塔より舟へ、聞こえていますか   作:ニューラル・コネクタ

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▶︎メッセージを受信しました 受取件数:1

 …今はいつで、此処がどこなのかは分かりません。

 なので挨拶は省かせて頂きます。

 私は、████

 

 このメッセージ音声は二十七段階に分けて暗号化し、ロドス・アイランドの幾つかの端末に届くよう設定してあります。

 送信機はデッドマンスイッチで私と直結されています。このメッセージが届いたということは、私は既に死んでいるのでしょう。

 恐らくは、チェルノボーグで没している可能性が高いです。

 

 ───だからこそこのメッセージが、過去の彼を、ドクター████を知る者に届いていることを祈ります。

 

 私の事は…さほど重要ではないでしょう。

 信頼性を求めるなら、『deadman』という名を調べて下さい。

 この名前は、確かに登録されていますから。

 

 …私は今のロドス・アイランドの前身にあたる組織に在籍し、その頃から彼の下にいました。

 当然、彼が行ったことも、彼が作り出した地獄も

 その全てを、私は浅ましい幸運とともに見てきました。

 すべての人が、彼をみな平等に怪物というのでしょう。

 

 それは、私も事実だと思います。

 彼は正しく怪物であり、魔王のようでした。

 彼はどこまでも冷静に、かつ貪欲に勝利を求めていましたから。

 私達を平等に駒として扱い、駒として使い切りました。まるでカードを切るかのように。

 

 …彼は怪物です。皆そう言いますし、事実です。

 では、───怪物はどのように誕生したのでしょうか?

 私達は、その明確な理由と経緯を知りません。

 第一、彼は生来の怪物などではありません。

 そうであれば、彼は慕われなどしない。

 

 唐突ですが…勝利とは得難く、それでいて甘美です。

 彼は卓越とも言える指揮能力で、私達にそれをもたらしてくれました。

 いや、もたらしてしまったと言うべきでしょうか。

 私達は「次を」と彼に求めました。

 何もおかしいことではないと思うでしょうが…

 …それこそ、正しく狂気だったのでしょう。

 

 私達は、忘れていました。

 私達がやっていたのは“戦争”です。

 人が、人が死ぬんです。

 人の死は、取り返しがつかない。

 その中で、延々と彼に勝利を求めました。

 …研究者だった筈の彼に。

 

 皆が彼の優れた力を賛美し、何より期待しました。

 「彼なら勝利をもたらすだろう」「最後までやり遂げるだろう」「彼の指揮に間違いはないだろう」と、延々と暗黙の信頼を与え続けていました。

 信頼は…時としてかつてない重圧になる。

 私達は、そんな些細なことを致命的なほど見落としていました。

 

 私達は何故、ああも残酷だったのか。

 またどうして彼も、ああ残酷になれたのか。

 

 …彼は…ドクターは、████は、

 決して強い人とは言えないのでしょう。

 けれど中途半端に強かった。

 ボロボロな中身を「理性」で隠す事は出来ました。

 一見冷静に振る舞えては、いました。

 …だけど、日に日に壊れた中身は漏れ始めた。

 それが、バベルが終わる頃の“彼”なのかもしれません。

 

 内面ではずっと苦しんでいたかもしれない。

 自己嫌悪で泣いていたかもしれない。

 理性を薬理的に保つのは建前で、

 その実、過剰摂取で死のうとしていたのかもしれない。

 

 …結局のところ、それを知るのは当人ばかりではあります。

  ただ私にわかるのは…時折ケルシー女史や「彼女」、そして皆にも奇妙なジョークを言ってはおどける、ひょうきんな変わり者が…勝利の都度、少しづつ消えていった事だけです。

 

 頼みがあります。

 わたしには、やりきれませんでした。

 ですが、ですがあなたなら…出来てあって欲しい。

 それをしても、ドクターが戻るとは思えません。

 でも、…大事な、大事な事なんだよ。

 

 彼を指揮者の座から遠ざけろ。

 ドクターにもう二度と私達の、戦場の指揮を取らせるな。

 ドクター本人のためにも、ロドスのためにも。

 もう、彼を休ませてあげて欲しい。

 彼を…研究者に戻してやって欲しい。

 

 もう、もういいだろう。

 

 また彼を怪物に戻さないでくれ。

 また彼に命を奪わせないでくれ。

 また彼の心を潰さないでくれ。

 また彼を、魔王にしないでくれ。

 

 頼む、…───私の命の恩人を…、先生を…これ以上、殺さないでくれ。

 

 

 

番外編

  • 全てが終わった後のドクターの日記
  • 全てが終わった後のケルシーの日記
  • 全てが終わった後のアーミヤの日記
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