仮面ライダーゼロワン Root of the RAINBOW   作:度近亭心恋

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たった一人で見た夢が、百万人の現実を変えることもある。
マヤ・アンジェロウ(1928~2014)


Part6 カレはダレにも止められない

 夏の太陽はすぐに高く昇る。

 もう8月も終わりに近いというのに相も変わらずじりじりと、街を焼くかのように輝き続ける。

 

「日焼け止めはしっかり塗った?」

 

 講堂の控室を整えて作った楽屋で、果林は一同に呼びかけた。

 

「ちゃんと塗ったよ! でも、今日は屋内なんだしそこまで気にする?ってカンジだけど……」

「甘い! 窓から入ってくる紫外線だって馬鹿にできないんだからね? 本番では照明の熱だってあるんだから……」

 

 愛を厳しく諭しつつ、果林は皆一様に塗ったのを確認して満足気だ。

 

「もう講堂の前に結構集まっていましたよ!! 嬉しいですね!」

 

 生徒会長としてこのライブの手筈も整えてきたせつ菜は、言葉通り嬉しそうに叫んだ。

 現在は午前10時、開場1時間前だ。この暑い中それだけ早くから来てくれているという事実が、何より嬉しくなる。

 

「私たちを、観にきてくれている……」

 

 いち表現者として、しずくはその事実に身を震わせる。これが武者震いというものなのだろう。

 

「遥ちゃんや綾小路さんも来てくれるって言ってたからねぇ~~……! 楽しみだよぉ」

 

 彼方はいつもの眠気を吹き飛ばし、ジャージ姿でストレッチをしながらにこにこと笑っている。

 

「……また、沢山の人と繋がれるかな」

「できるよ! 絶対!」

 

 璃奈ちゃんボードを調整しながらぼそりと漏れ出た璃奈の本心を、エマはいつもの通り優しく受け止める。

 

「……今日で世界が終わるかもしれないなんて、信じられないですよね」

 

 この和気藹々とした空気の中で、かすみがこの美しい世界と、自らの想い出に思いを馳せるかのように呟いた。一瞬、楽屋はしんと静まり返った。

 或人達のことは信頼している。やると言ったらやる人間なのだということは、短い付き合いながらもよくわかったつもりだ。

 

 だが。だが、それでも。

 

 世界の命運のかかった戦いがこの日常の裏で始まろうとしているという事実が、彼女達に一抹の不安を与えるのは当然だ。

 

「大丈夫だよ」

 

 そういう場でまず声を発することが出来るのは、

 

「世界は、終わらない」

 

 やはり、高咲侑だ。

 

「この世界を、みんなの夢を終わらせない為に……あの人達は、世界を越えてやってきたんだから」

 

 

 そう言う侑の笑顔は、とても快活で魅力的だ。

 

「それに……私達にだって、出来ることはあるから!」

 

 侑の隣で、歩夢は呼びかけるように表明する。

 

「世界には、夢を持っていたのにうまくいかなかった人や、諦めた人……。自分の夢の為に自分勝手になっちゃう人だって、私たちの知らないところで沢山いて……そんな人たちの為に、私達に出来ることをやって言葉を届けたいの」

 

 歩夢の脳裏には、またフツの……枝垂郷太の、あの悲しそうな顔が浮かんでいた。

 

「……『もう一度、夢について考えてみて』って」

 

 祈るように、かき抱くかのように。

 歩夢は胸の前で、手を組んだ。

 

「このライブの前に、あの人達と会えて良かったのかもね」

 

 侑は幼馴染の賢明な言葉に、更に勇気づけられたようだった。

 

「皆のそれぞれの曲もそうだけど……ラストの全体曲二曲は、『みんなの夢見る気持ちに届け』って曲だから」

 

 音楽の道という夢を、高咲侑は彼女達との出会いで見つけた。

 そんな彼女の音楽が、もっと沢山の人に届き、夢見る気持ちに刺さると言うのならば……こんなに嬉しいことはない。

 

「その為にも、協力よろしくね」

 

 侑は部屋の隅に控えている、

 

「イズちゃん!」

 

 イズに声をかけた。

 

「……勿論です」

 

 イズは淡々と、しかし優しい声でそう返した。

 

「皆さん……」

 

 遠くで戦う或人達に思いを馳せるかのように、イズは中空を見上げていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 同刻。山中にある、シンクネットのサーバーを擁する本拠地の前。

 

「……うーわ。随分と集まったもんだね」

 

 迅は引きつった笑いで、自分達を取り囲む数千人のシンクネット信者達を見回していた。

 

「それが悪意の力ということだ」

 

 滅はいつもの通り表情一つ変えてはいないが、悪意を見張り続けると決意した彼の事、既に自分達を取り巻く悪意の群衆と戦う覚悟を決めている。

 

「不破、しっかり寝たか?」

「お前こそ」

 

 刃と不破は交わす言葉こそ少ないが、互いの全力を信頼しきっているからこそだ。

 

「ザイアスペックは着けたか? 迅速に終わらせれば、12時のライブにも間に合うかもしれないな」

 

 天津は相変わらずの自信と尊大さだが、目は真剣だ。彼の言う通り、或人、不破、刃、そして天津自身、全員がザイアスペックを着けて連携を取れるようにしている。

 

「……行こう、皆!」

 

 或人の檄と共に、

 

「変身!」

 

 六人の声が重なった。

 

“PROG-RISE! 飛び上がライズ! ライジングホッパー!”

“────A jump to the sky turns to a rider kick.”

 

“SHOT-RISE! シューティングウルフ!”

“────The elevation increases as the bullet is fired.”

 

“SHOT-RISE! ラッシングチーター!”

“────Try to outrun this demon to get left in the dust.”

 

” PERFECT-RISE! When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.”

“Presented by────ZAIA.”

 

“FORCE-RISE! STING SCORPION! Break Down……”

 

“SLASH-RISE! BURNING FALCON!”

“────The strongest wings bearing the fire of hell.”

 

 重なった変身音の合唱の騒々しさ。しかしそれは、それ以上の悪意の群衆の雄叫びによってかき消される。相手が変身したのを幸いと、大量のアバドンとレイダー達が襲い掛かってきた。

 最終決戦の始まりだ。

 

「どけ!」

 

 バルカンは切迫した相手を体術でいなしつつ、ショットライザーで距離のある相手にも仕掛けながら少しずつある場所へと向かっていた。

 

「サーバーの中に入ろうとしてんのかぁ?」

「行かせるかよ」

 

 アバドンとクラッシングバッファローレイダーが、タッグを組んで襲ってくる。

 アバドンの俊敏さとレイダーのパワーが合わさり、いなして抜けるのも簡単にはいかない。ちっ、とバルカンが舌打ちした時、

 

「はっ!」

 

 滅がアシッドアナライズを振り回し、二人組を退ける。

 

「助かる」

「行くぞ」

 

 礼を言った不破にそれだけ返すと、滅も不破と同じ場所を目指して走ろうとする。そこに、

 

「滅ィィィィィィ!!」

 

 ショットアバドンがまた銃撃を撃ち放ち、味方のシンクネット信者たちが巻き込まれるのもいとわずに攻撃してくる。

 何があろうとも、確実に滅だけは打ち倒さんとする勢いだ。

 

「やはり、俺を狙ってくるか」

「当たり前だ!!」

「……ならば、相手になろう」

「黙れ!! かっこつけるな!!」

 

 激しい怒りにまかせての猛攻。それでも実戦の経験と実力が段違いの滅からすれば楽勝かと思われたが、ひたすら全力の殺意を込めて襲ってくる相手はなかなかに厄介だ。

 

(勢い任せの銃撃だが、なかなかに……)

 

 滅がそう思っていた時、腹部に衝撃が走り彼は後方に倒れ込む。銃撃で滅の注意を引きつけながら、アバドンは本気の蹴りを腹に見舞ったのだ。

 立ち上がりながら滅は、人間の恨みと怒り──アークが定義する、人間の”悪意”の力を改めて実感していた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「あっはははははは!! 死ね死ね! 死んじゃえよオッサンがさぁ!!」

「……私は、永遠の24歳だ」

 

 こちらも若さと悪意に任せただけのやたらめったらなスラッシュアバドンの剣技に、サウザーは辟易しながらそれをサウザンドジャッカーでいなしていた。

 まだまだ若い、と自称するものの、やはり45年生きてそれなりに修羅場も潜ってきた彼のこと、ただ怒りに突き動かされるだけの小僧の攻撃など通るはずもない。

 

「こんな世界!! 全部ぶっ壊れればいい!! そしてボクだけが幸せになればいい!! 邪魔! 邪魔! 邪魔ァァァァ!!」

「……夢などくだらないと、青臭いと思っていた」

「あァ!?」

「だが飛電或人の姿を見て、この世界に生きる人間を見て……」

 

 サウザーの声に、勇壮さがこもる。

 

「その生き様が素晴らしいと思った! 私の1000%、いや、それ以上に……自分の夢を信じる気持ちを持つ人間が!!」

 

 言いながらサウザーは、アバドンの隙を突いてサウザンドジャッカーで思い切り胸元を突きあげた。

 

「1000%の誠意を尽くし、1000%の努力で夢を信じる者達を守る……! それが!」

 

 自分の夢を、信念を貫く為の力。

 

 

「”仮面ライダーサウザー”だ!!」

 

 

 それこそが、或人達の世界における”仮面ライダー”。

 

「スクールアイドルが夢を見るというのなら……私がこの手で、それが壊れないよう守るだけだ」

「スクールアイドルに夢なんかあるか!!」

 

 スラッシュアバドンは食い気味に、その言葉に嚙みついた。

 

「夢なんかあるか……! どいつもこいつもステージの上では笑って、歌って踊って夢を届けますって顔をして……ハラの中は真っ黒だ!!」

「……ほう?」

 

 サウザーは漏れ出た相手の本音に、何か引っかかるところがあったのか反応する。

 

「『みんな』で叶える夢? 『みんな』で一緒に夢に向かって?」

 

 一度堰を切った感情は、

 

「ふざけんなよ!!」

 

 もう、止まらない。

 

「その『みんな』の中に入れなかった人間に目を背けて見るキレイな夢は、さぞかし楽しいんだろうなあ!!」

「……何があったのかは知らないが」

 

 サウザーは困惑しながらも、

 

「それでも世界を滅ぼすこと選んだ人間の事情になど、興味は無い」

 

 相手を斬り捨てる覚悟をした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「吹き飛べ!!」

 

 スプラッシングホエールの力で起きた大波に、バルキリーと迅は強烈なダメージを食らっていた。

 やはり幹部のトップだけあり、ランペイジレイダーには隙が無い。複数のプログライズキーの能力の掛け合わせも上手く、その為に部下のシンクネット信者達のアバターを使い捨てることを平気で厭わない非情さも厄介だ。

 

「それにしても……置いて行ったのはやはり予備の方か」

 

 刃はホルダーに入れたアナザーランペイジキーを指でなぞり、そう呟いた。

 一昨日、確かに彼らはアナザーランペイジキーとシェイディングホッパーキーを学園に残していった。

 しかしながら、彼らは今普通にそれらを使っている。他のレイダーやアバドンが使っていない辺り量産が出来ていないか、幹部特権で使わせていないのか。どちらにしても、キーが置いて行かれたからといって戦力が削げているわけではないのが面倒ではあった。

 

「やるしかないだろ」

 

 ヒューマギア故に息こそ切れないが、迅も身体に疲労にも似た負荷がかかっているのを感じる。

 

「私達は私達の桃源郷(ザナドゥ)へと次元上昇(アセンション)する。否定などさせるか」

 

 一昨日の戦いで刃に否定されたランペイジレイダー──ジョンは、苦々しげにそう呟く。

 

「……否定などしないさ」

 

 バルキリーは動揺するでも怒るでもなく、そう淡々と返す。

 

「お前たち一人一人にも、シンクネットに縋るしかない事情があったのは認める」

 

 だが、

 

「それでも、世界を滅ぼさせるわけにはいかない。それだけだ」

「聞いた風な口をォ!!」

 

 ファイティングジャッカルの能力でテリトリーサイズを作り出し、ランペイジレイダーはそれを振り回す。バルキリーは後ろに飛んでそれを避け、

 

「迅!」

「ああ!」

 

 瞬間、連携した迅がスラッシュライザーで懐に飛び込みつつ切りつける。不意の痛みに、ランペイジレイダーはぐウ、と呻いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ゼロワンは全力疾走しながら、一直線に本拠地の中へと飛び込もうとする。

 

「馬鹿か!?」

 

 アバドン達がすぐにその行く手にわらわらと立ちふさがるが、

 

「どいて!!」

 

“PROG-RISE! Gigant Flare! フレイミングタイガー!”

“────Explosive power of 100 bombs.”

 

 ゼロワンは虎のプログライズキー、フレイミングタイガーでハイブリッドライズすると、両掌から炎を吹き出し周りのアバドン達を蹴散らしていった。広範囲に広がった炎に、信者達は怯み道が出来る。

 

「か~~ら~~の~~!」

 

“PROG-RISE! Attention Freeze! フリージングベアー!”

“────Fierce breath as cold as arctic winds.”

 

 今度はシロクマのフリージングベアーのキーを使い、フレイミングタイガーで熱した周囲を同じく両掌から吹き出す凍結剤で急激に冷やす。すると、

 

「ぐわっ!?」

 

 熱せられていたコンクリート固めの地面や、信者たちが腹に巻いたアバドライザーやレイドライザーがバギバギと音を立てて壊れ、アバターたちが消えていった。熱したものを急激に冷やすことで、その体積の膨張差によって破壊が起こる。小学校レベルの理科の応用だが、これがなかなかによく効いていた。

 

「俺の相手はただ一人……フツだ!」

 

 ゼロワンは壊れていくアバター達を尻目に、またひたすらに疾走していく。バイクであるライズホッパーが元の世界にあるのが、今更ながらに恨めしい。

 

「フツ様に近づけると思うな!」

「恐れ多いぞ」

 

 ゼロワンの”頭上”から、そんな声が”降ってきた”。えっ、と見上げると、

 

「……うそでしょおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 本拠地の側面にある格納庫から出てきた二体のギーガーが、ゼロワンを見下ろしていた。

 本来、ギーガーはZAIAが誇る巨大ロボット型のヒューマギア統率兵器として駆動し、暴走ヒューマギアを制御する役割を担うはずだった。

 国立医電病院襲撃事件の際に滅亡迅雷.netに悪用されて以降は運用が見直され、一度サウザーの配下の戦力として登場した以外にはまともに使われることも無かったが、こちらもやはりZAIAの技術故に野立によって横流しされていたのだ。

 この二体のギーガーの頭脳に信者がアクセスすることで、彼らのアバター代わりとしてギーガーは動いているらしい。すかさず巨大な拳が、ゼロワンの方へと落下するかのように繰り出される。

 

「こんなのまともにやってられないっての……!」

 

 ゼロワンはそう言うと、意外にも背を向けて走り出した。

 

「待て!!」

 

 二体のギーガーのうち一体が、ゼロワンを追って巨体を揺らしながら追いかけてくる。流石に歩幅が違いすぎることもあり、ギーガーはあっという間にゼロワンに追いつきそうになったが……

 

「おりゃあああああああああああああ!!」

 

 急にゼロワンは立ち止まると奇声を上げ、自らの足元に向かってフリージングベアーの凍結剤を力いっぱい放出した。

 

「何をやってんだああ~~~~!? とうとうイカれちまったかスチャラカバカ社長がァァァ──!!」

 

 ギーガーは勝ち誇って絶叫した瞬間、

 

「ホゲェェェ──ーッ!?」

 

 仰向けにスッ転び、夏の空が瞬時に視界に飛び込む結果となった。しかも、

 

「ちょっと待って待って待って下さえあああああああああああああああああ!?」

「あああああああああこっち来あああああああああああああ!!」

 

 巨体が物凄い勢いで滑っていき、他のシンクネット信者達をなぎ倒していく。

 ゼロワンは咄嗟に巨大な氷をスケートリンクの如く足元に作り、ギーガーのところまで届かせたのだ。当然ながら、勢いよく走って来ていたギーガーはその勢いのまま転倒するしかない。

 おまけに転んだその直後にゼロワンが凍結剤で氷の道を引き続き作った為、ギーガーは氷のレーンを滑るボールが如く、ボウリングのピンよりもずっと多い信者達をどんどんとなぎ倒していく羽目になったというわけだ。

 

「これってストライク? まだ敵が残ってるからスプリットかな!」

 

 その勢いの良さに、ゼロワンも思わず冗談が飛んだ。

 

「このォ!!」

 

 残っていたもう一体のギーガーが、氷を踏まないようにと慎重にしつつゼロワンの方へと攻撃を仕掛ける。拳がヒットしたその感覚に、ギーガーはやった、と思った。

 

「……大人しくしててくれよ」

 

“キリキリバイ! キリキリバイ! バイティングシャーク!”

"────Fangs that can chomp through concrete."

 

 ゼロワンは意にも介さず、サメのプログライズキー、バイティングシャークでハイブリッドライズし、腕に備えられた鰭状の刃、アンリミテッドチョッパーでザクザクと自分に飛んできた拳を切り裂いてた。打撃の勢いが殺されたギーガーの腕に飛び乗ると、ゼロワンはその腕の上を走って渡っていく。ギーガーを操る信者はその迷いの無い勢いに、ヒッと声を上げそうになったが……

 

 

 声を上げる前に、ブツンと視界が切れた。

 

 

 肩に辿り着いたゼロワンが、頭脳中枢になっている頭を切り裂いたからだ。コントロールを失い、ギーガーの身体は大きく揺れた。

 

「トリちゃん!」

 

“Fly to the Sky! フライングファルコン!”

"────Spread your wings and prepare for a force."

 

 隼のキー、フライングファルコンでハイブリッドライズすると、ゼロワンは本拠地の入口へと真っ直ぐに滑空していく。

 ゼロワンが飛び立った勢いでギーガーの巨体は倒れ、周りにいた信者達は巻き添えを食っていた。

 

「よーし! このまま……」

 

 あと数メートルというところまで滑空していた時、ゼロワンの身体に衝撃が走った。ベルトからフライングファルコンのキーが弾け飛び、変身が解除される。

 しかし勢いはついていた為、そのまま本拠地への入口へとごろごろと転がり込んでいってしまった。内部に積まれていた段ボールの山に突っ込み、やっとその勢いが止まる。

 

「と、とにかく入れた……!」

 

 或人が中に飛び込んだらしいのを見て、遠方からゼロワンを狙い撃ったスカウティングパンダレイダーは舌打ちした。

 狙撃能力に優れたスカウティングパンダを与えられ狙撃犯として森の中で木の上に控えていた彼故に、この場は絶好のチャンスと踏んでいたのだ。

 

「まだそこにいるか? ならもう一発……」

 

 狙いを定めようとした時、

 

「何してるのかな?」

「うおッ!?」

 

 迅が視界いっぱいに飛び込んできた。瞬間、スラッシュライザーの一撃で枝が落とされ彼は地面に落ちる。落ちたその瞬間、頭上に浮かんでいる迅が────どうしようもなく、威圧的に見えた。

 

「ひっ……ひいいいいいい!!」

 

 スカウティングパンダレイダーは逃げ腰で、迅の前から姿を消す。迅は構っている暇はないと思い直し、

 

「ゼロワン、僕の方までキーが飛んできたんだけど」

 

 手に持ったフライングファルコンのキーを見ながらそう通信を飛ばした。

 

「『迅が持ってて! トリちゃんなら迅に任せても大丈夫だしな!』」

「……よく言うよ」

 

 確かに滅亡迅雷.netの活動初期、迅はフライングファルコンのキーを使ってフォースライザーで変身していた。しかしそれは、或人からキーを奪って手に入れたものだ。

 滅亡迅雷.netの一時壊滅と迅自身の爆散によりキーが或人の下に戻り、迅自身は復活と同時にバーニングファルコンを使用するようになった為、自然と縁が切れた形になってはいたが。

 

 まだまだ数のいるレイダーとアバドンに辟易しながらも、迅は森を飛び出しまた向かっていった。

 時刻は午前十一時。

 世界滅亡まで、そしてライブ開演まで────あと一時間。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 同刻。虹ヶ咲学園講堂。

 既に開場し、客席には少しずつ人が増えていっている。

 

「すごい人……!」

 

 近江遥は、虹ヶ咲のスクールアイドルの力と勢いが増していることを実感しながら招待席へと座った。見やすくゆったりとした前方の列。当然ながら、姉の彼方が用立てた席だ。

 東雲学園の他のメンバーも招待されていたが、現地集合をいいことに遥は開場と同時に入れるよう虹ヶ咲学園に来ていたのだった。少しでも早く、ライブを観劇する為に気持ちを入れたくて。

 

(二人とも、辞めなくてよかった。本当に)

 

 彼方は日々成長している。それをこうして目の当たりにする遥もまた……自分自身を高めたいと思ってしまうものだ。スクールアイドルフェスティバルに参加して並び立っても、まだまだ足りないと思えるほどに。

 

「やっぱり、遥さんも招待席ですか」

 

 後ろからの声に、遥はえっと振り返った。

 藤黄学園の二年生、綾小路姫乃。遥同様にスクールアイドルの彼女もまた、他のメンバーと共に招待席に呼ばれていた。

 

「姫乃さん!」

「隣に座っても?」

「ええ、どうぞ! この間は本をありがとうございました、『ロストメモリー』、とっても面白くて……」

「神山先生は今後が楽しみな作家よね。私は南極先生の『驢馬君の呟き』『肉牛のサンバ』なんかも好きなんだけれど……」

 

 そこで姫乃は、緞帳の下りた舞台に視線を移す。

 

「お姉さんのステージ、楽しみですね」

「ええ! でも……」

「でも?」

「皆さん、どんなステージを見せてくれるのか……今からとっても楽しみです!」

 

 核心を突いた遥の一言に、姫乃はそうね、と笑みを返した。

 

 そうだ。推しは一人一人いれど、皆それぞれの個性で最高のステージを披露して、一つも同じものなど無いが故に、最初から最後まで全力で楽しませてもらえる。

 

 複数の色が一つに集まり、”虹”ができるかのように。

 それこそが、”虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会”。ひとつひとつの”個”の”群衆”なのだ。

 

「でも……」

 

 遥はまた、何か言いたげに目をきょろっとさせながら宙を仰ぐ。

 

「でも?」

「姫乃さんは、やっぱり果林さんが一番目当てでしょう?」

 

 えぇあ!? と姫乃は思わずキャラに合わない頓狂な声を上げてしまっていた。

 

「はっ、ははは遥さん!? それ誰から聞いたんですか!?」

「……ナイショデース」

「ちょっとおお!」

 

 姫乃の声が、虚しく響き渡った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ふんっ!」

 

 既に戦闘開始から一時間以上。肉体的には45歳、最年長だというのに、天津垓は──サウザーは、息一つ切らさず戦い続けている。

 

「バケモンがよ……!」

 

 ストーミングペンギンレイダーが悪態をつきながら向かってくるが、サウザーはこれをやはりサウザンドジャッカーの切っ先でいなすとそれを突き立て……

 

“JACK-RISE!”

 

 その身体から、データを採取した。そしてトリガーを引き、

 

  J

   A

    C

     K

      I

       N

        G

 

        B

       R

      E

     A

    K

 

 

                       ©ZAIAエンタープライズ

 

JACKING  BREAK

 

「はぁぁ──っ!!」

 

 採取したデータを基に、エネルギー波を放ってレイダーに直撃させた。レイダーの変身が解け、一瞬アバターが現れたがすぐに「LOG OUT」の文字と共に消滅する。

 

「はッ! たった一体に必殺技? 効率激悪でしょ~~がよォォ!」

 

 スラッシュアバドンは嘲笑すると、

 

「数だけはいるんだからさァァ~~!! 行け!!」

 

 まだまだ数のいる控えのレイダーを、十数人ばかり飛びかからせた。しかし、

 

「……私は、意味のないことはしない」

 

 サウザーの自信は、全く揺るがない。動じずサウザンドジャッカーを地面に突き立てると、そこからエネルギーが放出され……

 

 

 飛びかかってきたレイダー達が、爆発と共に消滅した。

 

 

「……は?」

「この一時間ばかりの戦いで、ジャッカーを使ってレイドライザーのデータを採取し続けた。そして、今のジャッキングブレイクでレイドライザーへの干渉波が完成……。放出することで、レイドライザーの基幹チップに作用してバッテリーを起点に爆発させる」

 

 直接戦闘せずに戦力を減らし、なおかつ使用者が人間でなくナノマシンのアバターである以上、爆発した際の負担も考えなくていい効率的なやり方だ。

 

「そんなのアリかよ……!」

 

 スラッシュアバドンは憤る。それを尻目に、サウザーは完成させた干渉波のデータを天津が身に着けたZAIAスペックを経由し、全員のZAIAスペックに転送する。

 

「なるほど?」

 

 バルキリーは干渉波のデータをショットライザーにダウンロードすると、近くにいたアバドンの胸元にそれを撃ち放った。アバドン自身は大したダメージでは無いが、そのアバドンを起点にして干渉波が広がり……

 周りのレイダー達のレイドライザーが、次々と爆発する。

 滅、迅もそれに続き、次々とレイダー達の数が減っていく。元よりシンクネットが生産、所有していたアバドライザーの大半は或人達の世界の信者達に回され、こちらの世界では流出したレイドライザーが主戦力となっていた為、効果てきめんだ。

 

「……ッ」

 

 相変わらず目の前の滅だけを見据えているショットアバドンではあるが、流石に不利な状況とあれば歯噛みのひとつもする。

 

「このまま決めさせてもらおうか……!」

 

 サウザーはサウザンドジャッカーを構えると、スラッシュアバドンに向かっていった。

 

「く、来るなあああああああああ!! 行けお前ら!!」

 

 慌てたスラッシュアバドンは、再びレイダー達を向かわせる。

 

「学習した方がいいな」

 

 ハッ、と嘲笑し、サウザーは再び干渉波を放ったが……

 

「な~~んて、ね」

 

 勝ち誇ったスラッシュアバドンの声と共に、サウザーが爆発した。変身解除にこそ至らないが流石にダメージを受け、サウザーは膝をつきそうになる。

 

「なん、だと……!?」

「学習した方がいい? えーえーおかげさまで! 学習させていただきましたとも!」

 

 サウザーを見下ろしながらスラッシュアバドンは高笑いする。

 

「『レイダーは人間爆弾兵器になる』ってねえ!!」

 

 レイドライザーの爆破は変身者がアバターである為人命へのダメージを危惧しなくていい。それは一見すると倒す側であるライダー側に利があるが、敵もさるもの。

 レイドライザーを身に着けた者をライダー達が干渉波を使う瞬間にぶつければ、それは爆弾として機能すると解釈したのだ。勿論変身者はアバターだから、遠慮も後腐れも無く投入できる。

 

「……どうにも上手くいかないね!」

 

 迅は苦笑しながら飛び上がり、干渉波を使う直前に自分にしがみついてきたバトルレイダーを地面に叩き落とした。直前にサウザーのあの顛末を見ていなければ、彼もまたやられていたところだ。

 

「レイドライザーを爆破できようができまいが変わらない。……全員、倒すだけだ」

「そうやってまた……誰かを傷つけるのか!」

 

 変わらず身構える滅に、ショットアバドンは叫ぶ。だが、

 

「……お前達はアバターだろう」

 

 故に手加減はしないと、滅はそれだけ返す。

 

「この軍団を前に勝てるわけがないと、まだわからないのか……!」

 

 何が何でも勝ってやるぞという、己への鼓舞にも似た言葉。

 

「お前こそ、まだわからないのか?」

「……は?」

「周りを見てみろ」

 

 滅に言われ、ショットアバドンは周りを見る。今この場にいる敵は、バルキリー、迅、サウザー、目の前の滅……

 

「!!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「広い建物だな! 迷うぞこれは……」

 

 シンクネットの本拠地の中へと入ったバルカンは、迷わないようにと周りを見回した。

 ショットアバドンが滅を特に打ち倒さんとする姿勢を見せているのを利用し、滅に引きつけさせて自分が中に入る作戦は上手くいった。

 ZAIAスペックを介して通信もばっちりであり、外の状況もわかるしレイドライザーへの干渉波のデータも手に入れている。……最も、先程の状況を見れば使わない方が賢明ではあるが。

 

「あいつらの『本体』は、もうちょっと上か」

 

 バルカンが狙っていたのは、この建物の中にいるバリーとミンツの「本体」だった。昨日刃が解析した際にバリーとミンツの本体はこの本拠地の中にある部屋からアクセスしているのを確認しており、不破は最初からそちら狙いだったのだ。

 建物自体は普通のオフィスビルにも似たつくりだが、ゴウンゴウンという機械の音があちこちから響いてくる。エレベーターと階段があるが、エレベーターは止めてあるらしく、或人のスニーカーの足跡が階段に土埃でべったりとついていた。

 

「社長は行ったか……」

 

 バルカンは改めて戦いの日々を思い出す。

 飛電或人なら、きっと────ただ一人の英雄として、最後には全てを止めてみせるだろうと。

 

「俺は俺にできることをする」

 

 そう言いながらショットライザーを構え、

 

「それだけだ!」

 

 階段を駆け上っていく。

 

「行かせるか無礼者がァァァァ!!」

 

 瞬間、どこに潜んでいたのか階段の上からアバドンが飛びかかってくる。だがバルカンは相手の落下する勢いに合わせ、思い切りストレートパンチを叩きこんだ。相手はふゲッ、と声を上げ、階段の段の上に落ちると重みでズベズベと下の踊り場までずり落ちていった。

 

「待ってろよ……!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「どいてどいて!」

「行かせるか馬鹿が!」

 

 再びライジングホッパーに変身して駆け上っていた或人は、既に最上階まであと少しというところまで来ていた。時間は11時40分。時間まで、あと20分しかない。

 一度この回で階段が途切れてしまっていた為、ゼロワンは長い廊下を走りつつ、飛び出してきたアバドンやレイダー達をいなしていた。

 

「ほっほーう、ここまで来ましたかゼロワン」

 

 廊下の奥から、一際豪奢なアバドンがレイダー達を三人従えゆっくりと歩いてくる。ジョンとバリー同様、貴重なシェイディングホッパーを与えられているようだ。

「おいお前、邪魔を……」

 

 アバドンの一人が起き上がり食ってかかるが、

 

「邪魔はあなたですよ」

 

 豪奢なアバドンは、ショットアバドライザーで相手の頭をブチ抜いた。撃たれた相手はすぐさま倒れ、「LOG OUT」の文字と共に消滅する。そして豪奢なアバドンは、気取った調子で両手を広げた。

 

「私はHN(ハンドルネーム)、グラスゴー。こちらのシンクネットの幹部でして……。自分で言うのも何ですが、いずれジョン様、バリー様、ミンツ様の御三方に並ぶ、実力者だと自負しております。ここであなたを倒すことで、わt」

 

“メタルクラスタホッパー!”

“──────It's High Quality.”

 

「……え?」

「……俺とフツの、邪魔をしないでくれ」

 

 狂信者の話などいちいち聞いている暇はない。メタルクラスタホッパーに変身したゼロワンは、大量のクラスターセルを放ってそれを全てグラスゴーと名乗ったアバドンとお伴のレイダー達に向けた。

 

「あぎゃああああああああああぁぁああぁあああァあ!!?」

 

 相手がアバターだと解っている以上、慈悲も遠慮も、ましてや話を聞く必要もない。クラスターセルは彼らをあっという間に全て”食らいつくした”。

 きっとネットを経由して操っていた信者達は、”大量の虫に食らいつくされ消滅する”という恐怖を一生味わい続けるだろう。

 

 後には、アバドライザーとレイドライザーだけが残された。

 

「……郷太!」

 

 ゼロワンは再び戦いへの決意を固める。その時、

 

「え?」

 

 立ち上がろうと手をついた壁は、よく見れば扉だった。ゼロワンはそれを開け、中に入り込む。

 

「……!! これは!!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「さてさて」

 

 ノールックかつ片手で掴んだままアバドンの頭を握力で潰して消滅させると、バルカンは目の前の扉を見つめた。

 刃の解析によれば、バリーとミンツの本体はこの部屋の中にいる。恐らく武装せず何かしらの端末で操っている為、バルカンが仮面ライダーの力で制圧すれば一気に勝負はつくはずだ。

 突入前に、バルカンはZAIAスペックを通じて外でのショットアバドンとスラッシュアバドンの動きを確認した。

 二体は今のところ、普通に戦いを続けているようだ。バルカンの侵入に気づいていないのか。もし気づいていないとすれば、あっという間に制圧できるはずだ。

 

「……よし」

 

 バルカンは意を決し、扉を蹴破った。仮面ライダーの超パワーで蹴られた扉はベギン、という音と共に留め金をフッ飛ばし、床に轟音を立ててぶつかる。

 その瞬間、銃撃がバルカンを襲った。

 

「うおッ!!」

 

 すんでのところでバルカンは避けると、その方向を見る。薄暗い部屋の隅で、ショットアバドライザーを構えた影が一人。

 バルカンはすぐさま自らもショットライザーを構え、相手の持っていた銃を弾き飛ばした。アッ! という声と共に、その影は銃を弾き飛ばされた反動で床に倒れ伏す。

 

「銃ってことは、お前がミンツ……」

「死ねやボケエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 バルカンの右隣から絶叫が聞こえるのと、何かがスーツに突き刺さる感触は同時だった。

 何者かが、スラッシュアバドライザーを構えてバルカンの横っ腹にそれを突きささんとしていたのだ。しかし、

 

「その程度じゃ刺さんねえよ」

 

 相手の力はごくごく弱いものだった。バルカンが手の甲で額を軽くバシッ、と叩くと、相手はうああっと力ない声を上げてこれまた倒れ伏した。

 

「お前がバリーか?」

 

 バルカンは倒れた相手を見下ろし、そして驚きに息を呑んだ。

 手にスラッシュアバドライザーを握ったまま倒れていたのは、二十歳前後の女だった。

 アバターで少年を騙っていたわりには背が高く、出るところの出た肉付きの良い恵体で、Tシャツとショートパンツだけのラフな格好。一目見ただけでは宗教結社の幹部にはまず見えない。

 一つだけ”奇妙”な点と言えば────

 頭の右側はショートボブに切りそろえているのに対し、左側はまるで髪長姫(ラプンツェル)のごとく、胸元まで前髪も後ろ髪も伸ばしまくっていることだった。

 

Illustration by 蒼人(@aoihito000)

 

「死ねよ……」

 

 見下ろされながら、バリーの本体の女は悪態を吐いた。

 

「じゃあ、やっぱりお前がミンツ……」

 

 バルカンは最初に撃ってきた相手の方向を見ながら近くに電気のスイッチがあることに気づき、それを入れた。パッと部屋が明るくなり────ミンツの本体の姿が露わになった。

 

「……あ?」

 

 不破は一瞬理解が追いつかなかった。

 なぜ、”彼”がここにいるのだと。

 なぜだ。なぜ。

 しかしながら、その正体が露わになってみれば……今まで断片的に見えていたものが、全部繋がるのだ。

 

「中学生ぐらいの年齢」。

 

「ヒューマギアへの憎悪」。

 

「特に滅を恨んでいる」。

 

 そして不破は聞いてはいないが、ミンツは……

 

 

「ヒューマギアに、家族を奪われた」。

 

 

「後にこの大災害は”デイブレイク”と名付けられ、12年経った今でも、ここから先への立ち入りは厳しく制限されています」

 

「オレ知ってまーす! 事故の犯人、こいつの親父! こいつの父親、爆発した工場の責任者だったんだって!」

「やめてよ!!」

「そうそう、こいつの親父のせいで爆発が起きたんだ!」

 

「彼の父、桜井聡さんは12年前に、爆発事故に巻き込まれて亡くなっています」

「お父さんのミスで、デイブレイクは起こった……って聞いてます。色んな人に言われるんで。『お前の親父のせいだ』って。『父親が悪い』って」

 

「僕……知りたいです! 本当の事!」

 

「……もういいよ! 爆発事故は、父さんのせい! それが本当の事なんだ!!」

「違う!! 悪いのはヒューマギアだ! お前の親父さんは悪くない!! お前がそう信じてあげなくてどうする!!」

 

「前だけを見て……突き進め!!」

 

「『人類よ、これは聖戦だ。滅亡迅雷.netの意志のままに』」

「『この街を滅ぼし、人間共を皆殺しにする』」

 

「全てのヒューマギアは、工場長として……私が責任を持って処分する!」

「郷……」

 

「ヒューマギアの反乱を止める為、たった一人で戦った。お父さんは、英雄だったんだ」

「とうさん……!」

 

 

 彼の……少年の名は、桜井郷。

 アークと滅亡迅雷.netの起こしたテロにより暴走したヒューマギアを止める為、工場と共に全てを爆破して亡くなった飛電インテリジェンスの工場長、桜井聡の息子。

 かつて不破が心を通わせ、道を示した筈の少年は……恨みと怒りの籠った目で、バルカンを見上げていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時55分。

 

 緞帳の下りた舞台裏だというのに、その空気はびりびりと震えていた。

 観客の熱と期待のこもった談笑が、そこまで響いてくるのだ。一人一人が意味のある「言葉」として発したはずのそれらは、ガヤガヤとした「音」となって容をもつ。

 「期待」という名の音となって。

 

「いよいよ、だね」

 

 侑は手首の腕時計を見ながらそう言った。

 

「緊張してる?」

「何度舞台に立っても、このドキドキだけは変わらないですね……」

 

 璃奈に問われ、しずくは胸を押さえながら深呼吸をした。

 

「大丈夫だよ、私達なら」

「かわいいを全力で届けるまでです!」

 

 エマとかすみのぶれない姿勢が、何とも頼もしい。

 

「私達の努力の成果を、余すところなく見せてあげましょ」

「いつだって、やることは変わりませんよ。……いつでも全力全開です!」

 

 果林とせつ菜の、実力に裏打ちされた自信もまた然りだ。

 

「……皆が待っててくれてる。それだけで、凄く嬉しいよ」

「『愛さん』達を、もっともっと『愛さんかい』!ってね!」

 

 彼方と愛も、冗談を飛ばすほどの余裕だ。

 

「……それじゃあ、侑ちゃん」

 

 歩夢は、まずMC役として舞台に立つ侑を促した。

 

「うん。行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ」

「イズちゃん。例のものは?」

「ばっちりです」

 

 イズの返事に嬉しそうな顔をすると、侑は何の畏れも緊張も無く、緞帳の降りた舞台の中心へと歩いていく。

 あと数分で世界が終わると聞かされているのに。

 ライブなど、夢など────実現できないかもしれないのに。

 

(或人さん……)

 

 だが、彼女は信じている。

 

 否────

 

 “信じたい”のだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 それは或人がフツの正体を語り、決意をした直後のことだ。

 

「それじゃあ、戻ろうか」

 

 或人は立ち上がろうとする。だが侑は、少し考えるように宙を仰いでいた。

 

「……どしたの?」

「こんな時に、ヘンな事言っちゃってもいいですか?」

「なに?」

 

「私、夢で見たんです。或人さんのこと」

「はい?」

 

 そこから侑は、例の夢のことを語って聞かせた。アルトくん、という少年になってアンドロイド──今にて思えばあれはヒューマギアだ──の父親と遊んでいるうちに、自分と歩夢に戻り、そして「虹の根っこ」の話をしようとした瞬間に目が覚めるあの夢を。

 

「だから、“アルト”って名前を聞いた時に、同じだって……或人さん?」

「同じだ……」

 

 或人は目を見開いていた。そして或人もまた、”ゆーちゃん”になった自分と歩夢が遊んでいるうちに、元の自分と其雄になり、「虹の根っこ」の話をしようとした瞬間に目が覚めるという自分が見た夢を語って聞かせた。今度は侑が目を見開く番だ。

 

「こんなことって、あるんだ……」

 

 間に入って聞いていた歩夢もまた、信じられないという顔をしていた。

 

「お二人の出会いは、まるで────」

 

 歩み寄ってきたイズが何か言いかけた時、

 

「『運命』……」

 

 侑はその結論を引き取った。

「……すっごいですよこれ! ちょっと運命みたいだな、って思って言ってみたら、同じ夢を見てて、同じ話をしてたなんて!! も~~すっごいときめき!」

「あるんだなあ……。あるんだなあ! 運命って!」

 

 或人も興奮が抑えきれていない。

 

「でも、わかる気がするな」

 

 二人の姿を見ていた歩夢は、ふふっと笑った。

 

「お二人共、夢を信じて、夢を諦めず、夢を応援する。そういう志を持っている人ですから」

 

 歩夢が感じ取っていたそれを、イズがしっかり言語化する。

 

「ちなみに、『虹の根っこ』の続き、わかりますよね!?」

「もちろん!! 『虹の根っこ』には……」

 

 

 

「宝物が埋まっている!!」

 

 

 

 声が同時に重なり、そこで二人は感極まってうわ~~っ!と言葉にならない感情の迸りの叫びを上げた。

 

「そうなんですよ! ちっちゃな頃、絵本で読んでからずっとわくわくしてた!」

「世界中にそんな話があるんだって聞いて、驚いちゃったんだよな!」

「わかる! わかる~~!!」

「きっと昔の人も、世界中の皆も……きれいな虹なんだから、その根元にはきれいなもの、素晴らしいものがあるんだろうなって……“夢”を見てたんだよ!」

 

 先程までの重苦しい決意で沈んだ或人の顔は、とても明るい。それに対する侑もまたしかりだ。

 

「虹の根元の宝物……」

 

 歩夢は少し言葉を噛みしめてから、

 

「それって、侑ちゃんみたいだね」

「……私?」

 

 意外な方向からの言葉に、侑はきょとんとする。

 

「皆ばらばらで、個性豊かで……学校の名前通り、”虹”みたいな私達同好会をまとめて、支えてくれたのは侑ちゃんだから。縁の下の力持ちっていうか……”根っこ”で……」

 

 そこで歩夢は、

 

「”宝物”だよ!」

 

 今日一番の笑顔で、そう言った。

 

「輝く夢を支える、虹の根元の宝物……」

 

 或人はその言葉に、感銘を受けていた。

 

「俺も! そんな人になれるように……頑張るよ!」

「なれますよ! 或人さんなら!」

 

 或人の決意を、侑は激励した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 誰かの夢という輝く虹を、支える根元の宝物。

 Root of the RAINBOW(虹の根元)になると、或人はそう誓ったのだ。

 

 だから、信じたい。夢を支えたいという志を抱いた、英雄(ヒーロー)を。

 

 侑が舞台の真ん中に立つと、ゆっくりと緞帳が上がり……

 客席から差し込む光とともに、歓声は最高潮になった。

 

 午前11時59分48秒。

 

 侑は、ゆっくりと息を吸い────

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時45分。

 

「ラクラメソシヤー……。メランコンカー……」

 

 衛星アークを擁するホールを見下ろす祭壇の間で、フツは祈りを続けていた。そこに、

 

「郷太!!」

 

 ゼロワンが飛び込んでくる。フツはその姿を一瞥すると大きく息を吐き、

 

「相変わらず無神経な奴だな、お前は」

 

"ARK! Dash! Dream! Delusion!"

"────XANADU the KAMEN RIDER."

 

「私を……」

 

 変身した瞬間、ザナドゥは拳を振りかぶり、

 

「その名で……」

 

 ゼロワンの胸元を、

 

「呼ぶなァァァァァ!!」

 

 思い切り殴りつけた。

 あまりの勢いに、ゼロワンは壁に叩きつけられる。ずる、と床に滑り落ちたその瞬間に、ザナドゥが間合いを詰めてくる。

 

「もう枝垂郷太なんて人間はいないんだ!! 私はフツ!! 救いを求める人間達を率いて解脱させるナノマシンの集合体!!」

 

 その声は、

 

「それが私だ!!」

 

 怒りよりも、痛みが勝っていた。

 

「……教えて、くれよ」

 

 ズタボロになりながらも、ゼロワンは声を発する。

 

「何で、そうなったのか」

「言う必要がどこにある? 過ぎ去った時間のことなど……」

「お前には過去の事実でも!!」

 

 アタッシュカリバーを杖代わりに、ゼロワンは必死に立ち上がる。

 

「俺はそれを知らないし、知りたいんだ!!」

「だから知ってどうなると言ってるんだ!!」

「……言わなきゃわかんないだろがああああああああああああああ!!」

 

 メタルクラスタホッパーの銀色の拳が、ザナドゥを殴りつける。既に満身創痍のはずのゼロワンから放たれた予想外のパンチに、ザナドゥは倒れ伏した。

 地面に倒れたザナドゥは、そのまま脱力する。彼はしばし天井を見つめていたが、

 

「……いいだろう」

 

 最後に、

 

「どうせ、あと数分だ」

 

 全てを話すと決めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「……はあ」

 

 アルゴリズムが解散してから一年後、枝垂郷太はアパートの自室で個人事業主として活動していた。WEBサイトの作成、運営等を行う事業を、自らの手で立ち上げたのだ。

 

 あれだけお笑いに熱心だった筈の彼の方が、今では芸人を引退してしまっていた。

 

 或人とコンビを解散した後、彼はしばらくの間相方探しに奔走した。養成所や漫才サークルなどを回り、自分の考えるネタの良さをわかる人とは何人も出会ってきた。だが、

 

(呼吸が……合わなかったんだよ……)

 

 最大の理由はそれだった。彼のネタに彼の求める最高のテンポで或人以上に返せる人間は、誰一人としていなかったのだ。元より潔癖で完璧主義者のあるきらいの彼のこと、そんな状態が承服できるはずもない。

 ピン芸人に転向しようかといくつかネタを出してステージに臨んでみたが、これもやはり微妙なものだ。アルゴリズムの時よりも笑いはとれていない。それも、彼には理由がわかっていた。

 

(或人のあのうるせーってぐらいの表現のパワーがねえと、客の心には響かねえんだよな)

 

 自分に無いものを、或人はたくさん持っていた。

 

 彼は仕事に目途をつけると、懐かしくなって動画サイトに上がっている自分達の漫才ライブを見返し始めた。あの頃は本当に楽しかった。家を出て貧乏をしながらも、二人で夢を追いかけるだけで楽しかった。客が二人しかいない演芸場で漫才をした日でも、いつか売れて自分達のギャグで世界を沸かせられると信じていた。

 

 だが今はもう、何もない。失ったそれは、取り戻せない。

 

 動画には、コメントもまばらだがついている。

 

 

「アルゴリズム、たまにショッピングセンターに来てるの見たことあるわ。解散しないでほしかった」

 

 

「今はお互いピン芸人やってるけど、どっちも鳴かず飛ばずなのがなんとも。この二人は二人だからこそだったよね」

 

 

「ピンになると、アルトはネタのセンスが無くてゴウタは表現のセンスが無いってのがお互い解っちゃってウケるw」

 

 無自覚、無意識、無頓着。

 彼らには二人を傷つけようという意志は毛頭無いのだろう。だが、

 

「お前らに俺達二人の何がわかるんだよ!!」

 

 郷太は立ち上がって叫ぶ。その時、インターホンが鳴った。

 

「はい……?」

「枝垂郷太、だな。力を借りたい」

 

 それはとても沈んだ声だった。一瞬開けるのを躊躇ったが、

 

「あんた……一色理人……!?」

 

 種々のニュースに目を通していた郷太には、インターホンのドアモニター越しのその顔がすぐに誰だかわかった。

 現在デイブレイクタウンとなっているヒューマギア実験都市において、ナノミライなる会社で医療用ナノマシンの研究を行っていた研究者、一色理人に間違いない。

 

 兎にも角にも、話が先決だった。

 

 一色理人は部屋に上がり込むと、軽く頭を下げてから自分の持つこれからの計画の構想を一気に喋りはじめた。

 シンクネットで人間の悪意を集めること。

 電脳世界の楽園を作ること。

 その為に、自らはナノマシンによる義体化を実行すること。

 

「そんな大層なことが……」

「できもしないことを、わざわざこうやって言いにくると思うか?」

 

 理人の目は真剣だった。そこには狂人の戯けた光は存在しない。

 いや────ある意味では、理人は狂っているのだ。この醜い世界のどうしようもない理不尽に、狂っているのだ。

 

「なぜ、俺を?」

「君のWEBデザインを見させてもらった」

 

 理人はスマートフォンで、郷太のデザイン、管理しているサイトをいくつか見せる。

 

「一目見て引きつけられる良いサイトだと思った。破滅願望のある人間を集めて、人間の悪意を収束させるのに今最適なのはインターネット……。裏サイト、闇サイトがいくらでも転がってる。君のデザインしたWEBサイトなら、きっと多くの人間が集まる。俺にはそこのノウハウは無いからな、そこに長けた人材が欲しい」

 

 そこまでは解る。しかし、

 

「本当にそれだけか? WEBデザインだけなら何も俺でなくても……」

「悪意」

「……あ?」

「夢と志を持っていながら形にならず、人間の悪意を見た……。そうじゃないのか?」

 

 どこまで調べているんだ、と郷太は寒気がした。だが────

 

「そうだよ。俺は悪意なき世界に行きたい。例えるなら、そう……」

 

 郷太の脳裏には、楽園が浮かんでいた。

 芸人として、人々を沸かせる最高のステージ。

 そしてその傍には、最高の相方。

 

 

 飛電或人が、笑っている。

 

 

「俺の夢がかなう、桃源郷(ザナドゥ)に」

「行けるさ」

 

 理人の言葉は、何故かすっと胸に染み入ってきた。

 

「……わかった」

 

 それが、郷太の選んだ道だった。

 

「感謝する」

 

 理人はそう言うと、まず枝垂郷太という人間を”殺す”ことが先決だと語った。

 ナノマシンによって義体化し、本来の肉体は死ぬことで社会的には完全に死んだものとして扱われる。そうすれば動きやすいと。既に用意があり、このアパートの部屋でもそれは可能だと言った。

 そして郷太は、それを受け入れた。ベッドに横たわり、ナノマシンによる処置を受け……記憶と人格を完全に移植した、ナノマシンの集合体として生まれ変わった。

 それはまさに、生命の輪廻からの解放。

 “解脱”そのものだ。

 

 哲学の命題に、“テセウスの船”というものがある。

 壊れた船のパーツを少しずつ修理交換で入れ替えていき、やがて全てのパーツが新しいものと入れ替わった時……

 

 

 その船は、果たして本当に“同じ船”と言えるのか?と。

 

 

 今の彼は、枝垂郷太という人間の記憶と人格を持ったナノマシンの集合体。そこには枝垂郷太の自我は存在しているが……

 目の前では、枝垂郷太の肉体が命を失い、横たわっている。

 

 果たして今ここにいる“自分”は枝垂郷太なのか。それとも目の前の肉体の死と共に、枝垂郷太という存在は間違いなく死んでどこにもいなくなってしまったのか。

 そんな矛盾が、彼を狂わせそうになる。

 だから彼は、

 

 

「今ここで、枝垂郷太という人間は死んだ。今の私は……“フツ”とでも名乗るしかないか」

 

 

 自らを慰めるかのように、そう言った。

 

「上々」

 

 理人はそれだけ返した。

 実のところ、このやり取りはなんとも後ろ暗いものがあった。何せ一色理人はまだ────自身への義体化を行っていなかったのだから。

 

 彼は理論上、ナノマシンによる義体化が可能なことはわかっていた。しかしながら、それを実践するとなるとそこにはどうしても“実験台”が必要となる。街のどこかから浮浪者を選び出して適当にやればいいというものではない。失敗すればそれでも良いかもしれないが、成功した場合はナノマシンの集合体による上位存在が誕生することとなるのだ。

 

 失敗して死んでも損が無く、成功すれば自分の利になる存在。

 その為には、自身の協力者となってくれる人材を義体化させる必要があったのだった。

 いずれ、自分も一色理人を捨て……“エス”となるために。

 

「行こうぜ」

 

 “フツ”は言いながらボディケアに使っていた香油の瓶を開けると、目の前に横たわる枝垂郷太の肉体にそれをぶちまけ────ライターで火をつけた。

 これには理人も驚いたようだったが、フツは既に自らを捨てる覚悟を想像以上にしていたのだった。

 後にこの火でアパートで小火が起こり、“枝垂郷太の焼死体”が発見されることとなる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「そんなことが許されると思ってるのか!?」

 

 “或人達の世界”にあるシンクネットのサーバールームで、フツはエスの胸倉を掴んだ。

 

「今更なんだ。我々はとっくに生命の倫理も何もかも踏みにじってきたはずだ」

 

 エスは表情を崩さない。

 世間では、飛電インテリジェンスがZAIAエンタープライズジャパンとのTOBを賭けたお仕事五番勝負に負け、掌握されたことでヒューマギアの排斥が始まりつつあった。そんな中でも、彼らは計画を順調に進めていた。そこでエスは初めて、フツにシンクネットの本当の目的を教えたのだ。

 

 悪意を持った人間を集めることで、彼らをまとめて滅ぼすと。

 

 既に“別の世界”からの来訪者によって、その人物の出身の並行世界にサーバーを守る為の拠点を作ることや、ZAIAエンタープライズジャパンの常務である野立が技術の横流しを行うことで戦力が揃いつつあった。

 並行世界でもシンクネットの信者達が集まっており、組織は当初の想定以上に膨れ上がっていた。

 しかしエスの目的は、恋人である遠野朱音のために電脳世界の楽園を作ることであった。その為には、シンクネットに集まった人間は滅んでも構わないと。

 

「いいか!? かつての俺みたいに、どうしようもない状況から悪意に染まって、救いを求めている人間だって信者達の中にはいるはずだ! お前の一存で、彼らを全て滅ぶべき悪意と断じていいはずがない!」

「シンクネットなんかに集まった時点でどうしようもない連中だ!! ああやって醜い悪意をタレ流す連中がアークを産み……朱音の命を奪った!!」

「それにしたって……!」

 

 そこでフツはしばし考えこみ、

 

「……わかった。信者達を選別しよう」

 

 譲歩案を出した。

 

「選別?」

「アンケートを取らせてくれ」

 

 それから、フツはシンクネットにアクセスする者達全員にアンケートを取った。設問は至って単純(シンプル)

 

 

 

「あなたには、夢がありますか?」

 

 

 

 このアンケートの答えが、信者達の運命をわけることとなった。

 

「夢なんかない。────ただ、エス様の導く楽園に」

 ベル。

 

「夢なんてないから、何かもイヤで集まってるとこありません?」

 ルーゴ。

 

「夢なんて、子供じゃあるまいし。馬鹿らしい」

 ムーア。

 

「今生きてても夢なんかないから、楽園を求めてんだよ」

 ブガ。

 

 

 夢などなく、ただ全てを滅ぼして楽園に行きたいという者達。彼らは、エスが直々に滅ぼす側の信者となった。一方で、

 

 

「夢がある。全てのヒューマギアが滅んだ世界を見たい」

 ミンツ。

 

「スクールアイドルが大好きで、夢を見ていた頃の自分に戻りたい」

 バリー。

 

「人間関係の悩みから解放されて、誰とでも仲良く出来る夢の世界に行きたいです……!」

 グラスゴー。

 

 種々の夢を抱く者達。彼らはフツに導かれ、並行世界に移動し生き残る側の信者となった。並行世界────虹ヶ咲の世界での決起式で、フツは宣言した。

 

「皆の夢がかなう桃源郷(ザナドゥ)へと、私が導こう! 夢がここからはじまるんだ!」

 

 この選別は、確実ではないかもしれない。しかしながら、夢というものをどう捉えるか。それは、シンクネットという膨大な悪意をより分けるには充分だった。

 

「エス。お前の楽園は、お前に任せる。俺は俺の楽園を作る、それでいいだろ?」

「……ああ」

「まあ、サーバーの管理はこっちの仕事だが」

 

 フツはは、は、は、と相変わらずのスタッカートで笑った。

 

 やがて飛電或人と滅の戦いが終息したころ、エスの前にアズが現れた。アークの使者、と名乗った彼女に戸惑いはしたものの、彼女が与えたエデンドライバーは、彼らの大きな力となった。

 

“Imagine! Ideal! Illusion!”

“────EDEN the KAMEN RIDER.”

"The creator who charges forward believing in paradise."

 

「いよいよ、世界の変革の始まりだ」

 

 エスはそう宣言した。フツは並行世界へと戻りエスの計画完了を待っていたが、

 

「エスが……死んだ……!?」

 

 アズに聞かされたのは、予想外の結末だった。

 

「飛電或人の手によって、ネ。あっちの世界の幹部たちもみんな逮捕。エスも”アーク様”の器じゃなかったってことね」

 

 アズは何の感情も込めずにそう言った。

 

「あなたはどうするの? フツ」

 

 アズが問うてくる。しかし、フツの答えは決まっていた。

 

「俺が次のアークになる。桃源郷(ザナドゥ)のために、悪意の器として」 

 

 迷いなき返答に、アズは嬉しそうに笑った。

 

「それじゃあ、これを」

 

 複製のゼロワンドライバー。フツが手にした時、それは”ザナドゥドライバー”へと変わった。

 

“Dash! Dream! Delusion!"

"────XANADU the KAMEN RIDER."

"The dreamer who believe in success our shangri-la."

 

「夢見る人を皆、夢叶う桃源郷(ザナドゥ)に導く……! それが俺、"仮面ライダーザナドゥ"だ!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時57分23秒。

 

「時間だ」

「待ってくれ! 一体何をするつもりなんだ!?」

 

 身体を起こしたザナドゥに、ゼロワンは問いかける。

 

「……なあ、或人」

 

 ザナドゥは宙を仰いだ。

 

「“皆”の夢が叶う桃源郷(ザナドゥ)ってのは……どうやったら実現できると思う?」

「え?」

「ミンツは全てのヒューマギアが滅んだ世界が見たいという。バリーはスクールアイドルへの夢をまた見たいという。ある者は女にもてるハーレムの世界、ある者はいくら食べても太らず健康でいられる世界……。皆が皆、違う夢を抱いているのに……その全てが叶う世界なんて、本当に作れると思うか?」

「それは……」

 

 ゼロワンは言い淀む。できない、とは言いたくない。しかし、そんなものができるかと言われれば甚だ疑問だ。もしかするとザナドゥには何か策があるのか、とも思う。

 

「……できるの、かな」

 

 その答えにザナドゥは、溜息を通り越して空気の嘔吐のように息を吐くと────

 

 

 

「ンなモンできるワケねェェェ~~~~だろ~~~がよォォォォォ!!!」

 

 

 

 苛立ち紛れに絶叫した。ゼロワンはビクッ、と驚く。

 

「どいつもこいつも自分本位で身勝手な夢ばっかり口にしやがって!! シンクネットにすがらなきゃ生きていけねえゴミ共は違うなやっぱ!! 脳ミソパープリンの下痢グソ共がよ!!」

 

 誰にも言えなかったのであろうその苛立ちを、彼はゼロワンに吐露する。

 

「……けど、それは俺だってそうだ。もう二度と戻れないお笑いコンビに夢を見て、それを取り戻したいって身勝手な夢を見てる」

 

 自嘲気味に呟き、ザナドゥが手をかざすと────床から、ボタンのついた台が現れた。

 

「現実的に考えて、無理なんだよ。だから……”夢”の世界で、”夢”を見る」

 

 ザナドゥがボタンに歩み寄った。

 

「この建物自体が、ナノマシンの製造プラントになってる。この長い間、信者に作らせたアークのレプリカを媒介にしてナノマシンが生産され続け……一発で地球を覆えるほどになった」

「……まさか!?」

 

 ゼロワンには、もう察しがついたようだった。

 

「このボタンを押すと同時にナノマシンが解放され……全世界の人間の脳に入り込む。ナノマシンは彼らの脳をスキャンし、一定の条件を満たした人間の人格をこのサーバーに転写する」

 

「そしてサーバーの中で、それぞれが自分の夢が叶った世界の幻覚を見るってわけか……!」

 

「お前にしちゃ察しが良いな、その通りだ。けど、全世界の人間の意識を管理できるほどサーバーに要領は無い。だから、条件をつけた。脳波や感情の数値が一定の閾値に達した者……今、夢を見ている者だけが、夢かなう桃源郷(ザナドゥ)に行ける」

 

 ザナドゥはボタンにつつっ、と指を這わせる。

 

「そして意識が無く残った生きているだけの肉体はナノマシンによって管理され、レイドライザーでレイダーとなってサーバーの物理的な管理を担当する。ナノマシンで半永久的に肉体だけが生き続けるってわけだ」

 

 これで、そもそもの疑念だった“サーバーは誰が管理するのか?”の答えも出た。しかしながら……

 

「そんなこと……させるか!!」

 

 ゼロワンは当然それを許さず、ザナドゥに飛びかかった。クラスターセルを伸ばし攻撃するが、ザナドゥも負けじと蓮の花を生成しそれを受ける。互角だ。

 

 午前11時59分48秒。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時59分48秒。

 侑は、ゆっくりと息を吸い────

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時59分51秒。

 

「カンタカ!!」

 

 瞬間、バリバリと壁を破り、ザナドゥの”マシンカンタカ”が思い切りゼロワンに体当たりをかました。ゼロワンは不意打ちに倒れ伏し、痛みに声を上げる。

 

「だめだ郷太ぁぁぁぁ!!」

 

 或人の脳裏には、イズが、ライダー達が……そして、この世界で出会った少女たちの顔が浮かんでいた。

 彼らの未来を奪うことなど、許されるはずもない。

 何より、誰かの未来を奪ってしまえば……枝垂郷太は、きっともう後戻りできなくなる。ザナドゥは一瞬びくっと反応したが、

 

「私は……」

 

 それを振り切るかのように────

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午前11時59分58秒。

 侑は、観客に向けての第一声を発した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「“フツ”だぁぁぁぁぁ!!」

 ボタンを叩き殴った。

 

 午後12時、ジャスト。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 午後12時、ジャスト。

「皆さんこんにちは! 虹ヶ咲学園、スクールアイドル同好会です!」

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