雲居の空   作:くじぃらぁす

43 / 44
変わらないもの

鬼の襲来を知らせる衝撃が届くと同時に、怪我をした足に走る激痛に気がついた。

止血のために巻いてくれた綺麗な色の手拭いは真紅に染まっている、真菰さんの大切なものを血で汚してしまった。

血で濡れた手拭いに触れると真菰さんの笑顔を思い出す、一度も言えてはいないけど僕は貴方の笑った顔が大好きです。

そんな笑顔を奪わないためにも必ず生きて戻ると改めて誓った。

 

「夜去…」

朝にもいつも心配や苦労をかけてばかりいる、本当にごめんね。

でも安心して僕は君をおいていかない、また一人ぼっちには絶対させないから。

大空を自由に飛び、友達ができるその日までは僕が朝の拠り所でありたい。

 

「気を抜くと少し痛いだけだから

心配しすぎだよ」

 

「また案内をお願いしてもいい?」

 

「夜去に言われれば私は断れません

でも一つだけ、これからも私を隣にいさせてください

貴方を失ったら私は…」

君と出会えて本当によかった、共に過ごせた毎日は僕にとって掛け替えのない時間なんだ。

最期の最期まで一緒にいてと僕からお願いしたい、もしその先があるなら朝と一緒に生きていきたい。

 

「朝は僕の家族だから…

これからもずっと一緒にいてね」

 

「私が夜去の家族…

ありがとう」

朝は涙を隠すように、ゆっくりと空へと舞い上がっていった。

 

 

「杏寿朗さん…」

血だらけになり傷を負いながらも、乗客の皆さんや炭治郎さんたちを守る師範の姿が目に映る。

貴方のように弱き人々を助けられる、強く心温かい人に僕はずっとずっと憧れている。

 

「時の呼吸・六の型 常永遠」

二人とは距離が離れすぎている時の流れを遅くしても間に合わない、他の型を使う未来を見たが全て前と同じになった。

六と七の型は特に寿命を多く使う、でも後悔は全くない大切な人を助けれるのだから。

先程までの殺気と緊張は消えた、目を開けると飛んでいる鳥、揺らいでいた木々も止まっていた。

何度体験しても慣れる気がしない、止まっている光景を横目に見ながら二人の元へと急いだ。

 

拳は杏寿朗さんのみぞおちの前で止まっているのを確認して、ほんの少しだけ安堵した。

僕に鍛え上げられたこの鬼の腕は斬れない、助ける方法は間に割り込み防ぐ他にない。

 

日輪刀を両手で持ち力一杯握りしめ、二人の間へと割り込んだ。

鬼の鍛え上げられた腕は僕の腕の倍近くある、いつもなら弱気になっていたはずだ、でも今日は不思議と怖くない。

きっと今も二人の姉さんが見守り側にいてくれている、そして真菰さんの大切な手拭いが僕を守り杏寿朗さんを守ってくれるはずだから。

 

「千寿郎

必ず守るから…」

こんな状況でも嬉しいこともある、それは成長した姿を親友と二人で努力した日々の成果を師範に見せられることだ。

 

「夜去…

心を燃やせ」

旅立ちの日の親友の言葉が昨日のことのように思い出される。

それは師範が最後に言ってくれた僕たちに勇気をくれる大切な言葉、この夜を乗り越えられたらもう一度言ってもらいたい。

 

そろそろ時が流れ始める、もう一度日輪刀を強く握った。

 

 

「何をしているんだ……

夜去……」

 

「杏寿朗さん、すみません

勢いを殺せませんでした…」

鬼の一撃は凄まじく勢いを殺せなかった、気がつけば炭治郎さんたちの近くまで吹き飛ばされていた。

幸い動けない今を狙って鬼も攻撃をしてこない、きっと皆と同じく起きたことに驚いているからだ。

 

「夜去さん

血が…血が…」

鬼の攻撃を受け吐血が止まらない、きっと内臓が傷ついたのだろう。

前のように呼吸を何度もは使えなくなるかもしれないけど、命に別状はない大丈夫ですと伝えたい。

 

「夜去!

何故、俺を庇ったんだ…」

師範の震える声はいつもの声とは違い、少しだけ可笑しかった。

杏寿朗さんが僕の名前を何度も何度も呼んでくれていることが心から嬉しかった、それは大切な人が今も生きているといるという証だったから。

庇う理由、助ける理由も全て貴方が僕に教えてくれたんです、約束も教えも全て大切に胸に留めている。

 

「お前は誰だ?

何処から現れた?」

上弦の鬼の声は歓喜に震えている、そして不気味な笑みを浮かべ問い掛けてきた。

朝までの時間を繋がないといけない、戦える人は此処に僕以外残っていない。

日輪刀を持ち鬼の元へと歩もうとした時、誰かに強く手を握られた。

それは師範の手だとすぐに気がついた、稽古をする時に添えてくれた暖かく大きな手だったからだ。

 

「少し行ってきます…

炭治郎さん、伊之助さん

お願いします」

一緒に来てくれようとした二人に杏寿朗さんを守ってくださいという大切なお願いをした。

僕が勢いを殺せなかったせいで杏寿朗さんは肋骨が折れた、身体中の傷も深くこれ以上戦えば命に関わるかもしれない。

 

ぼろぼろと涙を流している二人からいつもの元気なお返事を聞くことはできなかったけど、強い心を持っている人たちだからきっと大丈夫。

後ろは振り向かず、固く僕の腕を握る師範の手をゆっくりと地面に置き前へと進んだ。

立ち上がろうとした杏寿朗さんの腕を炭治郎さんたちは離さないように、来ないように握ってくれていたのを見て安心できた、

 

 

「名前を聞かせてくれ

俺は猗窩座だ」

呼吸が使えずに戦えない今、何をしてでも朝までの時間を繋ぐしかない。

目の前にいる上弦の鬼に不思議と嫌悪感はなく、お話をしてみたいとさえ思った。

 

「明月夜去です」

 

「夜去

俺は弱者が嫌いだ

虫唾が走り、反吐が出る」

この鬼の気持ちが少し僕にもわかる、大好きな姉さんたちの力にもなれず、大切な人も助けることのできない、過去に戻る前の何者でもない自分が嫌だった。

過去に戻っても助けられない人たちも大勢いた、今でも昔と変わらない泣き虫で何度も心折れる弱いままだ。

でも救えなかった人も含め多くの人がありがとうとこんな僕に感謝してくれた、だから今では本の少しだけ自分が好きになれた。

 

「俺はもっともっと強くなりたい

夜去も鬼になり俺と一緒に戦い高め合わないか?」

鬼になれば普通に暮らしている人たちの幸せな日常を奪ってしまう。

僕は人々の幸せな日々を守れる人でありたい。

 

「猗窩座さんの気持ち、少し僕にもわかります

でも鬼には絶対になりません」

きっと人だった時、命に代えてでも守りたい大切な人が猗窩座さんにもいたんだ。

この人に大切な記憶を取り戻してほしい、相手もきっと望んでいるはずだから。

 

「杏寿朗と同じだな

何故ならない?鬼になれば何年でも鍛えられる

強くなれる、至高の領域に踏み入れるんだぞ」

どれだけ鍛えても超えられない壁が誰にでもある、でもその壁を誰もが越えられる時があるんだ。

それは大切な人のために自分の力を使う時、その時人は猗窩座さんのいう至高の領域に踏み入ることができる気がする。

 

「力だけが強さではないと思います」

 

「夜去は杏寿朗に似ているな

俺と意見は合わないなら、死んでくれ」

攻撃の構えを取るのを確認して、もう一人の姉から受け継いだ日輪刀を鞘から抜いた。

 

「忘れられるということは悲しいことです

きっと優しい貴方の帰りを待ってくれている人がいます…」

やはりこの人の拳からは大切な人を守りたかったという想いがひしひしと感じる。

 

「俺の何がわかる

人だった時の記憶など遠の昔に捨てた」

力のこもった一撃を喰らい手からは日輪刀は落ち、立っているられなけなった。

意識を保っているのが限界だ、感覚を失い身体はもう痛くない。

 

「太陽か…

次に会った時は決着をつけよう」

鬼殺隊士として思ってはいけないことかもしれない、でも僕はこの人を救ってあげたい長い暗闇から解放してあげたいと思った。

カナエさんのように鬼にも寄り添える強い人になりたい、この救いたいという想いは間違っているんだろうか。

 

「……いつか

聞かせてください…」

太陽の光から逃げるように森の方へと走って行く姿を見届けた。

 

 

杏寿朗さんが二人の肩を借り此方に来てくれているのが見える、傷が開いたら大変だから無理して動かないでほしい。

目を閉じていると僕の顔に暖かい手が添えられた、隠そうと思い目を瞑っていたのに涙が溢れ出してきた。

 

「目を開けてくれ

すまない一人にして、本当にすまない」

そんなに謝らないでほしい、僕が聞きたかったのはその言葉じゃない。

 

「僕たちは

杏樹郎さんに…のような人にずっとずっと」

 

「話したらダメだ

これ以上傷が開けば夜去が危ない、お願いだ」

杏樹郎さんと共に炭治郎さんたちも僕を止めている、でもこの想いを伝えられずにはいられなかった。

 

「多くの人を助けられる、…強く心温かい師範のような人に…なりたかった

そんな杏樹郎さんのような人に…

僕たちも少しは…なれたでしょうか?」

ずっと聞きたかった、これは親友と僕の約束であり夢だから。

 

「当たり前だ 、夜去は俺を守り此処にいる者全員を守ってくれた!

誰よりも強く…誰よりも心温かい」

これは僕と千寿郎の二人に贈られた言葉、二人で努力した日々を褒めてくれ気がした。

そして大きな手で優しく頭を撫でてくれる師範がいた、言葉にできない想いが全て涙に変わり溢れてくる。

 

「俺は責務を果たせなかった…

夜去を守ることができなかった」

 

「そんなことはありません

杏樹郎さんは…僕を守り、救ってくれました…」

今こうして笑顔でいられることが、杏樹郎さんが僕を救ってくれた何よりの証拠だ。

だから自分を責めないでほしい、責務を全うした自分を誇ってほしい。

貴方の勇姿を見て沢山の人が勇気をもらった、僕もその一人なんです。

 

「……」

 

「煉獄さん」

下を向く杏樹郎さんを見て炭治郎さんたちも心配をしている。

内臓が傷つき呼吸をするだけで胸が痛い、きっと少し大きな声を出すだけで痛いだろう。

それでも、僕はこの言葉を師範に伝えたかった。

 

「心を…」

 

「…燃やせ」

最後まで言わなくても師範が続きを言ってくれた。

下を向いていた顔は自然と上がっていた、この言葉を僕が知っていることに少しだけ驚いているみたいだ。

 

「これからも…

杏樹郎さんの背中を…追いかけたいです

師範はこの先もずっと…僕たちの」

 

「憧れです」

 

 

「朝みんなに届けてあげて」

朝には杏樹郎さんや炭治郎さんの勇姿を届けてほしい。

もう誰の元へも訃報は届かない、誰も届けなくていい。

 

「夜去は本当に…」

朝が飛んで行くのを見届け、ある女性が来てくれるのを隠の人に無理言って待たせてもらっている。

その人が来てくれるまでは意識を保っていたかった。

 

「夜去…」

震えている声で僕の名前が呼ばれた、こんな傷だらけのぼろぼろの姿でごめんなさい。

 

「……」

真菰さんの僕を胸に抱き寄せ、細い腕で優しく抱きしめてくれた。

片腕で冷たい体を温めるように背中を撫で、もう片方の手で頭を撫ででくれた。

血で汚してしまうからあまりしないでほしい、それに周りの人に見られて恥ずかしい。

 

「ありがとう

私の元へ帰ってきてくれて」

 

「お帰りなさい夜去」

甘く優しい真菰さんの匂いに包まれると、急に眠たくなってきた。

心の中でただいまと言い、意識を保つのを諦め真菰さんの胸で眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日常回を少し書いてもいいですか?三人との日常もあります

  • イーオ
  • ヨロシクナイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。