塔より舟へ、聞こえていますか 作:ニューラル・コネクタ
寝ぼけながらやるもんじゃ無いね
ちょうど良い機会だったのでいくらか改訂しました
危機契約中の私「メ゛フ゛ィ゛ス゛ト゛(砕け散るオペレーター)(フラッシュバックするストーリー)」
ロドス・アイランド甲板
天候:快晴 風向き:南西 気温:15℃
手すりに体を預けながら、空を眺める。
あの後、奇妙な夢から帰ってきた私は医務室の中で目が覚めた。というのも、私が目覚めないまま半日も経過していたらしい。そしてそれはケルシーも同じだった。
二人してバイタルが低下していたこと相まって、目覚めた時ロドスは大騒ぎの真っ只中だった。
私達は揃って臨時の休暇と療養が、アーミヤ直々に下された。拒否権は無く、私もケルシーも食い下がったが、そこに医療オペレーターから説き伏せられ、仕事の全てが取り上げられた。
…仕事もやる事もない日は、これで二日目。
正直言って落ち着かない。タスクがないと何をしたらいいか全く分からないとまで言っていい。
…どうもそれは、今甲板に来たケルシーも同じようだ。
「久々の休日はどう?」
「…………する事がない、というのはやはり苦痛だ。これを機に、と読書や映画を勧められている」
「私と同じだな。まぁ、シルバーアッシュの奴はワインを勧めて来たが…そんな目で見ないでくれ、健康になったら飲」
「なら少しは健康体になろうとする努力をしろ」
そう言われると返す言葉がない。
黙り込んで空を再び見る私の隣に、ケルシーは来た。彼女も手すりに寄りかかり、青空をぼんやりと眺め出す。
「…あまり顔を見せるなと言ったのだがな、ドクター」
「…そのことなんだが…」
目が覚めた時、アーミヤは血相を変えて私のフェイスガードを持っていて、矢継ぎ早に頭の無事や、敵襲が無かったのかを聞いて来た。
何故そんなことを聞いて来たのかと思ったが、理由は私のフェイスガードそのものにあった。
血でべったりと濡れ、損傷があったのだ。
私はそれに眩暈すらした、まさか夢の中のダメージが現実に反映されたわけではあるまいな、と思い確認したが、血は確かに私のもので損傷の形は夢と同じだった。
…この件に関してはおそらく迷宮入りになるだろう。
私は、自分が見た夢の事と重ね、そのこともケルシーへ話した。
「………分からない事ばかり増えるな…夢の共有なんてどう研究すれば良いんだ」
「…まぁ、得るものはあったさ」
珍しく頭を抱える医者を尻目に、私は今回の一件を振り返る。
「───取り敢えず、私は落ち着いたら自分の過去を自分なりに探って行こうと思ってる。
〝思い出せない〟だけでは駄目なんだ」
ぐい、と伸びをしながらそう言う。
ケルシーは特に何も言わないが、耳がしっかりとこっちに向けられていた。
私はそれを少し嬉しく思いつつ、続ける。
「これは私一人でやって行くよ、寄りかかってはちゃんと見れないだろうから」
「…ああ、それは正解だ。仮に私が君の過去を語るとしても、それは私の感情で歪んでしまうだろう」
「やっぱり、私が憎いか?」
この質問をすることに、恐れはなかった。
ただ憎まれても仕方ない事をしたんだな、と受け入れていたし、それを知らないといけないなとも思っていた。
しかし、横の医者は私の予想に反する返答をして来た。
「───正直な話、憎かった。
だが分からなくなった、というのが現状だ」
ぎり、と手を強く握る音がした。
彼女は空では無く地を見る。
そして重いため息を吐く。
その所作だけで、彼女の持つ懊悩の大きさを垣間見れた気がした。
「過去の君と、今の君は違う筈だ。だが心というものは複雑で、それだけで割り切れたりはしない。
…過去の君に関しても…私は…」
…彼女は本当に優しい。
私が過去にした行いは相当な筈だ。
記憶の有無に限らず、私へ殺意をぶつける権利があり、そして私を見捨てる自由もある。
なのに、彼女はそれを行わずあまつさえ私を〝患者〟として見た。
それが、少し心苦しい。
いっそ真っ当に憎んでくれたのなら…殺意を向けてくれたのなら…そう〝楽な方向〟に逃げたくなってしまう程に。
「…いや、何でもない。
…君は過去を知ったらどうするつもりなんだ?」
私の内心など知らず、彼女の質問が飛ぶ。
返答は、考える必要もない。
やることは変わらない。
「過去を知っても、知らなくても…やる事は変わらないさ。
全てが終わった時、私は全てを支払う。
私は、私の行いを永遠に否定する」
生まれてはいけなかった。否、辿った道を何処かで間違えた。だからこそ、私は私の〝成功〟をこの世に残してはならない。
私は、勝利者になってはならない。
抹消し、忘れさられ、虚無に還る。
誰の思い出にも残らず、ただ消えよう。
「私の行い、全てを生きた痕跡諸共、歴史から消す」
「…君は医者の前でそれを言うんだな」
血を吐くような、苦痛に耐え忍ぶような声が聞こえた。
ぐい、と身体が動く。
…私はケルシーに胸ぐらを掴まれている。
鋭い目が間近にある。
憎悪と呼ぶには優しく、慈愛というには悍ましいその双眸は、まるで奈落の底のように真っ暗だ。
見ているだけで、飲み込まれそうになる。
「…ドクター、私は定期的に君を検診する。
そして私は非常時を除き、君のバイタルと精神状態を確認することを許されている唯一の人だ、覚えておくといい」
…私は、此処に来て彼女の地雷を踏み抜いた事を察した。
今だけは、自身の鈍った脳髄を呪う。
ぎちり、と歯を食いしばる音が鳴る。
「分かるな? 私は意地でも君を〝治す〟
その精神も、体も、何もかも矯正する。
痕跡を消す? 存在を否定する?
ふざけるのも大概にしてくれ。
過去のために、今を支払わないでくれ」
何度も、何度も何度も身体が揺さぶられる。私の体が、何度も手すりに打ち付けられる。
彼女にしては至極珍しい、感情の爆発だ。そして私は彼女を止める術など持ち合わせておらず、ただ受け止める事しか出来ない。
───ただ、何となく察した。
置いていくなと、消えるなと、此処に縛られていて欲しいと、彼女は彼女なりの思いで「私がロドスにいること」を望んだのだ。
それは拗れた怨讐なのか、憎悪がねじれたせいなのか、それともアーミヤを起因にしたものか、どれが正しいかわからない。
しかし、察した。
きっと私はまた〝狂わせた〟のだ。
「───私が君に向けた憎悪を、〝 〟を、感情の全てを、アーミヤとテレジアが信じた君を、ロドスで過ごした君を、私の感情のやり場を」
…だが、私にとって…それは…
「頼むから、無かったことにしないでくれ」
ともかく、私の話は此処で一度おしまい。
私は、私なりの責務を持った。
そして、やるべき事もまた増えた。
これから先、どうなるかはわからない。
だが答えは、挑む者にしか与えられない。
ならば、進むしかない。
何を失おうとも、喪っても、ただ先に足を運び続ける。
───全ては〝夜明け〟の為に、この方舟を未来に届けよう。
この後の色々
ドクター→ケルシーとの会話が柔らかくなるけど何か言葉の全部が重たい。戦いが終わった後には原石病根治のための研究に尽力。複数の成果を出すが根治の目処が立った瞬間行方不明になる。
ケルシー→ドクターへの言葉が柔らかいけど一々クッソグラヴィティ。これにはW も真顔で「湿度が高すぎて息苦しいわね」宣言。原石病根治の第一人者になり、医者としての腕を振るいつつ消息を絶ったドクターを生涯をかけて探すことになる。
見つかった√→ケルシーによってドクターが連れ戻される。ドクターが二度と「余計なこと」をしないようにあらゆる手段で生涯縛り続ける。(仕事ドン)(責任を取らせる)(責務ドン)
間に合わなかった√→アプリ本編冒頭の「霧の中にあった目」とドクターが「共犯」してケルシー以外の全てが〝ドクター〟を忘れる(約束通り「気持ち」は消さなかった)
番外編
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全てが終わった後のドクターの日記
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全てが終わった後のケルシーの日記
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全てが終わった後のアーミヤの日記