仮面ライダーゼロワン Root of the RAINBOW   作:度近亭心恋

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Part7

「私は……“フツ”だぁぁぁぁぁ!!」

 フツは迷いを振り切るかのように、ボタンを叩き殴った。

 

 午後12時、ジャスト。

 その瞬間、

 

 

「『皆さんこんにちは! 虹ヶ咲学園、スクールアイドル同好会です!』」

 

 

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「……は???」

 

 あまりの出来事に、ザナドゥは固まる。その直後、ゴウンと轟音が響き、シンクネットの本拠地がびりびりと揺れた。何が何だかわからないうちに、

 

「『今日は暑い中、ニジガクの皆の為に集まってくれてありがとう!』」

 

 侑のMCが、本拠地全体に響き渡る。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「『スクールアイドルフェスティバル、皆どうだった!? たくさんのスクールアイドルがいて、ときめいたアイドルがいっぱいいたんじゃないかな?』」

 

 森の中で戦闘を続けるライダーとシンクネット信者達にも、その声は響いていた。

 

「何だこれは……!?」

 

 ランペイジレイダーは全くの予想外の事態に、かなり困惑している。

 

「飛電或人がやってのけた、ということだ」

 

 バルキリーはその隙を逃さず、チーターの脚力で相手の胸元に蹴りを入れる。

 

「私たちも……」

 

 バルキリーは、持参していたアナザーランペイジガトリングキーを手に取った。

 その時、轟音と共に本拠地の一角が爆発する。

 一同がまた呆気にとられた直後、うおおおおおおっという声と共に、バルカンが人間二人を抱えて爆風に乗って落下してきた。即座に迅がそこまで飛び、バルカンを掴むとゆっくりと着地させる。

 

「助かったぜ」

「これぐらいはね。それより、その二人が……?」

「……ああ」

 

 二人が会話を交わす最中、バリーの本体の女は力ずくでバルカンの腕の中から抜け出すと、郷を引っ張って逃げ出そうとした。

 

「おい待て!!」

 

 バルカンは二人にショットライザーを向けるが、郷の姿を見ると一瞬躊躇いを見せた。

 バリーの本体の女はそのまま逃げだそうとしたが、郷はそこでゆっくりと立ち止まった。

 

「何やってんだよダボが!! 逃げるんだよ!!」

 

 女は怒鳴るが、郷は振り返り、真っすぐにバルカンに視線を向けていた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「この間のスクフェスに来てくれてファンになってくれた人も! 気になって、今日初めて来てくれた人も! どっちも皆楽しめる、最高のライブにしたいと思ってます!」

 

 壇上で物怖じせず観客を相手取る侑に、観客達は圧倒されていた。

 今日の高咲侑は、まるでシド・ヴィシャスと見紛わんがばかりのパンクファッションに身を包んでいる。

 既成の概念をぶち壊し、新しいときめきを贈りだすという挑戦の意図を込めたチョイスだ。

 

(届いてる……? 或人さん)

 

 侑は自らの発案が成功しているか、その一点が不安だった。少なくとも、12時を過ぎた今の時点で何も起こらないということは……

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「やったよ……! 侑ちゃん……」

 

 ゼロワンはボタンを押されてしまったことを悔恨として胸に刻みつつも、自分の立てた計画のすべてが成功したことに安堵していた。

 12時に発動するナノマシンによる全世界の掌握は阻止され───もう一つの目的である、「今のこの場にライブを配信で届けること」にも成功していた。

 

「ありがとう垓さん……! ボタンを押された時は一瞬やばいって思ったけど、なんとk」

「一体……何をしたんだお前はァ!!」

 

 瞬間、強烈な蹴りがゼロワンに叩きこまれる。怒りに燃えたザナドゥの、渾身の一撃だ。

 

「ゼロツードライバーとゼロツーキーで、ちっちゃなスピーカーを大量に作ってここに登ってくるまでに不破さんと俺で撒いてきた……! 向こうの音響と俺達のZAIAスペックを繋いで、その経由でここまでライブを配信でお届けだ!」

「何のためにそんなことを……!!」

「歩夢ちゃんが!! ニジガクの皆が!!」

 

 ゼロワンは彼女らの顔を改めて思い浮かべ、

 

「お前と、お前の仲間達皆に……聴いてほしいって言ったからだよ!!」

 

 びしっと指を差す。

 

「『今日のライブは、夢を見てる人、夢をあきらめそうな人には特に聴いてほしいな!』」

 

 合いの手を入れるかのように、侑のMCが入ってくる。

 

「『辛いことや、苦しいことだってあるけど……』」

 

 その言葉は、

 

「『夢を見るのって、やっぱり楽しいと思うから!』」

 

 シンプルに、彼らの心に突き刺さった。

 

「……いいなあ」

 

 ザナドゥは意外にも、ぼそりとそう呟く。

 

「羨ましいよ。本当の辛さや苦しさも知らずに、夢をただ純粋なものだと思える彼女達がね」

「そんなこと……!」

「ナノマシンはもう駄目みたいだな。どうやった?」

「……ここに来る途中で幹部を倒した時に、部屋を見つけた。中にはこの建物の中の全体の機械を見渡せるブリッジがあって、何かの工場みたいだった。近くに12時に向けてカウントしてるタイマーもあったし、何かするんならこれだ! って思った」

「……それで?」

「倒した幹部達のレイドライザーをパイプや機械にいくつか巻きつけて、12時に干渉波が出るように奪ったアバドライザーをZAIAスペック経由でプログラム仕込んで置いてきた。あとはレイドライザーが爆発して誘爆して……」

「爆発した結果もっとやばいことになる、とか考えなかったのかよ?」

 

 そう言われて、ゼロワンはあっ、と声を上げた。

 

「……確かに!」

「やっぱそういうとこ詰めが甘いんだよお前。もっと頭使って……」

 

 そう言いかけて、ザナドゥは頭を掻く仕草をした。

 

「まあ、お前と天津垓にしてやられたってとこだな」

 

 実際のところ、或人はフツを止める前に既に正午の計画始動に対し彼なりに手を打っていたことになる。それに対処できなかったフツの方が、結果としては負けなのだ。

 まるで教室で談笑するかのような二人の会話。

 しかし、

 

「……何をしてくれてんだよお前はァァァァ!!!」

 

 いきなりキレると、ザナドゥは蓮の蕾型のオーラを拳に纏わせ、ボクシングのグローブの要領で思いっきりゼロワンを殴りつけた。

 ゼロワンの身体は吹っ飛ばされ、祭壇の間から十数メートル下の円筒状のホールの最下部まで落下する。その勢いで、変身も解除された。

 

「……お前を倒す」

 

 ザナドゥは蓮の花を空中に生成しながら、それらを段にしてたっ、たっ、と飛び移り或人のいるホールの下層まで降りて来る。

 

「今日のこの日が駄目なら、明日上手くいくよう今頑張るしかない。明日駄目なら明後日、明後日駄目なら明々後日……!」

 

 信者達を、身勝手、自分本位と罵りながらも、

 

「俺には『教祖』としての責任があるんだ!!」

 

 彼らがこの場に託した想いを無下にすることなど、”フツ”には出来る筈もなかった。

 

「『それじゃあいよいよ、スクールアイドルの登場です!』」

 

 会場の方では、パフォーマンスが始まろうとしているらしい。

 

「教祖の責任、か」

 

 或人の眼に、迷いはない。

 

「……皆の夢の為に?」

「俺の夢の為でもある」

「俺と、またコンビが組めたらって?」

「ああ」

「だったら……」

 

 或人は息を吸い、

 

「またやろうよ! 俺達で!」

 

 一番言いたかったことを、伝えた。ザナドゥは一瞬驚くが、すぐにハアッと息を吐く。

 

「できるかよそんなモン!」

「できるって! やりたかったんだろ!?」

「やりたいかどうかとやれるかどうかは別だろうが!! 今のお互いの立場考えろバカ!!」

「バカって何だよ!」

「バカだからバカって言ったんだよばーか!!」

 

 或人にはわかる。

 ザナドゥは、仮面の下で───泣いていると。

 あるいは、その心が。

 

「……俺が止める。絶対に」

「やれるもんならやってみろよ。体育も俺の方が成績良かったよなあ、オイ」

 

 或人は答えず、

 

“JUMP……!!”

 

「とっておき」を起動させた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「くだらない……!」

 

 ランペイジレイダーはクラッシングバッファローの力で突進をかけるが、バルキリーは飛び上がってすんでのところでそれを躱す。

 

「くだらないか?」

「当然だ! 耳障りで仕方が無いよ、何の疑いも持たずに……夢が素晴らしいものだと信じている子供の歌なんてなァ!」

「何の疑いも持たずに、夢を素晴らしいものだと思う……か」

 

 その言葉には思うところがあった。

 刃唯阿は元々ドライな現実主義者。ヒューマギアは道具だと思っていたし、夢夢夢夢とうるさい飛電或人のそのスタンスには辟易したこともあるぐらいだ。

 

「確かに、愚かさもある考え方だ。……けれど」

 

 だが、それでも。

 

「そういうのも、なかなか悪くない。今はそう思える」

 

 夢を見ること、何かを心に抱いて生きていくこと。その力の強さは、この一年で何度も目にしてきたのだから。

 ランペイジレイダーがまた何か言おうとした時、

 

 

     眼を閉じれば思い出す 故郷の景色

     それだけで優しくなれる あなたにも 誰にも

 

 

 歌声が優しく響き渡る。一番手は、エマ・ヴェルデ。

 戦場には音声のみの配信だが、会場では璃奈が趣向を凝らしたプロジェクション・マッピングで、映像と共に歌詞と曲名が立体的に映し出されている。

 曲名は……

 

 

『Evergreen』

 

 

     遠く離れたこの街 きっとそれは変わらない

     大地を吹き抜ける風 生きる人も

 

 故郷から日本に来て、故郷の素晴らしさと今生きる場所の素晴らしさ、その両方を胸に感じ歌い上げる歌。その歌は、同じように自分の世界とこの異世界、両方で生きる人間の夢を見る姿に感じ入った刃の心に染み入ってくる。

「はっ!!」

 ショットライザーを撃ち放ち、ランペイジレイダーに銃撃が飛ぶ。ランペイジレイダーも負けじと、ガトリングヘッジホッグでの強化ガトリングで辺りに弾を飛ばしまくる。

 激しい銃撃戦の中でも、歌は響く。

 この戦いをいつの間にか手を止め呆然と眺めていた信者の一人は、それが戦いを諫め両者とも包み込もうとする、慈愛の女神の声に聞こえた。

 

 

     どこまでも広がっている エヴァーグリーンと空

     降り注ぐ太陽も みんなを受け入れてくね!

     そんな風に抱きしめたい 誰の心も

     ねぇ、今 こんな願い

     込めて歌うの!

 

 

 バルキリーは思った。こんな時にそんな気持ちを感じるのは良くないかもしれないが……

 まるで草原の上に立ったように、清々しい気持ちだと。

 チーターの脚力で駆け出すとバルキリーは相手の隙を突き、蹴りを叩きこむ。

 この歌のように清々しい気持ちに皆がなれるよう、迅速に戦いを終わらせねばと。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     それぞれが描いている

 

(届いてる……? みんな! 刃さん!)

 

     大切なもの

 

(私、みんなに戦うより……)

 

     思いながら さあ踊ろう

 

(誰かの手を取ってほしい! みんなの心をぽかぽかにしたい!)

 

     La la la……

 

 エマは歌に乗せて、そう心で叫んだ。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「おい、何してんだよ」

 

 信者の一人は、動きを止めていたアバドンに声をかける。

 

「俺……」

「あ?」

「やめるわ」

「ああ?」

 

 アバドンは自分からアバドライザーを投げ捨てると、「LOG OUT」の文字を残し消失した。

 互いに顔も合わせず、それぞれの場所にいるが……エマの歌は、間違いなく彼の心を暖めたのだ。

 

(そうだろうな……!)

 

 バルキリーも同じように感じ入りながら、ショットライザーをトンファーの要領でランペイジレイダーに直接叩きこむ。

 

(私に夢は無い。だが信念がある。それは今も変わらない)

 

 ランペイジレイダーの強靭なボディに、少しずつ傷がついていく。

 

(だが今、心が暖かい。……きっとこれが、夢を持った時と同じような気持ちなんだろうな)

 

 

「刃さんの心も、ぽかぽかにしてあげられたらいいな……!」

 

 

 エマがかけてくれた何気ない言葉が、彼女の心で反響する。

 

(ああ……ああ!)

 

 心で叫びながら、ランペイジレイダーが反撃しようとするのを感じ、バルキリーは蹴りを入れて相手との距離を取った。

 ぐウ、とランペイジレイダーは唸る。

 

「舐めるなァ!!」

 

 ストーミングペンギンの竜巻で周囲のアバドンやレイダーを巻き込み、それらがバルキリーへと嵐の中の石の如くぶつかる。バルキリーはダメージを受け、地面に倒れ伏した。

 

「私には夢がある……! 叶えたい夢が!!」

 

 ランペイジレイダー───ジョンは、負けるかとばかりに己の心を叫んだ。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 会場ではエマの曲が終わり、照明が果林の高貴さと力強さを感じさせるロイヤルブルーに変わる。

 観客席の姫乃は、内心きた!とばかりに歓喜し手に持ったペンライトを握る手の力が強くなった。

 

(『Starlight』! 『Wish』! 今日の果林さんは、どんなクールな曲を見せてくれるんですか……!?)

 

 彼女がそう期待の声を心の中で響かせた時、

 

 

『Fire Bird』

 

 

 ラテン系の激しいイントロが響きはじめ、

 

「!?」

 

 クールさとは真逆、炎のように激しいフラメンコダンサーのような衣装を纏った果林が壇上に立った。

 

「今までとは違う朝香果林を、見せてあげるわ!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     瞳に焼き付けて

     炎のように踊る

     もう、狂おしいほどに

     誰にも消せない Dream

 

「今までとは違う……か」

 

 戦場にも響いた果林の声と歌声を聞きながら、バルキリーは立ち上がる。

 目の前ではランペイジレイダーが、バルキリーを倒さんと構えを取ろうとしている。

 

 

     汗が滴る 濡れた素肌に

     思うがまま体うねらせる

 

 

「私も勇気を出す時だ……」

 

 

     目が合うだけでまた加速する

     熱を増した夢は止まらないわ

 

 

 バルキリーは意を決し、

 

 

     もう籠の中の鳥はやめたのよ

 

 

“RAMPAGE HUNT!”

 全く新しい力を、解き放った。

 

     高く高く自由に空を羽ばたいてる

 

「……変身!!」

 

“ALL-SHOT-RISE!”

 

 アナザーランペイジガトリングキーの中に格納された、十種のライダモデルが解放される。そしてそれらは弾丸となり、周囲を蹴散らしながらバルキリーの身体へと着弾し──────

 

     熱く燃えたぎる翼に

     本気の舞をも乗せて

     胸に宿るこの魂

     共鳴して生まれるリズム

 

“Gathering Round! ランペイジガトリング!”

“バッファロー! ホエール! ライオン! ペンギン! パンダ! ヘッジホッグ! ジラフ! スタッグ! ホースシュークラブ! ジャッカル!”

 

 ファイティングジャッカルレイダー同様に黒を基調としながらも、獣たちに彩られた虹色の装甲を纏ったバルキリーが完成していた。ランペイジバルカン同様の重装甲ながら、バルキリー本来の機動性に合わせて軽量化が為されている。

 

 これこそ、”仮面ライダーランペイジバルキリー”。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     瞳に焼き付けて

 

(皆の期待に応える、最高の朝香果林も悪くない)

 

     炎のように踊る

 

(……けど!)

 

     もう、狂おしいほどに

 

(皆が予想もつかないような、新しい朝香果林はもっと悪くない!)

 

     誰にも消せない Dream

 

(私は常に、最高の自分を塗り替えていくから!!)

 

(……刃さんも、そうでしょう?)

 

 激しいダンスと、その気持ち。

 どちらの方が熱いかわからなくなるぐらいに、昂った空気。果林の発するその熱気に、観客も昂ぶりが止まらない。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「……技術者が技術剽窃か?」

 

 ランペイジレイダーは苛立ち紛れにバルキリーを睨む。

 

「今ある手札は全部切る、それだけのことだ」

 

 ランペイジバルキリーがそう答えた瞬間、

 

「消えた!?」

 

 バルキリーの姿が消える。ランペイジレイダーは当惑するが、

 

「ジョン様ァァァァ!! 後ろでスゥゥゥゥゥ!!」

 

 アバドンが叫び、ランペイジレイダーは振り向く。しかし、

 

「はあっ!!」

 

 バルキリーは信じられない速度で、振り向いた瞬間のランペイジレイダーに蹴りを連発して浴びせかけていた。

 ファイティングジャッカルのスピードに加えて、クラッシングバッファローとスプラッシングホエールの重みのあるパワー。

 加えてインベイディングホースシュークラブの堅固な装甲に覆われているため、ヒットするだけで重みと硬さがそのままダメージとなる。

 

「やるな……!」

 

 エキサイティングスタッグの能力で、ランペイジレイダーは全身から鋭い刃を現出させる。バルキリーの蹴りはこの刃とぶつかってダメージが相殺されはじめ、バルキリーは一度足を引っ込める。

 

「我々の桃源郷を……邪魔などさせるかァ!!」

 

 ダイナマイティングライオンのダイナマイトを、ガトリングヘッジホッグのガトリングで連続発射する形での爆撃に近い攻撃。だがバルキリーはこれを、

 

“ウェザーランペイジ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

         

         

         

         ジ ウ ェ ザ ー ブ ラ ス ト

 

 弾丸が放たれるとスパーキングジラフ、スプラッシングホエール、ストーミングペンギンの三つをかけ合わせた小型の嵐が巻き起こり、ランペイジレイダーの放った爆撃は全て上空へと巻き上げられ、そこで爆散する。

「何だと!?」

 

“ファイアランペイジ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

         

         

         

         ジ フ ァ イ ア ブ ラ ス ト

 

「はああああ────っ!!」

 

 今度はバルキリーが、ダイナマイティングライオン、スカウティングパンダ、ガトリングヘッジホッグをかけ合わせた最大火力弾をお見舞いする番だ。着弾した最大火力のものすごさに、ランペイジレイダーの装甲が一部吹き飛ばされる。

 

「まだ……まだァ!!」

 

 ランペイジレイダーはスパーキングジラフの電撃を腕に纏って殴りかかるが、バルキリーはこれを腕の装甲でがしっと受けた。電流が流れダメージはあるが、それでもこれが有効な防御だ。

 

「諦められるか……!! 夢叶う場所を!! 私達の希望を!!」

「どんな夢かは知らない。……けれども」

 

 バルキリーは膠着状態から、蹴りを相手の腹に思い切り見舞って距離を取る。

 

 

     時がどんなに経とうと

     灰と化すことなんて無いわ

 

 

「その夢の為に、夢あふれる今のこの世界を消させるわけには……いかないんだ」

 

 

     瞳を閉じたらそこに感じるもの

     さあ私と……!

 

 

“オールランペイジ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

         

         

         

         

         オ ー ル ブ ラ ス ト

 

 十種のライダモデルすべての力を結集させて、銃身が焼けつくかと思うほどのファイアランペイジを越える最大火力。

 その反動を抑える為、ランペイジバルカンよろしく背中にはファイティングジャッカルのテリトリーサイズ型のオーラが現出し、地面に突き刺さることで安定を与える。

 かつて望まぬ形で振るった武器が、今は彼女を守るかのように。

 放たれた最大火力は瞬く間にランペイジレイダーとその周りのアバドン達を吹き飛ばし、全員のアバターを爆発と共に完全消滅させる。

 レイドライザーやアバドライザーの残骸が散らばり、バルキリーの目の前に転がってきた焼け焦げたジョンのアナザーランペイジガトリングキーが、音を立ててショートし砕け散った。

 

「やったぞ……!」

 

 遠く離れた学園でライブという心の戦いを繰り広げるスクールアイドル達に思いを馳せながら、バルキリーはその勝利を噛みしめた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「逃げられない……みたいじゃん」

「その通りだ。我々は1000%の力で、お前達を止めるからな」

「その言い回しイタいんだよ、オッサン」

 

 バリーの本体の女は、自分の所に駆けつけてきたサウザーを睨みながら憎まれ口を叩いていた。

 

「まさかあの生意気な小僧の正体が、女だったとはな」

「……だったら何? ボクが女なら見逃してくれるっての?」

「まさか」

「だろーね」

 

 ハッ、と息を吐き、女は近くのアバドンに声をかける。

 

「おい、お前」

「あ? 俺っすか」

「一回声かけたらわかれよそーだよ! お前のアバドライザー貸せ、ちょうどスラッシュだし」

「ええ……?」

 

 アバドンは嫌そうな声をあげるが、

 

「いいから貸せっつってんだろーがダボカスがよォ!! てめーの家特定してチンポ引っこ抜くぞ下痢グソが!! ボクは幹部だぞ!!」

 

 女はいらいらと生脚で小刻みにアバドンを蹴る。そのさまを見ながら、サウザーは”奇妙”だと思った。

 女の頭の左半分だけが、長く伸ばした髪で覆われている。だがそれはまるでファッションと言うよりも……その表情のわからなさが、ただひたすら頭の左半分を覆い隠したいように見えるのだ。

 瞬間、ぶわっと風が巻き起こる。バルキリーがランペイジレイダーの攻撃を巻き上げた、ランペイジウェザーブラストによる小さな嵐の余波だ。

 その風で、女の左半分の髪がめくれ上がり……

 

「うわッ!?」

 

 その下に見えたものに、アバドンが声を上げた。

 

「い……今の……」

 

 アバドンは目の前でしまった、という顔をしている女を見ながら声を震わせ、

 

「化け物……」

 

 ついうっかりと、思った通りにそう言ってしまった。

 サウザーも、目の前で見たそれに何も言えぬままだ。

 

「化け物?」

 

 女の中で、

 

「……よくも言いやがったなてめェェェェェェェ!!」

 

 何かが切れた。

 アバドンの腹からスラッシュアバドライザーを外した上に足をかけて転ばせると、彼女はそれで相手を突き刺し始めた。

 

「何がわかるんだよ!! ボクの何がわかるんだよてめェに!! 死ね!! 死ね!! 死ねよションベンチビリのヘナチンインポヤローがよォォコラァァ!! マジで死ねよ!!!」

 

 アバター相手に意味はあまり無いが、その突きは首、太もも、鳩尾と急所ばかり狙っている。アバドンはひいいィィィと声を上げるが、全くお構いなしだ。

 

「好きでこんな顔になったと思ってんのかよ!!」

「あ、あの」

「……思ってんだろ?」

「その」

「思ってんだよなあオイ!? 何か言えよアッパラパーが!! 何か言えつってんだろ死ねカス!!」

 

 またぐしゅっ、ぐしゅっ、と突き刺さる音がする。アバドンは耐えられず、自らログアウトしアバターが消えた。

 女は一瞬動きが止まるが、すぐにがあああああと衝動的な叫びを上げた。

 

「返せよ!! 返せ!! ボクの顔を返せ!! 仲間を返せ!! 親友を返せ!! 輝きを返せ!!」

 

 それはもう、誰かに言っているのではない。

 今この場でこうしている自らの境遇を呪う、憤りの叫びだ。

 

「ボクの人生……返してよぉ……」

 

 叫び疲れたのか、最後に弱気な本音が漏れた。

 

「……気は済んだか?」

 

 サウザーは同情するでも憐れむでもなく、ただ目の前の女を見ていた。

 

「……何か言えば?」

「別に。どうしてそうなったかは知らないし興味も無い。ただ今は……」

 

 

「『はーい皆さん! 世界でいっちばんかわいいかすみんを、見ててくださいね!』」

 中須かすみの声が、その場に響く。

 

 

「この世界が明日も夢を見られるよう、戦うだけのことだ。1000%の尽力で」

「……イラつくんだよ!!」

 

 

『無敵級*ビリーバー』

 

     Woh who-oh mirror on the wall

     Who who ほら笑って

     Woh who-oh mirror on the wall

     Believe in myself

 

 

「スクールアイドルなんて、大嫌いだ……!」

 

 女はそう呟くと、長く伸ばした左側の髪をずるう……と引っ張って外し、地面に投げ捨てた。

 ウィッグだ。

 代わりに懐に忍ばせていたシェイディングホッパーキーを取り出すと、

 

“SHADING HIT!”

“THINKNET-RISE! シェイディングホッパー!”

“────When You cloud,darkness blooms.”

 

 アバターではなく、生身でのアバドンへの直接変身。

 見せたくない自分の素顔を隠すための、”仮面ライダー”。

 

「うおおッ!」

 

 スラッシュアバドライザーで切りかかるも、サウザーはこれをサウザンドジャッカーでがっしりと受ける。

 一瞬力が拮抗するが、サウザーはすぐにジャッカーを上に振り上げてその均衡をずらすと、ジャッカーの先で相手の手元を突きアバドライザーを叩き落とした。

 

「……仮面を被る理由は、人それぞれだが」

 

 イジられ嫌われ、何かとうまくいかないこともあるが、

 

「現実から逃げる為に仮面を被った相手に、私達が負けるわけが無い」

 

 天津垓は、社長としていち組織を背負ったほどの男なのだ。

 巨大な責任を背負ったその経験値の大きさが、アバドンには威圧感のある強大な存在に見えた。

 

「私『達』?」

「そうだ。やり方は違えど……」

 

 

     この世界中でたった一人だけの私を

     もっと好きになってあげたい

 

Illustration by すずらん(@kiramori_s)

 

「私達はそれぞれの場所で戦っている! 1000%の力で!!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     Hey! Girl in the mirror!

 

(世界で一番かわいいって信じてるし、信じたい。信じてほしい!)

 

     鏡の向こう 笑顔の魔法かけよう

 

(いつだって今が一番かわいくて最高なかすみんを、皆に見てほしい!)

 

     とびっきりキュートに笑ってみようよ

     自信が湧いてくるでしょ

 

(だから歌うの!)

 

     顔上げて I’m a sweetie cutie braver

 

(かわいさ1000%でお届けする、パフォーマンスと一緒に!!)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 ()(みち) 巴美(ともみ)は、“主人公になれなかった女”だった。

 

 長野県の小さな温泉旅館の娘として育った彼女は、山をひとつふたつ越えれば東京だというのに、史跡や観光地、温泉と「よそから来た人を楽しませるもの」に溢れていながら、「自分たちが楽しめるもの」が少ない現状に年齢を重ねるごとに不満を抱くようになった。

 

「くるみそばもいいけど、原宿のクレープが食べた──い! んも~~~~!!」

 

 さりとて街が嫌いかと言えば、そんなことはない。

 緑にあふれ、前述の通り、よそから来た人が楽しんでくれる街。

 たくさんの人が街を楽しみ、良い街だ、楽しかった、素敵だと言いながらそれぞれの場所に帰っていく。

 小さな頃から旅館でずっとそういうものを見てきた彼女にとって、それは日常であり、年齢を重ねるごとにその素晴らしさがわかるものだった。

 

 やがて、彼女は高校生になった。

 地元の、素朴で可もなく不可もない”普通”の高校に、幼馴染二人と一緒の進学。

 

「トモちゃんは部活、何にするの?」

 

 明るく笑顔がすてきな阿久(あく) (ねい)は、新学期が始まって一週間ほど経った日の放課後にそう聞いた。

 

「何がいいかなあ……」

「巴美は中学も帰宅部だったからなあ」

 

 ちょっと気取ったところがあり王子様のようだと言われる小津(おづ) つぼみは、居住まいを正すペンギンのような所作で快活に笑った。

 

「だって家の手伝いあるしさ! つーちゃんこそどーすんの、やっぱり中学と同じで演劇部?」

「いや、私は……新しい表現にチャレンジしたい気持ちもあって、迷ってる」

 

 その日はそれで解散になった。

 巴美が家に帰ると、東京から女子高生のグループが泊まりに来ていた。どうやら自主的な合宿らしい。

 年齢が近いこともあって、彼女は夕食を部屋に運んだ際に自然と打ち解け、彼女達から色々と話を聞いた。

 

「スクール……アイドル?」

 

 東京を中心に、今や全国に広がる人気の部活。

 学生が曲を作り、ダンスを考え、アイドルとして切磋琢磨する。彼女達もまたその活動の一環として合宿に来ているのだと言うのだ。

 今まで聞いたこともない概念に、彼女は夢中になった。

 リーダーの緑川(みどりかわ)真乃(まの)の熱の入った解説もまた、スクールアイドルの世界へのわくわくを高めてくれる。

 

「これなんか見てよ、伝説である初代と二代目優勝校は当然として……”ラブライブ”の歴代優勝校の中でも特に凄いよ、”Aqours”は!」

『WATER BLUE NEW WORLD』。

 

 Aqoursが全国大会で披露し、優勝を飾った伝説のステージ。

 

「すごい……!」

 

 それからの巴美は、もう夢中だった。

 

 学校こそ廃校になったが、その伝説的なパフォーマンスと精一杯の努力によって、今も学校の名前は伝説として語り継がれている。青春の輝きは一瞬だが、それは語り継がれ、人々を魅了し続ける。

 加えてAqoursの高海千歌が、自分と同じ旅館の娘だというところも親近感が湧いた。

 

「やろうよ、スクールアイドル!」

 

 寧とつぼみは最初こそ戸惑ったものの、幼馴染の今まで見せたことの無い熱意にあてられ、自分達もやってみるかとそれに乗った。

 

「スクールアイドル部、ね」

 

 三年生で生徒会長の江戸(えど)()みくは、三人の申請書に渋い顔をした。

 

「やめておいた方がいいわ」

「……どうして?」

「どうしてでも、よ。どちらにしろ、五人いなければ部としては認められないわ」

 

 侃々諤々の末、三人はとりあえず勧誘活動として一度体育館でライブをする約束を何とかみくと取りつけ、懸命にその準備に明け暮れていった。

 

「やーやーやってるねえ! 君達一年生の頑張りに、お姉さんは敬意を表する! 校内一の情報通、新聞部二年の相津(あいづ)パメラとはお姉さんのことだよ!」

「取材したいって言ってたの、先輩ですか……?」

「そーそー、キラキラした名前だから覚えやすいでしょ? 覚えてねぇぇ~~! パメラがキャメラ構えてやってくる、でひとつよろしく!」

 

 アメリカ人とのハーフの、騒がしいその二年生にライブの宣伝用の取材記事を書いてもらった後、巴美は聞かされた。

 生徒会長には双子の妹がいてスクールアイドルを始めようとしていたが、彼女が事故で亡くなった為に意図的にスクールアイドルを避けているのだ、と。

 

「ホントはこういうの、他人が勝手に話しちゃダメなことなんだけどね。ただ、生徒会長がただいじわるしてるだけじゃない、ってのは解っておいてほしいかなって」

 

 その話を聞いて、巴美は、みくの心に寄り添いたいと思った。

 

 そして迎えたファーストライブは、パメラの記事もあって新人にしてはなかなかの成功、と言える出来で終わった。しかしながら、三人で完成しすぎているのでは?と観客に思わせてしまったこともあり、部員は一人もやってこないという厳しい一面もあった。

 

「パメラ先輩! ……一緒に、スクールアイドルやりませんか!?」

「いや数合わせじゃんかさー! お姉さん都合の良い女になるつもりはないんだよなあ~~!」

「それは違うさ」

 

 つぼみがいつになく真面目に言った。

 

「巴美だけじゃない、私達は皆思ってる。一緒にファーストライブを盛り上げてくれた先輩と、楽しくスクールアイドルがしたいって」

 

 その後、押したり引いたりの問答と、寧が作ってくれた新曲を目にした末に……

 

「……しょーがないなあ! 君達にそこまでされてそこまで言われたら……もう断れないよ!」

「言っとくけど、お姉さんは君達のファン第一号で、ファンでいたかったんだからね? 三人で完成してるって思ったのは私だってそーだし!」

「これからは、パメラがキャメラ構えられる側になっちゃうなあ~~!」

 

 パメラを仲間に加えた後の、最後の一人は決まっている。

 

「……生徒会長! 一緒に、スクールアイドルやりましょう!」

「……いいえ、私は」

「妹さん、でしょう?」

「!!」

「亡くなった人の気持ちは誰にもわからない。妹さんはスクールアイドルを続けてほしいと思ってるはずです、なんてボクには言えない。……でも!」

 

 巴美はみくの両肩を掴み、

 

「生徒会長はどうなんですか!? 本当の本当に、スクールアイドル、やりたくないんですか!?」

 

 そこからはもう感情の洪水だ。

 やりたくなかったわけじゃない。やりたくないわけがない。

 ただ、妹は志を果たせなかったのに自分が楽しんでいいものかと、そう思っていたのだ。

 

「本当の本当の本当は……やりたい! あの子が見られなかった景色を私が見たい! 何より、私自身の輝きを追いかけたい!」

 

 そうして、五人はひとつのグループになった。

 地元で何度もライブを行い、ラブライブ出場に向けての練習を重ねた。ネットに上げた動画はそこそこの評価を得て、県外にもファンが増えてきた。

 

「ボクたち……”I(アイ) dea(デア)”です!」

 

 英語で発想を意味する”idea”と、ラテン語で女神を意味する”dea”をかけ、”I(私は) dea(女神)”と名乗りを上げる。それはかつて伝説を作った、”9人の女神”への挑戦でもあった。

 小学生のころから何となくクセになっていた巴美の”ボクっ娘”なところも、新鮮で蠱惑的だと密かに話題になった。

 元よりショートヘアが似合い中性的な魅力のある彼女は、男女を問わず人の心を虜にした。

 

「巴美ちゃーん!」

「うわあ~~! 来てくれたんだ!」

 

 その日は、地元の秋祭りの日だった。

 巴美にスクールアイドルの素晴らしさを教えてくれた東京のグループとも交流が生まれており、リーダーの真乃が秋祭りのステージに出るIdeaを応援しようと声をかけわざわざ足を運んでくれたのだ。

 

「最近すごい調子良いじゃん! 半年でここまでになるなんてね!」

「ありがとう! スクールアイドルランキングもぐんぐん上がっていってて……!」

「いつの間にか、うちら抜かされちゃったもんねえ」

「あっ、その……」

「いやいや気にしないで! スクールアイドルは食うか食われるかだからさ!」

 

 そして、ステージの時間がやってくる。

 

「トモちゃん、緊張してる?」

 

 寧。

 

「ねいちゃんこそ」

 

 巴美。

 

「ははは、二人とも大丈夫か?」

 

 つぼみ。

 

「お姉さんが背中をさすってあげよう! ほーら大丈夫だ大丈夫だ~~……」

 

 パメラ。

 

「その、終わったら……一緒に出店、回りましょう?」

 

 みく。

 

 奇跡のように出会った五人の、何気ない、他愛もない会話。

 

「ボク……皆と出会えてよかったな、って」

 

 巴美はその多幸感に、思わず言葉が漏れる。

 

「まだラブライブへの出場だってあるのよ?」

 

 みくが巴美の額をつん、とつつく。

 

「幸せ最高潮、って気分になるのはまだ早いって」

 

 寧が相変わらずの良い笑顔で笑う。

 

「みくさんの卒業までに、この五人でもっと思い出を作りたいな」

 

 つぼみがキメ顔でポーズを取りつつ言う。

 

「写真もいっぱい残さないとねえ! パメラのキャメラがキャパオーバー!」

 

 パメラは相変わらずのおどけっぷりだ。

 

「皆でやろう! このすてきな街を盛り上げて、好きになってもらうスクールアイドル……I deaで!」

 

 巴美がそう宣言し、五人はこれからの未来を誓い合った。そして、ステージに立ち……

 

「皆さん、お祭り楽しんでますかー!?」

 

 その瞬間、

 

「ボクたち、アイd……」

 

 すべてが、霧散した。

 

「……え?」

 

 目が覚めた時にはICUだった。

 身体が動かない。動かせない。

 何が起こったのか、どのぐらい時間が経ったのか、それさえわからない。

 

 何より、左側の視界が真っ暗だ。包帯で処置が施されている。

 

 彼女は乾いていた。飢えていた。

 喉や胃の腑よりも、情報に飢え、乾いていた。

 

 やがて病室に来た看護師と医師からもたらされたのは、情報に乾いた体には刺激の強すぎるヘドのような味の情報だった。

 

 I deaがパフォーマンスを行おうとした瞬間、屋台で調理の為に使っていたガスが原因で爆発事故が起きたのだ。

 

 爆発を起こした屋台のすぐ近くにあった彼女らのステージは崩れ、つぼみとみくは機材の下敷きになり胴体がグシャグシャに潰れて即死。

 パメラは寧をかばい、その勢いでステージから転がり落ちたところで頭にスピーカーが落ち、柘榴のように弾けた無惨な姿となって息絶えた。

 寧は生き残ったものの、爆発のショックと目の前で自分をかばったパメラの無惨な死体を見て精神の均衡を崩し、ちょっとの物音でも大騒ぎし暴れる状態が続いていた。

 そして──────

 

「いやっ!!」

 

 巴美はステージから落ちて気絶し全身の骨を折った後、燃える屋台に顔の左半分から肩にかけてを焼かれた。

 手鏡を見た彼女は、恐怖と絶望で鏡を投げ捨てた。

 

 毛根まで焼け、毛の一本すら頭の左半分には残っていない。

 肌も皆焼け焦げて筋肉が丸見えになり、ところどころ黄色い汁が染み出ている。

 唇が無くなり歯の丸見えになった口からは、せき止める術も無く涎が垂れ続けていた。

 形成外科のドクターが植皮、口唇成形など手を尽くしてくれたが、それでも二度と人前に……ましてや、スクールアイドルなどもう二度とできない顔になってしまったのだ。

 

「なんで……!! なんで……!! なんでぇぇっ……!!」

 

 幸せの絶頂にいたはずなのに。

 これからもっと、最高の物語を紡いでいけたはずなのに。

 その全てを、喪ってしまった。

 加えての不運は、この件でわかった巴美の特異な体質だった。

 植皮に対しての拒絶反応が強く、何度移植しても定着せずグズグズに崩れてしまう。剥き出しになった筋肉の表面が少しずつ突っ張って、外気に触れた時の刺激が気にならなくなり始めた。

 一度院内ですれ違った小学生に顔を見られ、「人体模型が歩いてる!!」と驚かれた時のショックは言葉にしようもない。

 大学病院に転院して形成外科の権威と言われる医師にも診てもらい、手術と植皮も入念に準備を重ねてもらったが、結果は同じことだった。医師は巴美の体質を非常に珍しい症例として、論文にまとめさせてくれと頼みこんできた。

 それ自体はまあ良かったが、

 

「この症例を元に研究を重ねていけば、いずれは同じような体質の人の治療もスムースに行えるはずです」

 

 “いずれは”? 

 “同じような体質の人”? 

 何を言っているのだ。

 治してほしいのは、“今”、他でもない“ボク”なんだが。

 

 ボクはどうなるんですか、とは怖くて聞けなかった。

 体質的にどうしようもないです、とはっきり言われてしまうのが怖かった。医師もそれは察していたのか、根気よく続けていきましょう、定期的に診せてくださいという形で落ち着いた。

 何より嫌なのは、この顔で過ごすことが少しずつ”日常”になりかけていることだった。長い髪のウィッグを買ってもらい、それを着けて隠すことで何とか誤魔化している。いっそのこと『犬神家の一族』の犬神佐清のようなマスクでも被るかと思ったが、右半分はきれいであどけない顔のままの為それも躊躇ってしまうのだ。

 

 学校には行かなくなった。行けるわけがなかった。

 友達も、仲間も、やりがいも、何もかも喪ってしまったのだ。この顔を理解してくれる人なんて、もういないと。

 家に帰ってからは、ひたすら事故のことを調べることに時間を費やした。自分達にどうしようもない理不尽を押しつけた原因は何なのか、知りたかったのだ。

 そして調べる中で、

 

「真乃ちゃん……!!」

 

 巴美にスクールアイドルのすばらしさを教えてくれた、緑川真乃も爆発に巻き込まれて亡くなっていた。

 彼女はまたひとしきり泣いたが、事故の原因が物的証拠の焼失により不明瞭となり真相不明のまま終わろうとしているとわかると憤った。

 

「絶対に……はっきりさせなきゃ!!」

 

 事故の真相を調べようとしていた矢先だった。真乃の妹の梁子(りょうこ)が、わざわざ巴美を訪ねてきたのだ。

 梁子は巴美の顔を見るとヒッ、と声を上げ───

 

「ごめんなさい!! ごめんなさい!! お姉ちゃんのせいで、ごめんなさい!!!」

 

 それだけ言うと、大声で泣き始めた。

 

「……どういうこと?」

 

 そこから梁子は、残酷な真実を語って聞かせた。

 

 真乃は、素人だったはずなのに急成長を遂げ、スクールアイドルランキングで自分達を追い抜かしたI deaを疎ましく思っておりよく愚痴をこぼしていたのだ。イナカもんのクセにチョーシ乗ってる、と。

 そして真乃の没後、彼女の部屋やPC、スマホを整理していた時、梁子は見つけてしまったのだ。

 ガスボンベに細工して軽く爆発させる時限装置を、真乃が一生懸命に調べていたことを。

 ホームセンターでその為の道具として挙げられていたものを買い込んだレシートが、部屋から見つかったことを。

 

「じゃあ、真乃ちゃん……」

「どうなってもいいから、とにかく皆さんのステージを台無しにしたいって思って長野まで出かけていったんです。きっと」

 

 調べていた内容からして、ステージの近くの屋台をひとつ吹き飛ばしてステージを壊そうとしていたのが目論見のようだった。人がまだそこそこいたことを考えると、誰がどうなるかも気にせずに実行に移したのだろう、と。

 結果として時限装置を仕掛ける際に失敗したうえ、勢いが強すぎて誘爆し真乃自身も命を落とすことになったのだけれども。

 

 梁子を責める気にはなれなかった。彼女もまた、姉が人殺しも辞さずにそんなことをしようとしたという事実に押しつぶされ、苦しんでいるのだ。

 

 しかし、巴美自身の気持ちは別だ。信じていたはずの友達に裏切られた結果が、これだというのだから。おまけに本人が死んでいては、もうどうしようもない。

 

 梁子はすでに警察に姉の部屋にあった情報を伝えていたが、爆発した屋台と近くにあったものはほとんどが燃えてしまい、「時限装置を仕掛けようとして爆発した」という事実の立証は困難ということだった。

 

 ガスボンベの残骸などは再検証が行われそういう細工の形跡は見つかったとのことだったが、真乃がそれをやった、ということまでは証明できないとも。

 爆発した屋台のすぐ近くにいたことも、そういったものの作り方を調べていたという事実も、あくまで状況証拠にすぎない。

 

 警察としても一度ガスの状態不良での事故と片づけてしまった以上、蒸し返して余計な仕事をしたくないというのが本音らしかった。

 

 誰を恨めば、何を恨めばいいのかもわからない苦しさが、巴美を狂わせた。

 決定的だったのは、配信された翌年のラブライブの決勝を観ていた際の優勝校の一言だった。

 

「全国のスクールアイドルみんなと向き合って、ぶつかりあった末の優勝です。……みんな、ありがとう!」

 

 “みんな”? 

 “みんな”って何だ。

 

 ボク達は、そこにはいなかったぞ。

 

 どうしてボク達は、その”みんな”の中にいないんだ? 

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 

 一年前までそこそこ話題になっていたI deaも、「不運にも事故に巻き込まれてメンバーが死傷した」という文字による情報だけで“消費”されてしまう。

 狭い日本そんなに急いで、とは言うものの、日本全国で毎日絶え間なく事故や事件が起こっている。人が死んだ事件や事故すら、当事者でなければそんな事件もあったね、程度のものだ。

 

 けれど当事者は、ずっと苦しみ続けるんだ。

 もう戻ってこないものに懊悩しながら、ずっと、ずっと、ずっと。

 

 苦しみ続けるんだ。

 

 高校は中退し、自宅で高卒認定試験に向けて勉強するようになった。

 両親は将来を悲観し腫れ物に触るように接するようになったが、インターネットでやり取りする事務作業、表作成のアルバイトなどで少しでもお金を入れて生きていきたいと巴美が提案した時には、わかったとその為の環境を整えてくれた。

 当面の目途は立ったが、世間への恨みは消えなかった。

 

 あの時爆発に巻き込まれなければ。

 

 もっと真乃と話し合って、彼女の中にあった恨みを取り除けていれば。

 

 たらればを口にしては、醜い顔と今の自分の境遇への恨みと怒りで部屋中を暴れまわる日が週に一度はあった。

 

 しかしながら、”スクールアイドルなんてやらなければ”という気持ちだけは、不思議とわいてこなかった。

 元はと言えば、スクールアイドルを始めたのがこの境遇の原因だというのに。その理由はと自問すれば、そんなもの答えは決まっている。

 

 

 楽しかったからだ。

 

 

 仲間と談笑し、ぶつかりあい、切磋琢磨し、夢を追いかける日々は、何にも代えがたいほどに楽しかったからだ。

 それがわかっているからこそ、それがもう二度と手に入らない事実が彼女に破滅願望を植えつけた。

 18歳になった頃、唯一生き残った寧が精神的に不安定な状態から抜け出せず、食事も取れず衰弱して亡くなったのもそれに拍車をかけた。もう死んでしまいたい。けれど本当は、生きてもう一度夢を見たい。そう悶々としていた時、彼女は出遭ったのだ。

 

「シンクネット……?」

 

 破滅願望を持つ者同士が集まる闇サイト。誰にも代えがたい破滅願望を持っていた彼女は、自然とそこに引き寄せられていた。信者達は皆、ハンドルネームを名乗ってそこに集う。

 巴美のハンドルネームは──────

 

 

「いいよねえこの明るいナンバー! 私もこんな曲作りたいなって!」

 

 寧は新曲のインスピレーションの助けにならないかと、わざわざレコードを持ってきていた。

 

「寧が洋楽好きとは知らなかったなあ」

 

 つぼみは感嘆しつつ、ノリの良い曲に合わせて軽く踊るしぐさを見せている。

 

「これ歌詞が結構悲しいんだけどねえ。お姉さん、バイリンガルだからそういうのわかっちゃうんだよなあ」

 

 苦笑しつつ、パメラはジャケットをつつっと指で弄ぶ。

 

「皆となら、どんな曲も楽しいわ。きっと」

 

 そう笑うみくの顔に、かつて背負っていた暗い影は無い。

 

「ねいちゃん、この歌手って誰だっけ?」

 

 巴美は問う。

 

「これ、歌ってるのはね」

 

 

 思い出されるのは、楽しかった夢の時間。

 

「ハンドルネームは──────」

 

 

「バリー・マニロウ! 『コパカバーナ』、いいよね!」

 

 

「『ボクは【バリー】。よろしくね』」

 

 こうしてテロ組織の幹部、バリーが誕生した。

 

 

 田道巴美は、“主人公になれなかった女”だった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     この世界中の全員がnoだって言ったって

     私は私を信じていたい

 

 

「簡単に言うな!!」

 

 流れてくるかすみの歌の歌詞に、バリーは激昂しながらサウザーと打ち合う。

 

「自分を信じるなんて、できるわけないだろ!!」

 

 アバドライザーの刃は時たまサウザーに刺さるが、サウザーはそれを物ともせず自らもジャッカーで相手を打ち据える。

 

「なんで……なんでぇ!」

 

 スラッシュアバドンは苛立ちの声を上げる。

 

「何度も言うが、君がどんなものを抱いてここまで来たのか……」

 

 サウザーは言いながら、

 

「興味は無い」

 

 ジャッカーの槍先を、スラッシュアバドンへと突き立てる。初めての生身での変身故か、スラッシュアバドンはその痛みを感じ声を上げる。

 

「私には”仮面ライダー”の力を手に入れた者としての責務がある」

「うるせえええええええ!!」

 

 一瞬の隙を突き、スラッシュアバドンはサウザーの胸の装甲とベルトの間のアンダースーツに刃を突き立てた。防刃を考慮して設計されてはいるがノーダメージとはいかず、ぐっ、とサウザーは声を上げる。

 

「あっ……あははははは!! どーだ見たかよオッサンが!! 死ねよ! ボクの夢の為に死ね!!」

「……夢を見るというのも、悪くないものだ」

「……あァ?」

 

 サウザーは不意のダメージに息を切らしつつも、

 

「飛電或人を見ていると、そう思えてくる。だが……」

 

 これだけは伝えねばと、

 

 

     長い夜明けて 朝目が覚めたら

     新しい私に出会えるはず

     今日より明日の自分のこともっと

     大好きになっていたいんだ

 

 

「人の命を奪って、世界を滅ぼしてまで叶えていい身勝手な夢など、あるはずがない!!」

 

 声を張り上げた。

 それは夢を信じるに辺り、天津が掲げたひとつの矜持でもあった。

 

「てめえに何が……!!」

 

 そう言いかけた時、スラッシュアバドンは固まった。彼女は思い出したのだ。否──────思い出してしまったのだ。

 

「いつの間にか、うちら抜かされちゃったもんねえ」

「いやいや気にしないで! スクールアイドルは食うか食われるかだからさ!」

 

 “犯行”前に、真乃が口にしていた言葉を。

 そうだ。そうだ。

 今の自分は、同じじゃないか。

 人の命を奪ってでも、自分の夢を叶えようとして───巴美の夢と人生を奪った真乃と。

 

「うっ……」

 

 しかし、それでも。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 彼女にはもう、目の前の相手を倒す以外に道は無かった。立ち上がりがむしゃらに向かってくるが、サウザーはそれを見据えたまま……

 

 

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       THOUSAND DESTRUCTION

               ©ZAIAエンタープライズ

 

 プログライズキーを押し込んで飛び上がると、空中からスラッシュアバドンに連続キックを叩きこんだ。

 プログライズキーの必殺技モードでの出力強化を受けたキックは強烈であり、スラッシュアバドンの変身は解除され巴美は地面に転がった。

 

「まだ……まだだ……」

 

 巴美は転がり落ちたシェイディングホッパーキーを息も絶え絶えに拾おうとするが、サウザーはそこにジャッカーを突き立て完全に粉砕する。

 ああっ、と絶望の声を上げた巴美だったが、そこにサウザーが目線を合わせるように身をかがめた。変身を解き、天津垓として彼は目の前の女の眼を見る。

 

「ボクを……ボクを見下すな!!」

「私がいつ、君を見下した?」

 

 天津の返答に、巴美は一瞬言葉に詰まる。

 

「……色々あったんだろう」

 

 天津は巴美の顔面に目を向けた。巴美はまたカアッと頭に血が上る。

 

「色々って何だよ色々って!! 何が解るんだよてめえに!!」

「ああそうだ! 私に君の事情など解るはずもない。知らないんだからな」

「じゃあ黙れよ……!!」

「だからこそ、私に教えてほしい。何があったのか。どうしたいのか」

 

 意外な天津の返しに、巴美は再び言葉に詰まった。

 

「人の命を奪って、世界を滅ぼしてまで叶えていい夢などあるはずがない。だが……そうしないやり方で何とか夢を叶えられないか。私に向き合わせてほしい」

 

 意外にも意外すぎるその言葉。だが、天津の目は真剣だ。

 

「なんで、そこまで……」

 

 巴美にはわからなかった。つい先ほどまで打ち合っていた相手に、何故ここまでの情を見せるのかと。

 

「シンクネットで人々が歪んだ力を得た責任の一端は、私にもある」

 

 天津は優しく言い含めるように、より腰を落とし巴美と目を合わせる。

 

「言っただろう。1000%の誠意を尽くすのが、仮面ライダーサウザーだと」

 

 天津は、自然と笑みを巴美に向けていた。

 

「君の夢にも、同じように1000%の力で向き合うだけだ」

 

 先のシンクネット事件の時に、天津はアバドン達を「所詮はアバターでしかイキれない烏合の衆」と切って捨てた。

 だが目の前で必死に叫び、あがこうとする巴美の姿に────彼は悟ったのだ。

 破滅願望に取りつかれ、シンクネットに出会ったばかりに道を踏み外した人間も大勢いると。

 

「罪は償わなければならない。だが……」

 

 天津はそっと、巴美の左の頬骨のあたりに指を添える。

 

「君だって、夢を見ていいはずだ」

「さっ……触んなよ!!」

 

 巴美は反射的に天津の手を払いのける。

 

「これだからオッサンはさ……! 距離感バグってんじゃねえの、ったく……!」

 

 驚きのあまり反射的に毒づくが、

 

「さわる、とか、さあ……」

 

 家族ですら腫れ物に触るかのように扱ってきた自分の顔に手を添えてまで、寄り添おうとしてくれている人が目の前にいる。

 その事実が、彼女に涙を流させる。気づけばシンクネットの幹部にまでなっていたが、ずっと”一人”だった自分に、手を差し伸べてくれた人がいたのだと。

 少しずつ流した涙はやがて堰を切ったように溢れ、嗚咽が山中に響いた。

 天津はただ、静かにそれを聞き、見つめていた。

 

(私にここまでさせたのは)

 

 

「『みんな、世界で一番かわいいかすみんを見てくれてありがとっ!!』」

 

 

(きっと、夢と自分を信じ続ける君のおかげだ)

 

 その出会いに感謝するかのように、天津はふっと笑った。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「それ!」

 

 迅は幹部と相対しないぶん、雑兵を散らすのに全力を尽くしていた。

 あれだけいたレイダーもアバドンもだいぶその数を減らしてきてはいるが、完全に倒しきるまで油断はできない。

 先のシンクネット事件の際にアバドンの一人だったベルがエスに反旗を翻し仮面ライダールシファーとなったように、雑兵とて状況によってはとてつもない存在になり得るのだ。さながら、チェスのポーンがクイーンに昇格(ランクアップ)するかのように。

 先程から流れてくる同好会の面々の歌声は、却って彼を戦闘に集中させてくれた。聞く者皆に希望を与えようとする彼女達の歌。それを耳にすることで、この世界の希望を守ろうという気持ちが沸々と湧いてくる。

 

『My Own Fairy-Tale』

 

     初めてお越しでしょうか?

     簡単にご説明します

     その前にお名前 お伺いします!

 

     眠ってばかりのストーリー

     夢を夢のままにしないように

     つくってきた国が この国なのです

 

 彼方のゆったりと優しい歌声が響き渡る。

 先のスクールアイドルフェスティバルで披露した『Butterfly』が妹の為に頑張る彼女としての歌なら、これは自分の為に、気持ちいい睡眠を楽しむ感情を表現する歌。

 

     ずっと言えなかったこと

     しょうがないと思ったこと

     全部忘れて もう迷わない!

 

     ようこそ夢の国へ!

     ルールはたった一つのフェアリーテイル

     お姫様のワガママ

     今だけ許してね?

 

     このメロディーにのせて

     みんな笑顔にさせてあげるの

     ありったけの気持ちで

     私はここにいるよ

 

「僕も……!」

 

 ヒューマギアを解放し、ヒューマギアの為に戦う。それが仮面ライダー迅だ。いや……仮面ライダー迅”だった”。

 人間との長い戦いを得て、今では世界の悪意を見張りながら戦う彼。その果てに守るものは、

 

「夢を持った……心だ!」

 

 それは誰の為でもなく、彼自身のそうしたいという夢だ。今彼方が、自分自身の気持ちを歌い上げるのと同じように。

 バトルレイダー達が何とか迅だけでも撃破しようと、短機関銃を乱射する。迅は飛びながらそれをいなしていたが、やがて弾のひとつが思い切りスラッシュライザーに命中した。

 迅はアッ! と叫ぶが、その瞬間変身が解除され彼は地面に叩きつけられる。人間ならば骨のひとつやふたつ折っていたところだ。

 

「撃て撃てェ!!」

 

 落ちてきた迅に悪意の群衆は追撃をかけようとする。

 迅はとっさの判断で横に転がりそれを避けたものの、再度装填しようとしたバーニングファルコンのキーは破壊されてしまっていた。だが彼には、

 

「借りるよ……! ゼロワン!」

 

“WING!”

 

 先程或人から預かっていた、フライングファルコンのキーがまだ残っている。

 彼は起動したフライングファルコンのキーを装填すると、スラッシュライザーのトリガーを引いた。

 

“SLASH-RISE! FLYING FALCON!”

"────Spread your wings and prepare for a force."

 

 フォースライザーで変身した迅とスラッシュライザーで変身した迅では、そもそも変身機構が異なるが故に同じ迅でも全く別物だ。

 フライングファルコンを用いてスラッシュライザーで変身した今の迅は、スラッシュライザー準拠のアンダースーツと装甲をまといながらも、カラーリングはフライングファルコン準拠の奇妙なつぎはぎ感のある姿となった。

 

「はッ!」

 

 迅は拳を周りのレイダーに叩きこむ。だが、その出力は通常の変身時よりずっと弱い。キー自体の性能が大幅に違う為それも無理のないことだ。

 

「ナメんなよ……!」

 

 クラッシングバッファローレイダーがパワーに溢れた一撃を叩きこむ。迅はぐっ、と声を上げるが、

 

 

『みんな~~……! 夢の世界へようこそ! 今日の彼方ちゃんは、わがままお姫様。みんなが笑顔でいられるこの時間が、ずっと続けばいいなぁ』

 

     今日という日が終わっても

     消えないおとぎ話

     ぎゅっと 守りたいの

     この歌と 煌めく景色

 

 

 彼方の声が、彼を奮い立たせる。

「僕だって……負けるわけにはいかないんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ウ  フ

            イ  ラ

             ン  イ  ブラスト

              グ  ン

                  グ ラッシュ

 

 迅は必殺技を発動し、急場しのぎの組み合わせながらも全力を込めたライダーキックを真正面のクラッシングバッファローレイダーに叩きこむ。

 放たれた矢のような超スピードで足先で相手を捉えたまま飛んで行き、その勢いに周りのアバドンとレイダー達も巻き起こったソニックブームで吹き飛ばしていく。

 最後は巨木に思い切りぶつかってその勢いが止まり、クラッシングバッファローレイダーは見事に爆散しログアウトした。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     このメロディーにのせて

 

(彼方ちゃんは、自分の大事なものも、自分自身も大事にしたい)

 

     みんな笑顔にさせてあげるの

 

(迅君も、そうしてみるのもいいと思う)

 

     ありったけの気持ちで

 

(自分を大事にできれば、自分の守りたいものももっと大事にできるはずだから……)

 

     私はここにいるよ

 

(ねっ)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「まさか、お前がシンクネットに入っていたとはな」

「……」

 

 バルカンの問いにも、郷は答えない。

「まあいい」

 

 意外にもバルカンは、それ以上の動揺は見せなかった。

 

「……止めないの?」

 

 郷は表情を崩さぬまま、バルカンに問う。

 

「何だ、止めてほしいのか」

「それは……」

 

 郷は一瞬言葉に詰まる。その瞬間、

 

「止めてほしいって思うぐらいだったら、こんな事今すぐやめろ!!」

 

 バルカンの喝が飛んだ。

 

「言ったはずだろうが、『前だけを見て突き進め』って! なのになんだ! 最後まで立派に戦った親父さんに、今のお前を見せられるのか!?」

 

 その言葉に、

 

「……勝手なことばかり言わないでよ!! 今こんなことになってるのは……不破さんのせいじゃないか!!」

 

 郷も、流石に感情が爆発した。

 

「……俺が?」

 

 意外な返答に、今度はバルカンが言葉を詰まらせた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 飛電或人達仮面ライダーの戦っている裏では、常にその世界の人間達が毎日の生活と人生を送っていた。

 

「ZAIAが飛電買い取って、ヒューマギア撤廃って……うちはどうしたら……」

 

 ちょうどお仕事五番勝負が終わりTOBが成立した頃、骨折した同級生を見舞いに総合病院に赴いた郷は受付にてそんな声を聞いていた。

 後で知った事だが、そう受付でこぼしていた男は病院の事務長であり、テレビのニュースに落胆していたのだった。

 

 ヒューマギアの完全撤廃と言っても、簡単な事ではない。

 

 元々人手が足りず危険も伴う医療の現場に真っ先に投入されたのが、ヒューマギアの社会進出の第一歩だった。

 実際、医療現場での課題の一つが一歩間違えば肝炎などの感染リスクのある採血針等による針刺し事故だが、ヒューマギアの進出によって件数は年々減少していたのだ。インフルエンザの時期なども感染性廃棄物の取り扱いをヒューマギアに任せることで、院内でのクラスター発生率もぐんと減少していた。

 医療用ヒューマギアは単に作業を行う以外に内蔵された機能でレントゲン撮影等も可能とする為、人間の看護師、放射線技師、理学療法士、検査技師等の雇用の見直し、医療機器の購入機会検討の見直しなどがだいぶ進み、新しい体制での医療が整いつつある矢先に全廃などになれば多大な負担がのしかかってくる。

 家に帰る道すがらでも、郷はヒューマギアの撤廃による嘆きと焦燥の声をあちこちで聞いた。彼はそんな世の中を見て、不謹慎ながら少しばかり誇らしかった。

 

(お父さんが作っていたものが、こんなに世の中を支えてたんだ……)

 

 郷自身はまだ中学生故にヒューマギアの恩恵といってもわずかなものだったが、それでもその存在の大きさは感じていた。彼にとっての懸念はただひとつ。

 “滅亡迅雷.net”の存在だ。

 父が最期に戦ったのは、工場を占拠しヒューマギアを暴走させた紫色の怪人だった。

 それこそが昨年末まで世間を騒がせたヒューマギア暴走テロ組織、滅亡迅雷.net側の存在であると知ると、郷はその存在が許せなかった。

 父の仇であり、なおかつ父が誇りとしていたヒューマギア事業に対する侮辱であるからだ。

 

 しかし、彼の希望と信頼は少しずつ打ち砕かれていく。

 

 飛電或人と滅の決戦が近づくにつれ、滅亡迅雷.netの呼びかけに応じ自発的に人間に敵意を向けるヒューマギアが出始めたのだ。

 父が工場長として作っていたものに連なるもの達が、人間を害しようとする。

 そんなことがあっていいのか。

 混乱が広がる街中を彷徨っていた時、郷はヒューマギアに襲われかけた。

 

「人間だ……!」

「人間は……皆殺しだ──!!」

 

 郷は必死に叫び、マギア化したヒューマギアから逃げた。

 最終的にヒューマギアの体躯では入れないようなビルとビルの隙間を通って命からがら逃げおおせたものの、彼の心が晴れるはずも無い。

 

「なんで……!! なんでぇ……!!」

 

 ヒューマギアは人類の夢では、誇りではなかったのか。そんな中で飛電或人がアークとなり、ヒューマギアと戦おうとしていると聞きつけ、彼の心はさらに揺れた。

 或人とは父の死の真相を突きとめに行った時の短い付き合いではあるが、ヒューマギアを信じヒューマギア事業をさらに広げようとしていた筈だ。

 そんな彼が、ヒューマギアと戦争を繰り広げようとしている。もはや郷には、何が信じるべきものなのかわからなくなっていた。

 飛電或人と滅の戦いが収束し、新しい第一歩が踏み出されたと世間で喧伝されても、彼にはよその世界の話のようにしか聞こえなかった。

 段々と世間に疲れていた時に、シンクネットの存在を知り少しずつ顔を出す頻度が増えていった。だがまだこの時は、彼は世界を滅ぼしたいだのヒューマギアを滅ぼしたいだのといった危険な思想は持ち合わせていなかった。

 

 しかし、決定的な世界との断絶は突然やってくる。

 

 休日に街へ出た日、彼はまたマギアに襲われた。電源オフも無しに数ヶ月以上動かされていたプログラマー型ヒューマギアが、自発的に人間への殺意を芽生えさせ街に繰り出したのだ。彼はまた、なぜ、なぜだとヒューマギアの存在の意味に苦悩していた。

 

 その時だった。

 

「……やめろ!」

 

 地面に倒れ込んだ郷に追撃をかけようとしたマギアの拳を、止めた者があった。

 郷は助かった、と思い感謝の言葉を述べようとしたが、その姿を見た瞬間固まってしまった。

 

 紫で彩られたアンダースーツ。

 己を縛り上げるかのような、鉄板をワイヤーで括りつけた意匠の装甲。

 ぎらぎらと光る、黄色い複眼。

 

 あの日デイブレイクタウンで見た、滅亡迅雷.netの戦士が、そこにいたのだ。

 

「人類の悪意で、また暴走するヒューマギアが出たか……! だが!」

 

 戦士────仮面ライダー滅はそう言いながら、

 

「この世界の悪意は、俺達が見張り続ける」

 

 手にした刀でマギアを切りつけると、その機能を止めた。

 

 郷の頭を、これまで以上の疑念が支配する。

 

 滅亡迅雷.netとの戦いは終息したと言っていた。

 だのに何故、ここに滅亡迅雷.netのメンバーがいるのだ。何故自分を守ったのだ。何より、悪意を見張るとは何だ。

 自分の父を、人間を傷つけ、悪意を産み出す原因になったのは自分達じゃないのか。

 郷は思わず走り去ると、そっと物陰に隠れ滅の動向をしばらく見ていた。

 

「許せ」

 

 滅は変身を解き、マギア状態のまま横たわる暴走ヒューマギアを軽く撫ぜた。

 マギア化したヒューマギアを元に戻せるのは、ゼロワンの持つプログライズホッパーブレードだけだ。

 

「後は飛電或人に任せる」

 

 郷の心臓が早鐘のように鳴った。どういうことだ。

 ヒューマギアを製造販売する飛電インテリジェンスと、ヒューマギアを暴走させてきた滅亡迅雷.netに繋がりがあるというのか。

 

 だとすれば、工場を守った父の死は一体何だったのだ。

 

 そう思っていた時、

 

「よう、滅じゃねえか」

 

 不破諫が現れ、あろうことか親し気に滅に声をかけたのだ。

 

「不破か」

「また暴走ヒューマギアか?」

「ああ。人間の悪意で、ヒューマギア達が暴走を……」

「まあでも、助かってるよ。俺はこないだ1000パー課長に変身能力復元してもらったばっかで、まだ本調子じゃねえしな」

「暗殺がアークの器となった上に、アズがゼロワンに変身するとは思わなかったがな……」

「あの女もしぶといからなァ。また何を考えてんだか……」

 

 一体これはどういうことだ。

 

 まるで同士の如く、二人は語らっている。ヒューマギアに傷つけられた過去があり、ヒューマギアを憎んでいたのが不破ではなかったのか。

 ありえない事実と裏切りの連続に、郷はたまらずその場を駆けだした。

 駆けた。駆けた。駆けた。

 そして家に帰りついた彼は部屋に籠り、怒りと憎しみで叫んだ。声にならない慟哭を。

 

 世界のすべてが、自分と父の運命を嘲笑っているかのようだった。

 

 その後郷はよりシンクネットに入り浸ることとなり、フツの提案で異世界に出奔することとなる。

 幹部ユーザー、”ミンツ”と名を変えて。

 

「ヒューマギアは人を傷つける……! 人類の敵だ!!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

「……そうか」

 

“RAMPAGE BULLET!”

 

 バルカンは静かに、ランペイジガトリングプログライズキーを起動する。

 

“ALL-RISE! FULL-SHOT-RISE!”

“Gathering Round! ランペイジガトリング!”

“マンモス! チーター! ホーネット! タイガー! ポーラベアー! スコーピオン! シャーク! コング! ファルコン! ウルフ!”

 

 十種の獣のライダモデルがバルカンを貫き、各種プログライズキーの力を統合した最強のバルカンが姿を現す。

 意外にもバルカンは動揺も慈悲も見せず、最強の力での戦闘準備を整えていた。

 

「……はぁ?」

 

 郷は面食らっていた。だが相手に戦う準備がある以上、自分も戦わなければいけない。

 

“THINKNET-RISE! シェイディングホッパー!”

“────When You cloud, darkness blooms.”

 

 生身でショットアバドンに変身すると、彼はバルカンに向かっていった。

 まずはショットアバドライザーで牽制射撃し相手の注意を逸らそうとするが、バルカンは直立したまま腕だけでそれを跳ね除ける。

 ならばと向かった勢いで飛び蹴りを試みるが、バルカンはそれを掴み逆に地面に叩きつける。叩きつけられた直後にまた至近距離からの射撃を試みるが、これも全ていなされる。

 経験値も、実力も、桁が違う。

 

「何か……言ってよ……!」

 

 アバドンは懇願するようにそう言った。バルカンはここまで、変身して以降無言のままだ。

 怒っているのか、悲しんでいるのか、それさえわからない。

 

「何で何も言わないんだよ!!」

 

 アバドンは必死に飛び出すと距離を取り、バルカンと再び向かい合った。そこに、

 

『ドキピポ☆エモーション』

 

 璃奈の曲が流れて来る。アバドンはチッ、と舌打ちしてから、また牽制射撃を試みていった。

 

 

     おおお 思いを伝えることって難しい

     だけど 精一杯精一杯目一杯 あなたに届け

     なななな なかなか表には出せないけど

     喜怒哀楽してるエモーション

     大暴走の心拍数 ドキドキピポパポ

 

 

(ああ……その通りだ)

 

 バルカンの仮面の中で、不破は苦々しげな表情をしつつも納得していた。

 自分の行いが原因で誤解を生み、郷を傷つけた。かつて心を通わせたと思っていた相手の信頼を喪失してしまった。それに対して、何と言えばいいのかすぐには言葉が見つからない。ただひたすら、郷を止めねばという想いだけが先行しそうになる。

 

 

     いつか 素顔を見せる日がきたら

     そのときは笑顔で居たい

     電波に思いを乗せて ビビビのビーム

     あなたと繋がる心のネットワーク

 

 

 素顔では想いが伝えにくいから被った、璃奈ちゃんボードという仮面。

 けれど、その中に溢れる想いは本物で、素顔を見せる時は苦手な笑顔だって頑張りたい。

 天王寺璃奈は小さな体に渾身の力を込めて、自分の殻を破ろうとする姿を見せている。

 

「俺も……!!」

 

 不破はそんな力を受け取りながら、自分の想いを伝えるためにアバドンに向かっていった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     わくわくとまらない ウキウキ高鳴る

     あなたがいるから 素直になれるよ

 

(不破さんは今、戦ってるのかな)

 

     きらきら輝く あのステージで待ってる

 

(私も、私の『戦い』を……がんばる)

 

     どんな私でもありのまま

 

(もっとたくさんの人と繋がる為に……今までの私より、強い私になる!)

 

     新しい世界飛びだせる

 

(不破さんみたいに……!)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 いち特殊部隊の隊長を務めていた不破の元々のポテンシャルに加えて、ワンオフモデルの火力特化のバルカンのスーツを身につければその膂力はかなりのものだ。

 しかし、それと組み合ったアバドンは力だけならほとんど互角に渡り合っている。変身者は、ただの中学生だった郷だというのに。

 

 “量産型”を”劣ったもの”と考えるのは間違いだ。

 誰にでも使うことができ、一定の成果をあげられる“完成型”と言える。

 

 だが、体術の面ではやはり不破には敵わない。力を流されがっちりと関節技を極められそうになるが、アバドンはその度になんとかすりぬける。

 シンクネットにアクセスするために使っていたZAIAスペックが、関節技ががっちり決まる前に逃げられる動きをサポートしてくれているからだ。

 

「郷!!」

 

 バルカンは叫ぶ。

 

「……何だよ!!」

 

 アバドンは怒声で返す。

 その時、

 

 

     Hey! Hey! It’s my turn!

 

 

 愛の歌が、響いてくる。

 

『友&愛』

 

     話さなきゃ ずっと他人

     なら話さなきゃ もったいない

     もっと教えてよ君のこと

     好きな食べ物 好きなタイプとか

 

「すまねえ!」

 

 と言いつつ、バルカンは裏拳をアバドンの胸元に叩きこむ。

 

「……ッ! 今更謝るなよ!!」

 

 アバドンも負けじと、バルカンの顔面に拳を叩きこんだ。

 

(そうだよなあ……!)

 

 殴られた痛みを感じる間もない。不破はぐっと全身に力を込めた。

 

(話さなきゃ、何もわかるわけねえんだ)

 

 

     笑った顔大好きだよ 怒った顔も嫌いじゃない

     だけど出来れば笑顔がいい

     だから隣でおどけてみせるよ

 

 

 誰かに笑ってもらう為に、自分も笑う。

 それが、宮下愛だ。

 

 不破さんも笑ってみなよ、とは言われたが、簡単にはできることではない。変わっていくのは、少しずつ、少しずつ。璃奈が少しずつ、なりたい自分になっていくように。

 だが、決断すべき時も目の前の戦いも待ってはくれない。戦うべき相手──否、止めるべき相手である郷は、今そこにいるのだ。

 

「その通りだ! 今更謝ったって、今の状況は変えられない!」

 

 バルカンは素早くショットライザーを構え、二発三発とアバドンを撃つ。

 

「だったら……!!」

 

 アバドンもまた、アバドライザーで撃ち返す。

 

「けど、言わなきゃ何も変わらねえだろ!? 違うか!?」

 

 

     ずっとずっと 一番近くにいようね

     絶対絶対 離れないで

     どこまでもGO!!

 

 

「今の俺の姿がお前を傷つけた! それを本当にすまねえと思う!」

「滅亡迅雷.netと言葉を交わしててすまねえも何もないだろ!!」

「……それでも、だ!!」

 

 なかなか決着のつかない、攻撃と言葉の応酬。けれど、

 ──────何も話さないよりは、ずっと良い。

 良い歌詞だ、と改めて思う。

 

 話さなきゃ、ずっと他人。なら話さなきゃもったいない。

 

 どんなにこじれた関係でも。どんなに憎しみあっていても。

 言葉を交わさなければ、何もわからない。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     そうさYou & I いつもYou & I

     かなりYou & I ヤバめYou & I

 

(たくさんの笑顔が見たい! それはもちろんだけど……)

 

     つまり愛 愛 愛

     みんな友 友 友

 

(笑顔にしたいって思ってる人の笑顔が見られたら、もっと嬉しい!)

 

     だってI love you いつもStand by you

     かなりI need you だからStand by me

 

(不破さんが笑ったとこ、ちゃんと見てみたいな……!)

 

     Say!! 愛 愛 愛

     Come on!! 友 友 友

 

(また会えるよね? 一緒に、打ち上げしようよ!)

 

     ニコイチ!

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「俺のことが憎けりゃ憎めばいい! 謝ったって許してもらえるとは思ってねえ! だがなぁ!!」

 

“オールランペイジ!”

 

 バルカンは構えを取り、必殺技を起動させる。

 

「その為に、世界を巻き込むな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

         

         

         

         ジ オ ー ル ブ ラ ス ト

 

 十種のライダモデルが乱れ飛び、次々とアバドンに攻撃を仕掛ける。アバドンは最初は何とか対応しようとしていたが、やがて受けきれずダメージを受けてその場に倒れ伏した。

 

「郷」

 

 バルカンはすぐさま歩み寄り、アバドンを見下ろす。

 

「不破さん……僕は……」

 

 アバドンは圧倒的な実力の差と、不破にかけられた言葉を反芻し考え直しかけていた。

 しかし、

 

「それでいいの?」

 

「……アズ!!」

 

 いつの間にかアバドンの傍らに立っていたアズに、バルカンは怒りの声を上げる。

 

「あなたの復讐したい相手はすぐ近くにいるのに、諦めるんだぁ」

「何を言って……!!」

 

 バルカンは言いかけるが、アバドンが上体を起こし周りを見る、やがてその視線は、一点に固定された。レイダー達と戦う、滅の姿に。

 

「ほら、アーク様からのプレゼントよ」

 

 アズは何かをアバドンの上に落とす。アバドンは慌てて両手でそれをキャッチした。それは──────

 

「アサルトグリップ……!?」

 

 バルカンが驚きの声を上げる。しかし、考えてみれば合点がいく。元々アサルトグリップとアサルトウルフのプログライズキーは、衛星アークが生み出したもの。アークの使者であるアズが持っていても不思議ではない。

 

「そうだ……僕は……」

「おい待て郷!!」

「父さんを奪った、滅を倒したい!!」

 

 アバドンはシェイディングホッパーキーを引き抜き、それにアサルトグリップを合体させた。

 

“HYPER HIT! OVER-RISE……!”

 

 アバドライザーが読みこむと同時に、禍々しいオーラが彼を包み込む。そして、

 

“THINKNET-RISE! シェイディングアサルトホッパー!”

"──────No chance of surviving all HUMAGEAR."

 

 ゼロワンのシャイニングアサルトホッパーに相当する形態ながら、目を引くのはその禍々しさ。

 それも当然であろう。本来衛星ゼアの作り出したシャイニングホッパーと衛星アークの作り出したアサルトグリップの合作であったシャイニングアサルトホッパーと違い、こちらはゼアの善意の力による歯止めが存在しない。

 

 ただひたすら、悪意を貪り増幅させる為だけの形態だ。

 

 アサルトホッパーにも見られた全身の鋭角的な棘は、まるで刃物のように鋭く攻撃的なフォルムを持っていた。

 

「死ねェェェ!!」

 

 不破に絆されかけていた郷の心は、アズの後押しと滅を目の当たりにし再び悪意に染まっていた。

 滅の周りに群がっていた信者達をなぎ倒し消滅させながら、彼は滅と距離を詰める。

 滅はこれに気づき、アシッドアナライズを振り回してアバドンと距離を取った。その勢いによって距離は取れたものの、アシッドアナライズがかなり傷ついている。あの刃物のような鋭角的な棘のせいだ。

 

「おい滅!!」

 

 バルカンはその戦いを止めようとする。だが、

 

「来るな!!」

 

 滅はそう宣言した。

 

「俺が……やらなければならないことだ」

「黙れェェェェ!!」

 

 アバドンが叫びながら、毒々しい色の鈍い光のエネルギーを空中に現出させる。

 滅が息を吞むのと、それらがエネルギー弾を一斉掃射するのはほぼ同時だった。

 そしてそれらは、全弾滅に命中する。

 

「壊す……!! 壊す……!! 殺す!!」

 

 家族を慮外の悪意によって喪って、その下手人に等しい相手に怒りを感じるのは心ある存在として当然のことだ。それを悪意などと片づけられるのは、本来おかしい。

 飛電或人にとってのイズや、滅にとっての迅の事例にしてもそうだ。

 だがアズは────悪意の人工知能アークは、それをただただ”機械的”に、“相手の存在を抹消しようとする”という“悪意”と結論づけ、最終結論である人類滅亡の為に利用する。

 

「アーク……!!」

 

 シェイディングアサルトホッパーのシェードシステムによるエネルギー弾の一斉掃射を受けた滅は、一瞬両膝をつき、その場にうつぶせに倒れ伏した。

 シャイニングアサルトホッパーの持つシャインシステムのデータ自体はサウザーがお仕事五番勝負の際にジャッカーで回収していたが、そのデータは回りまわってこのアバドンに組み込まれたのだ。

 

「じゃあ、頑張ってね」

 

 ケラケラと笑いながら、アズは自分が利用し誕生させた悪意の塊たるシェイディングアサルトホッパーを満足気に眺めていた。

 

「おい待て!!」

 

 バルカンはその姿を掴もうとするが、掴んだと思った瞬間アズは消える。まるで亡霊だ。

 一方で滅は、一度に受けたダメージのあまりの大きさに人間でいう意識が朦朧とした状態に陥り欠けていた。

 

(ここで……滅びるのか……?)

 

 ヒューマギアに本当の意味での“死”などあるのだろうか、とは常々考えてきた。だがこの自分の思考がだんだんと鈍化しぼやけていく感覚は、死のそれに近いのではないかとぼんやりと思っていた。その時、

 

 

『あなたの理想のヒロイン』

 

  人気のない放課後の 廊下の隅 踊り場は

  私だけの舞台 誰も知らないステージ

 

  いつもの様にひとりきり 汗まみれの稽古中

  偶然通りかかった あなたに出逢った

 

 

 しずくの静かで、物語を朗読するかのような歌。

 彼女が歌うことができている。それが、嬉しい。

 いや待て。

 

 “嬉しい”? 

 

 自分は今、嬉しいと感じているのか。

 人間がただ、声を震わせて音程の強弱をつけて声を出すそれを為せているのが、嬉しいのか? 

 

 否。

 

 違う。違う。違う。

 違う!! 

 

 

  話すたび 胸の中 まるで喜劇を観終えた様な

  感情が溢れ出してくるの 幸せに包まれる

 

 

 そうだ。

 

 “声を震わせて音程の強弱をつけて声を出すそれ”ではない。

 

 これは“歌“だ。

 

 心をこめて、情熱をこめて、自分の中に溢れ出す感情を他人に届けるための表現。

 それが為されることが、嬉しくないはずがない。

 だって──────

 

 彼女の“心”を、守れているのだから。

 

「……ッ!! あ“ァッ!!」

 

 

  あなたの理想のヒロイン いつの日にかなれます様に

  アドリブが苦手な私を 素敵な シナリオで導いて

 

 

「なれる……! なれるとも!!」

「何を言って……」

 

 立ち上がりながら言った、この場にいないしずくの歌詞に込めた想いに応えるような滅の言動に、アバドンは困惑する。

 理想のヒロイン。随分とスケールの大きい言葉だが、そこにはもっと大きな意味が込められている。

 なりたい自分を思い描き、そこに向かって突き進む。

 それは、人間の可能性だ。

 滅はアシッドアナライズを鞭のように振るい、アバドンにぶつけて牽制し距離を取る。身体はきしみ、火花が散り、蒼いオイルが血のように噴き出す。

 

 

  繰り返し覚えた台詞も きっと目をみては言えないから

  ずっと側で ただの後輩を演じさせてください

 

 

 人間の大きな可能性だが、歌い上げる桜坂しずくの存在はか細く儚い。心は強いが、戦う力など彼女には無い。

 いや────そもそも、この世界に、人々が簡単に街中で戦うことができる力など持ち込まれるべきではないはずだ。それは勿論、シンクネットだけでなくヒューマギアも。

 だから滅は、立たなくてはならないのだ。戦わなくてはならないのだ。

 自分たちのような存在が、この世界から一刻も早く立ち去れるように。

 

「終わらせよう……! ここで!」

「……終わらせる?」

 

 アバドンは憤る。

 

「終わるのは、お前だけだ!!」

 

 再びシェードシステムを発動し、アバドンは空中へと舞い上がる。再びレーザーが照射され、滅の身体や地面が射抜かれた。

 そんな中でも、歌声は戦場に響き続ける。

 それでいい。それがいい。

 こんな醜い悪意のぶつけ合いなど、遠い世界のままでいい。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

  誰かを笑顔に出来る人になりたい

 

(届いてますか、滅さん)

 

(聞いてくれているみんなの心に届く表現を、私はしたい……!)

 

  でも一番はあなたを 笑顔にしたい

 

(勿論、あなたも!)

 

(あなたには……”心”があるんだから!)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ふンッ!!」

 

 手持ちの武器が用意できない滅は徒手空拳での戦いがメインとなるが、火力をメインにして遠距離攻撃を仕掛けてくるシェイディングアサルトホッパーの力を使うアバドンとはなかなか相性が噛み合わず、有効打を出せずにいた。

 

「さっさと死ねよ!!」

 

 アバドンはシェードシステムだけでなく、自ら構えたアバドライザーの銃撃もがんがん撃ち放ってくる。

 確かに滅を自らの手で仕留めたいと思うなら、その方が確実だ。

 滅は手さばきと体術でそれをいなしていたが、やがて一発が右肩を抉った。ぐっ、と声を上げ、ただでさえ満身創痍のところの一撃で倒れ込みそうになる。その時、

 

 

『LIKE IT! LOVE IT!』

 

     教室から飛び出した夢と

     全力で追いかけっこ

     たまに転んで空回りして、

     今は笑って話せるね

 

 

 せつ菜の力強く、元気な歌が響いてくる。

 せつ菜らしく、大好きと叫びたい気持ちを全力で届ける、まるでヒーローソングのような歌。

 

 

     空の高さは自分次第で

     自由に変えていけるんだって

     気づいたのはキミのおかげだよ

 

 

 そうだ。

 その通りだ。

 

「俺は……俺達の世界が、この世界が……」

「うるさい!!」

 

 アバドンはまた銃撃を放つ。

 

 

     もっともっとこの目で確かめたいんだ

     Here we go!

 

 

「この世界は……」

 

 滅は、言葉を紡ごうとする。

 

 

     Ah, Like it! I like it!

     彩り鮮やかな万華鏡

 

 

「この世界は……美しく、捨てたものじゃないと信じている!!」

 

 

     この世界があまりにも眩しくて愛しい

 

 

「お前はどうだ! この世界も、元の俺達の世界も、滅ぼしてしまっていいと思うのか!?」

 

 滅の心が叫ぶ。

 滅自身は、決してそうだとは認めないだろうが……

 

 

     I love it! I love it!

     無限大に広がる可能性を

     私が証明してみせるから

 

 

 滅自身が誰かと出会い、己の心を自覚し感じた────”大好き”を。

 

「何言ってんだよ……!! 家族を奪われて、怒らない奴がどこにいるんだよ!!」

 

 滅ははっとなる。

 その言葉は、その気持ちは。

 

「迅は……迅は俺の息子だった!! それを奪ったのはお前だ!!」

「家族を奪われて……怒らない奴がどこにいる!?」

 

 紛れもなく、滅自身も感じたものなのだから。

 迅はヒューマギアだ。今は復元され、滅と共に並び立てる。だが、郷の父は違う。人間の命は、どうやっても取り戻せない。飛電或人は人とヒューマギアに境目など無いというが、”違い”はあるのだ。

 

 

     どこまでも全力で叫ぼう

     ありのまま見せてよ キミ色

     Let's glitter! 止まらない!

 

 

「その通りだ……!!」

 

 言いながら滅は、ストレートパンチをアバドンに決める。

 

「お前の父親の命を奪ったのは俺だ! そうした俺を憎んで、滅ぼしたいと思うのは当然のことだ……!!」

「だったら!!」

 

 アバドンもそれに対し、拳で返す。

 

 

     気づいた日から1秒1秒

     刻まれてゆくメモリー

     なんてことない瞬間だって

     全部大切に感じる

 

 

「俺を滅ぼしたいなら、全力で俺に向かってくればいい!!」

「……!」

「訳もわからず人間を全て憎んでいた俺と、お前は違う」

 

 その通りだ。滅とは違い、郷は明確に倒すべき相手が定まっている。

 

「俺のいる場所にまで、自分から堕ちてくるな!!」

 

 何を言っても、加害者である滅が言えた義理ではないのかもしれない。それでも滅は伝えたかった。

 世界を滅ぼそうとしてしまえば、かつての滅と同じになってしまう。

 それはきっと誰かの大切な家族も滅ぼしてしまい、滅と同じように憎まれる存在になってしまうのだと。

 この悪夢の連鎖は、ここで終わらせなければならないのだ。

 ヒューマギアの自由を守るのが、滅亡迅雷.netの意志。滅自身が憎まれるのは、当然だ。だが、これからの未来を生きるヒューマギアが憎まれ滅ぼされるのは、避けなくてはならない。

 

 

     ココロの中 迷子になってしまう

     そんな時もあるよね

 

 

 郷の心に、不意にせつ菜の歌が刺さってくる。

 

 

     思い出して! 本当の気持ちを

     もっともっと自分を好きになれるから

     Here we go!

 

 

 本当の気持ち。

 本当の気持ちとは、何だ。

 

「これは最新型の事務作業用ヒューマギアです。お菓子の名前から、暫定的に”ミンツ”と名付けています……。業務をラーニングさせることで、仕事をサポートしてくれます。人工知能も最新鋭のものを使用している為、こちらとの会話も可能なレベルの知性を備えています。おはよう、ミンツ」

「『おはようございます、桜井工場長』」

「今日も、よろしくね」

「『はい、よろしくお願いします!』」

 

 思い出されるのは、工場長として商品説明のPVに出ていた父の姿。

 父が亡くなった時、郷はまだ2歳だった。覚えているものは全くと言っていいほどない彼にとって、生きて動いている父の姿を見られるのはそのPVだけだった。

 

 映像の中の父は、誇らしげに笑っていた。

 

 自分が携わったヒューマギアの存在によって────

 

「この世界は、もっと美しく、素晴らしいものになると我々スタッフ一同、信じています!」

「きっと私達の、良い仲間になってくれるはずです」

 

 世界をよくしたいと、信じていたから。

 

 

     Ah, Like it! I like it!

     響き合い重なるサウンド

     その笑顔があまりにも眩しくて愛しい

 

 

 今の自分はどうだ。世界をすべて憎み、滅ぼそうとしている。

 父の想いと、真逆のことをしようとしているのではないかと。

 だからと言って、復讐したいという想いが間違っているとも思えない。

 

 

     I love it! I love it!

     誰かが否定をしたとしても

     私は絶対味方だから

 

     どこまでも全力で叫ぼう

     ありのまま見せてよ キミ色

     Let's glitter! 止まらない!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

“ASSAULT CHARGE!”

 

 郷は必殺技を起動させる。アバドライザーにエネルギーが溜まっていき────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

         

         

         

         

         

         グ アサルトバースト

 

 増幅された悪意の塊のようなエネルギーが発射される。滅はそれに対し────

 

“スティングユートピア!”

 

          滅      殲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ス テ ィ ン グ

 

         ユ ー ト ピ ア

 

 

 アシッドアナライズを伸ばし、引鉄を引いてがら空きになったアバドンを拘束する。そして滅は、それを手繰り寄せた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

     何度も何度もときめいて

 

(聞いてくれていますか?)

 

     その溢れる感情は嘘なんかじゃないでしょ?

 

(この世界も、捨てたものじゃない。滅さんのその気持ちは、本物のはずです。例えヒューマギアだって……!)

 

     私もそうだよ。みんな同じなんだ!

 

(大好きって気持ちは、みんな一緒です!)

 

     自分にしか描けない空だ!

 

(その気持ちが心にあれば、きっと……!!)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「うおッ……!!」

 

 二つの必殺技がぶつかり起こった爆発に、バルカンは顔を庇った。爆炎と土煙がしばらく辺り一帯を支配するが、

 

「うっ……ああ……」

 

 爆炎が晴れ、そこには二つの人影があった。

 

 ひとつは、変身を解き満身創痍ながらも立っている滅。

 

 そしてもうひとつは、変身を解かれ地に伏す郷。

 

 郷はただただ、声をあげて泣いていた。眼前では、シェイディングホッパーキーとアサルトグリップが砕け散っていた。しかしその目は、壊れた道具などもう見てはいない。

 ただただ、滅を恨みのこもった目で見上げている。

 

「俺を滅ぼしたいなら、いつでも来い。逃げも隠れもしない」

 

 滅はそう告げる。

 

「悪いと思ってるなら……自分で死ねよ……」

 

 僅差での敗北に、郷は悔しさに泣き、地面を叩きながら呪いの言葉を吐く。

 

「それはできない」

 

 滅は悲しそうな目で、そう返す。

 

「ヒューマギアの自由の為に、俺達滅亡迅雷.netは戦い続けなければならないからだ」

 

 郷はまた泣いた。

 父の仇が、父が愛したヒューマギアに自由を与えようと戦っている。その矛盾は、これからもずっと彼の胸を締めつけるだろう。

 

「裁きの時が来るなら、俺はそれを受け入れる。だから……」

 

 滅は腰を屈め、郷に目線を合わせた。

 

「俺以外の人間も、ヒューマギアも、巻き込むのはやめてくれ」

 

 郷は泣きながら、ZAIAスペックを滅の顔面に投げつけた。そして脱力し、また泣き続ける。

 バルカンはそのどうしようもない光景を、ただただ見ていることしか出来なかった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 話は、ライブが始まった頃に戻る。

 

“JUMP……!!”

 

 飛電或人は「とっておき」を起動させ、ザナドゥと向かい合う決意を固めていた。それは、悪意を乗り越え、悪意と向かい合う心の強さによって生まれたプログライズキー。

 

“イニシャライズ! リアライジングホッパー!”

"────A riderkick to the sky turns to take off toward a dream."

 

 滅との最終決戦、ルシファーとの戦いで披露したこの姿で、或人は決着をつけると意気込んでいた。

 見た目こそライジングホッパーと同一だが、そのスペックの差は歴然。超脚力で飛び上がり、すぐさまザナドゥに蹴りを叩きこむ。だがザナドゥも負けじと、蓮の花型のオーラを纏わせながら拳ではじき返していく。

 その後ろでは、曲がどんどん流れていく。

 エマ。果林。かすみ。彼方。

 どの曲も魅力的で、心を魅了する。

 

「カンタカ!!」

 

 ザナドゥはマシンカンタカを呼び出すと騎乗し、リアライジングホッパーの周りを円周状に走り回って包囲する。

 

「ッ……!!」

 

 ゼロワンは飛び上がろうとするが、その瞬間マシンカンタカの前輪がゼロワンを捉え、壁に叩きつけた。壁が砕け、ボロボロと一部が崩れ去る。

 

「これは……!」

 

 ゼロワンはその壁の中にあったものを見て驚愕した。

 壁の中には、かつてアークが使っていたアークドライバーが組み込まれていたのだ。

 

「それはこのホールに設置されたアークのレプリカの出力を高めるために、アズに組み込ませた。対角線上にもう一個埋め込んで、両方で悪意を増幅しているってわけだ」

 

 ザナドゥは解説しつつ、二発三発とゼロワンの胸元に拳を叩きこむ。

 

「いつまでやるつもりだよ、或人」

 

 ザナドゥにそう言われても、ゼロワンは怯まない。その場には、せつ菜の歌が響いている。

 

「みんなの夢と笑顔を守る為なら……何度だって!!」

「お前は……!」

「だあっ!!」

 

 ゼロワンは一瞬の隙を突き、ザナドゥの側頭部に回し蹴りを食らわせた。まともに食らえば頭が半壊する一撃だが……ザナドゥは、ナノマシンでこれを再生させる。

 

「不意打ちで頭狙いかよ……!」

「今はとにかく、お前を止めなきゃならないからな!!」

 

 ザナドゥは答えずゼロワンを殴りつけようとするが、ゼロワンはすかさず飛び上がり宙を踊るように舞う。

  ひねりを加えたその動きで降下しながら、ザナドゥに再び蹴りを見舞った。ザナドゥはカンタカに乗るとサウザンドジャッカーを生成し、騎馬兵の如くゼロワンを突こうとする。

 だがゼロワンはその動きを見切り、蹴りでザナドゥの手元からジャッカーを跳ね上げるとそれを掴み────

 

 走っているカンタカのエンジンに、思い切り突き刺した。

 

「うおッ!!」

 

 ザナドゥはカンタカと共に地面に叩きつけられる。そしてカンタカの方は、一瞬の沈黙の後に爆発した。

 

「よくも……!」

 

 ザナドゥはアタッシュアローを生成し、ゼロワンを射抜こうとする。ゼロワンはそれを躱すが、ぎりぎりのところで、だ。

 

 二人が沈黙しにらみ合った瞬間、

 

「『皆さんこんにちは! 上原歩夢です!』」

 

 曲と曲の間のフリートークを、歩夢が始めていた。

 

「……!」

 

 ザナドゥはその声に、ぴくりと反応する。

 

「『今日の曲は、皆が知ってる曲に歌詞をつけたものです。私の、大好きな曲』」

 

 そう語る歩夢の声は、明るく朗らかだ。

 

「『私はこの間、夢を諦めちゃった……って人に出会いました。友達と一緒に夢を見ていたのに、すれ違ってしまったから、って』」

 

 表情こそ見えていないが、ザナドゥには────郷太には解る。

 今の歩夢はきっと、悲しそうな顔でそう言っているだろうと。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「だから私は、今日この曲を贈ります! その人に、聞いてもらえたらいいな!」

 

(お願い……!)

 

「歌います……」

 

(届いて……!!)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

    果てしない道でも一歩一歩

    諦めなければ夢は逃げない

    隣にあなたがいてくれるから

    逆境も不安も乗り越えていけるよ

    ありがとう

 

 

『夢への一歩』

 

 歩夢が歌うのは、一緒に夢を見て、支えてくれる相手へと贈る感謝と親愛の言葉を込めた歌。

 

    段差もなく転んだり MAPを見ても迷ったり

    なかなか前に進まない ジンセイってタイヘンだ

 

    「もう歩けない」弱音吐いた時

    あなたが手を握ってくれたね

 

 その歌詞の一つ一つが、郷太の胸に刺さる。

 同じだ。

 誰かと一緒に夢を見て、それを楽しんでいた歩夢は────自分と同じなのだと、ただただ実感する。

 

 

    変わらない日々から一歩一歩

    勇気むねに 未来へ踏み出そう

    キラキラ眩しく光る毎日は

    あなたにもらった とびきり素敵な

    プレゼント

 

 

「……ッ!! あああああああああああああ!!!」

 

 ザナドゥはアタッシュアローを投げ捨て、ゼロワンに殴りかかる。そうでもしないと、気持ちがざわついて落ち着かない。ゼロワンもそれを受け止め────同じように殴り返す。

 ひたすらに互いが互いを殴り合う音が、その場に響く。

 そんな中でも、歌は続く。

 

 

    一人で夢を見るより 一緒のほうが楽しくて

 

 

「どーもー! アルゴリズムでーす!」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 

    辛い事ははんぶんこ 嬉しい事は無限大

 

 

 殴り合いながらも、歩夢の込めたメッセージが二人の想い出を呼び覚ます。

 

 

    友達とか親友を超えた

 

 

「今日の舞台、今までで一番良かったんじゃない!?」

「まだまだだっての。俺と或人ならもっと上行けるって」

 

 

    切磋琢磨できる「仲間」さ

 

 

「お疲れ~~! さーさーファミレスで打ち上げだ!」

「お前今日はドリンクバー混ぜるのやめとけよなマジに……。こっちが恥ずかしいからよ」

 

 

    果てしない道でも一歩一歩

    諦めなければ夢は逃げない

    隣にあなたがいてくれるから

    逆境も不安も乗り越えていけるよ

    ありがとう

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

    これまでずっと支えられて 甘えてきたから

    これから私があなた 支えられる様に

 

 

(私には、侑ちゃんがいる……! 郷太さんにだって……)

 

 

    もっともっと強くならなくちゃ

 

 

(或人さんが、いてくれる筈だから!!)

 

 

    今度は守りたい

 

 

(だから、二人で見る夢を……諦めないで)

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

    変わらない日々から一歩一歩

    勇気むねに 未来へ踏み出そう

 

 殴り合う音は、もう響いてはいない。ザナドゥは膝をつき、声を上げて泣いていた。

 歩夢の歌が、思い出させてくれたからだ。

 二人の楽しい想い出を。

 しがらみも苦しみも無く、ただただ二人で純粋に、夢を追いかけていた日々のことを。

 

「……郷太」

 

 ゼロワンは、その姿を優しく見下ろしていた。

 

    キラキラ眩しく光る毎日は

    あなたにもらった とびきり素敵な

    プレゼント

 

 ゼロワンは優しく歩み寄り、

 

「ほら」

 

 ザナドゥに、手を伸ばした。

 

          

あなたがいるから 私も輝ける ありがとう

 

「或人……」

 

 ザナドゥは変身を解除し、枝垂郷太の姿でその手を取った。ゼロワンも変身を解除し、或人の素顔で微笑む。

 

「『……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、上原歩夢でした!』」

「『歩夢ありがとう! 次はいよいよ全体曲だよ!』」

 

 歩夢の声に、侑が応えているのが聞こえてくる。

 

「良いコンビだな、あの二人は」

「俺達だって、そうだろ?」

 

 嬉しそうに言う郷太に、或人は笑いかける。

 

「……郷太。もう一度やり直そう」

「馬鹿かよお前は。それはできないって何度も言ったろ」

「どうして?」

「この場で俺が改心してやめたとして、信者達の気持ちが収まるわけがない。何より俺の犯した罪はでかい。全て終わらせて戻ったとしても……」

「そうやってできない理由を探すのはやめろよ!!」

 

 或人は郷太の肩を掴む。

 

「郷太自身はどうなんだよ!? どうしたい!? なあ!?」

「俺は……」

 

 郷太は一瞬黙り込むが、

 

「またお前と、一緒に夢を追いかけたい」

「だったらやろうよ!」

「しかし……」

「郷太一人が謝って許されないなら、俺も一緒に謝る! 簡単にはいかないかもしれないけど……」

 

 或人は郷太を真っ直ぐに見据えながら、

 

「俺はもう二度と!! お前の夢を諦めさせたりしないから!!」

 

 嘘偽りの無い、本心を伝えた。

 

「或人……」

 

 そこで郷太は、は、は、は、といつもの調子で笑った。

 

「俺は」

 

 

「そんなことが許されると思う?」

 

 

 瞬間、二人の間に不気味に声が響く。

 

「……アズ!?」

 

“HELL-RISE!”

 

 何が起こったかわからないうちに、或人のゼロワンドライバーでプログライズキーが読み込まれる。そしてそれを、アズはドライバーに挿し込んだ。

 

“Hells energy as destroy the world. ヘルライジングホッパー!”

"HEAVEN or HELL. ────it doesn't matter."

 

 かつてのシンクネット事件の際に、エスが創り出した世界を滅ぼすプログライズキー。変身に使えば肉体の破壊と再生が繰り返され、名前の通りの地獄の苦しみを味わい続ける拷問兵器に近いアイテム。

 

「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“ッ”!!?」

 

 或人は不意の衝撃と激痛に絶叫し、地面に転がりのたうち回る。

 

「或人!!」

 

“アークドライバー!”

 

 そう叫んだ郷太の腹にも、アズはアークドライバーを巻きつけていた。先程のゼロワンとザナドゥの戦いで露出した、壁の中に組み込まれていたドライバーだ。

 

「一度アーク様が関り記憶したものは、何度でも生みだせる。ヘルライズキーなら確実に、飛電或人の身体を壊してくれるでしょう?」

「アズ……お前……!!」

 

 郷太は抵抗しようとするが、アークドライバーから流れ込む悪意が彼の身体と精神を侵食していく。

 

「もうお前が“アーク様”の代わりを務める必要は無いってコト。信者達とお前の悪意の増幅……ぎりぎりまでかかったけど、もう充分」

「なんだと……!?」

「お前のナノマシンの不死の肉体を依代にして、アーク様は不死の肉体を手に入れた完全の存在になる」

「そんなこ……『よくやった、アズ』と……!?」

 

 郷太の肉体に、精神に、入り込んでくる。

 悪意の人工知能────アークそのものが。

 

「さあ、これを」

 

 アズはザナドゥプログライズキーを手に取ると、それを禍々しいプログライズキーへと変化させる。

 

「やめろ……俺が……消え……『予想外の結論だが、悪くない』

 

 郷太の肉体を侵食したアークは、それを手に取った。

 

“ARK-TWO!”

 

「ある、と……『変身』

 

“NEO-SINGU-RISE!”

 

 禍々しく、悍ましいオーラが場を包み込む。やがてそれは郷太の肉体一点に収束し────弾ける。

 

“Road to apocalypse has to lead to despair to return zero to two!”

 

“KAMEN RIDER ARK-TWO……!”

 

"────It's never END."

 

 かつてのアークの仮面ライダー、仮面ライダーアークゼロに似てはいるが、その姿は一目見てわかるほどに……“進化”している。或人の究極の到達点、仮面ライダーゼロツーにも似たその姿。アズは痛みに絶叫するゼロワンを足蹴にしながら、その姿に歓喜した。

 

「おかえりなさい。アーク様」

 

 ────悪意の人工知能、アークは……完全復活した。

 

Part7 やっぱりワタシがアークで仮面ライダー




もろもろの悪行は、禁じられているがゆえに有害なのではなく、有害なるがゆえに禁じられている。
ベンジャミン・フランクリン(1706~1790)

使用楽曲コード:25482122,25655086,25655116,72502908,72505877,72506270,72508094,73090476,73126152

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