P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「これってアレですよね。ぺべレル兄弟が『死』から授かった秘宝の一つ。『蘇りの石』ですよね?」
朽ち果てたゴーント家の一室で、美鈴がヘッドライトを光らせながら言う。
「いやぁ、無事見つかって何よりですよ。いくらお嬢様が大体の場所を占えると言っても、指輪みたいな小さいものはどこにでも隠せてしまいますから。わかりやすく邪気を放っててくれて助かりました」
「まさか……そんなはずは……」
ダンブルドアはジッと美鈴が持つ指輪を凝視している。
私は杖をローブに仕舞い込むと、何気ない風を装いながら美鈴に近づいた。
「蘇りの石? そんなものがあるんですか?」
「え? サクヤちゃん知らない? 魔法界に伝わる昔話なんだけど……ほら、『三人兄弟の物語』」
勿論、三人兄弟の物語は知っているし、その物語の中に死から与えられた秘宝として蘇りの石が出てくることも知っている。
確か『死の秘宝』は蘇りの石のほかに、『透明マント』と『ニワトコの杖』のはずだ。
「私、マグルの孤児院育ちなので……『不思議の国のアリス』とか、『オズの魔法使い』とかなら知ってるんですが……」
私はそう言って美鈴の手のひらに置かれた指輪を覗き込む。
腕に嵌め込まれた黒い石には、死の秘宝を示す三角形と円と縦棒が組み合わさったマークが刻まれていた。
「へー、蘇りの石ですか……魔法界には不思議な魔法具があるんですね。蘇りってことは、死者を蘇らせることができるってことですか?」
「そゆこと。まあ蘇らせるってよりかは、魂を呼び出すって感じかな? ちょっと試してみる?」
「え? いいんですか!? 是非やってみたいです!」
私は目を輝かせると、美鈴から指輪を受け取る。
その瞬間、ヴォルデモートに開心術を掛けられた時のような、何かが這い回る感覚が全身を走った。
それを受け、私は確信する。
この指輪は確実に分霊箱だと。
私は美鈴の目の前で時間を止める。
そして、後ろにいるダンブルドアに話しかけた。
「指輪を確保しましたけど、どうします? このまま姿くらましでホグワーツに戻りますか?」
ダンブルドアは私に声を掛けられてハッと我に返ると、小さく首を横に振った。
「そうしたいのは山々じゃが、レミリア嬢はこの指輪が蘇りの石だとわかった上で手に入れようとしているようじゃ。クィディッチの試合結果が知りたいというのも方便じゃろう。横から掠め取るようなことをしたら、彼女の機嫌を大きく損ねる」
「そこまで気を使うような相手ですか?」
「敵は少ないに越したことはない。それに、分霊箱としての機能を破壊したとしても、蘇りの石としての機能は残るじゃろう。ここは後ほどレミリア嬢の屋敷まで出向き、事情を説明して分霊箱を破壊するのが得策じゃ」
私はダンブルドアに向かって合図を送ると、先程と全く同じ体勢を取る。
そして時間停止を解除した。
「で、これどうやって使うんです?」
「えっとですね。確か蘇らせたい人を思いながら手のひらの上で三回転がす……だったかな?」
私は試しにロックハートを思いながら石を三回転がす。
すると、私の目の前にゴーストのような見た目のロックハートが現れた。
「……おや? 私を呼び出したのは誰です? おっと、言わなくても結構。わかってますよ。サインが欲しいのでしょう? だが生憎今の私は霊体でね。ペンを持つどころか握手をすることすらできない。でも悲しまないで、ウィンクを飛ばすことぐらいはできるからね。友達に自慢するといいでしょう。勲三等マーリン勲章受賞、元闇の魔術に対する防衛術連盟の名誉会長も務めたこのギルデロイ・ロックハートの最期のウィンクを見たのは自分だとね」
「先生、偽物が出ました」
私はロックハートを指差しながらダンブルドアの方を振り返る。
ダンブルドアは悲しそうな顔をしながら首を横に振った。
「残念ながら本物じゃ」
「おや、そこにいるのはダンブルドア先生じゃないですか? お変わりありませんか? 最期に貴方からもらった手紙には私をホグワーツの教師として雇いたいと書かれていましたが、どうです? 今からでも遅くはありませんよ? ですがお急ぎを! 何せ私はあの世でも引く手数多な存在ゆえ、いつまでもフリーとは限りません」
「それは嬉しい申し出じゃが、ギルデロイよ。君はそう長い時間現世に留まってはおれまい。あの世へお帰り」
ロックハートは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに元通りの笑顔に戻る。
「そうですか。それは結構。では、戻らせていただこう」
ロックハートはライラック色のローブを大きく翻す。
そして消え入る最中、小さな声で私に呟いた。
「解放してくれてありがとう」
「え?」
私が言葉の真意を聞き返す前に、ロックハートは闇に溶けるように姿を消した。
私は少しの間ロックハートが立っていた場所をジッと見つめていたが、すぐに指輪を美鈴に返した。
「ありがとうございました」
「うんうん、本物のようで何よりだ。さて、それじゃあ私はこれでお暇させてもらおうかな」
美鈴は私の頭をポンポンと撫でると、ダンブルドアの横を通り過ぎてゴーント家を出て行こうとする。
ダンブルドアはそんな彼女の後ろ姿に向かって声を掛けた。
「レミリア嬢に伝えてくれんか。近いうちにその指輪に関する話をしたいと。そして、それまではその指輪は誰にも渡さず、大切に保管してほしいと」
「伝えるだけですからね。確約はしませんよ」
美鈴は指輪をポケットに入れると、その場から消える。
バチンという空気を切り裂く音がしないところを見るに、姿くらましとはまた違う魔法のようだった。
「では、我々も戻るとするかの」
私は時間を止めると、ダンブルドアと手を繋ぐ。
そしてそのままダンブルドアの付き添い姿くらましでホグワーツの校長室へと戻った。
「レミリア嬢にはわしから手紙を出す。交渉の際はサクヤにも同行してもらいたいと思っておる」
ダンブルドアは校長室へ戻るや否や早速今後の話をし始める。
「私も同行ですか? 私は構いませんけど、お邪魔になりません?」
「体のいい緊急脱出装置としてその場にいてくれれば良い。それに、レミリア嬢は君を気に入っているように思う。サクヤがいるだけで交渉はある程度円滑に進むじゃろう」
そんなものだろうか。
何にしても時間停止能力があればどのような危機的状況にもある程度は対処ができる。
ダンブルドアが言った通り、もしものための保険という役割が大きいのだろう。
「では、ひとまず今日のところはこれにて終了とする。レミリア嬢へのアポイントがいつ取れるかは分からんが、次はそれ以降になるじゃろう」
「はい。わかりました」
私はダンブルドアに会釈をし、校長室の外に出る。そして螺旋階段までの短い廊下でホグワーツの制服に着替えると、螺旋階段を下りガーゴイル像を抜けた。
「さて、折角のイースター休暇だし、久しぶりに厨房に遊びに行こうかしら」
私はそのまま三階の廊下を進み、厨房の入り口がある地下へ向けて階段を下り始めた。
ダンブルドアからの呼び出しを待っている間にイースター休暇が明け、それと同時にホグワーツでは五年生に対する進路相談が始まった。
自分の所属する寮監とホグワーツ卒業後の進路を話し合い、その進路に進むにはOWL(普通魔法試験試験)にてどのような成績が必要かを再確認するのだ。
例えばムーディやトンクスが所属している魔法省の闇祓い局に入るには、NEWT(めちゃくちゃ疲れる魔法レベル試験)で五科目以上の『E(期待以上)』が要求される。
そしてNEWT以上の授業では、OWLの成績によっては教室にすら入れて貰えないことすらあるのだ。
例えばスネイプが担当する魔法薬学では、OWLで『O(優)』を取ったものしか授業を受けることが出来ない。
そう言った意味ではOWLの結果というのは将来の進路に大きな影響を及ぼすと言えるだろう。
「でも、つまりは全科目で『O(優)』を取れば良いんですよね?」
私は今だけ進路相談室となっているマクゴナガルの私室にて、書類の束に目を通しているマクゴナガルに向かって言う。
マクゴナガルは書類の束を机の上に戻すと、小さなため息と共に言った。
「言ってのけますねサクヤ・ホワイト。ですがまあ、その通りです。ひとまずOWL試験で全科目『O(優)』を取っておけばどの道にも進むことが出来ます。ですが、この機会に一度卒業後の進路を真剣に考えて見るべきでしょう」
それに、とマクゴナガルは付け加える。
「NEWT以上の授業は専門分野です。OWLレベルで『O(優)』が取れていた生徒がNEWTレベルで躓くというのはよく聞く話。OWLレベルのように何でもかんでも選択すればいいと言うものでもありません」
「まあ、そうですよね。私としても選択する授業は必要最小限にしたいですし」
ただでさえ魔法省に呼び出されたりダンブルドアに呼び出されたり忙しいのだ。
こなす宿題の量は少なければ少ない方がいい。
「それを踏まえて、ミス・ホワイト。貴方は将来、ホグワーツを卒業したら何をやりたいですか?」
「……うーん」
将来のことを考えたことがないわけじゃない。
イースター休暇中、五年生は進路の話で持ちきりだったし、ロンやハーマイオニーとも卒業後の進路とNEWTの選択の話をした。
「とりあえず卒業旅行にでも──」
「その後のことを聞いているつもりです」
「お嫁さんとか?」
「それを本気で言っているのでしたら、いい嫁ぎ先を紹介しますが──」
マクゴナガルがあまりにも真剣な顔で返すので、私はすぐに「冗談です」と付け加えた。
だとしたら、私は一体何がしたいのだろうか。
勿論、私にも将来の理想像というものはある。
だが、それを言ったところでマクゴナガルは納得しないし、この先の授業の選択が決まるわけでもない。
「何かこう、器用貧乏な感じで選択できないですかね? これを取っておけば間違いないみたいな」
「……まあ、貴方の場合あちこちからお声掛けがあることでしょうし、そのような選択肢も無しではありません。ですが、その分選択しなければいけない授業も増えることも同時に承知する必要があります」
「そうなっちゃいますよねー」
受ける授業は最小限にしたいが、将来何がしたいかも決まっていない。
だとしたら、ある程度幅広く授業を選択しておくのも悪くはないだろう。
「今選択している授業からいらない授業を抜いていく形を取りましょうか。まず、歴史学者にでもならない限り、魔法史のNEWTは必要ないでしょう。占い学や魔法生物飼育学も然りです。天文学は……貴方に判断を任せます。私としては取っておいて損はないと思いますが、他の科目が疎かになるぐらいでしたら選択する必要はないでしょう。逆に言えば、残る教科は全て選択しておくに越したことはありません。呪文学、変身術、魔法薬学、薬草学、そして闇の魔術に対する防衛術です」
ようは必修科目から魔法史と天文学を抜いた形か。
確かにその程度の授業数なら大きな負荷になることなく受けることが出来るだろう。
「わかりました。ではその授業を選択することにします」
「授業に関しては新しい学期が始まってすぐに選択することになります。今日の話を参考に、自身でももう少し考えなさい」
私は席を立つと、マクゴナガルに一礼して部屋を出る。
正直今のご時世、OWLやNEWTの結果が役に立つのかはわからないが、まあ受けておくことに越したことはないだろう。
少なくとも、このままダンブルドア側についている限りは、試験の結果に将来が左右される。
私は小さく息をつくと、グリフィンドールの談話室に向けて歩き出した。
設定や用語解説
三人兄弟の物語
超簡単に説明すると、ぺべレル三兄弟がそれぞれ最強の杖(ニワトコの杖)、死者を蘇らせる石(蘇りの石)、どんな存在からも姿を隠せるマント(透明マント)を死から貰う話。ニワトコの杖と蘇りの石を貰った二人は結果的に不幸になったが、透明マントを貰った三男だけは死から隠れ続け、老後、最終的に死を古い友として迎え入れたという。
偽物のロックハート(本物)
輝かしい実績を残したまま死に至ったため、天国ではそれなりに有名人。一部のマダムからアイドル的人気を誇っている。生前の行いからして本来なら地獄行きだが、審判を行なった閻魔が面食いだったため天国へ行けた。天国ではそれなりに改心し、盗んだ武勇伝を語ることはせず、ただのイケメンに徹している。
OWL(普通魔法試験試験)
ホグワーツ五年生が受ける試験。マグルで言うところのGCSE試験。日本ではテストの成績や授業態度などで五段階評価や十段階評価を受けるが、イギリス魔法界ではOWLや後述するNEWTの成績が全て
NEWT(めちゃくちゃ疲れる魔法レベル試験)
ホグワーツ七年生が受ける試験。マグルで言うところのA-levels試験。この試験がホグワーツでの最終成績となり、就職活動などに直結してくる。
サクヤの将来の理想像
不便しない程度の田舎で預金を崩しながら絵本でも描いて過ごしたい。「激しい喜びはいらない…そのかわり、深い絶望もない…植物の心のような人生を…そんな平穏な生活こそ、わたしの目標だったのに…」とか最終回で言いそう。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。