「カナヲ、アオイ、夜去は戻った?」
「戻っていません…」
任務が長引いているのかな、いつも夜去さんは任務がある時は真菰さんと一緒だから一人で行くことはないと思うけど。
カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんからは明かりが消えかかっている。
私も不安でたまらない、でも絶対に戻ってきてくれる。
また名前を呼んで欲しい、もっとお話もしたい。私と一緒にいても何も楽しくないのに任務のない日は一緒にいてくれる、夜去さんといられる時間がとても好きだ。
「夜去、もう帰ってこないのかな。何かあったんだ、私たちのせいだ、私たちのせいで」
三人は自分をすごく責め、もう夜去さんが帰ってこないと言っている。
それを聞いて私はすごく腹が立った、三人が信じてあげないでどうする。
今まで姉さんに反抗したことなどない、でも今日は自分の感情を抑えることができそうにない。
「なんで信じてないの…」
「カナヲ?」
アオイが心配して私の顔を見ている。
大丈夫だよアオイ、この羽織があれば私は勇気が湧いてくる。
三人に言わないといけない、信じろと必ず戻ってきてくれると。
「夜去は帰ってくるよ!私はいくら三人でも夜去のことを信じないのは許さない」
私と夜去とアオイで約束した、必ず帰ってくると。
いつの約束かわからない、どこから帰るかもわからない。でも約束したのだけは忘れない、それだけはずっと心に刻まれている。
みんな驚いていた、私が今まで自分から進んで行動したことはなかったし、思っている事を口にしたことがなかったから。
「なんでカナヲは信じられるの?夜去は消えて、いなくなってしまいそうと思わない?」
「私も姉さんと一緒。だから割れ物のように扱ってしまう、ずっと隠していたいと思ってしまうの」
「私もカナエちゃんとしのぶちゃんと一緒だよ。夜去は雪みたいなんだ、とても儚くて綺麗」
「でも……」
なぜ信じられるかを答えられない、でも私は信じられるんだ。
三人と同じように消えてしまいそうだと私も思う、それでもまた会える気がする。
一度消えても太陽のようにまた昇って、みんなの凍った心を照らしてくれるんだ。
会った時からそうだった、夜去はみんなの太陽で癒しだった。私はそんな夜去が可愛くて、愛おしくて、何よりも大切なんだ。
この理由を三人に言葉で説明するのは無理だ、それにこの理由が通じるのは私だけだと思うから。
「これを夜去さんから三人へ渡しておいてくださいと」
──
カナエさん、しのぶさん、真菰さん心配をかけてごめんなさい。
僕が弱いから、力がないから三人に不安な想いばかりさせてしまって本当にごめんなさい。
でも弱くてもみんなと戦いたい、もう僕だけ戦えないのは嫌なんです。
鬼殺隊の皆さんと未来を生きたい、鬼のいない世界で一日一日を笑いあっていたい。
それはすごく険しい道のりだということはわかっています、でもこれは僕が初めて持った夢なんです。
どれほど険しい道のりでも僕は諦めません、途中で逃げません。二人の大切な姉と約束したことだから。
それにもう一人の大切な姉とも約束したんです、必ずその姉の元に、皆さんの元に戻ると。
だからカナエさん、しのぶさん、真菰さん僕を信じて待っていてほしいです。
追伸
これ美味しそうだったので、みんなで食べてください。
怒ってばかりだと老けます、三人ともお嫁さんにいけなくなりますよ。
僕は怒った女性は苦手です、もっと物静かで優しく包み込んでくれる女性がいいです。
なので甘い物でも食べて、怒りを鎮めてください、
──
先程まで不安しか感じられなかった三人の顔からは安堵と怒気が感じられる。
私でもわかるよ、三人がお嫁さんに行きたいのは夜去さんだよ、まだ気付いてないんだね。
三人もお姉さんがいたんだ。私も夜去さんの姉でありたいと思ってしまう時がある、歳は下なのに。
「帰ってきたらお仕置きが必要ですね。姉さん真菰さん」
「そうねしのぶ。乙女心を持て遊んでる夜去にはお仕置きが必要ね」
「夜去は本当に天然なんだから、私がお嫁さんに行きたいのは…」
「なんでカナエちゃんもしのぶちゃんも、怖い顔で私を見るの??」
「なんでもないよ真菰ちゃん、少し気になっただけだから」
「いいえ、何もありません」
三人に少し元気が戻った気がする。
戻ってきてね夜去、蝶屋敷のみんなでずっと待っているから。
三日、四日、五日と経ったが夜去さんは帰ってこなかった。
カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんからは日に日に暗くなっていった。
ご飯も喉を通らないからと言って食べていないし、隊士の人たちからも元気がないと心配されている。
今日も二人の水柱様が蝶屋敷に薬を受け取りに来ていた、夜去さんが出掛けた次の日から毎日来ている。
私はすぐに二人が何か隠していることに気付いた、いつもの姉さんたちならすぐ気付けるのに、今はそれができない。
二人の柱の前に私は飛び出て行った、怖くて足が震える。でもこの羽織が私に勇気をくれる。
「二人は!何か…隠してます……教えてください」
やはり怖い、柱に楯突いてしまったようなものだ。
「胡蝶の継子か…………わかった、ついて来い」
どこに行くのだろうか、カナエ姉さんに少し出掛けると伝えて二人について行くことにした。
着いた場所は水屋敷だった、二人は誰か怪我人の薬をもらいに来てたんだ。
確信した、その怪我人は夜去さんであることを。会うのが怖い、先程の震えとはまた違う震えが私を襲った。
部屋の中に入ると布団の中で夜去さんが寝ていてた。汗をたくさんかき、身体からは痛々しい傷がたくさん見える。
痛いんだ、今も顔から激痛に耐えているのが伝わる。その痛みは体だけの痛みではない気がした。
二人は何故こんなに酷い怪我の夜去さんを蝶屋敷に連れていかないのかわからない。
いつも近くで見いているからわかる、しのぶ姉さんが渡しているのは軽い傷に使う薬だ。
「なんで蝶屋敷に連れていかないんですか?こんなに酷い怪我をしているのに」
「俺たちも連れて行こうとした。でも倒れる前に夜去が言ったんだよ」
「こんな体で運ばれたら三人は自分を責めてしまう、だから自分の足で歩けるようになってから帰りたいと。そうしたら三人はただの家出だと思うでしょってな」
夜去さんは優しすぎるよ、三人が自分を責めないために今も痛いのを我慢している。
でもその傷はしのぶ姉さんに見てもらわないと絶対にダメだよ、手遅れになってしまう。
ごめんなさい、私は心を鬼にしてでも貴方を連れていかないといけない。
「水柱様
蝶屋敷に連れて行きます?いいですよね」
「あぁ、俺たちも誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。
俺と義勇が運ぶよ」
そんな時、夜去さんから手を握られた。その手は弱々しく、男性のものとは思えないほど細かった、とても綺麗な硝子細工のような手。
「お願いします、僕は大丈夫です
こんな傷ぜんぜん痛くありません、三人が自分を責めることの方が痛くて苦しいです」
「絶対にダメだよ、見てもらわないと。いつも近くで見てるからわかる、すごく傷が深い」
夜去さんは上弦の弐を撃退したのだから、こんな酷い怪我を負うなんて相当強い鬼だったんだと思う。
もしかすると姉さんたちとの仲違いしてしまったせいでこんな傷を負ってしまったのかもしれない。
今は後者の方が考えられる、それを隠すために蝶屋敷に行かないんだ。
そのことを三人に知られないようにしているのか、三人には笑顔でずっといてほしいから。
ごめんなさい、貴方の願いを壊してしまう。そうしてでも蝶屋敷に連れていかないといけないです。
「三人が笑っていないのはもう嫌なんです、失ってほしくないんです、三人には笑顔が似合うんだもん」
でも私の選択は変わらない、貴方を連れて行く。
「カナヲ姉さん、お願いします」
「……!」
涙を流しながら何度もお願いしますと言っている。
私はカナヲ姉さんと言う言葉が頭の中で何度も響く。ずっと言ってほしかった言葉だと思う、私にとってとても大切な言葉。
その言葉を聞くと夜去の願いを聞かずにはいられなかった、本当は今すぐにでも連れて行きたい。
「わかったから夜去、ゆっくり休んで。落ち着くまでここにいるから」
夜去は安心したように眠った、握った私の手を絶対に離さないようにしている。
大丈夫ここにいるから、絶対に離れないからゆっくり眠って。
「自分の傷なんて後回しなんだ、いつも相手のことばかり考えている。だから鬼殺隊の全員で守ってあげないといけないと思ってしまう、少し大袈裟かもしれないけどな」
「多分、これから会うと思う柱たち、鬼殺隊に関わる人、親方様までもが夜去のことを大好きになる。それに少し俺たちは嫉妬してしまうがな」
私もみんなで守ってあげないといけないと思う。私も早く鬼殺隊に入ろう、夜去を守れるようになりたい。
たしかに二人の言う通り少し嫉妬してしまう、でも私は姉さんと呼ばれたから皆さんよりはすこし上だ。
私は何を競ってるんだろう。嫉妬という感情も初めてだ、夜去が私にたくさんの事を教えてくれる。
「水柱様。今日泊まってもいいですか?帰れそうにないです」
頭を撫でていると夜去の顔は少しだけ痛みが引いたように安らかになった。
どうしよう今日は帰れそうにない、握った手を離してくれないし、ずっと頭を撫でていたい。
「俺たちが変わるぞ?頭を撫でることぐらいできるからな、それに手も繋げる」
「大丈夫です。私がします。していたいんです」
二人の柱は拗ねてしまった、嫉妬している。
二人の水柱様をこんな風にさせる夜去が恐ろしい、二人だけではない姉さんたちのことも…
今から会う人も、みんな夜去を好きになるのか……少しだけ複雑な気分だな。
「胡蝶には俺が伝言を伝えておく、今日は泊まっていけ」
「ありがとうございます」
夜になったが夜去はまだ手を離さなかった、夜去が離しても私が離さないから大丈夫。
何か幸せな夢を見ているのかな、すごく嬉しそうな顔をしている。みんなは絶対にこの顔を知らない、私だけが知っている顔。
「カナヲ姉さんのおにぎり僕は好きです、やっぱりアオイさんの方がいいです…」
「アオイさん助けて虐めてきます」
どんな夢を見てるの、私のよりアオイの方がいいんだ。なんか少しだけ嫌だ、練習しておこう。
私が何をしてるいるの、とても気になる。
「カナヲ姉さん絶対に戻るから、待ってて。
……姉さんさんがくれた羽織と日輪刀が僕に勇気をくれた、ありがとうございます」
やっぱり私は約束していたんだ。夜去と一緒の夢を見ていたのかな、偶然ってあるんだ。
私はずっと、ずっと帰りを待つよ。
この羽織は今度返さないといけない、夜去が私にかけてくれたように今度は私がかけてあげたい。
聞き取れなかったけど、お姉さんからもらったんだ。夜去はそのお姉さんが大好きなんだね、その人が羨ましい。
羽織と日輪刀をくれたお姉さんのことが少しだけ気になった、それより気になったのは障子を少し開けてこちらを見ている二人の水柱様だ。
「二人は何をしているんですか?」
「気付いていたか、少しな。まぁ言えば、家の見張りだ」
この家はこの部屋しかないのだろうか、私が見た時はとても大きな屋敷だったと思うけど。
二人は部屋の見張りをその後もやめなかった、流石に見廻りの時間が来たら渋々出掛けて行ったけど。
「夜去、蝶屋敷に戻るね。また薬持ってくるから、姉さんたちや真菰さんに見つからないようにするから安心してね」
私は帰る寸前まで手を握っていた、手を握っていると安心したように眠っている。
水柱様に頼んでおこう、私が戻るまで手を握っておいてくださいと、少しだけモヤモヤするがこれは夜去のためだ仕方ない。
二人はすぐに了承してくれて、ゆっくりでいいぞと言い、部屋の方へ走って行った。
どんなに夜去の事が好きなの、私も言えないけど…
「ただいま戻りました」
「珍しいわね、カナヲが水屋敷に泊まりなんて。何かあったの?」
「カナエ姉さん
少しお手伝いをしていました」
「偉いわね、カナヲが自分で行動できるようになった事が私は嬉しい」
カナエ姉さんは無理して笑っている、もう少しで戻ってきてくれるから待ってあげて。
しのぶ姉さんがいない間に薬の置いてある部屋に行き、深い傷に効く薬を持ち出すんだ。
今しかない、怪我をした鬼殺隊士の診察に行った。
前に夜去さんが上弦の弐との戦いで怪我した時に使ってた薬はどこだ、この棚に置いてあるはずなのにそれがない。
「カナヲ何をしてるの?」
「えっと…」
「これを探しているの?」
手に持っているのは私の探していた薬だ、深い傷に塗る薬。
なんで今日に限ってそれを持って歩いているの、いつも棚に置いてあるのに。
「カナヲ何を隠しているの!?話してくれたらこの薬もいくらでもあげるから」
その声を聞き、蝶屋敷にいた人がほとんど駆けつけて来た。
「しのぶどうしたの?しのぶらしくないわよ」
「姉さん、カナヲが何か隠してるの。この薬はひどい怪我にしか使わない、だから誰かが大怪我をしている」
「それは誰なの!?」
カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんから何度も聞かれた。
でも言えない私の大切な弟の願いだから、ここで三人に言う訳にはいかない。
「絶対に言えません。お願いです薬をください」
「カナヲ少し部屋で頭を冷やして。言ってくれれば薬は渡すから」
私は冷静だ、今でも落ち着いて物事を考える事ができる、落ち着いていないのは三人の方だと思う。
早く持って行かないと行けないのに、やっぱり話さないと薬をもらえないなら話すしかないのかな。
「カナヲこれでしょ」
「持って行って夜去に怪我してるんでしょ、私が三人の気を引くから」
どうやって薬を持ち出そうかと部屋で考えていたら、アオイが私の元へ薬を持ってきてくれた。
「アオイ、なんで…」
「カナヲが初めて自分の意思で行動したいと思ったんだもの、私はそれを応援したい」
「それに夜去の事だから、カナエさんやしのぶさん真菰さんを想ってのことなんだと思う」
「私も夜去のことを弟だと思ってしまう、大切な存在なの。だから私にも協力させてよ」
本当にありがとうアオイ。そう夜去はいつも三人のことを想っているの。
私とアオイ二人の弟だ。私たち二人にとって、とても大切な存在。
「ありがとう、アオイ行ってくる」
「いってらっしゃい」
水屋敷に急いだ、私の大切な弟が待つ場所へ。
夜去は二人の柱に手を繋いでもらい、ぐっすり眠っていた。とても穏やかで綺麗な寝顔だ、ずっと見ていたいとも思ってしまう。
深い傷に持ってきた薬を塗ると傷に滲みてとても痛がっていた。もう少し我慢して。治るから、みんなの元へ戻れるから。
「胡蝶の継子、夜去の近くにいてくれないか。俺たちは任務に行かないといけない、ここから離れたくないが」
「夜去を絶対に一人にしてはいけない。さっき言ってたんだ、置いていかないでと」
「頼めるか?」
「はい、大丈夫です」
喜んで引き受ける、治るまで私が近くにいる。いや治ってからもずっと一緒にいる。
絶対に離れないし置いていかない、一人になんてさせるものか。
「夜去今日はお月様が綺麗だね」
まだ眠っているから、聴こえてないか。
「カナヲさん?」
「……目が覚めたの?痛むところはない?水飲んで、お粥もあるから」
「他に何かしてほしいことはない?私にできることならなんでもするよ」
顔を紅くしている、何か恥ずかしいことなんだろうか。
なんでも言ってほしい、私はあなたになんでもしてあげたい。
「手を……握って…ほしいです。前のように…」
前のように?寝ている間も手を握っていたことがわかっていたのかな。
少し恥ずかしい、頭もたくさん撫でていたし。
そんなことでいいんだ、顔を紅くしながら言う夜去を見て可愛いと思ったし、少し意地悪をしたいとも思った。
前ならば淡々と言われたことを行うだけの私だったのに、すごく変わったと自分でも思う。
「どうしようかなぁ」
夜去は恥ずかしさと繋いでくれないという心細さで目に涙を浮かべている。
そして布団に顔を隠して丸くなった、拗ねている可愛いな…
「私を呼ぶ時はカナヲさんなの?あっちの方で今から呼んでくれたら繋いであげるよ」
本当はただ呼んでほしいだけ、これからもずっと。
歳が上でも関係ない、夜去は私の弟のような存在。
「前は優しかったのに、カナヲさんは意地悪になりました」
「また、そっち??繋いであげないよ?」
「繋いでください、カ……ナ…ヲ…姉さん」
手を繋いであげると、顔は満面の笑みに変わった。
そんなに繋いで欲しかったんだ、私も同じ気持ちだけどね。
いつでも繋いであげるから、姉の私の元へ来ていつでも来て待ってる。
最終選別に行こう、そして鬼殺隊に入り強くなりたい。
命を懸けてでも守りたい存在ができた。
夜去あなたは私の宝だ。
次から少し日常回で他の柱の皆さんとも会わせてみようかなと思ってます。
日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります
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イーオ
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ヨロシクナイ