俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
「まぁ、そんな感じで俺達はイッタンモメン強化型を地面に叩き落とす事が出来て、一気に止めの音撃を食らわせて清める事に成功したって訳だな。そうだな敢えて春日部の五歳児風に言えば、デメタシデメタシってところだな。」
雪ノ下と由比ヶ浜に俺が鬼だと知られた日の、その一連の流れを一色に話し終えた俺は、そう言ってこの話を締めるのだった。の筈だったのだが、はて。
「……………………」
プクッと頬をまるで小さなハムスターの様に膨らませ、如何にも”怒ってますよ“感も露に無言で俺を睨むあざとい仕草が似合う女子は誰?
そう、私ではありません。まぁそりゃ当然ですな、端っから女子って言ってるしね俺。
しかし一色のそんな眼差しと表情に何とも居心地の悪さを感じてしまい、俺も一色を真似てジッと視線を合わせてみたら、あら不思議。一色さんってばビクッとその身を小さくブルッと震わせやがりました。
目を合わせるだけでそこまでの反応を示されるとか、そんなに怖いのかよと此処に地味に傷つく俺ガイルんだが、その辺考慮を願いたいんですが言っても無駄無駄なんだよな。無駄無駄、無駄なんだから無駄なんだよ。
「何、お前そんな目で睨んでんだよ。」
まぁだがしかし、それは兎も角として、疑問をそのままにせず解消するってのは別の話だ。なので俺は一色にそう問うと。
「むぅ!わからないんですか?」
と、更にふくれっ面を作って俺を睨む一色なんだが、そんな行為などそれこそ無駄なんだよ、ただ可愛いだけで迫力なんかありゃしないんだよなぁ……」
ん……どうしたんだ一色のヤツ今度は急に下を向いてプルプル震え出しやがって、心なし顔とか耳とか赤くなってるが、はて?
と、一色の様子の変化に疑問符を浮かべる俺の隣からバシッ!とテーブルを叩く音が響いたかと思えば間髪入れず、カチャッ、ガタっと折り畳み椅子が床の上を踊る音が聞こえソチラを無理向けば。
「なっ、ななななっ、ヒッキーイキナリ何言っちゃってんのさ、いろはちゃんの事カワイイいとか急に言い出すなんてマジあり得ないし!」
若干言葉を詰まらせつつも、プンスコと怒り顔で俺を指弾する由比ヶ浜の姿が其処にはあった。てか何で俺がちょっとだけ一色の事を可愛いと思ってしまった事を由比ヶ浜が知ってるんだよ、と疑問に思う俺はどんな表情をしているのだろうか。
「はぁ……全くもう、貴方と言う人はまた。由比ヶ浜さんの指摘について何故なんだって思っているのでしょうけれど、それは簡単な話よ比企谷君。」
すると其処へ、呆れましたと言わんばかりに、もうすっかりお約束と化した感もある雪ノ下が頭痛いなポーズと共に、俺のクエスチョンな疑問にアンサーな答えをプレゼンテーションな提示をしてくれる様だ。
………何だこれは、何だか妙に頭の悪い人文章が頭の中から浮かんできたんだが。はて、何か悪いものでも食べたんだろうか?
「いつもの如く貴方の考えている事が、その締りの悪い口から言語として飛び出しているのよ。」
「マジかよ。」
はい。そんな事だろうと思いましたよ、我ながら、このパッキンとボルトが緩んで潤滑オイルがダダ漏れになってる様な、口と思考をもうちょっとどうにかしたいとは思っているんだがな。思って入るんだが、しかしコレが中々上手く行かないのは何故なんだろう。ってかよくよく考えてみれば潤滑オイルが漏れ出てしまっちゃ、シリンダーもピストンと焼き付いてしまうだろうから自然壊れて動かなくなる筈なんだが、それを口に当てはめれば当然口が動かなくなる筈だよな………はて?
「ええ、マジよ。ついでに言わせてもらうけれど比企谷君、貴方一色さんばかりに可愛いだなんて褒めそやしているけれど、ならば私や由比ヶ浜さんにも何か言わなければならないのではないかしら?」
済まし顔で淡々と俺にそう告げる雪ノ下ではあったが、その言葉を綴る頃には艷やかな長い黒髪に隠れていて微かに見える綺麗な形をした両耳と白磁を思わせる肌理細かな頬がほんのりと紅を差している。
その表情はお世辞なんぞ、明後日の方向に放り投げ捨ててしまい使わなくとも可愛いと思うが、俺はもうソレを口にはしない。八幡は学習する子だからな!おそらく。
「そっ!そうだよヒッキー!私達にも何か言う事あるよね!!」
語彙力に問題があり、その為に自分の考えを上手く言語として纏める事が苦手な、若干アホの子が入っているが、困っている人に優しく手を差し伸べる事が出来る暖かな心根を持っている由比ヶ浜が、若干幼く見える表情と比してアンバランスな、
胸部の豊かな実りをた揺らせながら俺に詰め寄る。うん、とても眼福ですありがたや、だがソレも口にはしないし、其処に視線をロックもしない。惜しむ心を押し殺して万乳引力に逆らう八幡は、応用する子だからな。
「まあまあ、雪乃ちゃんもガハマちゃんも今は取り敢えずソッチ方面の話は後のお楽しみとして置いとこうよ。」
「うむ、そうだな。陽乃の言う通りだよ二人共、その方が後々面白い事になるだろう。」
学習や応用が出来るかは取り敢えず一旦置いて、何かご機嫌斜めな雪ノ下と由比ヶ浜を年長者として宥めている様でいて実はそうでは無く、単に面白い事は後に取っておいてとかものごっつ不穏当な発言をしているんですが、この人達には自重と言う事を覚えて欲しいものだ。そしていい加減本題に戻って欲しいと切に願い、それを俺は切り出す。
「イヤイヤ、お二人さん!貴女方が言うお楽しみだの面白い事だのってのは、俺的にはちっとも面白く無い事態に陥るって事が目に見えているですけどね。特に雪ノ下さんの表情見てるとそれが目茶苦茶如実に現れてますよ!てか、今疑問なのは何で一色が急にプンスカし始めたかってのが俺的疑問点なんだが。」
そう、切り出してみたんだが、平塚と雪ノ下さんは俺の顔を三秒程顔見したかと思うと、二人揃ってめっちゃ深い溜め息を吐くと、再度俺に目を向ける。その目に語っている、君って本当に残念な子だよねと。
「フフフ、はいはい。まあ私と静ちゃんの事に付いては、後で詳しくお話し合いをするとして。ヒビキ君ってばさぁ、一色ちゃんの事本気で言ってる?」
「へっ!?」
はて、本気で言ってんのと聞かれたらハイそうですがとしか答えようが無い訳で、だから俺は今の雪ノ下さんの問い掛けに対して些か間抜けに、へっ!?何て言ってしまったんだが。
「ハァ……もう、本当にしょうが無い子だよ君は。ねぇ静ちゃんヒビキ君ってば解ってないみたいだからさ、悪いけど静ちゃんから説明してあげてくれる?」
俺の顔をのマジマジと残念なモノを見るような目で見て、雪ノ下さんは深い、それはもう深い溜息をひとつ吐くと、隣の平塚先生へと語り掛ける。平塚先生は雪ノ下さんの言葉に頷くと、平塚先生もまた雪ノ下さんと同様に俺に憐れむ様な表情を寄越しながら口を開いた。
「あのなあ比企谷、私は陽乃に連れられ君達の話を途中から聴き始めたのだから、君が話を此処でお開きにすると言っても仕方無しと了承するのも吝かではないがね。しかし一色は事のはじめから君達の話を聴いていたのだろう。ならば最後の最後である、クライマックスに差し掛かった所でそんな、打ち切りエンドの様に雑に纏められては肩透かしにも程があろう。例えるならば、二ページ見開きで海をバックに空へと続く岩の坂道を駆け上る後ろ姿に、未完の文字で無理やり締め括った様なものだぞ。」
平塚先生のお言葉に一色はコクコクと首を縦に振り頷きながら『ですです!』と返事をしながら、だから私は不満なんですよ気付いてくださいそれくらいとでも言いたげに、俺をキッと睨む。いや何か話が長くなったからいい加減皆飽きた頃だと思って締め括ろうとしたんだが、成る程な、そう云う事だったのね。まぁ一色がそう思ってんなら話を続けるか、しかし。
「一体俺は何坂を登りはじめたんだよ、てか平塚先生、何気に貴女何時代の人ですか?」
其処だけは一応突っ込んでおく。
俺達の連携により強化型イッタンモメンは翼付近を傷付けられて墜落したが、まだ体力の方は余っている様で地に陥ちながらもバタバタとその巨体をバウンドさせ暴れ回る。
両肩付近の装甲をミサイル・ポッドの開閉蓋の様に開いて、今にもミサイル的な何かを射出しようとしている事が見て取れるイッタンモメンに俺と輝鬼さんとで左右から駆け寄って、それに対処する。
「させるかってのッ!ハァッ…セイッ!」
「空中からなら兎も角、堕ちた状態からじゃそれは悪手だよッ!ハアーッ!!」
俺は両手に装備した音撃棒に炎を宿してミサイル・ポッド?に目掛けて射出し、輝鬼さんは鬼面の口部を開いて鬼火を放つ。バタバタと暴れるアーマードイッタンだが、俺と輝鬼さんの攻撃はそれでも上手い事イッタンモメンのミサイル・ポッドに着弾し、ミサイルの射出を未然に防ぐ事に成功した。成功したのは良いんだが、しかし。
「うおッ!?」
「おっと!」
攻撃の為に放たれる事の敵わなかったミサイル的な何かが、詰まっていた事によりイッタンモメンのミサイル・ポッド内部でそれが暴発した形になったのか、イッタンモメンの肩部と両翼が辺りに盛大に残骸を散らして爆発により吹き飛んだ。
しかし火薬とか爆薬とかよりは威力は低いんだろうけど、周囲に飛び散るイッタンモメンの残骸は俺達鬼なら当たったとしても大したダメージを受けないだろうが、一般の人に当たろうものなら下手すりゃ大怪我を負ってしまうだろう。
まぁ幸いなのは皆が居る野営地から、この現場までが二百メートル位離れているから飛び散ったイッタンモメンの残骸も其処までは飛んで行っていないって事だ。
「何のッ!!」
「させないよ!」
轟鬼さんと威吹鬼さんも自分へと向かい飛んでくる残骸を、烈雷と烈風を用いて迎撃しほぼノーダメージで撃ち落としている。二人共流石はベテラン、俺も先輩方を見習い残骸を回避しつつ数度二本の烈火を振るいうちおとし、遂に残骸の飛散も終わる。
魔化魍に、イッタンモメンに痛覚があるのか痛みを感じているのかは知らんけど、両翼を失ったイッタンモメンはその場で痙攣しているのかピクンビクンとその身を小さく撥ねさせる。ただ小さくとは言えどもそれは体躯の大きさと比しての事で、イッタンモメンはかなり大型の魔化魍故にその撥ね上がり方も結構なものである。
「ヨシ!今のでイッタンモメンももう大した攻撃手段は残って無いだろう。轟鬼さん輝鬼、響鬼、みんなで呼吸を併せて同時に音撃を叩き込もう!」
しかし、その様子を見留た威吹鬼さんはイッタンモメンの状態から判断して、そう俺達に告げる。
「了解です威吹鬼さん!しかしその前に俺が!」
威吹鬼さんの指示にいち早く轟鬼さんが頷いて返事を返すと、烈雷をグッと力強く構えてイッタンモメンを睨めつけると。十メートルほど助走をつけて大きくジャンプし、空中から大上段に構えた烈雷を落下の勢いを加えて振り下ろす。
「セイリャぁッ!!」
掛け声一閃。轟鬼さんが振り下ろした烈雷の刃はイッタンモメンの馬鹿みたいに硬い頭部の装甲を、深くザックリと斬り裂いた。マジ何時見てもおっそろしい膂力してるよな。流石は関東支部一の怪力無双の鬼の異名は伊達じゃない。
そして、この轟鬼さんの一撃にイッタンモメンの体躯の痙攣による撥ね上がりも緩やかに収まる。
「よぉっし!威吹鬼さん此処に鬼石を撃ち込んで下さい!」
「解りました轟鬼さん!感謝しますよ!」
威吹鬼さんは轟鬼さんに返事を返すと、直ぐ様音撃管・烈風に鬼石を込めると、轟鬼さんがイッタンモメンの傷口から離れたタイミングでそれを射出する。
ダダッ、ダダッ、ダダッっと射出音を響かせて放たれる威吹鬼さんの鬼石が、イッタンモメンの傷口にバッチリとめり込むと、少しだけイッタンモメンの巨体がピクリと小さな痙攣反応をみせた。
「ヨシ、此れで威吹鬼さんの音撃が使えますね!次は俺達だ、輝鬼、響鬼着くべき場所は解るな!?」
それを見届けて、轟鬼さんが威吹鬼さんに、次いで輝鬼さんと俺に声を掛ける。
「はい、轟鬼さん!僕は右翼側に着きますから轟鬼さんは左翼側をお願いします!」
「解った。そっちは輝鬼に任せるぞ!」
ベテラン二人は状況を的確に読んで即興で自らが取り付く位置を決めて簡潔に打ち合わせると、その場へと駆け出した。
駈けながら輝鬼さんは俺の方に顔を向けると軽く頷いて、新米で不慣れな俺に指示を出してくれた。
「それから響鬼はイッタンモメンの背中に乗って、其処から音撃を放つんだ、いいね!?」
だが、しかし。
「えっ……俺が。」
イッタンモメンの背に乗り、其処に俺が音撃を叩き込む。それは言うなれば止めの一撃は俺に託すって事であり、その事に一抹の不安が俺の中に過ぎる。本当にそれで良いのだろうかと、その役目は輝鬼さんが担う方が良いのでは無かろうかと。
だが、輝鬼さんが、俺を鍛えてくれた師匠である輝鬼さんが俺にそれを任す事に不安を感じて無いって事が、輝鬼さんの声音から俺に伝わったてくる。なら。
「はいッ、解りました輝鬼さん。タイミングは威吹鬼さんな併せればいいんですよね!」
なら、俺が此処で不安を感じる必要は無いと、意を決して輝鬼さんにされを伝えて同時に問う。
「ああ!そうだよ響鬼。」
俺の問い掛けに答えながら輝鬼さんは翼の弾け飛んだ右翼の傷口に爆裂火炎鼓を取り付ける。
「響鬼、お前は三種の音撃の協奏は初めてだろうけど大丈夫だ。俺達が一緒に付いてるんだから何も問題無い。セぇイッ!」
始めての経験に幾許かの不安を感じる俺を轟鬼さんは励ましてくれながら、逆手に持った音撃弦・烈雷の刃を右翼と同じく弾け飛んだ左翼の傷口に射し込む。
「うす!解りました。俺やってみます。」
俺の決意の返事に先輩方三鬼が力強く頷いてくれた。中学時代のコミュ下手ボッチの俺に今はこんなにも頼り甲斐がある、気持ちのいい人達が着いていてくれる。その事実が俺をちょっとだけ強くしてくれたってあの日カガヤキさんと仁志さんに出会う前の俺に話したとしても、あの頃の捻ガキだった俺はきっと信じ無いだろうな。
だが、現実は小説より奇なりとは言ったもので。なんて感慨はコレくらいにしておこう。
「たぁーッ!」
俺はその場から助走も付けずにイッタンモメン目掛けて跳躍すると、十分に足場を確保できるくらいにデカいイッタンモメンの背部に着地。足場を確認し俺は腰帯から爆裂火炎鼓を取り外して、装甲の様に硬いイッタンモメンの背に取り付けた。
「皆さん、此方も準備完了です。何時でもどうそ!」
既に各々準備が完了しスタンバっている三人に俺は声を掛けると、異口同音三人からの了解の返答が返ってくる。
「よし!行くよ。音撃射・疾風一閃!」
俺の返事に応えたのは、この合奏の音頭を取る威吹鬼さんだ。威吹鬼さんは鬼面の口部を開放して烈風を構えて技の名を口にする。
高らかに響き渡る音撃管・疾風から放たれる音撃の疾風の波動がイッタンモメンの体躯にめり込んだ鬼石が反応し、イッタンモメンの体躯がそれに反応してグラつく。
「おっ……っ。」
イッタンモメンの背部でグラつき揺れるが、俺は何とか体勢を崩さずに踏ん張る。イッタンモメンの体内に威吹鬼さんの清めの音が浸透している証、それを確認し次いで轟鬼さんが構え動き出す。
「音撃斬・雷電激震!!」
「ハッ!セイッ!」
轟鬼さんが烈雷の弦を爪弾く毎にギャァァンと、ともすればノイジーにも雷鳴の様にも聴こえる弦の音色が響き轟き、イッタンモメンの体内を駆け巡る。それを受けて次に動くのは俺の師匠、輝鬼さんだ。
「音撃打・爆裂真紅の型!」
気合の声と共に大きく掲げた二本の音撃棒を、輝鬼さんがイッタンモメンに取り付けた爆裂火炎鼓に目掛けて力強く振り下ろす。
「はっ!たぁーッ!」
力の籠もった重低音の鼓の音色が質量を持って大気を圧迫するかの様に響く、ドンッ、ドコドンッと何度も繰り返し。
三種の鬼の三種の清めの音がイッタンモメンの巨体を前方と左右の三方向から駆け巡る。
駆け巡り。響き渡り。そして臨界が迫る。
イッタンモメンの体躯に三つの音撃が混ざり合い融合する、そして三人は此処が頃合いと測り同時に音撃を止める。イッタンモメンの前方に陣取る威吹鬼さんが俺へと頷く。
「はぁーっ……音撃打・灼熱真紅の型ッ!」
それこそが、威吹鬼さんからの俺への合図であり、俺は音撃棒を構えて技の名を口にする。俺の身のうちにある全ての力を両手に込めて、イッタンモメンの背部に取り付けた爆裂火炎鼓に打ち付けた。
爆裂火炎鼓を打つダンッ、と云う打撃音が二つ重なり辺りにその音が響き渡る。その音を合図として威吹鬼さん、輝鬼さん、轟鬼さんが音撃の構えを解いてイッタンモメンから離れて行く。
「ッ……そりぁッ!」
俺もそれに倣い両手に音撃棒を携えたままイッタンモメンの背部から再度脚力だけで飛びあがり、イッタンモメンから二十メートル程離れた位置に片膝を着けて着地する。
その体勢から俺が立ち上がり、両手の音撃棒を腰帯へと収納したと同時に、イッタンモメンの巨体にみんなで放った音撃が満ち渡り、ヤツは粉々に爆裂四散し自然界の塵へと帰って行った。
「ふぅ………もう、終わったんだよな。」
イッタンモメンの消滅を確認し、俺は顔だけ変身を解いてからシミジミと呟いた。
長かった。トドロキさんとカガヤキさんが当たったバケガニから始まり、俺と仁志さんで当たったカッパに最後はイブキさんの応援にみんなで掛かった強化型のイッタンモメンと、まるで仕組まれたかの様にこの一体に集中して顕れた魔化魍達の討伐行。
これで本当に今日はもう終わったんだよなと、俺は何だか疑心暗鬼な気分がどうにも拭えない。
イブキさんもトドロキさんもカガヤキさんも皆顔だけ変身を解いて、この日の苦労を労い合っている。
先輩方のその姿を何とはなしに眺めていて、俺は漸く終わりなんだと云う実感が少しずつ湧いて来る。
「おーいヒビキ!お前も良くやったぞ。お疲れ様ぁ!」
トドロキさんを先頭にイブキさんとカガヤキさんが俺の方に手を振りながら駆け寄って来る。
「はい!ありがとうございますトドロキさん。カガヤキさんとイブキさんもお疲れ様でした。」
三人が俺の下へと駆け寄ってくれたので、俺もトドロキさんに御礼の言葉とカガヤキさんとイブキさんに労いの言葉を贈る。
「うん。お疲れだったねヒビキ、良くやったよ。最後のタイミングもバッチリだったよ。」
「うん、イブキさんの言う通りだよヒビキ。初めての合奏で上出来だったよ。」
するとイブキさんとカガヤキさんが揃ってさっきの俺の音撃を高く評価してくれ、更に二人共に俺の腕をポンポンと軽く叩きながら微笑んでくれた。
「ハイ!ありがとうございましたカガヤキさん、イブキさんも最後の合図のお陰で俺もタイミングを取れました。」
「いや、どういたしましてだよヒビキ。後輩の指導を行うのも先輩の役目だからね。」
俺が礼を述べるとイブキさんはサムズアップで応えてくれた。
「そう言う事だよヒビキ。若手に経験を積ませ、それを見守るのが僕らの役目だよ。仁志さんが僕を鍛えてくれた様に、何時かはヒビキだって次に続く若手を鍛えてあげなきゃね。」
カガヤキさんがイブキさんに続いて俺にそう言葉を掛けてくれた。仁志さんから受け継いだ、敬礼的ポーズを決めて。俺はそれに黙って頷ずき、二人の言葉を脳内デ反芻する。
遥か昔から、受け継がれてきた鬼の力と音撃。仁志さんからカガヤキさんへ、そしてカガヤキさんから俺へと。そしてカガヤキさんが言う様に何時かは俺も。
「………はい。」
まぁ、先の事は今の俺には解らんけど、何時か俺もベテランの域に達した時には、俺が受継いだものを。
しかし、如何せん俺はあまり人付き合いが得意じゃないからな。果たしてどうなるやらと思わんでも無いが、それでも。
「うん。それじゃ皆のところへ戻ろうか。」
俺が返事を返すと、カガヤキさんが呼び掛けて俺達は野営地へと引き返す。さて、魔化魍の討伐は終わったけど、問題は雪ノ下や由比ヶ浜に知られたって事だよな。俺としてはあまり二人を此方側に引き込みたく無いからな、てかその前に二人が鬼である俺を受け入れてくれるかって問題もあるんだが。どうしたもんかなぁ………