俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか?   作:佐世保の中年ライダー

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気遣う心。

 俺は一色警部に連れられて向かった先にて紹介されたトドロキさんの担当医である椿さん、驚いた事に椿さんに対して一色警部は事もあっさりと俺が鬼である事を告げた。

 

 「ちょっ……一色警部!?」

 

 基本、まぁ割と緩い面もあるけど一応俺達鬼の存在は秘匿している訳であまり大っぴらには公言しないんだが、椿さんにそれをいの一番に伝えてしまった一色警部に俺は不味いのではと苦言を呈そうかとも思ったんだが、考えてみりゃこの病院の上層の人達は警察や猛士と繋がりがある訳で。

 

 「大丈夫だよヒビキ君、椿にはここの院長から鬼や猛士の存在は以前から伝えられていたからね。」

 

 やはりか、ですよねぇそうでなけりゃ一色警部程の人が容易やすやすと機密を暴露する筈も無いとそう思い至り俺は内心ホッと安心のため息を吐く。

 

 「ほう、大したもんだな聞く所によると鬼ってのは想像を絶する程の鍛錬を積まなけりゃ成れないんだろ、その歳で大したものだな。」

 

 若干、ほんの少しだが俺は椿さんの眼に訝しみの様なもが見えた気がするが、鬼の存在を知っていたか知らされたかは知らないが椿さんはそれなりには俺を評価してくれた様だ。

 まぁ成人もしていない高校生が人知を超えた存在だなんで信じられないだろうし、椿さんが訝しいと思うのも仕方が無いだろうな。

 

 「はあ、どうもっす。」

 

 取り敢えず俺は小さく頭を下げてそれを挨拶に代える、俺としても何故一色警部が椿さんに俺を会わせようと企図したのかその真意がまだ解らんからな。

 

 「椿、このヒビキ君は猛士の中でも歴代最年少で鬼となった逸材なんだよ、大したものだろう。」

 

 俺の右肩に軽く手を添えて一色警部が追加補足してくれた、それを聞いた椿さんの表情から訝しむ色が和らぎ興味の色に取って代わられた様に見える。

 

 「ところで一色警部、何で俺をここへ連れて来たんすか。」

 

 めっちゃ基本的で当然な事を俺は一色警部に問う、この椿さんがトドロキさんの担当医で一色警部の友人だって事は教えてもらったが、その椿さんの元に何故俺を連れて来たのかって事の説明を俺はまだ受けていない。

 まさか、トドロキさんの状態があまりよろしく無くそれを俺だけに伝えようとしているとか、何てことは無いと思うんだがそうすると『はてな』ってなるんだよな。

 

 「君がトドロキの病室へ来る前に椿が回診で廻って来てくれたんだがね、其処でトドロキの病状に付いての説明があったんだがそれを君にも説明しておくべきだと考えてね、それで此処へ君を連れてきたって訳なんだよ。」

 

 一色警部が俺の質問に答え理由を話してくれたは良いんだが、正直俺は医者を目指しているって訳では無い故にもし椿さん、いや椿先生にその説明を受けたとしてもな。

 通り一辺倒的に「はあ」とか「そうなんすね」とか位の空返事みたいな事しか言えないんじゃねと思うんだが、じゃあ一色警部は何を狙って俺を此処へ連れてきたのか、唯単純に一色警部は狙いとか無しに純粋な気持ちで俺にトドロキさんの現状を伝えようとしているだけのか。

 

 「椿、さっきお前が評価していた現場でトドロキの応急処置だが、それはこのヒビキ君が行ったものなんだ。」

 

 一色警部は椿先生へ優しさを感じさせるが若干苦笑が混じっている様なそんな微妙さを感じさせる様な調子で説明をするが、俺には何故一色警部がそんな微妙な感じになっているのか、その理由が何処から出ている物なのかサッパリ見当が付かないんだが、何なのこれ……。

 俺の預かり知らない、俺がトドロキさんの病室を訪れる前に何かしらのやり取りが為されていたとか、そんな感じか。

 

 「おお、そうだったのか!!」

 

 椿先生は一色警部の説明を聞くと大きな声と満面の笑みを持ってそう言うと、俺の左肩に手を置きグッと力を込め、そして続ける。

 

「いやあの応急処置は実に見事なものだったぞ、それをまだ高校生の君がやったと云うのか、いやあ猛士という組織はそういった事もきちんと後進に対して教育しているんだな。

 ヒビキ君、一人の医者として言わせてもらうが、良くやってくれたな見事だったぞッ。」

 

 俺の肩に置いた手をポンポンと軽く叩きながら椿先生は評してくれた、そう評価してもらえたのは俺としても嬉しい事ではあるんだが、何だか戸惑う思いも同じ位に抱いている。

 

 「はぁ、何てか恐縮っす。」

 

 いやまぁ修行期間中に現場に出た際の応急処置の研修とか受けてたし、それ位は現場に出ている者なら大抵はこなせるんだけどな、評価して頂いたのはありがたいけど椿先生に対して俺はその一言を口にするだけで一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 俺と一色警部は椿先生に促され、椿先生が使用しているであろう執務室に備え付けられている物だと思われるデスクトップパソコンとモニターが設置されている机の前に陣取る。

 この椿先生の執務室はかなりシンプルで、事務用の机と椅子がワンセットに高さ180cm程のロッカーと来客用の折りたたみスチール椅子が三脚と会議室に置かれている様な長テーブルが一つ置かれている。

 

 「これを見てくれ。」

 

 椿先生がそう言って俺達に示したのは電源の入ったPCとモニター、そのモニターに映った映像は誰もが幾度から病院で目にした事があるだろうレントゲン写真だ。

 そのモニターにうつしだされた二枚のレントゲン写真、それは同じ部位を写したものである事は俺の素人目でも理解できる。

 

 「これはどちらもトドロキの左大腿部のレントゲン写真なんだが、左側が昨日撮った写真で右側が今日の午前中に撮った写真だ。」

 

 やはりそうだった、レントゲンに写し出されたトドロキさんの患部は左右何方も痛々しくバックリと割れ折れた様子がありありと解る。

 そしてそれ以外にも微かな罅が幾本も走っている、これは折れるまでには至っていない所謂罅が入っているって状態なんだろう、多分。

 おそらくこれではリバビリ含めて社会復帰まで三ヶ月以上は掛かるんじゃなかろうか、何て事をつらつらと考えていたら椿先生がトドロキさんの現状を詳しく説明してくれた、案の定って言い方もアレだけど俺の考えていたら事はどうやら的を射てた様で。

 

 「と言う事で俺は昨日の時点でリハビリ含めて全治四ヶ月を見込んでいたんだがな……。」

 

 椿先生はレントゲン写真を指してそう言ったんだが、何だろうかちょっと含みがあるってか間違いがあったみたいな言い方だよな。

 

 「次はこっちを見てくれ。」

 

 次に椿先生は右側の写真を指し俺は言われるままにその写真に目を移す、それは左側のレントゲン写真とほとんど変わりないアングルから撮られた患部の写真で、素人目にはその二枚にどんな違いがあるのか一見では解りかねるんだが。

 

 「えっと、この二枚の写真は何方も同じトドロキさんの左脚大腿部の映像ですよね、俺にはこの二枚の違いが解らないんですけど。」

 

 「ああ、そうなのかよく見比べれば解ると思うんだがなぁ、それじゃあ詳しく説明するか。」

 

 椿先生による説明は簡単に言ってしまうと要するに、トドロキさんの怪我の回復具合がわずか一日しか経っていないにも係わらず異常な速度で治癒しているとの事だ。

 

 「先ずはこの部分の罅の線だが昨日のレントゲン写真と比較すると、今日撮った写真ではそれが少しだが薄くなっているんだよ、解るか。」

 

 椿先生は人差し指で二枚の写真の罅の部位をなぞりながら説明してくれる、言われてみれば何となくだが少しだけ薄くなっている様に見えなくも無いが、写真の写り方ってか撮影状況の違いとかじゃ無いんだろうな、いやおそらくはベテランだと思われる椿先生が言うんだから間違いないんだろう。

 そして俺には何故そうなってるのかに付いての心当たりもある、鬼の存在を知っていてトドロキさんの主治医でもある椿先生にも知っていてもらった方が、今後の治療の方針を定めるにも必要かも知れんし先生にも話しておこう。

 

 「まぁ、そうなんすかね、俺達鬼は体内に気を巡らせる事である程度の怪我とか瞬時に治せますし、多分トドロキさんも現状でできる範囲で気を練っているでしょうから、もしかしたらその効果が現れてんのかもですね。」

 

 椿先生は俺の話を聞くと何だか呆気にとられたかの様なポカンとした表情になってしまった、まぁアレだ解ります椿先生のそのの気持ちは、気を巡らせるとか練るとか言われて『ハイそうですかマジすげえ』何てあっさり納得とは行きませんわなそりゃ、特に医療に関わっている人なら尚更。

 だからだろうか、椿先生は一色警部の方に目を向けて無言で俺が言っていることは本当なのかと問い掛けている。

 

 「ヒビキ君の言っている事は本当の事なんだよ椿。」

 

 一色警部の言葉に椿先生は「本当なのか……」とポツリと一言、椿先生としても長年の付き合いのある一色警部が自分に対して嘘をつく何て思わないだろうしおそらく信じてくれるだろう、くれるといいな。

 

 「はあーっ、まさかアイツ以外にもそんな肉体を持った人間が居るとはな、しかもそれが複数人もか。」

 

 椿先生は何だか感慨深そうに口に出したセリフだが一体どう言う事だろうか、アイツ以外にもと複数人ってキーワードが出て来たが、この場合の複数人ってのは俺達鬼の事を指している訳だよな当然ながら、そこに加えてのアイツ以外にってのはどう言うことだろうか、俺達鬼以外に何かしらの肉体的損傷を治癒する事が出来る技だとか能力を持った人が居るって事なのか。

 う〜ん、何か少し否かなり興味が湧いてきたんどけど………いやしかしこれは聞ける雰囲気では無い様だな。

 椿先生も一色警部も何となくだけど寂しそうなっ、て表現で良いかは分からんけどその表情を見てるとあまり部外者には話せない、いや話したく無い事なんじゃないかと思わせられるオーラが出てる気がする。

 ならばそれは聞かない方がいい事だろうから、俺からは聞かないでおこう。

 由比ヶ浜、雪ノ下、おめーらが評する自分勝手なこの八幡が…今 相手の気持を読んでこともあろーか思いやったぜ。

 イヤ違げーしっ、俺二人にそんな評価されてないんだからねっ☆

 と、遊びは終わりだ、椿先生の話を聞かなきゃだ。

 

 「そしてこのメインと言う言い方はちょっと変だが、骨折した部位だ。

 昨日の段階では俺はこの患部を二、三日中にはボルトとプレートによる固定をしなければならないだろうと診断したんだが、やはりこの骨折した部位も罅と同様回復が始まっているのが見て取れるんだ、これにより俺はその施術は必要無しと判断を改めざるをえなかったという訳だ。

 しかし全くこれには本当に驚かされたよ、厳しい修行の末に鬼となるとは聞いたが一体何をどう鍛錬すれば人体がこんな特殊な能力を身に着けることが出来るんだ。」

 

 一体何をどう鍛錬すればか、椿先生の疑問は御尤もと言うべきだろうな。

 修行を積んだからと言って誰しもが鬼へと到れる訳でもない、中には自ら途中で諦める人も居るし或いはどんなに努力しても成れない人も居る。

 警察から出向して修行を行った警察官の人でさえ鬼へと至れた人は三割に満たないんだよな、う〜んどう言えば良いんだろうか俺の場合は元がインドア派でスポーツの経験も無かったし、修行開始から一年位は手応え的なものも掴めなかったんだよな、それが次第に肉体ができ上がり体力が向上しているって手応えと気が身体に充ちているって感覚が、何となくだけど解りはじめたって感じだったかな。

 その辺りの事を俺は掻い摘んで椿先生へ説明したんだがしたんだが、それを聞いた椿先生の表情が次第次第に変化していった。

 

 「いやぁ、本当なのかそれはっ!……ふむ、厳しい修練の末に開眼する生命の根源に根付くエネルギーとでも形容すれば良いのか、その結果己の身を異形へと変えて魔を清めるか。

 ならこの驚異的な回復力は言わばその余技の様な物なのかもしれないな、いやぁこれはそそるなぁ。」

 

 その表情と口調から感じられるのは、良い言い方をするなら知的好奇心の表れと言えるだろうか、俺の見たままの印象で言うならばちょっとアレなマッドなドクって感じか。

 

 「そっ、そそるんすか……。」

 

 内心に冷や汗が伝う様な感触を感じながら、ちょっと引き気味に一言。

 いやね、椿先生って何か言い出しそうな気がするんだよマッドな台詞をな、そう例えば。

 

 「いやぁコイツは是非解剖して見たいものだな。」

 

 とかさ………って、マジで言っちゃったよこの人!!

 

 

 

 

 

 

 「まぁ冗談はさておきだな、このトドロキの回復具合から行くと一月もあれば骨折の方は治りそうだ、後は回復具合を見ながらのリハビリを二週間後位から始めて、全治四十日と云ったところだろうな。」

 

 改めて椿先生から告げられたトドロキさんの状況に俺は安堵する、これなら約束のラーメンも案外早くに行けそうだ、なら俺としちゃあ早いうちに行き先の選定をしとかなきゃならんだろう。

 

 「しかしな、喜んでばかりもいられない気がするんだよ、確かにお前達鬼は努力の結果強い力を身に着けたんだろうがな、俺は少しばかりそれに不安を感じるんだよ。」

 

 俺の安堵感が表情に現れていたんだろうか、昔の俺は周りに目が濁ってるだの腐ってるだの表情が固くてキモいだのと言われていたもんだったんだがな、そう考えると隔世の感ありって程のもんじゃ無いですね。

 

 「……椿、お前もしかしてあいつの事を。」

 

 椿先生の言葉から始まり心の中で俺が自虐ネタに走っていると、一色警部はそんな椿先生を思いやる様な口調で語り掛ける、それは一色警部と椿先生との間に共通する誰かの事を指して言ってるんだろう。

 

 「嘗て一色と俺の知り合いに凄い奴が居たんだ、そいつは青空と冒険と笑顔が似合う奴で争い事が嫌いな奴だった、だがある事件が切っ掛けで皆の笑顔が失われそうになり、その笑顔を守る為にと自分の心を押し殺して望まぬ戦いに身を投じたんだ。

 そして、そいつの身体は戦いに特化したモノへと変えられて行った、それでもヤツは最後まで皆の笑顔を守る為に戦いぬいたんだ、だがその為にあいつ自身の笑顔は……。」

 

 最後はなんだか言葉に詰まった様な感じで椿先生は語るのを止めた、一色警部も椿先生もその顔に浮かぶ表情に俺は言い知れない寂寥感の様な物を感じる。

 椿先生が語る『あいつ』という人はきっと二人にとってかけがえの無い友人なんだろう、その人がどんな戦いに身を投じたのかは俺には解らない。

 だがその思いの様なものの一端は何となくだが感じ取れる、昨日のアミキリと対した時俺は雪ノ下や由比ヶ浜、小町や一色の笑顔が曇ってしまわない様にと奮起出来た、そのおかげで俺は一皮剥けて新たな力を得た。

 

 「過ぎたるは及ばざるが如し、或いは過ぎた力は我が身を滅ぼすとでも言うのかな、あまりに大きくなり過ぎた力が大元が人間である君達にどんな影響を与えるか俺には解らない。

 だが、鬼も猛士も何百年も前から活動していたんだよな、だとしたらその辺りの戒めの様な物もマニュアル化されているのかもな。

 まぁそんな事が君達鬼の身に起こらない様にと年長者から年少者へのちょっとした老婆心による警鐘とでも受け取ってくれ。」

 

 「ああ……だが椿、ヒビキ君は強い自制心を持っているからなそれ程心配しなくても良いと思うぞ。

 鬼としての務めも大切な物だろうがね俺としてはやはり一高校生として、君には出来うる限り学校を含めて青春時代と言う物をを謳歌して欲しいと思っているよ。」

 

 二人の年長者による俺を思っての暖かい言葉と強い力を持つ者に対する警鐘、それを心に留め置こうと俺は不思議とそして素直に思えた。

 猛士に属してからこの方、俺は沢山の理解者や尊敬出来る人達と出会う事が出来た、そして今日新たに出会った椿先生もまたそんな人達の一人として心に刻まれた思いだ。

 

 「うっす、ご忠告ありがとうございます。」

 

 一色警部と椿先生に俺は礼の言葉を述べた、一言だけのシンプルな飾りの無い言葉を。

 一色警部と椅子から立ち上がった椿先生がそれぞれに俺の肩に手を添え軽くポンと叩き優しく微笑み頷きそしてサムズアップ。

 それは何だか俺を称えてくれているかの様で、何かこう言うのって妙に照れてしまうよな慣れてないってのがあるんだろうけど、そんなだから俺は誤魔化すように右手で頭をポリポリと掻き、いつもの如く『シュッ!』と若干照れなから敬礼。

 そうこうしていると俺のスマートフォンから着信音が流れだす。

 

 『♪〜♬乾いた街の 片隅で〜おまえは何を 探すのか傷つき紅い 痛みに耐えて

炎のように 燃える眼は男の怒りか 男の怒りか江戸の黒豹〜♪』

 

 一色警部と椿さんに断り懐からスマートフォンを取り出すとモニターには由比ヶ浜の名と携帯番号が表示されていた。

 

 「随分と渋い着メロだなオイ……。」

 

 椿先生がそんな微妙な顔で俺の着信メロディを評する、イヤ渋くてカッコいいじゃないですかとは思っていても敢えて言わない。

 八幡は空気が読める子、違うな違うかな多分違うね。

 由比ヶ浜からの着信を受けて出てみれば、俺は女性陣からのお怒りモードのお説教を喰らい、早急にトドロキさんの病室へと戻る様に命令を受けてしまった。

 

 

 




歌詞引用  杉良太郎  江戸の黒豹



クウガ、雄介について少し触れてみました。
もしかするとこの世界にも過去に未確認生命体が存在していたのかも……!?



現在JASRACのサーバーがメンテナンス中の為楽曲コードはメンテ終了後に改めて記載します。

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