【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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Chapter:17

 

 再び戻って、関東医大病院。

 先ほどはいっとき轟焦凍のために使用されていた個室は、今や現役No.1ヒーローの病床となっていた。

 

「………」

 

 死んだように眠る、というと縁起でもないが。幸いにして、ホークス──鷹見啓悟の負傷は命にかかわるものではなかった。今は個性由来の治療を終え、その代償として消耗した生命力を回復するために深い睡眠に入っている。その身を揺すっても叩いても、目を覚ましはすまい。

 

 そんな彼の傍に轟炎司が付き添っているのは、もちろん彼自身を慮ってのことではあるが、同時に自分自身の動揺を鎮めるためでもあった。

 

(まさか、彼が……)

 

 彼の命がけの報告を聞いてもなお、炎司は"それ"を信じられずにいた。むろん、何かと隠しごとの多い男といえど、大怪我をしてまでそんな嘘をつくわけがないことはわかっている。それでも、

 

(……焦凍……、)

 

 今まで"彼"と近しい場所にいながら、気づくことはおろか……後輩を信じきれずにいる自分。その始末までもを息子たちに託すしかないかもしれないと悟って、胸が痛んだ。

 

 

 *

 

 

 

「轟さん!」

『轟ッ!』

 

 駆け寄る恋人と戦友の呼び声に、轟焦凍はやおら目を開けた。

 

「大丈夫ですか、轟さん!?」

「……ああ……、でも、悪ィ」

『……?』

「少し、寝かせてくれ……」

 

 思わず脱力しそうになった。そうして再び気持ちよさそうに目を閉じる焦凍は、ほんとうに子供のようだった。──荼毘こと轟燈矢と、手を繋いだままでいることも相まって。

 

(……あんなふうに、身を寄せあえるのか)

 

 つい先ほどまで、命のやりとりをしていた相手と。積年の憎悪を、ぶつけていた相手と。

 

『……それが、アギトの力か』

「心操さん?」

『……いや』

 

 しかし、いつまでもここに寝かせておくわけにもいくまい。どうしたものかと考えていたらば──不意に、重々しい振動が地面から伝わってきた。

 

「ッ!」

 

 思わずよろける百。一瞬、地震かと思ったが……このリズミカルな揺れは地上を何か重量のあるモノが通過する際に伝わるものだ。たとえばそう、大型トラックのような。

 

『八百万、ここを頼む』

 

 そう言い残し、屋外に飛び出した心操。果たして彼の感触は当たらずしも遠からず──敷地内に、トラックとはいかないまでも巨大な装甲車両が進入してきたのだ。迷彩色をしたそれは、先日も対峙したもの──

 

 ドアが開き現れたのも、心操が予想した通りの姿だった。

 

「ご苦労さまです、心操主任?」

「………」

『ッ、』

 

『水城さん……ッ、』

 

 G4の鎧を纏った水城史郎。黙して動かない彼の隣で、その上官が嫋やかに笑っている。

 

「"未確認生命体"を、撃破したそうですね」

『……だったら、どうしたって言うんだ』

 

 正確には撃破したのは轟焦凍なのだが、そんなことは今問題ではなかった。

 

「貴重なサンプルです。我々が回収します」

 

 サンプル──その言葉に内心、腸が煮えくり返りそうになった。この女は、あの兄弟の姿を見ていないからそんなことが言える……いやきっと、見たところで一片たりとも心を動かされはしないのだろう。こんな、血の通っていない冷めた目をした女には。

 激情を抑えて、心操は答えた。

 

『彼はモノじゃない、人間だ。容疑者として、我々警察が逮捕する』

「……無用な対立は、双方にとって不利益しか生まないと思いますが?」

 

 穏やかな言葉とは裏腹に、銃器片手に一歩進み出るG4。彼女らは警察と争ってでも、燈矢を回収するつもりでいるらしかった。──あるいは、最終的に警察を屈服させられるだけの政治力を背景としているからか。

 と、インカムから上司の声が響いた。

 

『心操くん、G3-Xのエネルギーももう残り少ない。残念だが、ここは……』

『……ッ、』

 

 そんなこと、わかっている。武力をもってしたところで、G4には敵わない。

 ならば、

 

『……水城さん。こんなことが、ほんとうに正しいと思ってるんですか?人間を道具に……兵器のパーツにしか思わないような、こんなことが!』

「!、………」

 

 水城が一瞬、身を硬くする。心操と言葉をかわして、その戦いぶりを目の当たりにして……彼も少なからず、心を動かされていたのだ。

 しかし彼が今ここにいる理由──軍人であるという事実が、それを許さない。

 

「何をしているの、水城少尉?」

「!」

「命令です。障害を排除し、ターゲットを確保しなさい」

 

 彼女は紛れもない、水城の上官であった。ゆえに、その命令は絶対だった。

 そして──G4は、スコーピオン改を目の前のG3−Xへと向けた。

 

 やはり、衝突は避けられないのか──

 

 

 そのとき、だった。にわかに手を叩く音──ゆっくりとした拍手が、その場に響き渡ったのは。

 

「──ご苦労さまです、皆さん」

「あなたは……」

 

「──詩島、大臣?」

 

 その顔は部下にあたるふたりは言わずもがな、心操たちだって目にしたことはあった。国防大臣──軍のトップが独りで、何故ここに?

 

「いや、素晴らしい。G4はもう完全に、実用段階へと至ったようですね」

「!」

 

 貼りついたような笑みに違和感を覚えつつも、称賛の言葉に深海大尉が笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。しかし、まだ改良の余地はあります!この先にいる未確認生命体……いえ、アギトの亜種を実験材料とすれば!」

『ッ、』

 

 頭部装甲の中で、心操は歯噛みした。相手にしてもそうなのだろうが、大臣がこの場に現れるなど青天の霹靂だった。いち尉官の判断と、大臣の指示では重みが違う。それに抗してまでヴィランを守る責任能力を、いち警察官である心操は持ち合わせていない。

 

 しかし──大臣の返答は、双方の予想だにしないものだった。

 

「いえ、もう十分です──我が"ゲゲル"の道具としては」

「え……?」

『!?』

 

 いったい、何を言っているのか。考える暇もなく、詩島に異変が現れた。

 

「ウ゛ウ……ッ、ウウ゛オ゛オオオオ──ッ!!」

 

 雄叫びとともに、小柄だった詩島の身体が膨れ上がっていく。仕立ての良いスーツが弾けるようにして破れ、晒された全身は加速度的に筋肉量を増していく。それに比例するように、皮膚が黒く染まりゆく。

 頭部でもまた、著しい変化が起きていた。黒髪は黄金に染まりながら無造作に伸び、耳から顎にかけてまでを覆う。鼻口が前面に伸び、マズルと呼ぶべき形を成す。わずかに開いた口からは、鋭い牙が覗いていた。

 

 著しい"変身"に、誰しもが驚愕のあまりその場に縫いつけられたようなありさまだった。獅子獣人に似た……しかし"異形型"としてもあまりに禍々しい姿。

 そう──これは、

 

『……グロンギ……!?』

 

 間違いない──その腹部の装飾品が、如実にそれを示していて。

 

「ッ!」

 

 咄嗟の判断……というより反射と言うべきか、尤も対応が早かったのは水城だった。つい今まで大臣の姿をしていた怪物に対し、銃口を向ける。しかし──彼の意志において、その引き金が引かれることは二度となかった。

 

「さあ、ゲゲル開始です」

 

 怪人──"ライオ"の碧い双眸が、禍々しく光る。

 刹那、水城……否、G4に異変が起きた。

 

「──ぐぁ……!?あ、あああ……がっ」

 

 突如、全身を痙攣させて苦しみ出す水城。『水城さん!?』と呼びかける心操の声にも、彼が応えることはない。

 

「が……ああ……あ、………」

 

 うめき声が途切れ……水城が、立ち尽くしたままがくんと脱力する。そして耳障りな機械の駆動音が響いたかと思うと、再び頸が持ち上がった。

 

「……水城少尉?一体、どうし──」

 

 怪訝な面持ちで近寄ろうとした深海が見たのは、振り向くG4──そして向けられた銃口だった。それが、彼女が視認した最期の光景だった。

 刹那、鋼鉄の塊さえ一撃で粉砕する弾丸が、彼女の身を()()()()()()

 

『……!』

 

 心操は──呆けていた。何が起こったのか、一瞬判断がつかなかった。ただ女だった肉塊がごとりと地面に倒れ落ち、広がっていく血だまりを目の当たりにしてようやく頭が再稼働する。

 

『──あんたッ、何やってんだ!!』

 

 そしてあふれ出す困惑と憤怒のままに、彼はG4へ飛びかかった。これは相手も想定の埒外だったようで、身体を押さえ込むことには成功する。このまま装甲を剥いで、拘束するしか──

 そのとき、頭部装甲の中からくぐもった声が響いた。

 

「から……だが……ッ、言うことを、きかない……ッ」

『!、水城さん……!?』

「G4が……勝手に……!心操く、たすけ……がぁああッ!!?」

 

 水城の苦悶に満ちた絶叫とともに、G4は自ら駆動した。凄まじい力を全身に込め、G3-Xを押し返す。そしてその胴体に、弾丸のようなストレートパンチを見舞った。

 

『ぐぁ──ッ!!?』

 

 その一撃は、堅固なG3-Xの装甲をも一撃で破壊した。火花を散らしながら跳ね飛ばされた彼はそのまま工場の壁面に叩きつけられた。背部のバッテリーが大破し、鎧はただの棺桶へと変わる。

 

『ッ、ぐ……』

 

 インカムから離脱を促す悲鳴のような声が聞こえるが、諾否以前に心操はもう一歩たりとも動けそうになかった。このままG4の鉛玉であれ拳であれ叩き込まれれば、自分も傍らの肉塊と同じ運命を辿ることになる。

 そしていよいよ、スコーピオン改の引き金が引かれ──

 

 刹那、割り込んだ白い影が、弾丸を弾き飛ばした。

 

『!、轟……』

「………」

 

 体力を使い果たしていたはずの轟焦凍──アギト・シャイニングフォームが、シャイニングカリバーを手に心操を庇いに入っている。その虹色の瞳が燃え滾るような感情を露にG4……その背後にいるライオを睨みつける。

 ライオは、肩をすくめるようなしぐさを見せた。

 

「ゲゲルの邪魔をしないでいただきたい。──ふっ!」

 

 その手許から電撃が放たれ、彼らの足元で激しくスパークする。その身が覆い隠され……そして、消え失せた。

 

「ッ、………」

 

 その場に片膝をつくアギト。──彼もまた消耗していることなど、様子を見るまでもなく心操にだってわかる。

 それでも、

 

『轟!まだ戦えるなら……追え……!』

「!」

『あいつ……G4を使って、殺人ゲームを始めるつもりだ……!』

 

 わからないことばかりの中で、それだけは鮮明なおぞましき事実。

 アギトは己を叱咤し、立ち上がった。そしてマシントルネイダーに跨り、逃走したグロンギとG4の追跡を開始する。

 

『ッ、………』

 

 その背中を認めたところで……心操の意識は、ぷつりと途切れたのだった。

 

 

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