ストライクウィッチーズ 大空の傭兵の軌跡 作:sontakeda
大事なひとり娘に別れを告げ、ひとり欧州へ向かうために船に乗った。メガネを掛けた壮年の男性はそんな娘のことを思いながら、甲板の先の地平線を見つめていた。
「あのー、すいません……もしかして……」
メガネの男性の後ろから声をかけてきたのは、白髪に紺色のスーツをきた初老の男性と、目つきが悪そうに見える小さい男の子の姿あった。
「宮藤博士……ですか?」
「…はい。あなたは?」
「!!、俺!同じ研究チームの足立宗次郎って言います!感激だぁ!!」
本物の宮藤博士を前に宗次郎は興奮が収まらない様子だった。
「同じ研究仲間でしたか。宮藤一郎と申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ!よろしくお願いします!!進也!お前も挨拶しろって!」
「…………………」
ふたりは握手をした後、進也に挨拶を促すが、一郎を見つめたままだった。
「……あの、失礼ですがこの子は……?」
「ウチの息子です。母親はもういなくて、家にひとりにさせるのもアレだったんで、無理言って連れてきました。ははっ」
宗次郎は気にする様子もなく笑い飛ばすかのように話した。
「そうだったんですね、失礼しました」
「いやいや!そんなことより、いつまで博士に睨みつけてんだお前は!!」
「……………………」
一郎をじっと見つめたままかと思いきや、そっぽを向いてどっかに行ってしまった。
「いやすいません……アイツ人見知りなヤツで………」
「いえ、構いませんよ。私も似たようなモノですから」
「そう言って頂くと、助かります」
宗次郎は申し訳なさそうに後頭部をかきながら感謝した。そのふたりが楽しそうに話をしているのを、進也は振り向きざまに確認した。
「足立くん?聞いてる?」
「あー、聞いてる聞いてる。海が楽しかったんだろー?」
「やっぱり聞いてない!昨日のシャーリーさんの話だよ!」
午後、食堂で休憩を取っていた足立に、昨日の話を聞かせていた宮藤とリーネ。
「昨日、シャーリーさんがもの凄いスピードで、ネウロイを追いかけたんですよ」
「途中で飛ばされちゃいそうになったよね!」
「そりゃ衝撃波ってやつだ」
「しょうげき…は?」
聞き慣れない単語に宮藤は首を傾げた。
「すっげぇ簡単に言えば、音速を超えたら出る空気の衝撃だ」
「へぇー」
「じゃあ、シャーリーさんはあの時点で音速を超えたってことですよね?」
「おそらくな」
「それって……夢が叶ったってことだよね!?すっごーい!!」
宮藤はまるで自分の夢が叶ったかような喜びを見せた。
「それでネウロイとぶつかって倒しちゃうのも、ある意味すごいよね……」
「俺よりムチャクチャだろそれ……」
いつもデタラメな戦い方をする足立が、呆れた口調で感想を言い述べた。
「それでふたりで担いできたってわけか」
「ッ!!」
「えっと………」
本来ならシャーリーの救出に行ったふたりだったが、何故か宮藤は言い淀んだ。
「………どうした?」
「担いだって言うか………担がれたって言うか………」
「アタシの胸を堪能してたんだよなぁ?」
「そうそう!……ってシャーリーさんッ!?」
いつの間にか入ってきてたシャーリーが、宮藤とリーネの席の後ろに立っていた。
「アタシが疲れきって動けないことをいい事に宮藤は……」
「ち、違いますよ!!アレはわざとじゃなくて!!」
「でも良かったんだろ?」
「それは………ふへへ……」
「よ、芳佳ちゃん……」
シャーリーの胸の感触を思い出す宮藤は、とても幸せそうな顔をしていた。
「………なんだそりゃ……」
心底どうでも良さそうな顔で宮藤達を見つめる足立だった。
「そういえば、足立は海に居なかったけど何してたんだ?」
「俺は基地で留守番だ。中佐の命令でな」
「なんだ、それは残念だったな」
「?、何がだ?」
「私達の水着姿が見れなくて残念だったなってことさ」
自分を含め、リーネや宮藤を指しながら得意げな顔で足立に言った。
「……残念がることないだろ」
「なんだよノリ悪いなー、そんなんじゃモテないぞ?」
「必要なし」
「ちぇ、少しは女の子に興味持てよな」
ノリが悪いと思いながらシャーリーは、食堂の冷蔵庫から食料を片手に持てる程の量を持ち出した。
「あ、シャーリーさん、もうすぐお夕飯の準備しますよ?」
「これくらい大丈夫大丈夫!整備のお供にほしいだけさ。んじゃ」
リーネの忠告を流し、そう言ってシャーリーは食料を持ち出して部屋を出ていった。
「お夕飯前に食べて大丈夫なのかな?」
「アレぐらい普通なんだろ。身体も俺たちよりデカイしな」
(身体だけじゃないような気も………)
リーネは自身の胸とシャーリーの胸を比べながら思ったが、口には出さなかった。
一方その頃、執務室ではミーナと坂本は報告書を見ながら睨んでいた。
「今月でもう10回は出撃してるわね」
「明らかに現れる頻度が多くなっているな」
そこにはネウロイを撃墜したと書かれた報告書が10枚以上あった。
「それも彼が現れてから、ね。宮藤さんが来てからも多少のズレがあったけど……」
「今ではズレだけでは解決されない事態だな。どう見る?」
「………少なくとも彼が敵じゃないって言うのは分かったわ」
「と言うと?」
ミーナ引き出しから別の書類を取り出した。その書類を坂本に手渡した。
「これは?」
「彼の身辺調査をした報告書よ。読んでみればわかるわ」
「……………………なんだとッ……!!」
そこには足立についての情報が書かれていたが、1番に目に止まったのが、足立宗次郎という父親の名前。そしてストライカーユニット開発の協力者であるということ。
「宮藤博士と同じ研究者だったってことね」
「だとしたらあのボードも合点がいくな。しかし妙だな………開発の協力者ならなぜ私が知らないんだ……?」
「テストパイロットの貴方なら知ってるかと思っていたけれど、だとしたら………」
「まだ知らない真実がある、ってことか」
「恐らくね」
ふたりは顔を見合わせながら神妙な表情をしていた。
再び食堂の様子を見ると、宮藤とリーネは夕飯の支度を終えようとしていた。
「できたぁー!手伝ってくれてありがとうリーネちゃん!」
「ううん!こちらこそ!」
完成した夕飯を運ぼうとしたとき、食堂扉が開くとバルクホルンが入ってきた。
「あ、バルクホルンさん!」
「丁度いまお夕飯が出来たところなんです」
「そうか、ご苦労だったな。ところで、足立は見なかったか?」
「えっ、足立くんならあそこに……」
宮藤が指を指す方向を見ると、奥の席でポツンと座っている足立と目が合った。
「ほう、それは丁度良かった」
「何がだー?」
動こうとしない足立はテーブルに肘を付きながら頭を支える形で返答した。
「シャーリーのところまで運んでほしいものがあるんだ」
バルクホルンが床にドサっと置いた箱は3つ。中身が見えてるのもあり、何かのパーツらしきものがぎっしり詰まっていた。
「………これなんのパーツだ?」
「さあな。あのリベリアンの私物だ。自分のところに運べと言ったのに丸っと忘れていってだな………全く」
「……まさか全部運べってか?」
「そうだ」
1つならまだしも3つともなると、流石の足立も顔が引きつりそうな表情をしていた。
「いやムリだろ流石に」
「男だろ?」
「関係ないだろそれ!!」
「上官命令だ」
「なっ!!汚ぇぞ!!」
「あの〜……だったら………」
ふたりの言い合い結果、宮藤とリーネと足立で一箱ずつ持っていく事になった。
「ったく、途中まで持っていけるなら最後まで持っていけよな」
「いいじゃん、夕飯の準備が終わって丁度よかったし、ね?リーネちゃん」
「うん、私達に頼って良かったんですよ?」
「へいへい、次からは頼みますよ」
「ふふっ」
先頭の足立がぶっきらぼうに言うと、リーネと宮藤はお互いの顔を見合わせながら、言動が照れ隠しだと思いクスッと笑った。
足立たちがやってきたのはハンガーだった。ストライカーの整備をしているシャーリーならここに間違いないとふんで訪れた。
「やっぱここか」
「シャーーリーーさーん!!」
「ん?その声……宮藤か!」
宮藤の叫ぶ声に反応して、シャーリーはストライカー発進ユニットからヒョコっと顔を出した。
「ってお前ら、揃ってどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、アンタのおかげで使いっぱしりにされてるんだよ」
シャーリーの前まで行くと、足立はドサっとパーツが詰まった箱を雑に置いた。
「おいこれ!アタシのモノじゃないか!もうちょっと丁寧に扱ってくれよ!」
「だったら次から忘れないようにしてくれ」
「……へっ?」
「バルクホルン大尉から頼まれたんです。シャーリーさんの代わりに運ぶようにって」
リーネが訳を簡潔に伝えるとシャーリーはハッとした表情で頼まれた事を思い出した。
「あーそっか!悪い悪い!すっかり忘れてたよ!」
「やっぱりか………」
「ココに置いとけばいいですか?」
「ああ、あとはアタシが運んでおくから。お前らにはお礼しないとな」
『お礼?』
お礼と聞いて首を傾げる宮藤とリーネ。すると次の瞬間、シャーリーがふたりを包み込むように抱きしめた。
「わぁッ!!」
「しゃ、シャーリーさん!?」
「荷物を運んでくれたお礼さ。ありがとうなふたりとも」
「どう……いたしまして……」
「ふえへへ………」
「よ、芳佳ちゃん……!」
少し苦しい様子のリーネだが、宮藤にとっては天国の空間だったようだ。
「あーー!!ふたりともずるいーーー!!」
ハンガーの上部から響き、そう言って上から降ってきたのは、ルッキーニだった。
「ルッキーニちゃん!?」
「そこはあたしの場所なの!!」
「はいはい、ルッキーニにもやってやるから。ほら」
「やったーーー!!!」
ふたりにハグをし終えるシャーリーは、ルッキーニに向かって迎え入れるように両手を広げた。するとルッキーニは迷わずシャーリーの胸の中に飛び込んだ。
「んー……ぱふぱふ………」
「はははっ!!ホントにコレが好きだなルッキーニは!!」
「………いいなー……」
「芳佳ちゃん………もう………」
ポツリと呟いた宮藤に流石のリーネも顔を赤くしながら呆れた。
「……………………」
「ん?おっそうだ、足立もしてほしいか?」
「………アホらし、俺は先に戻ってるぞ」
「ッ!!ちょ、ちょっと待った足立!!」
「あぁ?」
何かを思い出したかのようにシャーリーは足立を引き止めた。その声に足立も振り向いた。
「悪いルッキーニ、ちょっと離れてくれ」
「えー………分かった………」
抱きついていたルッキーニは残念そうに離れた。
「なんだよ」
「お前に一生の頼みがあるんだ」
「頼み?」
そう聞くと足立は神妙な顔をした。それほどの重要な事なのかと勘ぐっていた。
「……………お前のストライカーボードを見せてくれないか?」
「…………は?」
「頼む!!お前のストライカーボードの中身が気になって仕方ないんだ!!だから頼む!!」
「やだ」
シャーリーの必死な頼みに2文字で一蹴する足立。
「そこをなんとか!」
「断る」
「ホントにダメなのか?」
「ダメ」
「そうか………なら……しょうがないな……」
断り続けて諦めてくれたかと思い食堂に向かおうとした足立。その瞬間、後ろから何者かに抱きつかれる感覚がした。
『あっ!!』
「なッ!?」
「頼むよー足立ぃー。マジのお願いなんだからさー」
その正体はシャーリーだった。自分の武器でもある胸を押し当てるかのように後ろから抱きつき、またも頼み始めた。
「ちょ、お前!!離れろ!!」
「足立が良いって言うまで離れないぞー」
「ウザい!!しつけぇ!!やめろ!!」
「そう言ってる割には顔が赤くなってるが?」
「なっ!!」
確かに足立の顔は赤面していた。足立も男であり、女性に抱きつかれたと必然的に羞恥という感情が働いた。
「なぁいいだろー?頼むぜー足立ぃー」
「………だああああああ!!!わぁーーったよ勝手に見ればいいだろちくしょッ!!!」
「ホントか!?やったぜ!!サンキュー足立!!」
「………シャーリーさんって……スゴイね……」
「………うん………」
シャーリーの行動の大胆さに、宮藤とリーネは赤面しながら同意した。
「さぁーて、そう決まったら………」
「あ、シャーリーさん!もう夕飯の準備が出来てるんですけど」
「ああ、中をパッと見るだけだからすぐ済むさ」
忠告する宮藤にそう言って、シャーリーは足立のストライカーボードの魔導エンジンが積んである装甲の表面を、慣れた手付きで蓋の止め具を外していった。
「さぁて、中はどうなってるかな〜?」
わくわくした気持ちでストライカーボードの中を開けると、シャーリーは固まった。
「…………………」
「どったのシャーリー?」
固まったシャーリーを見て宮藤とリーネとルッキーニは首を傾げた。
「これ……最初期の魔導エンジンじゃないか……?」
「最初期って………ストライカーユニットが開発された時のことですか?」
「ああ。今じゃ滅多に見られない、こりゃテスト用のエンジンだぞ……!」
「それがどうかしたんですか?」
「出力や馬力、スピードがアタシ達とは段違いに悪いってことさ。アタシが使ったら宮藤にすら置いていかれるだろうね」
「そんなにですか………」
シャーリーの例えで宮藤は驚きの意味を理解した。
「それをアタシ達と同じ、もしくはそれ以上のスピードで飛ぶんだ。足立の力は想像以上ってことさ」
「………スゴイのは俺じゃない。コイツだ」
話を聞いていた足立は、自身の心臓を部に親指を立てながら指した。
「ネウロイのコアか……」
「コイツが無かったら、俺はただの一般人。まともに飛べもしないってことだ」
「!、シャーリー!あたしいい事思いついた!」
「うん?なんだ?」
足立の言葉に何かを閃いたルッキーニ。その提案をシャーリーに報告した。
「ネウロイのコアがあったらもっと速くなるんじゃない?」
『ええっ!?』
「ッ!!」
「……面白そうだなそれ。けどルッキーニ、それは………」
「んな馬鹿なことは考えるなッ!!!」
『っ!?』
突然、足立の怒号がハンガー中に響き渡った。その大声にその場にいた全員がビクッとした。
「…………………」
「あ、足立くん……?」
宮藤の呼びかけに足立はハッと表情で正気を取り戻した。
「………見終わったら元に戻しとけよ。俺は先に戻ってる」
やってしまった、という雰囲気に包まれた足立は、その場に居るのが気まずく感じたのか、逃げるようにハンガーを後にした。
「もーなんなの!?急に大声なんか出して」
「……冗談じゃないってことさ」
「えっ……?」
理不尽に思えたルッキーニだが、シャーリーは何か思うところがあるみたいだった。その言葉に宮藤とリーネとルッキーニはシャーリーの顔に向いた。
「謝らないといけないな、これは」
ストライカーボードの魔導エンジンを見ながらシャーリーはそうつぶやいた。