P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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実は今回記念すべき第百話となっております。まあ内容は普通ですが。


危機感と警報器と私

 魔法薬学、占い学と授業を終えた私たちは闇の魔術に対する防衛術の教室に向かって歩いていた。

 闇の魔術に対する防衛術の授業を担当するのは新任のグリムという人物だ。

 グリムは全身を真っ黒のローブで覆い、顔面を仮面で完全に隠している。

 グリム曰く呪いのせいで人前で素顔を晒すことができないらしい。

 その話が本当か嘘かはわからないが、授業を受ける分には関係ない話だろう。

 

「それにしてもサクヤの言い訳は完璧だったな。占い学の授業でアレだけ居眠りした後、トレローニーに『夢占いで使う夢を準備していたんです』だもんな」

 

 ロンは感心するように何度も頷く。

 それを聞いて途中で合流したハーマイオニーが呆れたように言った。

 

「魔法史でアレだけ寝たのにまだ寝れるのね」

 

「心配しないで。夜もちゃんと寝るわ」

 

 私はハーマイオニーに対してサムズアップを送る。

 

「そう言う問題じゃないでしょ。まったく……次の授業では寝ないようにね」

 

「内容次第だわ」

 

 私は教室の扉を開き、空いている席に腰掛ける。

 ロンとハリーは私の前の席に、ハーマイオニーは私の横へと腰掛けた。

 

「でもまあ、純粋に楽しみではあるんだけどね。あの変な先生がどんな授業をするのか興味があるし」

 

「闇の魔術に対する防衛術の先生って優秀な人が多いよな。すぐやめちゃうけど」

 

 確かにロンの言う通り、初年度のクィレル、二年生の時のロックハート、三年生のルーピン、四年生のマッドアイと誰もが非常に優秀な魔法使いだった。

 今回もあのパチュリー・ノーレッジの弟子ということもあり、その実力には大いに期待できるだろう。

 私は今年の闇の魔術に対する防衛術の教科書である『明日への一歩を踏み出すための防衛術』を鞄の中から取り出し、裏から捲る。

 思った通りこの本も今までの著作の例に漏れず裏から解読することによって新しい情報が出てくるようだ。

 裏に書かれた題名は『明日を掴み取るための防衛術』。

 解読してみないとなんとも言えないが、きっと表に書いてある内容から更に一歩踏み込んだことが書かれているのだろう。

 裏から本を読み進めるには、表に書かれた内容を完全に理解する必要がある。

 この本の解読作業は少し授業が進んでからでいいだろう。

 クラスの全員が席につき、教科書を机の上に置いて授業が始まるのを待っていると、扉が開きグリムが教室の中に入ってくる。

 手には大きな箱を抱えており、グリムが歩くたびにガチャガチャと音を立てていた。

 

「よし、みんな揃っているな。点呼を取るなんて面倒なことはやりたくないのだが……まあ最初だけだ」

 

 グリムはそう言うと鞄から名簿を取り出し、順番に名前を読み上げる。

 そして全員揃っていることを改めて確認すると、仮面を何度か揺らし頷いた。

 

「ふむ、一人も遅刻していないとは、今の子供たちは良い子ばかりのようだ。さて、そんな良い子の君たちに質問しよう。何故、学校の授業に『闇の魔術に対する防衛術』なんて教科があるのだと思う? マグルの学校じゃ護身術なんて授業はない。仮にあったとしても七年間みっちり必修科目として存在していることはまずないだろう。シェーマス、どう思う?」

 

 急に名前を呼ばれたシェーマスは慌てたように顔を上げると、少し首を傾げる。

 

「マグルに危機感が無いから?」

 

「それもあるだろう。彼らは自分たちに都合の悪いものに目を向けようとしない。そうだな……ネビル、君はどう思う?」

 

 ネビルはびくっと身体を震わせると、恐る恐る言った。

 

「大事な人を守るため?」

 

「そこで一番に自分の身という言葉が出てこない君は優しい少年なのだろうね。でも、そもそも襲われなければ防衛術など必要ないだろう? ハーマイオニー、どう思うかな?」

 

 自分を当ててくれと言わんばかりに机から身を乗り出していたハーマイオニーは少し鼻息を荒くしながら立ち上がった。

 

「はい。それはマグルの世界とは違い、魔法界では一個人が持つ力が大きいからだと思います。マグルの世界、それもイギリスではマグルの武器である銃は厳しく規制されており、また警察組織も非常に優秀なため普通に暮らしている分には争いごとに巻き込まれることはまずありません。ですが魔法界は違います。杖を持った魔法使いはそれだけで大きな力を有した存在であり、魔法を用いれば人を操ることも、怪我を負わせることも、それこそ、殺めてしまうことも簡単に出来てしまいます。ですが、銃と違い魔法使いの杖を規制することはできません。ですので個人がしっかりとした防衛術を身につけ、また、防衛術を必修科目として履修しているという事実が抑止力に繋がるのだと私は考えます」

 

 ハーマイオニーはそう捲し立てると満足そうに椅子に座る。

 グリムは腕を組んで何度か頷いた。

 

「ハーマイオニー、君の言う通りだ。杖を持った魔法使いほど恐ろしい存在もいない。許されざる呪文と呼ばれる、服従、磔、死の呪いもただ法で規制されているだけであり、練習さえすれば誰であっても使うことができてしまう。例えば今私がここで杖を振り上げ、ここにいる全員を服従させたとしよう。それがバレれば、私はアズカバン行きだ。だが、それだけだ。元々お尋ね者な奴らからしたら、アズカバン行きなんて怖くもなんともない。今の法は、闇の魔法使いが闇の魔術を使うことへの抑止力にはなり得ていないんだ。いつ、君たちの身に危機が迫るかわからない」

 

「でも先生、例のあの人がいた時代ならまだしも、今はもういません。その前に世間を騒がせたグリンデルバルドも監獄の中。ならもう安心なのでは?」

 

 私は試すようにグリムに問いかける。

 グリムがどこまでダンブルドアと情報の共有をしているかはわからないが、少なくとも私がヴォルデモートの復活を目撃したことは知っているだろう。

 グリムは急に手を上げて質問した私の方を見ると、小さく肩を竦めた。

 

「確かに、グリンデルバルドは監獄で、ヴォルデモートの影も今は見えない。だが、それだけだ。今ここで君たちが魔法を習っているということは、ここにいる全員が第二、第三の闇の帝王になる可能性を秘めているということだ。私はね、明日にでもヴォルデモートが復活してホグワーツを襲撃しにくるなんて思っちゃいないよ? だが、行き過ぎた思想を持った生徒が徒党を組み、今の魔法界を変えようとするぐらいのことはいつ起こってもおかしくないと思っている。魔法省の現体制はクソだと言ってクーデターを起こしたり、行き過ぎた純血主義がマグル生まれの排他を始めたり、逆に純血主義を廃しようとする活動が次第に過激になり、魔法界を巻き込んだ大戦争に発展したり。そうだな、屋敷しもべ妖精の反乱、なんてエピソードでもいいかもしれない。今の魔法界は言わば火薬庫の中で花火大会をしているようなものだ。いつ大爆発を起こしてもおかしくはない」

 

 グリムは黒板の前を行ったり来たりしながら話し続ける。

 

「そうなった時、君たちは一体どのような立場にいるだろうか。戦いの中心で呪文を撃ち合っているかもしれない。家族を守るために家に防衛呪文を張り巡らせているかもしれない。他人事だと知らんぷりできる保証はどこにもない。君たち全員が当事者になる可能性を秘めている。そうなった時、君たちが明日への一歩を踏み出すために、この授業は存在している」

 

 教室にいる全員が真剣な表情でグリムの話に聞き入る。

 グリムはそんな生徒たちをぐるりと見回すと、パンと一度大きく手を叩いた。

 

「さて、真面目な話はここまでだ。今回は初回だからね。気楽に聞いてくれていい。全員教科書の二〇七ページを開いてくれ」

 

 グリムの指示を聞き、全員が机の上に置いていた教科書を捲り始める。

 そこには戦闘や防衛で役立つ魔法具が写真付きで載せられていた。

 

「今日はここに載ってる魔法具を実際にいくつか持ってきた。一つ一つ展示しながら説明していこう」

 

 グリムはそう言うと、持ってきた箱の中からコマのような魔法具を取り出す。

 

「これは見たことがある生徒も多いだろう。かくれん防止器、スニーコスコープだ」

 

 私は持っていないが、魔法界では割と有名な魔法具だ。

 去年課外授業を受けていたクラウチ・ジュニア扮するムーディの部屋にも置いてあったし、ハリーも小型のものをロンから貰って所持している。

 

「かくれん防止器は怪しいものを探知すると音と光を発しながら回り出す。一度実験してみよう。実験の手伝いを……そうだな、ハーマイオニー、君に頼もうか」

 

 ハーマイオニーは机の下で小さくガッツポーズをし、グリムのもとへ駆けていく。

 グリムはハーマイオニーにかくれん防止器を握らせると、教卓から少し離れた。

 

「よし、そのままかくれん防止器を机の上に立てて……そう、それでいい。支えていなくとも自立すれば、正常に作動しているということだ。魔力が切れると自立しなくなる。その場合は魔法をかけ直すか、買い替えるかだな。ハーマイオニー、席に戻っていいよ」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうに私の隣へと帰ってくる。

 グリムは教卓から少し離れた位置で話を続けた。

 

「今このかくれん防止器は起動状態にある。この状態で怪しい者が近づくとかくれん防止器は反応するわけだが……この教室内で一番怪しい存在だと思う人は誰かな?」

 

 グリムの言葉に皆教室内をキョロキョロと見回す。

 そして満場一致と言わんばかりに全員が前を向いた。

 

「先生が一番怪しいと思います」

 

 ラベンダーがクスクス笑いながら言う。

 グリムはそれを聞いて少々大袈裟にショックを受けたような仕草をした。

 

「本当に? そうか……まあ、そうだな。では、僭越ながら──」

 

 グリムはそろりそろりと教卓へと近づいていく。

 すると、かくれん防止器はけたたましい音を立てながら光り始めた。

 

「っと、このような動作をする。今は索敵距離をかなり縮めているが、本来なら数十メートル先まで探知可能だ。今回ハーマイオニー君がかくれん防止器を起動したため私に対して反応したが、私が起動した場合は私のことは怪しいものと判断しなくなる」

 

 グリムは一度かくれん防止器を止めると、再度机の上に置く。

 するとかくれん防止器はピタリと静かになった。

 

「とまあこんな感じだ。かくれん防止器があれば寝ている間に不意を突かれることが少なくなるだろう」

 

 グリムはかくれん防止器を机の隅に置くと、箱の中から違う魔法具を取り出し説明し始める。

 私は頬杖をつきながらそんなグリムの様子をぼんやりと観察していた。

 グリムは何というか、私が思っていたよりも随分とマトモで、常識のある人物に見える。

 パチュリーの弟子だというから奇想天外な技術を授業で教えるのかと思っていたが、授業の内容も凄く普通だ。

 もっとも、初回の授業だからということもあるかもしれないが、だとしても見た目ほどの異常さは感じられなかった。

 グリムには、パチュリーのような滲み出る異様さがない。

 格好だけ異質な、普通の男。

 それがグリムの印象だ。

 

 

 

 

 

 結局その後もグリムの授業は当たり障りなく終わり、私たちは夕食を摂りに大広間へと来ていた。

 私はミートパイを皿ごと自分の手元に寄せると、ナイフとフォークで切り分け口の中に運んでいく。

 

「なんというか、普通に面白い授業だったね」

 

 ハリーが自分の皿に料理を取り分けながら言う。

 

「初め見たときは相当おかしな先生かと思ったけど、全然そんなことなかった。ルーピン先生に雰囲気が似てるかな」

 

「あー、うん。確かに。去年のマッドアイは相当イカれた先生だったし、二年生の時のロックハートは優秀すぎて異質だったもんな」

 

 やはりハリーとロンも私と同じ考えらしい。

 私は口一杯にミートパイを頬張りながらハーマイオニーに聞いた。

 

「ハーマイオニーはどう思う?」

 

「うーん……でも言ってることは相当まともだし、授業も分かりやすい。OWLの年の先生としては当たりだと思うわ。ただ……」

 

 ハーマイオニーはフォークを咥えながら言う。

 

「私としては、教科書に載っていないような高度な魔法を教えてもらいたいわ。指定された教科書の内容って凄く分かりやすいけど、あくまで学生の範囲を出ないもの」

 

 確かにあの教科書を表から読んでもそこまで高度な技術は書かれていない。

 だが、裏から読み進めれば話は変わってくるだろう。

 

「まあ、良くも悪くも教科書以上のことは教えてくれないと思うわよ」

 

「ええ、それが少し残念だわ」

 

 果たしてグリムはどこまでの内容を生徒に教えるつもりなのだろうか。

 表の内容で終わるのか、それとも裏に書かれた内容も授業で取り扱うのか。

 どうなるかはわからないが、授業を受けていればそのうちわかるだろう。

 私は誰も手をつけていないミートパイの皿を鞄の中にこっそり仕舞うと、自分の目の前にある料理を口に運び続けた。




設定や用語解説

相変わらずサクヤに甘いトレローニー
もうそろそろ酷い事故や事件に巻き込まれて死ぬんじゃないかと思っている。

まともな先生グリム
 ルーピン先生に少し雰囲気の似ている普通の先生。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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