俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか?   作:佐世保の中年ライダー

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共鳴する音色。

 

  南房総市『御○山山中』4月7日

 PM4:35

 

 ツチグモ融合体に感じた違和感を確かめるべく、俺は一時ツチグモ融合体への対処を輝鬼さんに任せてその正面へ出てその身形を確認する。

 

 「なる程コイツは、さっき感じたフュージョンの失敗って印象はあながち的外れって訳じゃなかったんだな…。」

 

 正面方向からツチグモ融合体を観て、そうであると理解出来た、このツチグモ融合体はハッキリ言って失敗作なんだと。

 それは何故かって?あぁ先ず左右のバランスが悪く左側に大きくて片寄っているんだよ。

 そのせいでだろう、輝鬼さんが対処している左側の脚の動きが俺が相手をしていた右側に比べると反応が遅い感じだ。

 それは身体の軸が左寄りになってる為に左脚に比重が掛かってしまってんだ。

 

 そうなった原因はおそらく、左側のヤツは当初俺が相手取っていた山の西側に発生した奴のパーツが中心になっているんじゃないだろうか。

 なぜそう思ったかと言うと、高々一本とは言え俺はツチグモの脚を斬り落とせた。

 それによりもしかするとドームの中で融合する時にその部位を治す為に必要以上に体組織や回復能力を使ったのではなかろうか、いや憶測だから実際は知らんけど。

 それともう一つはヤツに頭が二つ有ることか、これこそ本当に俺の推測だが、この融合体は本来二体が完全融合を果たして一体の完全強化型ツチグモとなる予定だったんじゃないか、それを俺達が邪魔をしたもんだからこんな中途半端な姿に成り果てたって推察してみる。

 

 これも以前親父に聞いた話だが、昔小学生だった親父は夏休みに大量のカブトムシを捕獲しそれを飼育、それらの雄と雌を番わせて卵を産ませて翌年成虫にして孵えしたそうなんだが、成長段階の蛹の時にそれを指で触れたり突いたりして遊んでたそうだ『いやな、蛹を指で触れるとそれを嫌がってアイツら身体をくねくねダンスみたいに揺らすんだよそれが面白くってな、ハハハッ………』とは親父の言だ。

 

 その結果、そのいじり倒した個体は他の雄に比べてカブトムシの雄の象徴である角含めものすごい小さい個体になったんだとストレスで成長不良を起こしたんだろうな……何やってんだよ小学生時代の親父ェ…。

 もしかするとこれはそれに近い現象なのかもしれない、やはりあの蜘蛛の糸のドームは蛹室だったって事だ。

 その中で二体の魔化魍は混じり合い一体化する筈だったのを俺達が外側から鬼火を喰らわせたり烈火剣で斬ったりした為に成長不良を起こしたんだ。

 

 そして止めは俺の烈火剣で多少なりともドームに傷を付けた事、それにより液状化したツチグモの身体となるはずだった物の一部が流れ出てしまい、完全融合する事が適わずにこんな中途半端な状態となってしまったのか、オマケとしてもしかするとそれは奴の脳に何かしらのダメージを与えたのかも。

 猛士のデータベースに依るとツチグモってのはほぼ本能のみで活動しているらしくて、思考能力的な物は無いんじゃねえかって事だそうで、しかもその程度しか機能していない脳が一つの身体に中途半端な形で二つもありゃ左右で動きがチグハグにもなるよな。

 

 「けど、融合による恩恵も多少はあるんだろうな、融合の前よりか堅くなってるし……。」

 

 となりゃあ、やっぱ奴を攻めるなら左側から行くのが正解だろうな。

 

 「よし、やってみますかね。」

 

 駆け足で俺はツチグモ融合体の至近距離へと到着すると、輝鬼さんに俺が推察した事を手早く説明した。

 

 「て事ですんで俺がコイツの正面から陽動しますから輝鬼さんは脚を封じて機動力を削いでください。」

 

 「ああ解ったよ響鬼、君の提案に賭けてみよう、上手く行けば改めてしっかりとアイツに清めの音色を叩き込めるって事だね。」

 

 「はい、何せ奴は硬いですからね、おそらく二人で清めの音色を共鳴させた方が上手く行くと思います。」

 

 それを伝えて俺は再度奴の真っ正面へ立つ、少し距離を置いて、つっても顔が二つある時点で果たして何処が真っ正面何だよって疑問は置いておいてくれ、正直俺もこのアンバランスなツチグモ融合体の何処いら辺りを指して真っ正面とか判断してんのか解らないからな。

 

 「行くぞ融合体、ハアァーッ、ハアアッ、ハアッ、良っしゃあもう一丁ハアアッ、ハアッッ!」

 

 連続で烈火弾を放つ、奴の左右両方の頭部に目掛けて何度も何度も。

 ツチグモ融合体からするとこのチクチクとした俺の攻撃はうざったい事この上無いだろうな、何せダメージを与える様な威力は無いが連射性を高める為、一発に込めた気力はそれ程強くは無い。

 しかし俺がこんなに大声で叫ぶとか昔からの知り合いが見たらびっくりだろうな、あっそう言えば俺って知り合いとか居なかったわ、八幡うっかりさん!

 でもこれで良いんだ、俺がこうやってツチグモ融合体の気を引き付けておけば輝鬼さんがきっと……。

 

 「ハアァーッ…セイ!セイ!トリャぁーっ!」

 

 充分に気を込める事が出来た輝鬼さんが音撃棒業火の鬼石に青い炎の剣を形作り、そして振り抜く。

 

 『ドサッ、ドサドサッ!』と音をたて胴体より斬り落とされたツチグモ融合体の脚が崩れ落ちた。

 

 左側の一番前の脚だけしか残っていないツチグモ融合体は当然一脚だけではその身体を支える事適わず、ズシンと重い音を響かせながら左側へ崩れ落ちた。

 残った右側の脚と左側の一本だけの脚では全体重を支えきれないのかその身ををワチャワチャとさせているツチグモ融合体の様子は、何だかそんな状態に陥りながらも尚、必死に生き抜こうと足掻き続けている様に思える。

 

 「おお!やりましたね輝鬼さん!」

 

 斬撃を決めた輝鬼さんに俺は心からの賛辞を贈る、本当に流石の一言だよ。

 先代が唯一認め育て上げた実力は伊達じゃない、そしてこの人が俺の師匠だと思うと何だか俺まで鼻が高い。

 

 「ああだけどまだ終わっちゃいないよ響鬼、最後の詰めまで気を引き締めて当たろう。」

 

 そうっすよね、確かにここ迄は順調に運んでいる、だからこそ詰めを誤らずに最後まで運ばなきゃだよな。

 『好事魔多し』って言う言葉もあるし或いは『相手に対し勝ち誇った時そいつは既に敗北している』なんてな事にもならない様にな。

 

 「うっす、解りました輝鬼さん。」

 

 輝鬼さんに返事を返すと俺は直ぐ様のたうつツチグモ融合体の身体の上目掛けてジャンプ、ほぼ同時に輝鬼さんも飛び上がり融合体の左側の頭部へと乗り上がっていた。

 そうなると必然的に俺は右側の頭部へと乗り上がる訳た。

 

 「響鬼、ここは出し惜しみをせずに爆裂火炎鼓を使うよ。」

 

 「はい了解です、硬いですからねコイツは。」

 

 『音撃鼓爆裂火炎鼓』とは俺達太鼓の鬼の腹部装備帯の全面にベルトのバックルの様に装着している、魔化魍へ清めの音色を叩き込む為に使用する太鼓だ。

 通常の火炎鼓は何度でも使用する事が出来るのだが、爆裂火炎鼓はその清めの音色を通常の火炎鼓よりも大幅に増幅してくれるのだが、その威力故に一回こっきりの使い捨てのアイテムだ。

 

 ツチグモ融合体は左側の脚を失ってしまった状態故に立ち上がる事が適わないにも拘わらず、残った右側の脚をバタつかせ藻掻きながら胴体を蠢かせてくれているおかげで、その上に乗っている俺達はバランスを取る事に気を割かねばならず、爆裂火炎鼓を融合体の頭部(人間の身体で例えるなら背筋の辺りか)に設置するのに一苦労だ。

 

 それでも暫くするとその揺れにも慣れて来たので何とか爆裂火炎鼓を取り付ける事ができた、

 鬼になる為の訓練に於いて、当然体幹の訓練などもこなして来たからな、こういった事にも直ぐに馴染める。

 爆裂火炎鼓を融合体に設置した途端、掌より多少大きい位だった爆裂火炎鼓はその体積を大きく広げる。

 

 「輝鬼さん設置できました!」

 

 「うん、僕の方も問題無い!」

 

 互いの現状を報告しあい、二人頷き体勢を整える。

 

 「ヨシ呼吸を合わせて、二人の音色を共鳴させるんだ!」

 

 「はい了解です、指揮はお願いします輝鬼さん!」

 

 「解った、一気に決めよう音撃打豪火連舞だっ!」

 

 『音撃打豪火連舞』これは先代響鬼さんの最強の音撃打と言われた技だ。

 先代の得意とした三種の音撃打、火炎連打〜一気火勢〜猛火怒濤とその三つを繋げる強烈なコンビネーション。

 コレを叩き込めばいくらこのツチグモ融合体が硬いとは言えど、充分に清めの音色を響かせられる。

 

 「うっす、いつでも良いっすよ思いっきり行っちまいましょう!」

 

 俺が輝鬼さんに了解の返事を返すと、輝鬼さんは一つの頷き音撃棒を上方へと構える、それに合わせて俺も輝鬼さんと同じ構えをとる。

 両肘をごく軽く曲げ左脚を前に右脚を後ろへ、そして膝を折りしゃがんだ姿勢を取る。

 

 「「音撃打豪華連舞!!」」

 

 俺と輝鬼さんの声が重なる。

 

 「「はぁぁぁー……はぁ!」」

 

 ドン、ドン、ドン、ドコドン、ドン、ドン、ドン、ドコドン!

 

 御○山の山中に二人の鬼が奏でる太鼓の音が響き渡る、右と左二つの音撃棒を交互に叩く。

 叩かれた爆裂火炎鼓はその音撃棒から発せられる清めの音色を増幅し魔化魍の体内へと送り込む。

 

 「「はぁーっ!」」

 

 ドコドコドコドコドコドコ、ドコドコドン!!

 

 音撃棒を叩きつける毎に、ツチグモ融合体の動きが鈍く緩慢になっていっている事が感じられる。

 二つの太鼓から発せられる清めの音色が共鳴し着実にツチグモ融合体に体内に行き渡っている証だ。

 

 『『…グギぎっ、ぐぎゃ……』』

 

 共鳴する二つの清めの音色に拠る影響か融合体は苦しげな呻きの様な声を上げる、もうその時は間もなく訪れる。

 

 「「……はァァァァァァーッ…」」

 

 二人の鬼が、力強く二つの腕を天高く掲げ気合の声を発する、力を込める気力を込めて、込めて込めて…………。

 

 そして二人の鬼が己の手に持つ音撃棒を各自二つ同時に振り下ろす。

 

 「「たァァーーーーっ!!」」

 

 ドドドンッ!!

 

 最後に最大の力を二つの腕に込めた二人の鬼が、それぞれの爆裂火炎鼓を力一杯に叩き込む。

 

 御○山山中に高らかに響き渡った、二人の鬼による演奏はここに完結を見る。

 

 「「そりゃぁ!!」」

 

 間髪を置き、俺と輝鬼さんはツチグモ融合体の、その背中から飛び降り大地へと着地した。

 俺達の着地後間もなく………ツチグモ融合体は爆発四散し果てた。

 

  

 

 

  南房総市『御○山山中』4月7日

 PM4:49

 

 ツチグモ融合体の消滅を確認して俺と輝鬼さんは顔の部分だけ変身を解き、二人してホッと一息ついた。

 

 「ふう、お疲れ様でした輝鬼さん、その、今日はありがとうございました。」

 

 俺は今日この日、また輝鬼さんと共に魔化魍を退治にあたることが出来た、その事を感謝せずにはいられなかった。

 

 「うん、お疲れ様響鬼、だけどお礼を言うのは僕の方だよ、来てくれてありがとう助かったよ。」

 

 ああ、普通なら俺は急遽ヘルプとしてこの件にあたったんだからな、輝鬼さんがそう言うのは至極当然御尤もってな。

 

 「いや、何つうかっすね、俺今日輝鬼さんとご一緒出来て、思い出す事が出来たんだって思うんです。」

 

 「きっと俺、ここん所仕事に慣れたせいで多少慢心してたんじゃないかって思い知ったんです、今日この厄介なツチグモ融合体を相手取るのに輝鬼さんと一緒にあたれて、輝鬼さんの仕事ぶりを久しぶりを目の当たりに出来て、改めてベテランの貫禄ってかそう言うのを感じました。」

 

 先代から響鬼の名を受け継ぎ、独り立ちして半年ちょっと、魔化魍相手にするのに此れまで殆ど苦戦もせず順調にこなして来た為に、いつの間にか慢心していたんじゃないかってな、それでもしそれまでの様に物事が上手く行ってたら、もしかしたらその慢心から思い上がり増長してたかもな…。

 

 「そうか………。」

 

 俺の言葉に輝鬼さんは穏やかな笑を浮かべて、ただ一言そう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

  南房総市『御○山野営地』4月7日

 PM5:15

 

 山を降り野営地へと帰還した俺達はテントの中で着替えを済ませ、現在輝鬼さんが『たちばな』へ報告の電話をいれている。

 

 「……はい、と言う訳ですからデータはそちらへ帰還してからと言う事で、はいありがとうございます、ではちょっと一息ついたら引き上げます、じゃあ失礼します。」

 

 たちばなへの報告を終えたカガヤキさんはスマホを切り懐へ収めると『お待たせ』と一言。

 コーヒーを啜りながら、その温かさに為すべき事をなした達成感に浸る、今の気持ちはまさに『この一杯の為に生きている!』って感じたな、うん。

 部室で雪ノ下が淹れてくれる紅茶も極めて美味だが、こう言う場所で達成感に浸りながら飲むコーヒーはまた別ベクトルに極上だ、異論は認めん!

 

 「…ところでヒビキは電話掛けなくてもいいのかな?」

 

 と、急にカガヤキさんは人の悪い笑みを浮かべて俺に言ってきた、それはそれはもうイタズラを思いついた昭和の悪童の様なイタズラな笑みだ。

 

 「なっ、なっ、俺が電話とか何処に需要が有るってんですか!?」

 

 「またまたそんな事言って、ほらあの二人だよ由比ヶ浜ちゃんと雪ノ下ちゃんだっけ、すごく可愛い娘達だよね。」

 

 「…………っうぅ、それはっすねアレがアレでしてなので今は……はい。」

 

 「アハハハ、まぁもう片も着いたし暫くゆっくりしても大丈夫じゃないかな、何だったら僕は少し席を外そうか?」

 

 「かっ、からかわないでもらえないっすかね………。」

 

 なんてバカ話を出来る程には、俺達はリラックス気分に浸れている。

 短いようで長く、けどやっぱり長い半日はこうして過ぎて行った、俺のこれからの課題を提示して。

 明日からまた鍛え直しだな、まぁさっきのカガヤキさんの発言は兎も角としても、やっぱり二人には連絡した方が良いだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もし陽乃を鬼とするならば、轟鬼(戸田山富蔵)さんの弟子として弦の鬼とするか、淡唯鬼(天海あきら)さんの弟子として管の鬼とするか?
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