P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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補佐官と打ち合わせと私

 私が授業に復帰してから一週間が経過した土曜の昼。

 私はトンクスの引率のもと、ホグズミードにあるパブ、三本の箒を訪れていた。

 

「あらトンクスじゃない。今日は休み?」

 

 パブの中に入ると店主であるマダム・ロスメルタがトンクスに声を掛けてくる。

 

「いやいや、そんなに暇でもないのよ。今日のこれも大臣から直々に指示されたお仕事なんだから」

 

 トンクスはそう言うと私の肩をポンポンと叩く。

 ロスメルタは私の顔を見ると、何か納得したように頷いた。

 

「ああ、なるほど。彼女の護衛ってわけね」

 

「そういうこと。というわけで、暖炉をお借りできます?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 ロスメルタは店の隅でパチパチと音を立てて暖炉を指し示す。

 トンクスは軽い足取りで暖炉に近づくと、暖炉の上に置かれた小瓶から煙突飛行粉をひと掴み取り、暖炉に投げ入れた。

 

「オーケー。それじゃあサクヤ、お先にどうぞ。『魔法省』って言えばいいから」

 

 私は緑色に変わった炎の中に足を踏み入れる。

 そして灰を吸い込まないように注意しながら目的地を言った。

 

「魔法省!」

 

 私がそう言った瞬間、私は煙と共に煙突の中に吸い込まれる。

 そして次に足がついた時には私は魔法省の地下八階にあるエントランスの暖炉の中に立っていた。

 私は後がつかえないようにすぐに暖炉の外に出ると、エントランスの中央にある噴水の近くへ移動する。

 エントランスには数多くの暖炉が設置されているので、トンクスとスムーズに合流するには私が目立つところに立っているのが一番効率がいいだろう。

 私は噴水の近くに設置されているベンチに腰掛けると、手持ち無沙汰に噴水の周りを見回す。

 すると、噴水の脇に小さな立て札が立てられているのが目に入った。

 

『「魔法族の和の泉」この泉からの収益は聖マンゴ魔法疾患障害病院に寄付されます』

 

 ああ、よくあるチャリティーか。

 私はポケットの中から財布を取り出すと、ガリオン金貨を一枚手に取り噴水の中に投げ入れた。

 

「……なんだか感慨深いわね」

 

 数年前まで私は施される側だった。

 それが、今ではこのようにガリオン金貨の一枚ぐらい寄付しても問題ないぐらいには資産を持っている。

 私は噴水の上に設置されている魔女の像を一目見ると、再びベンチに腰を下ろした。

 

「あ、いたいた。サクヤ! こっちこっち」

 

 するとその瞬間、後ろからトンクスに声を掛けられる。

 どうやらトンクスは反対側の暖炉に出ていたようだ。

 

「いやぁ、やっぱりここのエントランス広すぎだよね。待ち合わせには向いてないというか」

 

 私はベンチから立ち上がり、トンクスの近くへと移動する。

 

「さて、まずは守衛室で杖の登録をしなきゃ」

 

 トンクスはそう言うが早いか、滑るようにゲート横にある守衛室と書かれたカウンターに近づいていった。

 カウンターには青いローブを着た無精髭の男性が座っている。

 

「えっと、この子が魔法省に用があって、杖の登録をしたいんだけど」

 

 守衛の男性は気だるげな表情で私の顔を見ると、少し考えてから目を見開いた。

 

「まさか、あんたサクヤ・ホワイトか?」

 

「あら、よくわかったね。名前入りの外来バッジもつけてないのに」

 

 トンクスが後頭部を掻きながら言う。

 守衛は私の顔をしばらく見つめていたが、すぐに我に返り慌てて言った。

 

「お会いできて光栄ですホワイトさん。で、なんでしたっけ?」

 

「だから、杖の登録だって」

 

 トンクスが呆れたように言う。

 

「そうでしたそうでした。それでは、少し失礼して」

 

 守衛は金属探知機のような金の棒を私にかざした。

 

「呪いの品や危険な毒物の反応なし。では、杖をこちらに」

 

 私は杖を守衛の男性に手渡す。

 守衛の男性は私の杖を秤のようなものの上に置くと、レシートのように横から出てきた羊皮紙を破り取り読み上げた。

 

「二十五センチ、吸血鬼の髪……珍しい杖をお使いですな。使用期間は四年半。間違いないですかな?」

 

「ええ、その通りです」

 

「では、杖をお返しします。これはこちらで保管しますので」

 

 守衛の男性は杖を私に返すと、私の杖の情報が記入された羊皮紙を真鍮の釘に突き刺す。

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 トンクスは私が守衛の男性から杖を受け取ったのと同時に私の背中を押してゲートの方へ歩き始める。

 私は守衛の男性に笑顔で手を振ると、トンクスと一緒にゲートを通った。

 ゲートを通った先には多くのエレベーターが立ち並んでおり、私とトンクスはその中の一つに乗り込む。

 トンクスは私たちの他にエレベーターに乗り込む者がいないことを確かめると地下一階のボタンを押した。

 

「実は地下一階に行くの初めてなんだよね」

 

「そうなんですか?」

 

 私が聞き返すと、トンクスは恥ずかしそうに言った。

 

「地下一階には大臣室と次官室しかないからさ。私みたいな下っ端には縁のない部屋ってわけ」

 

「大臣室に、次官室ですか。そういえば、アンブリッジは次官に戻ったんです? それともさすがに左遷ですか?」

 

「上級次官も代わったよ。アメリア・ボーンズっていう魔女」

 

 アメリア・ボーンズ、聞いたことのない名前だ。

 だが、きっとスクリムジョールの派閥の人間だろう。

 そんな話をしている間にエレベーターは地下一階に到着した。

 私とトンクスはエレベーターから降りると、高そうなレッドカーペットを踏み締め、廊下を歩く。

 そして廊下の突き当たりにある大臣室の前で立ち止まった。

 

「えっと、今何時?」

 

 トンクスに聞かれて私は懐中時計を取り出す。

 

「十三時二十分です」

 

「約束の時間は十三時半だっけ」

 

「そもそも、直接大臣室に乗り込んで大丈夫なんです? 普通こういうのって補佐官を通すんじゃ……」

 

 私がそう言った瞬間、トンクスはポンと手を打つ。

 そして廊下を引き返し始めた。

 

「そ、そうだよね! うっかりしてたー……。えっと、補佐官室は……」

 

 私はトンクスにバレないように小さくため息を吐くと、トンクスの後に続いて廊下を引き返す。

 トンクスはエレベーター近くの補佐官室まで引き返し、部屋の扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 部屋の中から男性の返事が返ってくる。

 トンクスはピクンと眉を動かすと、補佐官室の扉を開けた。

 

「失礼しまーす。本日十三時半に大臣と面談の予定が入ってるサクヤ・ホワイトの引率のものですが……」

 

「ああ、トンクスさん。お待ちしておりました。サクヤも、元気そうで何よりだ」

 

 部屋の中にいたのはロンの兄弟のパーシー・ウィーズリーだった。

 そうか、ファッジが降ろされたあとも補佐官として残れることになったのか。

 私は握手を求めてきたパーシーと握手を交わす。

 

「話には聞いていたけど、大変なことになってるね」

 

「そっくりそのままお返ししたいところだけど……パーシー、貴方ファッジの派閥の人間じゃなかったかしら」

 

 私の遠慮のない言葉に、パーシーは苦笑いを返す。

 

「派閥も何も、僕はまだ入省二年目だよ。派閥とか、そういうのとは無縁さ」

 

「それにしては凄い出世よね。二年で大臣補佐なんて」

 

 まあ、スクリムジョールとしてはダンブルドアとも仲がいいウィーズリー家の子供は確保しておきたかったのだろう。

 そういう意味ではパーシーは運がいいとも言える。

 

「まあ、その話は後にしよう。大臣がお待ちだ。……大臣はできればサクヤと二人で面談したいとおっしゃっているんだけど、大丈夫かな?」

 

 私はその問いにトンクスの顔を見上げる。

 トンクスは少し考えたあと、判断がつかないと言わんばかりに肩をすくめた。

 

「サクヤがそれでいいなら、私としては構わないけど」

 

「私は大丈夫ですよ」

 

 私の返事に、パーシーは満足そうに頷く。

 

「ありがとう。では、トンクスさんはこちらにある椅子か、大臣室の外で待機のほうよろしくお願いします。サクヤは僕と一緒に大臣室だ」

 

「了解了解。じゃあ私はここで待たせてもらうかな」

 

 トンクスはそう言うと補佐官室にある椅子に座る。

 私はパーシーの案内で補佐官室を出ると、先程目の前まで行った大臣室の扉に向かった。

 パーシーは大臣室の重そうな樫の扉をノックする。

 

「スクリムジョール大臣、補佐官のウィーズリーです。面談予定のサクヤ・ホワイト氏をお連れしました」

 

「中へ通してくれ」

 

 部屋の中からすぐに厳しい声色で返事が返ってくる。

 パーシーはピンと背筋を伸ばすと、大臣室の扉を開け、私を中へ案内した。

 

「お待ちしておりました。ミス・ホワイト。いや、親愛を込めて名前で呼ばせてもらってもいいかな? 私のこともルーファスでいい」

 

 私が大臣室に入ると、厳つい顔をした魔法使いが精一杯の愛想笑いを浮かべてソファーの脇に立っていた。

 普段あまり笑顔を浮かべないのか、表情筋が引き攣っている。

 私はそんなスクリムジョールを内心で笑いつつ、鍛え抜かれた完璧な愛想笑いで挨拶した。

 

「お初にお目にかかります。スクリムジョール大臣。ええ、私のことは気軽にサクヤと呼んでいただけたらと思います。私もルーファスさんと呼ばせていただきますので」

 

 私とスクリムジョールは互いに笑顔を浮かべつつ握手を交わし、ソファーへと腰掛けた。

 

「君の活躍は私が闇祓い局の局長だった頃からよく聞いていたよ。去年は他校の上級生相手に大立ち回りだったそうじゃないか。バグマンがよく自慢げに話していた。イギリスの代表はドラゴンを単独で屠れるとね」

 

「恐縮です」

 

 まあ、その一年以上前にバジリスクを単独で殺しているが、それを知っているのはヴォルデモートとダンブルドア、そして今は亡きロックハートだけでいい。

 

「それに、今回の件もだ。君の卓越した戦闘センスと、ハリー君の献身がなければ、二人とも命を落としていただろう」

 

「そんな、運が良かっただけですよ」

 

 私はわざと少し表情に影を落とす。

 

「そもそも、私が攫われていなければハリーが命を落とすこともなかった──」

 

「それは違う。先日の一件は魔法省の失態だ。闇祓い局の元局長として謝罪させて欲しい。そもそも、杖を没収されている学生が、死喰い人に抵抗出来るはずもない」

 

 スクリムジョールの表情から察するに、今の一言は本心だろう。

 そもそも魔法省がしっかりしていれば、あのようなことにはならなかったのだ。

 まあ、私はその『あのようなこと』を実行した側だが。

 私は少し顔を伏せ考え込む仕草を見せると、少し顔を上げて言った。

 

「今日、お呼びいただいたのはその件ですよね。名前を呼んではいけないあの人が復活し、宿敵であるハリー・ポッターを殺害した。魔法界は再び闇に飲まれようとしています」

 

「誠に遺憾だが、その通りだ。そして、目を背け、見て見ぬふりをしていれば解決するような問題でもない。魔法省としても早急に対策を立て、闇の勢力に立ち向かっていかなければならない。そのための準備を魔法省は急ピッチで進めている。そして──」

 

「これも、その一環……ですよね?」

 

 私はスクリムジョールに対し笑顔を向ける。

 スクリムジョールは小さく眉を動かしたあと、肩をすくめた。

 

「余計な腹芸や感情に訴えた説得はどうやら必要ないようだな。……その通り。魔法界は今希望を欲している。闇の勢力に立ち向かうシンボルが必要だ。サクヤ、これは君にしか務まらない。例のあの人の復活をその目で見た君だからこそ、ハリー・ポッターが命を賭して守った君だからこそ、今の魔法界でシンボルになり得るのだよ」

 

 スクリムジョールは真剣な眼差しで私を見つめる。

 

「して、魔法省として、私に要求することは?」

 

「なに、危険が伴うことや、難しいことを頼むわけではない。サクヤ・ホワイトと魔法省が協力関係にあるという印象を与えれればそれでいいのだ」

 

「協力関係ですか。新聞の取材を受けた時に軽く匂わせたり、実際に私が魔法省に出入りするところを見せたり……ですかね」

 

 私が確認すると、スクリムジョールは頷いた。

 

「話が早くて助かる。実際君は顔立ちもいい。どの新聞社も君の写真で記事を書きたがるだろう」

 

「ええ、構いません。私としても、可能な限り魔法省とは協力していきたいと考えています。きっと、ダンブルドアも同じ考えでしょう」

 

 そうでなければ、私をここへ送り出さないだろう。

 その後、私とスクリムジョールは一時間ほどかけて魔法省訪問の具体的な訪問スケジュールや、協力関係にあることの認識合わせを行った。

 スクリムジョールとしてはここまでスムーズに話が進むと思っていなかったのか、全ての話し合いが終わる頃には少々拍子抜けな顔をしていた。

 

「それではルーファスさん。また近いうちに」

 

「ああ、魔法省訪問の際はこちらから人を送ろう」

 

 私はスクリムジョールに会釈をすると、大臣室を出る。

 そして補佐官室で待っていたトンクスと合流すると、パーシーに帰る旨を伝えエレベーターに乗り込んだ。

 

「随分長いこと話していたけど、なんの話だったの?」

 

 エレベーターがジャラジャラ音を立てながら地下八階へ降る中、トンクスが手持ち無沙汰に私に尋ねる。

 

「魔法省としては私と協力関係にあるということを世間にアピールしたいらしくて。具体的には何を行うかという話をつらつらと」

 

「なるほどねぇ……ってサクヤはそれでいいわけ?」

 

「何がです?」

 

 私が聞き返すと、トンクスが少し不服そうな顔で言った。

 

「つまりそれって、打倒あの人の神輿として担がれてるわけでしょ?」

 

「まあ、そういうことになりますね」

 

「サクヤはさ、それでいいの?」

 

 トンクスはそれ以上の表現が出てこないのか、繰り返しそう聞いた。

 

「確かに、思うことが何もないと言ったら嘘になりますが……って、いいんです? 仮にも貴方の元上司……いや、今でも上司か。トップの方針ですよ?」

 

「まあ、そうなんだけど……サクヤが納得してるならいいのかな?」

 

 その瞬間、地下八階を知らせるアナウンスと共にエレベーターが止まり、扉が開き始める。

 私とトンクスがエレベーターから降りると、小柄な少女が入れ替わるようにしてエレベーターに乗り込んだ。

 私は、無意識にその少女を目で追う。

 青い髪に桜色のドレス。

 背は私より随分と低いが、背中から生える大きな黒い羽が、その者の存在を強く主張していた。

 そう、私の死を予言した占い師、レミリア・スカーレットその人だった。

 レミリアは私の存在に気がついたのか、エレベーターの扉が閉まる最中、私に向かって軽く手を振る。

 私はエレベーターの扉が完全に閉まりきるまで見送ると、踵を返してトンクスの後を追った。

 レミリアは一体何の用事で魔法省を訪れたのだろうか。

 吸血鬼としてなのか、占い師としてなのか、はたまた権力者としてなのか。

 ホグワーツの医務室でヴォルデモートが復活したと私が報告したあの夜、レミリアはダンブルドアとファッジの言い争いに呆れその場を後にした。

 その後、彼女が今回の件に関してどのような態度を取っているか何も情報が入ってきていない。

 彼女は敵なのか味方なのか、それすら今の私には判断がつかなかった。




設定や用語解説

補佐官パーシー
 スクリムジョールとしても可能な限りダンブルドアとの関係を維持したいと考えているため、不死鳥の騎士団の一員であるアーサー・ウィーズリーの息子を補佐官に据えた。そうでなかったらファッジと共に左遷されていたかもしれない。

魔法省と連携を密にするダンブルドア
 原作とは違い、サクヤを英雄として魔法界に売り込まないといけないため、魔法省と方針が一致している。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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