【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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クウガとしてはお久しぶりです。
アギト&G3(X)が主役となる番外編、お楽しみください。


Chapter:1

 

 暗い鉄の牢に、その姿はあった。

 

「ぐう、あ゛、あああああ……ッ!」

 

 苦しみもがきながら、焼け爛れた肌を掻きむしる。それはとうの昔に負った傷痕であったはずなのに、凄まじい熱を発して男に苦痛をもたらしていた。ファントムペインのようなものか──いや違う。これが幻覚だとするなら、粟立った皮膚の隙間から白煙が漂っているはずがない。

 

「うぐ、あッ、がぁああああああ──ッ!!」

 

 苦痛が頂点に達した瞬間、男は絶叫していた。それが悪夢のはじまりを告げる号笛であることなど、誰も──彼自身ですら、知るはずがなかった。

 

 

 *

 

 

 

──数ヶ月後

 

 警視庁。遥か彼方の御世、維新の元勲が日本を世界に冠たる国家たらしめようと東奔西走していた頃より帝都東京を守護してきた警察機関。ただし人々の大多数が"個性"と呼ばれる特殊能力を持つ現代において、彼らは治安維持の主役の座をヒーローに譲ってきた。

 

 しかし今から三年前──なんの前触れもなく牙を剥いた異形の怪人たちの出現を契機として、その構図は少しずつ変わりつつある。なぜか。

 

 

『──準備はよろしいですか?』

 

 薄暗い演習室。警視庁の中でも民間人はおろか一般の警官はめったに入り込まないような奥の奥の一角に、鋼鉄の鎧を纏った戦士の姿があった。濃い青を基調とした装甲に、銀色の縁取りが施されている。落ち着いた色味の中にあって──燃えるような朱色の複眼が、頭部装甲の大部分を占めている。

 

 マイク越しに問いかけを受けた鎧の戦士は、声を発することなく頷く。それが肯定であることを確認した声の主は、オペレーション開始を告げた。

 

──刹那、サッカーボール大の鉄球が壁から打ち出され、弾丸のごとき速度で戦士に襲いかかる。

 仮に生身の人間に直撃すれば、急所であろうとなかろうと死は免れないような代物。だが戦士は避けるそぶりも見せない。それどころか、

 

「………」

 

 声すら発することのないまま、戦士は鉄球めがけて拳を突き出した。粉々に砕け散ったのは……鉄球。

 その一発を皮切りに、鉄球は次々に飛び出してくる。すると、今度は右腿に取り付けた拳銃を手にした。その銃口を迫りくる鉄球に向け……引き金を引く!

 

 射出された弾丸は豆粒ほどの大きさにもかかわらず、凄まじい貫通力と炸裂力をもって鉄球を粉砕した。さらに彼のもつ銃──"GM−01X スコーピオン改"の連射性能は拳銃はおろか、通常のマシンガンを遥かに凌駕する。ただ四方八方から降り注ぐ鉄球に対処するためには、纏う強化服の性能、そして装着者の動体視力も重要なファクターである。

 

 やがて、鉄球の雨がやんだ。スコーピオンを再びホルスターにマウントする戦士。──しかしオペレーション終了の指示はまだ、下されていない。

 次の瞬間、彼のちょうど背後から鉄球が襲いかかる。反応が間に合わない……いや、気づいてすらいない?

 

 いよいよ鉄球が命中をとるかと思われた刹那──戦士は此度、左腿に手をかけた。抜かれたのは、コンバットナイフ。無論ただのナイフではない、"GK−06 ユニコーン"──彼の専用装備である。

 

 一角獣の名を冠したそれは、持ち主の手により横薙ぎに一閃。飛翔する鉄球が、ぐずりと重い悲鳴をあげる。

 そして次の瞬間には、真っ二つに分かたれて床に墜落したのだった。

 

『オペレーション終了。撃墜率100パーセント、流石です!──』

 

『──心操さん!』

 

 頭部装甲の後部が展開して取り外され、汗に濡れた紫髪が露になる。そして、気だるげに細められた切れ長の瞳も。装甲の複眼とは、対照的なかたちをしている。

 

──心操人使、24歳。警視庁G3ユニット所属、強化服の装着員に任じられた青年である。

 

 

「腕が鈍っていないようで安心したよ、心操くん」

 

 演習終了後、シャワーを浴びてオフィスに戻った心操に、上司である猫頭の男、玉川三茶がそう声をかけてきた。

 

「新型の着心地はどうだい?」

『悪くはないです。前よりついていくのが大変ですけど』

「はは。これでも"第2世代(G2)"よりはマシになったんだ」

『みたいですね』

 

 と、奥でひたすらモニターとにらめっこをしていた桃色の髪の女が、「よ〜〜しッ!」と声をあげた。

 

「メンテナンス完了!──わたし科警研に呼ばれてますので、これにて失礼します!」

「あ、ああ。──ご苦労さま、発目くん」

 

 出会った当初から御しがたい女性である。発目明は疾風迅雷のごとく立ち去ろうとしたが、何かを思い出したらしく心操の前で立ち止まった。

 

「心操さん、喉のベイビーちゃんをお借りしてもいいですか?少しノイズが入っているような気がするので」

『!、ああ……構わないけど、いつまで?』

「夕方、こちらに戻ったらお返しします!」

『……わかった。よろしく頼む』

 

 頷いた心操は、首に巻いたデバイスを外して発目に手渡した。それを後生大事に紙袋へしまうと、今度こそ彼女は飛び出していく。一貫して技術畑にいるにもかかわらず、その身のこなしは洗練されている。常々時間との勝負を繰り広げている賜物なのだろうか。

 

「彼女はほんと、いつ寝てるんだろうな」

「……、………」

 

 相槌を打とうとして──心操は、己の喉からはもう空気の漏れるような音しか出ないことを思い出した。

 

 

──心操人使がG3ユニットと関わりをもったのは、まだ学生だった三年前の夏のこと。当時首都圏で猛威を振るっていた"未確認生命体"に対抗すべく生み出された"G3"の装着員として、数多の公募から選ばれたのがはじまりだった。

 学生の身ながら対未確認戦線の一翼を担うことになった心操は、関連事件合同捜査本部の面々、そして未確認生命体第4号と呼ばれたとある青年らとともに戦場を駆けた。G3の性能が常人に扱えるよう抑制されていたこと、当時強力な個体ばかりが出現するようになっていたことなどが重なり、めざましい活躍を遂げることはかなわなかったけれど……それでもG3は、警視庁の顔として認知されるまでになっていた。五ヶ月ほどの短い間だったけれど、市民の警察を見る目は大きく変わったのだ。

 

──心操人使という若者の、声を犠牲に。

 

 玉川がその事実に耐えがたい罪悪感を覚えるのは、時が経ち、警視庁に入庁した心操がG3……及び、その改良版であるG3−Xの装着員に再登板した今でも変わらないのだろう。

 "気にしないでください、かえって居辛いです"──手話でそう伝えてやると、玉川ははっとしたあと「ごめんニャ」と力ない笑みを浮かべた。発目の開発した電子発声デバイスだけに依らぬよう、彼が手話を猛勉強していたことは発目から聞いている。これ以上上司に気を遣わせることは、心操の本意ではなかった。

 

「……"彼ら"は、元気かな」

 

 三年前を思い出したのだろう、玉川のつぶやき。身体の一部を損なったのは自分だけではない。ともに戦った友人たちの顔を、心操も思い浮かべた。もとは学友で、自分より先んじて未確認生命体との戦いに身を投じた──"第4号"と呼ばれた青年。右足を失った彼はすべてが終わったあとで海外に渡り、その後は連絡も最低限しかとっていない。無論、疎遠になったわけではない。彼には自分自身のためだけの時間が必要なのだと、心操にはわかっていた。

 

──そして、もうひとりは。

 

 

 *

 

 

 

 都市部から離れた山間の別荘地。その一角に、ひときわ大きな和風建築があった。

 草木に囲われ、小鳥たちの囀りがやわらかく響く。彼らの美しい歌声に合わせるように、屋敷の中からは軽快な演奏が聴こえていた。

 

 広々としたリビングルームの片隅でグランドピアノを弾いているのは、頭髪の左右半分ずつを紅白で分け合った青年だった。すらりと長い手足に、整った顔立ち。左目の周囲に火傷痕が残されているのは痛々しいものの、かえってこの光景の儚さを際立たせていた。

 

 ただひとつ問題があるとすれば──肝心の手つきが、ひどくおぼつかないことか。青年もまた、切れ長のオッドアイを真ん中に寄せて指の動きを凝視している。

 

「手元を見すぎですわ、轟さん」

 

 傍らより注意する、女性の姿があった。長く伸ばした艷やかな黒髪を後ろで結い上げ、シンプルだが仕立ての良いベージュのワンピースを纏っている。彼女は名を八百万百といい、この別荘を所有する八百万家の令嬢であった。

 

「目は楽譜を眺めるくらいで結構です。もっと感覚に身を委ねるようになさってください」

「……難しいな」

 

 いったん演奏をやめ、息をつく青年。やはり手元を眺め……その指の動作をたしかめるようにしてしまうのは、必然的な理由をもつ行為で。

 

「でも、指の運び自体に問題はないと思います。リハビリとしては十分ではないかしら」

「そうか?」

「ええ」

 

「それなら、良かった」──そうつぶやき、微笑む青年。シンプルな濃紺のシャツから覗く肘先には、明らかに不自然な切れ込みがあって。

 彼──轟焦凍もまた、"仮面ライダー"と呼ばれる異形の戦士として未確認生命体と相見えたひとりだった。目を閉じれば戦いの日々が、まるで昨日のことのように思い出される。……敗北の果てに両腕を失った、劫火の記憶も。

 

 今ピアノを弾いていた指も含めた、切れ込みから下はすべて、人工的に造り出された義腕だった。本物の腕とほとんど遜色なく動かせるそれは、最近になってようやく完成したものだった。そこで八百万の別荘を借りて、彼はこの数ヶ月をリハビリに励んでいたのである──いつか、ヒーロー・ショートとして再び戦場に立つために。

 

「きょうはこれくらいにしませんこと?先日母から送っていただいたハーブティーとお茶菓子がありますの」

「……そうか。いつも、悪ィな」

「お気になさらないでください。わたくしの好きで、していることですので……」

 

 ぽっと頬を染め、微笑む百。少年時代ならいざ知らず、ここまで手を尽くしてもらってその想いがわからないほど焦凍は朴念仁ではない。ただ彼には異性との親しい交際に慎重なところがあって、それは深刻な理由を背景とするものだった。百も焦凍の事情は理解してくれていて、ゆえにこの期限付きの実質同棲生活の中でも焦凍に何かを求めてくることはない。一方的な献身はこれ以上はないほど有り難くて、しかし同時に、あまりに申し訳なくも思う。

 

「先に出ていてください、用意してまいりますので」

「あ、俺も手つだ──」

「出ていてください」

「………」

 

 有無を言わせぬ言葉に、焦凍は従わざるをえなかった。

 

 

 *

 

 

 

 百の言いつけに従い、焦凍はひとりで二階のバルコニーに出た。手すりを止り木代わりにした小鳥たちが、つぶらな瞳でこちらを見つめている。絶えず首を傾げるその姿が愛らしく、思わず頬が弛む。

 

「悪ィな、俺たちにも使わせてくれ」

 

 小鳥たちは是とも非とも当然ながら言わず、柔らかな囀りを続けている。暖かな風が頬を撫ぜる。

 

「ここは……こんなに穏やかなのにな」

 

 不意に溢れたつぶやきだった。見渡す限りの景色は自然にあふれ、惨禍の萌芽さえ見当たらない。しかしこの風景は世界のごく一部にすぎず、その大部分では今もどこかで争いが起きている。ヒーローとヴィラン──ヒトと、ヒト。

 

 世界がすべてこうであったら良いのに……いやいずれそうしてみせると、焦凍が決意を新たにしたその瞬間、目映い突風が吹きつけた。

 

「──、」

 

 小鳥たちが飛び立ち、大いなる翼が、入れ替わるようにして現る。

 

「やあ、久しぶりだね。──ショートくん」

「あなたは、」

 

 

「──ホークス……」

 

 ウイングヒーロー・ホークス。かつて超常解放戦線との死闘において中心的役割を果たした彼の到来は、唐突に訪れた嵐にも等しいものだった。

 

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