「彩葉、大人しく校長室まで一緒に来て師範から説教を受けるか。それとも、ここで俺とデュエルをして負けて無理矢理連れていかれるか……好きな方を選べ」
デュエルフィールドで、亮が彩葉を睨みつけてデュエルディスクを構える。カイザーと呼ばれる男が本気になったと察した万丈目の取り巻き二人が言葉を失って動けないというように固まり、亮に睨まれた彩葉は僅かに黙った後、にひっと笑みを見せてデュエルディスクを構える。
その意味を理解したというように亮は周囲を囲んでいる教員達に目配せ、「ここは俺に任せてください」という意図を示す視線に教員達もこくりと頷く。その後二人の視線が再び交錯した。
「「デュエル!!!」」
そして二人の声が重なり合い、デュエルの幕が上がるのだった。
「私の先攻、ドロー!」
彩葉が先攻を取ってカードをドロー。六枚になった手札をさっと見てその内の一枚を取った。
「私は手札から[サイバー・ダーク・カノン]を捨てて効果を発動するよ。デッキから機械族のサイバー・ダークモンスター、[サイバー・ダーク・ホーン]を手札に加えるよ。そしてそのまま[サイバー・ダーク・ホーン]を召喚!」
サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800
彩葉の場に現れるのはその他の通り巨大な
「サイバー・ダーク・ホーンの効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・カノンを装備するよ」
サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800→2400
サイバー・ダーク・ホーンの腹部に格納されていたケーブルが地面へと伸び、先ほど墓地に送られたサイバー・ダーク・カノンを引きずり出すと腹部に装着。そのエネルギーを吸い取って己の攻撃力を上昇させる。
一気に上級レベルにまで跳ね上がった攻撃力を見た万丈目の取り巻き二人の表情が固まった。
「実質手札一枚で攻撃力2400……やるな、彩葉」
「あれれ~? まさかカイザーともあろうものがこの程度で驚くなんて言わないよね~? 私はカードを二枚セットしてターンを終了するよ♪」
サーチ効果を持つモンスターを利用してキーカードをサーチして召喚、さらにサーチに使ったモンスターを利用して自分の有利な状況を作る。
無駄のないプレイングを亮が賞賛すると彩葉はニヤニヤ笑いで煽りつつ、カードを伏せてターン終了を宣言した。
「ふ。相変わらずだな……俺のターン、ドロー」
「この瞬間、リバースカードを発動するよ」
彩葉の煽りを聞いた亮がどこか懐かしむような笑みを浮かべ、自身のターンを宣言してカードをドローする。すると早々彩葉がリバースカードの発動を宣言し、その宣言通りリバースカードが翻る。
「[おジャマトリオ]を発動。相手フィールドに[おジャマトークン]三体を守備表示で特殊召喚する。カイザー、再会を祝して私からのプレゼントだよ♪」
「む……」
おジャマトークン ×3 守備力:1000
にこっと可愛らしい笑みを浮かべる彩葉の場のリバースカードから、奇妙なモンスターが三体飛び出して亮の場を占拠。その光景に亮が僅かに苦い顔を見せた。
「なんだあいつ? 雑魚とはいえカイザーの場に三体もモンスターを出しやがった」
「何考えてんだ?」
万丈目の取り巻きも彩葉のプレイングに頭の上にクエスチョンマークを出している。
「まったく。相変わらずですね、彼女は」
その隣にいつの間にか座っている男性がぼそりと呟く。その男性の姿に取り巻き二人がぎょっとした顔を見せた。
「「こ、校長先生!?」」
まさかのこのデュエルアカデミアの校長である鮫島の登場に取り巻き二人が慌て出す。が、鮫島は気にしないようにというように穏やかに微笑んだ。
「こんにちは。亮が彩葉君とデュエルをすると聞いて飛んできてしまいましたよ」
「そ、そうですか。あはは……」
「そ、それより、その、これには何か狙いがあるとでも?」
校長の登場に驚き、引きつった笑みを浮かべる取り巻きAと、話を逸らそうとデュエル内容を示す取り巻きB。その質問に鮫島はうむと頷いた。
「もちろん。亮、そして我がサイバー流のメインモンスター[サイバー・ドラゴン]。あれは“相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる”という効果を持ちます。ですが見ての通り、今亮の場にはおジャマトークンが存在する事になります。
これによってサイバー・ドラゴンは己の効果による特殊召喚が封じられ、さらにおジャマトークンは生贄召喚のための生贄にも出来ない。これはサイバー・ドラゴンを封じ、亮の初手を挫くための一手と言っていいでしょう」
これ自体はデュエルに大きく影響を与えるとは言えない。しかし相手の得意な戦術を崩し、相手の調子を狂わせる事で己を有利に持っていくための一手。鮫島は彩葉の狙いをそう評した。
「成程。ならば──」
だが亮は不敵に笑いながら手札を取る。
「──俺は手札から[サイバー・ドラゴン]を捨て、[サイバー・ドラゴン・ネクステア]を守備表示で特殊召喚する。
この瞬間サイバー・ドラゴン・ネクステアの効果発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、攻撃力または守備力が2100の、自分の墓地の機械族モンスター一体を特殊召喚する。俺は攻撃力2100の機械族モンスター[サイバー・ドラゴン]を墓地から特殊召喚!」
サイバー・ドラゴン・ネクステア 守備力:200
サイバー・ドラゴン 攻撃力:2100
「ただし、この効果の発動後、ターン終了時まで自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。だよね?」
「その通りだ」
彩葉の妨害もなんのその、というように亮はサイバー・ドラゴンの展開をしてみせる。彩葉はニコニコと笑いながらサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果のデメリットを諳んじ、その言葉を亮は肯定、さらに手札を一枚取った。
「だが、逆に言えば機械族モンスターなら特殊召喚可能ということだ。俺は魔法カード[融合]を発動! サイバー・ドラゴン・ネクステアはフィールド・墓地に存在する限りカード名を[サイバー・ドラゴン]として扱う!」
つまり実質フィールドにはサイバー・ドラゴンが二体存在する事になる。万丈目の取り巻き二人が「来るか!」と盛り上がった。
「ざんねーん♪」
そこに水を差すように彩葉の声が響き、またも彼女の場の伏せカードが翻る。
「永続罠[融合禁止エリア]発動。このカードが存在する限り、お互いのプレイヤーは融合召喚をする事ができないよ」
「っ!」
フィールド全体に不可思議なエネルギーの網が張られ、そのエネルギーの網に融合召喚のエネルギーが阻害される。結果融合の魔法カードはその効力を発揮できないまま墓地に送られてしまった。
「ねーねーどうどう? 一発逆転を狙った融合召喚を邪魔されちゃって、今どんな気持ち~?」
「お前……本当に相変わらずだな……まったく」
そしてニヤニヤ笑いで煽ってくる彩葉に亮は呆れたような苦笑で返してため息を漏らす。
「俺はリバースカードを二枚セットしてターンエンドだ」
そして手札から二枚伏せてターンエンドを宣言した。
「私のターン、ドロー。私は[ハウンド・ドラゴン]を攻撃表示で召喚するよ」
ハウンド・ドラゴン 攻撃力:1700
彩葉の場に出現する新たなモンスター。これで彩葉の場に亮の場の二体のサイバー・ドラゴンの攻撃力・守備力を上回るモンスターが二体揃った。
「バトル! サイバー・ダーク・ホーンでサイバー・ドラゴン・ネクステアを攻撃!」
彩葉の攻撃指示を受けたサイバー・ダーク・ホーンがサイバー・ドラゴン・ネクステアに攻撃を仕掛けた時、亮の場のリバースカードが翻る。
「そうはいかん! リバースカード発動[サイバネティック・オーバーフロー]! 自分の手札・墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、サイバー・ドラゴンを任意の数だけ選んで除外し、除外した数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する!」
「っ!?」
「俺はフィールドの
「く……でもサイバー・ドラゴンを一体除外できたのは大きいはず……」
二体のサイバー・ドラゴンが亮の場で翻ったカードに吸収され、放たれる閃光の光線がサイバー・ダーク・ホーンと融合禁止エリアの核となるカードを貫き、粉砕。同時にフィールドを覆う融合召喚を阻害するエネルギーも消失していった。
同時に彩葉はバトルフェイズを終了、メインフェイズ2に入る事を宣言して手札を一枚取った。
「魔法カード[タイムカプセル]を発動。デッキからカードを一枚選択して、そのカードをタイムカプセルに入れる。発動後二回目の自分のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルは破壊され、中のカードは私の手札に加わる。そしてカードを一枚セットしてターンエンドだよ」
「俺のターンだ、ドロー」
彼女の場に出現した棺型のタイムカプセルに一枚のカードが封印され、タイムカプセルは地中に姿を消す。亮はそれをちらりと見て、己のターンを宣言しカードをドローした。
「俺は[サイバー・ヴァリー]を召喚し、魔法カード[機械複製術]を発動! 自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスター一体を対象とし、デッキからその表側表示モンスターの同名モンスターを二体まで特殊召喚する。俺はサイバー・ヴァリーをデッキから一体特殊召喚!」
サイバー・ヴァリー ×2 守備力:0
「げ、やば……」
おジャマトークンが三体いる以上、残るモンスターゾーンは二つ。その二つをサイバーモンスターで埋め、その姿を見た彩葉の表情が引きつった。同時に亮もフッと笑う。
「お前からのプレゼント、有効活用させてもらおう。サイバー・ヴァリーの効果発動! 自分のメインフェイズ時に発動でき、このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して除外し、その後デッキからカードを二枚ドローする! 俺はサイバー・ヴァリーとおジャマトークンを除外し、二枚ドローする!」
「え? おジャマトークンはそういうのに使えないんじゃあ……」
「いえ。おジャマトークンはあくまで生贄召喚のための生贄にする事が出来ないだけ。そしてトークンはルール上、効果として除外する事は可能です。さらにこれは“破壊”ではなく“消滅”のため、おジャマトークンの効果、おジャマトークンが破壊された時にそのコントローラーは一体につき300ダメージを受ける。という効果も上手く受け流しました」
亮のプレイングを見た、すっかり観客になっている万丈目の取り巻きAの疑問の言葉に対して鮫島が解説。
その間に亮は二体のサイバー・ヴァリーの効果を使って二体のおジャマトークンを排除しつつ合計四枚のカードをドローした。
「よし。俺は[サイバー・ドラゴン・ツヴァイ]を召喚し、効果発動! 一ターンに一度、手札の魔法カード一枚を相手に見せる事で、このカードのカード名はエンドフェイズ時まで[サイバー・ドラゴン]として扱う。俺は魔法カード[融合]を見せる」
サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 攻撃力:1800
亮が見せる魔法カードに彩葉が嫌な顔を見せる。これからする事は分かるな、と言いたげな亮が、そのまま見せていた融合の魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[融合]! フィールドの
サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力:2800
先ほどのターンは邪魔された融合召喚を今度こそ成功させ、亮の場に双頭の機械竜が出現する。万丈目の取り巻き達も「おお!」と盛り上がった。
「きゃは☆ 相変わらずだねカイザー。諦め悪ーい♪」
「俺はこれを貫くのみだ。いくぞ、バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンでハウンド・ドラゴンを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」
「く……」LP4000→2900
双頭の機械竜の口から放たれたエネルギー砲がハウンド・ドラゴンを飲み込み、そのまま粉砕。その余波が彩葉にも大ダメージを与えた。しかも双頭の機械竜のもう一つの口にもエネルギーはチャージされている。
「サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルフェイズに二回の攻撃が出来る! ダイレクトアタックだ! エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ァ!」
この一撃を受ければ敗北こそ避けられるものの致命傷。だがその時彩葉の場のリバースカードが翻った。
「トラップカード[パワー・ウォール]! 相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動でき、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは2800、これが0になるように500ダメージにつき一枚、よって六枚のカードを墓地に送るよ」
デッキの上から居合い抜きのように抜いて投げつけた六枚のカードが壁になってエヴォリューション・ツイン・バーストの直撃を防ぐ。そして彩葉は投げたカードをさささっと拾って墓地に送った。
「ふふ~んどうしたのカイザー? まさかこの程度~?」
「このターンはな。メインフェイズ2に入る」
そして上手く相手の攻撃をかわしつつ墓地肥やしをした彩葉がニヤニヤと笑いながら煽るが、亮はさらりと受け流して手札を取った。
「魔法カード[タイムカプセル]を発動する。説明はするまでもないな?」
亮が発動したのはさっきのターンにも彩葉が使用した棺型のカプセル。その中に一枚のカードが封印され、カプセルは地中へと消えていく。そして亮は静かに「ターンエンド」と宣言した。
「私のターン、ドロー!」
一気に状況をひっくり返され、しかし彩葉は余裕そうな笑みを浮かべながらカードをドロー。ドローカードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[壺の中の魔術書]を発動! 互いのプレイヤーはデッキからカードを三枚ドローする! カイザーも遠慮しなくていいからね?」
「ふ。ではお言葉に甘えてドローさせてもらうとしよう」
互いに三枚のカードをドロー、一気に手札を四枚まで増強する。
「私は[サイバー・ダーク・エッジ]を召喚し、効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・クローを装備するよ」
サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:800→2400
彩葉の場に現れた新たなサイバー・ダークモンスタ──―サイバー・ダーク・エッジの腹部に格納されていたケーブルが地面へと伸び、さっきのパワー・ウォールで墓地に送られたのだろうこちらも新たなサイバー・ダークモンスタ──―サイバー・ダーク・クローを引きずり出すと腹部に装着。そのエネルギーを吸い取って己の攻撃力を上昇させる。
「バトル! そしてサイバー・ダーク・エッジは攻撃力がダメージ計算時にのみ半分になる代わりにダイレクトアタックが出来る! ダイレクトアタック!」
サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:2400→1200
「く……」LP4000→2800
「サイバー・ダーク・クローの効果発動。このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動でき、融合デッキからモンスター一体を墓地へ送る。私は[F・G・D]を墓地に送るね。リバースカードを二枚セットしてターンエンド」
サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:1200→2400
半減したとはいえ1200の戦闘ダメージ。その一発だけでライフ差が僅かにとはいえ逆転し、さらに彩葉はモンスターをデッキから墓地に送り、伏せカードを増やして次の手の布石を打ちターンエンドを宣言する。
壺の中の魔術書
通常魔法(漫画オリカ)
互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。
「俺のターンだ、ドロー」
亮は彩葉のカードの効果と、さらにこのドローも含めて五枚になった手札をじっくりと確認する。
「バトルだ」
そして何もせずにバトルフェイズを宣言した。
「サイバー・ツイン・ドラゴンでサイバー・ダーク・エッジを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」
「く……だけどこの時、サイバー・ダーク・エッジの効果! このカードが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する!」LP2900→2500
サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:2400→800
サイバー・ツイン・ドラゴンの放ったレーザーがサイバー・ダーク・エッジを貫こうとした時、サイバー・ダーク・エッジはケーブルを動かしてサイバー・ダーク・クローを盾にするように展開。サイバー・ダーク・クローの破壊の代わりに自身の破壊は免れた。
「そして破壊されたサイバー・ダーク・クローの効果発動! モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地のサイバー・ダークモンスター一体を手札に加える。私は[サイバー・ダーク・カノン]を手札に加えるよ」
さらにサイバー・ダーク・クローの置き土産として彩葉は墓地からサイバー・ダーク・カノンを手札に加えた。
「だが、サイバー・ツイン・ドラゴンにはもう一度攻撃権が残っている! 第二打ァ!」
「きゃあああぁぁぁぁっ!!」LP2500→500
しかし続けての攻撃を防ぐことは出来ず、二発目のレーザーにサイバー・ダーク・エッジが粉砕、爆破。その際に発生した衝撃波という形で一気に大ダメージが彩葉を襲い、彼女の悲鳴が響く。
「俺はリバースカードを二枚セットし、ターンエンドだ」
「ふ、ふふ……流石はカイザー、全力だねー☆」
「お前が相手だからな。手加減など出来ん」
彩葉がにぱっと微笑んで言うのに対し、亮は静かに答える。
ま、それもそうだよね。と彩葉は笑いながらカードをドローし、同時に彼女の場の床がひび割れ、そこから棺型タイムカプセルが出現した。
「タイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」
タイムカプセルに徐々にヒビが入り、ついには破壊。同時に棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡った。にひ、と彩葉の口角が吊り上がる。
だがしかしその出番はまだ早い、というように、彼女は棺の中に封印されていたカードを手札に封じ、別のカードを手に取った。
「手札から[サイバー・ダーク・カノン]を捨てて効果を発動、[サイバー・ダーク・キール]を手札に加える」
さっきのターン手札に加えたカードの効果により、さらに新たなサイバー・ダークモンスターが彩葉の手に渡る。そして彼女は棺の中に封印されていたカードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[サイバーダーク・インパクト!]を発動! 自分の手札・フィールド・墓地から、[サイバー・ダーク・ホーン]、[サイバー・ダーク・エッジ]、[サイバー・ダーク・キール]を一枚ずつ持ち主のデッキに戻し、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]一体を融合召喚する!
墓地のホーン、エッジ、手札のキールでサイバーダーク・インパクト! 現れろ、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]!!」
鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000
「来たか、裏サイバー流の切り札……」
「これだけじゃすまないっていうのはもちろん知ってるよね☆ サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備。このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私はさっきのターン墓地に送った[F・G・D]を装備、その元々の攻撃力5000、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力がアップ」
鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000→6000
攻撃力6000。まさしく桁違いの攻撃力に観客となっている万丈目の取り巻き二人が悲鳴を上げ、鮫島が「彩葉君、ここまでやるようになりましたか」と感心したように頷いた。
「さらにサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は自分の墓地のモンスターの数×100アップする。私の墓地のモンスターはサイバー・ダーク・カノン、ハウンド・ドラゴン、サイバー・ダーク・クロー、ベビードラゴン、強化支援メカ・ヘビーウェポンの五体! よって攻撃力がさらに500ポイントアップ!」
鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:6500
「こ、攻撃力6500だって!?」
「あんなモンスターの攻撃を受けちまったら、いくらカイザーでも……」
万丈目とのデュエルで見せたものとは大違いのとんでもない攻撃力に万丈目の取り巻き二人が頭を抱え悲鳴を上げる。落ち目の万丈目はともかくもしやカイザーと呼ばれる亮までも敗北するのかと二人が息を飲む横で鮫島は静かに見守っていた。
「まさかカイザーが、こんな程度で終わっちゃうのかな? サイバー・ダーク・ドラゴンでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」
F・G・Dから吸収したエネルギーをレーザーのエネルギーに変換。高出力のレーザーがサイバー・ダーク・ドラゴンの口から放たれ、抵抗を許すことなくサイバー・ツイン・ドラゴンを貫き、粉砕。大爆発が亮のフィールドを包み込んだ。
「カ、カイザー!?」
「嘘だろ、まさか本当に……」
万丈目の取り巻き二人が席から乗り出して目を剥く。そして大爆発によって生じた煙が晴れていく。
「ふ……」LP950
そこにはライフを僅かに残して立つ亮の姿があった。
「……あは☆ さっすがカイザー。この程度で終わっちゃうなんてありえないもんねー……[ダメージ・ダイエット]で守ったんだね」
「その通りだ」
彩葉の言葉に亮が首肯。
ダメージ・ダイエット。発動したターン、コントローラーの受ける全てのダメージを半分にするトラップカード。
これによってサイバー・ダーク・ドラゴンとサイバー・ツイン・ドラゴンの戦闘によって受ける戦闘ダメージ3700が半減して1850になり、本来なら即死となる攻撃を生き残ったという仕組みである。
「でも、これでサイバー・ツイン・ドラゴンは倒した。このまま押し切れば私の勝ちだよ? 私はカードを一枚セットしてターンエンド」
「そうでなくては張り合いがないというものだ。俺のターン、ドロー」
彩葉は勝利を確信したように笑いながらターンエンドを宣言。亮がカードをドローした時、彼の場にも先ほどのターンの彩葉と同じ棺型のカプセルが出現、砕け散って彼の手に封印されていたカードを加えさせる。
「──このタイミングで、リバースカードオープン」
そこに彩葉が仕掛けた。
「[マインドクラッシュ]を発動。カード名を一つ宣言し、そのカードが相手の手札にある場合は相手はそのカードを全て捨て、ない場合は私が手札をランダムに一枚捨てる」
もっとも私の手札はこの一枚だけだけど。と補足、ジッと亮の手札を見た。
「私が狙うのはタイムカプセルで手札に加わったカード。それは間違いなく、[パワー・ボンド]!」
パワー・ボンド。カイザー亮を象徴するキラーカードと言っていいだろう。タイムカプセルによるサーチを狙ったコンボに万丈目の取り巻き二人がざわつき、鮫島が上手い使い方だというように頷く。
「俺の手札は[救援光]、[魔法石の採掘]、[強制転移]、[死者蘇生]、そして──」
亮は正々堂々と一枚ずつ己の手札を公開、そして最後の一枚を微笑と共に公開した。
「──[サイバー・ドラゴン]だ。残念ながら、俺の手札に[パワー・ボンド]は存在しない」
「な!? そんな、嘘!?」
タイムカプセルでサーチしたのはパワー・ボンドではなかった。その事実に彩葉が狼狽すると亮はふっと笑みを浮かべた。
「彩葉。お前はふざけているように見えて計算高く抜け目がない。そんなお前なら、俺がタイムカプセルでパワー・ボンドをサーチし、そこを見計らって手札破壊カードとのコンボを仕掛けてくる……それを俺が読めないと思ったか? マインドクラッシュの効果で手札を捨ててもらうぞ」
「っ……」
亮が静かに、だが力強く断言。相手の行動を読み、敢えて自らが得意とするプレイングを崩して相手の読みを外させるプレイングに彩葉は息を飲んで唇を震わせつつ最後の手札を捨てる。
「には☆」
そして彼女は煽るような笑みを浮かべた。
「でも~。これで私の手札はたしかにゼロだけど、カイザーも場がボロボロなのは変わんないよね~?」
「そうだな。なら一つずつ解決していくとしよう。俺は魔法カード[救援光]を発動、ライフを800支払い、ゲームから除外されている光属性モンスター[サイバー・ドラゴン]を手札に加える。次に[死者蘇生]を発動、墓地の[サイバー・ドラゴン]を特殊召喚」LP950→150
サイバー・ドラゴン 守備力:1600
「んふふ。防御で手一杯かなぁ?」
これで場と手札にサイバー・ドラゴンが三体揃ったが、肝心の融合カードが存在しない。これならサイバー・エンド・ドラゴンはもちろんサイバー融合モンスターが来る心配はないと笑う彩葉だった。
「ああ。抜け目のないお前が相手だからな、俺も奇策を行うしかお前の読みと計算に太刀打ちできなかった。例えば──」
そんな彩葉に対し、亮も静かに頷いて話し始める。それと同時に、亮が最初のターンに伏せていたリバースカードが翻る。
「──敢えて[パワー・ボンド]を伏せておく。とかな」
「…………」
どこか悪戯っぽい微笑を浮かべた表情な亮の場に翻った魔法カードは間違いなく[パワー・ボンド]。
そのカードを見た彩葉の目が点になり、あんぐりと開いた口からは微妙に長い無言の後、「え? ちょ、は?」と声にならない声が出ていた。
「お前の事だ。サーチしてきたカードを手札破壊カードで叩き落としてくるだろうとは読んでいた。その中でピーピングされてパワー・ボンドを握っているとばれて警戒されるよりは、敢えてお前の目が届かない場所に置いて油断させるのも手かと思ってな」
彩葉の戦術を予測し、それを崩すために敢えて手札に握っておくべきカードを伏せておく奇策を選んだ亮。それが見事に成功し、三体のサイバー・ドラゴンが融合する。
「出でよ、[サイバー・エンド・ドラゴン]!! パワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!!」
サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000→8000
「攻撃力8000! これならあいつのモンスターにも勝てる!」
「この攻撃が通ればカイザーの勝ちだ!」
亮の場に現れる、サイバー流免許皆伝の証にしてカイザー亮の切り札──サイバー・エンド・ドラゴン。
その圧倒的な攻撃力に万丈目の取り巻き二人が盛り上がり始める。
「んふふ、ざ~んねんでした♪」
しかし、そこに彩葉が歌うように割り込む。
「サイバー・エンド・ドラゴンの融合召喚に成功した瞬間、トラップカード発動[ヘル・ポリマー]。自分フィールド上のモンスター一体を生け贄に捧げる事で、その融合モンスター一体のコントロールを得る。サイバー・ダーク・ドラゴンを生贄に捧げ、サイバー・エンド・ドラゴンのコントロールを得るよ」
「そう来るか……」
サイバー・ダーク・ドラゴンが黒い煙となって消え、その煙がサイバー・エンド・ドラゴンにまとわりつく。そしてその煙が消えた時、サイバー・エンド・ドラゴンは彩葉を主とするように彼女の場に立ち、亮に敵意を向けていた。
「カイザーのサイバー・エンド・ドラゴンが!?」
「それだけではありません。亮はパワー・ボンドを使ってサイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚しています」
万丈目の取り巻きAが驚愕の声を上げると鮫島が解説を始める。
パワー・ボンド、機械族の専用融合魔法であり、融合召喚したモンスターの攻撃力を倍加させる爆発力のある融合カード。だがその代償としてエンドフェイズに融合召喚したモンスターの元々の攻撃力、つまり今回の場合は4000ダメージを受けてしまう。
墓地から除外する事で効果ダメージを半減させられるダメージ・ダイエットを併用したとしても今のライフでは耐えきれないダメージだ。
「よしんば耐えたとしても、その時は次のターン、攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンが亮に牙を剥く。亮も彩葉君の動きを読んでいましたが、彩葉君もまた亮の動きを読んでいたというわけですね」
「な、なるほど……」
「だけどあいつ! さっきから卑怯な手ばっかり使いやがって!」
このまま何も出来ずにターンを終了すればパワー・ボンドの反動により敗北、もしそれを耐えられたとしても攻撃力8000に貫通効果が加わるサイバー・エンド・ドラゴンのパワーの前では小手先の技などどうにもならないという二段重ねの策。
そんな鮫島の解説を聞いた万丈目の取り巻きAが頷くと、万丈目の取り巻きBが憤る。
おジャマトリオで亮の展開を妨害しようとしたり融合召喚を融合禁止エリアで妨害したりタイムカプセルに合わせたマインドクラッシュを使ってくる。亮の行動を妨害していくスタイルに憤る万丈目の取り巻きに、その声が聞こえたのか彩葉が「には☆」と笑みを見せた。
「卑怯なんて人聞き悪いな~? これ、私なりのリスペクトデュエルなんだけどね~?」
「これのどこがリスペクトデュエルだ卑怯者!」
「恥を知りやがれ!」
彩葉の言葉に万丈目の取り巻きが腕を振り上げてブーイングを出す。
「彩葉、お前のリスペクトデュエルは付き合いの長い俺から見ても少々分かりにくいぞ」
「こんなに単純なのに?」
ブーイングに見ていられなくなったのかぼやく亮に、彩葉はきょとんとしながら首を傾げる。
「相手の力に敬意を払い、私の全力でそれを打ち砕き勝利する。自分のカードに敬意を払い、勝利のために最大限活躍させる。それが私のリスペクトデュエルだよ?」
相手を認めリスペクトする、だからこそ全力で勝つ事を目指す。
にひっと笑いながらそう言う彩葉の表情は純粋で、思わず万丈目の取り巻きが二人とも黙りこくる横で鮫島もうんうんと頷いた。
「私達の信じるリスペクトデュエルとは少々考え方が違うものの、それもまた相手に対するリスペクトに変わりはない。そう信じたからこそ、私は彼女にサイバー流の免許皆伝を与え、彼女ならば新たなリスペクトデュエルの道をサイバー流に見せてくれると信じ、我がサイバー流ではリスペクトに反するとされて封印されていた裏サイバー流デッキを託しました……」
「だが……」
鮫島と亮は、彩葉のリスペクトデュエルに理解を示しつつ、苦い表情を彼女に向ける。
「その煽り癖はどうにかならないのか? そのせいでお前は相手へのリスペクトが分かりにくいんだ」
「趣味だもん♪」
どんがらがっしゃん、と万丈目の取り巻き二人がずっこけるのだった。
「で、どうするのカイザー? 自爆する? それともなんとか耐えて次のターンサイバー・エンド・ドラゴンにやられる?」
「どっちもお断りだ。と返そう」
相変わらずニヤニヤ笑いで煽ってくる彩葉に亮はそう答え、その意志を示すように一枚のカードを発動した。
「魔法カード、[強制転移]発動。互いのプレイヤーは自分フィールドのモンスターを一体選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。俺はおジャマトークンを選択」
「私は……サイバー・エンド・ドラゴンを選択する」
互いにフィールドのモンスターは一体ずつ。そのコントロールが入れ替わり、亮の場に再びサイバー・エンド・ドラゴンが戻ってくる。
ギリ、と彩葉が悔しげに表情を歪ませて歯ぎしりする。
「……なんてね」
その顔に不敵な笑みが浮かび、リバースカードが翻る。
「トラップ発動[トロイボム]。自分フィールド上のモンスターのコントロールが相手のカードの効果によって相手に移った時、そのモンスター一体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」
「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は8000!」
「あいつ、ここまで罠を張ってたのかよ!?」
じっとしていればパワー・ボンドの反動で自滅、パワー・ボンドの反動を耐えてもサイバー・エンド・ドラゴンの猛攻に晒される。そしてサイバー・エンド・ドラゴンを取り戻せばそれを想定していたメタカードで破壊され、さらにダメージを受けて敗北する。
二重ではない、三重の罠に万丈目の取り巻き二人がまたも悲鳴を上げ、そしてサイバー・エンド・ドラゴンの内部からエネルギーが奔流する。このままでは自爆するのは時間の問題だ。
「……惜しかったな、彩葉。バーンは蛇足だった」
それに対し、亮がふっと笑い、彼の場のリバースカードが翻る。
「カウンタートラップ、[ダメージ・ポラリライザー]。ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができ、その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」
「な……」
ダメージ・ポラリライザーのカードから漏れ出る光がサイバー・エンド・ドラゴンの自爆を防ぎ、正常な状態に戻す。その迷いのないプレイングに彩葉が絶句していると亮が口を開く。
「お前がマインドクラッシュを使い、俺の手札を確認した時点でコントロール奪取カードへのメタカードを伏せている事は想定していた。[強制転移]を見ていたのにお前は何の迷いもなくヘル・ポリマーでサイバー・エンド・ドラゴンを奪取してきたからな」
「く……」
相手の僅かな仕草からも相手の戦術を推測、相手が行ってくるだろうあらゆる可能性を想定して己が今出来る手段で最善の対策をする。これもまた相手に対するリスペクトだろう。
そのまま二人はカードをドロー、亮はドローカードを見てふっと微笑んだ後、彩葉をキッと睨みつけた。
「いくぞ、彩葉! 俺は装備魔法[エターナル・エヴォリューション・バースト]をサイバー・エンド・ドラゴンに装備し、バトル! この瞬間エターナル・エヴォリューション・バーストの効果! このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分バトルフェイズ中に相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない」
「っ!? それじゃあ……」
「本当に抜け目がなかったな、お前は。これにより、効果発動タイミングがバトルフェイズに限られる、お前の墓地の[超電磁タートル]は効果が発動できない……まったく、転んでもただでは起きない奴だ」
マインドクラッシュのデメリットで捨てたのだろう。最後まで抜け目ない妹弟子に苦笑を漏らしながらも、亮は彩葉をビシッと指差した。
「ゆけ、サイバー・エンド・ドラゴン!!! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!!」
亮からの指示を受け、サイバー・エンド・ドラゴンが三つ首の頭部、その口からエネルギーのレーザーを彩葉の場に異動したおジャマトークン目掛けて撃ち込む。その一撃におジャマトークンは呆気なく粉砕され、レーザーは勢い衰えぬまま彩葉へと突き進む。
(ごめん、サイバー・ダーク・ドラゴン、皆……あなた達の勝利のための献身を無駄にした……)LP500→0
彩葉は心中にてエース、そしてこのデュエルで力を貸してくれた全てのカードへの謝罪を行いながら、エターナル・エヴォリューション・バーストの光に呑み込まれるのだった。
「「……」」
彩葉ががくりと膝をつき、亮は緊張の糸が切れたというようにふぅ、と息を吐いて肩を撫でおろし身体の力を抜く。
観客になっていた万丈目の取り巻き二人が、最後の攻防に目を剥いて動けない中、鮫島が静かに立ち上がって観客席からデュエルフィールドへと降りていく。
「素晴らしいデュエルでしたよ。亮、彩葉君」
「師範」
「げっ」
さりげなくデュエルフィールドにまで上がってきた鮫島の姿に亮と彩葉が真逆の反応を見せる。
「亮。相手の僅かな仕草から戦術を予測し、対応する。相手に対するリスペクトが伺えるデュエルでした」
「ありがとうございます」
「彩葉君。今回は亮が一歩上回りましたが、いかなる状況においても最後まで勝利を諦めない姿勢。亮の全力に己も全力で応え、それを上回ろうとする勝利への意志。あなたのリスペクトデュエルを見せてもらいました」
「あ、あはは~ありがとうございます校長先生では私はこれで……」
鮫島からの総評を受けた亮は恭しく頭を下げ、彩葉は引きつった笑みを漏らしながら言葉をまくし立ててそーっとその場を逃げようとする。しかし鮫島に背を向けた瞬間、彼女の肩ががしりと掴まれた。誰に、など言うまでもない。
「いえいえ彩葉君、あなたにはまだ話がありますよ?」
鮫島だ。その顔にはニコニコとした笑顔が浮かんでいるものの、額には二つ三つでは済まない数の怒りマークがついていた。
「中等部を追い出されるレベルで色々やらかしている件、私が言った通り大人しく船に乗らずどこからかジェットスキーをかっぱらってデュエルアカデミアに不法侵入した件、そして前々から言っているその言葉遣い! 趣味と言っていたのが聞こえましたよ! 今から説教もとい私が直々に特別講義をしてあげましょう!」
鮫島にずりずりと引きずられる彩葉。流石におじさんとはいえ大人と年齢的には中学生女子では力の差は明らかで、彩葉は何も抵抗が出来ずに引きずられる中必死で亮に手を伸ばす。
「い~や~! 助けて亮お兄ちゃん鮫島師範にわからせられちゃう~!」
「少しは反省しろ。俺もお前の言葉遣いだけは相手に対するリスペクトがなっていないと思っていたんだ」
しかし彩葉の助けを求める声に亮は呆れたように目を細めて答え、彩葉が鮫島に引っ張っていかれるのを腕組みして見守るのみ。
そして彼女が鮫島と共に去っていくのを見送った後、ふぅと息を吐いた。
「まったく、相変わらずの問題児だな。あいつは」
とはいえ妹弟子である事に変わりはなく、少しは世話を焼くのもいいだろう。
亮はそう考えてこれから彼女が編入する高等部一年の知り合いである明日香に女子寮にいる間だけでも彼女の世話を頼もうかと、あと彼女と一応は幼馴染に分類されて子分扱いされていた
《後書き》
「ストラクチャーデッキ-サイバー流の後継者-」及び「サイバー流・奥義相伝パック」発売決定おめでとうございます!(挨拶)
というわけで、それをお祝いして&最近あるサイバー流アンチ系GXものにハマったのにあって彩葉VS亮のIF話を書いてみました。時間軸的には本編で彩葉が万丈目を打ち倒した後、亮からデュエルを挑まれたのに乗った場合というIFになります。
そして書いてみた結果、今回はメスガキ成分はやや抑えめになりました。カイザーを相手にすると彩葉も煽る余裕がないし、亮も相手の事をよく知ってるから煽りや挑発に乗ったりしなくて煽りがいがない。
そんなわけで今回はむしろ彼女なりのリスペクトデュエルを語る形になりましたが……実はこの作品、前身といえる設定がありまして。
元々彩葉は「遊戯王GX~裏サイバー流列伝!~」という、たしかサイバー・ダーク・カノンやサイバー・ダーク・クローみたいなサイバー・ダーク新規が登場したのを機に思いついて書こうとした小説のオリ主として考えたキャラで、そちらではメスガキ成分はなくむしろ「相手と対等に認め合い、全力で戦って勝利を目指す。それこそがリスペクトデュエルである」という、遊戯王GXで掲げられたリスペクトデュエルとは異なる考え方のリスペクトデュエルを目指すキャラという位置づけでした。
なおその作品内では彩葉は「サイバー流で修行していた頃、サイバー・ダーク達の戦いたいという声を聞いて裏サイバー流デッキを奪い取って逃げ出したせいでサイバー流から破門された」というトンデモ設定でした。(汗)
そしてデュエルアカデミア入学を機に亮と戦い、己の目指すリスペクトデュエルを鮫島に認めさせ、デュエルアカデミアに己のリスペクトデュエルで波乱万丈を巻き起こす物語……を予定していたんですが色々ありまして頓挫。
そしてこの作品を思いついて彩葉にメスガキ成分を追加して作ったのが本作になります。
だからメスガキを表に出す余裕がなかったら自分なりのリスペクトと勝利を追い求める求道者モードになるのも当然といいますか……。(目逸らし)
あとは今回の話を書こうと思い至ったきっかけがサイバー流アンチものだったので、彩葉のリスペクトデュエル像を出してみたかったというのもあったりしますね。(笑)
まあそんな感じの今回のお話でした。続きがあるのかどうかは分かりません。多分ないと思います。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。