ストライクウィッチーズ 大空の傭兵の軌跡 作:sontakeda
「………………」
突如、ミーナに拳銃を突きつけられた坂本。だが、当の坂本は動じることもなく、ミーナに向き合った。
「……なんだ?ずいぶんと物騒だな」
「約束して……もうストライカーには履かないって……」
「……それは、命令か?」
坂本はミーナの目をじっと見ながら聞いた。
「…………………」
「ふっ………そんな格好で命令されても、説得力が無いな」
ミーナの赤いドレス姿を指摘する坂本。
「私は本気よ!今度戦いに出たら……きっと、あなたは帰ってこない!」
「だったらいっそ自分の手で………というわけか?矛盾だらけだな。お前らしくもない」
「違う!違うわ!!」
坂本の指摘にミーナは必死に否定するが、その表情は物悲しさを語っていた。
「……私は……まだ飛ばねばならないんだ」
「…………………」
坂本はそう言い残し部屋から退出しようと移動した。その間ミーナは、坂本に銃を向けたままだったが最後まで引き金は引けなかった。そのミーナの心には、安心と後悔が同時に生まれた。
翌日、朝から書類作業に勤しむミーナの姿があった。しかし、その表情には元気が無かった。
「…………………」
昨日の出来事を思い出しているのか、手があまり進んでいなかった。
(美緒………)
思い出されるのは昨日の坂本の決意だった。魔力が衰えているにも関わらず、出撃を決意した彼女の事が気が気でなかった。そんな時。
コンコン
「!」
ドアのノックでミーナはハッとした表情になった。入ってきたのは坂本と、なにやら資料を運んできた宮藤と足立の姿だった。
「ちょっといいか?」
「よいしょっと」
落ちそうになる荷物を宮藤は持ち直した。
「悪いな、便利に使って」
「いえ!このくらいへっちゃらです」
「ただの資料………じゃないよな?」
「ああ、データだ。この前出たネウロイのな」
「ほー」
興味が無さそうな素振りを見せる足立に対し、ミーナは怪訝な顔をした。
「8月16日と18日に襲来したネウロイだが、ヤツが出現した時に、各地で謎の電波が傍受されてる」
ミーナの机の上に資料を広げて見せた。そのまま坂本は説明し続けた。
「周波数こそ違うが、サーニャの歌っていた声と波形が極めてよく似ている」
「えぇ」
「歌……!」
ミーナは生返事ような声で返すの対し、宮藤はサーニャの歌と聞いて先日のサーニャとエイラとでの戦闘を思い出した。
「それと気になるのは………足立。お前だ」
「俺?」
宮藤と一緒に並んでいた足立にも声がかかった。
「お前が対峙してきたネウロイ達、アレはお前の意思で呼んでいるわけではないのだな?」
「だとしたらとっととこの基地を乗っ取ってるわ」
呆れた様子で足立は両手を広げながら言った。
「だとしたら、最近の異常なまでの出現は、足立のコアによるものだろうな」
「足立くんの?」
宮藤は足立の顔を見直すような素振りをした。
「どういう理屈かは分からんが、ネウロイのコアには互いに引き合うモノがある、のだろう」
「お仲間を呼ばれまくりだな」
相変わらずの皮肉に坂本はムッとした表情をしたがこれをスルーした。
「とにかく、分析の規模を広げよう。もしかたらコアについても新しい情報が得られるかもしれん。しばらくは忙しくなる
ぞ」
「……そうね」
坂本の提案にミーナは肯定するが、やはり元気が無さそうだった。少なくとも、宮藤にはそう映っていた。
「バルクホルンやハルトマンにも、今のうちに知らせておきたいな。ふたりここに………」
「あの……!」
「!」
宮藤の声に坂本とミーナは振り向いた。
「バルクホルンさんなら今日は非番です。夜明け前に出ていきましたよ」
「どこへ?」
「ロンドンです」
「ロンドン?」
「意識不明だった妹さんが、目を覚ましたって」
宮藤は今朝方の状況を説明してくれた。
「バルクホルンさん、慌ててストライカーを履いて出ていこうとするのを、私と足立くんで止めたんですよ。いつもはあんなに冷静な人なのに……ふふっ」
バルクホルンの慌てぶりを思い出すと宮藤は思い出し笑いするかのようにクスっと笑った。
「……無理もないわ。バルクホルンにとって妹そのものが戦う理由だもの。誰だって……自分にとって大切な……守りたいものがあるから、勇気を振り絞って戦えるのよ」
「は……はい」
ミーナは無表情のまま、自分の経験を語るかのように言い聞かせた。まるで今の、過去の自分照らし合わせるかのように。その語りに坂本は自分ことのように思えた。
そして宮藤はその言葉に重みを感じ呆気に取られた表情で、返事するしかなかった。
ブリタニアのとある病院、広い敷地に堂々と建っていた。その一室に、慌てて飛び込んできた者がひとりいた。
「わぁ!!」
扉が勢いよく開き、病室にいた看護師が思わず驚いた声が出た。
「病室ですよ!お静かに!」
「あ………あぁ!すみません……急いでいたもので……」
看護師に怒られているのはバルクホルンだった。ここが病室だと気づくと恥ずかしく思いながら謝罪した。その後ろには病室の患者に向かって手を振っているハルトマンの姿もあった。
そしてそのベッドで起きている患者はクスクスと笑っていた。そう、バルクホルンの妹、クリスだった。容姿は宮藤にそっくりだった。
「クリス………」
夢でも見ているのか、バルクホルンには信じられない光景だった。夢ではないかと確かめるかのように、バルクホルンはクリスに近づき抱きしめた。
夢ではない。現実だった。ふたりはようやく安心した。
「……お姉ちゃん、わたしが居なくて……大丈夫だった?」
「なっ……何を言う!!大丈夫に決まっているだろ!私を誰だと……」
「あーもう全然ダメダメ、こないだまでは酷いもんだったよ」
ベッドの横の椅子跨りながら座っているハルトマンが遮った。
「やけっぱちになって無茶な戦い方ばっかりしてさぁ」
「おねぇちゃん………」
クリスは心配するような目で姉を見た。
「お前!!今日は見舞いに来たんだぞ!!そういうことは……!!」
「だってホントじゃん」
「ないない!そんなことは無いぞ!!私はいつだって冷静だッ!!」
クリスに向かって姉のバルクホルンは、自分の失態を隠そうと必死だった。頼られる姉でいたい気持ちがあるのだろうか。
そんな表情を見てクリスはあることを思った。
「おねぇちゃん、なんか楽しそう」
「そ、そうか?」
バルクホルンにとって思いがけない言葉だった。
「それは宮藤のおかげだな」
「ミヤフジ…さん?」
「うん。こないだ入った新人でね」
バルクホルンはベッドに腰掛けながら話した。
「お前に少し似ていてな」
「私に!?会ってみたいな~」
「そうか。では今度来てもらおう」
「ホント!?お友達になってくれるかな?」
「ハハハッ。かなりの変わり者だが、いいやつだ。きっといい友達になれるさ」
宮藤のことをそう言うバルクホルンの表情は優しさに満ちていた。クリスが楽しみしているように、バルクホルン自身もふたりに会わせるのが楽しみなのだろう、だが………
「あ、似ていると言っても、当然お前のほうがずっと美人だからな?」
「………姉バカだねぇ」
その通りだ。
クリスのお見舞いを終えると、自分たちの車に戻ってきたふたり。すると、ワイパーになにやら手紙が挟んであった。
「なんだこれ?」
ハルトマンが先に気づき手に取ると、バルクホルンに手渡した。
「なんでこんなものが………」
バルホルンは手紙の宛先を確認した。すると、少し表情が曇った。
「どったの?」
気になったハルトマンもその宛先を確認した。
「"ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ殿”」
「……ミーナ宛……?」
ふたりは疑問に満ちた。
一方そのころ、坂本の使いを終わった宮藤と足立、そしてリーネが訓練の為にペリーヌを呼びに行こうと宿舎の廊下を歩いていた。
「ったく、人使いが荒いんだよ。あの少佐は」
足立は不満を漏らした。
「そんなことないと思うけどなぁ」
「坂本少佐も色々忙しいから………」
足立に対し、ふたりはフォローするような言い方になった。
「基本的に好きじゃないんだよ。上の人間は」
「何でなの?」
まるで嫌いな食べ物を目の前に出されたような顔をする足立に宮藤は疑問の目で覗かせた。
「常に見下しで偉そうにしてるからな」
「それなら足立くんも偉そうにして……なんて………」
「あぁ?」
「ご、ごめんってば!!」
宮藤の冗談が足立には通じなかったようだ。
「でも、それなら坂本少佐には当てはまらないような………」
「その通りですわ!!」
『!』
リーネの意見に同調するように、3人の後ろから声が上がった。同時に振り向くとそこにはペリーヌの姿があった。
「ペリーヌさん!」
「丁度よかった~、今ペリーヌさんを呼びに………」
「聞き捨てならない事をおっしゃいましたね!足立さん?」
宮藤のセリフには聞く耳は持たないようで、ペリーヌは遮るように喋り足立に睨み付けるように近づいた。
「上官に対する侮辱は軍規に反しましてよ!」
「別に侮辱はしてないだろ」
「いま言ってたじゃありませんの!!坂本少佐の悪口を!!」
「俺は少佐に対して悪口は言ってないぞ?上官が好きじゃないって事だからな?」
「どっちも一緒ですわよ!!」
足立はペリーヌに対し、指をさしながらしかめっ面で説明するが、ペリーヌの少佐好きがそれをまともに聞き入れない。そんなやりとりを宮藤とリーネはドキドキしながら見てるしかなかった。
「ったく、やっぱ貴族のお嬢様ってとこだな………」
「な、なんですって……?」
そっぽを向き呟くように足立が言うと、ペリーヌはそれを聞き逃さなかった。
「ガリア貴族のお嬢様ってのは、自分の思いどおりにならないとすぐわめき散らすのが性分なんだろ?違うか?」
「ッ~~!!よくもそんな事が言えますわね!!!自分が常に一番だと思ってる自尊心の塊のクセに!!!」
「ンだとッ!?」
「なんですのよ!?」
ペリーヌと足立の言い争いは一触即発だった。
「ど、どうしよう………」
「と、お二人共とりあえず落ち着いて……」
「何をしているッ!!!」
『!!』
リーネがオロオロと止めに入ろうとした瞬間、ふたりの後ろから聞き慣れた渇の声が聞こえた。その時、ペリーヌと足立もハッとした表情で声の方に向いた。
「坂本さん!」
宮藤とリーネの後ろには坂本が立っていた。
「どうした?お前たち。私には何か言い争っているように聞こえたが?」
「え、えっと……それは………」
「…………………」
ペリーヌは先ほどとは違い、オドオドした表情で何から話していいのか困惑していた。一方足立は、話す気が無いように視線をそらしていた。
「……………足立、何があったか言え」
「………俺がペリーヌをバカにした。それだけだ」
「っ!」
ペリーヌは驚いた表情で足立の顔を見た。もちろん、それだけじゃないはずなのに。それを見ていた宮藤とリーネもハッとした表情をしていた。
「………それだけか?」
「そうだ」
足立は視線を坂本に合わせ、じっと見つめていた。それは坂本も同じだった。
「………わかった。後で反省文を書かせる。訓練も倍だ。いいな?」
「っ………はいよ」
如何にも嫌そうな顔をする足立だが、自分から言い出し事で引くに引けなかった。
「それとだ」
「あぁ?まだなんかあるのかよ………」
「ペリーヌに謝れ。いいな……?」
「…………………」
坂本が最後に追加した提案だけは優しく聞こえた。しかし足立はそれを無視し、来た方向に戻り訓練に向かおうとしていた。
「あ、足立くん!!」
宮藤が呼び掛けると、足立は立ち止まりこう言った。
「………悪かったな。ツンツンメガネ」
「……………」
後ろ姿で表情は見えないが、先ほどのイラついたような声ではなかった。その差にペリーヌはなにも言えなかった。
「もー、足立くん!」
宮藤も呆れたような声で呼びながら、足立の後を追った。
「あ、よ、芳佳ちゃん!」
リーネも遅れてふたりの後を追った。
「まったく………ペリーヌ、訓練に行かないのか?」
「えっ?あ………は、はい………」
坂本に言われるまでボーっとしていたペリーヌ。小走りで走り出すが、その表情はなにかやりきれない表情だった。
「……………ペリーヌ!」
「!」
坂本に呼び止められて立ち止まるペリーヌ。そして振り向くと、優しい顔をした坂本からこう言われた。
「さっきはありがとうな。ペリーヌ」
「っ!?い、いえ!!」
何故お礼を言われたのか、ペリーヌは一瞬分からず赤面した。あこがれの坂本からお礼を言われたのが相当嬉しかったのだろう。照れ隠すようにその場を後にした。
「………ウソは言えない……か………」
坂本はそう呟いた。もしかしたら、坂本は全てを見ていたかもしれない。
基地の離れで訓練をするウィッチたち。しかし今回はロッテを組んでの模擬戦のようだ。ペリーヌと宮藤、ルッキーニとシャーリーがペアだ。そして、ペリーヌペアは追いかけられている状況だった。
「宮藤さん!後ろを取られてましてよ!」
「う、うん!」
宮藤に警告するペリーヌだが、宮藤は妙にどこか落ち着いていた。前までならば慌てていたはずなのに。
「へっへーん!いっただき~!!」
ルッキーニが照準を宮藤に合わせ撃とうとしたその時。
「へっ?」
ルッキーニの照準から突如宮藤が消えた。が、それは錯覚。宮藤は左側に捻りこむよう急旋回をし、ルッキーニとシャーリーの背後を取った。そしてふたりを射程に捉えた宮藤はそのままペイント弾を二人のストライカーに当てた。
「あ~!」
「おー!?」
ルッキーニとシャーリーは宮藤の奇策にあっさりやられてしまった。
「あの技は………」
そしてペアのペリーヌは、今の宮藤の技をどこかで見たことがある様子だった。
ふたりがやられたことによって、審判であるリーネの笛の音が響いた。
「ペリーヌ、宮藤ペアの勝ち!すごいよ芳佳ちゃん!!」
自分のことのように喜ぶリーネは宮藤の下に駆け寄った。
「やられた~!」
ルッキーニの顔は悔しいそうな表情を浮かべていた。
「おかしいな~、絶対後ろに付いてたはずなのに」
「だいぶ成長したな宮藤」
「そうですか!?えへへ」
シャーリーに褒められて素直に喜ぶ宮藤。自然と笑顔になった。すると………
「わぁっ!?」
宮藤の身体に異変が起こった。何かに触られる感覚、それはルッキーニが宮藤の胸を鷲掴みしていた。
「なにするの!!?」
「ざーんねん、こっちはちっとも変わりなーし」
「ん、見りゃわかる」
「もー!こらー!!!」
ルッキーニとシャーリーの悪ふざけに宮藤は腕を上げながら憤慨していた。
「でも、腕を上げたのは確かだな」
「ほんとですか?」
「でも高高度じゃこうはいかないからね~」
ルッキーニはあくまで高高度戦では負けないと宣言した。
「私たち案外良いペアなのかも」
「ご冗談を……」
宮藤がペリーヌに良い可能性を投げ掛けるが、ペリーヌは本意ではない様子だった。
「なぁ足立、お前もそう思うだろ?」
「マシにはなってる……が」
上空にいる足立は言葉を濁らせた。
「……まぁ、ひとつアドバイスをくれてやるなら……」
宮藤の目の前に現れた足立は細めた目で言い放った。
「今が一番気を付けろ、だな」
「えっ…?」
そう言い放った足立は次の模擬戦のためにリーネの下へ移動した。言われた宮藤はキョトンとした顔で意味を理解出来なかった。
「次は俺たちか」
「はい!」
リーネと足立が準備に取りかかろうとした時、インカムからノイズが混じりの別の通信が入った。
「あーあー、聞こえるか?足立」
「少佐?」
ノイズ混じりで話している相手は坂本だった。
「訓練中のところ申し訳ない。今すぐ中断して基地に戻ってきてくれないか?」
「やっと出番が回ってきたのにか?」
「そう言うな、少しばかり緊急なんだ。いいな?」
「………へいへい」
訓練と言えど実践に近い模擬戦に足立は少し楽しみにしていたみたいだったが、目の前でお預けをくらった。その表情は苛立ちが募っていた。
しかし坂本の緊急と聞いて足立は一旦冷静になり、自分を抑えた。抑えた声で返事をすると、坂本との通信は切れた。
「なんだとよ。訓練は中止みたいだぜ」
「は、はい……いったいなにが………」
リーネも坂本の通信を聞いていて不安になった。
「ねぇ足立くん!今の通信って………!!」
「俺もよくわかんねぇよ。緊急とか言ってたけど」
「なんかやらかしたんじゃないの?」
「まさか処分が決まった、とか?」
ルッキーニとシャーリーはいつものふざける感覚で足立を茶化した。
「んなわけあるか、お前らじゃあるまいし」
足立もふたりの話をバカバカしいとしか思わなかった。しかし、足立は妙な胸騒ぎを覚えた。