俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか?   作:佐世保の中年ライダー

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語られるあの日  巻の肆

 

 〜雪ノ下陽乃〜

 

 初めての現場体験も恙無く終え、その事後処理と報告も済ませて帰宅の途に着いた私だけど、みどりさんにヒビキ君のディスクアニマルを届ける依頼を受け、ヒビキ君や雪乃ちゃんが居る懐かしの我が母校へと足を運んだんだけどさ………。

 

 私の可愛い雪乃ちゃんが想いを寄せるヒビキ君を、ちょっとイジリ倒そうかと思ってちょっかいを掛けたんだけど、不覚にも強かな逆劇を受けちゃったんだよね。

 本当にムカつくったりゃありゃしないわ……おにょれぇ、覚えていろよヒビキ君、と言いたいところだけど今日のところは不問としてあげるとしようかな、何せ現場初体験の上に徹夜明けでちょっと眠いしね。

 

 「あの日、雪乃ちゃんとガハマちゃんと小町ちゃんを連れて朝からお昼前まで利○川でひと遊びしてから私はその日の本当の目的を果たすために動いたんだ………」

 

 その年の春、雪乃ちゃんの高校の入学式の日のトラブルを切っ掛けとして、ウチの両親はヒビキ君の存在から猛士という組織の存在を知り接触を図り私と雪乃ちゃんにはそれを知らせる事無くその組織に加入したんだけど、その事を私が知らされたのはあの日の十日程前の事。

 まあ、両親からは鬼や魔化魍の存在とか猛士の本来の活動なんかについては教えて貰えなくて、だから何故両親が猛士に加入したのかとかその目的を知りたくて私は独自に調べてはみたんだけど、知り得る事が出来たのは猛士の表の顔である、スポーツウェアやアウトドアグッズを取り扱う営利団体としての姿のみだったんだよね。

 そしていくら調べてみてもそれ以上の事は分からなかったから私はアプローチを変えて見ることにしてみたんだよ、それは猛士では無く我が家の、雪ノ下家の家業の過去を遡って調べてみるって事。

 

 それで判った事はウチの先代である祖父の代から家業の雪ノ下建設は大きく躍進した。

 其れまではほとんど県内での仕事がメインだったんだけど、遣手の祖父は独自に人脈やネットワークを築き、関東圏の仕事を請けられる程に急成長し、他県に於ける山間部の開発事業等に参画する機会も増えた。

 そして時に社員や下請け業者の人を現地に派遣し測量をはじめとした調査を行う段階で行方不明者が出始めた、警察に依る捜査が行われるも結果としてその人達の行方は杳として知れず。

 残された親族の方達への補償も保険が有るとは云えどもそれなりの額を支払う必要もあったし。

 中には祖父や父母に恨み言をぶつける方も居たそうだ、まあ鋼のメンタルを持つ母さんにはそんな恨み節も何処吹く風って程度のものでしか無いんだろうけど。

 けれども、県議とは云え公職の肩書を持つ父さんにとっては、この様な事だしスキャンダルの種に充分になり得るから、その辺りは慎重に対処を行う必要が有るからね。

 そう言った事を勘案してみれば、雪ノ下家が猛士の様な組織と繋がりを持とうと思うのは、最もな選択だって言えるよね。

 

 「まあ不確かな情報だったんだけど魔化魍や鬼の存在について僅かにだけど知り得た私は、人を雇ってたちばなを調査させたりした結果どうやら魔化魍や鬼が実在しているらしいって確信したんだよね。」

 

 比企谷君(ヒビキ君)がたちばなに出入りしているのも確認済みだったしね、コレはもう決定的だとね。

 そしてあの日のヒビキ君達が利○川へと向かうって情報も知り得た、まあ猛士に所属している私が言うのも何だけど、案外機密情報の扱いにザルなところがあるんだよねたちばなのみんなって。

 

 「それで陽さん先輩はそれを確認する為に先輩達が魔化魍を退治する場面を見に行ったんですか、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩とお米ちゃんを連れて。」

 

 うっ、何かすっごくジッとりとした呆れた色を浮かべた眼で一色ちゃんが私を見てるんだけど、まあ雪乃ちゃん達を危険に晒す原因を作ったのが私の思いつきに拠る行動だったからね、それに一色ちゃん自身も身を以て魔化魍の脅威を経験してるんだし、致し方なしだよね。

 

 「………うん、まあそうかな、たははははっ……。」

 

 四歳も年下の娘からの痛い視線に何だか居た堪れなくなった私は、乾いた声で誤魔化し笑いでその場を乗り切ろうとしたんだけど、私の可愛い雪乃ちゃんまでもがそんな眼で私を見ているのを視野に止めてしまって、私のハートは粉微塵にブレイクしちゃったよ。

 

 

 

 

 さてあの日朝早く、雪乃ちゃん達を連れ出して利根○へと訪れキャッキャウフフと水遊びを満喫していた私達だったけど、時間的にそろそろいい頃合いかと思い私はみんなに声を掛けた。

 

 「ねえみんな、もうすぐお昼だし水遊びは一度切り上げてお昼でも食べに行こうよ。」

 

 本来の目的を果たす為に私は雪乃ちゃん達へそう提案する、まあ女子四人でこんな所で遊んでいるせいだろうか、欲望にまみれた有象無象の男達がさっきから私達に声を掛けようとしている様が見て取れるしね。

 

 「ええその方が良いかも知れないわね、あまり此処に長居するのも何だか心身両面によろしく無い気がするものね。」

 

 水着の上から薄手のパーカーを羽織った姿の雪乃ちゃんが、胸元と腹部を抱く様にその身を隠しながら私の言に賛成してくれた、肉体的なフォルムはあまり私と似てはいないけど、うん贔屓目なしに可愛い。

 

 「はい、私もゆきのんに賛成かなぁ、アハハ……。」

 

 「ですね、小町も賛成です、お腹もいい具合に空いてますし。」

 

 ガハマちゃんもやっぱり男達の視線が気になっていたんだろうな、苦笑しながら同意してくれた。

 まあガハマちゃんの場合はしょうが無いよね、なんてったってあのデカメロンがどうしても人目を惹いてしまうのはもう。そんな目立つものを持って生まれた己の生まれの不幸を呪うと良いよ、うん。

 おっといけない、私とあろう者が思わず少しだけ醜い嫉妬心を抱いちゃったよ、少しだけね。

 私だってさ、ガハマちゃんには及ばないかもだけどそれなりの物は持ってるって自負してるしぃ。

 

 そして小町ちゃん、この娘はまあヒビキ君が溺愛してるのも解らないでもないかなって位に可愛いな。

 ヒビキ君と違って愛想も良いいうえに年上に甘えるのが上手だし、周囲の状況とか割りと確りと観ていてそれを元に自分の立ち位置とか行動に活かしているっぽいんだよ、うん何だか私と近しいものがある様な気がするなこの娘、案外侮れないぞ。

 

 「よし、それじゃあ満場一致って事で車に戻ろうか。」

 

 軟派な男達が私達に近寄る前に私はみんなを促して車へと戻る、私一人ならこんな軟派な連中なんてどうとでもあしらえるんだけど雪乃ちゃん達はね、そうも行かないだろうからなぁ。

 

 

 

 「よぉし、それじゃみんな行っくよぉ!」

 

 全員が車へと乗り込み社内で着替えを済ませた後、私はみんなへ声を掛けると車を発車させた。

 私の本当の目的を果たす為に、真のメインイベントを見る為にね。

 車を出して数分、雰囲気の良さげな食堂を見つけ昼食を摂ると再度車へと乗り山頂方向へ数分程進むと、私の予想通り警察による道路封鎖が行われていた。

 

 「失礼申し訳ありませんが、現在山頂付近で大きな事故が起こっておりましてこれより先は封鎖しておりますのでお引き返し願います。」

 

 年の頃は二十代後半位だろうか、見た目は少し厳つい感じがする若い警察官が丁寧な対応でそう伝え、引き返す様に促す。

 雪乃ちゃんと小町ちゃんは何だか訝しげに、ガハマちゃんは少し不安気な表情を私に向けている、何か話が違うよとでも思っているのかな。

 

 「ええ、そうなんですね、ちょっと失礼。」

 

 シートベルトを外してドアを開けると私は車外へ出て、周りに居る警察官に対し自分の免許証を提示し。

 

 「千葉の雪ノ下家の長女の陽乃です、私どもは猛士の関係者でして本日は新しく入門した彼女達に現場での仕事を学ばさせる為の研修がてら此方へと足を運んだ次第です。」

 

 家業の関係で両親に着いて、ここ数年で学び身に付けた仮面を貼り付けた社交性バッチリの爽やか笑顔を駆使し、予め用意していたセリフを連連と並べると対応に当たってくれた警察官は「何だそうでしたか」と疑う事無く納得し通過を許可してくれた、まあこの時は内心に『流石は私パーフェクトな対応だったね』何てな事を思いつつ。

 

 「ありがとうございます、お仕事ご苦労さまです。」

 

 警察官の皆さんの労をねぎらう言葉を掛けるつつまんまと検問を抜けて先へと進んで行った、本当にごめんなさいあの時の警察の皆さん。

 

 「さてみんなもう少しで目的地に着くから楽しみにね。」

 

 私は微妙な空気が漂う車内のみんなを少しでも変えようと、お馴染みの(当社比1.25倍)陽乃ちゃんスマイル目一杯にして呼び掛けたんだけど。

 

 「はぁ……一体どう言う事なのかしら姉さん、さっきの警察の方は事故の為に道路を封鎖していると言っていたわよね。」

 

 私の左隣り車の助手席から、体感温度を一挙にマイナスに持っていきそうな、恐ろしい位に底冷えがする程の冷気を漂わせているかの様な、冷たい声音とキリッとした剃刀のような切れ味を感じさせる眼光とを私には向けながら雪乃ちゃんが言うと、ガハマちゃんと小町ちゃんもうんうんと頷く。

 

 「あはははっ、まあそこは蛇の道ってね。」

 

 それに対し私は適当な事を並べ立ててみんなを煙に巻く、まあ流石に私もそれでみんなを完全に納得させられたなんて思わないけどね。

 雪乃ちゃんなんて警戒心をフルに働かせている人に慣れていない猫みたいな眼を、向けっぱなしだし。

 でも可愛いんだよね、これがまたさあ。

 

 「それなこれからきっと面白いものが見られるだろうからさ楽しみにしときなって。ねえ小町ちゃん!」

 

 「ほへっ!?」

 

 『えっなんの事』と言いたげな気の抜けた表情をしている後部座席左側に座る小町ちゃんがミラー越しに見えるんだけど、何だろすっとぼけているのかな。

 いや、この表情はどうやら素で知らなさそうみたいだね、もしかすると比企谷君は家族の方には猛士に処属している事を告げていないのか、或いは単純に告げてはいるけど今日の事は教えていなかっただけなんだろうか。

 うん、おそらく後者だな。比企谷君って私と同じ様だ匂いがするんだよね、絶対に妹ちゃん大好き人間で間違いなしだよね。

 だから余程の事が無い限りはそんな可愛い妹ちゃんに隠し事とかしないと思うんだ。

 

 「なぁ〜んだ小町ちゃんは知らなかったのか、じゃあしょうが無いっかなっとぉ、もうそろそろ着きそうだね。」

 

 車を暫く走らせると十数台程停められそうな駐車場があり、其処に乗用車が一台と二台のアメリカンタイプの大型オートバイが駐車してあった、うんやっぱり情報に間違いは無かったみたいだね。

 全く、あの雇った情報屋が遣手だったのか、それともたちばなの人達が情報漏らし過ぎかのかどっちかしらね。

 

 「到着っと、じゃあみんな此処で降りるよ。」

 

 駐車場の既に停めてあった猛士所有の車輛と思われるそれの付近に私は車を停めて雪乃ちゃん達にそう促して車外に出ると続いて三人もドアを開けて車外へ、夏真っ盛りの外界だけど流石に標高も少し高いお陰かな少し外気が涼しく感じる。

 でもやっぱり三人の表情には訝し気な気持ちがアリアリと浮かんでいるしその空気や清涼感を楽しんで無さそうなのは、まあ仕方無いっか。

 

 「もう三人共そんな顔しないで山の空気を満喫しなよ。」

 

 私は無駄を承知でそう声を掛けるけど、その言葉に雪乃ちゃんは変わらずの猜疑心満載でガハマちゃんと小町ちゃんは困った様な微苦笑と猜疑心の綯い交ぜと言った感じの表情を浮かべている、もう一度言うけどまあ仕方無いっか。

 

 「もう三人ともそんな顔しちゃって、折角の可愛さが台無しだぞ。」

 

 チッチッチッ!と人差し指をフリフリしながら私が戯けてみせると、雪乃ちゃんは額に手を宛てて此れ見よがしに深々と呆れたわと言わんばかりに溜め息を吐いた。内心お姉ちゃんはショックだよ雪乃ちゃん。

 

 「まあまあ此処でこうしているのも何だしね、それじゃあ目的地へ向かって出発(しゅっぱ〜つ)!」

 

 右手を大きく突き上げて私は三人にそう宣言して、其処から山へと向ってゆく。

 此処から先ぶっちゃけると猛士の人達がどの辺りに居るのか判らないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 探索から戻って来たディスクアニマル第二陣の確認ももう間もなく後数枚で終わりに差し掛かった頃。

 

 「当たり出ましたよ、どうやらイッタンモメンの幼体ですね、童子と姫の姿は確認出来ませんから離れたところにいるのかな。」

 

 ディスクアニマル、アカネタカを確認していたイブキさんがそう告げると出陣の準備を始める。

 

 「どうしましょうか、順調に行ってりゃもうそろそろトドロキさん達も鎮圧完了して戻って来るでしょうけど、俺も同行しましょうか。」

 

 イッタンモメンの幼体は水中に棲息している関係から、近接戦闘に主眼を置く俺ではあまり役立たないかもだが、そう提案したんだが。

 

 「いや、ディスクの第三陣もそろそろ戻って来るだろうしね、ヒビキはそちらの確認と当たりが出た場合は出なきゃだしね、そっちを優先してくれるかな。」

 

 手早くささっと出立の準備を進めながらも、イブキさんが俺に待機を促す。

 

 「……うす、分かりました。」

 

 確かに調査に出したディスクの第三陣がまだ帰還していないし、そちらの確認と事あった場合はそちらに向かう者が居なけりゃいけないし。

 その場合そちらは俺が行かなきゃならないからな、イブキさんの言う事は最もだ。

 

 「よし準備完了、それじゃあ行って来ます。」

 

 イブキさんが仁志さんとは少し違う敬礼し、出発を告げると仁志さんとザンキさんが返礼。

 

 「ああ、気を付けてなシュッ!」

 

 「ベテランのお前に今更アレコレと言う事は無いだろうが、油断は厳禁だぞ。」

 

 それに頷きイブキさんは俺へと向き直り「後は頼んだよヒビキ」と俺の肩へ手を掛けて、爽やかな笑顔でそう言って託してくれた。

 

 「うす、イブキさんもお気を付けて。」

 

 俺がイブキさんに言うが否やの、そのタイミングにほぼ時を同じくして二つの機械合成された鳴き声を響かせて、飛行型の二体のディスクが其々別方向から飛来して来た。

 一つはトドロキさん達が向かった第一陣のバケガニが居る方角から、そしてもう一つは第三陣を向かわせた方向から。

 

 そのうちの一つトドロキさん達が向かった方角から飛来したアカネタカを仁志さんがキャッチしディスクを再生を開始、もう一つのアサギワシが俺へと向かって戻って来ると一瞬の間にディスク形態へと戻ったので俺も音叉へとセットしてそれを再生する。

 

 「カガヤキからのメッセージだったよ、バケガニの討伐完了これから帰還するってな。」

 

 ディスクを確認した仁志さんがその内容を説明、出陣から三十分程での鎮圧したのか。

 現場への移動時間と索敵時間を差し引きてもおそらく十分と掛からずに全てを片付けたのか、流石はトドロキさんとカガヤキさんだな。

 俺はそれに頷くと自身が持つアサギワシの再生を続ける、脳内に流れ込んで来るアサギワシ視点の空中から見下ろす映像。

 

 「プール、いや農業用の溜め池っすかね多分………」

 

 俺が見た再生映像をみんなに説明する、現状その映像には魔化魍は確認されていないが果たしてどうなんだろうかな。

 

 「ああそう言えば駐車場から此処へ登ってくる道中遠目にだが溜め池があるのが見えたな、その映像に記録されているのはおそらくその場所だろう。」

 

 ザンキさんが重々しく呟くと下顎に手を宛て黙考し始めた。

 

 「…………」

 

 それを尻目に俺は再生映像の確認を続けると、次第にアサギワシはその溜め池へと近付いたのか映像が大映しとなり、複数の何かが水中を蠢き泳いでいるのか水面に波紋が不規則に広がり、また水面が撥ねている事が判る。

 

 「何か居ますね、これって!」

 

 映像は溜め池に更に近付き朧気ながらその水面下に蠢くものの姿が見えてくる、とは言えその溜め池の水があまり透明度が高くはないからハッキリとはしないが、その存在の色合いが確認出来た。

 その色から察するに奴で間違いは無いと思われる、俺は仁志さんとザンキさんへ向き直りそれを伝える。

 

 「複数の緑色の体色が確認出来ました、おそらくカッパですね。」

 

 カッパならばその対処は太鼓を以て当たらなきゃならないから、当然俺が現場へ向かわなけりゃならない訳だが。

 

 「よしヒビキ、だったら俺も一緒に向かうことにするよ。」

 

 昨年夏、現役を引退した仁志さんが同行を申し出た、それは俺的には精神的にすごくありがたい申し出なんだが。

 

 「まあ流石にもう、紅を維持出来ないが通常態ならまだ行けるし、お前のサポートなら十分だろう。」

 

 どうやら俺の逡巡が顔に出ていたのか仁志さんはサムズアップで以てそう応えてくれた、全くウチの先達は本当に頼りになる人達ばかりだ。

 全盛期は今のカガヤキさん同様に一時間以上の間『紅』の変身維持が出来ていただけの事はあるな、俺なんて精々二十分程度が限界なのに。

 

 「ああそうだな、それが良いだろうすまないが日高頼めるか。」

 

 「勿論ですよザンキさん。」

 

 ザンキさんからの要請を仁志さんは快く快諾し出立の準備に取り掛かり、予備の音撃棒を用意する。

 それを確認しつつザンキさんは俺へと向き決定事項を伝えようと口を開いたその時、ザンキさんは己の上着の胸ポケットをまさぐる。

 

 「すまん着信だ、何だおやっさんからだな、はいザンキです。」

 

 電話の相手はたちばなのおやっさんだったらしく、ザンキさんはこのタイミングでの連絡に何かを感じた様だ、真剣に聴き入っている。

 

 「何ですって、はい解りましたヒビキにも伝えます、では。」

 

 通話を切りザンキさんは俺へと目を合わせ、努めて冷静さを保つように一呼吸置き確認と連絡事項とを伝えてくれた、それは。

 

 「ヒビキ、千葉の雪ノ下を名乗る若い女性が検問の警察官に猛士の研修だと言って、此方に向かっているそうなんだが心当たりはあるか。」

 

 それはあまりにも意外過ぎる問い掛と通達だった、今日は雪ノ下の姉の陽乃さんが雪ノ下と由比ヶ浜と小町を川への水遊びへと連れて行ってくれていた筈だ、それが……。

 

 「はい、俺の妹と同級生と一緒に雪ノ下家の長女が行動を共にしている筈ですが、まさか!?」

 

 そうザンキさんへ答えつつも、俺は己の背中をあまりにも冷た過ぎる汗が伝うのを嫌ってほどに感じていた。

 

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