思いついた短編集   作:樹矢

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一誠に兄がいたらこうなっていたかもしれない。そんな話。


オリ主:兵藤 誠司
兵藤 一誠の兄。神器も特別な能力も才能も無い、どこにでもいるような普通の人間。
ただ、弟だけは違かった。


原作:ハイスクールDxD
ハイスクールDxD:ただの人間、一誠の兄


 いつの日からだったか? 弟が何故か女性の胸に異様な執着を見せ始めたのは。

 中学校の頃には既に始まっていた。プールの更衣室を覗こうとしたと聞いた時には耳を疑った。先生からそれを聞いた時、俺は弟がおかしくなってしまったのではないかと心配した。

 当然、その問題はあっという間に保護者会で広まった。頭を下げる両親を横目に、弟は知らぬ存ぜぬといった態度を示した。

 

 今思えば、それはまだ始まりだったのだろう。

 中学に上がれば今では駒王学園のエロ3人組のメンバーと、人目もはばからずにエロ談義をするようになった。後輩達から懇願され注意するも、一切その行動を直す様子を見せなかった。

 ついにブチ切れたことがあった。

 

『いい加減にしろよ! 何で俺に注意された事を直さない!? 覗きも猥談もやってんじゃねぇよ! お前は一体何度言われたら気が済むんだ!!』

 

 そして弟は、当然のようにその言葉を放った。

 

『でもおっぱいを望むのは男として当然だろ!』

 

 何を言っているのかわからなかった。でも同時にこう思っていたのかもしれない。

 

 ───コイツはもう、どうにもならない。

 

 気がつけば弟のやらかした事の尻拭いに奔走していた。覗かれて精神的苦痛を受けた女子に、弟の代わりに謝ることもあった。両親と共にその家族に謝りに行ったこともある。酷い時には親御さんに全力で殴られたこともあった。

 

 本音を言えば、可愛い女子と付き合ったりしたかった。綺麗な人に一目惚れもしてみたかった。

 でも、弟の被害者になってしまうかもしれない恐怖から、そんなことは全部止めて。

 恋愛でやりたいことを投げ捨てて。

 普通の高校生活でやりたかったことを諦めて。

 望まない弟の犯罪行為の尻拭いをやらされる日々。

 

 もう疲れた。

 

 何で俺がこんな目に合わなければならないのだろう。

 同級生の女子達からは猜疑心に満ちた視線ばかり向けられる。男子達からは除け者にされる。

 ある日別の組の女子に怒りをぶつけられた。俺の弟に、彼女の妹が覗かれ、登校拒否をするようになったらしい。

 でも俺もいっぱいいっぱいだった。もう我慢の限界だった。

 

『俺だって何もしてない訳がねぇだろ!! 何度も注意した! 何度も怒った! 叱った! 諭した! なのにあいつは直そうともしねぇ! 中学校からずっとそうだ! 

 あいつの尻拭いばかりやってきた! 何度もお前と同じことを言われたさ! 被害者の親御さんに殴られたこともあった! その人達の目の前に弟を突き出しても! 弟は欠片も反省しねぇんだ! 

 毎日毎日何度も怒って! それでも直してくれやしない! 散々言っても! どんな手を使っても直ってくれないんだよ! 父さんと母さんだって何度も俺と同じことをした! でもアイツは変わらねぇんだ! 変わってくれねぇんだ! 

 …………言いたいことは嫌でもわかるよ…………。怒るななんて言わないさ…………。

 でも、もう俺には、俺達にはもう、無理なんだよ………………』

 

 そのまま思わず泣いてしまった。俺が泣いていい立場にいないことなんてわかっていたのに、その時は涙が流れるのを堪えきれなかった。

 その日からだろうか。少なくともクラスメイトからの視線はマシになった。3年に進級する頃には同級生達は俺には理解を示してくれた。

 それでも、俺の弟を理由に退学や転校をする女子は後を絶たなかった。

 

 弟の悪行は止まらない。白昼堂々エロゲやエロ本まで教室の机に取り出す始末。弟のエロゲを全て売り払い、エロ本を全て焼き払ったこともある。パソコンに保存されたエロゲのデータを全て抹消したこともある。理由は1つ。これで反省するきっかけになって欲しい、ただそれだけだった。

 でも弟はまた性懲りも無くエロ本とエロゲを買った。両親は何かと甘いところがある。きっと俺が産まれる前に、俺の兄か姉になる筈だった人を流産していたからかもしれない。弟は両親から貰った小遣いで、俺が捨てて焼き払う前と同じものを買っていた。

 両親からしてみれば親の愛情なのだろうが、だからと言ってまたエロ本とエロゲを買ってしまうのは目に見えていた筈なのに。

 正に、手に負えないとはこのことだった。

 

 ある日からアーシア・アルジェントという女子がホームステイに来た。俺は何も知らされていなかった。弟の誠実な部分を見たのだろうか? 彼女は弟に懐いていた。

 どうしてもそうなのかを聞いてみれば、やはり悪行で埋め尽くされていながらも、1番根底にあった誠実さに惚れていたらしい。それでも弟のやっていることは、やってきたことは変わらない。

 弟のエロゲやエロ本の間違った知識を吸収してしまったのか、やけに弟に性的アピールをするようになっていた。当然注意したものの、言っても意味が無い予感をふつふつと感じずにはいられなかった。

 次は同級生のグレモリーが住み着いた。何故か一晩で家は豪邸になっていた。部屋の場所も間取りも、前日のものとは見る影もない。変態になる前の一誠と思い出を作った部屋も無くなっていた。弟は困惑しながらもすぐに受け入れ、両親もそれが当たり前のように受け入れていた。訳が分からないの一言に尽きる。

 

 ふと隣にあったはずの家を見る。そこは我が家の敷地になってしまっていたが、そこには俺たちを自分の孫同然に可愛がってくれた爺さんが住んでいた。偶にお菓子やみかんをくれたりした時もあった。その爺さんは、もう居ない。それを平然と受け入れる家族の中で、俺が異物になっている感覚を感じずにはいられなかった。

 

 ふと見渡せば、弟の周りに学園の人気者が集まるようになっていた。グレモリー、姫島、塔城、アルジェント、クァルタ…………。贔屓目抜きにしても美少女揃いだが、何故そこまであの弟に入れ込むのかがわからない。やっていることは変わっていないし、悪評だって嫌という程聞こえているはずなのに。

 

 とはいえ、もうしばらくの辛抱だ。受験になれば嫌でも関わることは無くなる。進学先も県外に決めた。後輩達には悪いが、俺はこの駒王町からいなくなりたいのだ。もう弟の尻拭いはやりたくないから。

 夏休みに志望校近くを見て回った。1番行きたい大学から丁度いい場所に下宿屋があった。

『瑞穂荘』というそこは家賃もお手軽、コンビニやスーパーも近く、駅にも近いという好条件が揃っていた。買い物帰りの大家さんと出くわし、話をして帰る。話の途中、苦労や疲れを抱えていることを見破られた。この人には敵わない。そんな気がした。

 そして大家さんが優しい人だと思うと同時に、弟がいきなりやってきて迷惑をかけてしまわないかと不安になった。

 

 学校を休んで京都にある志望校周辺を見て回ると同時に、京都の祇園を観光した。何となく、学校に行きたくなかったのが理由だ。

 観光中、着物を着た迷子と思しき女の子──九重ちゃんを保護し、その子の家族に電話した。

 流石に駒王から京都は遠いから予約した宿に泊まる。その晩、九重ちゃんが助けを求めてきた。なんでも母親が攫われたらしい。

 警察に電話しようとすれば妖怪だから対応できないと言われた。何を言っているのかと思っていると、九重ちゃんから狐の耳と尻尾が生えた。非常識に巻き込まれたと理解した瞬間だった。

 一晩中京都を駆け巡るも、一向に見つからず。翌朝、夜中には入れなかった二条城に行った。観光客に紛れて探索していると、いるはずの無い狐が道案内をしてくれた。

 道中空気のようなものがおどろおどろしいものに変わったと思えば、その先にいたのは金髪の和服美女。取り敢えず拘束らしきものは全て取り払い、気を失っている美女を連れて九重ちゃんと合流する。

 木を隠すなら森の中ということで、一時的とはいえ京都から離れて人が大勢泊まっている宿に泊まってもらう。目を覚ました美女──八坂さんにその部下の人達から説明をしてもらい、その後のゴタゴタを解決してもらった。

 予定より少し滞在が長引いたため、八坂さんが家に泊めてくれた。話を聞けば、八坂さんが捕まっていたところは妖怪の使う妖力やら魔力やらには反応するらしいが、それらを全く持っていない人間には反応しなかったそうだ。俺が八坂さんを救出できたのは、特別な力を何も持っていない俺だからできたことらしい。

 弟の学年が近々京都に修学旅行に来ることを思い出し、万が一弟が出くわし、迷惑をかけてしまった時に備えて電話番号を渡す。弟が何かやらかした時にはそこに電話をかけてくれと言って京都を後にした。

 数日後、八坂さんから電話が来た。何やら面倒事を起こされそうになったようだが、無事にどうにかなったらしい。事前に行った先で会った人達に迷惑はかけるなと忠告はしていたが、結局聞き入れてくれなかったらしい。家族を代表して謝罪すれば、弟の教育は少し厳しくするべきではないかと言われてしまった。全く耳の痛い言葉だ。事情を話したら同情されたが。

 

 そんな過去のことを振り返るが、それは全て現実逃避だ。

 もう息が途切れ途切れ。それどころか呼吸もろくにできやしない。

 弟の左腕には赤い篭手が装備されている。恐らくアレで俺を殴ったのだろう。制服が真っ赤に染まっていく。いつの間にか弟は、思考回路どころか存在か種族すらも非常識になっていたらしい。

 

 どうした? 何で怯えている? コレはお前のやったことだぞ。

 

「…………違う」

 

 違う? どこがだ。俺はお前に最後の説教をしていただけだ。兄として、家族として。その両方の、最後の愛情でお前を怒って、叱って、諭そうとしていただけだ。

 それをお前は暴力で拒否した。それがこの結果だ。

 

「違う………………」

 

 違わない。コレはお前のやったことだ。よく見ておけ。もう俺は助からない。俺が死んでいく様を目に焼き付けろ。

 

「違う………………!」

 

 弟が逃げ出す。どこへ行くというのだろう。どこに行こうと、お前が兄を殺したことは変わらない。

 

「…………さ………………て…………! …………さん!」

 

 誰の声だろう。もうそれすらわからない。殴られた場所を触る。

 骨が増えていた。肋骨が折れたのだろう。

 鼓動がなかった。心臓が止まったのかな? それとも潰れちゃったのかな? それとも破裂しちゃったのかな? 

 

「…………や……………………い! ………………せ……さ………………!!!」

 

 綺麗な黄緑色の光が見える。でも無理だよ。もう手遅れだ。

 

「あーあ………………どうして、こうなったのかなぁ………………」

 

 愛する弟の為にやりたいことも、やりたかったことも捨てた。もう少しで、弟の面倒から解放されると思ったのに。

 

「どうして………………変わっちまったんだよ…………一誠……………………」

 

 残念だよ、一誠。俺はお前を、お前の兄として、家族として確かに愛していたのに。

 

「やりたいこと…………あったのになぁ………………やってみたいことも…………あったのになぁ………………」

 

 お前に変わって欲しくて。そんな変態になる前に戻って欲しくて、頑張ったのに。

 

 いや、違うか。俺は怖かったんだ。俺の無自覚な本性が、お前が平然とやっている悪行を、大喜びでやるようなものかもしれないのが怖かった。俺はそうじゃないんだって、俺は弟とは違うんだって、それを証明する手段が、お前をマトモに戻すことだったのかもしれない。

 お前を反面教師にしても、自覚できない、周りにもわからない本性だけはどうにもならない。

 お前と同じような本性かもしれないと考えたら、何も考えられなくなるほどに怖くなる。

 ああ、でも。それももう、考えなくて済むのかな。怖がらなくて済むのかな。

 

 

「────もうお前の兄貴は、おしまいだ」

 

 もう、音も、光も。わからない。

 

 

 

「起きてください兵藤さん! 兵藤さん!!」

「目を開けてくれよ先輩!!」

「嫌です誠司さん! 起きて…………目を開けて下さい!!」

 

 ソーナが、匙が、アーシアが。息絶えた誠司に回復魔法をかけ続ける。

 でもわかっている。誠司は死んだ。手遅れなのだと。

 

「………………ソーナ」

「…………」

「…………1つ、手段があります」

「…………わかっています。でも、それは使いたくありません」

「ですが!!」

「そうやって生き返らせたら! またこの人は苦しみ続ける!」

 

 ソーナは知っていた。誠司の苦労を。苦痛を。生き返らせたら、またそれが誠司を苛む。そうなるくらいなら、このまま眠りにつかせた方がいいとすら思える。

 

「……………………」

 

 初めて生徒会に入った時に、分からないことだらけだった所を面倒良く助けてくれた初めての級友で、それ以外でも頼れる同級生だった。

 

「………………」

 

 兵士の駒を取り出す。残り1つ。ただの人間を悪魔にするには十分すぎる。

 誠司の悩みも、愚痴も、人柄も、その全部を知っている。恋愛感情には繋がらなくても、敢えて表現するなら一個人として好ましい人間だった。

 駒を握りしめ、誠司が最期に絞り出した後悔を思い出す。

 

 ─── やりたいこと…………あったのになぁ………………やってみたいことも…………あったのになぁ………………。

 

「…………兵藤さん、私を、恨んで下さい」

 

「コレは契約です。あなたを私は生き返らせる。その対価としてあなたは」

 

「───あなたのやりたかったことを、やってみたかったことを、やってください」

 

 そして青い光が輝き、兵藤誠司の体に駒が吸い込まれる。

 そして兵藤誠司は、悪魔として転生した。

 

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