P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
クリスマス休暇に入る少し前、私は赤と黄色のユニフォームを着てクィディッチスタジアムのグラウンドに立っていた。
手にはハリーの宝物であるファイアボルトが握られている。
「いいかい。その箒は滅茶苦茶速い。授業で使った流星とは雲泥の差だ。だから、初めから全力で飛ぼうとしちゃいけないよ」
クィディッチで使うボールがあれこれ入った箱を片手にハリーが説明する。
「ルールは大丈夫だろう? サクヤの仕事はスニッチをキャッチすることだ。逆に言えば、それ以外のことは殆ど考えなくていい。チョウやセドリックよりも早くスニッチをキャッチできたら僕らの勝ちだ」
ハリーは箱を地面に置くと、中から金色のスニッチを取り出す。
「スニッチは小さくて素早い。少し目を離したらすぐに見失ってしまうと思う。だから試合中は積極的に飛び回ってスニッチを探すことになる。ここまではいいかい?」
「ええ。大丈夫」
「それじゃあ、一回やってみよう。スニッチを離すから、十秒経ったら追いかけて、キャッチする。それを何度も繰り返すんだ。それに慣れてきたら今度はチェイサーやビーターが練習している環境に交じって同じ練習をする。試合中は常に真っ直ぐ飛べるわけじゃないからね。他の選手を避けて飛ぶ練習もしなくちゃ」
ハリーはスニッチを空に放つと、しばらく目で追う。
私は心の中で十秒数えると、箒に跨り遠くに飛んでいるスニッチに向かって真っ直ぐ飛んだ。
「よっと」
ハリーの言う通りファイアボルトの加速力は凄まじいものがある。
普通に飛んでもスニッチに追いつくことが出来るので飛ぶ軌跡さえ分かっていれば容易にキャッチ出来てしまう。
「捕まえたわよ」
私は地上にいるハリーの元へと戻ると、掴んでいたスニッチを手渡す。
ハリーは驚愕交じりに言った。
「サクヤ、今の見えてたのかい?」
「いや、これだけピカピカしてたら流石にね」
実際のところ、スニッチの動きを目で追ったり、軌道を予想することは難しいことではない。
それに私なら一度時間を止めてしまえばのんびりとスニッチを探すことができる。
私はその後もハリーが放ったスニッチをあっという間に捕まえてハリーの元に持ってくるということを繰り返す。
十回目のキャッチの後、私はハリーの横に降り立って苦笑した。
「なんかフリスビーをキャッチする犬みたいね私」
「初めてでここまでスニッチを取れるのは凄いよ。それに、特に目がいい。普通はあんなにすぐスニッチを見つけることはできない」
ハリーは手に持っていたスニッチを木箱の中へ戻す。
「この調子ならすぐにでもチームに交ざって練習できると思う。というか、人がいる環境で練習しないとこれ以上の上達は見込めなさそうだ」
「それじゃあ、今日の練習はこれで終わり……でいいのよね?」
「うん、大丈夫」
私とハリーは箒やボールを用具室に戻すといつものローブに着替えてクィディッチスタジアムを後にする。
城へと戻る道中、ハリーが羊皮紙の切れ端で点数を計算しながら言った。
「まだ何ともわからないけど、少なくともハッフルパフ戦とレイブンクロー戦では普通にスニッチを取るだけじゃダメだ。百五十点差じゃスリザリンにつけられた二百五十点差をひっくり返せないと思う。総合優勝を狙うには少なくともこれ以降の試合は二百点以上の差をつけて勝利していかないといけない」
「つまり、スリザリンにやられたことを今度は私たちがやるってわけね」
「そういうわけじゃないけど……チェイサーが点差を開くまではスニッチがキャッチできない。新しいビーターはまだ決まってないけど、フレッドとジョージ以上の人材が出てくることはないと思うからシーカーの妨害はシーカー自身がやらないといけないと思う」
「任せて。そういうのは得意よ。私」
私はハリーに対しニヤリと微笑む。
ハリーは私の顔を見ると、少し心配そうに言った。
「なんというか、サクヤはビーターの方が合ってるかも」
「どういう意味よそれ」
私は軽く頬を膨らませる。
何にしても、クィディッチのメンバーに関しては取り敢えず大丈夫そうだろう。
「でも結局、アンジェリーナが抗議してもハリーの謹慎は解けなかったのよね?」
「うん、まあアンブリッジが相手だからそこまで期待はしてなかったけど……」
ハグリッドの授業の時にあの様子だったアンブリッジのことだ。
どれだけ正当に訴えても聞く耳を持たないだろう。
その日の深夜。
私がベッドで熟睡していると不意に肩を叩かれた。
「……エミリー? それともトーマス? ……トイレぐらい一人で行けるでしょ?」
私は寝ぼけまなこを擦りながらベッドから起き上がる。
そこに立っていたのは寝巻き姿のマクゴナガルだった。
しばらくの沈黙のあと、私は目をパチクリしながらマクゴナガルに聞く。
「えっと、トイレに一人で行くのが怖くて、ついてきて欲しいとか、そういう話じゃなさそうですね」
「すぐに起きて支度なさい」
マクゴナガルは寝巻き姿ではあるが、いつも通りの厳格な表情だ。
「支度?」
私が聞き返すとマクゴナガルは少し声を小さくして言った。
「騎士団としての仕事です。私はすぐに他の子供たちを起こしてきますので、貴方は先に談話室で待っていてください」
マクゴナガルはそう告げると足早に部屋を出て行く。
私は大きく伸びをすると、ベッド横のチェストに置いていた懐中時計を手に取った。
「午前一時二十八分……こんな時間にマクゴナガルが私を訪ねてくるなんて相当ね」
私は周囲を見回し、他に起きている者がいないことを確認すると、時間を止めて動きやすい服装に着替える。
そしてベッド横に置いていた鞄を小さくしてポケットに入れると、時間停止を解除して談話室へと下りた。
しばらく談話室で待っていると、マクゴナガルがジニーを連れて女子寮から降りてきた。
ジニーは何が起こったのか理解できていないようで、寝巻きのまま不安そうな顔をしていた。
「私はフレッドとジョージを連れてきます」
マクゴナガルはそう言うと今度は男子寮へと上がっていく。
私はソファーに腰掛け、まだ覚醒しきってない頭で今の状況を推測した。
マクゴナガルがジニーを連れてきたということは、ウィーズリー家の関係者に何かがあったのだろう。
可能性として高いのは父親のアーサー・ウィーズリーが騎士団の任務中に負傷、又は死亡したケースだろうか。
「ねえ、サクヤ。何があったの?」
ジニーの問いに私は静かに首を横に振る。
「私も何も説明を受けてないわ。多分全員揃ったら説明してくれると思うけど……」
私たちは無言のまま肌寒い談話室でマクゴナガルが来るのを待つ。
十分ほど待っただろうか。
マクゴナガルがフレッド、ジョージの二人を連れて男子寮の階段を下りてきた。
フレッド、ジョージの二人は私とジニーが談話室にいることを確認すると、ほっと安堵の息をついた。
「どうやら退学とか、そういうヤバい話じゃなさそうだな」
「マクゴナガルが寮の部屋まで来るなんてよっぽどだからな」
二人はそう言って笑い合う。
だが、マクゴナガルはその様子を咎めることなく、ついてきなさいと端的に口にし、先導するように談話室を出ていった。
「……何かあったのか?」
マクゴナガルの後ろに続きながら、ジョージが小声で私に聞いてくる。
「まだ何も聞いてないけど……退学の方がよっぽどマシな可能性もあるわ」
私はマクゴナガルにも聞こえるようにそう答えた。
「ジニーにフレッドにジョージ……もしウィーズリーの兄弟を集めたのだとしたら一人足りないと思わない?」
「まさか、ロンのやつに何かあったのか?」
フレッドは少し不安そうな顔をする。
だが、間髪入れずに前を歩いていたマクゴナガルが言った。
「ロナルド・ウィーズリーは今校長室です」
「死体が転がっているとか言わないよな?」
ジョージがそう聞くと、マクゴナガルは首を横に振った。
「元気にしているのでご安心なさい。……怪我をなされたのは貴方のお父様です。不死鳥の騎士団の任務中に負傷なされたようで──」
「親父が怪我? 騎士団の任務で?」
フレッドがマクゴナガルの言葉を復唱するように尋ね返す。
「はい。既に聖マンゴに運び込まれ癒者による治療を受けています」
騎士団の任務中に怪我、ということは十中八九死喰い人に襲われたのだろう。
ヴォルデモートからウィーズリー襲撃の話は聞いていないため、たまたま鉢合わせて戦闘になった可能性が高いか。
私たちは階段を下り、三階にあるガーゴイル奥の隠し螺旋階段を上って校長室に入る。
校長室では青ざめた表情のハリーと、それに付き添うロンの姿があった。
「校長先生、子供たちを連れてきました」
マクゴナガルがそう報告すると、右手にヤカンを持ったダンブルドアがこちらに近づいてくる。
ダンブルドアは手に持っていたヤカンを近くの机の上に置き、私に向き直った。
「手短に話すとしよう。アーサー氏が任務中に襲われた。アーサー氏自体は既に聖マンゴに運び込まれておる。そこで、君たちをロンドンにある騎士団の本部に送ることにした。病院へはそっちのほうが隠れ穴より近いからの」
「本部……ああ、だから私が呼ばれたのですね」
私がパチュリーから譲り受けた家は現在不死鳥の騎士団の本部になっている。
維持や管理は屋敷しもべ妖精であるクリーチャーが行っているはずだ。
「サクヤ、君がおった方が都合がよいのでの」
「護衛は私一人ですか?」
私が他の皆に聞こえないようにダンブルドアに尋ねると、ダンブルドアは小さく頷いた。
「ホグワーツにいる騎士団員たちは休暇に入るまではホグワーツを離れることは出来ん。あとから人は送るが、すぐに動けるのは君だけじゃ」
いまだに状況がよく呑み込めないが、ダンブルドアの表情を見るに今すぐにでもここを離れたほうがよさそうだ。
「……分かりました。本部まではどうやって?」
「移動キーを使う。煙突飛行はあまり安全ではない」
ダンブルドアは机の上に置いていたヤカンを私に差し出してくる。
なるほど、このヤカンが移動キーになっているのだろう。
「まあ、煙突飛行は魔法省が管理してますもんね。でも、移動キーを勝手に作るのも違法では?」
「なに、コーネリウスに内緒にしておけば何の問題もなかろうて」
私はダンブルドアからヤカンを受け取ると、皆の方に差し出す。
移動キーを使ったことがあるのか、特になんの説明もなしに全員がヤカンに手を伸ばした。
「詳しい話はハリーから聞くのじゃ。では、三つ数えて……一……二……」
次の瞬間、私たちはヤカンに引っ張られるように宙を舞った。
私の右手はヤカンの取っ手に完全に引っ付いている。
夏にヴォルデモートのもとに送られた時のことを思い出すが、今回は私一人ではない。
ハリーにロン、ジニー、フレッド、ジョージ、それに私を入れて六人もの魔法使いが一つのヤカンにくっつき、高速で宙を舞う。
そのまま私たちはホグワーツからロンドンまでの距離を圧縮するように移動し、次の瞬間にはクリーチャーによってピカピカに磨かれた地下の厨房に立っていた。
「これはこれはお嬢様。お帰りなさいませ」
モップでシンクを磨いていたクリーチャーが少々驚きながらも恭しく私に対して頭を下げる。
「ですが、なにやら訳ありのご様子で」
「そうね。取り敢えず温かいスープでも作って頂戴」
私がそう伝えると、クリーチャーは私以外の子供たちの顔色を見回し、納得したように頷いた。
「ほうれん草のポタージュスープをおつくりしましょう。それまでは温かいバタービールでもいかがですか?」
「頂くわ」
私は移動キーのショックで足元がおぼつかないハリーを厨房の椅子に座らせると、クリーチャーが持ってきたバタービールを大きなマグカップに注いで皆に配る。
そして私自身は瓶のままバタービールを煽り、ハリーの前に椅子を持ってきて座った。
「それで、一体何があったのよ」
私はまっすぐハリーの目を見る。
ハリーは私から逃げるように少し視線を泳がせたが、やがて諦めるように話し始めた。
「夢を見たんだ。僕が蛇で、そしておじさんを襲う夢だった。夢……いや、でも実際は夢じゃなかった」
「要領を得ないわね」
だが、ハリーの心を読んで分かった。
夢というよりかは、ハリーはヴォルデモートのペットの蛇であるナギニの中に入っていたのだろう。
ハリーは蛇の中から外の景色を見ていた。
いや、ハリー自身が蛇だった。
ナギニがどうして魔法省にいたのかは分からない。
だが、その理由を推測することはできる。
きっと神秘部のどこかに保管されている予言を探すために送り込まれたのだろう。
その道中で神秘部の監視をしていたアーサーと鉢合わせになり、結果的にアーサーがナギニに噛まれた。
「よくわからないけど、つまりハリーはアーサーさんが蛇に襲われるところを夢に見て、それをダンブルドア先生に報告した。そして実際に調べてみると本当にアーサーさんが襲われていて、今こんな状況……ってところかしら」
「うん。大体そんな感じ」
ハリーの代わりに隣にいるロンが答える。
「でも、どうやってアーサーさんを見つけたの? 魔法省に人を送ったにしては動きが早すぎるわよね?」
「肖像画だよ。ほら、校長室に歴代校長の肖像画があるだろう? 肖像画は他の場所にある自分の肖像画に移動できるから」
「なるほど。ホグワーツの校長を務めるほどの魔法使いなら、魔法省にも肖像画が飾られているってわけね」
きっとアーサーは騎士団の任務で神秘部に怪しい者が入らないように監視していたのだろう。
私はその任務については把握していないが、ダンブルドアは今夜アーサーが神秘部の監視をしていることを知っていたはずだ。
ハリーの話を聞いて、ただの夢ではないと即座に判断したのだろう。
私はバタービールをもう一口煽る。
今回の件、ヴォルデモートに報告しておいた方がいい。
私はバタービールを机に置くと、厨房の出口へと向かった。
「少しだけ自分の部屋に戻るわ。すぐに戻ってくるからみんな厨房から動かないでね」
私はそう言い残すと階段を上って二階にある自分の部屋へと入る。
そして時間を止め、ポケットの中から両面鏡を取り出した。
「我が主様、私です」
私は鏡の向こう側に向かって呼びかける。
しばらくすると鏡の向こうにヴォルデモートの顔が現れた。
「……っ、どうしたサクヤよ」
「ご報告しなければならないことがあります」
私は現在の状況を包み隠さずヴォルデモートに伝える。
ヴォルデモートは私の報告を最後まで聞くと、少し難しい顔をした。
「ハリー・ポッターがナギニと繋がった……なるほどな。それで、今はグリモールド・プレイスにいると」
「はい、その通りです」
ヴォルデモートは小さくため息をつくと、気怠げそうに腕を組む。
「ナギニには神秘部の偵察の任を与えていた。まだ戻ってきてはいないが……まさかそんなことになっているとは」
「その様子ですと、予言の方はまだ……」
私が問いにヴォルデモートが頷く。
「思った以上に護りが固い。それに、騎士団員が神秘部を監視しているということは私が予言を狙っていることがダンブルドアにバレていると考えていいだろう」
「もしそうだとしたら解せませんね。ダンブルドアは何故予言を処分してしまわないのでしょう。私だったらすぐにでも予言を処分してしまいますが」
「ダンブルドアは予言のことを私を引きずり出すための罠として見ているのかもしれないな。私の動きを少しでも予想するために予言を利用しているのだろう」
確かに予言という明確なエサがあれば何もない状況よりかはヴォルデモート陣営の動きを読みやすくなる。
好き勝手にあちこち攻撃されるよりかは、予言を危険に晒した方がマシだと考えているのだろう。
「まあ、とにもかくにもよく報告してくれた」
「今後、私はどのように動けばよろしいでしょうか?」
「しばらくは今まで通りでいい。前に言った通り、クリスマス休暇中に一度アジトで古参の下僕どもと顔合わせはしてもらうが、それまではダンブルドア側の人間として振る舞え」
「かしこまりました。私からの報告は以上です」
私はヴォルデモートに頭を下げ、両面鏡をポケットの中に仕舞い時間停止を解除する。
そしてホグワーツの制服から普段着へと着替えると、皆が待つ厨房へと戻った。
設定や用語解説
エミリーとトーマス
ウール孤児院にいた子供の名前。
魔法界の肖像画
魔法界の肖像画は、自らの肖像画を自由に行き来できる。
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