メイジンの娘   作:アリスとテレス

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レコードブレイカーキット化待ちなので初投稿です。


これがわたしの仮想の姿

 GBNに初めてログインする際、ダイバールックと呼ばれる仮想の肉体(アバター)を求められる。

 運営が用意したデフォルトアバターがあれば、それを基に好きなカスタムを施して作成することも可能である。

 あえてデフォルトアバターを使用せずに、一から自分で作成するパターンも存在する。

 最近では大型アップデートに伴い実装されたスキャンアバターというものも存在している。

 これは登録されたリアル側の身体情報をスキャンし、自動的に外見を作成してくれるという機能だ。

 いわゆるアバター作成に割く時間がもったいないせっかちさんやアバター作成が面倒くさい人向けに用意されたもので、ある意味では現代の技術の粋を集めて実現できた機能であると言える。

 アバターに関しては今のところ拘りがないため、ユメノはスキャンアバターで自分の似姿をダイバールックとした。

 これの凄いところはリアルの容姿に何となく似ていながらも、ゲーム特有のデフォルメ補正がかかるので、案外リアルとゲームで一致しないという点にある。

 ユメノのダイバールックもまさしくそのようなもので、そこから髪色を明るい色に塗り替えて、頭頂部には双葉のようなアホ毛を付け加え、最後に女性用に調整された地球連邦軍の軍服を着用し、あっという間にアバターの制作を完了させた。

 念のためにと確認を選択すると、目の前に立ち姿が現れて、ユメノのダイバールックを表示する。

 身長はリアルの155㎝から少し盛って160㎝。

 明るい茶髪は、頭頂部に双葉のアホ毛を生やした赤みがかったオレンジ色に。

 髪型はショートボブで、ちょっとだけ長めに伸ばしてある。

 くっきりと丸い目つきはそのまま、瞳の色はリアルの黒色から思い切り変えて、ライトブルーに変えてみた。

 

(確か説明では後からでも改変できるってあったから、今はこんな感じでいいかな?)

 

 一通り確認し終えてから、決定を押す。

 瞬間、仮想の肉体が浮かび上がり、いかにも電子空間といった風の青い空間に放り出された。

 

「うわわわわっ!?」

 

 壁も床もない空間に突如として投げ出された身としては堪ったものではない。

 大丈夫だとは解っていても、ついつい慌てて手足をバタつかせてしまう。

 既に進行方向は定められているように、いくら身体を動かしてもあっちへフラフラこっちへフラフラと流されることはなかった。

 GBNとデカデカと表示された円形のエフェクトに吸い込まれるように、ユメノは――ダイバーネーム『ツナグ』は【WELCOME TO GBN】と描かれた文字列を最後に、眩い光の中に落ちていった。

 

 ⁎

 

 カシュゥ、扉が自動的にスライドして開く。

 その中から一歩を踏み出し、目を開けると――そこはまさしく近未来だった。

 リアルとは違う機械的な造形で満たされた精緻な空間は冷たい感じはなく、むしろ明るく温かい。

 中央部のカウンターの頭上には地球のホログラムが浮かび、各所に設けられた薄いテレビ型の中継装置には様々なガンプラの戦闘シーンが映し出されていた。

 

「すっご……」

 

 面白そうとは思っていたが、それでもオンラインゲームの一種だとも思っていたツナグは、目の前に広がる空間に圧倒されて、立ち止まったままぼんやりと眺めていた。

 それから我に返り、改めてガラスに映った自分の身体を見る。

 何度も手を握ったり開いたり、爪先で床を小突いてみたりして、GBNにおける自身の身体を確かめる。

 

「これがわたしの仮想の姿……」

 

 感慨深そうに呟き、次はもう少しアバターに拘ってみようかなと考えた。

 

『ご主人様!』

「うひゃぁ!?」

 

 不意に聞こえた声に、ツナグは驚き、器用に垂直に跳びあがった。

 見ると、近すぎず遠すぎず、視界の邪魔にならない横位置に小さなポップウィンドが開き、その内側に鮮やかな緑髪の美少女が現れた。

 

『初めまして。私はハロロと申します。このGBNにおけるナビゲートAIを務めております』

「あ、これはこれはどうもどうも……」

『はい! どうもどうも! この度がGBNにご登録、ありがとうございます。ご主人様の希望であれば、私がチュートリアルを務めさせていただきますよ』

「えぇ!? 初めて早々こんな可愛い子に案内してもらえるの!? すごい! GBNすごい!」

『いやぁ、可愛いなんてそんなそんな……照れますねぇ。えへへ』

 

 ハロロ、と名乗った美少女はポップウィンド内で照れ笑いを浮かべる。

 このハロロについては、ツナグは事前に調べた情報とシノハラからその存在を聞いていた。

 最近のアップデートで実装された新要素で、チュートリアルやイベントの説明を行うナビゲーションシステムというものらしい。

 元々はクロスボーン・ガンダムゴーストに登場した疑似人工頭脳(AI)で、ガンダムシリーズのマスコット的存在『ハロ』を擬人化させたキャラだとも言われている。

 詳しいことはツナグにはあまり解らなかったが、とにかくGBNのハロロのAIはすごいらしく、ともすれば機械的な応答になりがちな会話プログラム部分に並々ならぬ努力と技術をつぎ込み、ゴーストの原作ハロロ同様に実に自然な、本当に人間と会話をしているかのような言語プログラムの構築に成功しているのだとか。

 それまで今一ピンとこなかったツナグだが、こうして実際に対面してみると、実感というものが湧いてくるというものだ。

 

「あ、でもごめんね。実は友達と待ち合わせしてて……」

『おや? お友達に招待されていたのですか?』

「うん。とっても綺麗な子なんだ! えーっと、どこで待ち合わせだったかな……」

 

 ハロロの衝撃で待ち合わせ場所を失念してしまったようだ。

 ツナグは参ったなとばかりに頭頂部の双葉アホ毛を弄りながら、周囲を見回す。

 そんな姿を見たハロロの丸い瞳が、キュピーンと光った。

 

『それなら私が案内してあげましょうか?』

「え、ハロロちゃんそんなこともできるの!?」

『ナビゲートAIですからね。呼んでくれればミッションの案内以外のことも――つまりは道案内もできますよ! ただし、リアルタイムでの戦闘関連については対象外となります。この私はあくまでもナビゲートAIですので』

「おぉ~! それでも十分すごいしありがたいよ! えっと、じゃあ早速、頼らせてもらうね!」

『はい! 頼っちゃってください!』

 

 頼られたことが余程嬉しいのか、グッと拳を掲げるハロロは、それだけで視覚的に癒しだった。

 

『それではこちらを――』

 

 言って、ツナグの目の前にコントロールパネルが開き、短い工程を得てマップが展開した。

 この空間――GBNセントラルロビー内のミニマップらしい。

 施設の構造から高低差まで記されており、非常に見やすいものとなっている。

 自分の示すアイコンと、他ダイバーを示すアイコン、NPDを示すアイコンなど細かく区別されており、こちらも解りやすくまとまっていた。

 

『ご主人様のアイコンはコレですので、ここから待ち合わせ場所を情報を探していただければ、後は私が案内いたします!』

「おぉ! なにこれ便利!? んーっと、確かここら辺だったような――」

 

 必死に思い出しながら、大体の待ち合わせ場所を範囲で示す。

 現在地から見れば、中央カウンターを通り越した外側に続くエリアのようだった。

 ハロロは「ふむふむ」と範囲内を検索し、ツナグの案内を始めた。

 口頭での説明が主だったが、それでも解らない場合は、ツナグの視界に矢印を表示することで、行き先を可視化してくれた。

 

「こっちのほうが便利じゃない?」

『視覚的にはそうなんですが、やはり大勢のダイバーの方々には少々見づらいようでして』

「ああ、それはちょっと解るかも。視界に矢印がずっとあると、何だか落ち着かないもんね」

『はい。ですから、こうして要望されるまでは、こういった視界に表示されるタイプの機能は制限させていただいてます』

「へぇ~! ハロロちゃんは賢いなぁ~」

『私じゃなくて運営がそういう風に設定したんですけどね。でも、そう言われると嬉しいです』

 

 えへへ、と照れ笑いを浮かべるハロロにほっこりとしながら、ツナグはやがてロビー外側に出た。

 外は機械一色な内部と比べて、植木が所々に点在している空間だった。

 その一角――外向けのミニカウンターの傍で、一人のダイバーがこちらを向いているのに気づく。

 独特な形状をサングラスとかけ、大雑把に括った黒髪を揺らし、関節部に赤く発光するラインが目立つぴっちりとしたブラックスーツの上から、渕の赤い長襟の黒外套を纏った女性――のダイバーだ。

 「こっちよ」と促されて、近づいていく。

 ツナグよりも身長がある。170cmくらいだろうか。

 

「待ってたわ」

「……あ、もしかしてカナメちゃん?」

「そうよ」

「ほぁ~、サイバーチックな衣装だねそれ。それも何かの作品の衣装なの?」

「いいえ。これはGBNに実装されているパーツを組み合わせて作ったものだから、どの原作にも出てきていないものよ」

「そうなんだぁ。これはこれで……」

「それで、どうだったかしら。ハロロの案内とかあったと思うけど」

 

 カナメはポップウィンドに表示されたハロロを軽く指差す。

 

「それそれ! 最初はびっくりしたけど、すごいよハロロちゃん! 本当に生きてるみたい! 見た目もかわいいし声もかわいい! かわいいの塊だよこの子は!」

『いやぁ~それほどでもぉ~』

 

 捲し立てるように熱を込めて語るツナグが落ち着くまで、カナメはじっと動かず、時おり適当に相槌を打ちながら話を聞いていた。

 初心者特有の興奮状態にあることは見て取れる。それを初々しいとカナメは思う。

 自分にはない熱を持つツナグの――顔と、声と、仕草を見ながら。

 確かに高度な技術ではあるし、カナメもハロロのそれについてはすごいと考えている。

 しかし、どれだけ高度であろうとそれはAIに過ぎない。

 照れたり、笑ったりして、柔軟な反応と自然な会話を成立させたとしても、あくまでもダイバー側の行動に合わせて対応しているだけなのだ。

 そんなAI――ハロロに対して、短い間でここまで夢中になって語れるのは、きっと彼女の美徳なのだろう。命のないものに、本来の熱を有さないものに、情を入れ込めることが。

 

(私も同じようなものね。夢中になってしまうのは)

 

 先日のジムの説明や、今日のガンプラをことを思い出し、内頬を噛んだ。

 ある程度ツナグが語り終えたことを確認し――

 

「ハロロはマップや施設の案内をしてくれるから、迷ったら使うといいわ」

「わかった! 今後もよろしくねハロロちゃん!」

『はい。任せてください!』

 

 ポップウィンド内で胸を張って得意気に鼻を鳴らすハロロを横目に、カナメは言った。

 

「それじゃあ、まずはチュートリアルミッションをやってみましょうか」

 

 ツナグの初めてのGBNが、始まる。




・ハロロナビ
 クロスボーンガンダムゴースト完結周年記念として、アルス騒動後のアップデートで実装されたナビゲートAI。
 文字通りハロロの姿をしており、チュートリアルやイベントミッションなどでは、各ダイバーの邪魔にならないよう、ポップウィンド内に現れて案内を行ってくれる。
 オプション機能でオンオフ切替可能。
 旅の途中のフォントとベルと邂逅し、共闘する記念ミッション『ゴーストオーダー』では、様々なハロロ(各作品のハロを元にしたオリジナルデザイン)が報酬として獲得できる。
 このミッションで獲得したハロロはバトル時にサポートAIとして使用できる。
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