【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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Chapter:20

 

 一ヶ月後、警視庁。G3ユニットを統括する玉川三茶は報告書の仕上げにかかっているところだった。

 

「んニャ……」

 

 猫めいたため息を発しつつ、目薬を差す。昔に比べると事務仕事が増えてきて、手放せなくなりつつあるのだ。ましてGトレーラー内はオフィスとしては客観的にみてあまり快適ではない。玉川自身は猫の性質ゆえ、この閉鎖空間を実に気に入っているのだが。

 と、玉川以上にこの場を自らの城としている女性が現れた。

 

「おはようございます!!」

「ニャッ!?……あ、ああ発目くんか。今日はこちらに出勤の日だったな」

 

 彼女がいるとなると、書類仕事はあまり進まないだろう。内心苦笑していると、発目がモニターを覗き込んできた。

 

「おっ、48号事件の報告書ですね!」

「ああ。上はそう呼びたがらないけどね……」

 

 アギトに倒されたライオ──通称"未確認生命体第48号"は、表向きヴィランとして処理されている。変身していた詩島康は逮捕されたが、容疑は国防省の機密漏洩や犯罪組織への資金の横流しだ。人間がグロンギとなったことを知る者は、この世界にごくわずかしかいない。

 そして、彼が手駒として仕立てあげたふたつの"仮面ライダー"──G4と、ギルス。

 

「そういえばきょう、心操さんは?」

「ああ、彼なら──」

 

 

 *

 

 

 

 心操人使は休暇を得て、関東医大病院を訪れていた。ひと月前の戦闘で自身も多少の手傷は負ったが、それは数日で快癒する程度のもの。彼がきょうここを訪れていたのは、とある人物を見舞うためだった。

 

『……おはようございます。きょう、いい天気ですよ』

「………」

『こんな青空、見ないのはもったいないと思います──水城さん』

 

──水城史郎。G4の呪いをその身に受けた彼は、ひと月が経過した今なお目を覚まさずにいた。強力な薬液の注入を幾度となく受けた影響で、彼の脳は機能が大きく低下している。身体のほうも、筋肉や神経がずたずたにやられていて、仮に意識を取り戻したとしても植物人間状態になる可能性が高いと言われている。

 

 やり方に誤りはあったかもしれないが、その咎を負うべき人間は彼ではない。この国を守るという気高い意志を胸に戦っていた男の末路がこんな生き地獄であることを、心操は不条理と思う。

 

(あの場で死んでいたほうが、彼にとっては名誉だったんだろうか)

 

 罰当たりだと己を戒めながらも、心操はそんな考えを捨てずにはいられなかった。──それでも、己の行いを悔いているわけではない。

 

『……それでも、あなたは生きるべきなんだ』

 

 生きて、戦い続ける──それが守護者の道を自ら選んだ者の使命なのだと、彼は信じていた。

 

 

 *

 

 

 

「──よォ、焦凍。元気でやってるか?その後、ヤオヨロズちゃんとはどうだ?」

 

 さも親しげに訊いてくるガラスの向こうの青年に、轟焦凍は思わず顔を顰めた。

 

「……ここぞとばかりにプライベートにずかずか踏み込んでくるな、あんたは」

「ははっ、しょうがないだろ?それくらいしか楽しみもないんだよ、塀の中ってのは」

 

 からからと悪意なく笑う兄の姿は、やはり新鮮なもので。つられて頬を弛めかける焦凍だったが、建前上はヒーローとヴィランの立場で対峙しているのだと思い直した。

 

「身体は……どうなんだ?」

「どうって」

「異変は──」

「何もないよ。アギトになるわけでも、人間に戻るわけでもない。あの緑色の化け物のままさ」

 

 それは……ぼんやりとではあるが、予想しえたことだった。進化は不可逆的なものであって、一度そこに到達した人間がもとに戻ることはない。──篤志のようにその力の源を手放し、変身能力を失ったとしても、進化したという事実が肉体から消えるわけではないのだ。それを観測できるかどうかは、また別の話ではあるが。

 

「おまえこそ、さ……このまま戦い続けたら、いよいよ人間じゃなくなっちゃうんじゃないの」

「………」

 

「そうかも、な」

 

 波を打ったような声だった。

 

「それが怖いと思ったこともある。自分が、自分でなくなっちまうんじゃないかって……でも……」

 

 親友が教えてくれた。変化を恐れ、自らの可能性を閉ざすことはないのだと。

 

──きみのままで、変わればいい……!

 

「俺は、これからも戦い続ける。俺自身のために、人間のために……アギトの、ために」

「………」

「だから──どうか、俺を見ていてくれ」

 

 その言葉に目を丸くしたあと……燈矢は、フッと口許を弛めて笑った。そこで、面会時間が終わる。

 

「じゃあ、俺はこれで。後もつかえてるからな」

 

 立ち上がり、踵を返す焦凍。もう猶予もなかったが、そこで燈矢は弟を呼びとめた。

 

「そうだ、ヤオヨロズに伝えといてくれ。お前らの熱い夜の話はちゃんと墓まで持っていくからって」

「………」

 

 彼が脅しの材料に使ったそれに、焦凍は今一度盛大に顔を顰めたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 獄を辞した焦凍は、その足で実家へ向かった。両親と姉しかいない日本屋敷は、かつてより温かな空気が流れているといえどもやはり寂寥感を覚えさせる。──ただそこに、新たな顔ぶれが加わったとなれば話は別だ。

 

「焦凍!……にい、さん」

 

 玄関から出てくるなり照れくさそうにそう声をあげたのは、今となっては焦凍の命の恩人でもある少年だった。そのことを伝えてやると、彼はあふれる涙を抑えられなくなっていたか。

 

「無理ににいさんって呼ばなくていい。それより、親父にしごかれたりはしてないか?」

「……ちょっとだけ。でも良いんだ、ちゃんと個性を制御できるようになって……いつか俺も、エンデヴァーみたいなヒーローになりたいから」

 

 篤志──少年。アギトの力を手放した彼はその後、保護監視の名目で轟家に引き取られることになった。とはいえ実質としては、身寄りのない彼の里親のようなものである。母などは、今度こそ楽しく伸び伸びと子育てができると喜んでいた。

 焦凍としても、浮かれるところはあった。末弟である自分に、弟ができたようなものだから。

 

「なぁ……累たちは、どうなるの?」

「……ああ、」

 

 彼と同じ施設にいて、燈矢──荼毘に"弟妹"にされた少年少女たち。彼らが犯した罪の責任を問えるか否かは議論の余地があるとはいえ、怪物化も相まって、普通の生活に戻してやることは今しばらくできそうもなかった。

 

「……じゃあ俺、運が良かったんだ。たまたまあの場から逃げ出して、たまたま焦凍たちに出逢えて──」

 

 そう、一歩間違えれば自分も、彼らのようになっていた。焦凍と出逢ったとき、篤志は空腹のあまり恐喝に及ぼうとしていた。彼が止めてくれていなければ、自分はその後も犯罪行為に手を染めていただろう。そんな折にアギトへと覚醒していたとすれば……たとえ燈矢に捕まっていなくとも、同じことだったろう。

 

「俺もさ」

「え?」

「俺も、たまたま良い仲間や友人に恵まれた。だから今、こうしてヒーローを続けることができてる」

 

 むろん、運などというものは契機にすぎない。それを自らの糧として掴みとれるかどうかは、すべて自分自身にかかっている。

 

「篤志、おまえも良いヒーローになれ。そしてあいつらに、自分たちにはこんな素晴らしい仲間がいるんだと気づかせてやれ。そうすればきっと、あいつらを救い出せる」

「はい!」

 

 頷く篤志の表情を見て、焦凍は「ああ、この子はもう大丈夫だ」と確信を得た。彼がヒトのままで英雄になるか、再び超人(アギト)へと至るかはわからない。しかしいずれの道を進もうとも、彼は永遠に、自分の同志だ。

 

 

 *

 

 

 

 実家を辞したところで、ちょうど携帯に着信があった。見慣れぬ番号、しかし相手が誰かはなんとなく予想できる。焦凍は躊躇うことなくその電話をとった。

 

「──もしもし」

『……俺だ』

「ああ、なんとなくそんな気はした。──久しぶりだな、爆豪」

 

 チッと漏れ聞こえる舌打ちが今となっては恋しくも感じて、焦凍は頬を弛めた。

 

「そっちは夜だろ、寝なくて良いのか?」

『まだンな遅ぇ時間じゃねーわ。……事件のこと、聞いた』

「そうか。悪かったな、連絡しなくて」

『別にいーわ、連絡されたところでこっちのこと放り出すわけにはいかねえ』

 

 爆豪勝己。かつて未確認生命体事件において最前線に立ち続けた烈しき英雄は今、彼方の地にて重大な任務に臨んでいる。そうでなくとも彼は、意外や引き受けた物事に関しては強固な責任感と誠実さを発揮する青年だった。

 

『てめェこそ、大丈夫だったんか。リハビリもまだ終わってねえのに』

「大丈夫……じゃ、なかったかもな」

 

 実際、篤志の助けがなければ命はなかっただろうから。

 

「それでも俺、良かったと思ってる。……ヒーローになって初めて、本当に誰かを救えた気がするんだ」

『ア゛ァ?なに言ってやがる』

 

 罵倒は予想しえたもの。休止期間が長かったとはいえ、それなりに年次を重ねたプロヒーローの台詞でないことは自覚している。

 けれど、勝己の言葉には続きがあって。

 

『舐めプが。──てめェはとっくの昔から、大勢救けてきただろうが』

「……!」

 

 その言葉は、彼にしてはまっすぐで。焦凍を同志として認めているがゆえに、発せられたものだった。

 

「……ありがとな、爆豪。いつかまた、おまえと一緒に戦える日を楽しみにしてる」

『……おー』

 

 話はそれだけだった。合理を重んじる彼らにしては、きっと意味の薄い会話。

 だがそれは、互いを想う気持ちあればこそだ。同志として、仲間として……友人として、たとえ離れていても、彼らは同じ道を歩んでいく。

 

「──轟さん!」

 

 そして今、愛する人が傍にいる。愛の前に立つ限り、恐れるものは何もない。

 

 

 *

 

 

 

 ざざん、ざざんと、打ち寄せる波が音をたてている。人の足も遠のいた辺境の、荒れ果てた海岸。そこに、ラ・バルバ・デの姿はあった。

 

「……鍵は揃った。最後の扉が、間もなく開く」

 

 海水に塗れ、朽ちたオブジェクト。無数の文字盤に覆われたそれが、果たして如何なる意味をもつのか。

 彼女の妖艶な微笑みは、これまでの出来事が始まりにすぎないことを示しているのだった──

 

 

 To be Continued…?

 

 





『僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3』(長っ!)これにて完結です。ご愛読ありがとうございました。

最後、めちゃくちゃ黒い神様と天使様たちが出てきそうな気配を出していますが人間とは時間感覚が異なる彼らはおそらく数年やそこらでは出てきません、本編最終回で影も形もないのが良い証拠です。その辺の話があるとすれば轟くんとヤオモモの孫が活躍してくれるんじゃないかなぁ(適当)。


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