俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
バケガニとしての姿を棄て去るのに不要となった外殻等を眩くも不気味な輝きと共に爆散させる事によりアミキリへと変じたその变化のプロセスに、俺は思わず昔の特撮ヒーローじゃあるまいしと漏らしてしまったが俺は悪く無い、魔化魍っ存在を産み出す環境が悪いし何ならあの黒い奴が悪いと俺は断言する!
「とまぁ、そんな事はいいとして問題は眼の前にいるコイツにどう対処するかだよなぁ…。」
二人がかり、斬鬼さんと俺とで相手取ってあれ程梃子摺った変異種のバケガニが此処へ来て更に今度はアミキリの変異種へと变化してしまった、それに依りコイツがどれ程能力が上昇したのかは未知数だけど一筋縄では済まないって事は容易に想像出来るんだが、もう一つ気になる事は。
「…斬鬼さん、コイツあともう一段階変身を残しているとかって言い出したりしないっすよね?」
俺はゲンナリとした気分でそんな事を斬鬼さんに対してボヤいたりなどしてみた、この位のボヤキは大目に見て欲しい物だ。
何せ此処のところ俺が相手取っている魔化魍と来たら変異種とかそんな感じのヤツばかりだしな、ホント何なの一体全体このツキに見放された感は、俺が何をしたって言うんだよと考え始めたら際限なく俺を取り巻く色々な事象に対して物申したくなるのでこの辺にしておこう。
「響鬼君…宇宙の地上げ屋の元締めじゃ無いんスから、流石にもうソレは無いっスよ……多分っスけど。」
しかし俺のボヤキのネタに対して斬鬼さんが突っ込んでくれたので幾らか気分はマシになった様な気がする、ってか斬鬼さん何気に元ネタが何か知ってたんですね、八幡感激&あざっす!
そんなやり取りを俺たち二人が交わしている端で当のアミキリの変異種はと言えば、その背部の八枚の翅を大きく扇状に展開していた、それは恰もアミキリが自らの大きさと強さを俺達へと見せ付け強調でもしているかの様に。
「それより響鬼君、こうしてるのも何だし俺取り敢えずアイツに仕掛けてみるっスよ。」
烈雷改を再び逆袈裟に構え直し斬鬼さんはそう言うとアミキリ目掛けて駆け出そうとする、確かに斬鬼さんが言う様に取り敢えずでも攻めてみて相手の出方を観るのも有効かも知れないな『巧遅よりも拙速を以て尊ぶ』とも言うし。
けど俺はどうにもソレを決断する事が出来ないでいる、上手く言語化出来ないがそれは何だかヤバいと警鐘が頭の中で鳴り響いている感じがさっきからしているからだ。
何と言うか、飛行型の魔化魍である筈のアミキリがその翅を広げたは良いが未だ飛び上がろうとしない、俺はそれが何だか物凄く気になって仕方が無い。
「……けど、斬鬼さんが言う様に此処は決断するべきか、何時までもアイツを眺めてたって埒は明かないし。」
視線を落とし俺は左右の手にもつ音撃棒を見る、鬼として響鬼の名を戴くと共にこの音撃棒の名『烈火』もまた先代から受け継がせてもらった物だ。
「鍛えてもらって技を教わり、その名と武器を貰った、なら後は心の在り方もまた受け継がなきゃだよな。」
カガヤキさんと仁志さんはよく言ってたよな俺達鬼の役目は人助けだって、俺達鬼が現場で魔化魍を清めることで人の世が人の暮らしが守られるんだって、それはきっと何処かの誰かの笑顔に繋がるんだって、そう信じて俺達は魔化魍を払い続けるんだって。
「斬鬼さん俺も付き合いますよ。」
「うっす!行きましょう響鬼君。」
互いに頷き左右に散開しアミキリへと向かい先ずは同じ位の速度で駆ける、それに反応したのかアミキリがその体躯をブルリと震わせて俺と斬鬼さんとアミキリとで等辺の三角形が成立する向きへとその身を動かした。
「!?」
其れを訝しく思い若干自身のこの選択を正しかったのかと躊躇いアミキリへと進撃する事を疑問としかけた俺だが、共に並走しアミキリへと向かう斬鬼さんに瞬間視線を向けると。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うし取り敢えずこのまま仕掛けましょう響鬼君!」
その俺の躊躇いを汲み取ってくれたのだろう斬鬼さんはそう言って発破をかけてくれる、ああ斬鬼さんマジ好い人だよな。
気さくで歳下の俺にも敬意を持って接してくれるし、結構細マッチョで少し垂れ目気味だけどイケメンで女子にモテるし、猛士関係者の忘年会新年会とかの席で妙齢の女性達に先代ザンキさん共々かなり人気があって矢鱈と話し掛けられていたし、其れを物慣れない感じで受け答えするもんだからお姉さん達にカワイイとか言われてるし………チッ、爆発しやがれイケメンリア充ッ!
おっ、おっとまたしても……ここまで来るともう恒例と化した感のある俺の非モテヤローの妬み魂に火が着いてしまったわ。
コレも斬鬼さんが放つ決意と覚悟を固めた男のイケメン魂が悪い、俺は決して悪く無い……嘘ですゴメンナサイ只の醜い嫉妬心です。
「そうっすよね、もう此処まで来た事っすしねッ…………そりゃッ。」
その発破に応えながら速力を上げて駆ける、それに依りアミキリの変異種との距離は当然ながら縮まるわけで頃合いと見た俺は『タァッ!』と一声挙げると空へと跳び上がる、そして斬鬼さんはそこから速度を上げて駆ける。
弦の鬼は総じて膂力が管や太鼓の鬼と比して勝るけど速力、瞬発力に関してはやや劣る。
三種の鬼の速力を順位付けするならば管、太鼓、弦の順だろう、勿論例外はありはするんだけどな。
まぁ斬鬼さんはと言うと、先のド派手な技『雷撃波』などでも解るだろうけど弦の鬼の特徴である膂力が途轍もなく強い様だ、それは師匠である轟鬼さんにも引けを取らない程の物だろう。
とまあ長々と語ったが、俺達の狙いは散開する事でアミキリに選択を迫る事にある訳で、要するに二人の鬼が上下からほぼ同時に立体的に攻撃を仕掛ける事により何方に対して迎撃をすべきかと戸惑わせる事を目的としてるって事だ。
解りやすく言うと某巨人を相手に壁を守る的な兵士が使う立体機動みたいな物だ、いやちょっと違うんだけどな。
「上手く嵌ってくれれば良いんだけどなッと!」
地上から数十メートルの高空?で俺はそんな事を口にしながら烈火の鬼石に気を込めて再度烈火剣を展開、と同時に鬼面の口部を開口し鬼火の射出準備を整える。
整えチラリと俺は岩場を疾駆する斬鬼さんの位置を確認する、よし若干アミキリとの距離は俺の方が近いが然程開いている訳でも無い様だから攻撃の開始には僅かなタイムラグはあるだろうが、ソレでもほぼ同時と言っても差し支えは無いだろう。
「先ずは牽制に鬼火を……!?」
牽制の鬼火の発射体勢が整っていざ撃たんと意気込んだその時、遂に是迄さしたる動きを見せなかったアミキリが行動を始めた。
それは背部に大きく扇状に展開した八枚の翅、それを二枚一組として計四組を微かに擦り合わせ始めるとそれに依り発せられるのは堪らなく不快で大きく響く雑音、例えるならばまともに弾けていないヴァイオリンのノイズの様な音と他には黒板を引っ掻く様な背中が嫌なゾクゾク感に苛まれる様な音や金属同士を擦り合わせて耳の奥にキンキンと響く様な、そんな幾つも組み合わせた不協和音を数百倍も大きく更に不快にした様な、超音波と言うか強音波と言うべきかそれとも凶音波とでも言うか、兎に角堪らなく不快でいて其の音自体にも圧力があるかよ様でいてしかもその音波が頭の中にまで苦痛を伴い侵食して来る。
「うっ、アァァあぁっッアァァ!?」
その音圧を喰らい俺は空中で前後不覚に陥ってしまい岩場へ墜落してしまい強かに身体を強打してしまった。
「くうッ……うグッ…がぁあっ…」
地に落ちてなおアミキリより発せられる不快な音撃に頭の中をヒッチャカメッチャカに引っ掻き回される、それは俺だけじゃなく斬鬼さんもまた同様に苦しみ悶ている。
「ウッがァァああぅうぁあ!?」
つぅ…俺と斬鬼さんはアミキリを起点として見ればかなりの角度が付いていたはずだ、そう考えるとコイツのこの攻撃はどれ程広範囲に放たれるんだよ、まさか魔化魍がマップ兵器まで使ってくるなんて予想だにしていなかったわ。
ギゴギゴ、ギヂャギヂャって感じの幾つもの不快な音が複雑に絡み合った様な音撃に晒され痛みや目眩吐き気までも催して来る、ヤバいこのゲル結界から何とかして逃れなきゃこのままじゃ変身まで解かれてしまうかも知れない。
もしもこの音撃を変身を解いた状態で浴びせ掛けられたとしたら、鬼になれる程に鍛えた俺達でもそう長くは持たないだろう。
「ぐぅ…はぁはぁっ…ふうッ…」
くっそう…今直ぐにでも両手の烈火を手放して耳を抑えてしまいたいって衝動に駈られる、気の集中が途切れ鬼石の先端に展開していた剣も消失している。
「うぐっ…くっ、クッソぅ…あっ、頭がッ、耳がぁぁっ……」
烈雷改を右手から手放す事なく、斬鬼さんは空いた左手で頭を抑えるがその行為には何らの効果も無いだろ。
どうにかして集中しなければ、アミキリに何かしらの攻撃を加えてこの不協和音を止めなければ、でなければ此処で俺達がコイツをどうにかしなきゃ大勢の人に被害が出る。
俺達の代わりに別の鬼がこのアミキリの対処に当たるにしても、それまでの間に犠牲となる人が出るかも知れない。
『人助けが俺達鬼の役目だからな。』
あの日、ツチグモと童子と姫から俺を救ってくれたヒビキさんは飄々とした普段どおりって感じの態度でごく自然にそれが当たり前って感じでそう言った。
『僕達が魔化魍を清める事でそれが何処かの誰かの笑顔を守る事に繋がっているんだって、そう信じているからね。』
続けてカガヤキさんは言った、ヒビキさんとよく似た飄々としていて優しい笑顔で、そんな二人を俺は一発で尊敬してしまった。
それまで人の悪意や負の面ばかり見て来た俺が、誰かに何かを期待するなんて無意味で虚しい事だって思い掛けていた俺の目の前に、何らの見返りも求めずにさも当たり前って感じでそれを実行する鬼達。
それはまるでテレビに出て来る正義の変身ヒーローそのもので、そんな人達に俺が憧れその道を目指すと決意したのはある意味当然の帰結ってもんだろう。
だけどもしも俺が鬼になる道を選ばなかったなら、もしも俺があの日カガヤキさんと仁志さんに出会わなかったなら、人助けだの誰かの笑顔のためにだのって事を口に出す様な人間を、まぁ馬鹿にしたり蔑んだりって事は無いとは思うが、でもそんな人の事をきっと胡散臭いとか感じて猜疑の目を向けて見る様な、きっと俺はその程度の人間になってしまっていたかも知れない。
「だけど、俺は……っはぁはぁっ、出会ったんだよ……そして……鬼に、なったんだッ!」
痛みに疼く頭の中で俺は鬼として師匠達から受け継いだものを想いをもう一度確認した、そして何とかよろけながらも立ち上がりこの手に持つ二つの音撃棒に気を込める。
しかしこの頭痛攻撃の中では普段の様に集中して気を練る事もままならず、それには時間が掛かってしまったが何とか完成に至った。
「はぁぁーーっ………。」
今出来得る限りのありったけの気を音撃棒烈火、阿と吽の先端の鬼石に込め燃え盛る炎を宿したそれを大上段に構えて両脚を大きく開く、そして。
「ぁぁぁ……たあぁーッ!!」
それを俺は力を込めて大きく振り抜き勢いを付けて烈火弾を魔化魍へと向けて射出した、とは言え普段と違い五体に確りと力を込める事が適わなかった為に何時もよりもその弾速は遅いんじゃないかと俺自身は内心でそう思っているんだが果して……。
豪!
疾!
爆!
幸運な事に俺の放った烈火弾の弾速はそれ程遅いって訳でじゃ無かった様で、それなりに高速でアミキリへと向かい飛び更に幸運は重なり烈火弾はアミキリの頭部に轟音と共に着弾した。
「やっ…やったのか……はぁ〜っ…」
着弾の衝撃により多少なりともダメージを受けたのかアミキリのヤツはのけ反る様にピクピクッと身を震わせ後退、更にあの不快な音波マップ兵器を停止するに至る。
「つぅ…み、みたいっスよ響鬼君、あの嫌な音が止まってますし流石っスねマジ尊敬っス!」
頭の中に残る不快感の残滓を振り払う様にニ、三度頭を振りながら斬鬼さんが俺を讃えてくれる。
しかしあれだけ頭の内側迄も侵食する勢いの合った攻撃の余波はそう簡単には払拭出来ない様だ、俺としても斬鬼さんもだろうがコレに乗じてアミキリに対して速攻を掛けたいところだが次の行動に移れずにいた。
「斬鬼さん身体の回復具合はどうですか、行けそうですか!?」
「そうっスね、まだ若干ふらつくけどかなり良くなって来たみたいっス。」
俺の問いかけに返る斬鬼さんの返答に安堵を覚える、マジで此れならあと数秒もあれば斬鬼さんも行動再開出来るだろうし、俺もそろそろもう一撃烈火弾を放てるだけの気も練れそうだ、だからアミキリさんあともう少しだけ大人しくしていてください。
「しっかし今のアレって、スパ○ボαのV2ガ○ダムの光の翼位の範囲はあったかな、いやそれは大袈裟か精々ZZガン○ムのハイメガキャノン位かな。」
気を取り直す意味も込めて俺は一人でブツブツとそんな事を呟く、それを聞く斬鬼さんの頭の中には?マークが浮かんでいる事だろうけど、まぁ良いよね。
吸って吐く、五回程回復の為の呼吸を行い漸く俺の体調はそれなりに戻った、見ると斬鬼さんもまた復調した様なので俺は次にアミキリへと視線を向ける。
アミキリもまた烈火弾による衝撃から回復し始めた様だ、モゾモゾ身をよじり体勢を立て直して再度俺たちへと向けてあの音波攻撃を仕掛けようとでもしているんだろう、蜻蛉の様な八枚の翅を最展開し始めている。
「くっさせるかってのッ、破ァッ、ヤァッ!」
それを妨害する為に烈火弾を再度放つと二回連続、計四発の蒼い炎が過たず全てアミキリの巨体に着弾する。
最初の二発は頭部右側に着弾しアミキリを軽く仰け反らせ続く二発は右側へと仰反る事により晒したアミキリの鋏の付け根に着弾、残念ながらヤツの鋏を破壊するには至らなかったがこれでもうヤツも悠々と翅を展開して音波を喰らわせようとは思わないだろう、俺ならそう思うだろうけど果して本能で行動する?魔化魍はどうだろうか。
「おおっ!凄いっスよ響鬼君、アミキリの奴バックステップしてっスけど俺達から離れようとしてんじゃないっスかねアレって、よっぽど烈火弾が痛かったんすかね。」
斬鬼さんが言うようにアミキリは烈火弾を受けた事により翅の展開を中途半端な状態で放棄した様で、下方外側に位置する左右二対四枚だけを開いた状態でビクビクとバックリステップしながら俺達から距離を取ろうとしている様だ。
「そうみたいっすね、斬鬼さん彼奴に逃げ切られない此処は一気に攻めましょう!」
斬鬼さんに応えながら俺はアミキリへの再進撃を提案し斬鬼さんもそれを是として奴へと向かう、俺はその前にもう一撃烈火弾を放つとそれを追う形で斬鬼さんに続いて駆け出す。
イケる、俺はこの時そう思った。
決して増長した訳でも自惚れた訳でも無いと思うんだが、しかし俺は一つ見落としていた事があった、て事はやはり何処かしらそう言った部分があったのかもな。
「なっ!?」
それは俺が放った烈火弾が思いも掛けずに消えてしまった事で初めて気が付いた、アミキリへと向かい飛んでいた烈火弾の火球が突然二つに斬り裂かれ、裂かれた後火球は力を失った様に消失してしまった。
「えっ!?響鬼君の火炎が斬り裂かれたのか……何で?」
その事態に俺と斬鬼さんは思わず進撃の歩を止めて戸惑い数瞬の間何事かと思案するが、やがてソレに思い至る。
ソレはギチギチと不快に響く音、ソレはアミキリの口部から発せられる何かを擦り合わせている音。
「はっ!斬鬼さん気を付けてっ、ヤツの真空鎌鼬です!」
以前に閲覧したたちばなのデータベースから知ったアミキリの攻撃の事を思い出した俺は大声で斬鬼さんに注意を促すが、コイツはかなり厄介な攻撃だ。
何故ならそれはほとんど目に見え無い攻撃だからだ、若干空気が揺らめいている様な歪の様な物が見えるのだそうだけど、音速に何なんとするその鎌鼬の速度には俺達鬼の身体能力を持っても早々に対処は難しいだろう。
「っあっ!?」
そんな事を言っている間にもアミキリが放ったその真空鎌鼬は複数放たれ乱れ飛んでいたのだろう、その一つが俺の左腕の肩口付近を小さくだけどすぱっと斬り裂いた。
「つ、うぅッ……。」
俺は予期せぬ裂傷を負ってしまい思わず小さなうめき声を出してしまうが、これ以上喰らわないように一度体勢を低くしてこの攻撃の対処方をどうすべきかと思考を始める。
はぁ、全くなんて厄介なヤツなんだよこの変異種は。