仮面ライダーゼロワン Root of the RAINBOW   作:度近亭心恋

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知るとは、単に知識によって理解するのではなく、体得してはじめて知ったことになる。
松下幸之助(1894~1989)


Part3 ナンジ、異邦人と手をとれ!

「何……?」

 

 侑にとって、“それ”が何だかわからないのも無理はない話だ。

 目の前で少女を抱きかかえて立つのは、紛れもない異形。バッタ男としか形容のしようのないそれが、彼女らの目の前に落ちてきたのだ。

 

「……ッ!」

 

 バッタ男は首を動かし、何か言いたげだ。侑は何が起こるのかと、びくっと身構える。

 

「あ“ぁ~~……!! 痛ってぇ~~~~!!」

「……は?」

 

 抱きかかえた少女をゆっくりと降ろしてあげながら悶絶するという予想外のリアクションに、侑は思わず声が出た。他の面々も、何も言えず呆気に取られてそれを見ている。

 

「流石に変身してても着地はキツいよなああ~~やっぱ……!」

「ご無事で何よりです」

 

 悶えるゼロワンの傍らで、イズは姿勢を正しいつもの秘書ヒューマギアとしての佇まいを見せている。

 

「いやいやそれより! 何で変身できたの!? だってゼアは……」

「ゼアなら、こちらに」

 

 イズはプログライズキーの入ったアタッシュケースから、あるプログライズキーを取り出した。それは、

 

「ゼロツーキー……! ああ~~! そうか! そうだよ!」

 

 ゼロツープログライズキーとは、かつて仮面ライダーアークゼロと対峙した或人達が産み出した秘密兵器だ。ゼロワンを圧倒し衛星ゼアを掌握したアークゼロだったが、実はゼアのバックアップはイズの中に存在していた。そこで或人たちはイズに何十兆通りもの可能性をシミュレーションさせ、彼女の中のゼアを起動させた。

 

 それこそが、ゼロツープログライズキー。

 

 つまるところ、ゼロツープログライズキーにはゼアのデータと人工知能がまるごと存在していると言ってもいい。衛星ゼアの無いこの“異世界”でも、代替として人工知能ゼアがサポートしてくれるというわけだ。

 

「ゼアがついてりゃ、もう怖い物なし! よろしくな~~!」

 

 リアクションがいちいち大げさだな、というのが第一印象だった。

 吊り上がったようにも見える目元やシンプルさがどことなく不気味さと同居した印象も受けるそのバッタ男は、思っていた以上にコミカルかつ軽いノリを見せてきた。

 

「えっとお……」

 

 最後尾の彼方が何かを言いかけた時、

 

「生きてんじゃん……」

 

 その後ろから、聞き慣れぬ声が響いた。えっ、と彼方が振り返ったそこには、三人の男女がいた。

 

「排除」

 

 淡々と声を上げるのは、涼やかな目元を持ちながらも寡黙な印象を与える少女。年の頃は彼方たちよりも下に見え、中学生ぐらいだろうか。

 

「やっぱ高度一万メートルは盛り過ぎでしょ。ボクなら50メートルぐらいにして変身する余裕なんか与えないね! 地面とベストマッチで潰れたトマトの出来上がり!」

 

 もう一人は、対照的によく喋る少年。こっちは高校生ぐらいに見える。

 

「あんまり低いと一般人に見られるだろう? 目立つ真似はフツ様も望まない……」

 

 最後は、どこか疲れた印象の拭えないくたびれた男だ。年若い他の二人に比べると、40は越えていそうに見える。

 何より“奇妙”なのは────

 

 全員が、揃いの白い装束を身に着けていたところだ。

 

「何……?」

 

 彼方の傍らにいたエマも、この“奇妙”な集団に珍しく怪訝な表情を見せた。

 

「ゼロワン! 来たようだね、この“世界”に!」

 

 くたびれた男は彼女らを無視し、慣れない調子で声を張った。

 

「シンクネット……!!」

 

 ゼロワンの様子が変わる。その調子は一瞬で、危機を察知した戦士のものとなっていた。

 同好会の面々はその会話の調子に気圧され、身動きがとれずにいる。動いたらまずいことになりそうだという予感を、動物的な本能で感じ取っているのだ。

 

「君が、楽園を壊した」

 

 くたびれた男はゼロワンをじっと見据えてそう言った。ゼロワンは、またそれかと頭を抱える。

 

「だから、楽園は……!」

「エスってばとんだ食わせ者だったねぇ!」

 

 少年が顔は笑いながら、目は全く笑っていない表情でそう自嘲するように返す。

 

「シンクネットに集まったボクらみたいな人間を『悪意』として滅ぼすつもりだったなんてさあ、笑っちゃうよ! そうやって作った『楽園』の中に悪意が生まれないなんて言いきれるかい? 選ばれてあの世界に行けた人間の全部が全部、怒りも憎しみも妬みも嫉みも我欲もない、清廉潔白な人間だって保証がどこにあるって言うのさ!」

 

 それはもっともな話ではあった。

 

 シンクネットはあくまで、人間の悪意の「表層」に過ぎない。たまたまシンクネットの存在を知りそこに悪意をぶつけた人間が集まっただけで、自らの歪みや憎しみを表に出せぬまま抱え込んでいる人間は数多くいる。それが地球全体規模となれば猶更だ。

 今現在にこやかに笑い他人を慈しむ人間が、悪意に呑まれ次のアークとならない保証などどこにもない。

 

 何より……飛電或人には、そういう“実体験”があるからだ。

 

 イズが破壊された後、或人は絶望した。滅を憎んだ。どうしようもない哀しみに打ちのめされた。

 そこに現れたのが、“アズ”。イズを模した、アークの生み出した使者。彼女は悪意に呑まれ、“次のアーク”となる資質を持った或人に、悪意の坩堝たる“アークドライバー”と“アークワンプログライズキー”を授け……或人を、“仮面ライダーアークワン”へと変貌させてしまった。

 或人自身は滅との戦いの中でそれを乗り越えたが、人間皆一様にそうできるとは限らない。エスの定めた“楽園”の基準を満たした者達がいずれ楽園を壊す悪意にならないと、誰が言いきれるのだ。

 それが解ってしまっただけに、今或人は何も言えないのだ。

 

「……だから、排除する。この世界と元の世界を贄に、楽園を作る」

 

 少女はぼそぼそと、しかし確かな憎しみを込めた声でそう言った。

 

「そんなことは、させない」

 

 ゼロワンは静かに、しかし確かな決意を込めてそう返す。

 

「するんだよ。私達がね」

 

“レイドライザー!”

 

 男はプログライズキーを取り出し、レイドライザーを巻いた。

 

「私はジョン」

 

“RAMPAGE HUNT!”

 

 血走った目で、男──ジョンはプログライズキーを起動させる。

 

「ボクはバリー」

 

“スラッシュアバドライザー!”

“SHADING HIT!”

 

 少年──バリーはスラッシュライザーのモデルチェンジ型、スラッシュアバドライザーを起動させベルトを巻いた。手にしたプログライズキーは……通常のものよりも豪奢で、どことなく或人の持つ“シャイニングホッパー”に似ていた。

 

「……ミンツ」

 

”ショットアバドライザー!”

“SHADING HIT!”

 

 少女──ミンツはバリーと同じプログライズキーを起動させ、ショットライザーのモデルチェンジ型のショットアバドライザーを巻く。

 全員が据わった目でゼロワンを見据え、

 

「実装」

「変身」

 

 自らを変えるための言葉を解き放った。

 

“RAID-RISE! ランペイジガトリング!”

 

“THINKNET-RISE! シェイディングホッパー!”

“────When You cloud,darkness blooms.”

 

 ジョンはレイドライザーと“アナザーランペイジガトリング”キーを使い、ランペイジレイダーへと変貌していた。

 

 元々ランペイジガトリングキーとは天津垓がZAIA時代にプログライズキーのデータを集めて作ったプログライズキーであり、量産して兵器となるはずであった。だが不破によってその野望は阻止され、オリジナルは不破に奪取された。

 だが実は──天津は量産に向け、もうひとつ試作型を開発させていたのだ。ZAIAエンタープライズジャパン開発部の主任だった京極大毅がスカウティングパンダレイダーとなって行動を起こしお縄についた為その開発は中断されていたものの、野立の手引きによりシンクネットの手でそれは完成していた。

 

 ファイティングジャッカル。

 クラッシングバッファロー。

 スプラッシングホエール。

 ダイナマイティングライオン。

 ストーミングペンギン。

 スカウティングパンダ。

 ガトリングヘッジホッグ。

 スパーキングジラフ。

 エキサイティングスタッグ。

 インベイディングホースシュークラブ。

 

 ZAIAの持つプログライズキーを主軸とした、ランペイジガトリング。

 十種の獣が混ざり合った歪なレイダーは、ゼロワンとその場にいる全員を威圧するように吼えた。

 

 バリーとミンツが変身したのは、かつてのシンクネット事件で先兵として動いていた仮面ライダーアバドン。その際に使われていたのは先のゲート襲撃でも使われたクラウディングホッパーのプログライズキーだったが、今回はそのバージョンアップ型である“シェイディングホッパー”が使われ、装飾、装甲、スペック全てが強化されている。

 

 スクールアイドル同好会の面々は、息を呑んだ。

 人間が異形へと変身する。それだけ見れば先程までのバッタ男と何ら変わらない。

 だが何故だろう。

 彼女らにははっきりと解るのだ。両者の間には、明確な“違い”があるということが。

 

「まずさあ」

 

 バリーのアバドン────スラッシュアバドンは、周りの少女達を一瞥する。

 

「お前ら、邪魔」

 

 えっ、とせつ菜が反応するタイミング。

 ごみを払いのけるかのように、スラッシュアバドンがスラッシュアバドライザーを向けて飛びかかってくるタイミング。

 

 二つのタイミングはほぼ同時だった。

 

 ぐしゅっ、と肉を裂く感覚の手ごたえに、スラッシュアバドンは一瞬歓喜するが……すぐに、その認識を改めることになった。

 せつ菜に向けた切っ先は、間に入ったゼロワンが腕で受けていた。同じだったタイミングは「二つ」ではない。せつ菜の前にゼロワンが飛び出すタイミングも加えた、「三つ」だ。

 

「あ……」

 

 せつ菜は何か言いかけるが、

 

「逃げて!!」

 

 ゼロワンは、ただそれだけ叫んだ。

 

「皆さん!」

 

 イズは叫ぶと、周りにいた同好会の面々に指示を出し、避難を誘導する。スラッシュアバドンは歯噛みするが、ほか二人は周りにいる人間にそれほど関心が無いのか、それに手を出す様子はない。

 

「邪魔するんだぁ……?」

 

 スラッシュアバドンはゼロワンの腕からスラッシュアバドライザーを引き抜くと、苦々しげに呟く。

 

「手を出すなら俺一人にしろよ! シンクネットの相手は俺がする!」

「言ったね?」

 

 三人のシンクネット信者の殺気が強まる。だが、ゼロワンは逃げない。恐れない。怯まない。

 この場で今、立ち向かえるのは自分だけ。無関係な一般人を平気で巻き込むような悪辣な相手に、屈するわけにはいかない。不破ほか仮面ライダー達が力になってくれるとは言え、最終的に己の直面した状況に立ち向かって克てるのは、自分自身の力があってこそ。

 だから彼は、戦いの前にいつもこう宣言するのだ。

 

「お前らを止められるのはただ一人……俺だ!」

 

 それが、戦闘開始のゴングだった。ジョンのランペイジレイダーは右腕に巨大なガトリング砲を携えており、ゼロワンが言い終わるか終わらぬかのうちにそれを撃ち放つ。だが、その弾丸がゼロワンを捉えることはない。

 ゼロワンはバッタの跳躍力で飛び跳ねると、空中でひねりを加えながら体を回転させていた。そして、それはただの回避行動ではない。飛べば落ちる。このごく当たり前の現象を彼は、

 

「うがっ……!」

 

 しっかりと攻撃に変えていた。二人のアバドンは悶絶している。着陸先を敵の身体へと定め、彼は蹴りを放って二人にダメージを与えつつ地面へと降り立つ。再びランペイジレイダーがガトリングを撃ち放つが、またも飛び上がってからの丁々発止丁発止。今度はランペイジレイダーの前に着地したゼロワンは、すかさずパンチを決めた。だが、

 

「固ったぁ~~!」

 

 想像以上の堅牢な装甲を誇るランペイジレイダーに、ゼロワンの拳の方がダメージを受けていた。瞬間、ゼロワンの背中に強烈な一撃が見舞われる。スラッシュアバドンとミンツのアバドン────ショットアバドンが、同時に攻撃を食らわせたのだ。

 

「やばっ……」

 

 動きの止まった一瞬の隙を突き、

 

「楽園に捧ぐ、贄となれ。君は……子羊だ」

 

 ランペイジレイダーが全力でガトリングを浴びせた。弾丸の雨が、ゼロワンを貫く。

 

「ああっ……!!」

 

 茂みの中で、侑は声を上げそうになった。その口元を、イズが優しくしっ、と抑える。

 もっと安全な場所に逃がしてあげたいが、一連の流れを見てしまった同好会の面々をこのまま帰すわけにもいかず、イズは10人をめいめい近くの茂みや物陰に隠れさせ、自身は侑、歩夢と茂みの中にいた。

 

「あの人……あのままじゃ……」

「大丈夫です」

 

 目の前で繰り広げられる、体験したことの無い……否、するはずも無かった命のやり取り。さしもの侑も動揺を隠せなかったが、イズは冷静さを崩さない。

 

「夢を守る為なら、或人社長は決して倒れたりしません」

「夢……?」

 

 その単語が、侑には一際引っかかった。

 一方で、

 

「まだ……まだぁっ!」

 

 一度は倒れ伏しかけたゼロワンは、硝煙に包まれながらも再び立ち上がっていた。その様を見た同好会の面々は息を呑む。

 

「或人社長!」

 

 イズは茂みから出ると、戦場へと駆け寄る。彼女は素早くプログライズキーの入っているアタッシュケースを開くと、そのうちの一つを掴みゼロワンへと投げ渡した。

 

「これは……! 持ってきてたんだイズ!」

 

 そのプログライズキーは、一際珍しいものだった。

 

「ひっさびさに行くぜ~~!」

 

 戦闘中ながらゼロワンは喜びつつ、その────

 

”POCKET!”

 

「カンガルーちゃん!」

 

 ”ホッピングカンガルー”のキーを起動し認証させた。認証と同時に、イズの持つゼロツーキーが輝き、ゼアの役割を果たしライダモデルが射出される。既存のライダモデルとは一味ちがう、まるでイラストのようなそれは例によって飛び回りながら敵を二度三度小突き────

 

“The fourth dimension of space! ホッピングカンガルー!”

“────It`s pouch contains infinite possibilities.”

 

 ゼロワンと合体し、彼をホッピングカンガルーへと“ハイブリッドライズ”させた。

 

 ホッピングカンガルーは或人がシャイニングホッパーを手に入れる少し前、人間とヒューマギアでコンビを組んだお笑い芸人、“ヒューマギア人間”のボケを担当していたヒューマギア、天丼ボケ太郎が暴走させられた際に偶発的に手に入れたプログライズキーだ。

 その後すぐにシャイニングホッパー、アサルトホッパーと段階的に力を手にしていったために表立って使うことはなかったものの、これも或人にとっては先代イズとの思い出深い一品だ。

 

「変わった……!」

 

 侑は目の前で巻き起こったそれに、また驚いていた。まるでSF映画のようなそれらが矢継ぎ早に展開され、現実に存在する。それが何より信じがたいのだ。

 

「こけおどしだ!」

 

 スラッシュアバドンが向かってくる。二度三度と切りつけられるもゼロワンは怯まず、ボクシングのグローブ状の拳で相手にジャブを決めた。スラッシュアバドンは唸り、後退させられる。

 

「さてさて、ここからがホッピングカンガルーの真骨頂だ!」

“POCKET!”

 

 ゼロワンが叫ぶと同時に、

 

「ど~も~! 腹筋崩壊太郎です!」

「ええええええええええええええええ!?」

 

 思わず大声を上げたかすみの口元を、愛がしっ、と抑える。しかしながら、かすみが声を上げてしまうのも無理は無いと言えた。

 ゼロワンの胸元にある“キズナポケット”が開き、そこから次元を超越するかの如く半裸のボディビル体型の男性がぬるっと顔を出せば、誰だって驚く。

 

 ゼロワンの言の通り、これこそがホッピングカンガルーの真骨頂。有袋類であるカンガルーが自らの体に子供をしまう点からの発想で、ホッピングカンガルーは胸と両肩に備えられたキズナポケットから衛星ゼアのヒューマギアのデータベースにアクセスし、コピーしたそのデータを実体化させることができるのだ。

 

 今回選び出されたヒューマギアはお笑い芸人ヒューマギア、腹筋崩壊太郎。その肉体美を活かしたネタを得意とする、飛電謹製のヒューマギアだ。

 腹筋崩壊太郎はそのままポケットから飛び出すと、すっくと降り立つ。スラッシュアバドンは呆気に取られていたが、すぐに気を取り直しまた切りつけんと向かってきた。しかし、腹筋崩壊太郎は微塵も動じていない。

 

「いきますよ~~……」

 

 腹筋崩壊太郎は勿体をつけた後で、

 

「腹筋、パワァァ──ッ!!」

 

 自らの腹筋を、物理的に吹き飛ばした。

 声を上げて笑いそうになった愛の口元を、今度はかすみがしっ、と抑える番だ。愛自身この状況で笑ってしまうのは申し訳ないとは思ってはいるが、

 

(『腹筋崩壊』ってそーゆー意味じゃ無くない!?)

 

 その事実が、どうにもこうにもおかしくてたまらないのだ。

 腹筋崩壊太郎が吹き飛ばした腹筋は、ものの見事に炸裂弾の役割を果たしスラッシュアバドンにダメージを与えていた。

 彼の最大の持ち芸、それこそが物理的腹筋崩壊。腹筋のパーツを飛ばすだけでなく、その腹筋はリロードされ無尽蔵に発射できる。そのビジュアルのインパクトで笑いを取るわけだが、これを攻撃に転用したのだ。

 お笑い芸人ヒューマギアにそれだけの攻撃力があってよいのか、とも思うが────それは誰かを傷つけるためではなく、誰かが笑える世界を守る為の力なのだと或人は信じていた。

 

「ボクをナメるなああああああああああ!!」

 

 またスラッシュアバドンが向かって来るが、今度はゼロワンが立ちふさがる。

 

「今度は俺の番だ! いっくぜ~~……! 腹筋……」

 

 その言葉と動作に、スラッシュアバドンは一瞬びくっと身構えるが、

 

「腹筋、パワァァ──ッ!!」

 

 ゼロワンの腹筋が、

 

「……あれ?」

 

 飛んでくることはなかった。

 

「或人社長、腹筋は意気込みで飛ばすんです! まだまだラーニングが足りないですよ!」

「いや意気込みとかの問題!?」

 

 ホッピングカンガルーには、ヒューマギアの持つ職業特性を攻撃力として付与できる能力も備わっている。或人もそれを期待してのことだったが、当てが外れた。

 

「死ねェェェ────!!」

 

 スラッシュアバドンが切りつけてくるも、ゼロワンはまた体勢を立て直しその腕をがっしりと掴む。思った以上の力に、相手が悶絶する番だ。

 

「そうか、太郎の特性は筋肉パワーか! 筋肉ハンパねぇ~~!」

 

 こつが解れば、後はもう簡単だ。

 ゼロワンは増大した筋肉パワーで、掴んだ腕から相手を投げ飛ばした。

 

「ヒューマギア……!」

 

 瞬間、腹筋崩壊太郎とゼロワンに銃弾が浴びせられる。ヒューマギアの存在を感知した途端、ショットアバドンに力がみなぎり攻撃の手を強めてきた。

 

「うおおっ……!」

 

 ゼロワンが身を庇う体制を取った時、

 

“POCKET!”

「或人社長、助太刀いたします!」

 

 右肩のポケットから、今度は俳優ヒューマギア、松田エンジが飛び出した。

 

 エンジはハリウッドで演技をラーニングした、がウリの優秀な俳優ヒューマギアで、飛電の主導するヒューマギア主演のドラマプロジェクトに抜擢されたほどの実力派だ。

 得意の「演技」を活かし、敵だった頃の天津を出し抜き、或人の窮地を救ってくれたこともある。

 

「俳優ヒューマギアか」

 

 ショットアバドンはまた銃を構え直す。彼女は感情をあまり出さないよう努めているのだろうという部分が端々から見えてはいたが、ヒューマギアを相手にするとその激情が漏れ出ているようだ。

 

「え、でもエンジでどうやって……」

「何をおっしゃいます! 私は松田エンジ、演技をするのが仕事です」

 

 するとエンジは、どこから取り出したのか模造刀を構える。

 

「演技には無限の世界が広がっています。大事なのは、想像力とラーニングの擦り合わせ。だから……」

 

 ここで、イズがゼロワンの専用武器、アタッシュカリバーを投げ渡す。鞄型のそれを剣に変形させると、ゼロワンはエンジと同様の姿勢で構えを取った。

 

「全力で! 大立ち回りです!!」

 

 エンジはババッと模造刀を振り回し始めた。当然、ただ闇雲に振り回しているわけではない。それは時代劇で見ることのできる、

 

「殺陣、ですね……!」

 

 しずくが物陰からそのキレに感嘆する。高校生の舞台演劇ではなかなか本格的な殺陣を目にする機会も無いが、向上心の強い彼女のこと、その点はしっかりと勉強し知識としては頭にある。

 だが、そのあざやかさはただの知識だけでは語りつくせない素晴らしさがあった。そしてそれは、

 

「うおおおおおおっ……! すげっ……!」

 

 ゼロワンに動きが連動し、ゼロワンの攻撃にも繋がっている。流れるようなあざやかな殺陣でアタッシュカリバーがふるわれ、それは一発一発が確実にショットアバドンを打ち据えていった。最後に剣道の「胴」の要領で強烈な一撃が見舞われ、ショットアバドンは唸りながら後退していった。

 

「私を忘れるなよ……?」

 

 ランペイジレイダーは自身の腕を変形させ、1メートルほどの長さの硬質な武器にする。描かれたまだらの模様から、それがキリンの能力のスパーキングジラフ由来のものだと解った。棒状の腕を振り回し、ランペイジレイダーはゼロワンと距離を取りつつ攻撃してくる。やがてその腕が、ゼロワンの傍らのエンジに掠った。

 エンジは声を上げ悶絶する。スパーキングジラフの能力は電撃。ただの棒ではなく、その腕には電流が流れているのだ。

 

 ゼロワンはエンジを気遣いながらも、最後のポケットを起動させた。

 

“POCKET!”

「YOYOYOYO~~! 呼んだかYO社長~~!?」

 

 左肩のポケットから飛び出したのはラッパー型ヒューマギア、MCチェケラだ。

 

 チェケラはお仕事五番勝負の最終勝負、演説対決にて飛電の代表側となったが、ZAIA側の代表、由藤政光議員の悪意に触れたことにより“自らの意思で”暴走し人類の殲滅を叫び、ヒューマギアの世間のイメージを最悪にしたという経緯を持つ。

 

 或人は滅との一件が終わった後、彼を復元することを決めた。

 

 それまでは彼が到達した負のシンギュラリティの危険性を考えるととてもじゃないが復元はできないというのが飛電全体の方針ではあったが、或人は彼の存在と向き合わなければならないと感じていた。

 滅がヒューマギア達に人類との戦争を呼びかけた際、チェケラ同様に自らの意思で人間と戦う事を選んだヒューマギアは僅かながらいた。

 滅との決着を持って彼らを一時は説得したものの、人工知能の進化の先に、自発的な人間への敵意はもう避けて通れないものだと判断してのことだった。

 復元されたチェケラは、すぐにまた人間への敵意を向けようとした。だが或人は、自分と滅の戦い、人間のヒューマギアの顛末を聞かせ、最後には土下座をしてまで彼に頼み込んだ。

 

 

「あんな事があって、人間を信じられないのも、憎く思うのもわかる! けど、俺達を……人間とヒューマギアの歩く未来を、もう一度信じてみてくれ!!」

 

「意味わかんねえ主張、罪はねえとでも社長!?  汚え人間は滅びろ!!」

 

「アークになった俺にはわかる!! 悪意と憎しみは世界に溢れていて、簡単に飲み込まれる……。イズが破壊された時、ゼツメライザーを手に取ったお前の気持ちが解った!!」

 

 

 その言葉に、チェケラも一瞬押し黙った。

 

 

「けど、この世界は……悪意だけで出来ているわけじゃない」

 

 

 それから、或人はチェケラと一緒にヒューマギアの仕事現場を見て回る日々を続けた。最初は頑なだったチェケラもそれを見るうちに……少しずつ、表情は柔らかくなっていった。

 そして最終日、チェケラは或人に言った。

 

 

「ここまでの気分爽快、今までの自分後悔」

 

「チェケラ……!」

 

「別に絆されたわけじゃねーぜ。次に人間が許せねえと思った時は、その時こそ戦争。またするぜ暴走」

 

「そうなった時は、俺が止めてやる。お前を止められるのはただ一人……俺だ」

 

 

 そこで二人は、がっちりと握手をした。

 

 チェケラは人間への憎しみや怒りを忘れないまま、新しい一歩を踏み出した。

 だからこそ今、衛星ゼアは彼を選んだのだ。

 

「Hey,YO! シンクネットの兄ちゃん姉ちゃん、破滅を望んだイカれた甘ちゃん、そんなの許せるワケねえじゃん!」

 

 開幕、ライムを刻みつつの強烈なdisでチェケラは場を自分の色に変えていく。

 

「チェケラ、アゲてんなあ!」

「あたぼうよ社長! 状況把握、アイツら最悪。許さねえぜ、悪意のアーク」

 

 そう、チェケラはかつてアークに接続することなく、自発的にアークと同様の人類への敵意を持ったヒューマギア。だからこそ考えを変えた今────

 一度もアークに取り込まれていないからこそ、かつての自分と同じ悪意の塊のアークを、“心”から憎むことができるのだ。

 人間は押しなべて皆一様に汚く醜いと思っていた。

 

 だが今は違う。

 

 人間は悪意だけで出来ているわけではない。善意だけで出来ているわけでもない。その両方を持ち、心のありようによって染まるものなのだ。

 だからこそ、今この言葉を以て宣戦布告としたい。

 

「汚え人間は滅びろ!!」

 

 かつて紡いだのと全く同じ言葉。だが今、その意味は全く違う。

 美しい人間を虐げ傷つける、“汚え人間”だけを……否。

 汚え人間の根源にある、悪意を滅ぼすのだと。

 

 そこでチェケラは、華麗にダンスを決め始めた。ヒップホップのリズムに合わせて、大柄な体を信じられないほどに軽快に動かしていく。

 

「〽ここは異世界! そこは良い世界!? 多分正解! 気分爽快? そうかいそうかい! CHECK-IT-OUT, in the house!?」

 

 勿論、ライムを刻むのも忘れない。そしてそのダンスは、

 

「ちゃんと相手に当たってるわ……」

 

 果林は物陰から恐々とそれを見てはいたが、目の前で始まったダンスのキレにはこの状況も忘れて見入ってしまっていた。モデルの経験からか体運びや動きのセンスが良いと自他共に認める彼女だけに、自然と審美眼を以て見てしまうところがある。素直に、やるわね、の一言が出てしまっていた。

 

 その間、チェケラのダンスは当然の如くゼロワンに連動し、ランペイジレイダーのキリンの腕をかいくぐりながら蹴りや突きが相手を捉えている。

 

「調子に……乗るなァ!!」

 

 ランペイジレイダーはダイナマイティングライオンの能力で、強化ダイナマイトを作り出しゼロワンに投げつけた。それらは瞬時に爆裂し、轟音と爆炎を響かせる。物陰にいた同好会の面々は、身を庇いながら耳を塞ぐしかなかった。

 

「終わったなあ!! ゼロワ……」

 

 ン、と言いきることはなかった。

 爆炎の中から飛んできた、ゼロワンのダンスに乗せた蹴りがランペイジレイダーの顎に直撃したからだ。がっ、とうめいて相手が倒れ込んだのを確認しながらゼロワンは体制を立て直そうとするが、流石にダイナマイトの直撃は堪えたのか膝をつきかける。そこに、

 

「頑張って……! 頑張れぇぇ──!!」

 

 せつ菜が、大音声(だいおんじょう)を張った。

 

 ちょっとおおおお!!とかすみが返す刀で叫ぶ。当然だろう。相手に見つからないように隠れているのに、大声を上げては全く意味が無い。せつ菜自身、叫んだ後ではっと我に返っていたほどだ。

 

 だが、

 

「ありがとう……君! さんきゅー!」

 

 その一言が、ゼロワンにとって……否。

 飛電或人にとっては、何よりも嬉しく力になるものだった。

 ランペイジレイダーは次の行動に移ろうとし、二体のアバドンも構えを取ったが────それより先に、ゼロワンの渾身の右ストレートがランペイジレイダーの顔面を捉えた。

 

「ブゲっ……」

「行っくぜ~~……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           

           

           

           

           グインパクト

 

 

 一発。

 

 二発。

 

 三発。四発。五発。六発。

 

 十。五十。百。二百。

 

 ゼロワンの放った拳は次々と相手を捉え、ボコボコに殴り倒していく。そして最後に、ぐるぐると右腕を大回転させてからの……

 

 強烈で噓の無い、ストレートパンチ一閃。

 

 ランペイジレイダーは思い切り後ろに吹っ飛び、そのまま川に落ちた。同時に、エネルギーが流れ込んだのか水中で爆発が起こり、ざばっと水柱も上がる。

 

「やば……! 逃げるよ、ミンツ」

 

 スラッシュアバドンは状況を不利と見て、そう提案する。だが、

 

「やだ」

 

 ショットアバドンは頑として譲らない。

 

「……バッッッカじゃあねーの!? 勝てない相手に挑むとかダセえんだよ!! やるんなら確実にいたぶれる自分より弱い相手をテッテー的にイジメ倒す! これが原則でしょーがよ!」

 

 スラッシュアバドンはキレてどつくが、それでもショットアバドンは一点を見つめている。

 

「ヒューマギアは……全て……排除する……!」

 

 彼女はそう言い捨てると、ショットアバドライザーを構えゼロワンが呼び出した腹筋崩壊太郎、エンジ、チェケラの三人のヒューマギアの方へと向かっていった。だが、

 

「そこまでだ」

 

 ゼロワンが、ホッピングカンガルーの拳をショットアバドンの眼前に突きつけていた。

 

「……ッ」

「あんたらのボスに伝えろよ。俺達仮面ライダーが、俺達の世界も、この世界も破壊させないって」

 

 しばしの膠着。

 一瞬が永遠にも感じられるほどの沈黙の後、ショットアバドンは銃を下ろした。

 

「……帰ろう」

「ジョンはどうする?」

 

 スラッシュアバドンが問う。

 

「川に落ちた時点でログアウトしてるでしょ」

「そーだね。……ゼロワン!」

 

 そこで二人は変身を解き、バリーとミンツに戻る。

 

「お前の手で楽園(エデン)は終わった。だから、その先にボク達が進む……。フツ様の導きで」

 

 また“フツ”だ。

 どうやら、エスに代わって彼らをまとめ上げる存在。それが“フツ“らしい。

 

 その瞬間、二人は「LOG OUT」の文字を残し、その場から消えた。これがシンクネット信者たちの最大の特徴。彼らはネットを通じ、ナノマシンで作成したアバターを媒体に活動を行うのが常だ。本体は自宅、ネットカフェ、職場……などなど、常に「安全圏」で行動している。アバターだって、本人の容姿とは似ても似つかない姿にしてハンドルネームで名乗るのが常だ。

 匿名の利点に守られながら、度胸も覚悟も無しに他者への攻撃を繰り返す。印象深いクラウディングホッパーのプログライズキーと合わせて、“ネットイナゴ”そのものの悪意の群体だ。

 兎にも角にも、危険は去った。

 

「それでは社長、またお会いしましょう!」

「ミッションの成功を祈っています」

「さよなら三角、これなら合格! 社長の愛で救う地球!」

 

 ホッピングカンガルーで呼び出されたヒューマギア達は、言葉を残してデータとなって消えていく。ありがとう、とゼロワンは伝え、ヒューマギア達の頼もしさが嬉しくなった。

 

「イズ……」

 

 ゼロワンはイズと、咄嗟のこととはいえ巻き込まれた侑たちに目を向ける。が、

 

「ちょっ……ええ──っ!?」

 

 ここはお台場。いつでも人の多い街。

 そんな場所でこれだけの騒ぎが起こればどうなるかと言えば、

 

「映画?」

「広場ぶっ壊れてる、やば」

「着ぐるみやろ、あれ?」

 

 人が集まってくるのは自明の理だ。

 

 まずいことになった、と思った。

 そもそも当初の計画ではゲートの出口がこちらの世界のシンクネットの本部に通じていることを考え、一気にライダー総出で本拠地に乗り込んで全てを終わらせるつもりでいた。こちらの世界に無用な騒ぎを起こさない為にも、それが最善手だ。

 しかしながら、今はこの通り。不破達が後に続いたのかもわからない。この世界の学生らしき少女達も巻き込んだ。そして今、衆人環視で御覧の有様。

 

「ど、どうする!? イズ!」

「ここは……」

「ここは?」

 

「逃げるしかありません」

「やっぱり~~!」

 

 逃げると言っても、どこへどこまで行けばいいのかという話だ。

 この世界に頼れる場所は無い。目指すべきシンクネットの本部もわからない。

 どこへ行けばいいというのだ。どこへ。

 

 その時、

 

「きて!」

 

 ゼロワンの手を握った者がいた。握った手を離さないまま、引っ張ってひた走りに走っていく。

 

「侑ちゃん!?」

 

 歩夢は目の前で何が起こっているのか、一瞬理解が遅れた。幼馴染が突然空から降ってきた黄色いよくわからない存在の手を引き、群衆を割って走っていく。それをすぐに飲み込めというほうが難しい。

 

「……皆さん!」

 

 イズが一声発すると、同好会の面々は我に返り……次々と、侑の走った方向に続いた。歩夢はえっ、ええっ?と困惑していたが、後に続かんとする。だが、群衆の目が気になり、一度ちらりと振り返った。そこに、

 

「いや~~、お騒がせしてすいません! 映画のゲリラ撮影です! ご迷惑をおかけしました!」

 

 一声、朗々たる声で群衆に呼びかけた男がいた。

 

 それは年若いが、少々分不相応にも見える顎髭を蓄えた男。ド派手な赤のアロハシャツ。バリバリにツーブロックにした髪。両耳のピアス。遊び人、という言葉で表現するのが一番ぴったりな男だった。

 男の言葉に、なんだあと声が上がり、群衆は少しずつ解体されていく。

 誰だか知らないが助かったと、歩夢は心置きなく一同の後に続くことが出来た。ただ最後に、

 

「あのっ……! ありがとうございました!」

 

 一礼だけは、礼儀として忘れなかった。男は答えなかったが、返事を待つ余裕はなく……歩夢は駆け出していった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ここまで来れば大丈夫……かな……」

 

 汗でびちゃびちゃの額をTシャツの裾をまくり上げて拭いながら、侑はそう言った。

 

「……ありがとう」

 

 ゼロワンは途中で変身を解除し、或人へと戻っていた。あまりにも突然のことで驚きながらも、ひた走りに走った後でやっと状況が見えてきた。

 

 敵は恐らく、ゲートに何かしらの細工をして出口の座標を変え、こちらを遥か空の上まで投げ出したのだ。そしてそれが上手くいかなければ、幹部たちに自分達を襲撃させる。用意周到だ。

 そしてここが、東京は港区、お台場の公園だということも。異世界と聞いていたからには飛び交うドラゴン! 魔物の住む山々! 魔法の商店街! 剣士や魔砲使い(マジックガンマン)の集う酒場!などを想像していたが、これを言えば福添副社長辺りから「異世界転生ものの読み過ぎです!」と怒られてしまうだろう。そこに、

 

「ありがとうはこっちの台詞ですよ! かっっっこよかったです!! 正義のヒーロー! 変身、してましたよね!? やっぱりそのベルトで!? ヒーローって……本当にいたんですね!!」

 

 せつ菜が、或人の手を握ってぐいぐいときた。

 優木せつ菜は、オタクだ。大好きを大切にしたい。叫びたい。そんな信念も、家庭の教育方針でそういった趣味を表に出せなかったことから来る。ライトノベルや深夜アニメも大好きだが、変身ヒーローもその範疇に含まれていた。

 そこにゼロワンが目の前で大立ち回りを見せれば、御覧の通りというわけだ。

 

「はいはい、一旦ストップ」

 

 はやるせつ菜の肩に果林が手を置く。

 

「まずは、お兄さんが何者なのか聞かせて貰わなきゃね」

 

 こんな時でも冷静に何をすべきか見つめているのが、彼女らしい。

 

「正直、解らないことが多すぎて混乱してる……」

 

 璃奈の言葉も最もだ。

 

「空から降ってきて、変身して、どんぱちして。解らないことのカタマリだよ」

 

 彼方が珍しく訝しげな目で或人を見る。

 

「お姉さんも、ありがとうだよ~」

「あの……その……お耳に付いていらっしゃるのは……」

 

 エマとしずくは、イズに礼をしつつもその特異性が気にかかっているようだ。

 

「というかせつ菜先輩! 『頑張れぇ──!!』は無いでしょ『頑張れぇ──!!』は!」

「かすかすだって大声出してたじゃん」

「かすみんです!」

 

 かすみと愛は先程の一件がまだ気にかかっているようではあった。この二人も笑ったり驚愕の声を上げたり、お互いさまではあるのだが。

 

「や、でも本当に励みになったよあれは。ありがとう!」

「こちらこそです!!」

 

 或人に礼を言われ、せつ菜はまたテンションを上げる。それをどうどう、と果林が抑えるまでがワンセットだ。

 

「皆、お待たせ……」

 

 歩夢が遅れて到着する。

 

「歩夢! 大丈夫?」

「侑ちゃんありがとう……。うん、後についてくる人もいないし、大丈夫そう」

「それもだけど! 歩夢は怪我とかしてない!?」

「う、うん……」

「よかったぁ~~……!」

 

 普段は歩夢が侑を気に掛けることも多いが、侑とて幼馴染のことはいつだって大切に想っている。こんな状況ならば尚更だ。一人だけ到着が遅れていた状況も、それに拍車をかけていた。

 

「まずは……ごめん!!」

 

 或人が一同に頭を下げた。

 

「俺達の都合に、君達を巻き込んでる。本当にごめん!」

「私からも、お詫びいたします」

 

 本来ならば想定すらされていなかった事態。この世界の一般人を巻き込んで、なおかつ匿ってもらったという状況。これを申し訳なく思わなければ嘘だ。或人に続いて、イズも頭を下げる。だが、

 

「そういうのは、違うんじゃないかなあ」

 

 彼方が前に出た。

 

「えっと……」

「彼方ちゃん言ったよね? 解らないのカタマリだって。皆その解らないを知りたがってるのに、ただ謝られても困っちゃうよ」

 

 或人は一瞬言葉を失った。いち社長として普段から頑張ってはいるつもりだが、全く彼方の言う通りだ。

 女子高生に諭されるとは、と思いつつも、物事の道理に年齢も立場も関係あるかと或人はまた自省した。

 

「ちゃんと、教えてね?」

 

 そこで彼方はにっこりと笑い、自分も怒っていたり敵意があるわけではないと態度に出して伝えた。

 

「とりあえず、落ち着いて話せる場所に行きませんか? 私達もこの通りですし……」

 

 しずくは汗まみれの一同を見渡しながら、苦笑いする。

 

「と言っても、どこに……」

「じゃあ! 私達の学校に行きましょう!!」

 

 或人の手を、今度はせつ菜が取った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「学校? ここが?」

 

 飛電或人は訝しむ。

 

「ええ!」

 

 対するせつ菜は、自信たっぷりで見事なまでにペカーッと笑みで返した。

 

「いや、ここビッグサイトの会議棟だよね……?」

 

 お台場付近の名所はいろいろあるが、何といっても目を引くのはビッグサイト。

 

 或人自身、飛電インテリジェンスの会社説明会やプレゼンでお台場に赴き、そこで仕事をしたこともある。自分のいた世界と地理が同じならば、ここは確かにビッグサイトにあたるはずだ。

 しかし、建物の前には門が構えられ、「虹ヶ咲学園」の名前もそこにあった。

 何より、特徴的な逆三角形の建物の上半分は巨大なフェンスのようなもので覆われ、学校らしく大時計も取りつけられていた。

 

「本当に来たんだな、異世界……」

 

 あまりにも元の世界との違いが無さ過ぎて違和感すら覚えていたほどだったが、或人もようやくここが異世界だと飲み込めつつあった。

 

「びっぐさいと?」

「ああいや、何でも無いよ」

 

 せつ菜に尋ねられるが、或人ははぐらかす。

 

「いい学校でしょ? 良い学校だけに……ガッコいい、ってね!」

 

 愛のその一言に、或人はえっ!?と振り返った。傍らでは、侑がまた大爆笑している。

 

「今のは、『学校良い』と『格好いい』をかけたダジャレ、ですね」

「おっ、わかってるねえ~~!」

 

 イズの解説に、愛は気を良くする。

 

「じゃあ校舎を『案内』するよ! 『あーん、ナイス』!って言ってもらえるぐらいにばっちりと! きっと『最後』に思うよ? 『最高』~~!」

 

 宮下愛はダジャレが好きだ。常に誰かと「楽しい」を共有したい彼女にとって、一番手軽で一番楽しいやり方。

 立て板に水でとうとうと、それでいて或人たちにかける一言として文脈を崩さずダジャレを盛り込む手際はかなりのものだ。

 瞬間、或人が愛の手を取った。

 

「え?」

「君! 凄くセンス良いね!!」

「……っ! でしょおおお~~~~!?」

 

 一瞬困惑した愛だったが、まさかの大絶賛に再び喜色満面だ。

 

「あ、俺……飛電インテリジェンス代表取締役社長、飛電或人です。これは名刺」

 

 或人は自身のスマートフォン────プログライズキーに似せた、“飛電ライズフォン”で、名刺の電子データを立体投影する。

 

「社長!? っていうかそのスマホ何!? 凄い、立体映像!」

 

 愛は興味津々で或人の名刺をあちらこちらから見回す。

 

「まさに、『名刺』を見つめる……『名シーン』! 『ギャグ』のセンスが解釈一致! 『ぎゃー、グレイト』!」

「……嘘、マジ!? えーっ!? 社長さんもセンス良い~~!」

「でっしょおおおおおお~~~~!?」

 

 或人はご機嫌で、ポケットから何かを取り出す。

 

「センスの良い君に、これをプレゼント!」

「……! 『センス良い』よね! 『扇子良い』~~!」

「流石解ってる! はい! アルトじゃ~~、ないとォォォ~~!!」

 

 すっかり二人の世界が形成されている。

 

「……変な人」

「りな子辛辣ぅ」

 

 璃奈のぼそっとした一言に、かすみが苦笑する。

 

「あのっ!」

 

 盛り上がっていた二人の間に、歩夢が割って入った。

 

「何、歩夢?」

「侑ちゃんが壊れちゃうから、その辺で……」

 

 あ、と愛が見やった時には、笑い過ぎて酸欠になりかけている侑がそこにいた。

 あまりに笑い過ぎて声を出すことすらもう難しく、ヒーッヒーッと引き笑いの連続だ。ごめんゆうゆ、と愛が声をかけた時、

 

「こっちもそろそろ終わりにしてほしいところだな」

 

 またも割って入った影がある。

 

「刃さん!?」

「やっと見つけた」

 

 刃唯阿だ。

 

「不破にもそろそろ限界が来そうでな」

「なっ……何でも……ねえ……ブフォッ!」

 

 不破もまた死にかけていた。

 実のところ、不破諫は笑いの沸点が侑同様に異常に低い。或人のダジャレ満載のギャグも「くだらねーギャグ」とは思っているが、それでも大爆笑してしまう。それが彼だ。

 加えて或人の前ではそれをひたすらに隠そうと堪えるのだから、その苦労は侑以上だった。

 そんな彼が二人の今のテンションに呑まれれば結果はどうなるか。見ての通りだ。

 

「不破さんも! 二人共無事で良かった~~!」

「お二人は、何故こちらに?」

 

 イズの問いも最もだ。或人とイズはたまたま同好会の面々と知り合ったわけだが、二人も初めての異世界でいきなりこの学園に来ることのできる道理はない。

 

「いや、ゲートをくぐってこっちに来たらいきなり空の上だろう? 驚いたが、幸い私にはこれがある」

 

 刃は自身が専用としているハチのプログライズキー、“ライトニングホーネット”を取り出す。ライトニングホーネットで変身すれば、バルキリーは飛行能力を得られるのだ。

 

「今回ばかりは刃のおかげで助かったぜ……」

「ゴリラ一匹抱えて飛ぶ私の身にもなれ」

「ンだとぉ……!?」

「それで飛んでいたら、私達の世界の港区周辺に似ていると解ったからな。取り敢えずは情報を集めたいのと、地理感覚を掴むためにビッグサイトに来てみたわけだが……」

 

 そこで、或人はなるほどと得心した。

 

「この通り、『虹ヶ咲学園』があったと」

「その通り。そこで社長がギャグを飛ばしまくってたってわけだ」

 

 不破はやっと落ち着いて或人と向き合う。

 

「なぁんだ、考えることは一緒か」

「目立つ場所に来れば何か解るとは思ったが、手間が省けた」

「迅! 滅!」

 

 或人は嬉しさに声を上げる。

 

「僕と滅もゲートをくぐったら空だったから……。まあ、バーニングファルコンには関係無いけど」

 

 隼のライダーである迅は、当然の如く飛ぶことができる。彼もまた滅を抱えて飛び、そして刃と同じようにここに来ることを選んだわけだ。

 

「ビッグサイトの目印力(めじるしりょく)、半端ないな……」

 

 或人は変なところで感心していた。

 

「皆、お友達?」

 

 ぞろぞろと集まってきたライダー一同に、エマが嬉しそうに声をかける。

 

「友達……。友達か、俺ら?」

「いや」

 

 不破に問われ、滅が即答する。

 

「友達、かなあ?」

「微妙だな」

 

 迅の問いに、刃が言葉通りの微妙な表情をした。

 

「じゃあ、どういう……?」

「んー……まあ、大人には色々あるってことで」

 

 わからない、という顔のエマに、或人はそう濁しつつ答えた。

 

「皆さんも……もしかして!?」

 

 そこで、せつ菜がずいと前に出る。

 

「ええ。皆さん、或人社長と同様に変身し戦う……“仮面ライダー”です」

「やっぱり!!」

 

 イズの説明に、せつ菜はまたテンションを上げた。

 

「それじゃあ皆さん! まずは部室に行きましょう!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 そろそろ時間は正午になろうとしている。

 夏休みなので学期中に比べれは人は少ないが、それでも巨大かつ各個の活動に力を入れている虹ヶ咲学園のこと、廊下で度々人とすれ違う。

 

「広っ! いや広いね!? ここだけで部室棟!?」

「ふっふっふ……! このぐらいで驚いてちゃいけませんよ? ニジガクの凄さはこんなものじゃないですから!」

 

 驚く或人の前を、せつ菜はまるで秘密基地へと案内する子供の如しのテンションの上げようで先に立つ。

 

「それにしても、一気にお客さんだねえ。椅子足りるかなあ」

「借りてくればいいわよ」

 

 彼方の言葉に、気にするところはそこ?と思いつつ果林が返す。

 

「皆さん、全部で6人でいいですよね?」

「ああ、いや……」

 

 侑に問われ、刃が苦い顔になった。

 

「そういやアイツどうしたんだよ」

「サウザーは飛べないからね……」

 

 不破と迅も苦い顔をしつつ、最後の一人を思い出す。

 

「? まだ、誰か?」

「……あと一人いる。思い出したくもないがな」

 

 璃奈の言葉に、滅がそれだけ返した。

 

「もしかして、あのアロハシャツの……?」

 

 歩夢は、あの騒ぎを収めた遊び人風の男のことを思い出していた。彼らに協力する者がいるとすれば、ああいう行動を取った彼ではと思ったからだ。

 

「アロハ……? いや、違うと思う」

「違うんだ……」

 

 或人に否定され、じゃあ誰なんだろうと歩夢は疑問に思った。

 

「むしろ真逆でいっつも白い服ばっか着てるからさあ、性格と真逆な……」

 

 ライダー一同に漂う不穏な空気に、同好会の方が困惑する番だ。

 

「け、ケンカはダメだよ!? お友達じゃない、っていうのはわからないけど、ケンカは……」

「んー、何ていうかあの人とはそういうのじゃ無いって言うか……」

 

 取りなそうとするエマの優しさがかえって申し訳ないとばかりに或人が最後の一人のあの男を思い返していた時、

 

「あ、スクールアイドル同好会! お疲れ~!」

「流しそうめん同好会じゃーん! おっつおっつー!」

 

 流しそうめん同好会の部員たちとすれ違った。愛が嬉しそうに挨拶を返す。

 

「次夏休みライブでしょ? 絶対行くから!」

「ありがとー! そっちこそそろそろ夏終わるんだし、また流しそうめん大会やるなら誘ってよ~?」

「もちろん!」

 

 愛と流しそうめん同好会の部員は、歩きながらそれだけ会話を交わした。仲が良いな、と或人は流しそうめん同好会の方を見る。すれ違っていく部員たちは、皆一様に個性豊かだ。

 

 ヘアピンで髪をまとめた三年生の部長。

 

 ツインテールの二年生。

 

 全身白ずくめの男。

 

 二つ結いの一年生。

 

 ポニーテールの三年生。

 

「流しそうめん同好会か~~……。もう何でもありだ……え!? あ!?」

 

 或人はそのまま歩いていく流しそうめん同好会の方を思わず二度見した。

 

 ポニーテールの三年生。

 

 二つ結いの一年生。

 

 全身白ずくめの男。

 

 ツインテールの二年生。

 

 ヘアピンで髪をまとめた三年生の部長。

 

 

 全身白ずくめの男。

 

 

「いやいやいやいや!? ちょっとぉ!?」

「……おや。気づいたか」

 

 天津垓が、さらっと流しそうめん同好会に紛れ込んでいた。

 

「サウザー課長!?」

「お前なんで……!」

 

 不破と刃も言われて気づき、声を上げる。

 

「え? 皆さんお知り合いですか?」

 

 流しそうめん同好会の部長が前に出た。スクールアイドル同好会側も、まさか最後の一人がそこにいたとは思わず歩みを止めてしげしげと天津を見る。

 

「まあ、知り合いだけど……。逆に! 何で流しそうめん同好会の皆が垓さんと!?」

「つい二時間ほど前のことです」

 

 流しそうめん同好会部長は、宙を仰ぎ語りはじめた。

 二時間ほど前、流しそうめん同好会は朝練に出ていた。

 お台場の川岸で、一日千回そうめん掬いのフォームの素振り練習。状況に応じて変わるそうめんをすくうタイミング、角度。それらを常にベストの状態に保つための素振り練習だ。

 

「ちょっと待ってください、パワーワードが序盤から多すぎる」

 

 侑は目元を押さえた。

 

「まあ、何せこっちは炭水化物を摂取するのがメインの部活だからね。素振りは半分本気、半分は運動を兼ねてるっていうか……。ヨースケ・ヨンタマリアの『UDON』のうどん部みたいな感じだよ。他にもトレーニングやランニングの日もあるけどね」

 

 それはさておき、と部長は話に戻る。

 

 そうやって素振りをしていた時、彼女らは空から降ってくる何かに気づいた。それはそのまま川に着水し、水柱が上がった。なんだなんだと川岸に寄った時、

 

「こちらの方が自ら上がってきたというわけです」

「不審に思わなかったんですか……?」

 

 しずくの言葉も最もだ。

 

「いやいやいやいや、空から降ってきて! 水に飛び込んで! そしてこの白い服! つまり……」

 

 一年生の部員が目を輝かせ、

 

 

「この人! 流しそうめんの妖精さんですよね!!」

 

 

 スクールアイドル同好会と、ライダー全員がズッこけた。

 

「なんでそ~~なるのっ!」

 

 かすみが思わず飛び上がって突っ込んだ。

 確かに挙げられた要素だけ見れば、流しそうめんの妖精と言えなくもないが。

 

「垓さんも! 何か弁明しなかったんですか!?」

「……私は1000%、流しそうめんの妖精だ」

「いやいやいやいや!!」

 

 頭を抱えた或人に、垓が近寄った。

 

「そうは言うがな、我々の事を無関係なこの世界の一般人に知られると困るだろう。ここは私も1000%の尽力で流しそうめんの妖精に……」

「……すいません、もうバレちゃいました。変身から戦闘まで全部」

「何!?」

 

 垓は信じられないといった顔で或人を見たが、後ろのスクールアイドル同好会と連れ立っている不破達を見て色々と合点がいったようだった。

 

「……すまない。連れが見つかったので、私はこれで」

 

 えーっ、という声が流しそうめん同好会から上がる。

 

「これから一緒に流しそうめんする約束じゃないですか~!」

「『この白い服のように白いそうめんを1000%食べきってみせる』って大見得切ってたでしょ!?」

 

 一体この短時間に何をやっていたのだとライダー達は呆れた。

 

「とにかく失礼。……服を乾かせるランドリールームを教えてくれたことには、感謝する」

「残念です……。絶対流しそうめんしましょうね!」

 

 惜しまれつつ別れる天津垓、というその構図が、何とも不思議なものだった。

 

「あっ……えっと……とにかく部室に!」

 

 侑の一言で、一同はまた歩き始めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 やっと落ち着いた、と歩夢は部室を見渡した。

 同好会の面々はまずシャワーを浴び、汗を落としていた。その間、或人達は部室で待機し、これからのことを侃々諤々と話し合っていた。

 

「速攻ブッ潰して戻るつもりだったのに、完全に想定外だぞこれは」

「本拠地がどこかもわからないしな……」

 

 不破と刃が頭を抱える。

 

「滅、充電ユニット持ってきて……」

「ない」

「だよねえ」

 

 迅が頭を抱える。ヒューマギアの無いこの世界で行動するのに、問題は山積みだ。

 

「本拠地探しは唯阿の主導でネットワークを通じてやるしか無いだろうな。問題はそれにどのぐらいの時間がかかるかだが……」

 

 天津は建設的に打開策を考えるも、先行きは明るくはない。

 

「盛り上がっているところ悪いのだけれど……」

 

 先陣を切って割って入った声がある。

 果林だ。

 

「落ち着いたことだし、ちゃんと教えてほしいわ。皆さんのこと」

「教えてくれるって、約束だからねえ」

 

 彼方が公園での或人とのやり取りを思い出すように、また笑みを見せる。

 

「そうだね……ちゃんと話すよ」

 

 それから或人は、すべてを話した。

 

 自分達が異世界から来たこと。

 

 ヒューマギアの存在。

 

 衛星アークの暴走から始まった、様々な悲劇と闘争。

 

 シンクネットによる大規模テロ。

 

 そして────この世界に、そのもう一つの拠点があることを。

 

「信じられない話ですけど……信じるしかないですよねえ」

 

 しずくはうむむ、と難しい顔になる。

 

「い……異世界……! アンドロイド……。変身ヒーロー……本当に……」

「ダメだ、せっつーが情報量の多さでパンクしてる」

 

 興奮のメーターが振り切れてしまったせつ菜を、愛が見やった。

 

「だから、巻き込んで本当にごめん。そう言いたかった」

 

 或人は再び頭を下げた。

 

「ちゃんと話してくれて、彼方ちゃんは嬉しいです」

 

 彼方が三度(みたび)、笑みで返した。

 

「皆さん、命を懸けて、私達の世界にまで来て……」

 

 侑は一同を見回したうえで、

 

「本当にすごいと思います」

 

 それは嘘偽りの無い彼女の感想だった。

 目の前で繰り広げられたゼロワンの激闘。あれが彼らにとっては日常であり、使命であるというのだから。

 

「で、でも!」

 

 かすみが割って入り、

 

「かすみん達、来週ライブなんです! ちゃんとライブできるんですか!?」

 

 こちらもまた、彼女達の嘘偽りない気持ちを伝えた。

 

「かすみさん……! 世界の危機かもしれないんだよ!」

「じゃあしず子はライブやりたいの? やりたくないの? どっち!?」

「それは……やりたいよ!」

 

 女子高生……否。青春の中で懸命に足掻く若い命の見る世界は、広いようで狭い。

 家庭と学校という巨大な二大コミュニティが生活範囲のほとんど全てを占めているのだから、それも当然だろう。

 しかし、いや……だからこそ、自分の感じたものの美しさを、世俗に汚れすぎていない純粋な目で見ることができる。

 

 世界の危機と、一週間後の夏休みライブを同じ天秤に乗せることだって。

 

「その……ライブとは?」

 

 イズが問う。

 

「部室の扉見てなかったんですかぁ!? スクールアイドル同好会ですよ、ここは! 当然、ライブだってやるに決まってるじゃないですか!」

 

 かすみに捲し立てられるが、イズはわからないといった顔をした。

 

「何だよ、スクールアイドルって」

 

 不破がぶっきらぼうに言う。瞬間、ざわめきが部室に広がった。

 

「もしかして、皆さんの世界にスクールアイドルは……」

「いない?」

 

 歩夢と璃奈が恐々聞く。ライダー一同の知らない、の言葉に、また驚きの声が上がった。

 

「じゃあ、皆さんに説明を……! すっごいですよ、スクールアイドルは! ときめいちゃいますから!」

 

 そこからは侑の出番だ。彼女はこの世界の文化、スクールアイドルの存在を一から順にとうとうと語って聞かせる。それでいて雑多になり過ぎず、要約が上手いときていれば、自然と聞き入ってしまうものがあった。

 

「なるほどね。学生が演出するアイドルかあ……。凄いなあ」

 

 或人の感想は淡々としている。こちらもまた、まさしく“異世界”の文化に驚き、すぐには飲み込めていないのだ。

 

「まあ、問題は無いだろう」

 

 不意の天津の発言に、場の空気が澱む。

 

「いやいやいやいや! 問題ないわけないじゃないで……」

「私が! いや、私達が……」

 

 かみついたかすみの発言を遮ると、天津はすっくと立ちあがり……

 

「1000%の確率で、事を収める。だから、問題はない」

 

 いつもの尊大さで、そう返した。だが今は……その尊大さが、どこか頼もしく見えた。

 

「だが、拠点はどうする? やつらのアジトを見つけるまでは、こっちの拠点が……」

「俺達の世界と大して変わらないなら、ビジホにでも泊まればいいんじゃねえか」

「……不破、お前金は?」

「……刃、貸してくれ」

「だめだ」

 

 やはり突然のことで行き当たりばったりになりそうだと頭を抱えた時、

 

「あの、でしたら……! この学校に泊まるというのは!?」

 

 せつ菜がとんでもないことを言い出した。

 

「せつ菜、あなた自分が何を言ってるかわかってる?」

 

 果林の忠告が素早く飛ぶ。

 

「わかっていますとも! ただの興味本位じゃないですよ? 私達はここで夏合宿をしたこともあるんです。コンビニもありますし、シャワールームも合宿用の和室も……。皆さんの秘密を知った私達の目の届く範囲にいれば、何かと都合もいいでしょうし!」

「成程な」

 

 滅が得心したといった顔でせつ菜を見る。

 

「生徒会長がそんな事提案して良いの~?」

「何を言います愛さん! 今の私は、『優木せつ菜』ですよ?」

「……ホントのとこ言うと?」

「……ヒーローと秘密を共有して作戦を立てるなんて、わくわくします!」

「うん! 正直だねせっつーは!」

 

 愛は苦笑いする。

 

「貴様……俺達を謀ったのか」

「待てって滅。あーいうのは『本音』と『建前』ってんだよ」

「……! そのぐらいは解る!」

 

 滅と不破がそんな他愛も無い会話を交わしていた時、

 

「ですが、意外と悪くない提案かもしれません」

 

 イズが全員を見回した。

 

「この世界の情報も圧倒的に足りていない中で、下手に広範囲で動くのも危険と思われます。活動の拠点を提供していただけるというのなら、ご厚意に甘えるのもよいのではと」

「それから、君達のためにもね」

 

 イズの言葉を、或人が引き取る。

 

「私達の……?」

「君達、あいつらの顔見たよね?」

 

 或人に問われ、歩夢はうなずく。

 

「見ました。おじさんと、男の子と、女の子」

「バリーって名乗ってた子は、えっと……せつ菜ちゃん?を狙ってたし、多分……君らの事、また狙ってくる可能性もある」

 

 そこで一同ははっとする。目の届く範囲にいれば都合がいい、というのは、或人達も同じ想いだったのだ。

 

「垓さんの言い方はまあアレだけど……俺達仮面ライダーが、この世界も、君達のライブも。ちゃんと守ってみせるよ」

 

 或人もまた立ち上がり、堂々と宣言した。

 

「決まり……みたいだね」

 

 侑が立ち上がり、

 

「よろしくお願いします!」

 

 手を差し伸べた。

 

「こちらこそ! よろしく!」

 

 或人がその手をがっちりと握り返す。

 

 本来決して交わることの無い、ふたつの人生(ものがたり)

 それが今、確かに繋がった。

 

「しかし、ただ学校を提供してもらうってのもな」

「じゃあバルカン、こういうのはどうかな」

 

 不破の言葉に、迅がひとつ提案を出した。

 

「僕達も奴らの拠点を探しつつ……そのライブ?の準備、手伝えるところは手伝っていこう」

「そんな! 悪いよ!」

 

 エマが断るように手を振る。

 

「いやいや、悪いと思ってるのはこっちもだって。迅いいこと言うじゃん!」

 

 或人は乗り気だ。

 

「私も賛成かな。一緒に行動する機会が多いとお互い安心かな、ってのは……。そこまで含めて、よろしくお願いします」

 

 侑もまた然りだ。

 

「なんか良い感じにまとまったなあ! んじゃ、自己紹介! 飛電或人です!」

 

「高咲侑です」

 

「上原歩夢です」

 

「不破諫だ」

 

「かわいいかわいいかすみんです!」

 

「刃唯阿だ」

 

「桜坂しずくです」

 

「滅」

 

「朝香果林よ」

 

「迅」

 

「宮下! 愛! さん! でーす!」

 

「天津垓だ」

 

「近江彼方だよ~~……」

 

「社長秘書の、イズと申します」

 

「優木せつ菜です!! よろしくお願いします!!」

 

「エマ・ヴェルデだよ!」

 

「天王寺、璃奈」

 

 互いに名乗り終わった時、

 

(あれ? あると……? 『あると』?)

 

(ゆうちゃん? あゆむ? ……『ゆーちゃん』?)

 

 二人の夢追い人は、夢の中で聞いた名前を思い出していた。

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