P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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サクヤ・ホワイトと謎のプリンセス
ヌラーと襲撃の跡と私


 夏休暇が始まって一週間ほどが経ったある日。

 ウィーズリー家の子供たちがモリーさんに連れられ隠れ穴からグリモールドプレイスへとやってきた。

 今年の夏休暇も家族揃ってここで生活するらしい。

 まあ、私としても騒がしくなるのは大歓迎だ。

 ここのところ一週間、ルーピンとクリーチャーの顔しか見ていない。

 魔法省やダンブルドアからの呼び出しも無く、ある意味では充実した夏休暇だったが、いかんせん暇なのは確かだ。

 ロンが居ればチェスの相手には困らないし、ジニーは私を実の姉のように慕ってくれる。

 フレッド、ジョージと一緒に新しい悪戯グッズの開発をするのも面白そうだ。

 と、ここまでなら去年の夏となんら変わりないが、今年は更に人が増えている。

 

「紹介するわ。一番上の息子のウィリアムよ」

 

 モリーさんが長身で長髪の男性の肩を抱きながら紹介してくれる。

 なるほど、今まで会ったことはなかったが、彼が噂に聞く『ビル』なのだろう。

 私はビルと握手をしながら口を開く。

 

「はじめまして。サクヤ・ホワイトです。貴方が噂に聞くビルね」

 

「どんな噂を聞いたか怖くて聞けないな。よろしく、噂に聞くサクヤ・ホワイトさん」

 

 確かビルはエジプトで呪い破りをしているんだったか。

 だが、今ここにいるということは、もしかしたらグリンゴッツ勤務になったのかも知れない。

 

「ああ、それと、他にも紹介しないといけない人が──」

 

 ビルがそう言った瞬間、私の視界が柔らかい何かで覆われる。

 私はその不意打ちのハグからなんとか脱出し、その人物の顔を見上げた。

 

「……って、フラーじゃない。フランスに帰ったんじゃないの?」

 

 いきなり私に抱きついたのは三大魔法学校対抗試合で競い合ったボーバトン代表のフラー・デラクールだった。

 フラーは整った顔に満面の笑みを浮かべる。

 

「私、今英語の勉強のためにグリンゴッツで働いてるです! そして、ビルの奥さんでもありマース!」

 

「まだ結婚してないでしょう?」

 

 モリーが少し苦い顔をしながらそう補足する。

 なるほど、フラーはビルと付き合い始めたのか。

 まあ歳も近いしお似合いのカップルではある。

 

「では、お二人は同じ部屋のほうがいいですね。となると男子部屋が一つとジニーの部屋が一つ、ビルフラーで一つとアーサーモリーさんで一つ……」

 

「子供部屋二つと私たちの部屋だけで十分よ。ビルはロンと同じ部屋、フラーはジニーと同じ部屋」

 

 モリーさんがムスッとした表情で言う。

 その様子から察するに、モリーは二人の結婚に反対らしい。

 まあ、他人の家庭の事情に首を突っ込むのは野暮なので、その辺は当人たちで話し合って貰うこととしよう。

 私はお好きにどうぞとモリーさんたちに伝えると、厨房の中へと入る。

 そこにはくたびれた様子のアーサーがクリーチャーが用意したであろう紅茶を飲んでいた。

 

「お仕事の方はどうです? そういえば、大臣が代わってから昇進したという話を聞きましたが」

 

「昇進……とは少し違う。新しい部署に配属になった。『マグル製品不正使用取締局』から『偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局』にね。部署の規模が大きくなったから、出世であることには変わりないが……役職は局長のままさ」

 

 まあ、このようなご時世だ。

 新しい部署の名前だけ聞いても忙しいだろうということは容易に想像がつく。

 それに加え騎士団としての仕事もあるとなれば、てんてこ舞いなのにも納得だ。

 

「あとそれと、騎士団としてはどうです? 何か新しい話はありますか?」

 

「それに関しては君の方が詳しそうだがね。吸血鬼のお嬢様が騎士団入りしたんだろう?」

 

 アーサーはやれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「強力な戦力になることには違いないが……あのお嬢様に協調性があるとは思えない。騎士団員はダンブルドアを中心として結束しているが、彼女がダンブルドアの命令にちゃんと従うか怪しいものだ」

 

「まあおっしゃる通り、彼女自身が納得しなければ従わないと思いますよ。彼女はダンブルドアの駒じゃない。自分の意思で勝手に動き回るクイーンのような存在です」

 

「チェスゲームに於いてそれ以上に厄介なことはない。それによって良からぬことが起きなければいいが……」

 

 アーサーはカップに残っている紅茶を飲み干す。

 

「その辺に関してもダンブルドア先生に任せるしかないとは思います。でも、先生の話では別動隊として彼女には動いて貰うとは言っていましたが」

 

「流石にダンブルドアもその辺は考えがあるか」

 

「やっぱり、騎士団の中には彼女のことをあまり良く思っていない人たちも多いんですかね」

 

 私はアーサーの向かいの椅子に腰掛ける。

 私の問いを聞いて、アーサーは慌てたように付け加えた。

 

「いやいや、そんなことはない。彼女は我々にはない能力を持っている。強力な助っ人であることには違いないさ」

 

 我々にはない能力というのが、占いのことを指しているのか吸血鬼としての能力を指しているのか、はたまた彼女の権力のことを指しているのかはわからない。

 だがまあ、どの能力を取っても強力なことには変わりないだろう。

 

「さて、そろそろ職場へ戻るよ。今のご時世、民衆の不安につけ込んだ悪質な魔法具がわんさか市場に出てきている。摘発しても摘発しても一向に数が減らない」

 

 アーサーはそう言って椅子から立ち上がる。

 

「紅茶をありがとう、とクリーチャーに伝えておいてくれ」

 

「はい、わかりました。お気をつけて」

 

「ああ、君もね」

 

 アーサーはローブを着込み、姿くらましで厨房から居なくなる。

 私は空になったティーカップを流しに置くと、子供たちの様子を見に二階へと上がった。

 

 

 

 

 

 ウィーズリー家が自宅に来て一週間程が経ったある日の深夜。

 ウィーズリーの子供たちがすっかり寝静まった頃の時間帯に、ダンブルドアが訪ねてきた。

 なんでも、ホラス・スラグホーンの説得に私も同行しろとの話らしい。

 

「事前に知らせを受け取っていたのでそれには構いませんが……お邪魔になりません? 私スラグホーンさんとは面識もありませんし……」

 

 私はすっかり準備を整えた状態で、最終確認と言わんばかりにダンブルドアに尋ねる。

 

「スカーレット嬢の屋敷でも話をしたが、ホラスには人材の収集癖がある」

 

 つまり、私はスラグホーンを引きずり出すためのエサということか。

 

「そんなに単純な話ですかね。あちこち逃げ回り、身を隠しているような人なんでしょう? そもそも会ってくれるでしょうか」

 

「ホラス自身、ワシらに会う気はサラサラないじゃろうな。訪ねた瞬間、また何処かへ逃げていってしまう可能性も高い」

 

 ダンブルドアは誰もいない玄関ホールを軽く見回すと、私に向かって右手を伸ばす。

 どうやら現地までは姿現しで向かうようだ。

 

「クリーチャー、少し出かけてくるわ」

 

 私は虚空へとそう語りかけるとダンブルドアの右手を掴む。

 姿現わし特有の感覚と共に視界が暗転し、次の瞬間には小さな広場のようなところに立っていた。

 目の前には第二次世界大戦のものと思われる戦争記念碑があり、その周囲にはいくつかベンチが置かれている。

 

「ここは……マグルの村のようですが」

 

「ホラスの隠れ家はここから少し歩いたところにある。こっちじゃ」

 

 ダンブルドアはそう言うと、月明かりを頼りに舗装もされていない道を進んでいく。

 私はダンブルドアの横に並ぶように少し大股で歩いた。

 

「そういえば、今日の目的はスラグホーンさんに例のあの人……リドルに分霊箱について何か聞かれたかを尋ねに訪ねに行くことでいいんでしょうか」

 

「そのように聞くということは、何か他の目的があると考えておるのかね?」

 

「いえ、ただ認識の共有を図りたかっただけです」

 

 ダンブルドアは田舎道を少し黙って進むと、不意に立ち止まり、私の方に振り向いた。

 

「聡明じゃな。サクヤ、ホラスに会う前に一つ二つ言っておかねばならないことがある。一つ目は、今日はホラスの前ではヴォルデモートの話……特に分霊箱に関する話は無しじゃ。そして二つ目は、わしはホラスにホグワーツに戻ってきて欲しいと考えておる」

 

「スラグホーンさんをホグワーツの教員に? 引き受けますかね?」

 

 ダンブルドアはニコリと微笑むと、また曲がりくねった道を歩き出した。

 

「わし一人の力では無理じゃ。門前払いが関の山じゃろう。だからこそ、お主の力が必要になる」

 

「私を人材コレクションに加えたい……教育者として、私の人生に関わりたい、そう思わせろと?」

 

「ホラスの優秀な人材を見出す能力は本物じゃ。そして人一倍見栄っ張りで、自分の欲望に素直……正直なところ、黙って立っておるだけでもホラスは首を縦に振るじゃろう。それほどまでにホラスは君に関わりたいと願うはずじゃ」

 

 そんな魔性の女みたいな魅力を出しているとは思えないのだが。

 

「では、分霊箱のことを聞き出すのはホグワーツに来て、安易に逃げられなくなってからということですね」

 

「言い方は少々悪いが、まあそんなところじゃな。……そろそろじゃ」

 

 ダンブルドアは目の前に立っている小洒落た一軒家を指差す。

 その家はどう見ても普通のマグルの一軒家のようにしか見えなかった。

 

「魔法使いの家っぽくはないですね」

 

「マグルの家を借りておるのじゃろう。勿論、無断での」

 

 そう言った瞬間、ダンブルドアが不意に足を止める。

 私はダンブルドアの視線を追い、何故足を止めたのかを理解した。

 目指している家の玄関の扉が不自然に開いている。

 いや、よく見れば蝶番が外れ、今にも扉ごと地面に倒れそうになっていた。

 

「サクヤ──」

 

「分かっています。時間は?」

 

「それには及ばん。杖を出しておくのじゃ」

 

 私は左手で杖を引き抜き、右手をポケットの中に入れる。

 そして賢者の石が埋め込まれた懐中時計を握りしめた。

 ダンブルドアは右手で杖を構えながら、ゆっくりと扉を開き、家の中に滑り込む。

 私もその後を追い、そして中の惨状を目の当たりにした。

 

「これは……」

 

 家具という家具はひっくり返され、バラバラになって無惨に散らばっている。

 壁には至る所に焼け焦げた跡があり、そしてそのうちの一箇所には明らかに致死量だと思われる血痕が残されていた。

 一体どのような戦闘を繰り広げたらここまで滅茶苦茶になるのか見当もつかない。

 

「ん? 見当もつかない?」

 

 私はもう一度部屋の中を見回す。

 やはり、明らかに不自然だ。

 スラグホーンが何者かに襲われ、そして最終的に命を落としたと仮定するにはあまりにも家具や家屋の損傷が大きい。

 わざと悲惨な現場に見せようとやたらめったら魔法を掛けたようにも見える。

 

「先生──」

 

「分かっておる。ほれホラス。わしじゃよ」

 

 ダンブルドアは手に持っていた杖で近くにあったソファーを突き刺す。

 するとその瞬間、ソファーが鋭い悲鳴を上げた。

 

「痛いッ! おい、杖で突くな! 火がついたらどうする?」

 

 気がつくと、先程までソファーが置いてあった場所に太った禿頭の老人が蹲っていた。

 この老人がホラス・スラグホーンなのだろう。

 スラグホーンはセイウチのような立派なヒゲを軽く撫でると、服をはたきながら立ち上がる。

 

「なんでバレた?」

 

「もし本当に死喰い人が来たのなら、家の上に闇の印が出ておるはずじゃ」

 

「それに、少々わざとらし過ぎましたね。壁の血痕だけでよかったのでは?」

 

 スラグホーンは私の方を見ると、まるで幽霊でも見たかのように目を見開く。

 そして、そのまま数秒固まっていたが、すぐに誤魔化すように咳払いしながら言った。

 

「闇の印か。何か足りないと思っていた。まあよい。そんな時間もなかっただろうしな」

 

「時間がないとは?」

 

 私は手に持っていた杖を、部屋全体を撫でるように振るう。

 すると、粉々になっていた家具は元の形を取り戻し、今までそこにあったであろう場所へと移動していった。

 スラグホーンはその様子を眺めながら口を開く。

 

「侵入に気がついた時、ちょうど風呂に入っていた。まったく、来るなら連絡ぐらい寄越せ」

 

「わしが本当にそのようにしていたら、今こうして会えておらんじゃろう」

 

 スラグホーンはダンブルドアの言葉を肯定も否定もしなかったが、「何を当たり前なことを」と言わんばかりの目をしていた。

 

「紹介せねばならんの。サクヤ、こちらはわしの古い友人で同僚であったホラス・スラグホーンさんじゃ。そしてホラス、こっちはわしの教え子で九月から六年生の──」

 

「サクヤ・ホワイトです。以後お見知り置きを」

 

 私は小さく頭を下げると、スラグホーンに対して微笑みかける。

 スラグホーンは私の顔を見て目をパチクリさせると、ダンブルドアに詰め寄って小声で囁いた。

 

「おい、何故この子がここにいる? どうして連れてきた? ダンブルドア、お前はわしに一体何をやらせる気なんだ?」

 

「何をやらせるだなんて、そんな人聞きの悪いことはせんよわしは。わしはただホグワーツに新しい教員を招きたいだけじゃ。いや、君の場合は帰ってくると言った方が正しいかもしれんがの」

 

「ホグワーツには今あの女がいるだろう? 隠居中のこんな老いぼれを引っ張り出すこともあるまい」

 

 あの女……パチュリー・ノーレッジのことだろうか。

 ダンブルドアはスラグホーンの言葉に首を横に振った。

 

「彼女は七月いっぱいで隠居生活へと戻った。ホグワーツではまたもや人員不足というわけじゃよ」

 

「ふん。それがある意味正しい形と言えよう。アレが外に出ていることがそもそも不自然で異常事態なんだ」

 

「そうかもしれんの。それで、教員の件じゃが──」

 

 ダンブルドアの言葉を遮るようにスラグホーンは短くぷっくり膨れた右手を突き出す。

 

「この子をここに連れてきた時点でお前の勝ちだ。ダンブルドア。戻ろうじゃないか、ホグワーツに」

 

「では、教授職を引き受けてくれると?」

 

「そう言っておる。ったく、お前は昔からやることが卑怯だ。だが、やるからには給料は弾んでもらうぞ」

 

 ダンブルドアは嬉しそうにクスクス笑うと、杖を振るいどこからともなく上等なワインのボトルを取り出す。

 

「どうかね。復職記念に一杯」

 

「いただこう。この子とも少し話をしたいしな」

 

 スラグホーンはダンブルドアに勧められるままにテーブルにつくと、キッチンからグラスを三つ呼び寄せる。

 

「っと、サクヤ、君はまだ未成年だったな。バタービールとかの方がいいかね?」

 

 スラグホーンの質問に、私はダンブルドアをチラ見しながら言った。

 

「横にいる人が目を瞑るなら私はワインでもいいんですけど……」

 

 ダンブルドアは私の問いに対し首を横に振る。

 私は小さく舌を出すと、いつもの鞄からキンキンに冷えたバタービールの瓶を一本取り出した。

 

「では、ホラス……いや、スラグホーン先生の復職祝いに」

 

 私たちはそれぞれのグラスを掲げると、軽く打ち鳴らし中身を飲み干した。




設定や用語解説

ビル・ウィーズリー
 ウィーズリー家の長男。グリンゴッツの呪い破りとして勤務している。エジプト勤務だったが、最近ロンドン勤務になった。

フラー・デラクール
 ボーバトンを卒業後、英語の勉強のためにグリンゴッツで働き始め、そこでビルと出会った。

部署が変わったアーサー
 より重要度の高い部署への移動となった。必要に応じてという意味合いもあるが、半分はスクリムジョールによるダンブルドアへのゴマすり。

勝手に動き回るクイーンのレミリア
 盤上を動き回るだけならどれほどよかっただろうか。彼女は第三の指し手となり、横合いからチェス盤ごとひっくり返す可能性すらある劇薬。

ワインが飲みたいサクヤ
 好きというよりかは、背伸びしたいお年頃なだけ。かわいい。

Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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