二度目の人生をリリカルで   作:D,J

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第19話

 ………ピピピピ、ピピピピ。

 

 時刻は、朝の5時。

 早めに設定していた目覚ましが鳴り、拓海は目を覚ます。

 

 「………むう」

 

 そして、自身の「ムスコ」も起き上がるという、男子特有の朝の挨拶をしている。

 ので。

 

 「ハァハァ………言姉ぇっ………言葉姉ぇっ………ウッ!」

 

 案の定、拓海は言葉の事を思い出して、

 抜いた。

 

 そして………。

 

 「………俺、言姉ぇの事好きなのかな」

 

 賢者モードに入り、拓海は布団の上でそう考える。

 

 たしかに、桂言葉という女性は、恋愛ゲームのキャラクターなので当然と言えば当然だが、異性としては申し分ない。

 

 優しく、家事も出来、それでいて一途。

 おまけに、Jカップ102cmの巨乳で、今でも成長しているというから驚きだ。

 そりゃ、原典で女子生徒の嫉妬を買い、いじめのターゲットにもなる。

 

 もし、街をゆく男性に「彼女とお付き合いできたらいいか?」と聞けば、ホモか何かでもない限りはOKを出すのではとも言える。

 

 だが。

 

 「………だとしても、子供はそう見てくれないよなぁ」

 

 一番の問題があった。

 自分と言葉の年齢差である。

 

 拓海の肉体年齢は、現時点では9歳の高校生。

 対する言葉は、16歳の高校生。

 

 普通、高校生は小学生を恋愛対象としては見ない。

 そりゃ、ロリコンやショタコンやペドフィリアという例外はあるが、少なくとも言葉にそんな兆候はない。

 

 ………自分の周りに女子が多いと知って少し嫌そうな顔をしたり、アリサから毎日の弁当を「愛妻弁当」呼ばわりされた事もあったが、きっと気のせいだろう。

 

 拓海は、前世を含めて39年生きてきた。

 当然、性欲や恋愛に悪い意味で振り回された男が、ろくな末路を辿らない事も知っている。

 というか、それで中学時代にラブレターを黒板に張り出された過去もある。

 

 だから。

 

 「………ま、無理だよな」

 

 諦める事が出来た。

 言葉にとって自分は、弟のような目線でしか見られてないのだ。

 同人誌やエロマンガじゃないのだから、自分が思いを伝えた所で「ぬいぐるみからチ○ポが生えてきた」と拒絶されるのがオチである。

 

 確かに、毎日性欲の捌け口というか、オカズにはしてきた。

 だが、それはそれ、これはこれだ。

 

 そんな事を考えていて、ふと見れば目覚まし時計は5時半を指している。

 まだ時間はある。

 ので。

 

 「ハァハァ………言姉ぇっ………言葉姉ぇっ………ウッ!」

 

 もう一度言葉をオカズにして、抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日拓海は、アリサとすずか、そして保護者役を買って出てくれた言葉と一緒に、海鳴市にある「八幡水族館(やはたすいぞくかん)」に遊びに行く。

 この八幡水族館はシャチによるショーが有名だったり、シャチの研究に大きく貢献したりと、何かとシャチに縁がある。

 今回もそのシャチに感謝してのビッグイベント「ビッグシャチ祭り」がある。

 

 ………はて、どこかで聞いたフレーズであるが、今は置いておく。

 

 そして来てみれば、そりゃあ凄いのなんの。

 右を見てもシャチ。

 左を見てもシャチ。

 どこもかしこもシャチまみれ。

 

 伊達に「ビッグ」は名乗っていない、一面のシャチ尽くしである。

 

 「んん~っ!このシャチアイス最高!黒ゴマの所とかたまんないわ!マジで!」

 シャチショーの会場でもある巨大水槽の前の座席にて、会場限定販売のシャチアイスを前にご満悦のアリサ。

 黒ゴマアイスとバニラアイスで、シャチを再現したソフトクリームだ。

 

 「なのはちゃんやセント君も行けたらよかったんだけどね………」

 

 対するすずかは、少し残念そうだ。

 セントは隠していた赤点が親にみつかり、なのはは外せない用事が出来たからと、今回のビッグシャチ祭りには不参加だ。

 

 セントはともかく、なのはは多分ジュエルシード関係だなと、拓海はなんとなく察した。

 なのはが海鳴の平和の為に身体を張っているのに、自分達は遊んでいるというのは、少々罪悪感を感じてしまう。

 

 「………たっくん、どうしました?」

 「へっ?」

 「どこか具合でも悪いんですか?」

 「い、いや何も………」

 

 それを言葉に気付かれそうになり、拓海はなんとか誤魔化す。

 流石、設定上は剣の心得があるだけの事はある。

 勘も鋭い。

 

 「それでは皆さんお待ちかね!シャチショーの始まりです!」

 

 いよいよ、メインイベントであるシャチショーの始まりだ。

 

 ………思えば拓海は前世ではこの手のイベントに来た事がなかった。

 両親は生まれたばかりの妹に夢中で、自分をあまり見てくれなかったからだ。

 

 そんな事を考えていると、アリサとすずかがある物を取り出した。

 それは。

 

 「………何してんの?」

 「見て解らない?雨合羽よ」

 

 ビニールで作られた雨合羽だ。

 アリサとすずかはそれを着込む。

 シャチショーが始まると、水が飛んで来る事がある。

 その予防である事は、拓海にも解るのだが………。

 

 「ちょっと警戒しすぎじゃない?」

 「何言ってるのよ!拓海も言葉さんもビッグシャチ祭りは初めてだから解らないだろうけど、結構水飛沫来るのよ?!」

 

 たしかに、この手のイベントで水飛沫はあるあるだ。

 だが、シャチのいるプールからかなり離れているし、そんな事はないと拓海はタカをくくっていた。

 

 だが。

 

 

 ………ざばぁ

 

 

 一瞬の出来事であった。

 プールにいる5頭のシャチが一斉に飛び上がり、空中で交差した後、着水。

 

 ざっぱぁぁぁぁん!!

 

 まるで隕石が激突したかのような衝撃は、座席に座っている拓海達にも伝わった。

 そして巻き上げられた水飛沫は、津波のように座席に襲いかかる。

 そして。

 

 「………しょっぺぇ」

 

 雨合羽を被っていたアリサとすずかは大丈夫。

 が、何の対策もしていなかった拓海は、豪雨に晒されたかのようにびしょびしょだ。

 

 そして。

 

 「うわぁ、びしょびしょになっちゃった………」

 「!!!!」

 

 隣に座っていた言葉も、水飛沫の餌食となった。

 ただ、水飛沫を浴びる事は想定していたのか、事前に白シャツ一枚に着替えてきていた。

 

 それが、問題であった。

 水を浴びた事により、濡れたシャツが肌にぴったりと張り付き、Jカップの巨乳がこれでもかと強調され、それを包む特注のブラジャーが透けて見えている。

 

 ようは濡れ透けである。

 大変エロい。

 

 「こ、これは………」

 「すごい………」

 

 アリサとすずかも、思わずこの超級質量兵器に見入ってしまう。

 ビッグシャチ祭りの「ビッグ」はそういう事かと、二人の脳裏に浮かぶ。

 

 「………あの、言姉ぇ」

 「なんですか?」

 「………胸、透けてる」

 「えっ………あっ!きゃあっ!!」

 

 拓海に言われて、自分が今どうなっているかという事。

 そして、それが会場の人々(主に男)の注目を集めてしまっている事にようやく気付き、顔を赤くして胸を隠した。

 

 ………今晩の「オカズ」はこれにしよう。

 拓海は、心の中で決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながありながらも、拓海達はビッグシャチ祭りを心ゆくまで楽しみ、楽しい一日を過ごした。

 

 そして、その帰り。

 

 「いやー、今年も盛り上がったわね!ビッグシャチ祭り!」

 

 お土産のシャチシャツ、そして夏に使う用のバルーンシャチを買って、アリサはご満悦。

 すずかも、シャチぬいぐるみを買った。

 

 「毎年こんな盛り上がるんだ………」

 「そういや拓海は初参加だったわね」

 

 拓海と言葉は、濡れてしまった服の着替え用に買った、シャチシャツを着ている。

 

 のだが、拓海はともかく、言葉はシャツに描かれたシャチが、乳房のせいで引っ張られてダックスフンドのようになっている。

 おまけに見事な乳袋まで形成され、歩く度にゆさっゆさっと揺れている。

 

 なんというか、この時空の言葉はどんな服を着てもエロくなってしまう運命の星の元に生まれているのか?

 拓海は、思わず勘ぐった。

 

 「来年も一緒に行きましょ!」

 「うん!」

 

 アリサの誘いを快く受ける拓海。

 生まれ変わってから、こんなにもよくしてくれる人が増えた事を心の底から感謝しながら、拓海はこの幸せを噛み締めていた。

 

 ………故に、拓海は後ろから迫る一台のハイエースに気付かなかった。

 

 「………んっ?」

 

 気付いた時には、拓海達の隣に来たハイエースの扉が勢いよく開かれ、そこから男達の手が伸びる。

 

 「きゃっ?!」

 

 一瞬の出来事だった。

 咄嗟の事に、アリサも、すずかも、そして言葉も、男達の手に捕まれ、車の中に引きずり混まれた。

 

 「言葉姉ぇッ?!」

 

 拓海は反射神経が働いたように、言葉達を取り返そうと手を伸ばした。

 だが、男達の内の一人が、拓海にある物を突き立てた。

 

 スタンガンだ。

 

 「があっ?!」

 

 走る電流と痺れ、そして痛み。

 どさりと拓海が倒れると同時に、男達はドアを閉め、車を出す。

 

 「たっくん?!」

 「大人しくしろ!」

 「ん、んんんっ!?」

 

 叫ぶ言葉達にタオルを噛まして黙らせ、男達は倒れた拓海を尻目にハイエースで走り去っていった。

 

 嵐のような、数秒の出来事である。

 

 哀れ、倒れた拓海は身体が痺れて何も………

 

 「………ギリギリセーフ」

 『リリカル危なかったぜ………』

 

 ………出来ないワケではなかった。

 

 寸前の所でストレイジが防御魔法を展開した事で、大したダメージは入らなかった。

 まあ、完全に防げたというワケではなく、スタンガンを突き付けられた右手の付け根辺りが、まだ痛むのだが。

 

 ハイエースは既に走り去っていた。

 が、問題はない。

 

 「ストレイジ、奴等がどこに行ったかは解るか?」

 『ばっちり!寸前の所で奴等の車に発信器を付けておいたでありますよ!』

 

 まったく、いくら次期主力として作られたとはいえ、どこまでも優秀なデバイスである。

 

 辺りに人通りはすくない。

 なら、やる事は一つだ。

 

 『ご唱和ください!我の名をッ!』

 「ストレイジ!セーーットアーーーップ!!」

 

 光に包まれ、拓海は変わる。

 そして光の軌跡を引きながら、ハイエースの後を追った。


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