P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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デートと折れた杖と私

 クリスマス休暇が終わりホグワーツで授業が始まったが、聖マンゴが何者かに襲撃されたという話は既に学校中の生徒が知っていた。

 まあ、日刊予言者新聞にも記事が掲載されたし、当たり前と言ったら当たり前なのだが。

 だが、犯人がクラウチ・ジュニアであるということを知っている生徒は少ない。

 というのも、魔法省は犯人がクラウチ・ジュニアであると認めていないからだ。

 魔法省の見解ではクラウチ・ジュニアはアズカバンの牢獄内で既に死亡している。

 今現在クラウチ・ジュニアが生きている、それもアズカバンから脱獄しているというのは魔法省としても認めたくないのだろう。

 そして、休暇明けすぐにハリーの閉心術の訓練は始まった。

 訓練を担当しているのは閉心術のスペシャリストであるスネイプだ。

 スネイプはヴォルデモートでも心を読むことができないほど固く心を閉ざすことができる。

 ハリーとスネイプの仲は決して良くはないが、閉心術の訓練をするのだったらそれぐらいの方が都合がいいのだろう。

 さらに言えば、訓練が始まったのはハリーだけではなかった。

 二月に行われるグリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合に向けてグリフィンドールのクィディッチチームはフルスロットルで練習を始めた。

 シーカーがハリーから私に代わっただけではなく、連携が必須なポジションのビーター二人も新しくなっている。

 そのため練習の殆どはチェイサーとビーターの連携がメインで、私はチームメイトが練習している中、一人スニッチを追いかけるという行為を繰り返していた。

 

「最悪だ。酷いもんだよスネイプの授業は」

 

 グリフィンドールチームのクィディッチの練習終わり。

 私は私のコーチをしてくれているハリーと共に大広間へ向けて歩いていた。

 早く行かないと夕食の時間が終わってしまう。

 私は少し早足になりながらハリーの愚痴に返答する。

 

「酷いって、どういうふうに? まあ、貴方たち仲が悪いからあまりいい雰囲気で閉心術の授業を受けられているとは思えないけど」

 

「アレとの個人授業を受けるぐらいなら尻尾爆発スクリュートの方がマシさ」

 

「そりゃ相当酷いわね」

 

 基本的に閉心術の訓練は、開心術を拒絶するという行為を何度も繰り返し、体に慣れさせるというものだ。

 つまりは相手を拒絶する思いが強ければ強いほど閉心術というのは成功しやすい。

 

「そういう意味では相性抜群なはずなんだけど……」

 

「どこがさ!」

 

 ハリーはイライラしながら道端に落ちている石を蹴る。

 

「いい? 大切なのは拒絶よ。つまり相手のことが嫌いであればあるほど閉心術は成功しやすいの」

 

「それはわかってるつもりなんだけど……」

 

「だとしたら後は慣れの問題ね。訓練を積むしかないわ」

 

 私がそういうと、ハリーは項垂れる。

 何にしても、嫌だといって訓練をサボっていては、身につくものも身につかないだろう。

 

「とにかく、例のあの人に心を読まれたくなかったら、しっかり個人授業に出て閉心術を習得すること。それに、閉心術は覚えておいて損はない技術よ。特にここ魔法界ではね」

 

 私たちは大広間に入ると並んでグリフィンドールのテーブルへ座る。

 そして少し遅めの夕食を慌てて食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 忙しくしているうちにあっという間に一月は過ぎ去り、クリスマス休暇が明けてから一か月が経過した。

 相変わらず私は学業とクィディッチの練習に追われていたが、それだけにかまけてはいられない。

 私はグリフィンドールの掲示板に掲示された次のホグズミード行きの日程を確認する。

 

「二月の十四日……バレンタインデーか」

 

 だったら、なおさら都合がいい。

 私は暖炉のそばで変身術の宿題に苦戦しているハリーに目を向けると、笑顔を作って近づいた。

 

「次のホグズミード行きの日程が出たみたい」

 

 私は羊皮紙の上で羽根ペンを走らせるハリーの横へ座る。

 

「へー、一体いつだい?」

 

 ハリーは羊皮紙から目を離すことなく返した。

 

「二月の十四日、バレンタインデーよ」

 

 バレンタインデーと聞いて、一瞬羽根ペンを動かす手が止まる。

 だが、ハリーは動揺を隠すようにすぐに宿題を再開した。

 

「ふ、ふーん」

 

「ねえ、ハリーはバレンタインデー、用事あったりするの?」

 

 私はハリーの耳元で囁く。

 その瞬間、ハリーの耳が少し赤くなった。

 

「いや、特には……でも、ホグズミード行きの日だし、いつもの四人で回るんじゃない?」

 

「それが、ロンとハーマイオニーは監督生の集会があるせいで別行動なのよね……」

 

「え? それじゃあ……」

 

 ハリーの羽根ペンを動かす手が完全に止まる。

 私は周囲に誰もいないことを確認すると、またハリーの耳元で囁いた。

 

「二人きりで回りましょ? ホグズミード」

 

 ポトリとハリーの羽根ペンが机の上に落ちる。

 

「え、でもあのその……いいのかい?」

 

「いいって何がよ? 誰かの許可がいるの?」

 

「いやその、仮にもバレンタインだしさ」

 

「あら、先客がいた?」

 

 ハリーは私の問いに対し、千切れんばかりに首を横に振る。

 

「でしょ? 私もどうせ暇だし。デートしましょ、デート」

 

 私はハリーの背中を軽く二回叩く。

 

「楽しみにしてるわ。約束すっぽかさないでよ?」

 

 そしてハリーに対してにこやかに微笑むと、そのまま女子寮へと上がった。

 

 

 

 

 バレンタインデー当日。

 私はハリーと二人でホグズミード村に来ていた。

 ロンとハーマイオニーの二人はいない。

 私とハリー二人きりだ。

 

「どこから回ろうかしら。ハリーはどこか行きたい場所はある?」

 

「えっと、あの……どこでも、どこでも大丈夫だよ!」

 

「どこでもって……それが一番困るのよねぇ」

 

 ハリーはしどろもどろになりながらも私に対してぎこちなく微笑む。

 私はそんなハリーに対して微笑み返すと、マダム・パディフットの店を指さした。

 

「なら、あの店にしない? 外は結構寒いし、何か温かいものでも飲みましょう?」

 

「え? あ、えっと……うん、そうだね」

 

 マダム・パディフットの店と言えばカップル御用達の店として有名だ。

 口には出していないが、バレンタインデーに男女二人でマダム・パディフットの店に入るというのは、つまりはそういうことなのだ。

 そう、私は今ハリーとのデートを演出している。

 勿論、ハリーには何も伝えていない。

 きっとハリーはこの外出中に告白でもされるんじゃないかとドギマギしていることだろう。

 私とハリーは喫茶店の中に入ると、窓際にある二人掛けのテーブルに座る。

 ハリーはテーブルにつくなり恥ずかしそうにメニューで顔を隠した。

 

「何を注文しましょうか。実を言うと、私この店入るの初めてなのよね。何か美味しそうなものはある?」

 

 私は半分立ち上がるような体勢でハリーが見ているメニューを覗き込む。

 ハリーは急に近づいてきた私の顔を一瞬だけ見て、更に顔を赤くした。

 

「こ、これとかいいんじゃないかな?」

 

 ハリーはメニューにあるパスタを指さす。

 

「あら、いいじゃない。ならそれにしましょうか」

 

 私は軽く手を挙げて店員を呼ぶと、ハリーが選んだパスタと飲み物を注文した。

 

「それにしても、こうして二人きりで出かけるのっていつぶりかしら。いつもはハーマイオニーやロンも一緒だし」

 

「そ、そうだね。結構久しぶりだとは思うけど──」

 

「ふふ、やっぱりこうして二人だけで出かけると特別感があっていいわね」

 

 私はもう一度ハリーに対して微笑む。

 これで堕ちない男はいないだろう。

 ハリーはゆでだこのように顔を赤くすると、言葉が出てこないと言わんばかりに口をパクパクさせた。

 実にわかりやすい。

 私はそんなハリーの表情を楽しみながら料理が来るのを今か今かと待った。

 

 

 

 

 

 それから数時間、私は精いっぱいハリーとのデートを演出した。

 ハニー・デュークスでお菓子を買い漁ったり、ゾンコの店で買いもしない悪戯グッズを眺めたり。

 傍から見たらそれはそれはラブラブなカップルだったことだろう。

 

「今日は楽しかったわ。久しぶりに羽を伸ばせたって感じ」

 

 私は少しずつ人の少ない路地へと近づきながら、腕を伸ばして大きく伸びをする。

 

「うん、そうだね。楽しかった」

 

「ねえ、最後に少し寄り道しない?」

 

 私は懐中時計を確認しながらハリーに小声で言う。

 

「え? う、うん。いいけど……どこに行くの?」

 

「……大切な話があるの。できるだけ、誰にも聞かれたくない」

 

 私はハリーの顔をじっと見つめる。

 ハリーはついに来たかと言わんばかりに曖昧に微笑むと、ぎこちなく頷いた。

 

「だ、大切な話? 君から、僕に?」

 

「そう。私から貴方へ」

 

 私はハリーの手を掴むと、村の外れへとハリーを引っ張っていく。

 ホグズミードの大通りからは結構離れているので、近くに人の気配は全くしなかった。

 

「そ、それで……大事な話って?」

 

 そんなハリーの問いに対し、私はハリーの鼓動が聞こえそうな距離まで近く。

 そして、半ば抱きつくような姿勢で、ハリーの目を見て言った。

 

「私、初めて会った時から貴方の──」

 

 そこまで口に出し、私はそのままハリーの肩を掴んで地面に押し倒す。

 

「何を──」

 

 ハリーは何が起きたかわからないといった様子で目を白黒させていたが、次の瞬間私の頭上を緑色の閃光が通り過ぎるのを見て表情を固くした。

 ハリーはこの閃光がどのような呪いかよく知っているはずだ。

 そう、反対呪文が存在しない絶対呪文、『アバダ・ケダブラ』死の呪いだ。

 私はすぐにハリーの上から転がり落ちるように立ち上がると、杖を引き抜いて閃光が飛んできた方向を向く。

 そこに立っていたのはハッフルパフ生のセドリック・ディゴリーだった。

 セドリックは杖を構えたままゆっくり私たちに近づいてくる。

 

「止まりなさい!」

 

 私は大声で警告するが、セドリックは聞こえていないかのように歩を進める。

 

「あの方のために殺さなければならない……あの方のために殺さなければならない……」

 

「あの方? なんにしても、正気じゃないわね」

 

 私は倒れているハリーの状況を確認し、セドリックに向けて武装解除の呪文を放つ。

 私の杖から放たれた赤い閃光は真っ直ぐセドリックの右手へと飛んでいったが、寸前で盾の呪文によって弾かれた。

 

「──のために……、──のために……、──のためにっ!!!」

 

 次の瞬間、消えたと錯覚するほどの速度でセドリックが私との距離を詰める。

 そしてそのまま捨て身とも取れる勢いで私にぶつかった。

 

「──ッ!!」

 

 体の大きなセドリックの体当たりをまともに食らった私は、そのまま地面に押し倒される。

 先程まで握っていたはずの杖も数メートル先に転がっており、私の短い手じゃどう頑張っても届きそうにない。

 

「あの方のために殺さなければ──」

 

 セドリックはそのまま私に馬乗りになり、私の額に杖を押し付ける。

 

「サクヤッ!」

 

 ハリーの叫び声が聞こえるが、ハリーが立ち上がってこちらに駆けつけるよりも先にセドリックの死の呪文が私の頭を貫くほうが早いだろう。

 私は咄嗟に手元にあった石を握り込むと、セドリックのこめかみを思いっきり殴りつける。

 痛覚が完全に切れているわけではないのか、セドリックは殴られた方向に一瞬グラついた。

 私はその一瞬の隙を突いてセドリックの杖をへし折ると、もう一度強い力でセドリックの頭を殴りつける。

 だが、セドリックは止まらない。

 杖が折れたことなどお構いなしで、折れた杖を私の心臓めがけて振り下ろす。

 私はギリギリのところでその杖を払い除けると、折れた杖の先端を拾いセドリックの耳に突き立てた。

 

「これで──」

 

 私は耳に刺さった杖にダメ押しと言わんばかりに石を打ち付ける。

 

「終わりよ!」

 

 その衝撃で折れた杖の先端はセドリックの鼓膜を突き破り、脳を破壊した。

 耳から杖を生やしたセドリックは何回か痙攣すると、そのまま力なく私の上に覆い被さってくる。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ」

 

 私はセドリックの死体を自分の上から退かすと、体についた土や雪を払い落とした。

 

「ハリー、怪我はない?」

 

「う、うん。サクヤは?」

 

「大きな怪我はないわ」

 

 私はハリーの無事を確かめると、自らの体に大きな怪我がないことを確認する。

 そして少し遠くに落ちていた自分の杖を拾い、足元に転がるセドリックの死体を見下ろした。

 

「……正当防衛よね?」

 

 私はハリーに問いかけるが、ハリーは呆然とセドリックの死体を眺めているだけだった。

 

「何にしても、すぐにホグワーツの先生に伝えないといけないわ。ハリー、貴方確か守護霊の呪文使えたわよね?」

 

「ああ、うん」

 

「ダンブルドア先生を呼び出して頂戴。私たちはここを離れるべきじゃないわ」

 

 本来なら私が守護霊を送るべきなんだろうが、生憎私は守護霊の呪文が使えない。

 どうも守護霊の呪文は闇の魔法使いと相性が悪いらしい。

 私に魔法を教えたロックハートやクラウチ・ジュニアはまさしく闇の魔法使いだったので、その教え子の私も守護霊の呪文が使えないのだ。

 ハリーは震える手で杖を抜くと、大きく深呼吸をしてから呪文を唱える。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 その瞬間ハリーの杖先から銀色の大きな牡鹿が飛び出し、ホグズミードの建物を飛び越えて城の方向へと消えていった。

 私はハリーの守護霊を見送ると、小さくため息を吐く。

 

「サクヤ、セドリックはもう……」

 

「ええ、死んでるわ。私が殺した」

 

 私はセドリックを見下ろしながら言う。

 

「でも、どうしてセドリックはサクヤを……」

 

「私をってよりかは、私たちを……でしょうね。あくまで予想でしかないけど、きっと服従の呪文で操られていたんだと思うわ」

 

 セドリックは耳から中途半端に杖を生やした状態で地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない。

 私は近くに置いてあった木箱に腰掛けると、頭を抱えて大きくため息をついた。

 

 

 

 

 ハリーが守護霊を送ってから一時間もしないうちにダンブルドアがマクゴナガルとスネイプ、スプラウトを引き連れて現れた。

 ダンブルドアは現場を見ると、セドリックはスネイプに任せて真っ直ぐ私の元へと近づいてくる。

 私は伏せていた顔を上げ、目の前のダンブルドアの顔を見た。

 

「一体何があった?」

 

 ダンブルドアは真っ直ぐ私の目を見てそう聞く。

 きっと私の心を読もうとしているのだろう。

 私は意識してしっかり心を閉じると、声を震わせながら言った。

 

「セドリックが私たち二人を殺そうとして、私がセドリックを殺しました」

 

 ダンブルドアは確認するようにハリーを見る。

 ハリーはダンブルドアの視線に気がつき、小さく頷いた。

 私はセドリックの死の呪いを避けてからの一連の状況をダンブルドアに話して聞かせる。

 ダンブルドアは黙って私の説明を聞き、時折何かを確認するようにセドリックの方を見た。

 

「事情はわかった。ひとまず、ホグワーツ城へ戻ろうかの」

 

 ダンブルドアは杖を一振りしてセドリックの遺体を大きな布で包む。

 私は腰掛けていた木箱から立ち上がると、ダンブルドアの先導のもとホグワーツへの帰路についた。




設定や用語解説

ハリーとデートするサクヤ
 第三者から見てもあまり違和感のない光景。「へー、やっぱりあの二人付き合ってたんだ」ぐらいの印象しか抱かれない。

アバダケダブラ(物理)
 トロールの時といい脳破壊が大好きなサクヤちゃん。実はかなり間一髪な状況。

守護霊の呪文が使えない
 サクヤは闇の魔法使い(仮)なので守護霊の呪文は使えない。というか、使おうとすらしていないというのが正しい。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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