P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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リドルの屋敷と予言の間と私

 クリスマスイブの夜。

 私は零時五十九分ピッタリに目を開けると、ベッドから起き上がる。

 そして周囲に動くものがないことを確かめ、時間を停止させた。

 

「さて、そろそろ準備をしないと」

 

 私は鞄の中から真っ黒なローブと服を取り出すと、寝間着を脱ぎ捨てそれに着替える。

 そして鞄から大ぶりのナイフを何本か体のあちこちに隠した。

 

「よし」

 

 私は姿見の前で全身をよく観察し、おかしなところがないかを確かめる。

 そして不備がないことを確認すると、杖を引き抜きヴォルデモートが潜伏している屋敷へと移動した。

 私はそのまま時間の止まっている中、ヴォルデモートの屋敷を移動し、指定された部屋へと入る。

 その部屋には既に多くの魔法使いが長机を囲っており、部屋の一番奥の椅子にヴォルデモートが腰かけていた。

 勿論、時間を止めているのでこの場にいる全員、ピクリとも動かない。

 私はいい機会だと思い、時間を止めたまま魔法使いたちを観察し始めた。

 

「マルフォイのお父さんに、人間版スキャバーズ、他にも沢山と……あれは顔つき的にクラウチ・ジュニアかしらね。で、多分こっちの女がレストレンジ」

 

 きっと席がヴォルデモートに近いほど、死喰い人内での序列が高いのだろう。

 その理屈で行くと、レストレンジとクラウチ・ジュニアが死喰い人の中では序列が高く、ルシウスは中の上、ペティグリューは中の下と言ったところか。

 私は長机を見回し開いている席を探す。

 するとヴォルデモートの反対側、一番遠い位置にポツンと古ぼけた椅子が用意されていた。

 

「……まあ時間ギリギリに来た私が悪いんでしょうけど、このまま一番遠い席っていうのも気に入らないわね」

 

 私は古ぼけた椅子に修繕魔法を掛けると、ヴォルデモートの右隣に置いた。

 

「これで良し」

 

 私は満足げにその椅子に座ると、何食わぬ顔で時間停止を解除する。

 その瞬間、部屋の中にいた魔法使いは一斉に動きだし、口々に話し始めた。

 

「時間です」

 

 ルシウスが腕時計を見ながら言う。

 それを聞いて、ルシウスの隣にいた魔法使いがため息をついた。

 

「結局ご息女様はお越しになりませんでしたね。やはり未成年の、それに騎士団の監視下にある学生をこの屋敷に呼び出すというのは無理があったのでは?」

 

「何を言うエイブリー。私の娘は時間通りに出席している」

 

 ヴォルデモートは私の頭をそっと撫でる。

 それを見て、この場にいる死喰い人の全員が私の存在に気がついた。

 

「なっ……いつの間に……」

 

 私の隣にいるレストレンジが目を丸くして呟く。

 私はレストレンジに笑顔で会釈した。

 

「今日貴様らを集めたのは他でもない。我が娘を紹介するためだ。サクヤ」

 

「はい」

 

 私は椅子から立ち上がり、ヴォルデモートに一歩近づく。

 ヴォルデモートは私の顔をチラリと見ると、紹介を続けた。

 

「サクヤ・ホワイトだ。私の娘であり、不死鳥の騎士団にスパイとして潜入している」

 

 私は死喰い人たちを見回すと、一度深く礼をして椅子に座り直す。

 死喰い人たちは私の顔を見ると、小さい声で囁き合った。

 

「さて、サクヤの紹介が終わったところで、今後の計画をお前たちに伝達する。サクヤをここに呼び寄せた理由の半分は計画を伝えるためだ」

 

 ヴォルデモートは深く椅子にもたれ掛かりながら言った。

 

「ルシウス、状況を説明しろ」

 

 ヴォルデモートに名前を呼ばれて、ルシウスが立ち上がる。

 

「魔法省の神秘部、それも予言が格納されている部屋を調べた結果、予言についてはその予言に関わる者しか持ち出すことができないことがわかりました。この場合、予言を行ったシビル・トレローニー、予言を聞いたアルバス・ダンブルドア、予言の対象である我が君とハリー・ポッターの四名がそれに該当します」

 

「そうだ。となれば、私が直接魔法省に出向かなければならないということになる。サクヤ、それがお前をここへ呼んだ理由だ」

 

「なるほど。確かに私ならお父様を安全に予言の間へと導くことができます」

 

 ヴォルデモートが直接魔法省に出向くというのはあまりにもリスクを伴う行為だ。

 予言を移動、もしくは破壊できるダンブルドアがいつまでも予言を魔法省に置いておく理由というのは多くは考えられない。

 一番有力な候補としては、予言をエサにしてヴォルデモートを誘き出そうとしている可能性だ。

 もしダンブルドアの狙いがそれなら、自ら罠に掛かりに行くようなものである。

 だが、私と共に時間を止めて侵入すれば、罠にかかるリスクを最小限にまで減らせるだろう。

 

「では、今から魔法省へ?」

 

「ああ、そのつもりだ。お前と私の二人だけなら十分もあれば戻ってこれよう」

 

 ヴォルデモートはそう言うと、椅子から立ち上がる。

 

「我が君! 私もお供を……!」

 

 それを見て私の横にいたレストレンジも立ち上がるが、ヴォルデモートは片手を突き出して制止した。

 

「足手まといだベラトリックス。お前がついてきたところで何かの役に立つとは思えん」

 

「ですが──」

 

「くどいぞレストレンジ」

 

 なおも食い下がるレストレンジにクラウチ・ジュニアが口を挟む。

 レストレンジはクラウチ・ジュニアと私をひと睨みすると、渋々椅子に腰掛けた。

 

「さて、サクヤよ。私の手を取れ。付き添い姿くらましだ」

 

 私は椅子から立ち上がり、ヴォルデモートの手を握る。

 私はそれが合図だと察し、時間を停止させた。

 

「サクヤ、お前の力を利用して予言に近づくのはできれば最終手段としておきたかったのだがな。ダンブルドアが罠を張っていると明確に分かった今、悠長なことも言ってられん」

 

 私は手を離してもヴォルデモートの時間が止まらないように術を掛け直す。

 

「それでは、これから魔法省へ?」

 

「そうだ。ナギニが侵入した神秘部前の廊下へ直接姿現しする」

 

 ヴォルデモートがそう言った瞬間、引っ張られるような感覚とともに視界が暗転する。

 次に足が地面についたときには、私とヴォルデモートは暗い石畳の廊下に立っていた。

 目の前には黒く取っ手がない扉があり、そのすぐ横には不死鳥の騎士団のメンバーであるシャックルボルトとトンクスが立っている。

 どうやら今日の見張りはこの二人のようだった。

 

「やはり私が近いうちにここを訪れると踏んで張り込んでいたか」

 

 ヴォルデモートはローブから杖を抜いてピクリとも動かない二人に近づく。

 

「殺しますか?」

 

 私がそう聞くと、ヴォルデモートは少し考えた後杖をローブに仕舞い直した。

 

「念のためだ。私がここを訪れたという痕跡を残さない方が良いだろう」

 

 ヴォルデモートは二人の横を通り過ぎ、取っ手のない扉を押す。

 扉には鍵は掛かっておらず、特に抵抗もなく扉は開いた。

 

「こっちだ」

 

 私はヴォルデモートに案内されて神秘部の中に足を踏み入れる。

 扉の先は円形の部屋になっており、十二個の扉が部屋を取り囲むように存在していた。

 

「ルシウスの話では予言の間は時間を研究している部屋の先らしい」

 

「時間を研究……ですか」

 

「やはり興味があるか?」

 

 ヴォルデモートは正面の扉を少し開け、軽く覗き込む。

 そして小さく「違う」と呟いた。

 

「興味がないと言えば嘘になります」

 

「そういえば、お前は時間を巻き戻すことはできないんだったな」

 

 ヴォルデモートの言葉に私は頷いた。

 

「過去そのものを変える魔法なんて想像もつきません」

 

「だが、魔法界には過去に戻ることができる魔法具がある。過去に戻ることは可能なのだ」

 

 確かにヴォルデモートの言う通り、魔法界には逆転時計という魔法具がある。

 逆転時計は文字通り時間を逆転させるもので、使用した人間は肉体ごと過去に戻ることになる。

 いわゆるタイムトラベルというやつだ。

 

「逆転時計ですか。知識としては知っていますが、実際にこの目で見たことはないですね」

 

「逆転時計は魔法省が厳重に管理している。使用するにも申請が必要だ」

 

 まあ、それはそうだろう。

 過去を改変するということは、今この場に生きている全ての人間を殺すに等しい。

 過去が少しでも変われば、未来は全く違うものへと変貌する。

 

「では、全ての逆転時計は魔法省が管理していると?」

 

「私が知る限りではな。もっとも、保管されているのはここ、『神秘部』だ。今なら一つぐらい盗めるかもしれないが、痕跡を残すべきではないだろう」

 

 ヴォルデモートと私は机の間を抜け、更に奥の部屋へと足を踏み入れる。

 そこは巨大な倉庫のような部屋だった。

 高い天井とどこまでも続く棚。

 棚には番号が振られており、目の前の棚には『53』と書かれていた。

 

「こっちだ」

 

 ヴォルデモートは棚の番号を確認すると、迷うことなく進んでいく。

 私は棚の中を覗き見ながらその後に続いた。

 

「ガラス玉……」

 

 棚の中にはテニスボールほどの大きさのガラス玉が所狭しと並んでいる。

 きっとこのガラス玉の中に予言が保管されているのだろう。

 

「物凄い数ですね」

 

「今の魔法界に本物と言える予言者は数える程しかいない。だが、そのうちの一人が相当な長生きで、しかも活動的だ」

 

「相当な長生き……レミリア・スカーレットですか?」

 

 ヴォルデモートは棚の番号を確認しながら頷いた。

 

「ルシウスの話では週に一度のペースでここに予言を置いていくらしい。予言者は引きこもりが多いが、彼女はそうではないようだな」

 

 私は去年行われた対抗試合を思い出す。

 確かに去年の彼女を見る限り、引きこもりという単語とは無縁の性格をしているように思えた。

 

「ここだ」

 

 ヴォルデモートは九十七番の棚の前で立ち止まると、奥へと入っていく。

 私は数え切れないほどのガラス玉を横目に見ながらヴォルデモートの後を追った。

 

「これだ。『S.P.TからA.P.W.B.Dへ 闇の帝王、そしてハリー・ポッター』まさにこの予言だ」

 

 私はヴォルデモートが予言に触れるように時間停止を解除する。

 ヴォルデモートは時間が動き出したことを確認すると、ガラス玉に向かって真っ直ぐ手を伸ばす。

 だが、手に取ろうとしたその時、ヴォルデモートの手が何かに弾かれた。

 まるで予言が触れるものを拒絶したかのように。

 

「まさか……」

 

 ヴォルデモートはもう一度手を伸ばす。

 だが、先程と同じようにヴォルデモートの手はガラス玉に触れる前に弾かれてしまった。

 

「まったく予想していなかったと言えば嘘になるが……まさかな」

 

 ヴォルデモートは少し赤くなっている指先を摩りながら呟く。

 私も試しにと予言に手を伸ばしてみるが、結果はヴォルデモートと全く同じで、静電気でも食らったかのように軽い痛みが走ると同時に指先が弾かれた。

 

「どうやらこの肉体では『闇の帝王』だと認識されないようだ。やはり関係ない者の血を入れたせいか……」

 

 ヴォルデモートはガラス玉を覗き込み、そこに映る白いモヤを見る。

 

「我が君に予言が触れないのであれば、違う作戦を考えなくてはいけませんね」

 

 私はヴォルデモートの顔を見上げる。

 ヴォルデモートは私の頭に手を置くと、ガラス玉を見ながら言った。

 

「手はある。一度屋敷へと戻るぞ」

 

 次の瞬間、私の視界が暗転する。

 水道管に無理矢理詰め込まれるような感覚のあと、私は先程の死喰い人が集まる部屋の中に立っていた。

 

「わ、我が君! 先程出て行かれたばかりでは?」

 

 ルシウスがヴォルデモートと私を見ながら目を丸くしている。

 ヴォルデモートは不服そうな顔をしながら椅子に座ると、この場にいる全員に向かって言った。

 

「作戦変更だ。予言はハリー・ポッターに取らせる」

 

「ハリー・ポッター……で、ございますか。確かに奴でも予言には触れられますが……それはあまりにもリスクのある行為ではないかと愚考します」

 

 ルシウスは慎重に言葉を選びながらヴォルデモートに進言する。

 

「なに、手はある。下準備に少々時間は掛かるだろうが……」

 

 ヴォルデモートは死喰い人を見回すと私の肩に手を置いた。

 

「何も問題はない。サクヤはまさに生き写しだ。いいか、作戦を伝える──」

 

 ヴォルデモートの口から予言奪取の作戦が発せられる。

 私はそれを聞きながら自分の負担の大きさに内心辟易した。




設定や用語解説

ヴォルデモートの屋敷
 リトル・ハングルトンにある古い建物。周囲に住むマグルからはリドルの館と呼ばれている。

予言に触れないヴォルデモート
 サクヤの血が入っているため、別人扱いを受けてしまう。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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