【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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Chapter:11

 

 防衛軍・八王子駐屯地はたったふたりの少年の手によって陥落の危機を迎えていた。

 

 所属する隊員らが銃器を手に駆けつけ、年端もいかない彼らに容赦ない攻撃を仕掛ける。常人なら跡形も残らないような火砲が、少年たちの身体に炸裂する。

 

「ガ……──オラァ!!」

 

 しかし少年の一方は、一瞬歩みを止める程度のダメージを受けたにすぎなかった。それも刹那のうちに癒え、彼は前進を再開する。

 

「ば……化け物」

 

 怯えた隊員の言葉は、比喩ではなくて。

 

「ああそうだよ──俺たちは化け物さぁ!!」

「!?」

 

 頭上から迫る怪物──隊員たちが今生で見た、最後の光景だった。

 ドリルのように回転する腕で胸を穿たれ、彼らは一瞬にして絶命したのだから。

 

「チッ、雑魚どもが」

「累はどこだぁ?おぉぉーーーい、累〜〜〜!!」

 

 叫ぶ姜一郎。当然、返事はなく。

 

「……呼んで答えられンなら、とっくに脱出してるだろ」

「あー?そういやそうかぁ」

 

 荼毘に見捨てられたといえど、与えられた力まで失ったわけではない。それをもってしても脱出がかなわないほど、彼は厳重に"管理"されているのだろう。

 

「おそらく、まだ奥だ。行くぞ」

「おうよ!」

 

 頷きあったふたりが、侵攻を再開しようとしたときだった。

 

 パトランプを光らせ鳴らして、青藍の戦士がマシンとともに姿を現したのは。

 

「ッ!」

 

 その突撃に、ふたりは咄嗟に地面を転がって退避するほかなかった。直後、甲高い音をたてて停止するマシン──ガードチェイサー。

 

「二体だけか……?」

『水城さんは行ってください。ここは、俺が』

「……感謝する!」

 

 基地の奥へ走る水城を背中で見送りつつ、怪物二体と対峙する。血のいろをした彼らの瞳が、憎悪を込めてこちらを睨みつけている。

 

「………」

 

 彼らは、グロンギとは違う。同感しうる事情を抱えているのだということもわかっている。

 

──それでも、彼らを行かせるわけにはいかない。

 

「「ガァアアアアアアア──ッ!!」」

 

 野獣の咆哮とともに、跳躍する怪物。鋭い爪と牙が迫らんとするところに、G3-Xは怯まず左手にスコーピオンを、右手にユニコーンを構えた。

 まず前者を標的に向け、躊躇なく引き金を引く。

 

「ガッ!?」

 

 弾丸を浴びた姜一郎はうめき声をあげ、その場に墜落する。しかし廻は腕をドリルのように回転させることでそれを防ぎ、遂に接敵した。

 

「ッ!」

 

 G3-Xはユニコーンを振りかざし、ドリルアームを受け止める。ぎりぎりと火花を散らし、鍔迫り合う怪物と機械じかけの戦士。

 

「邪魔をするな……!」

「……ッ、」

「俺たちは……ッ、仲間を救けるんだ……!」

 

 仲間──昨日の少年のことか。彼がこの施設に囚われ、どのような仕打ちを受けているのか……薄々想像はつく。

 それ自体、正しいこととは思わない。思わないけれど──

 

『おまえたちの行為は、間違っている……!』

 

 スコーピオンをマウントした心操は、躊躇なく拳を振り上げた。

 

 

 *

 

 

 

 一方、轟焦凍と八百万百もまた、八王子駐屯地の目前にまで迫っていた。

 

「あれは、防衛軍の?」

「らしいな」

「入れるかしら……入口で止められてしまうのでは?」

 

 確かに、防衛軍の施設となるとそれも懸念すべき点ではあるが。

 

「俺たちの対応に人を割けるなら、敵をある程度抑え込めてるってことになる。だが、もし俺たちがなんの抵抗もなく進入できるなら──」

「──それだけ、追い詰められているということですわね」

「ああ」

 

 前者なら付近に留まって様子を見るのも手だが、後者なら当然、突入する心積もりでいた。軍人であれ民間人であれ、守るべき命なのは変わらない。

 

 しかし、いよいよ駐屯地内まで100メートルというところまで来たときだった。

 

「!」

 

 目前にふたつの人影を認めて、マシンを停車させる。それらが何者かなど、凝視するまでもなくて。

 

「──よう、轟焦凍?」

「ッ、燈矢兄……!」

 

 侮蔑めいた笑みを浮かべ、立ちふさがる轟燈矢──荼毘。その傍らには、麻衣と呼ばれた少女が侍っている。

 

「やっぱり来たか。会いたかったぜ、()弟?」

「ッ、」

 

 "元"を強調するように呼ばれ、少なからず胸がざわめく。自分たちをもはや家族と思っていない言動は、どこまで本気なのか。

 

「にいさん!こんな"紛いもの"、私が……!」

 

 一方、悪辣な笑みを浮かべた麻衣がずい、と一歩を踏み出す。身構える焦凍らだったが、

 

「出来の悪い妹だな、おまえ」

「えっ……?」

「血ィ分けてやった累が敗けたんだ、俺が狩るに決まってんだろ。だいたい、にいさんに意見なんて百年早ぇんだよ……なあ?」

「ヒッ!ご……ごめんなさい……!」

 

 威圧され、怯える少女。荼毘としては、その反応で十分だったらしい。左手を彼女の頭に置き、右手で──百を指差した。

 

「おまえはあの女を押さえとけ。もちろん、殺しちまっても良いぜ?」

「……!」

 

 荼毘の言葉に、麻衣の目に殺意が宿る。それは一瞬にして膨れあがり──()()()()、弾けた。

 

「ウオァアアアアア──ッ!!」

 

 麻衣の姿が怪物へと変わり、もはや他には目もくれず百に襲いかかる。当然焦凍が黙って見ているわけもなく、氷結を奔らせてその挙動を妨害しようとするが、

 

「──ッ!?」

 

 蒼炎が氷を呑み込み、一瞬にして融解、蒸発させてしまう。

 

「おまえの相手は俺だっつったろ……焦凍ォ!!」

 

 人間の姿のまま、蒼炎を発しながら襲いくる荼毘。氷では先の二の舞だと、飛び退きながらも焦凍は燃焼で対抗した。──赤と青、ふたつの劫火がぶつかり合う。

 

「ッ、八百万!!」

 

 怪物を相手に、生身の彼女では勝ち目がない。ゆえにその名を叫ぶ焦凍だったが、予想に反して彼女は間一髪、麻衣の攻撃をかわしていた。

 

「轟さんっ、わたくしは大丈夫ですわ!」

「だが──」

「──よそ見すんなよ焦凍ォ!!」

 

──駄目だ。気を散らせば自分がやられる。

 

「ッ、うぉおおおおおおおおお!!!」

 

 雄叫びをあげ、焦凍は敵の懐に飛び込んだ。蒼炎を右の氷結で相殺しつつ──拳を、突き出す!

 

「ッ、」

 

 荼毘が初めてうめき声をあげ、後方へ大きく弾き飛ばされた。とはいえ、その表情から余裕は消えていない。蒼炎を前方に噴出することで勢いを殺し、ずりずりと地面を滑走しながら停止する。

 

「ふぅ〜……相変わらず、良いパンチだなァ」称賛しつつ、「でも……ちゃんとメシ、食ってるか?」

「……何?」

「随分、軽くなった。八年前はおまえ……そんなモンじゃなかったろ?」

「!」

 

 焦凍は少なからず動揺した。荼毘の言葉は的外れなものではなかったからだ。「義手になったせいか?」と推測した荼毘だったが、それだけではない。

 

──いずれにせよ、それでも戦うしかない。

 

「………」

 

 沈黙のままに、構えをとる焦凍。その腹部が輝きを放ち、ベルト状の装飾品──オルタリングへと変化する。

 

「変、──身……ッ!」

 

 両手を顔の前で交錯し──張り上げた声とともに、バックルを押し込む!

 

 たちまち光が全身を包み込み、轟焦凍の姿が様々な色の混ざりあった異形へと変わる。異形ではあるが……怪物とは到底呼べない、神々しい姿。

 

「……アギト。綺麗だなァ、俺とは大違いだ。流石、あの男のお人形だ」

「……俺は、人形じゃねえ」

 

 冷静に否定する弟を前に、荼毘は笑った。

 

「あっそ。……まァ、どっちでも良いや」

 

 瞑目し──そして、碧眼をかっとみひらく。

 

「……変、身」

 

 爛れた皮膚が一気に粟立ち、まるで鱗のように硬質化していく。肩や肘、手首から次々と棘や触手が飛び出す。

 

 そうして彼は──"怪物"へと、姿を変えた。

 

「……ハァ、この姿は良いや。クセになりそうだ」

「………」

「あァそうだ。お前ら、巷じゃ"仮面ライダー"って呼ばれてるんだっけ?」

 

 仮面ライダー……今となっては懐かしい呼び名だった。グロンギと戦っていた頃、当時の本郷警視総監が教えてくれた、遥か昔の異形の英雄たちの名前。人々の自由と平和を守る存在として、自分や心操──緑谷出久もまた、その名を名乗ることが許された。

 しかし、荼毘は──

 

「なら俺も、"仮面ライダーギルス"だなァ……」

「──!」

 

 次の瞬間、焦凍──アギトは跳んでいた。

 

「それはッ、今のあんたが名乗って良い名前じゃねえ!!」

 

 左腕に劫火を纏い、殺到する触手を薙ぎ払う。防御を突破された荼毘──"ギルス"だったが、落ち着き払った態度でそれを受け止めた。

 

「はははっ、ははははは……!──いちいちウゼェなァ、おまえはよォ!!」

「ッ、」

 

 滲む憎悪。つられて黒い感情があふれ出しそうになるのを、焦凍は懸命にこらえた。これは取り戻すための戦いなのだ……いやそうでなくとも、憎しみに囚われてはならない。

 

 聖なる泉を、枯れ果てさせてはならないのだ。

 

 

 *

 

 

 

 同時刻、轟邸。

 

「母さん、姉ちゃんっ!」

 

 家事をひと通り終え、ゆっくりお茶を飲んでいた冷と冬美は、駆け込んできた息子(あるいは弟)の尋常でない様子に怪訝な表情を浮かべた。

 

「どうしたの、夏雄?」

「……篤志がいないんだ。俺がトイレに立ってる間に、部屋からいなくなってて……」

「!」

 

 立ち上がった母娘。──夏雄とともに彼女らがまず向かったのは、玄関だった。

 

「靴は……あるわね」

 

 落ち着いた振る舞いで確認する冷。仲間たちのことを気にかけるあまり、飛び出していった──その可能性も考えたのだが、そうではなさそうだ。

 

「まだ家の中にいる……か?」

 

 ほんの少し、胸を撫でおろす夏雄。弟から篤志を託されたのだ、失えば顔向けができない。

 

「なら、お家の中を手分けして捜しましょう」

 

 母の言葉に従い、子供たちは散開した。

 

 

──だいたい、手分けをしなければならない時点で、この家は広すぎるのだ。夏雄は切実にそう思った。

 

 昔の武家屋敷のような造りの邸宅は、一般的には憧れられるものかもしれない。しかし実際には掃除も大変だし、冬は寒く夏は暑い。何より、家族と顔を合わせるのもひと苦労だ。夏雄自身は今、妻や子供とマンション住まいだが……もし今後マイホームを建てることがあれば、ごく普通の、家族の顔が見える家にしようと決めていた。

 

 ともあれ、今は篤志のことだ。屋敷から居なくなったわけではないとはいえ、姿を消すというのは尋常なことではない。……考えたくはないが、密かに侵入した"敵"に拉致されたということだって考えられる。父の事務所の所属ヒーローたちが警備にあたってくれているとて、この超常社会ではそれも万全とは言いきれないのだから。

 夏雄の心配をよそに──不意に何処からか、水の流れ落ちる音が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 立ち止まり、音の出処を探る。……果たしてそれは、浴室のほうから聞こえてくる。もとより、それ以外の場所から水音がすることは考えられないのだが。

 

(篤志……風呂入ってたのか?)

 

 拍子抜けしかかる夏雄だが、いやそれはおかしいと思い直した。朝風呂という時間帯でもないし、先ほど一緒にいる間はそんな素振りも見せなかった。

 

 言い知れぬ不安を覚えつつ、浴室に向かう夏雄。──閉めきられた木戸のむこうでシャワーの音と、人の蠢く気配がする。

 

「篤志、いるのか?──篤志!」

 

 返答はない。不安が、ますます膨らんでいく。

 

「篤志……開けるぞ?」

 

 夏雄は木戸に手をかけ──意を決して、開いた。

 

「な……!?」

 

 そして彼は、言葉を失った。

 果たして篤志は、シャワーを頭から被るようにして浴びていた。ただし、着衣のまま……流水ではなく、身体から湯気を発しながら。

 

「どうしたんだっ、篤志!?」

 

 はあ、はあと繰り返し浅い呼吸を繰り返しながら、肩を抱いている篤志。彼はぼうっとした目つきで虚空を見つめながら、譫言のように応える。

 

「……あついんだ……」

「えっ……?」

「あつくて……からだ、とけそう……」

「篤志……」

 

 炎熱の個性をもっているという篤志。ならば個性の暴走か?夏雄が必死に思考を巡らせていると、彼の声を聞きつけたのだろう冷と冬美が駆けつけてきた。

 

「どうしたの……──あ、篤志くん!?何やって──」

「個性が暴走したみたいなんだ。とにかく、外のバーニンさんたちを呼んで……」

「──う、ぐあああっ!」

「!?」

 

 朦朧としていた篤志が、突如として倒れ苦しみ出す。彼の浴びていた冷水が身体に触れた瞬間、じゅうを音をたてて気化する。尋常でない光景だった。

 

「篤志っ!」

「篤志くん、大丈夫っ!?」

 

 駆け寄ろうとした轟家の面々は刹那、想像だにしない光景を目の当たりにした。

 

 

 篤志の姿が、変わっていく。顔かたち、身体が、光輝に包まれた異形へと。

 

「これは……この姿は……」

 

 その"異形"を、彼らは知っていた。一瞬現れた黄金の角と鎧、巨大な複眼……それと酷似した姿に変身する者が、まさしく彼らの身内にいる。

 

 

「……アギト?」

 

 

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