雲居の空   作:くじぃらぁす

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母の教え

列車が横転し怪我人は大勢いるものの死人は誰一人としていないと鎹鴉の要が知らせてくれた。

目の前にいる竈門少年と猪頭少年は疲労困憊だ、下弦の壱と戦ったのだから無理もない。

 

「全集中・常中ができるようだな!

感心感心」

呼吸による止血方法を教えた、あまりの飲み込みの早さに俺は再び感心をした。

 

竈門少年の妹が黄色い髪の少年と共に鬼から乗客を守る姿が脳裏に鮮明に焼き付いている。

夜去の言っていた通りだった、俺は竈門少年の妹を信じ鬼殺隊の一員として認める。

命をかけて鬼と戦い人々を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。

これほど頼もしい後輩が鬼殺隊にはいる、四人の成長を俺は柱として見届けたい。

 

竈門少年と猪頭少年が落ち着いたのを見てもう一度辺りを見渡した。

夜去と真菰は無事だろうか、柱に近い実力を持っていると知っていてもやはり心配だ。

 

何故か夢で見た二人の弟が涙する姿が頭を過る。

やはり俺は千寿郎ともう一人は夜去だったのではないかと思っている、鬼の見せた幻想だから真実かどうかわからない。

朝が訪れ世去に会えたら聞いてみよう。

 

 

ドン

 

轟音と共に目の前に砂埃が広がる。

砂埃が晴れるとそこには武道を極めたような鬼が立っていた、両の目には上弦と参の文字が刻まれている。

鬼の襲来で安堵に包まれていた周りに緊張が走る。

 

「炎の呼吸・弐の型 昇り炎天」

傷を負い横になっている竈門少年を狙い攻撃してきた、何故手負いの者から狙うのか理解できない。

腕は斬ったと同時に再生している再生速度も他の鬼とは比にならない。

 

「俺は弱い人間が大嫌いなんだ

弱者を見ると虫酸が走る」

 

「だがお前は違う…

お前も鬼にならないか?」

鬼は満面の笑みを浮かべ俺に問いかけてきた。

手に入れた力で人を傷つける鬼が嫌いだ、力ある者は弱き人、助けを求めている人を助けないといけない。

 

「ならない」

返事を聞き鬼の殺気が先程よりも増した。

後ろにいる竈門少年と猪頭少年は恐怖と不安に包まれていることだろう。

何も怖がる必要はない、俺が命に代えてでも守る、若い芽は絶対に摘ませない。

君たちは鬼殺隊の希望だ、今日のようにこれからも多くの人を救っていく此処で散っていけない。

 

「お前…柱だな?

その闘気練り上げられている

至高の領域に近い」

俺はまだまだ未熟だ、力になり支えてあげたくとも今の自分にはできない。

俺の大切な人は鬼の言う至高の領域など通り越し遥か先を一人で歩んでいる。

 

「俺は炎柱 煉獄杏寿郎」

 

「そうか…俺の名は猗窩座だ

杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないか教えてやろうか?」

 

「人間だからだ

老いるから、死ぬからだ」

 

「それは違う

俺は知っている、お前の言う至高の領域など通り越している勇敢な人を」

夜去は誰よりも勇敢で、誰よりも優しい。

きっと血の滲むような努力をしたはずだ、大切な人や助けを求める人を救うために。

 

「そんな人間はいない、限られた時間の中では限度がある

だから、杏寿郎鬼になれ」

鬼の言葉は胸に響かない、何を言われようとも俺の心は動かない。

 

「老いることも死ぬことも

人間という儚い生き物の美しさだ」

老いるからこそ死ぬからこそ愛おしく尊い。

儚く限られた人生だからこそ人は夢に向かい真っ直ぐ進めるんだ。

大切な人と過ごせる時間も限られているからこそ、俺は一緒に過ごせる僅かな時間をも大切にしたい。

 

「それと少年たちは弱くなどない

何度でも言おう、俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならない」

 

「そうか

鬼にならないのなら殺す」

 

「術式展開 破壊殺・羅針」

 

「炎の呼吸・壱ノ型 不知火」

後ろには怪我をしている人々がたくさんいる、俺が負ければ皆が殺されてしまう。

そんなことは絶対にさせない、二人の師範であり憧れの兄であるためにも必ず守り抜く。

 

────

鬼に面と向かって俺たちは弱くなどないと煉獄さんは言ってくれた。

その言葉に俺たちの心をどれほど救われただろうか。

 

俺と伊之助は目の前で繰り広げられる戦いを黙って見守ることしかできない、共に戦えないこと助太刀できないことが悔しい。

隙がなく入れない、動きが速すぎて目で追うので精一杯だ。

煉獄さんからは来るなと遠回しに言われているような気さえした。

 

「どう足掻いても人間では鬼に勝てない」

手足に力が入らない、傷のせいもあると思うがヒノカミ神楽を使うといつもこうなる。

夜去さんなら助けに来るなと言われ歩みを止めるだろうか、列車の中での夜去さんの言葉が頭に浮かんだ。

 

「素晴らしき才能を持つものが醜く衰えてゆく

俺は耐えられない、死んでくれ杏寿郎強く若いまま」

 

「破壊殺 空式」

鬼の攻撃を煉獄さんは目にも見えない速さで防いでいる、それでも少しずつ傷を負っている。

このままいけば、いつか致命傷を負ってしまう気がする。

俺が本の一瞬目を閉じた時には鬼の目の前まで煉獄さんは詰めていた。

激しい戦いの中でも周りが見えている、外から見ていたからこそ俺は長い戦いが不利だと気がついた。

 

「この素晴らしき剣技も

失われていくのだ杏寿郎、悲しくないのか!」

 

「誰もがそうだ!

人間なら」

日輪刀を持ち鬼と戦う煉獄さんの姿は夜去さんと何処か似ている、背中も大きく折れてしまいそうなほど腕も細くはない。

二人が師弟のように思えた、夜去さんが煉獄さんを師範と呼んでいる姿が何となく想像できる。

 

今の状況は無惨と一人で戦っていた夜去さんと同じだ、もうあの時と一緒は嫌なんだ。

一緒に戦いたい煉獄さんの力に少しでも俺はなりたい、足に力を込めゆっくりと立ち上がった。

 

「動くな傷が開いたら致命傷になる!」

待機命令!!」

俺と伊之助の動き出した足に歯止めがかかる、やはり力ない俺たちは見ているしかできないと思い知らされた。

 

「弱者に構うな杏寿郎!

俺に集中しろ」

 

「破壊殺・乱式」

 

「炎の呼吸・伍ノ型 炎虎」

 

────

竈門少年と猪頭少年が俺の手助けをするため立ち上がってくれた時は嬉しかった。

鬼殺隊の仲間のために行動できる優しい少年たちだ、二人がそう思ってくれただけで嬉しい。

でも俺は止めなければいけなかった、二人をここで死なせないためにも。

きっとこの鬼には勝てない、もし勝てたとしても自分の命を犠牲にしないといけないだろう。

 

でもいいんだ例え此処で死んだとしても、乗客全員と未来ある二人の勇敢な隊士を守れたのなら。

母の願いに応えられたのなら自分の責務を全うできたのなら死ぬことなど怖くない。

 

鬼の言う通り内臓は傷つき肋骨は折れた、俺が鬼に喰らわせた斬撃も既に完治している。

 

「どう足掻いても

人間では鬼に勝てない」

不思議と体は限界なのに力が湧いてくる、次の一撃が最後になると自分でわかる。

先程死ぬのは怖くないと言ったがあれは少し嘘になる、本当のことを言えば夜去と千寿郎、父上にもう一度会いたい。

 

俺は夢で見たように、二人を泣かせて悲しく辛い思いをさせてしまうのだろうか。

この場所から逃げてしまえば生きて帰れる、でもそうしたのなら二人の憧れの存在ではいられない。

俺はずっと憧れの存在であり道標でありたい、だから最後の最後まで戦い抜く。

 

「俺は俺の責務を全うする

ここにいる者は誰も死なせない」

一瞬で多くの面積を根こそぎえぐり斬るしかない。

鬼もこの戦いに決着をつける気でいる、今まで以上の技を使ってくるだろう。

 

「素晴らしい闘気だ

それほどの傷を負いながらも、一部の隙もない構え

やはりお前は鬼になれ杏寿郎!」

 

「そして俺と永遠に戦おう」

鬼の声など俺の耳には届いていない、聞こえるのは二人の弟が俺の名を呼ぶ声だった。

これからも返事をしてやりたい、稽古をつけてやりたい、でもそれはできなくなるだろう。

でも心配しなくていい、悲しまなくともいい、俺はいつも二人を見守っているから。

 

「破壊殺・滅式」

 

俺は母上の教えのような立派な人間になれただろうか、強く生まれた者の使命をを全うできただろうか。

父上と母上の子供として、炎柱として誇り高く生きられただろうか。

 

母上は強く優しい子の母になれて幸せでしたありがとうと言ってくれました、でも感謝するのは俺の方なんです。

母上のような心優しい人に産んでもらい、父上のような強き人に鍛えてもらった。

そんな二人に愛してもらって俺は本当に幸せでした。

 

「炎の呼吸 奥義 ・玖ノ型 煉獄」

ありがとうございます

母上、父上

ありがとう

千寿郎

 

 

 

 

 

日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります

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