P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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ラブレターと食事会と私

 一九九六年、九月一日。

 私はグリモールド・プレイスにある自宅の自分の部屋でホグワーツへ向かう準備を進めていた。

 まあ、準備と言えるほど大層な作業ではないが。

 部屋に点在する私物を鞄の中に適当に押し込んで終わりだ。

 私は空になった自分の部屋をもう一度見回し、忘れ物がないかを点検する。

 

「よし、自分の部屋はこれでいいわね」

 

 私は部屋を出ると、そのまま他の部屋の点検を始めた。

 今まで騎士団員たちの休憩室として使っていた部屋は、ベッドなども片付けられて元通りの空き部屋になっている。

 騎士団本部としての機能はロンドンにある高層ビルの地下に移った。

 もうこの家は不死鳥の騎士団の本部ではない。

 正真正銘、私一人だけが暮らす屋敷になった。

 まあ、屋敷しもべを一人として数えるなら二人暮らしだが。

 

「……にしても、ダンブルドアは何を考えてるのかしら」

 

 ダンブルドアは私がヴォルデモート側の人間だったことを知っているし、多くの人間を殺してきたことも知っている。

 自らの目的のために私を利用しているのだとしても、監視の目も付けずに放置するのはリスクが高すぎると思うのだが。

 意図的に泳がせているのか、はたまた頭がお花畑なだけか。

 ……まあ、十中八九泳がされているのだろう。

 私が本当に信用に足る存在なのか、試しているに違いない。

 私の身体のどこかに埋め込まれている魔法具には、時間操作の影響を受けないようにする機能以外に、私の位置を知らせる機能もあるとダンブルドアは言っていた。

 きっと、ダンブルドアの許可なく時間を操作したり、不自然な場所に移動したが最後、目の前にダンブルドアが現れて今度こそ私は殺される。

 私が目指す平穏な生活のためにも、私は今ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 ヴォルデモートには悪いが、私の平穏のために代わりに死んでもらおう。

 私は全ての部屋が元通りになっていることを確認すると、玄関ホールへと向かう。

 

「それじゃあクリーチャー。行ってくるわ」

 

 私が虚空へ向かってそう話しかけると、どこからともなくクリーチャーが姿を現し、恭しく頭を下げた。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様。いつでもこのクリーチャーめをお呼びつけください。ご主人様が何処に居ようと、すぐに駆け付けます」

 

「心強いわ。……でも、そうね。私が学校で貴方を呼び出すとしたら、私が生命の危機に瀕しているときよ。だから、状況の確認なんてしないですぐに私を連れてこの家に付き添い姿現ししなさい」

 

 クリーチャーはそれを聞いて目を丸くしたが、すぐに納得したように頷いた。

 私はそれを確認すると、今度こそ家を後にする。

 家の外には黒塗りのセダンが一台停まっており、その脇には魔法省の人間だと思われる男性がスーツ姿で待っていた。

 

「お待ちしておりました。キングズ・クロスまでお送りします」

 

「この距離を車で送迎だなんて、私もVIPになったものね。歩いて十分の距離なのに」

 

「魔法大臣のご指示です」

 

 男性は不愛想にそう言うと、私を後部座席へと案内する。

 助手席には闇祓いだと思われる魔法使いが座っており、右手には杖を握りしめていた。

 

「……なるほど、警護もばっちり」

 

「さっさと乗ってくれ。あまり同じ場所に留まりたくない」

 

 護衛の魔法使いは神経質に周囲を見回しながら言う。

 どうもあの様子では、入ったばかりの新人のようだ。

 そう言えば、上級生にこんな感じの生徒がいたような記憶がある。

 きっと去年か、一昨年の卒業生だろう。

 私が後部座席に乗り込むと、スーツ姿の魔法使いは手慣れた様子で運転席に滑り込み車を発進させる。

 どうやら車の運転には相当慣れているらしく、特に違和感なく車は交通の流れに乗った。

 

「キングズ・クロスに着きましたら、護衛の魔法使いと共に九と四分の三番線に向かってください」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 窓の外には見慣れたロンドンの街並みが流れている。

 ふと目線を上げると、騎士団の本部を移設した高層ビルの頭がチラリと見えた。

 

 

 

 

 キングズ・クロス駅の前で車から降りた私は、新人闇祓いと共に九と四分の三番線のホームを目指す。

 新人の闇祓いは常に杖を握りしめているのか、右手をポケットに突っ込んだまま私の前を早足で歩いていた。

 

「ホグワーツの卒業生ですよね。大広間で見たような見てないような……」

 

 私がそう声を掛けると、新人闇祓いは周囲を見回しながら答える。

 

「二年前までホグワーツにいた。レイブンクローだ」

 

「なるほど」

 

 なら、数年は私と被っているということだ。

 

「護衛の任務を一人で任されるなんて、相当優秀なんですね」

 

「君に言われても皮肉にしか聞こえないな。人手不足……とまでは言わないが、魔法省にも色々あるってことだ」

 

 新人闇祓いは九と四分の三番線のホームの入り口まで来ると、私に先に行くように促す。

 私は頷くことすらせず、自然な仕草で十番線と九番線の間の壁に突っ込み、そのまま壁を通り抜けた。

 新人闇祓いもすぐに私の後を追って壁を通り抜け、私の横に立つ。

 

「護衛はここまでだ。あとは君が列車から途中下車しなければ、安全にホグワーツまでたどり着くだろう」

 

「ええ、ありがとうございました」

 

 私は新人闇祓いに軽く頭を下げ、ホグワーツ特急へ乗り込む。

 まだ時間も早いためかコンパートメントには空きが多くあり、私は誰もいないコンパートメントを見繕うと扉を開けて中に入った。

 

「さてと」

 

 座席に座り、鞄の中から淹れたての紅茶が入ったティーカップと今朝の日刊予言者新聞を取り出す。

 そして鞄に浮遊魔法をかけて目の前に浮かせると、それを机代わりにしてその上にティーカップを置いた。

 私は紅茶を一口飲み、新聞の一面に目を通す。

 そこにはマグルの橋が死喰い人によって破壊されたという記事が載っていた。

 私がハリーを殺してから……いや、ヴォルデモートが表に出てきてからというもの、このような破壊活動や死喰い人による殺人などのニュースをよく見るようになった。

 マグルの橋を落とすこと自体に意味があるとは思えない。

 だが、死喰い人が大きな事件を起こせば起こすほど、魔法界はピリつき、不安を煽る結果になる。

 闇の魔法使いたちが影響力を強めているという演出をヴォルデモートはしたいのだろう。

 

「まあ、今の魔法界を見ればあの人の思惑通りにはなってるわね」

 

 ヴォルデモート自身のネームバリューもあるが、あの魔法省の一件から明らかに状況は悪くなっている。

 ああ、くそ。

 あの時ダンブルドアに捕まらなければ、私もこのお祭り騒ぎに参加できたのに。

 私はため息を一つ吐き出すと、紅茶を一口飲む。

 まあ、だからと言ってダンブルドアを裏切ってヴォルデモート陣営に戻ろうという気は今のところない。

 ダンブルドアはヴォルデモートの不死の秘密をかなりのところまで解明している。

 それに吸血鬼のレミリア・スカーレットも仲間になった。

 ヴォルデモートに守りに入らせるわけにはいかないので大きく動くわけにはいかないが、少しずつでもヴォルデモートを死へと追い詰めることが出来るだろう。

 私が新聞を読みながら物思いに耽っていると、不意に背中を押されるような感覚と共に窓の外の景色が流れ始める。

 どうやら列車がキングズ・クロスから出発したようだ。

 ロンとハーマイオニーは監督生用のコンパートメントにいるだろうし、しばらくは一人旅になるだろう。

 私は紅茶のおかわりを鞄の中から取り出し、空のティーカップを鞄の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 しばらくコンパートメントで待っていると、監督生としての集まりを終えたロンとハーマイオニーが私のいるコンパートメントに入ってきた。

 ロンは疲労困憊と言わんばかりに座席の上に突っ伏す。

 

「ランチのカートはまだ通り過ぎてないよね? 腹ペコで死にそうだよ」

 

「まだ通り過ぎてないわ。あ、そうだ。クリーチャーが作ったサンドイッチがあるけど、少し食べる?」

 

 私の提案にロンが勢いよく跳ね起きる。

 ハーマイオニーはその様子を呆れたように見ていたが、ハーマイオニー自身もサンドイッチをつまむ気満々のようだった。

 私は鞄の中から山盛りのサンドイッチの皿を取り出し、コンパートメントの中央に浮かせる。

 ロンは目を輝かせると、サンドイッチを頬張り始めた。

 

「クリーチャーの料理ってほんと絶品だよな。うちのママが作ってもこうはならないもん」

 

「そう? モリーさんのサンドイッチも美味しいと思うけど……でもまあクリーチャーの料理が美味しいのは否定しないわ」

 

 私もサンドイッチを手に取ると、一口で口の中に放り込む。

 多分そこで生じる味の差は、挟まっている具材の差だと思うが、口に出さないほうが賢明だろう。

 しばらく三人でサンドイッチを頬張っていると、不意にコンパートメントの扉が叩かれ、下級生と思われる少女が顔を覗かせる。

 

「なに? どうかしたの?」

 

 私がその少女に向けてにこやかに微笑むと、少女は顔を真っ赤にしながら私に対して手紙を一通渡してきた。

 

「あら、ラブレター? 嬉しいわ」

 

「ち、違います! 私はこれを届けるように言われただけで……えっとその、あの……失礼します!!」

 

 少女は私が手紙を受け取ると、逃げるようにコンパートメントから離れていった。

 私は少々不可解に思いながらも手紙をひっくり返す。

 そこにはホラス・スラグホーンの名前が書き込まれていた。

 

「で、結局何だったんだ? まさか、本当にラブレターってわけじゃないだろう?」

 

 ロンが興味津々な様子で手紙を覗き込む。

 私は手紙の封蝋を破ると、中身に軽く目を通した。

 

『ミス・ホワイトへ コンパートメントCでのランチに是非参加してほしい ホラス・スラグホーン教授』

 

「なるほど、これはある意味ラブレターかもね」

 

 私は手紙をロンとハーマイオニーに見せる。

 

「スラグホーンって、新しく先生になるダンブルドアの元同僚の人だっけ?」

 

「そうよ。何にしても、食事に呼ばれたなら行くしかないわね」

 

 私は鞄を小さくしてポケットの中に入れると、座席から立ち上がる。

 

「それじゃあ行ってくるわ」

 

「うん、わかった。またここに戻ってくるんだろう?」

 

 ロンの問いに軽く手を上げて答えると、私はコンパートメントを後にする。

 Cということは、かなり前のコンパートメントのはずだ。

 私はランチカートを待つ生徒で混雑している通路を通り抜け、列車の前の客車を目指す。

 その道中に何度も声をかけられ握手を求められたので、コンパートメントCに辿り着くのに通常の倍ほどの時間が掛かってしまった。

 

「失礼します」

 

 私はコンパートメントの扉をノックし、中へと入る。

 そこにはスラグホーンを中心にして数人の生徒が座っていた。

 

「おお! 待っていたよサクヤくん。遅かったからてっきりフラれてしまったかと思ったよ」

 

 スラグホーンは私の姿を見て飛び跳ねるように喜ぶと、私を自分の隣の席へと案内する。

 私の他には上級生だと思われる生徒が二人と、同学年のスリザリン生のザビニ、それにネビルとジニーの姿があった。

 

「さて、みんな知り合いかな? 顔ぐらいは見たことあるだろう」

 

 スラグホーンは生徒たちを見回し、順番に紹介していく。

 それによると上級生の二人はコーマック・マクラーゲンとマーカス・ベルビィというらしい。

 

「知らない生徒と交流を持つ良い機会だ。さて、ナプキンを取ってくれ。実は自分でランチを準備してきたんだ。ここのランチカートの商品は年寄りの消化器官にはちとキツいのでな」

 

 スラグホーンはそう言いながら机の上に料理を並べていく。

 

「そういえば、先程までマーカス君と話をしていたところだったのだが、昔マーカス君の叔父であるダモクレスを教えていたことがあってね。非常に優秀な魔法使いだった。当たり前のようにマーリン勲章を受賞するような。最近おじさんには会ったかね、マーカス」

 

 ベルビィはそれを聞き、少し困ったような表情を作る。

 

「えっと、最近はそんなに……」

 

「まあ、それもそうだろう。トリカブト薬の開発は大変な作業だと聞き及んでいるからね。あまり時間を取れないのも無理はない」

 

 ベルビィはスラグホーンの言葉にさらに小さくなる。

 スラグホーンは何度か頷くと、今度はマクラーゲンに話しかけた。

 

「コーマック、君についてだが──」

 

 スラグホーンはその調子でマクラーゲン、ザビニと話を振っていく。

 それを聞くに、どうやらここに集められたのは有名人や有力者と繋がりがある生徒たちということがわかった。

 マクラーゲンは父親が魔法大臣のスクリムジョールと軽い繋がりがあり、ザビニに関しては母親が有名人らしい。

 ネビルは両親の縁で呼ばれたようだった。

 スラグホーンは二人が亡くなってしまったことを仕切りに残念がっていたが、それは人が死んで悲しいというよりかは、コレクションが壊れてしまって悲しいといった様子に近い。

 彼にとっては人脈はコレクションであり、宝物のような扱いなのだろう。

 ネビルの話が終わると、今度は私の話題になった。

 

「さてさて、サクヤ君! 一体何から話したものだろうね。対抗試合での君の活躍は勿論聞き及んでいるよ。他校の上級生相手にあの大立ち回り、若いのに大したものだ。それに、去年のあの事件……ハリー君のことは残念だが、君がその意志を継いだ。違うかい?」

 

「……ええ、その通りですね」

 

 私はスラグホーンに対してにこやかに微笑む。

 

「今は君が選ばれし者ってわけだ。……そういえばサクヤ君。君、父親はなんて名前だ?」

 

「父の名前ですか? さぁ、孤児院出身なので知らないですね」

 

 まあ、父親に限らず母親の名前すら知らないのだが。

 スラグホーンはそういえばそうだったと少しバツの悪い顔をする。

 

「そうか……でも、きっと父親も優秀な魔法使いだったに違いない。では、魔法に関わり始めたのはホグワーツに入学してからというわけか……やはり君も天賦の才を持ち合わせているようだ」

 

 私の両親が優秀な魔法使いか。

 ……その可能性はないだろう。

 

「いや、私の両親はきっと最低で無能な人間だと思いますよ」

 

 私はついボソリとそうこぼしてしまう。

 それを聞いてスラグホーンは不可解な顔をした。

 

「なぜそう思う?」

 

「本当に優秀な魔法使いだったら今も生きて私の隣にいるはずですから」

 

 少なくとも、マグルの孤児院で生活することはなかった筈だ。

 そもそも両親が魔法使いかどうかも怪しい。

 スラグホーンは少し悲しげな表情を浮かべると、小さく頭を下げる。

 

「すまん、そういうつもりはなくてだな……気を悪くしてしまったかな? そうだ! デザートに砂糖漬けのパイナップルを用意していたんだ」

 

 スラグホーンはいそいそと鞄の中を漁り始める。

 私はその様子を見ながら、内心小さくため息を吐いた。

 




設定や用語解説

新人闇祓い
 きっとこの先一度も出てこないであろうモブキャラ。

残念がるサクヤ
 普段時間停止能力をひた隠しにしているからこそ、能力を隠すことなく滅茶苦茶やりたいという願望が少しある。

サクヤにとっての両親
 サクヤは自分の両親に捨てられたと思っているので、両親に抱いている印象は最悪に近い。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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