俺が伝説の鬼の名を襲名して良いのだろうか? 作:佐世保の中年ライダー
千葉市内『住宅街・街頭自動販売機前』4月7日 PM7:18
「ふい〜っ…仕事の後のマッ缶が心と身体に染み渡るぜ……フッ、決まったな、フヒッ。」
あの非常に厄介だったツチグモ融合体をカガヤキさんと共に清め、たちばなへの事後報告も終えて、カガヤキさんと二人コーヒーを飲みながら雪ノ下と由比ヶ浜の事で暫くイジられた後、帰路へと着いた俺だったが。
因みに御○山への入山禁止処置は猛士経由で警察と市役所へと連絡し解除されたした、これで暫くは御○山に魔化魍が出現する事も無いだろう。
鬼への変身はカロリーの消費が半端ないので、御○山駐車場近くのコンビニで何か食べ物でも食ってけば良かったんだろうが、我が愛妹小町が夕飯を作って待っていてくれていると思えばこそ、その誘惑に抗いCB400SB『漁火』に乗り、一路我が家へと帰還の途に着いたは良いのだが…。
住宅街の自販機に見慣れた黄色と黒のラベルを鍛え抜かれた俺の、独特と評される目が見逃す筈も無く、またやはり脳と身体と心が甘味を求める三重奏を奏でた結果、小町が丹精込めて拵えてくれた夕飯をいただく前に、俺は遂に黄色と黒の織り成す秀逸で魅惑のハーモニーなデザインの誘惑に負けて某コ○・コーラ社の自販機に電子マネーをピッしてしまった訳だ。
「ヒッ!?…………。」
なんて俺が浸っていると、偶々此処を通ったと思しき高校生くらいの女子が押し殺し気味に慄いて居られた…………ぐすん。
その身なりから彼女は、ちょっと近くのコンビニで買い物でもしようとでも思ったのだろうと想像出来るくらいラフな格好をしていたが、それでもかなりの美少女だ。
少し小柄だがサラサラ感が半端ない亜麻色の髪に何処とは言わんが雪ノ下以上由比ヶ浜未満の物をお持ちの、おそらく軽くリップでも塗っっただけで途轍もなく華やかな印象に早変わりするだろうと思われる位に高レベルのルックスをしている。
「…あっ、ごめんなさい…。」
ペコリとお辞儀をし謝罪の言葉を述べてその女子は若干バツが悪そうな顔をして、そそくさとその場を離れて行った。
ポク、ポク、ポク、ポク、チン!
「この眼か!?やっぱりこの眼がアカンのか!?」
俺は暫しの黙考の後、その答えに行き着いた、嗚呼きっと今の女子も明日辺り学校で話題にするんだろうな『昨夜さぁマッ缶片手にシリアスぶった眼つきの悪い男と遭遇しちゃってさぁ、いや〜アレほんとまじ引くわぁて感じだったよぉ、しかもフヒッとか言っちゃってんのぉマジあり得なくないッ!』とかって話のネタにでもされるんだろうな。
いやそれとも、あまりにキモくて思い出したくも無いとかって思われたかも知れん、てか俺的にはどちらかってとそっちの方がまだ傷は浅くて済むな……どっちも不名誉には変わらんけどな。
「それとも、小町の夕飯を食べる前にマッ缶に手を着けた報いか……けど腹減ってたからなぁ。」
右手の中で微かな温もりも発するマッ缶と見つめあい俺は独りごちる、無論無機物のスチール缶が何かを語りかけてくる事は無いんだろうが、しかし俺位の高レベルマッ缶愛好家になると、例え言葉は無くとも心で感じ合えるんだよ?
『そんな事は無いぜ相棒!』
俺の掌の中のマッ缶はそう言ってくれている、誰に分かってもらおうなんて思っちゃいない…俺だけが分かればそれで良いんだ。
「フヒッ!」
「ひえっ!?」
「……………。」
「……………。」ペコリ
歴史は繰り返す、一体俺はこの先この人生に於いて何冊の黒の歴史書を書き上げるのか。
まぁいいや…俺は残りのマッ缶の中身をチビチビと飲むことにする。
五分程の時間を掛けてマッ缶を飲み干し、スマホと財布をパニアケースに戻して漁火に跨がろうとした時、出処とは特定出来ないが、奇妙な、いやはっきりと異臭を感じた。
「…くさっ、何だこれせっかく飲んだマッ缶の味が台無しになるじゃねえか…って言ってる場合じゃ無いかもだよな、何よりもこれ近所迷惑なんじゃ…!?」
その異臭に混じって小さくだが女性の声が俺には聴こえて来た、それは驚きの余りに漏らした悲鳴の様だ。
「公園からだよな、行ってみるか!」
漁火をその場に残し俺は声の発生源である公園へと駆けて行く、何事も無きゃ良いんだがな……。
千葉市内『住宅街・公園』4月7日 PM7:26
住宅街に有る比較的大きな公園、ここは児童が遊ぶ為の遊具よりも樹木などの方が占める割合が多い、俺ん家からは徒歩だとそれなりの時間が掛かるから殆ど利用した事はない、小中共に学区内でも無かったからな。
植えられている樹は桜が割合多いようで他に銀杏、楓、欅などか、インターロッキングの歩行路に処々ベンチが設置されていて、街灯は然程多くは無いのであまり女性が遅い時間に来るのはお勧めしない。
まぁ昼間に来る分には良さげな感じなんだがな。
公園内を捜索する事数十秒、先程感じた異臭も次第に強くなり、ちとその臭いに辟易とさせられそうだが、俺は遂にそれを目視確認した。
「………ひっ、ぃゃぁ…。」
あまりの恐怖の為か女の子がインターロッキングの歩行路に腰を落とし、その自分に迫る細く長い黒い影から逃れようとしているのだろう。
丁度角度的に俺はその女の子の正面方向からこの場に参じた為に、そのアレだよアレ、ミニスカから…ってこれ以上は言うまい、紳士な俺はこの時はその中を事を確認しちゃいなかったしな、いなホントマジダヨハチマンウソツカナイ。
その黒い影はジワジワと少女ににじり寄ってる様だ、少女の抱く恐怖心がコイツの好物の一つだ、恐怖心を煽り焦らしそしてそれが最高潮に達した時、そいつは狙った獲物たる人を喰らう。
異臭を伴い顕れるその怪異は細長く黒い姿をした比較的人型に近い等身大の魔化魍。
『黒坊主』それがこの魔化魍の名だ。
コイツが顕れるようになったのは比較的最近、百鬼夜行と呼ばれる魔化魍大量発生の少し前辺りかららしい。
しかも以後は比較的頻繁に顕れる魔化魍なのだそうだが、俺は今回が初めての遭遇だ。
「とりゃあっ!!」
俺は黒坊主の後方から奴の後頭部に跳び蹴りを喰らわせた。
『プギャラチャビブギォ』
俺の蹴りにより吹き飛ばされた黒坊主はよく分からない言語?の悲鳴をあげ倒れる。
そのスキに俺は少女に駆け寄り安否確認、まぁ怪我などはしていないようだが精神的ショックは大きいだろう、てかこの子さっきの亜麻色の髪の女子じゃないかよ。
「おい!大丈夫か!?立てるか此処はヤバいから早く逃げろ!」
俺は少女を助け起こしながら声を掛けこの場を離れる事を促すが、恐怖と安堵の相反する思いを僅かな時間に体験した為か、腰が定まらない状態にある様だ。
「……ぁっ、あの、私は…。」
「大丈夫だ落ち着けってもこんな経験してんじゃ無理かもだけど死にたくは無いだろう、頑張れ!」
「…へ、で…でも貴方は…。」
俺は少女にもう一度ここから逃げる様に促すが、俺の事を気にかけてくれている様だ。
「へぇ、お前結構良いやつなんだな、けど大丈夫だ、心配すんな!俺は響鬼だからな。」
一旦少女から離れ、もう一度俺は黒坊主に向かい、起き上がろうとしていた奴に再度蹴りを喰らわす。
「早く行け!」
「…はっ、はい!」
少女はたどたどしい足取りでゆっくりだがだが背を向けて走るって程の速度じゃ無いがこの場から離れていく。
「あ〜ぁ、参ったなコリャ、着替えの服ワンセットしか持ってきてなかったんだよなぁ…結構高いんだよなライダースって。」
ボヤきながら俺は、ポケットから変身音叉を取り出す。
「まぁ、後でたちばなに報告入れりゃあ経費で買ってもらえるし、しゃあないよな…しかしなぁ対魔化魍戦のダブルヘッダーとか…無いわぁ。」
千葉市内『住宅街・公園内』4月7日 PM7:28
昨日高校への入学式を迎え、晴れて華の女子高生と成れた私は、これから始まる高校生活に期待と若干の不安を感じながらも、持ち前のコミュニケーション能力と中学時代からひたすらに磨いて来た男子受けする仕草で持って、果たしてどれ程の男子達を手玉…では無く男子達と仲良くなれるかなってワクワク気分で居たんですけど。
今日はニ、三年生の新学期の初登校でしたので私達新一年生は今日は待機だったので残念ながら上級生の先輩男子を物色……ってそれはさて置き。
「…あの人さっきの眼つきの怖い人だったよね…。」
明日に期待をして、景気づけにちょっとコンビニスイーツでも食べたいなって思って、買いに出たんですけど…あんな化け物みたいなモノに出くわすなんて5分前には思ってもいませんでした。
何か変な臭いがするなと思いながら公園を歩いていた私の前にソレは現れて、ひどい臭いをさせながら私ににじり寄って来て…………。
『おい!大丈夫か!?立てるか此処はヤバいから早く逃げろ!』
そう言って私を助けてくれたのは、ついさっき公園の近くの自販機の前で“アノコーヒー”を飲んでいた、目つきの悪い男の人。
こう言うのを『吊り橋効果』って言うんでしょうか!?
ついさっき迄、眼が怖っ!て思っていた人の顔を真っ正面から見て、あっ目はアレだけど割とカッコいいかもとか思ってしまいました。
「俺はヒビキだからなって何の事なんだろう?」
私はあの人に言われた様にその場から離れたけれど、実は少し離れた位置の樹に隠れてあの化け物に立ち向かうあの人の事を見ています。
その時、あの人がいる辺りから公園に響き渡ってきたのは『キーン』と言う金属音、そして。
千葉市内『住宅街・公園内』4月7日 PM7:29
「はぁぁぁーっ…………たりぁッ!」
音角を打ち鳴らし額に翳し蒼い炎に包まれ、俺は響鬼に変身し黒坊主へと立ち向かう。
「こんな住宅街の公園に顕れるなんてな、どうなってんだよ……ってそりゃあっ!」
『鬼闘術、鬼爪』鬼化した手の甲より伸びた鋭い爪を振りかざし俺は黒坊主に斬りかかる。
『ビニャギャ!?』
この攻撃はヤバいと感じたのか黒坊主は鬼爪から逃れる様に後退るが、残念ながら完全に回避は出来ず黒坊主の胸元には四つの細く長い斬撃の跡が残った。
「何言ってっか解かんねぇっての!」
鬼爪を振りかざし斬りつけるフリをして俺は、黒坊主に再度蹴りを喰らわせ吹き飛ばす。
またしても変な声を発して倒れる黒坊主、俺はそれを確認し鬼爪を収納し腰の装備帯より音撃棒烈火を取外し、両手に装備。
「さて、どう出る…データに依るとコイツはそんなに大した事は無いって事だけど、油断は大敵ってな、さっき学んだ事だし。」
初めて対する魔化魍だしな、此処は慎重に事に当たらなきゃな。
そのデータに依るとこいつは割と素早く動けるタイプの魔化魍って事だけど、この数分間で相対してみてそのスピードの本領発揮はまだの様だし、やっぱ慎重に俺は黒坊主に近付いて行く。
両手を軽く左右に広げた形で斜に構えジリジリと距離を詰める。
黒坊主は未だ立ち上がれず藻掻いている様な感じだが、それが芝居がかっている様な感じにも見えなくも無い、俺の考え過ぎなら良いんだけどな……。
千葉市内『住宅街・公園内』4月7日 PM7:31
「ななななっ、なん何ですか今の!?あの人…変身、したの?」
キーンと澄んだ音色が響いたかと思ったら蒼い炎があの人を包み込んで、そして現れたのは……。
「…なん……ヒビキってアレの事だったんですか………はふぅ。」
私はあまりの事に身体の力が抜け、その場にへたり込んでしまいました。
千葉市内『住宅街・公園内』4月7日 PM7:32
黒坊主へとにじり寄っていた俺の耳に微かな音が聴こえてきた、それはさっき逃した少女が向かった方向。
黒坊主に対する警戒はしつつも俺はその方向へと顔を向けてその姿を、樹木の根本にへたり込んだ姿を見てしまった。
「なっ…お前、何やってんだよ!?早く逃げろって言っただろう!」
俺は思わず少女に向かいそう言った、その声音はきっと怒鳴り声に近かったと思う、多分ビビらせたかもしれないな。
「あっ、危ない!!」
俺の怒鳴り声を物ともせず、少女は俺に忠告の言葉を投げかけて来た、コイツ結構度胸あんのね、何て事を考える隙もなく俺は黒坊主による攻撃を受けてしまった。
少女の忠告の声に黒坊主の方を振り返ると、黒坊主は立ち上がりその口から何かを吐き出した。
「なっ!?ヤバっ!」
と思った時にはすでに遅く俺は黒坊主が吐いたそれを顔の一部に受けてしまった。
「…………へっ、痛くも何とも無い、どういう事……って臭っ!?」
顔に向けて放たれた黒坊主の吐瀉物?を受けた顔面に広がる異臭には、肉体的ダメージは無い物の途轍もない臭気を漂わせる。
「うわっ、マジかよコイツ!?」
俺が臭いに辟易としているスキに黒坊主は俺から距離を取り逃げの体勢を取っていた、マジ何なのコイツ!?
「逃がす訳ゃあ無ぇだろうがよ!」
黒坊主はデータにあった様に確かに素早い、だけど俺達鬼の脚力だって負けちゃいない。
ほんの十メートル程の距離、僅か一秒足らずの時間で俺は黒坊主に追い着き、烈火で打撃を与える。
「たありゃあぁッ!!」
後ろからその背に烈火を叩き付け、倒れ伏す黒坊主に俺は装備帯のバックルを外し黒坊主に取り付けた。
黒坊主の背中に広がる音撃鼓火炎鼓。
「行くぞ!音撃打火炎連打!!」
ヨロヨロと立ち上がろうとしていた黒坊主の背後に取り付けた火炎鼓を俺は音撃棒烈火、左手の『阿』と右手の『吽』を交互に打ち付ける。
「はぁっ!」
ドン、ドン、ドン、ドン、ドコドン!
「セイヤァ!」
ドコドコドコドコドコ………………
「はぁーーっ………ハァっ!!」
ドドンッ!!
清めの音色を叩き込まれた黒坊主はその場で爆散、本当に呆気なく俺は黒坊主を討伐してしまった。
…………って臭っ!音撃打を決めてた時は集中してたから気にならなかったけど一息ついたら改めてその臭気が。
こいつはもう駄目だ、早いところ顔の変身を解かなけりゃ!
千葉市内『住宅街・公園内』4月7日 PM7:35
……何だったんですか今の、あの男の人が変身して、化け物と闘って…そして何か太鼓を叩いているみたいな音が響いて、そして化け物が消し飛んで…そしてあの人が顔だけ元のあの人の顔に戻っちゃって……………。
「ふぅ……あ〜ぁ臭かった、堪んねえな匂いとか残って無いよね、残ってたら帰ってから小町に嫌われちゃうからな、って…オイお前大丈夫かぁ!?」
顔だけ元に戻ったあの人は何だか独り言を言ってたみたいでしたけど、思い出したみたいに私に問い掛けて来ました。
失礼な人ですね、こんな可愛い私を放っといて独り言ですかそうですか、ここは一つ文句の一つでも言ってあげましょう、そうしましょう!
「そうと決まれば早速………って、あれれ?なっ、あはは…どうしよう腰が、脚も動かない。」
なんでなんですか、動いてよ私の足!
「ああ、何だお前腰抜かしてんの?まぁあんな物に出くわしたんだからそりゃあ仕方無いか。」
その人は私に近づいて来て、安心した様な声音でそう言いました。
この人は何を安心しているんですか!女の子が動けずに居るって言うのに、私は助けてもらったにも拘わらずそんな事を思ってしまいました。
そんな事を思ってしまった私はちょっと恩知らずでしょうかね?