【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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Chapter:18

 

 ホークス──鷹見啓悟の身柄を椿に任せ、轟炎司は警視庁へ急行していた。

 

「──お待たせしました、エンデヴァー。頼まれていた資料です」

 

 そう告げて目の前にタブレットを差し出してくるのは、炎司の長女と同年代の女性刑事だった。猛禽類のような鋭い目つきが、同じく"鷹"を名に含むホークスと共通するものを感じさせる。尤も彼女の場合、おちゃらけたところは皆無なのだが。

 

「急な話に対応してもらい感謝する、──鷹野警部補」

 

 鷹野藍。彼女もまた、四年前の未確認生命体関連事件にて捜査に携わった刑事のひとりだった。ノンキャリアながら20代で警部補にまで昇任したエリートで、現在は古巣の警備部で活躍している。その優秀さは、自他ともに厳しい炎司も認めるところだった。

 

「お気になさらないでください。……もし事実なら、国家の一大事です」

「このこと、他の人間には?」

「私の口からは何も。……ただ集めた情報を見る限りでは、大臣の経歴に不審な点はありません」

 

 彼女の言葉を裏付けるべく、炎司は用意された資料を見下ろした。──詩島康、与党幹事長や重要閣僚を歴任した父をもつ二世議員。幼少期から父の秘書を務めていた青年時代、そして現在に至るまでの写真が掲載されている。それはまぎれもない詩島本人の姿かたちであり、グロンギが介在する余地など微塵もない。そもそも奴らの復活は四年前、地殻変動により出土した九郎ヶ岳遺跡が暴かれたことによるものだ。仮に容姿が酷似した、あるいは姿を写しかえる能力をもつ個体がいたとして、既に現職の国会議員だった詩島と入れ替わることも不可能だろう。

 

 そこまで思考を繰り広げて……不意に、ある男の顔が脳裏をよぎった。

 

「……死柄木、弔……」

「!」はっとする鷹野。

「奴と同じだ。詩島がなんらかの方法で霊石を手に入れ、グロンギになっていたとしたら……」

「まさか……。でも、もしそうだとしたら……」

「……単独でそんなことが可能とは思えん。それを手引きした者が──」

 

 再び、炎司の記憶に稲妻が閃いた。詩島に会いに行ったそのあと、廊下ですれ違った女。ふわりと漂う、薔薇の香り。薔薇、

 

──バラのタトゥの女。

 

 

「準備は、整ったようだな」

 

 三年前、ヒーロー爆心地の手で撃たれ、海中に没したはずの未確認生命体B1号──ラ・バルバ・デ。

 しかし彼女は現実に今、この場に存在している。自らつくり出した、新たなグロンギの傍に。

 

「バギングバギングバギングバギングズガギド、バギングバギングバギングドググ、バギングバギングズゴゴド、バギング……ズゴゴ。──貴女がたの記数法は実に非合理的ですね、もう慣れましたが」

「その数字は?」

「貴女がたグロンギが殺戮した、我々リントの人数ですよ。尤もそのうちの大部分は、私の同胞の手によるものですが」

 

 公称"未確認生命体X号"、ダグバ。人間としての名は、死柄木弔……いや、本名は別にあるのだったか。彼はグロンギという降って湧いた災厄により地獄の底から引きずり出され、究極の闇そのものとなった。そう──既にリントは、グロンギさえも超えている。

 

「バルバ、貴女には感謝しています。我が望みを叶えるための力をくださった。真なる究極の闇を遂げるのは我々人間自身なのだと、よくおわかりだ」

「おまえには、それができると?」

「もう、第4号はいません。消耗したアギトと警察の木偶人形では、G4を止めることなどできませんよ」

「リントには、ヒーローがいるぞ」

 

 一瞬子供のように目を丸くした詩島は、その後堰を切ったように笑い出した。

 

「そういえば、貴女は爆心地に撃たれたんでしたね」

「………」

「あれはヒーロー個人ではなく、警察という組織の力ですよ。いつだって真に強いのは組織です。……それをこの私が、塗り替えられるかどうか」

 

「──では始めましょう、"ゲギバス・ゲゲル"を」

 

 その姿が再び、獅子へと変わった。

 

 

 *

 

 

 

 心操を回収したGトレーラーは、その足で警視庁に舞い戻っていた。破壊されたG3-Xを修理に出し、ひとまずは待機状態に入る。状況が切迫していることはわかっていても、動きようがないのだ。心操自身の負傷は軽いことが不幸中の幸いか。

 

『本部から警視05へ。未確認生命体(マルエム)と思しき存在は確認できていないか』

『警視05から本部、現在のところ──』

 

 飛びかう無線に猫耳をそばだてる玉川。トレーラー内にとどまっているのは彼ひとりで、心操は医務室へ、発目は整備チームに呼ばれて出てしまっている。ゆえに沈黙が漂うことも、それが重々しく鎮座しようとしていることも無理からぬことだった。

 

──と、不意に前方部のドアが開いた。

 

『班長、』

「!、心操くん……」

 

 何事もなかったかのようにするりと入り込んでくる心操。思わず普通に受け入れかける玉川だったが、気を失っていた彼が医務室に運ばれていってからまだ一時間と経過していない。

 

「もう起きてきたのか!?いくらなんでも……」

『どうせなら、落ち着いて寝たいですから』相変わらずの物言いをしつつ、『それより、状況は?』

「……今のところ、逃走した未確認生命体とG4は発見されてない。だが奴の口ぶりからして、行動を開始するのも時間の問題だろう」

『……G3-Xは?』

「大破に近い状況だ、修理に三日はかかる」

『………』

 

 この短期間に負荷をかけすぎたという自覚は、心操にもあった。ただ……今こうしている間にも、水城はG4のパーツとして酷使され苦しんでいる。それも市民を守るのではなく、殺戮するために。

 彼だけはなんとしても自らの手で救うと、心操は心に決めていた。

 

──と、そのときだった。警邏中のパトカーの無線から、半ば悲鳴のような声が聞こえてきたのは。

 

『警視06から本部!新宿区新宿御苑付近にて、未確認生命体同士が交戦中!一方は第4号に似ています!』

「!」

 

 アギト──焦凍だ。疲労を押してライオを追跡した彼は、これ以上誰ひとりとして犠牲を出さないため孤軍奮闘している。

 

『玉川主任、──出ましょう』

「ッ、……言うと思ったよ。きみなら」

 

 ただ、予想はしえても……即ち肯定に通ずるわけではない。

 

「出たところでどうする?G3-Xがなければ──」そこまで言って、はっとする。「まさか……」

『ええ。あいつを独りにさせないことなら、"あいつ"にでもできますから』

 

 心操は背後の格納庫を仰ぎ見た。G3-Xと……もうひとつ。かつて未確認生命体との戦いをともにした鎧が、そこには眠っている。

 

 

 *

 

 

 

 新宿御苑周辺の道路は、ただ今警察により完全通行止めとなっていた。

 その中心地において、二体の未確認生命体が死闘を繰り広げている。一方は漆黒の獅子獣人、もう一方は……白銀の、騎士──アギト。

 

「ふ──ッ!」

 

 目を瞠るような跳躍とともに肉薄せんとするアギトに対し、獅子──ライオは防戦一方のように思われた。しかしその様子に反して、いっこうに決着がつく様子はない。

 それもそのはずだった。ライオが逃げているのは、実力差ゆえに及び腰になっているためではない。──彼はただ、アギトを相手にしていないだけだ。

 

「ちょこまか逃げてんじゃねえ……チキン野郎……!」

 

 轟焦凍なりの語彙での挑発に対し、百戦錬磨の政治家である怪人は可笑しそうに鼻を鳴らしただけだった。

 

「若いですね、実に若い。そして愚かだ」

「何……!」

「私はプレイヤーであり、同時にコマンダーでもあるのです。自ら手を下さないのは当然でしょう」

「ンな姿になってまで、政治家の論理かよ……!」

 

 そう──彼は政治家のはずだ。日本を守り、育ててゆく使命を自ら選びとった人間。

 

「なのに……何故だ!?こんなことを……!」

「何故……ですか。困ったことにね、私自身わからないんですよ」

「……!?」

 

 まるで他人事のような台詞に、アギトは一瞬言葉を失う。肉体だけは、敵に喰らいつくべく動き続けているが。

 

「物心ついたときから、私は他人の絶望した顔に途方もない快感を覚えるんです。ですから、生まれつきの性質とお答えするしかありませんね」

 

 ライオ──詩島は幼き日の記憶を思い起こしていた。某名門大学の幼稚舎に通っていた頃、穏やかで容姿もすぐれた詩島は幼くして男女問わず人気があった。そしてバレンタインの日、詩島に告白してきた少女がいた。彼女の用意したチョコレートを、詩島少年は満面の笑みで受け取り、

 

 そして、踏み潰した。

 

「──あのときの彼女の絶望した顔が、今でも脳裏に焼きついて離れないんですよ。私のほんとうに欲しいものがなんなのか……天啓を得た気分でした。でもその一件を聞いた父から烈火のごとく叱られましてね……私はその欲求を抑え込むことに決めたんです」

 

 そうして詩島は、非の打ちどころのない優等生として振る舞い続けた。しかし他者の絶望を味わいたいという欲望は消えることなく、むしろ成長するにつれて膨らんでいったのだ。

 

「しかし私は、その衝動に耐え忍び続けました。──貴方にも訊きましょう。何故だと思いますか?」

「ッ、」

 

 知るか、と切り捨てる代わりに、アギトはひたすらに拳を振るい続けた。その反応も予想通りだったのだろう、ライオがくつくつと唸る。

 

「大勢の人々の信頼を勝ち得れば得るほど、それを裏切ったときに味わえる絶望も大きいからですよ」

「──!」

 

「てめぇは……狂ってる!!」

 

 あるいは、純粋なグロンギたちよりも。

 ならばもう、相手が元はれっきとした人間であることなど気にしてはいられなかった。一刻も早く……殺人の咎を背負うことになったとしても、この男を打ち倒さねば。

 そんな青年の心も、ライオにはお見通しだった。

 

「覚悟を決めましたか、素晴らしい。ならば私も、先達としてそれに応えてさしあげなければなりませんね」

「黙れ!!」

 

 叫びとともに、飛び蹴りを放つ。スピードを重視して紋章は発していないが、それでもシャイニングフォームの脚力は特段強化されている。その直撃を浴びせることができれば、ライオの動きは確実に鈍る。そうすれば──

 

 そのときだった。人間大の漆黒の弾丸が、アギトの横っ腹に突っ込んできたのは。

 

「がッ!?」

 

 凄まじい衝撃ののち、撥ね飛ばされるアギト。激痛に苛まれながらも、彼はかろうじて態勢を立て直し、着地した。

 

「ッ、おまえ……!」

 

 現れたのは、G4だった。その機械的な動作から、ライオに使役されるこの状況が装着員の望んだものでないことはよくわかる。

 

「我がゲゲルは、このG4を武器としたもの……貴方に討たれればそれで終了です。──止めたいのであれば、見事仕留めてみせなさい」

「……ッ、」

 

 仕留める──殺す、人間を。ヒーロー・ショートが正義を名分にヒトの命を奪う可能性を、グロンギに成り果てたこの男は愉しんでいる。

 

「……舐めるな……!」

 

 ならば、止める。G4の鎧さえ剥ぎとってしまえば。

 

「ふっ!」

 

 シャイニングカリバーを手に、突撃するアギト。その急所を突き、装甲を破壊する──それを企図した攻撃だった。

 しかし……G4の挙動は、彼の想定を遥かに超えたものだった。刃が振り下ろされた瞬間、その姿はかき消えていた。

 

「!?」

 

 驚愕すると同時に……背後に、気配を感じる。咄嗟に振り返り、シャイニングカリバーを構える。

 果たして同時に、G4のキックが炸裂する。聖刃の加護によって肉体への直撃は免れたものの、カリバーは吹き飛ばされてしまった。

 

「ッ!」

 

 なおも続く猛攻。いなしつつ後退するが、G4はまったく遅れることなく追いついてくる。

 

(どうなってんだ、この力……!?)

 

 さらなる超進化を遂げたアギトに、喰らいついてくる性能。しかしそれを発揮()()()()()()()のはアギトでもグロンギでもない、常人だ。かつて第4号──クウガのスペックを再現せんと試みたG2が装着者の身体をあれほど痛めつけたのだ。支援AIの強化などにより改善されているとはいえ、これはあまりに──

 

「がッ、あああ………ああああ……!」

「……!」

 

 装着者──水城のくぐもった悲鳴が、唐突に響く。それを聞いたアギトの動きが一瞬鈍り、次の瞬間、拳が胴体に叩きつけられた。

 

「ぐ……ッ!」

 

 白銀の装甲が凹み、鋭い痛みが走る。シャイニングフォームの力をもってすれば瞬時に回復はするが、焦凍の動揺は大きかった。

 

「覚醒の間隔が短くなっている……流石に消耗しているようですね、()()()()()()も」

「……どういうことだ……!?」

 

 文字通り高みの見物を決め込んでいるライオは、獅子の唸り声をあげつつ高らかに語った。

 

「G4を装着する人間は、その部品にすぎないということですよ。挙動の度に部品が喚き散らしては使いものになりませんから、脳に薬液を注入して強制的に意識を奪っているんです。とはいえ催眠状態を保つには、負担が大きすぎるようですね……ははははっ」

「……なんだよ、それ……」

 

 焦凍は、絶句していた。──人間じゃない。他者の絶望を味わいたいなどという理由でグロンギに堕ちたこの政治家も、こんな兵器の開発を許した連中も。

 

「あ……ああ……──ッ!?」

 

 再び脳を弄られたのだろう、うめき声は途切れ、G4が再び動き出す。

 

「……ッ、」

 

 その意味合いは大きく異なるが、消耗しているのは焦凍も同じ。全身全霊をもってでも、早く決着をつけなければ。しかしそうしてG4を止めたとて、かのグロンギは健在のまま。

 

(それでも……、)

 

 まずは、救うこと。それから先のことを考えるのは、後だ。

 

 構えるアギト、向かってくるG4。──サイレンの音が鳴り響いたのは、そのときだった。

 

『──轟!』

「!、おまえ……!?」

 

 互いの間に割り込んできた姿を認めて、アギトは驚愕した。蒼に、白銀のボディ。──"G3"。

 そう、G3-Xではなかった。

 

「心操おまえ、Xは!?」

『修理中、残念ながら。……でも、こいつだって立派な戦力だ』

 

『だからG4は……俺が止める!』

 

 言うが早いか、彼の操るガードチェイサーはG4に突撃していった。予想だにしない行動にAIが反応しきれなかったのか、その身は次の瞬間カウルに張りつけられていた。そうしてこの場から引き離されていく。

 

「ッ、心操……」

 

 無茶だと思った。このアギト・シャイニングフォームの力をもってしても、今のG4は互角に喰らいついている。G3では、スペックの差が隔絶しすぎている。

 

「おや、思わぬ闖入者でしたね。まあ、すぐ戻ってくるでしょう……G4は」

 

 振り向き、そんな言葉を発した怪人を改めて睨みすえる。こいつは、心操が一分ともたず敗北すると考えているのだ。その考えだけは、正直わからないでもない。

 それでも、

 

「……政治家のくせにあんた、何も知らねえんだな」

「は?」

「あいつは最初から、自分より圧倒的に強い敵とばかり戦ってきた。……そして、勝った!」

 

「あいつは今度も、必ず勝つ。──俺も!」

 

 

「俺たちは勝って救ける……救けて勝つ!最高の──ヒーローだッ!!」

 

 

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