雲居の空   作:くじぃらぁす

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空白の時間を

両親が死んだのは、十歳の時だった。

母さんは風邪をこじらせて肺炎で死んだ。そんな母を助けるために、嵐の中薬を取りに行った父は崖から落ちて死んだ。

それから僕は兄と二人だ、でも兄とはある日を境に会話もしなくなった。

父さんは言っていた、情けは人のためならずと。人のためにすることは巡り巡って自分のためになると言っていた。

でも兄に言われた、人のために何かしようとして死んだ人間の言うことはあてにならないと。

無一郎の無は無意味の無、無一郎の無は無能の無だと兄から言われた。

兄はとても言葉のきつい人だった、母さんと父さんがいた時はそんなことなかったのに。

兄と二人の暮らしは息が詰まるような毎日だ、僕は兄に嫌われていると思うし、兄はとても冷たい人だと思うから。

 

 

春頃に僕たちの元に綺麗な女性が来た、その人は鬼殺隊という組織の親方様の御内儀だ。

僕たち二人は一番最初の呼吸を使う剣士の子孫で、鬼殺隊に入らないかという勧誘で来ていた。

僕は嬉しかった、鬼に苦しめられている人を助けれると思ったから。

兄に剣士になろうと言った、すると兄からは罵倒を浴びせられた。

──

「人を助けるなんてことは選ばれた人にしかできないんだよ」

「先祖が剣士だからと言って俺たちに何ができる」

「教えてやろうか俺たちにできること?犬死にと無駄死にだよ、母さんと父さんの子供だからな」

──

この日から、僕たちは口を利かなくなった。

ずっと家へ通ってくれるあまね様に、兄が水をかけた時だけ一度喧嘩をしたくらいだ。

 

 

今日はとても暑い、苛々する。

何か外にいる気配がする、獣などではない異様な存在に兄も気付いているようだ。

玄関の扉がいきなり開いた、そこに立っていたのは人の姿をした化け物だった。

ひどい血の匂い、何人も人を殺しているとすぐにわかる。

兄が僕を庇って前に出てくれている、兄が殺される。嫌だ、一人になってしまう。

誰か助けて欲しい、鬼殺隊は僕たちのような弱い人を助けてくれるんじゃないの?

 

「どうせお前らみたいな貧乏な木こりは何の役にも立たないだろ」

「いてもいなくても変わらない、つまらねぇ命なんだよ」

この鬼の言うように、いてもいなくとも変わらない命なんだろうか。

兄の言ってた通りだ、僕たちは人の役になんて立てないんだ。

僕たちは選ばれた人間なんかじゃない、そして僕は無能なんだと実感させられる。

 

 

鬼が爪で切りかかるとあたりに血が飛び散った。

でもその血は兄の血ではなかかった、兄を庇ったでいで爪がその人の腕を引っ掻いたんだ。

背中に滅の字が刻まれた隊服を着て、晴れた日の空のような羽織を着ている人を。

僕たち二人の前に立ってくれたその人は決して大きくない、腕も細い。

でも僕はすごく大きく感じた、それに安心したんだ。

 

「二人を馬鹿にしないでください。つまらない命などない」

「今の言葉を訂正してください、その言葉を絶対に許さない」

この人は僕たちのために本気でこの鬼に怒ってくれている。

僕はやっぱり、鬼殺隊に入りたい。兄に何と反対されようともこの人のように弱い人を助けれる人になりたい。

 

「事実を言って何が悪い?」

 

「その、鬼の言う通り俺はいてもいなくても変わらない。でも、無一郎だけは違うんです」

「無一郎は、助けを求めている人に手を差し伸べられるすごいやつなんです。だから、どうか無一郎だけは助けてください、お願いしす」

 

「兄さん……」

兄さんはこの人が鬼に負けると思っているんだ、自分が時間を稼ぐからその間に僕たち二人を逃がそうとしている。

今まで誤解していた、兄さんは冷たい人なんかじゃない、僕を嫌ってなどずっといなかった。

でも自分が兄だから弟の僕を守らないといけないと思っていた、だから無理をしてでも冷たくしていたんだ。

 

「貴方は弟さんを命を懸けて守った、弟さんは貴方をいてもいなくても変わらない存在だと絶対に思ってない。それに僕も思ってません」

「安心してください、僕は負けませんから」

「後ろに守りたい人が二人もいるんです、だから大丈夫です」

兄はその人の言葉に心打たれたかのように、胸に手を当てている。

そう言って笑ったその人の顔を見れば、兄も僕もこの人なら大丈夫と安心した。

 

「鬼滅隊の下っ端が調子に乗りやがって。三人とも殺して喰ってやるよ」

鬼が喋り終わるのと同時に、今駆けつけたもう一人の鬼殺隊の人が鬼の首を斬った。

兄さんも生きている、みんな生きている、よかった。

 

「夜去、腕の傷すごく深いよ」

夜去さんって言うんだ、女性が夜去さんの腕に包帯を巻いている。

 

「大丈夫ですよ、このくらい。ありがとうございます」

兄さんを庇った時に引っ掻かれた傷だ、たくさん血が飛んだ深い傷じゃないわけない。

なんて謝罪しよう、お金もないから何も夜去さんに何もしてやれない。

 

「ごめんなさい、俺を庇ったせいで貴方が深い傷を負ってしまった」

「俺は何でもします、だから無一郎のことはどうか許してやってくれませんか?」

兄さんは何を要求されるんだろう、兄さんは僕を庇ってくれたんだから、それは僕の役割だ。

 

「兄さんは僕を庇ってくれたんです、だから許してください、僕が何でもしますから」

 

「ちょっと待って待って、僕は何もいらないから。この傷だって、そんなに深くないよ」

「僕、そんな風に見えるのかな…」

自分は何も求めずに、命を懸けてまで他人の命を守る人を初めて見た。

腕の傷が浅いわけない、僕たちに罪悪感を持たせないために痛いのに我慢して笑顔を見せている。

 

「でも、何か返さないと貴方に悪いです」

「何でも言ってください、僕たちにできることは少ないですけど」

 

「え〜それじゃあ……ここに泊まっていいですか?」

この人にはもっといい家があると思う、こんな見窄らしい家でいいのかな。

 

「こんな家でいいんですか?中なんて狭いし美味しい食べ物もだせません」

 

「大丈夫です、よろしくお願いします」

 

「夜去、蝶屋敷に戻らないと二人からまた何か言われるよ」

「この一週間でわかったでしょ?二人は夜去の帰りを待ってるんだよ」

 

「そこをお願いします真菰さん。二人には上手に説明してくれませんか?」

「僕だけじゃないよ、真菰さんの帰りも待ってるよ」

この人はみんなに好かれているんだ、今日初めて会ったばかりだけど僕もこの人が好きだ。

仲良くなりたい、お話もしたいな。

 

「今日だけだよ、明日早く帰ってこないとダメだよ。一人で夜寝られる?私がいなくても大丈夫?手を握らなくても大丈夫?」

 

「言わないで!手なんて最近だけじゃん」

女性は揶揄うだけ揶揄って、ニコニコしながら帰って言った。

顔をすごく紅くして下を向いている、さっきまであんなにかっこよかったのに。今は可愛い、弟のように思えてしまう。

でもよく見たら、僕ともそれほど年齢変わらないのかな?身長もあまり高くないから尚更そんな風に思ってしまう。

でもそれだけではない、夜去を知っているような以前に会った人なら僕は忘れないけどな。

 

「名前はなんて呼べばいいでしょうか?」

 

「夜去って呼んでください」

 

「助けてもらった人に、呼び捨てなんてできません」

 

「夜去、中入ろう」

この人をこんな風に呼んでいたような気がする、だからすぐに呼べた。

兄さんは少し呆れた顔で後から家の中に入ってきた、兄さんと少しだけ仲直りできた気がする。

また前みたいに仲良く暮らしたい、今日でたくさん話せるといいな。

埋めていきたい、空白の兄さんとの時間を。




時任家に泊まる話が次一話あります。

日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります

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