メイジンの娘   作:アリスとテレス

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2月に入ったので初投稿です。


ポカポカして、ビリビリした

 リアルと見まがうばかりの青空が頭上に広がっていた。

 

「うわぁ~!」

 

 出撃ハッチから飛び出したジムのコックピット内で、ツナグははしゃいでいた。

 何せGBNの醍醐味の最もたる部分である『モビルスーツに乗り込んで操作する』という体験ができたのだ。

 リアルでは小さかったガンプラが、ここでは実物大としてデータ上で構築され、再現される。

 ガンダムをほとんど知らぬツナグにとっても、それはとてつもなく新鮮で、驚きに満ち溢れたいたことだろう。故に、はしゃぐなというほうが無理な相談であった。

 

『もうすぐ目標エリアです』

「りょーかい!」

 

 ハロロの示す方向に従って、ジムを進ませる。

 ツナグは今、チュートリアルミッションの目的地へと向かう途中にあった。

 ミッション名『ガンプラ、大地に立つ』というこのチュートリアルミッションは、GBN最初期から存在している、いわば昔ながらとも言えるもので、その内容はAI制御のNPDが操るリーオー――通称『リーオーNPD』を三体撃破するというものであった。

 カナメは既にチュートリアルミッションをクリア済の身なので、ギャラリーモードでツナグの様子を見ることになっている。

 

「緊張するなぁ~」

『安心して下さい。チュートリアルミッションに限り、私が基礎的な操作方法をご案内いたします』

「うん、よろしく!」

 

 この時点でツナグはモビルスーツの動かし方を学んでいた。

 原作の複雑なコックピット機構と違い、ゲーム用にデフォルメされたシステムは、GPDやそれ以前に存在していたバトルシュミレーションからのノウハウを存分に使っているのだという。

 コントロールスティックを動かし、ジムのスラスターを噴かすことでマニューバを慣らしていく。

 

《初めてにしては筋が良いわね》

「え、本当!? お世辞じゃないよね!?」

《嘘を言ってどうするのよ》

「にへへ、嬉しいなぁ」

 

 ポップウィンドに表示されたカナメは、ツナグのマニューバを見て呟いた。

 ゲーム慣れしていないかと思っていたが、思いの外飲み込みが早いことに、正直驚いていた。

 普通であればもう少し動きにぎこちなさや、戸惑いが現れるものだが、そういったこともない。

 まるで自分の身体を動かすようにスムーズであったのだ。

 しかし、カナメはそれを非凡であるとは思わない。

 ツナグのそれは単純にガンダムの知識が疎い今だからこそできる思い切りのいいマニューバであると考えているからだ。

 

『ご主人様、目標エリアが見えてきましたよ!』

 

 ハロロの声に、ツナグとほぼ同時にカナメも顔を向ける。

 森林エリアとされる、文字通り無数の木が生い茂った場所だ。

 目視できる程度の半透明のドーム状フィールドに囲まれいるのが今回のミッションエリアである。

 

『あのドームを通り抜けた瞬間にバトルスタートとなります』

「ん、よーし! いっちょやってみますかー!」

『勝利の栄光を、ご主人様に!』

 

 ポップウィンド内で敬礼するハロロの言葉を受けて、ツナグは息を吐いてフィールドの境界を跨いだ。

 瞬間――

 

【MISSION START】

 

 電子音声とともにエリア内にでかでかと浮かび上がった表示を突き抜けて、三機のリーオーNPDが現れた。

 中央がビームサーベルを装備した前衛型。

 左右後方にはマシンガンを装備した中衛型とドーバーガンを装備した後衛型がいた。

 ガンプラバトルにおける基礎を体現した編成だ。

 まさしくチュートリアルミッションに相応しい相手とも言える。

 ツナグのジムを認識したリーオーNPDのうち前衛が後方に下がり、後衛型がドーバーガンを放つ。

 

「わわわっ!?」

『ご主人様、シールド防御を!』

「こ……こうっ!?」

 

 ハロロの言葉に、コントロールスティックを操作し、左腕に装備したシールドを構えた。

 ゴガァンッ!

 激しい衝突音がシールド表面を焦がし、衝撃がジムを揺らす。

 

「うひゃぁぁぁっ!」

 

 予想以上の衝撃の伝達に、ツナグは思わずコックピット内で悲鳴を上げる。

 感覚フィードバックによる激震が体内をも容赦なく揺さぶる。

 

「こここ……これゲームだよね!? 何か思ってた以上にめっちゃリアルな感覚なんだけど!?」

『感覚フィードバック機能の強化により、プレイ中に受けた感覚をリアルの肉体にもフィードバックするようになっていますので、より臨場感のあるバトルを楽しめるようになっているんです』

「なるほどね! うわわわわ……!?」

 

 その間にも距離を詰めた中衛型が足を止めてマシンガンを連射する。

 幸い、チュートリアルミッション用に調整されたAIであるため、ロックオンはしてもその弾道はバラバラであった。

 それでもツナグにとって連射性の高いマシンガンのプレッシャーはドーバーガンの単発とはまた違うベクトルで脅威であった。

 

「当たらないけど、動けない! さっきまであんなに動けてたのにぃ……!」

 

 シールドを構えたまま、ツナグは動けないでいた。

 弾道から見て当たらないとは解ってはいても、動いた瞬間に当たってしまうのではないかという不安に駆られてジムを操作できないでいたのだ。

 これがPvP――即ち、ダイバー同士のバトルであったのならば、この隙を突かれ、別の機体の攻撃を受けて終わっていただろう。

 だがこれはチュートリアルで、相手はAIだ。律儀にもそれ以上は攻めるような素振りはなく、残った二機はツナグの置かれた状況を分析して、それぞれ距離を取って待機していた。

 

『ご主人様、武器を使って反撃してください! ウェポンスロットから選んで使用できます!』

「武器は……こ・れ・かっ?」

 

 すぐにウェポンスロットを操作し、ビームスプレーガンを選択する。

 武器アイコンと、100%と残存エネルギーが表示され、使用可能状態を示す青色を灯していた。

 

『片手持ち武器なので、シールドを構えたままでも攻撃できます』

 

 シールド横にくっ付けるようにビームスプレーガンを構え、マシンガンを連射しているリーオーNPDをロックオンする。

 ロックオンマーカーが赤色に変化し、相手が射程内であることを示す。

 コントロールスティックに設けられたトリガーボタンを押し込んだ。

 ピチューン!

 独特な発砲音とともに明るいピンク色のエネルギー――ビームが一筋の線を描いてリーオーNPDの右肩に直撃する。

 貫通こそしなかったが、装甲を融解させるには十分であった。

 内部にまで達した灼熱のエネルギーがリーオーNPDの右腕を機能不全に陥らせた。

 

「あ、当たったのっ!?」

『当てたんですよ! もう一発いきましょう!』

「うん!」

 

 ビームスプレーガンは、言うなれば威力や射程よりも連射性と命中率を向上させた低出力のビームライフルで、近・中距離には適しているが、遠距離での撃ち合いには不向きである。

 ツナグは武器のもつ有効射程については何となくで把握している程度だが、先ほどの威力を見て、この武器は自分の想像していたものよりも射程が短いことを察した。

 

(近づけば近づくほど、有効打になりやすい!)

 

 マシンガンの弾幕が途切れたことで安心を得て、シールドを構えたまま踏み出す。

 直後、耳をつんざくような警告音が鳴り響く。

 

「な、なにっ?」

『視覚外からの攻撃です!』

「視覚の外からってこと!?」

 

 確認するよりも早く、直感で機体を動かす。

 スラスターを噴出させ、後方へ下がる。

 目の前をドーバーガンの一撃が通過した。

 

「あっぶなぁ……!」

『次が来ます!』

 

 ハロロの言葉が届くや否や、ビームサーベルを大上段に構えた前衛型のリーオーNPDが迫っていた。

 反射的にシールドを構え直す。

 

「防御……ビームの剣を!?」

『可能です!』

《いいえ、前に出なさい》

「――ッ! わ・か・ったぁ!」

『ご主人様!?』

 

 カナメの言葉に疑問を挟む間もなく、スラスターを噴出し、前へ加速した。

 振り下ろす直前に懐に飛び込まれたリーオーNPDは反応が間に合わず、シールドタックルを諸に受ける。

 ぐらり、とバランスが崩れ、機体が傾ぐ。

 

《今よ》

『今です!』

 

 カナメとハロロの声が重なる。

 即座にビームスプレーガンをリーオーNPDの胸部に向けて突き出し、トリガーボタンを連続して押す。

 独特な発砲音が二度、三度と響き、至近距離でビームを直撃させられたリーオーNPDは胴体に風穴を開けて沈黙し、テクスチャの塵へと還っていく。

 

「や、やった……!」

 

 初めての撃破に、ツナグはぱぁっと笑顔を浮かべた。

 三体の内まだ一体だけだとしても、それは自信という炉にくべる薪となる。

 残りは右腕を損傷しマシンガンを落とした一機と、ドーバーガンの一機。

 機体を反転させて、背後に回り込もうと動いていたドーバーガンの後衛型リーオーNPD目掛けてスラスターを噴出し、真っ直ぐに駆ける。

 ツナグの接近に、リーオーNPDはドーバーガンを構えた。

 直進距離。細かな狙いを定めずとも当てられる軌道だ。

 

『ご主人様、何か手が?』

「ない! 考えなしに飛びだしちゃった!」

『えぇぇぇ~!?』

《相手の動きをよく見なさい》

「ん! わかった!」

 

 カナメの言葉に、ツナグはメインカメラが捉えたリーオーNPDの姿を――その動きを観察する。

 ドーバーガンの砲口はこちらをロックオンしているのは解っている。

 チュートリアルということもあるが、フェイントも何もない、素直な狙いであった。

 だからこそ、初心者にはその素直さが却って怖い。

 調整された性能とはいえ、感情を挟まない、ある意味で正確な動きに、最初は怯んでしまうことが多いからだ。

 だが、ツナグはそうではない。解ってしまえば、怯む理由などどこにもないからだ。

 

「い・まっ!」

 

 加速に邪魔になるシールドを前へ投げ捨てる。

 それに釣られてリーオーNPDがドーバーガンをシールドに向けて撃ち放った。

 ゴガァン!

 ドーバーガンの弾丸とシールドが衝突し、破砕音が轟く。

 耐久の限界を迎え、シールドが砕けたのだ。

 摩擦熱が空気を焦がし、焼けた煙をあげる。

 シールドの破片がばらばらと大地に降り注ぐ。

 その中を――ツナグが、ジムが、突き抜けるようにして現れた。

 シールドを失った左腕は、バックパックに備えられたビームサーベルの柄を握っていた。

 

「どぅりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 リーオーNPDが反応するよりも早く、引き抜いたビームサーベルをそのまま袈裟に斬り下ろす。

 倒す、という意思が込められたビームサーベルはリーオーNPDを腰部から一閃し、ツナグが背後に着地すると同時に爆散――テクスチャの塵となって撃破された。

 

「いよっし! あとは――」

 

 振り向き、手負いの三機目の中衛型リーオーNPDを見やる。

 拾い上げたマシンガンを鈍器に、ツナグに殴りかからんと飛び掛かってきた。

 

「よく、見る……!」

 

 ついにはビームスプレーガンを手から捨てて、ビームサーベルの柄を両手に持ち直す。

 両足を広げ、姿勢を安定させ、半身に構える。

 

「こ・こ・だぁ!」

 

 ビームサーベルを持ち上げ、突き出す。

 サーベルの光が吸い込まれるようにリーオーNPDの腹部に突き刺さり、貫通して背後からその切っ先を覗かせた。

 バヂリッ!

 スパークと鈍い音を迸らせながらリーオーNPDはカメラアイを明滅させて、そのまま力が抜け落ちたようにマシンガンを落とし、沈黙した。

 

【BATTLE END MISSION COMPLETE!】

 

 電子音声とともに、そんな表示が浮かび上がった。

 

「はぁ、はぁ……勝った……?」

『勝ちました! 勝ったんですよ! クリアおめでとうございます!』

「にへへ……やりぃ……!」

 

 無事にミッションを達成したのだと喜ぶハロロ。

 終わったのだと理解した瞬間、ツナグはビリビリとした緊張と興奮を自覚する。

 バクバクと鳴る心臓と、震える指先を誤魔化すように笑い、ポップウィンドに表示されたカナメに視線を移す。

 

「ど、どうだったカナメちゃん!? わたしの初陣、見ててくれた?」

《見ていたわ。チュートリアルとはいえ、初めてのガンプラバトルにしては悪くはなかった――と思う》

「そっかぁ! にへへへ、よかったぁ……」

《クリア条件の内容を達成したと報告するまでがミッションよ》

「りょーかい! ハロロちゃん、案内お願い」

『お任せ下さい!』

 

 元来たルートを辿りながら、ツナグはぶるりと大きく身体を震わせた。

 

(これが、GBN……あれが、ガンプラバトル……)

 

 先ほどのバトルを思い出し、胸にそっと手を当てて、あの時に感じた熱を確かめる。

 仮想の肉体とはいえ、感覚フィードバックにより、よりリアルに感じることができるということを、身をもって体験した。

 怖くもあり、面白くもあった。

 そして何よりも――

 

「ポカポカして、ビリビリした……」

 

 今まで熱中できるような趣味を持たなかったからこそ、ツナグはその感覚が『楽しい』というものであるのを、すぐには思い出せなかった。

 けれど、カナメとの出会いは、初めてのGBNは、確実に彼女に熱い想いを灯したのだった。




思いの外バトルが長引いてしまった。
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