雲居の空   作:くじぃらぁす

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蟲柱 胡蝶しのぶ

「花柱、胡蝶カナエ 上弦の弐と遭遇」

上弦の鬼は、柱三人分の実力。それなら、姉さんはどうなる?考えたくない。

早くこの鬼を倒して、姉さんの元へ向かいたい、この鬼を無視してでも。

鬼に上手く攻撃できない、いつもならこんな雑魚鬼すぐに倒せるのに。

息が上手にできない、呼吸も上手く使えない。

でも私hここから逃げることを許されない、それは姉さんとの約束があるからだ。

(しのぶ、私達のような思いを誰もしなくていいように、私達が守れるようになろう)

姉さん、私逃げないよ。この鬼を倒して向かうからそれまで待ってて。

 

「姉さん、姉さん。今帰るから」

上弦の鬼がなんで、今まで姿すら現わさなかったのに。

考えてはいけない、いけないとわかっている、でも頭からこの考えが離れない。

姉さんがその鬼に負けてしまっている光景が、頭から離れないんだ。

私を置いていかないで、姉さんがいない世界で私は………生きていける自信がない。

涙で前が見えない、まっすぐ走れない。

なんでこんなに遠いの、任務に来る時とても近く感じたのに。

 

角を曲がれば蝶屋敷に着く、帰ったらしのぶおかえりと言ってくれるはずだ。

私の大好きな笑顔で、待ってくれていると思う。

 

「アオイ、カナヲ、カナエ姉さんは!?」

なんでそんな顔をするの、いつものように戻ってきてくれるよね。

探しにいかないと、もう日は昇っているから戦いは終わっているはずだ。

探しにいきたいのに、立ち上がることができない。アオイとカナヲが肩を貸してくれた。

アオイが泣いているのを見て、私もまた泣いてしまいそうだ。カナヲは、涙は流さないものの、たくさん汗をかいている。

 

 

「アオイにカナヲ、姉さんを探しに行ってくるから。蝶屋敷を、きよ達をお願い」

玄関を開けると、そこには三人が立っていた。

声を出すことができない、涙だけが流れて止まらない。生きていてくれた、帰ってきてくれた。

姉さんと、真菰さんに目立った傷はない。でも夜去からは呼吸をするたびに肺から妙な音が聞こえる、それに片腕が動かないみたいだ。

 

「私、もう帰ってきてくれないかと思った」

「おかえり、姉さん」

 

「夜去が守ってくれたの。私と真菰ちゃんを」

「ただいま、しのぶ」

やっぱりそうだったんだ、体を見た時からわかっていた。

命をかけて私の大切な人を守ってくれたんだ。

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます。大切な姉さんを助けてくれて。何かお礼をさせてください、なんでもします、させてください」

私の大切な姉を助けてくれたんだ、なんでもする。どんな要求にだって答えるつもりだ。

すると夜去は私の頬をつまんで言った。

 

「しのぶさんの笑顔で笑ってください、それだけでいいんです、ほかにお礼はいりません」

夜去はなんのために戦っているんだろう。鬼殺隊の隊士はそれぞれ何かを求めて戦っている。

鬼を滅ぼすため、お金をもらうため、力を手に入れるため。でも夜去はどれとも違うと思う、なんのために戦っているんだろう。

私の笑顔だけでいいなんて変だ。可愛げがない、無愛想な私の笑顔を見て誰が嬉しいんだろう。

でも、なんでもすると言ったからには断れない。私はぎこちない笑顔を夜去に見せた。

 

「なんで、夜去が泣いてるの」

 

「しのぶさんのその笑顔をもう一度見れたことが嬉しいんです

「ぎこちないですね、しのぶさんの本当の笑った顔は」

なんで、夜去は私の笑顔なんかでここまで喜んでくれるのだろうか。

姉さんの方が断然いいに決まってるのに。でもその言葉に嘘は混じってなかったと思う、全部本心だった。

不思議でたまらない、ついこの間会ったばかりではないような気がする。もっと昔に会っていたような気がして仕方ない。

前は失わせてしまったみたいな言い方だ、でもそんなこと気にしている時間はなかった。

夜去がひどい熱を出して、倒れてしまったからだ。

 

 

上弦の弍の撃退は、親方様を始め鬼殺隊全員の耳に届いた。

上弦の鬼を一人の柱と二人の隊士が撃退したということは、鬼殺隊の士気を上げた。

その士気を感じられない人がいる、倒れた後一週間も起きていない、もっとお話ししたいのに、お礼を言いたいのに、早く起きてよ夜去。

真菰さんが看病をしている慣れない手つきで、そして二人の水柱様もよく蝶屋敷に来る。

 

「しのぶちゃん、カナエちゃんの所に行ってあげて」

姉さんはあの日から、前のように笑わなくなった、どこか苦しそうに笑っている。

それでも涙は絶対に見せなかった、あの日以来、姉さんの涙を見たことはない。

あの眩しい笑顔をもう一度見たい、太陽のような笑顔がみんな好きだった。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「しのぶ、大丈夫だよ」

大丈夫じゃないということは声でわかってしまう、今までずって一緒にいたから。

私には何もできない、かけるべき言葉が見つからない。

しばらくすると水柱様と真菰さんが来て、任務に行くから夜去を頼むと言われた。

 

「胡蝶、あまり自分を責めるな。夜去はそんな胡蝶を見たら悲しむぞ」

 

「でも、私のせいで………」

 

 

「動いてはいけません。安静にしていないと」

アオイの声が近づいてくる、また誰か、無理して任務に行こうとしているのだろうか。

二人がこの部屋に入ってきた時、私達は声を失った。

 

「カナエさん、しのぶさん」

ずっと目を覚まして欲しかった人、お礼を言いたかった人。

声を出すのさえ辛いはずだ、歩くのもアオイに肩を貸してもらっている。

二人の水柱が頭をよくやったと撫でている、真菰さんは嗚咽をもらして手を握りしめていた、もう二度と離さないようにと。

 

「しのぶちゃん、カナエちゃん。夜去をお願い、私も任務を終わらせて早く帰ってくるから」

三人とアオイがいなくなり部屋には、私達だけになってしまった。

 

「私のせいで、ごめんなさい、ごめんなさい」

今の姉さんを変えれられる人はいない、前の姉さんにはもう二度と戻らないと思う。

謝り続ける姉さんを見て、夜去が悲しそうな顔をしていた。

何か閃いたんだと思う、その顔は悪戯をする子供のようだった。

姉さんの手の平に何か文字を書いて、悪意に満ち溢れた笑顔で笑っている。

 

「いじわる…でも私のせいで……」

 

「しのぶさんカナエさんが言ってました」

 

「言わないで、言わないでお願い」

私の知らない姉さんを知っているのだろうか、すごく気になる、聞きたくて仕方がなかった。

 

「何かあったんですか?私にも教えてくださいよ、気になります」

 

「やめて、やめて、その話はもういいから!しのぶも聞かないの」

こんな姿を見たことがない、恥ずかしがっている姿なんか今まで一度も、いつも余裕の表情で私のことを揶揄ってきた。

今しかない姉さんに今までの鬱憤を晴らす機会はない、私が揶揄ってやる。

夜去もその気が満々のようだった、そのあとは二人で姉さんを弄り倒した。

 

「二人とも許さない、ご飯なしだからね」

 

「ごめんなさいカナエさん

でも僕は病み上がりです」

 

「そうね、夜去には食べさせてあげないとね。しのぶはなしだけど」

夜去は最後まで姉さんの秘密を話してはくれなかった、優しすぎると思った、お人好しすぎる。

ちょっと待って、今なんて言った?

 

「私だけなしなの?なんでよ、ずるいよ」

 

「残念ですねしのぶさん」

優しいなんて嘘、やはり意地悪だ。

 

「夜去、後で傷に染みる薬塗ってあげる。楽しみにしててね」

姉さんはそんな私達、二人の会話を聞いて前のように笑っていた。

夜去は姉さんの暗く閉ざされた心さえこじ開けて、照らしてしまった。

 

「ご飯食べましょう、カナエさん、しのぶさん。あ、しのぶさんはなしか」

私と姉さんの手を取り歩き始めた。

手を握られたことが私は嬉しい、嫌なんかじゃ全然ない。この手が私は好きなんだなと感じた。

知らないうちに惹かれていたんだと思う、あなたの笑顔を目で追ってしまう。

夜去の笑顔は雪のようだ。とても美しい、でもいつか溶けて消えてしまう気がする。

ずっと一緒にいたい、この手を離さないでほしい。こんな感情初めてだ、これはなんという感情なんだろう。

大切な人を守るために何ができるんだろう。鬼の首が切れない私に。

 

 

ご飯を食べている間に考えた結果、これしかないと思った。

三人でも倒せなかった上弦の鬼に鬼の首が斬れない私にできること、毒でしか鬼を殺せない私にできること。

それは私自身が毒になり、童磨という鬼に喰べられることではないだろうか。

今日から藤の花の服用を始めよう、二人に見つからないように。

今日は初めてだから、少量にしておいた方がいいかな…

口に入れることができない、あと少しなのに。

守るときめた大切な人達を。

 

「何をしてるんですか?」

なんで今来てしまうの、あと少しだったのに。

そんな顔しないでほしい、貴方にその顔は似合わないから。

 

「今日から、藤の花を摂取しようと思いましてね」

ごめんなさい、私には貴方達を守る力がない、この方法以外ないんです。

どうか許してください、貴方達にはなんとしてでも生きてもらいたいんです。

 

「何で、そんなことするんですか!」

 

「私が鬼殺隊の皆さんから、なんて思われているか知っていますか?鬼の首が斬れない女隊士ですよ」

「私だけなんです、鬼殺隊の中で首が斬れない隊士は。そんな私に何ができますか?」

昔は鬼の首が斬れないことをよく馬鹿にされた。それでも私は諦めたくなくて、見返してやりたくて鬼を殺す毒を作った。

毒は鬼をすぐには殺せない、首を斬れたらすぐ殺せるのに。

本当は今でも馬鹿にされていることはわかっている、姉さんが柱だから何も言われないだけだ。

 

「藤の花なんて摂取しないでください

しのぶさんにできることはたくさんあります」

夜去に何がわかる、私が今までどれほど絶望したことか。

鬼の首を斬れないことをどれほど馬鹿にされたことか。

 

「夜去に何がわかるの?知ったようなこと言わないでよ!」

なんでそんな悲しそうな顔をするの、今辛いのは私の方だよ。

ずっと鬼殺隊士の中で浮いた存在だった。

ずっと孤独を感じている、鬼の首を斬れないということに。

 

「痛いほどわかります、でもしのぶさんは本当にすごいんです。

「いつか柱になってしまうんです。鬼の首が斬れなくても関係ない、たくさんの人を助けれると貴方が証明するんです」

「貴方の戦う姿が勇気をくれたんです、だから僕は今戦えています」

「しのぶさんにできることは沢山あります、だから明日まで待ってください」

痛いほどわかるなんて嘘だ。

私が柱になる?何を言っているのだろうか。そんな日は来るはずがない。たくさんか人を助けれると証明する?できたらどれほど嬉しいことだろうか。

勇気なんて与えたはずがない、最近会ったばかりじゃないか。

明日までに何かあるのだろうか、明日になっても私はこの決断を決して変えない。

二人の間に静かな時間が訪れた。

 

「夜去、戻ったよ。錆兎と義勇が夜去についていてやれって、二人も心配性だね」

 

「優しいですね、二人とも。真菰さん少し一緒についてきてくれませんか?」

 

「わかった、しのぶちゃん行ってくるね」

心を落ち着かせないと、夜去に怒ってしまった嫌われてしまったと思う。

でもそれでいい、そうしたら私が藤の花を摂取しても何も思わないだろう。

 

 

たくさんの怪我人が来て夜去と話す時間がない、決意は変わらないと伝えたいのに。

 

「首が斬れない隊士だ。やっぱり上弦の弍を倒したのも花柱様なんだ、やっぱり柱はすごいな」

横になっている鬼殺隊士の人達が話をしている。いつもはあまり話は聞かない、でも今日だけは聞かないわけにはいかなかった。

(鬼の首が斬れない隊士)という言葉が聞こえたから。私のことを言っているのだろうか?久しぶり言われたこともあり少し腹が立った。

 

「誰の話をしているんですか?」

 

「胡蝶さん、あの少年ですよ」

「すごいですね、花柱様は鬼の首を斬れない隊士と、その相棒を守りながら戦った

柱はやはりすごいな、俺もなれるかな」

「知らないんですか?昨日、親方様から、鬼の首を斬れない男隊士がいると鎹鴉から知らせが来たんですが」

そんな知らせ来ていない、私の他にも首が斬れない隊士がいるのか。私と同じ思いをするはずだ、支えになってあげなくては。

その人が指を指す方向にいたのは、私が話したかった少年。真菰さんと二人で歩いている夜去だった。

治療を全て終え夜去の元へ駆けつける。

 

「夜去、貴方も首が斬れないの?」

 

「斬れません。だから貴方の気持ちが痛いほどわかります」

だから昨日、言ったのか。私はそんなこと知らずに酷いことを言ってしまった。

 

「しのぶさん今の僕の話なら信じてくれますか?」

私は頷くことしかできない、信じれないわけがない。

 

「しのぶさんは本当にすごいんですよ、鬼の新しい倒し方を見つけた」

「それは他の隊士では成し得ませんでした、貴方にしかできなかったんです」

今ならこの言葉を素直に受け止めることができる、夜去の笑った顔が涙で歪んできた姉さん以外で私を認めてくれたのは夜去が初めてだ。

 

「一緒に倒しましょう、しのぶさんは一人じゃないんですよ?」

 

「夜去や姉さん達を失いたくない、ずっと一緒にいたい」

 

「僕も一緒にいたいです

だから毒なんて摂らないで生きてください」

私が悲しい想いをしないためにとばかり考えていた。私もみんなにそんな想いさせることを考えていなかった。

何を言われてもこの決断を変えないと決めていたのに、でも夜去とならこの道を進んでいけるのかもしれない。

 

「わかった、藤の花の摂取なんてしない。他の道を探す、絶対に諦めない、みんなを守ることを、自分も生きることを」

 

「うん、僕の知っている蟲柱、胡蝶しのぶですね

最後まで諦めない、苦しくても立ち上がる。

そんな貴方に憧れています、ずっと尊敬しています」

何を言っているんだろう、それにしても蟲柱って、姉さんは花で綺麗なのに。

けど嫌な思いはしない、私の大切な人に言われたんだから。

 

「何言ってるの蟲柱とか。もっといいのはないの?」

「私に信じてもらうために首を斬れないことをみんなに言ったの?」

 

「いつかはわかることです」

 

「私は姉さんがいるから何も言われないけど、夜去は辛い思いをすると思う」

今から馬鹿にされるかもしれない、それに耐えることができるだろうか。

 

「大丈夫です、いつか蟲柱 胡蝶しのぶのようになりますと言える日が来ます」

「誰もそれを聞いたら、馬鹿になんてできなくなります」

私も柱を目指してみようと思う、階級が一つ上がれば柱になれる条件の甲になれる。

夜去も今回の童磨との戦いで階級は飛躍的に上がると思う、夜去が先に柱になったら私も言おう。

何柱がいいんだろう、そういえば時の呼吸と言ってたような。

 

「夜去が先に柱になったら私も言う、時柱 明月夜去のようになりたいって」

二人で指切りをした、もう大丈夫だ、私は前を向いて進んでいける。

ありがとう夜去、そしてだい………はまだ言えない。

 

 

 




次日常回にしようと思います、その後から鬼滅の刃、原作の始まりかも。

日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります

  • イーオ
  • ヨロシクナイ

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