P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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病院と病棟と私

 アーサー・ウィーズリーが襲われてから一夜明けた次の日の昼。

 私たちはマグルの服装でロンドンの街を歩いていた。

 トンクスを先頭にハリーとウィーズリー家の子供たち、その後ろにモリー、最後に私とムーディが続く。

 

「それにしても、聖マンゴってロンドンにあるんですね。名前は聞いたことあるんですが直接訪ねるのは初めてです」

 

「世話にならんことに越したことはない。特に学生のうちはな」

 

 ムーディはぶっきらぼうにそう答える。

 私もムーディに愛想の良さは求めていないので特に気にすることなく言葉を続けた。

 

「でも、どうせロンドンに作るならダイアゴン横丁の中に作ればよかったんじゃありません? その方が利便性が高そうですが」

 

「ダイアゴン横丁は古く歴史のある横丁だ。病院を建てるスペースなど存在せん。それに、魔法省みたいに地下に埋めてしまうこともできん。病院を埋めるというのはあまり健康的ではなかろう? え?」

 

「まあ、そうですね。でもそれを聞くに、聖マンゴはそんなに古い建物ではないんですね」

 

「グリンゴッツやホグワーツに比べたらな。ほれ、そこだ」

 

 ムーディが杖で少し先を指し示す。

 そこには赤レンガで建てられた古びたデパートがあった。

 『パージ・アンド・ダウス商会』と看板が掛かった下には全く手入れのされていない様子のショーウィンドウがあり、中には流行遅れの服を着たマネキンが数体立っている。

 そして入り口には『改装のため閉店中』と張り紙がされていた。

 

「さて」

 

 先頭を歩いていたトンクスはショーウィンドウに近づいていき、中にいるマネキンに声を掛ける。

 

「どうも。アーサー・ウィーズリーに面会に来たんだけど」

 

 トンクスがマネキンにそう伝えると、マネキンは小さく頷き手招きし始める。

 それを見てトンクスはジニーの肩を押しながらショーウィンドウの中に消えていった。

 なるほど、聖マンゴの入り口は九と四分の三番線の入り口と同じような作りになっているようだ。

 トンクスとジニーに続いてモリーとフレッド、ジョージ、ハリーにロンと続いていく。

 私とムーディは最後に、周囲に監視の目がないことを確かめてからショーウィンドウのガラスを潜り抜けた。

 

 ショーウィンドウを抜けた先は病院の待合室になっていた。

 受付の前に並べられた椅子には様々な症状の患者が座っており、いたって健康そうに見える魔女からこの世のものとは思えない容姿をしている魔法使いまでバラエティに富んでいる。

 そんな患者たちには目もくれずにモリーは真っ直ぐ受付に進んでいくと、ライム色のローブを着た魔女に話しかけた。

 

「こんにちは。夫のアーサー・ウィーズリーが別の病棟に移ったと聞いたのですが……どこでしょうか?」

 

「アーサー・ウィーズリー? ちょっと待ってね」

 

 受付の魔女はクリップボードに書かれた長いリストに指を走らせる。

 

「えっと、二階ね。右側の二番目のドア。ダイ・ルウェリン病棟」

 

「ありがとう。さあ、みんないらっしゃい」

 

 モリーは受付の魔女にお礼を言い、子供たちを連れて階段を上がっていく。

 階段を上がった先の二番目の扉、その横には『「危険な野郎」ダイ・ルウェリン病棟──重篤な噛み傷』との表札が掛かっていた。

 ここがアーサーのいる病棟だろう。

 

「私たちは外で待ってるわ。いっぺんに入ると病室がパンパンになっちゃうし。まずは家族だけでね」

 

 トンクスがモリーにそう提案する。

 私とハリーはそれを聞いて一歩後ろに下がった。

 

「ええ、そうさせてもらおうかしら。ハリー、貴方は私たちと一緒にいらっしゃい。アーサーも貴方にお礼を言いたがってるわ」

 

 モリーさんは身を引き掛けたハリーの肩をガッチリと掴むと、半ば引き摺り込むように病室の中へと姿を消していく。

 病室の外に残された私たち三人は、壁際に集まり情報共有をし始めた。

 

「流石に内緒はやめてくださいよ? アーサーさんは神秘部に保管されている何かを護衛していた。一体何を守ってたんです?」

 

 私がムーディにそう聞くと、ムーディは困ったように唸り声を上げる。

 私はトンクスの方にも視線を飛ばすが、トンクスはわかりやすく視線を逸らした。

 

「それに関してはわしの口からは言えんな。それに、誰が聞いてるか分からんこんな場所でできる話でもない。どうしても知りたいならダンブルドアから直接聞け」

 

 まあ、保管されているものが予言であることや、それをヴォルデモートが狙っていることも私は知っている。

 だが少なくともダンブルドアは予言の存在を私に知られたくないようだった。

 

「まあ、いいんですけどね。ダンブルドアが私のことを子供扱いしていることは自覚しているところですし。実際子供ですしね、私。でも、同じ騎士団員として認識の共有ぐらいはしたいなって、それだけなんですけど……」

 

「なんだ、拗ねておるのか? ませたガキだとは思っていたが子供らしいところもあるな。少し安心したぞ」

 

 ムーディは私の肩を強く叩く。

 そして少し声を小さくして言った。

 

「もし本当に子供扱いしているならハリーと一緒に病室に押し込んどる。わしとトンクスと一緒に病室に入る意味を理解するんだな」

 

「わかってますよ」

 

 私はそう言うと簡単に身なりを正す。

 トンクスは私とムーディの問答が無事軟着陸したことに安堵の息をついていた。

 そうしている間に病室の扉が開き、少々不満げな様子の子供たちとモリーが病室から出てくる。

 表情から察するに、アーサーの怪我や状況に対して納得のいく返事をもらえなかったのだろう。

 私たちは軽くモリーに会釈すると病室の中に入る。

 病室はいくつかベッドが置かれているが、入院している患者はアーサー含めて三人しかいなかった。

 

「やあ、随分手酷くやられたなアーサー」

 

 ムーディはアーサーのベッドに近づいていくと、近くにあった椅子に腰掛ける。

 アーサーは私たちの顔を順番に見るとやれやれといった様子で首を振った。

 

「少し居眠りしていたらこれだ。睡魔というのは恐ろしいものだよ」

 

「油断大敵だと口を酸っぱくして言っておるだろうが。……まあいい。ここに説教をしに来たのではない」

 

 ムーディは他の患者に聞こえないように少し声のトーンを落とす。

 

「あの後騎士団員を何人か集めて周囲を隈なく捜索したのだが、蛇は見つからなかった」

 

「でも、例のあの人も蛇が中に入れるとは期待していなかったはずだよね?」

 

 トンクスの言葉にムーディが頷く。

 

「ああ。わしの考えでは蛇は偵察として送り込んだのだろうな。やつは自身が立ち向かうべきものを見定めようとしたのだろう。もしアーサーがあそこにいなければもっと時間をかけて見回っていたはずだ」

 

 ムーディの推測は概ね合っている。

 ヴォルデモートもナギニを偵察として送り込んだと言っていた。

 

「それでだ。ハリーがその一部始終を見たと言っておるのだったな」

 

 ムーディの言葉に私は頷く。

 

「ハリーは蛇の中からアーサーさんを見ていたと言っていました。もしそれが本当なんだとしたら──」

 

「ああ、あまりいい話ではない。ハリーはどこかおかしい。もしハリーが例のあの人と繋がっておるのならどこかでその関係性を断ち切らねばならんだろう」

 

 ムーディが一層表情を固くする。

 

「もしハリーに例のあの人が取り憑いておるなら、それはあまりにも芳しくない。こちらの情報が筒抜けなだけでなく、ハリーの居場所を常に教えることにもなってしまう」

 

「今までも例のあの人の様子を夢で見ることがあったそうです。それこそ、去年の夏頃から」

 

 私の言葉に、ムーディは静かに首を振る。

 

「今まではまだいい。だが、今回の件でその繋がりがヴォルデモートに知られた可能性が高い。早急にハリーに閉心術を教えねばならんだろう。ダンブルドアも同じ意見のはずだ」

 

 確かに今のハリーの心は簡単に開心術で侵入できてしまう。

 ヴォルデモートから直接手ほどきを受けた私の開心術はそれ相応のレベルではあるが、それを加味してもハリーの心は無防備なように思えた。

 

「何にしても、騎士団員の中でハリーの一番近くにいるのはサクヤ、お前だ。ハリーの動向には十分に注意を払い、何かおかしな行動をしていたらすぐにダンブルドアに伝えろ。それが本人の意思でも、そうでなくともだ」

 

「はい。分かっています」

 

 私はムーディの言葉にしっかりと頷いた。

 

 

 

 

 

 アーサーの見舞いに行った次の日の夕方。

 私が玄関の周りにクリスマスの飾り付けをしていると、突然呼び鈴が鳴り響いた。

 私はそれを聞き、杖を抜いて慎重に扉に近づく。

 私の家の呼び鈴が鳴るというのは一種の異常事態だ。

 不死鳥の騎士団員なら直接玄関ホールに姿現ししてくるし、それ以外の人間はそもそも私の家の場所を知らない。

 

「はぁい。どなた?」

 

 私は杖を突きつけながら扉越しに声を掛ける。

 すると扉の向こうから聞き慣れた声で返事が返ってきた。

 

「サクヤ、私……ハーマイオニー・グレンジャーよ」

 

「ハーマイオニー? 貴方確かクリスマスは家族とインドでカレーを食べるって言ってなかった?」

 

 勿論、そんな予定はハーマイオニーから聞いていない。

 これはある種のカマ掛けだ。

 

「どんなクリスマスよ! ……スキーなら断ったわ。昨日の朝マクゴナガル先生から事情を聞いたの。でも正式に学校が終わるまでは学校の外には出れないって。それでクリスマス休暇に入るのを待って、キングズ・クロスから直接こっちに来たってわけ」

 

 家族とスキー。

 確かハーマイオニーは数日前大広間で同じことを言っていたはずだ。

 私は杖をズボンに挟み込むと、そのまま扉を開ける。

 そして大きなトランクを引きずっているハーマイオニーを我が家へ迎え入れた。

 

「ごめんなさいね。あなただけ置いてくような形になって」

 

 私はハーマイオニーを二階の部屋に案内しながら言う。

 

「それを決めたのはダンブルドア先生かマクゴナガル先生でしょう? あなたが悪いわけじゃないわ。それに今回の件、私が部外者なのは事実だし……」

 

「まあでも、私は嬉しいけどね。クリスマスに家に友達を呼べるっていうのは。簡単にだけどクリスマスパーティーを開こうと思うの。やっぱりクリスマスはみんなで祝うものでしょ?」

 

 私がいた孤児院では毎年質素ながらもクリスマスパーティーが開かれていた。

 その感覚が抜けないのか、クリスマスはパーティーをするものだという認識が私の中にある。

 

「クリスマスのご馳走も期待しておいて。クリーチャーに腕を振わせるわ」

 

「それは楽しみね。彼の料理とっても美味しいもの」

 

 私はジニーが泊まっている部屋にハーマイオニーのトランクを放り込む。

 その瞬間、何か思い詰めたような表情のハリーが私とハーマイオニーの横を通り過ぎた。

 

「ハリー!」

 

 ハーマイオニーがハリーの背中に向かって呼びかける。

 ハリーは今まさにハーマイオニーの存在に気がついたと言った様子で振り返った。

 

「ハーマイオニー? どうしてここに?」

 

「どうしてもこうしても……本当だったらあなたたちと一緒にこっちに来たかったぐらいよ。気分はどう?」

 

 ハリーはハーマイオニーの問いに対し軽く視線を泳がせる。

 私はその様子を見て小さくため息をついた。

 

「貴方なりに色々考えてるんだとは思うけど、思い詰め過ぎよ。どうせ自分が例のあの人に操られているだとか、そんなくだらないことを考えているんでしょう?」

 

 ハリーは昨日聖マンゴから帰ってきた時から様子がおかしかった。

 だがまあ、ハリーの考えそうなことはわかる。

 

「貴方と例のあの人が繋がっているのは事実よ。その原因についてはわからないけど、きっと赤ん坊の頃に受けた呪いが原因でしょうね。今まではそれがいいように働いていたけど、例のあの人が繋がりに気づいたとなると、その繋がりを悪用される危険性が出てくる。貴方が今一番心配しないといけないのはそれ。今までじゃなくて、これからよ」

 

「でも、だとしたらどうすればいい?」

 

 ハリーの訴えに、私は涼しい顔で返す。

 

「大丈夫、方法はあるわ。閉心術っていう技術があるのだけれど、ダンブルドア先生はきっと貴方に閉心術を習得するようにと指示をするはず。例のあの人との繋がりを断つにはその方法が一番よ」

 

「へい……なに?」

 

「閉心術」

 

 私が答える前にハーマイオニーが口を開く。

 

「『閉心術は開心術への対抗手段であり、自身の心を閉ざす魔法である』。ようは相手に自分の心を読まれないようにする魔法よ」

 

「その魔法を使えば僕はヴォルデモートと繋がることがなくなる?」

 

「多分ね」

 

 ハリーの問いに私は頷く。

 

「例のあの人は開心術の達人だという話だし、生半可な閉心術じゃ太刀打ちできないわ。もし閉心術を習うことになったら真剣に取り組むのよ?」

 

「うん。それは勿論」

 

 私はハリーが頷いたのを確認すると、ハリーと別れハーマイオニーが寝る予定の部屋へと入る。

 そしてハーマイオニーに昨日からの出来事を説明し始めた。




設定や用語解説

子ども扱いされるサクヤ
 ムーディ自身サクヤの実力自体は認めている。だが、だからと言って子供扱いしないかというのは別の話。

閉心術
 開心術への対抗策。心を閉じることによって考えを読まれなくなる。

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