなんて……コイツのせいで轟鬼さんが……。」
画面から大凡の大きさを推測するにこのバケガニ変異体の体長は十メートル程はありそうだ、この間のツチグモの変異体もデカかったけどコイツはそれ以上に大型化している。
「…っ、そうなんす、俺達あの黒い奴に動き封じられている所にあのバケガニが顕れて、しかも俺の方が師匠よりもあのバケガニの近くにいたもんッスから、アイツ挟みを振り上げて俺を攻撃しようとしてきたんす。
けど俺は動けなくって、もうどうしようも無いしって諦めかけてたんです。
そしたら師匠が……師匠は凄いんっすよ俺はぜんぜん呪縛を解けなかったてのに、なのに師匠は自力でそれを解いたんっすよ……。」
画面に映るの映像は呪縛を解いた轟鬼さんが走り込んで来て、今にもバケガニが振るう鋏を叩き付けられそうになっていた財前さんを身を挺して救う轟鬼さんの姿だった。
財前さんを突き飛ばし、その財前さんが居た場所に立つ轟鬼さんはしかしもうバケガニの攻撃に対して回避も防御も行うだけの時間は無く、バケガニの鋏による振り降ろしの打撃をモロに浴びせられている。
それにより倒れ臥す轟鬼さんに何度も何度も打ち据えられるバケガニの鋏による打撃、苦悶の声を上げる轟鬼さん。
ディスク達も轟鬼さんを救おうと行動を起こしているが、それは焼け石にも満たない程些細な事で轟鬼さんの窮地を救うには力不足だ。
『しっ、師匠ォォォッ!!』
轟鬼さんを呼ぶ財前さんの声が虚しく響く、此処でアオイクマは轟鬼さんから財前さんへとカメラを切り替える。
『止めろ、止めろ、止めろオぉぉオオォォォっッ!!!』
この時財前さんは己の師匠の窮地に怒りの臨界点を突破したのだろうか、両の掌を握り込みその身を震わせそして遂に財前さんも黒い存在の呪縛を脱し、轟鬼さんを救出すべくバケガニへ向かい駆け出す。
「こっから先俺は自分が何をしたのか殆ど覚えていないんすよ。」
つまりこの時財前さんは尊敬する師匠である轟鬼さんの窮地に我を忘れ無我夢中で駆け出し魔化魍に立ち向かって行ったと言う訳だ。
呪縛から解かれ駆け出して僅か一秒程の時間で財前さんはバケガニと轟鬼さんの元へ到着し、轟鬼さんへと向けて振り降ろされていた蟹鋏を上段から烈雷改を打ち下ろす様に振り抜き迎撃する。
『でぃヤァッ!!』
その掛け声と共に振り抜かれた烈雷改はバケガニの鋏を大きく弾き飛ばす事に成功し、その勢いそのままにバケガニの態勢を崩すし、更に追撃に入る。
『ダァッ、せりゃァァッ!』
財前さんは二撃三撃と烈雷改を振るいバケガニを更に後退させ、轟鬼さんから引き離す事に成功した。
凄えな、俺は単純にバケガニを後退させた財前さんの底力に対しそう思う、轟鬼さんもそうだが弦の鬼って本当に物凄い膂力をしてんだよな。
しかし敵もさるものだ、財前さんの猛攻の前に一時は後退したもののやがて体勢を立て直し六本の鋏を巧みに操り財前さんに逆撃を加える。
『シッッ!シャァッ!』
しかしそれでも財前さんはその六本の鋏の猛攻を烈雷改で押し留め、自身の身に攻撃を加えられる事を防いでいる。
成程、これならトドロキさんが合格点を与えたのも頷けるわ、財前さんはもう充分に独り立ち出来るだけの実力を身に付けてるわ。
鋏の猛攻を防ぎ防ぎ防ぎ続けて、やがて遂に再び財前さんはバケガニの体勢を崩した。
『でぇぇぇりゃあぁッ!!!』
財前さんはバケガニの体勢が崩れたのをチャンスと見たのか大きく雄叫びを上げて空高く跳躍する。
俺達鬼の跳躍力は全力を出せば6〜70メートルは跳べる、まぁ今画面に映る財前さんの跳躍はそこ迄の物じゃないけど、それでも30メートルは跳躍しているだろう。
跳躍し財前さんは前転の要領で高速回転、落下の速度と回転運動の力が加わりその力を以て烈雷改を振り抜く。
『だぁァりゃァッ!!』
その強烈な力の前に変異体であるバケガニの鋏といえども耐えらず遂に叩き斬られてしまった。
「おおっすっげぇ!!」
思わす俺は感嘆の声を漏らす、一見すると軽薄そうに見える財前さんだけど、その本質は燃える様な熱いハートの持ち主なんだって事を改めて俺は知っだ。
『ドリャァッ!だァァッ!』
財前さんのさらなる追撃に後退るバケガニはやがて本格的な逃走に移るその逃走先は海の様だ、財前さんはそれを追い走るがしかしその途上に失速してしまい膝を着く。
その結果、バケガニの逃走を許す結果となってしまった。
「これが結果ッス………………。」
我に返った財前さんは負傷したトドロキさんを連れこの野営地へも戻って来たと、そういう事だ。
その財前さんの一言を期にこの場に沈黙が訪れる、この後どうするか当然やるべき事は決まっているし俺は動くつもりだが、財前さんには今少しばかりの気持ちの整理をつける時間が必要だろうか。