「炭治郎、顔が真っ黒じゃないの。こっちにおいで」
「雪が降って危ないから行かなくてもいいんだよ」
正月にはみんなに腹いっぱい食べさせてやりたい、いつも無理させてばかりだから。
竹雄と花子が一緒に行きたいと言っているが今日は連れて行けない。荷車を引いて行かないから二人が休みたいと言っても乗せてあげれないからだ。
何かお土産を買ってきてあげよう、そのためにたくさん炭を売らないと。
竹雄には悪いことをしたな、一緒に木を切る約束をしたのに。
「お土産買ってくるから、母さんの手伝いをして待っていてほしい」
父さんが死んでしまってから母さんはすごく頑張っている、少しでも楽をしてほしい。
「わかった、兄ちゃん早く戻ってね。いってらっしゃい」
「いってきます」
手を振ってくれる家族に手を振りながら、街の方へと歩く。
「兄ちゃん、いってらっしゃい」
禰豆子は六太を寝かせてくれていたのか、本当に働き者だと思う。
禰豆子の将来の旦那さんは、どんな人なんだろうか。とても落ち着いていて、温厚で、真面目な人だと俺は思うんだけどな。
逆もありえるのかな?どちらにせよ将来がとても楽しみだ、まだ早いと思うけど。
生活は楽ではないけど、本当に幸せだな。
父さんが死んでしまって寂しいけど、みんながいてくれるから毎日が幸せだ。
これ以上の幸せは何も望まない、この生活が続いてくれるだけでいいんだ。
でも人生は空模様のようなものだから、ずっと晴れ続けることもないし、雪が降り続けることもない。
良い事ばかりは起きないし、悪いことばかりも起きない。
そして幸せが壊れる時には、いつも血の匂いがする。
今日は雪が降っていることもあり、炭がよく売れる。これなら早く帰ることができるかな。
でも街の人が助けを求めてきたら断れない、人のために何かすることは好きだし、母さんと父さんにもよく困った人がいたら助けてあげてと言われたから。
「たんじろぉ〜、皿を割った犯人にされたんだ。匂いを嗅いでくれ。
俺は鼻がよく利くから、何か手助けできたらいいけど。
猫の匂いがしたと伝えると信じてくれた。よかった疑いが晴れて。
そんなこんなで気付けば夕方になっていた。早く帰ると言ったのに、急いで帰ろう。
「こら、炭治郎。お前今から山に帰るつもりか?危ねえから、泊まっていけ」
「俺は鼻が利くから平気だよ」
「うちに泊めてやる、いいから来い、戻れ」
それでも戻らないと心配させてしまうと思い、断っていると真剣な顔で言われた。
「鬼が出るぞ」
鬼…本当にこの世にいるのだろうか、何かの例えかな?山賊とか強盗とかだろうか。
あまりにも顔が真剣だったから、三郎爺さんの家に泊まることにした。
明日、朝早く帰ればいいと言われた。それもそうだな、日が登る前に帰ろう、みんなの待っている家へ。
「鬼は家の中に入ってくるのか?」
鬼のことが頭から離れないので三郎爺さんに、さっきから鬼の話ばかり聞いている。
「いや入ってくる、鬼狩り様が鬼を斬ってくれる昔から」
入ってくるのか、じゃあ鬼狩り様という人たちがいないとみんな喰われてしまうのか。
昔から伝わっている、夜に子供達が外を出歩かないようにするために伝わっている話なんだろうな。
三郎爺さんは家族を亡くして一人暮らしで寂しいのかな、今度みんなで来てあげよう。
怖がらなくても大丈夫、鬼なんていないから。
でもそういえば、うちの婆ちゃんも死ぬ前に同じことを言っていたな…
昨日の鬼の話が気になり、夜が明ける前に目が覚めてしまった。
家族が鬼に殺されてしまっていたらどうしよう、早く帰ってみんな生きていることを確認したい。
布団を畳んでいると三郎爺さんが起きてしまったので、帰りますと伝えた。
急ぎ足で家に帰っていると、微かに血の匂いがした。
鼓動が速くなり、胸騒ぎがする、本当に鬼がいて家族は鬼に殺されているのではないか。
「何故守る?お前はそんなに傷を負ってまで。こんな家族置いて逃げれば、お前は助かるんだぞ。
「弱いものを助ける英雄にでもなったつもりか?なにかの主人公にでもなったつもりか?お前は所詮、鬼の首が斬れないイカれ集団の底辺だ」
背中に滅の字が刻まれた服を着て刀をもっている人を、ここら辺では見たこともない服を着た成人男性が攻撃していた。
成人男性の方からは血の匂いが嫌というほどして、鼻がおかしくなりそうだった。
「この人たちは絶対に守らないといけないんです。僕の大切な人の大切な人たちだから」
「英雄、物語の主人公なんて思ってない。けど憧れた、弱き人を助ける鬼殺隊の英雄たちに。誰にでも優しく、相手のことを想いやることのできる物語の主人公のような人に」
「英雄のように一人で全員を守ることもできない、物語の主人公のように誰も勝てない相手を倒すことも僕にはできない」
この人からはとても優しい匂いがする、涙が溢れ出しそうなほどに。
実際その人の後ろにいる、俺の家族はみんな泣いていた。
どれほどの時間一人で戦って、俺の家族を守ってくれていたんだ、俺が三郎爺さんの家でぬくぬくと寝ていた時からだろうか。
血がたくさん出ている、あんなに出てしまったら立っているのさえ辛いはず。
「よくわかってるじゃないか。ならさっさと逃げろ、邪魔だ」
「わかっていても逃げない、憧れた人たちは絶対にここで逃げない。守り抜く、約束したから」
あの人の憧れた人たち、その人たちは本当にすごい人たちなんだろうな。
あの人の感情を少しだけ読み取ることができた。
その人たちは自分の命を犠牲にしてまでたくさんの人々を守ったんだ、そしてその人たちを守りたいと思っている。
でも自分の命を犠牲にしてでもたくさんの人々を守った人たちを守りたい?その人たちは、もう亡くなっているんじゃないのか?
少し矛盾しているような、今は血の匂いが濃すぎて鼻がおかしくなっているのかもしれない。
「もういい、日の出も近いから遊びも終わりだ。殺してやる」
もう、木の間から黙って見ているのは嫌だ。俺もあの人と一緒に、大切な家族を守りたい。
「おい、お前!」
持っていた斧をその男に投げつけた、斧が刺さらないあの男はそれほど硬いんだ。
男は俺のことをすごく睨んでいる、ものすごく怖い、この人と今まで戦っていたのか。
「もう、一人いたのか。なら、お前からだ」
久しぶりに死を実感した。前にも一度、熊にあった時に実感したことがある。
その時は父さんがまだ動けて、俺を守ってくれた。懐かしいな、どれほど前になるんだろう。
「炭治郎さん!なんでこんな早くに」
「時の呼吸・六の型 常永遠」
俺の目の前まできていた触手を、刀で防いでくれたが勢いを消すことが出来ず二人とも飛ばされてしまった。
あんなに遠くまでいたのにいつの間にここまで来たんだ、俺と同じように鬼も驚きを隠せていない様子だ。
それほど速かったんだ、いや速いとかいう次元ではない、時間を止めて動いていたとしか思えない。
今わかることだがこの人は手足がとても細い、少しでも衝撃を与えれば折れてしまいそうなほどに。
瞬きして次に目を開けると、目の前に立っていたその人は吐血し膝をついていた。呼吸もどこかおかしい、とても苦しそうだ。
「終わりだな、この家族は鬼にする」
やめてください、お願いしますと何度も何度も頭を下げながら前で言っている。
でもその人は口の中にたくさん血がたくさん溜まっていて、息も上手に出来ていないから上手く言えていなかった。
やめてくれ、俺の大切な家族を奪わないでくれ。他のものは何もいらないからお願いだ。
夢でも見ていたのか、そう思い目を開けるとあれは夢でなかったことがわかった。
家の中には大切な家族の死体があり、血飛沫が壁や床に散っている、あの鬼に殺されたんだ。
涙が溢れ出してくる、幸せな日常は壊れてしまったと実感する。お土産を買ってくると言ったのに、腹一杯食べさせてあげると言ったのに。
親孝行なんてできていない、お兄ちゃんらしいことなんてしてやれていない。
禰豆子と俺たちを守ってくれた人がいない、家族には置いていくことを悪いと思いながら二人を探した。
体が悲鳴をあげていることも忘れて、二人を探した。
「夜去、なぜ庇う?そいつは鬼だ」
「僕の…せいな…んです。二人が………来てくれるまで…守るといいった…のに」
「鬼に…されて…しまいましたが…優しい人…なんです。お願いします、錆兎さ…ん、義勇…さん」
夜去さんという人だったのか、禰豆子が鬼に…確かに匂いが違う、本当に鬼にされてしまったんだ。
2人に土下座をしながら禰豆子のことを庇ってくれている、夜去さんに助けてもらってばかりじゃないか。
禰豆子もそんな夜去さんを見て涙を流している、二人も鬼が涙を流している光景を見て驚いていた。
「もう、いいわかったから。喋らなくていい、動かなくてもいい。自分の傷の深さに気付いていないだろ」
「夜去のせいじゃない、俺たちが遅れたせいだ、本当にすまない」
「義勇の言う通りだ、大人しくしていてくれ頼むから」
「他の家族は全員殺されたのか?」
「僕の事は…あとで…いいですから。もう一人の…男の人を…」
俺なんてたいした傷はしていない、夜去さんの方が傷だらけじゃないか。
なんでそこまで俺たちのことを考えてくれるんだ、わからない、わからないよ。
「わかった。義勇、夜去の事を頼んだぞ」
「俺はここにいます」
三人の前に出て行くと、夜去さんは何度も何度も涙を流しながら俺に謝り始めた。
あなたが守ってくれたのに、禰豆子と俺の事を。大切な家族のみんなも感謝しているはずです。
だからそんなに何度も謝らないで欲しい、謝らないといけないのは俺の方なのに。
あそこで自分の弱さ知らずに出ていってしまった。だから家族を失ったんだ、だから夜去さんにそんな酷い傷を負わせてしまった。
「そんなに謝らないでください、夜去さんにたくさん助けてもらった。それに禰豆子の事を鬼にされた今でも優しい人だと言ってくれた」
それでも謝り続ける夜去さんを黙らせて義勇さんという人がお姫様抱っこをしている。
名前を聞かれたので、俺と禰 豆子の名前を伝えた。そして今から二人の師匠の所に行くことになった。
埋葬だけはさせて欲しい、あのままでなんていけない。
「家族の埋葬だけはさせてください。それに少し話したいので」
夜去さんは気を失っていた、逆に今まで目を開けて立っていたのが不思議だ。
義勇さんと錆兎さんは想いを伝えてこいと言って、禰豆子と俺の二人で家に行かせてくれた。
「妹を太陽の元に連れ出すなよ」
「母さん、竹雄、花子、茂、六太…ごめんなさい」
でも謝っていると家族からは謝らなくていいと言われた気がした。
俺の家族は絶対に責めたりはしない、幸せを願ってくれているはずだ。
「炭治郎、禰豆子の事をよろしく頼むわね」
「兄ちゃん、姉ちゃんの事をお願い」
「置き去りにしてごめんね、二人の幸せをずっと願っているから。いつか全部終わったら、ここに貴方達の家に戻ってきて」
聞こえたのは家族の声だった、慣れ親しんだ声、間違うはずがない声。これが幻聴ならそれでいい、でも家族の思いはしっかり届いた。
禰豆子を守るために、俺たちのような人を出さないために、夜去さんのような人になりたいと思った。
いつかまた会えますよね、その時は感謝の気持ちを改めて伝えたい。
夜去さんは自分は英雄なんかじゃないと言っていたが、そんな事はない。
あんなに傷だらけの状態でも、立ち上がり守ってくれた。貴方以外にその言葉が似合う人はいません。
俺も貴方に心惹かれてしまった。あの二人、錆兎さんと義勇さんもきっとそうなんだろうな。
本当にかっこよかった、男の人にこんな感情を持つのはおかしいのかもしれないけど。
夜去はいつか消えてしまいそうな気がする、それは何故かはわからないけど。
「行こう、禰豆子」
先程まで雪が降っていたのに、太陽が出て雲ひとつない。
絶望してずっと下を向くのはやめる、今から前を向いていく。
戦うんだ、幸せになるために。
一回書いてたのに消えてた-_-
この人たちは守れなかった…
日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります
-
イーオ
-
ヨロシクナイ