【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3 作:たあたん
G3とG4。旧世代と、新世代。酷似した、しかし何かが決定的に異なる機械仕掛けの英雄たちは、その違いゆえ今、死闘を繰り広げていた。
『ッ!』
取っ組み合いながら、河川敷を転がるふたつの姿。そのまま坂を落ちたところで勢いが止まるや、双方がほぼ同時に立ち上がった。
"スコーピオン改"──別々に造られながら、偶々同じ名を与えられた銃火器を向け合う。引き金を引こうとしたのも、まったく同じタイミングで。
しかし心操は、それを躊躇った。水城を撃つことを尻込みしたのではない。撃ち合い、互いに傷つけあったのでは、G3が不利に決まっているからだ。
考える間もなく、彼は全速力で走り出した。足を踏み出した次の瞬間には、つい今までいた場所が射抜かれている。一瞬たりとも、息つかせぬ戦い。
(とっとと、決着をつける……!)
心操とて、この戦い方がいつまでももつわけがないことはわかっていた。何より、G4が挙動する度に水城は命をすり減らしている。
無謀なことはしない。だが……明確に見定めた勝ち方を目指して、無茶は通す。
『──ふっ!』
相手が弾切れを起こした瞬間を見逃さず、G3は跳躍した。そのまま背後に回り込み、こちらがスコーピオンを突きつける。
──そして、引き金を引いた。
「!!」
放たれる無数の弾丸が、G4の背部に喰らいついていく。彼はバッテリーを破壊することで、その機能を停止させるつもりだった。どんな強力な兵器であろうと、エネルギー源なしには動けない。それは摂理といっても過言ではなかった。
実際、バッテリーに穴が開いたことで、G4はがくんと脱力した。──やったと思いつつ、慎重に距離を詰める。装甲をパージするまではまだ、水城を救出したことにはならない。
そうして、いよいよ手が届くという位置にまで接近したときだった。──血の通わない蒼い瞳が、ぎょろりとこちらを向いたのは。
『ッ!?』
咄嗟に後退するG3。しかしそれより寸分早く、相手の拳が突き出された。
『ぐぁ──!』
激しい衝撃と火花。それとともに、G3は大きく吹っ飛ばされる。宙を舞う身体を自制することなどできず、彼は勢いのまま河川に着水した。
『ッ、ぐ……』
激痛を発する左肩を押さえ、どうにか立ち上がる。果たしてG4はより機械的な動作を見せながら、こちらへと迫り来ようとしている。──どうなっている?バッテリーを破壊しきれなかったのか?
その疑問は、Gトレーラーで戦況を見守る玉川も共有していた。
「バッテリーなしで動くなんて……あれは本当に、ただの鎧なのか?」
思わず口に出してつぶやいた刹那、トレーラー前部の扉が前触れもなく開いた。
「──ぅお待たせしましたッ!」
「!、発目くん!?どうやってここに……」
いや、来る方法など幾らでもあるのだろうが。
とはいえその問いは、彼女以外の助っ人の存在を明示するのにひと役買った。
「"彼"に送っていただきました!私たちのベイビーちゃんも!」
「何……?」
「G4システムについて、リークがあったんです。それを基に"GX-05"の試作品を改造して、G4の急所を突けるモノにいたしました!」
「この短時間でか!?どうやって……」
「科警研有志の皆さんの協力あってです!なので私はほとんど持ってきただけなのです……残念ながら……」しょげるそぶりを見せつつ、「でもッ、これで心操さんは勝てます!!」
「……そうか……!」
ならばその"彼"とやらに、一刻も早く戦場へたどり着いてもらわねばなるまい。それまで心操が持ちこたえてくれることを祈りながら、玉川は固唾を呑んで戦況を見守っていた。
──そうしているうちに、ふたりの"G"は水飛沫をあげながらもみ合っていた。
『ッ、ぐうう……!』
どうにかしてその動作を押さえつけようと試みるG3。しかしG4のパワーを前にしては大人と子供のようなもので、容易く押し返されてしまう。
(ッ、そろそろ……エネルギーが……!)
エネルギー切れを起こしたら、その時点で趨勢は決する。それまでになんとしても、決着を──
「──が、あああ……ッ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
『!?』
突然、G4が喚き声をあげて苦しみ出す。痛みに堪えかね、水城の意識が再び目覚めたのだ。
『水城さんッ!しっかりしろ……水城さん!!』
「が、あ゛あ゛あ゛ッ!!い、たい……たすけ……誰かぁあ゛あ゛……!!」
G4の鎧に覆われ、操られた水城の身体は、見るも無残な有様だった。全身の筋繊維は千切れ、骨もその多くが砕けようとしている。幾度となく強力な薬液が注入され、脳もその機能を半ば停止していた。既に水城からは正常な判断力は失われ、目の前にいるのが誰なのかも認識できていないのだった。
『水城さん!!』
ゆえにその声が、届くことはない。G4の挙動は収まることなく、水城は再び薬液によって意識を奪われた。
そうして、G4の絶え間ない猛攻が続く。あきらめるつもりなどない心操だが、精神論ではどうにもならない実力差だった。その精神があるから、かろうじてここまで持ちこたえていると言うべきか。
『あきらめて……堪るか……っ!』
『水城さん……!あなたは、俺が救ける!!』
そのために、必要なものは。
刹那、彼を一陣の疾風が撫ぜた。同時に、分厚い影が弾丸のようにG4を直撃する。
「!!」
なんの前触れもない不意打ちにAIも対応しきれなかったのだろう、直撃を受けたG4はそのまま横に吹き飛んだ。
『!、あんたは……』
「──すまない。待たせたな、心操くん!」
見るからに屈強な体躯を、全身鎧で覆った男。顔まで隠れていても、その姿を忘れるはずがなかった。
『飯田……』
──ターボヒーロー・インゲニウム、本名・飯田天哉。かつて肩を並べてともに未確認生命体と戦った……そしてGシリーズの育ての親でもある、心操にとっては特別な戦友のひとりだった。
「事件のことを聞いて、警視庁を訪れたところで発目くんと遭遇してな。"これ"を運んできたんだ!」
『!』
飯田の手にはアタッシュケースがあった。それががちゃりと開かれ、発目や科警研の有志が改造した"GX-05"が露になる。それはかつてG3の切札として開発された"GGX-05 ニーズヘグ"の制式仕様で、同じく神話になぞらえ通名を"ケルベロス"としていた。その名の通りニーズヘグより小型化された砲門を三つ備えている。
「その名も──"ケルベロス"ですっ!」
『名前はいいけどさ、発目』
テンションの上がっている発目を抑えるように、心操が声をあげた。
『これ、神経断裂弾じゃないのか?そんなもの……』
人間相手に使えるわけがないと、心操。それは言うまでもないことであり、対G4において発目がそんなものを持ち出してくるはずもない。
「ご心配なく!以前何かの役に立つと思って開発したEMP弾をケルベロス用に簡易改造して装填してますので!……遠慮なく、G4をブッ壊してしまってください、心操さん!」
『!、……わかった』
その言葉の裏に隠された発目の想いを、心操はたがえず受け取った。自ら戦場に立つことのできない彼女も、こうして自分にできる戦いを試みている。ならば全力で、それに応えるのみ。
折り畳まれたそれを送信された電子マニュアルに従って展開し、パスコードを入力して安全装置を解除する。砲身が姿を現し、標的を求めてぎらりと輝いた。
「………」
重量のあるインゲニウムの突撃を受けてなお、G4はがくんがくんと関節を不自然にしならせながら立ち上がろうとしている。その動作の間にも、水城の肉体は破壊され続けている。心操の胸に、苦いものがよぎる。
──だが、それも終わりだ。心操は躊躇なく、引き金を引いた。
『ッ!』
刹那、心操は思わず息を詰めた。衝撃で手元が大きく狂い、弾丸はG4の足元で火花を散らしたのだ。
『おい発目、これ──』
『スミマセン、G3で扱うには反動が大きいようです!急造品なのでご容赦ください!』
「任せろ心操くん、俺が背中を支える!」
そういえば、そんなふうに戦ったこともあった。未確認生命体第46号のときだったか。単身危機に陥った爆豪勝己を救援するために、生身のままスコーピオンを撃った。あのときも反動に抗うため、背中をこの男が支えてくれたのだ。
『──頼む、インゲニウム』
その頑健な心身の力を借りて──再び、引き金を引く。
果たして衝撃は来たが、鍛えた男ふたりの体重で耐えられないほどではなかった。今度こそ弾丸は真っ直ぐに飛び、G4のアーマーを直撃する。
「!!」
G4が動きを止める。電流が奔り、全身ががくがくと痙攣する。それは装着員の肉体ではなく、G4を構成する精密機器に対して破壊活動を試みていた。徐に白煙が立ち昇り出す。
「よし……!」
飯田が喜びの声をあげる。──精密機器は元来些細な衝撃にも弱いものだ。ただ、直接戦闘の矢面に立つ兵器である以上、そこには当然例外もあって。
「ッ、……ッ!」
その動作を鈍らせながらも、G4は止まらない。一歩、一歩と踏みしめるようにしながら、接近を続ける。
「やはり、止まらないか……!」
発目たちの開発したGシステムが、この程度で壊せるわけがない。戦友への信頼があればこそ、ふたりの装着者はその想いを共有していた。
『止まるまで、撃つだけだ』
「……あのときと同じだな」
『ああ……──!』
再び、トリガーを引く。今度は衝撃が四肢に伝わってきて、後ろで支えている天哉もろともわずかに後退させられた。
それでも狙いは外さない。銃弾に貫かれたG4の鎧がスパークし、煙を燻らせはじめる。動作はいよいよぎこちないものとなり、もはや本来の性能の半分も発揮できない状態に陥っていることは明らかだった。
『!?、ぐぁっ!』
しかしG3の装甲も一部が破裂し、その場に砕け落ちた。もとよりG3-Xでの使用を想定したものに急ごしらえの改造を施している以上、早晩こうなるのは目に見えていたが。
「ッ、心操くん!これ以上は……!」
『わかってる!でも……あと少し……!』
G4はまだ止まらない。止まっていない。既に目と鼻の先にまで迫っている。自らをも破壊し、装着者にまで痛みを与えながらも、G3は踏みとどまり続けた。
『ッ、』
それでも、G4とは違う。G3に力を振るわせ続けているのは、他でもない心操自身の意志だ。走る痛みも、その果てに勝利が、希望があると信じればこそ。
大量の弾丸を浴び、爆発を起こし、見るも無残な姿になったG4がいよいよ至近距離に迫った。不気味な音をたてながらゆっくりと拳を振り上げる。その光景に、堪らず心操は叫んだ。
『もういい……っ、──もういいだろ!!!』
叫びとともに放たれた弾丸が、G4の動力部を直撃した。
一瞬蝋で塗り固められたように硬直したそれは、そのまま仰向けに倒れ伏した。大量の水飛沫が跳ね、陽光を反射して七色に輝く。
そうしてG4は……完全に、その機能を停止したのだった。
*
一方、アギトと"ライオ"の死闘は前者が優勢を取りつつあった。
「は──ッ!」
「ッ、」
文字通り光のごとき疾さを見せるアギト・シャイニングフォームに対し、ライオは互角のスピードでもって応戦する。しかしその回避した先に、すかさず再攻撃を仕掛けられるという状況が確実に増えつつあった。
「……どうした?しっかりしろよ、大人だろ」
「ッ!」
相手の発した挑発に、ライオは一瞬燃えるような怒りを覚えた。それは久しく、覚えたことのない感情。目の前の敵に喰らいつき、真っ二つに引き裂きたいという欲求が頭をもたげる。
「親子ともども、不愉快です──消えろッ!!」
「!」
ライオの鬣が不気味に光る。余剰エネルギーを濃縮してそこから発することにより、敵の肉体を焼き尽くす。彼の必殺技ともいえる切り札だった。
咄嗟に回避行動をとるアギトだったが、本物の光を前にしては彼のスピードも及ばない。わずかにその余波を浴び、吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「ぐ、う……っ」
ダメージは受けたが、装甲が薄くなったぶん特殊な光子で全身をコーティングしているシャイニングフォームにとって致命傷にはならない。ゆえに呻きながらも即座に立ち上がろうとするアギトだったが、ライオもそれは織り込み済みだった。
「ハハハハハッ!!」
「!」
高笑いとともに、これまでにない速度で迫る。今度こそ本気で葬り去ろうというのだろう、瞳のない眼はとめどない殺意を発していた。
「ッ、」
態勢を立て直す……いや、わずかに遅い。間に合わない。せめて致命傷を避けられるか否か。本能がけたたましい警告音を鳴らしている。シャイニングフォームは身体能力において通常のアギトをも超越している代わりに、轟焦凍本来の個性を一時的に失っているのだ。ヒトより神に近い肉体となったゆえだが、それが今災いしていると言うよりほかにない。
──しかしライオの攻撃は、双方まったく予想だにしない要因によって遮られた。
真っ赤な触手がにわかに差し向けられ、ライオの胴体に巻きついたのだ。
「グゥ……!?」
不意打ちのそれに絡めとられ、うめき声を発するライオ。触手を辿った先にいたのは、
「……ンなヤツにやられてんなよ、焦凍……!」
「燈矢兄……!?」
他でもない、異形へと変わった兄の姿。その手首から伸びた触手はがっちりとライオに巻きつき、抵抗を許さない。
「貴様……ギルスか!なんのつもりだ!?」
「……可愛い弟の手助け、なんてな?」
「ふざけるな……!誰が貴様の後ろ盾になってやったと思っている!?」
「おーおーそうだった。俺に施設のことを教えてくれたのも活動資金を出してくれたのも、どっかの政治家サマだったなァ!」
二体の怪物のやりとりを唖然として聞いているアギト。と、そんな彼のもとに駆け寄ってくる女性の姿があって。
「轟さん!」
「!、八百万……」
どこから走ってきたのか、肩で息をしている。念のためギルスとライオ、双方の動きに注意を向けつつ、アギトは問うた。
「どうして、燈矢兄がここに?」
「それが……その、」一瞬の逡巡のあと、「……目を覚ますなり、自分を轟さんのところに連れていくよう言い出しまして。当然拒否したのですが……脅されて、しまいましたの。轟さんの記憶をネタに……」
「……俺の記憶を?」
記憶──燈矢と全身全霊をぶつけ合って、互いの心が一瞬融けあったときに何かを見たのだろうか。疚しいことなどない……けれど、顔を赤らめる百を見て何か嫌な予感がする。生命の危機とかそういったものとは異なる、なんというか、ベッドの上でのたうち回りたくなるような奇妙な感覚。
「──おい、いつまで喋ってる!」
「!」
と、思考は燈矢──ギルスの発した声により遮断された。ライオは触手による束縛に抗い、間もなく打ち破ろうというところまで来ている。
「八百万、話はあとだ」
百を下がらせ……目の前の獲物を、仕留めにかかる。
腰を低く落とし、精神を形作る糸を限界まで張り詰めさせていく。──かつて、"ワン・フォー・オール"を使っていたときのように。
「はぁ──ッ!!」
そして、跳んだ。キックの構えをとると動じに、その行く手にアギトの頭部を象った紋章が広がる。──ふたつも。これは初めてのことだった。
「グウゥゥ──ッ、おのれェ!!」
ついにライオが触手を引きちぎる。しかしアギトは紋章を突破し、光を纏って今まさに突撃せんとしていた。もはや回避は間に合わない。ならば真っ向から打ち破るまでとばかりに、獅子は拳を突き出した。
──自覚もなかったがこのとき、今までにないような強烈な対抗心が彼には芽生えていた。生まれながらに高い知能と身体能力をもっていた詩島は、生まれてこのかたライバル、超えるべき対象と思えるような人間に出逢ったことがない。同僚の議員たちでさえ、彼には取るに足らない連中としか思えなかったのだ。
それが今、この小僧にだけは敗けたくないという意地が沸きあがっている。──ただ……遅すぎた。
闇は、光輝に呑み込まれるしかないのだから。
「ガァアアアア──!!?」
結局ライオのそれは、抵抗らしい抵抗にもならなかった。光を纏ったキックに地面を削りながら押しやられていく怪人。その衝撃で、下腹部から顕現した魔石にヒビが入っていく。
それから溢れたエネルギーが爆発を起こすまでに、時間はいらなかった。
爆炎を踏み越えるようにして、アギトが着地を遂げる。数メートルほど地面を滑走することにはなったが。
一方のライオは、それとは比較にならない勢いで地面を転がっていた。その間にベルトのバックルの形となった魔石は完全に砕け散り、グロンギとしての身体機能が不可逆的に失われていく。
そして、静止と同時に彼は人間の……詩島康の姿に戻った。変身の際に衣服が破れたせいで何も身につけておらず、そんな状態で白目を剥いてびくびくと痙攣している。無様としか言いようのない姿、それが彼の末路だった。
「………」
その姿を一瞥すると、アギトは予想だにしない援護の主に目を遣った。その異形の瞳と、既に幾度となく対峙しているように思われる。ただ、互いに敵意を感じないのは、彼が轟燈矢だったときを含めても初めてのことだった。