【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 Another EPISODE AGITΩ&G3   作:たあたん

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Chapter:9

 翼を広げたNo.1ヒーローは、その人脈を駆使して活動を開始していた。

 

「よう、久しぶり。大人しくしてたか?」

 

 感情のこもらない笑みで会釈をする鷹見啓悟。彼と向かいあう大男もまた、口角だけを吊り上げて応じた。

 

「ヤだなあ、ホークスさん。我々のことは一から十まで知ってるくせに」

「ま、それが俺のシゴトだから」

「で、きょうはなんの用です?」

「つれないな。珍しい客人だろ、もう少し歓待してくれても良いんじゃないか?」

「適切な距離は保ったほうが良いでしょう、お互い。我々は構いませんが、No.1ヒーロー様がこんなところに出入りしてると知れたらコトですよ」

「はは、まあ俺をNo.1にしちゃう世間も他のヒーロー連中もどうかと思うけど……」

 

 それは裏の人間相手だからこそ言える、鷹見の紛うことなき本音だった。オールマイトやエンデヴァーといった華やかさと実力を兼ね備えた黄金世代の引退や死去、敵連合やその後継組織との死闘による社会の動揺──極めつけに、未確認生命体事件に対する警察の活躍。それらの複合的な要因が複雑に絡みあった結果が、自分のような"狂言回し"を首班にした長期政権なのだと彼は分析している。ゆえに理解はできるのだけれども、主役たりうる名優が順当にその地位に在るべきなのだと本心では思う。そういう意味で、ショートや爆心地といった、少年時代から死闘の矢面に立っていた面々の雄飛に彼は期待していた。

 閑話休題。

 

「じゃあ、本題。きょうはふたつ、頼みたいことがあって来た」

「なんです?大恩あるあなたの依頼だ、大抵のことは引き受けますよ」

 

 男のおべんちゃらににこりともせず、鷹見は二枚の写真を取り出した。一方は、荼毘の──そしてもう一方は、G4の。

 

「おや、エンデヴァーの()長男と……なんです、この全身鎧は?」

「防衛軍が警察からパクって完成させた新装備、名前はG4」

「G4というと、警察が運用してるG3の発展型ですか?」

「ああ。こいつが防衛軍に配備されることになった経緯を探ってもらいたい」

「ははぁ、なるほど。何かウラの動きがあるっつーことですね?──で、こっちの元長男は?」

「脱獄したのは知ってるだろう。その後の足取りが知りたい」

 

 荼毘の"変身"についてはあえて明かさず、それのみを依頼する。一定の信頼関係はある相手だが、あくまでビジネスパートナーだ、すべてを詳らかにするというわけにはいかない。

 

「わかりました。……ホークスさん、身辺にはくれぐれもお気をつけて。あなたは、我々のようなモンにとっても有り難い人なので」

「そりゃ嬉しくない評価だな。じゃ、またいずれ」

 

 エンデヴァーに対するのとはまったく異なるぶっきらぼうな対応に終始しつつ、鷹見は席を立った。

 

 

 *

 

 

 

 一方のエンデヴァーこと轟炎司は、かっちりとした背広に袖を通して、新宿区市ヶ谷へタクシーを走らせていた。

 

「………」

 

 降車し、周辺ではひときわ広大な敷地にそびえる建造物を睨みつける。玄関には、"国防省"の揮毫。彼は元No.1ヒーローの見識を買われ、現在国防省有識者会議の委員のひとりに名を連ねていた。政府から任命された、いわば防衛軍の特別顧問。庁舎に自由に出入りするのはもちろんのこと、必要に応じて大臣にだってお目にかかることができる。

 

──そう、彼はその権利と権威を最大限活用することにしたのだ。搦手が駄目なら、正門から。

 

「──いやぁ、お待たせしました。エンデヴァー!」

 

 通された大臣室で待つこと十数分、関西弁訛りの鷹揚な声でそう言って現れたのは、炎司よりひと回りは若い男だった。小柄で恰幅が良く、にこにこと柔和な笑みを絶やさないその姿は、近世の大坂商人を彷彿とさせる。

 

「いや、こちらこそ急な連絡で申し訳ない──大臣」

 

 "大臣"──その呼び名は即ち、彼がこの部屋の主であることを示すもので。

 

 その見るからに穏和そうな外見に限れば、この男──詩島康に国防相らしい要素は見当たらないと、常々思う。容姿だけなら、炎司のほうが余程それらしかろう。

 しかし実際のところ、彼は国会議員の中でも群を抜いた政策通であり、国会や討論番組の場などで数多の野党議員や評論家を退けてきた屈指の論客である。その弁舌と実務能力の高さ、また穏やかながら嘘偽ることのない政治家らしからぬ誠実さがあらゆる人々の信頼を集め、齢四十の若さで国防大臣に抜擢されたのだ。

 

 大臣自ら茶を注ぎ足すという甲斐甲斐しさを見せつつ、詩島は炎司の言葉に応じた。

 

「構いませんよ。むしろ貴方ほどの方とサシでお話できるなんて、これほど政治家冥利に尽きることもない……なんて言うと、有権者に怒られてしまいますね。ははは」

「………」

「それで、きょうは?防衛軍の装備のことで、確認なさりたいことがあると伺いましたが」

 

 問われた炎司は咳払いをしつつ、鷹見から受け取ったG4の写真を提示してみせた。

 

「これは、八王子駐屯地に配備されている……」

「G4、警察が運用しているG3及びG3-Xの発展機だそうだな。これの件で、警視庁の一部が騒いでいる。盗まれたと」

「盗まれた、ですか?」困惑した顔つきになる詩島。「この装備については警察と合意のうえ、譲渡いただいたのですが……」

「現場にはその話が伝わっていないらしい。……私としては、警察と軍の軋轢は避けていただきたい」

「それは私としても同意見です。警察庁長官に改めて現場に周知するよう、私から直接お願いしましょう」

「いや、運用そのものを中止すべきだ」

「……どういうことでしょう?」

 

 困惑を通り越して、怪訝な面持ちになる詩島。何か言い知れぬ違和感を覚えつつ、炎司は切り出した。

 

「決まっているだろう、G4は装着者の命を奪いかねないのだぞ」

「命を……奪いかねない?それはいったい、どういう意味ですか!?」

「……なんだと?」

 

 乞われるままにG4について知る情報を開示する。──詩島は、顔を青ざめさせて絶句していた。

 

「まさか、そんな……」

「……ご存知なかったのか?」

「……ええ、警察からも部下からも、そんな報告は受けていません。事実ならばとんでもないことです」

「ならば、運用を中止していただけるな?」

「もちろんです。即刻中止するよう命令し、調査のうえ関係者の処分を行いたいと思います。最終的には、私も責任を取らなければならないでしょうが……」

 

 一瞬、寂しそうな笑みを浮かべた国防相は、直後には表情を引き締めた。

 

「エンデヴァーは、その件について現在調査を?」

「……うむ。警察の若造たちにも知己が大勢いてな、彼らの声はどうしても耳に入ってくる」

「未確認生命体関連事件合同捜査本部、ですか。私は噂を耳にする程度ですが、風通しの良いチームだったと聞いています。途中からは"第4号"も、迎え入れていたとか」

「ああ。皆、よく頑張ってくれた。私のような老体は後ろで偉そうにしていただけだが」

「また、ご謙遜を……。──当時の皆さんを模範とし、日々努力しているところですが……これがなかなか上手くいかない。私が率いるのは組織そのものですから、末端にまで目を行き届かせるには相当努力を必要があるようです」

「ならば、努力を続けることだ。貴方は元々リーダーに必要な資質をもっている。両方を兼ね備えれば、突破できない壁などない……と、私は信じている」

 

 物言いがきついのは相変わらずだが、その激励は間違いなくまごころのこもったものだった。それを感じ取ったのだろう、詩島が再び笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうございます。私も精一杯頑張ります──皆の笑顔のために!」

「!」

 

 炎司は思わず目をみひらいていた。曇りなき笑顔、言葉とともに立てられた親指──それは息子の親友の、とある青年を思い起こさせた。

 

 

 何かわかればお互いに情報交換しあうことを約し、炎司は大臣室を出た。

 長い廊下を独り歩きながら、黙考する。

 

(大臣は何も知らない様子だった……事実か?彼を疑いたくはないが──)

 

 実際、トップが知らないうちに現場が暴走するのは古今東西よくある話だ。だからこまめに末端まで目配りをする必要があるのだが、国家機関ともなると口で言うほど簡単ではない。

 しかし、大臣ともあろうものが……という気持ちを捨てきれないのも事実で。自他ともに厳しい炎司は、ライバルとみていた"平和の象徴"とはまた違った形で理想主義的なところがあった。

 

「……ん?」

 

 ふと、漂ってきたほのかな薔薇の香り。思考を止めた炎司の前方から、軍服を纏った女性が歩いてきた。彼女が会釈とともにすれ違った瞬間、香りは最も濃厚なものとなる。

 香水でも付けているのだろうか?決して不快な匂いではないが、それ以前に防衛軍の規範として許されるものなのだろうか。自分が上官なら、絶対に認めないが。

 

(……やはり、綱紀粛正が必要なのかも知れんな)

 

 疑念より苦労を偲ぶ気持ちが勝りつつ、炎司は国防省を辞した。──その背中を見つめる、女の意味深な視線にも気づくことなく。

 

 

 *

 

 

 

──同時刻 防衛軍陸上部 八王子駐屯地

 

「そうですか。──了解しました、プロジェクトの完成予定を早めます」

 

 艷やかな笑みを浮かべて電話相手の言葉に応じると、深海理沙は受話器を置いた。そして貼りつけたような表情のまま、別室へ移動する。

 

「"被検体"の様子は?」

 

 彼女の問いに対し、部下の男が淀みなく答える。

 

「消耗していますが、現状生命維持に影響は出ていません。……それにしても凄まじい生命力です、同じ人間とは思えない」

「あなたの言う通りね」

「は?」

「同じ人間ではないのよ。"あれ"はもう怪物……そうね、かつての"未確認生命体"と同じ。我々の目的に資するからこそ、生きることを許しているの」

 

 モニターに映る、全身を拘束具に覆われた少年──累。薬品によって意識を奪われ、彼はまったく無抵抗の状態だった。

 その様を舐め回すように観察しながら、深海は実験のペースを上げるよう指示する。それは生命維持に影響が出るという懸念が当然ながら返ってくるが、彼女は意に介さない。

 

 

 彼女にとって守るべきは上官の命令であり、ひいてはその果てにあると信じる国家の秩序だったのだ。

 

 

 *

 

 

 

 一方で哀れな被検体に堕ちた少年の仲間たちにとって、守るべきものは"家族"しかありえなかった。

 

「………」

 

 アジトの小窓から、西の方角を見つめる少年。少年といっても背が高く、身体つきもほとんど大人のそれである。

 そんな彼の背後から、ひと組の男女が歩み寄った。

 

「ハナシってなんだよ、廻?」

「"にいさん"に聞かれたくない話なんて……」

 

 "廻"と呼ばれた少年が、仲間たちを振り向く。

 

「累のことだ。あいつは、また軍に捕まっちまった」

「……わかっているわよ、そんなこと。にいさんが言ってたじゃない」

 

「もうあいつは、わたしたちの家族じゃないって……」

 

 荼毘の言葉を思い起こし、少女は身を震わせた。

 

「……にいさんに、感謝はしてる。国の玩具にされてた俺たちみたいなガキに、力をくれた」言葉とは裏腹に、拳に力がこもる。「でもあの人はあの人、俺たちは俺たちだ。あの人が切り捨てたからって、俺たちが追従する義理はない……!」

「ついしょう?ってなんだぁ?」もう一方の少年が訊く。

「……言うことを聞くって意味よ。あんたってほんと、脳味噌つるつるね」

「ア゛ァー!?バカにしてるっつーのはわかるぞ!!」

 

 険悪になる年少ふたりを諌めるように、廻は「とにかく!!」と声を張り上げた。

 

「俺は……累を救け出しに行く!」

「……累は駐屯地にいるんでしょう?無茶よ、にいさんのお力も借りられないのに……」

「……わかってる、でもあいつを放ってはおけない。麻衣、姜一郎──」

「──オレは行くぜ!」被せるように、姜一郎と呼ばれた少年が言う。「ダチを見捨てるワケにはいかねーからなっ!」

「………」

 

 少年に対し、少女──麻衣は沈黙を貫いていた。

 

「麻衣、おまえは?」

「……にいさんのお考えには、逆らえない……」

「ッ、おまえなあ──」

「──よせ、キョウ。……じゃあ、何も聞かなかったことにしてくれ」

「当たり前じゃない……私までにいさんにお仕置きされちゃうもの」

 

 捨て台詞のように吐き捨てて、麻衣は歩き去っていく。その背中を見送ることもなく、少年たちもまた飛び出していった。

 

 




少年Aの名前がオバホと被ってるのは…よくあることです
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