P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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無言呪文とカップの平面と私

 噛みつきフリスビーでしこたま遊んだあと、私とロンはハーマイオニーと合流し闇の魔術に対する防衛術の教室へと来ていた。

 闇の魔術に対する防衛術の授業は今年からスネイプの担当になる。

 スネイプがどんな授業を行うかは完全に未知数だが、結局平凡な授業しか行わなかったパチュリー・ノーレッジよりかは面白い授業になるだろう。

 パチュリーの授業は彼女の著書と同じぐらい単調で、それでいてつまらなかった。

 闇の魔術に対する防衛術の授業なのに居眠りをし始める生徒が出たほどである。

 そう思えばグリム……シリウス・ブラックは良い先生だったと言えるだろう。

 あの場にブラックが出て来なかったらハリーもブラックも殺さなくて済んだのに。

 そんなことを考えていると、スネイプが音もなく教室に現れる。

 そして黒板の前へと移動すると、いつもの調子で話し始めた。

 

「これまで諸君らはこの学科で六人の教師を持った。当然のことながら、こうした教師たちは皆自分の好きなように授業を進める。そういった環境であるにも関わらず、この科目のOWLを合格したものがこれほどまでにいることに私は少なからず驚いている。だが、NEWTレベルはそれより幾分も高度で難解だ。この中からどれほどのNEWT合格者が出るかはわからないが……期待はしないでおこう」

 

 スネイプは私の顔をチラリと見ると、すぐに顔を背ける。

 まるで何かの間違いで私がNEWTを落とせばいいのにと言わんばかりだ。

 

「闇の魔術に対する防衛術のNEWTは無言呪文から始まる。諸君らは無言呪文に関してはずぶの素人であろう。無言呪文の利点とは何か、わかるものは──」

 

 スネイプが言い終わるよりも先に、ハーマイオニーの手がスッと挙がる。

 スネイプはハーマイオニーを当てたくない様子だったが、他に手を挙げる生徒がいなかったこともあり、渋々ハーマイオニーを指名した。

 

「こちらがどんな魔法をかけようとしているかについて、敵になんの警告も発しないことです。それが一瞬の先手を取れるという利点になります」

 

「教科書と一字一句丸写しの答えだ。が、しかし、概ね正解だと言えるだろう。無言呪文を習得したものは呪文をかける際、驚きという要素を相手に与えることができる。そして言うまでもなく、この術は誰にでも使える術ではない。集中力と意思力の問題であり、この中の何人かには明らかに欠如している」

 

 スネイプは隠すことなくネビルを見る。

 ネビルはその視線を受けてわかりやすく体を縮こませた。

 

「それとホワイト、お前が無言呪文について知らないはずが無かろう。何故手を挙げなかった?」

 

 そしてスネイプはその視線を今度は私に向ける。

 

「その自主性がなく非協力的な授業態度にグリフィンドールは五点減点。それではこれより無言呪文の訓練を始める」

 

 スネイプは流れるようにグリフィンドールから減点すると、そのまま授業に移行していった。

 私はあまりにもいつも通りなスネイプに若干肩を竦めると、近くにいたネビルとペアを組む。

 

「一人が無言で相手に呪いを掛けようとする。相手も同じく無言でその呪いを跳ね返そうとするのだ。では始めたまえ」

 

 正直無言呪文はロックハートから教わっているので今更練習するようなことでもない。

 ここはネビルの無言呪文習得に尽力することとしよう。

 

「さて、それじゃあやりましょうか。ネビル、無言で私に呪いをかけようとしてみて」

 

 ネビルは何度か頷くと、私の顔を見つめながら集中し始める。

 だが、すぐに顔を赤くし視線を逸らせた。

 

「もう、どうしたのよ?」

 

「ごめん、小っ恥ずかしくって」

 

「わからなくもないけど無言呪文を習得しないことにはこの授業だけじゃなく呪文学でも躓くわよ?」

 

 ネビルはその後も十分ほどうんうんと唸ったが、杖の先からは火花一つ出ない。

 私はその様子を見ながら、ロックハートからどのように無言呪文を教わったか思い出していた。

 

『無言呪文を成功させるにはその行為をどうしても実行したいという強い意志が必要だ。この辺は姿現しと似ているかな』

 

「実行したいという強い意志……ねえネビル。貴方本気で無言呪文を習得したい?」

 

 ネビルは一瞬キョトンとしたが、すぐに眉を吊り上げる。

 

「真面目にやってるさ! でも僕要領いい方じゃないし……」

 

「そうじゃなくて。無言呪文を習得する近道があるんだけど……でも少し手荒だし、本気で習得する気がないなら辛いだけだから──」

 

「そんな方法があるの?」

 

 ネビルは目を丸くする。

 それに対し、私は小さく微笑んだ。

 

「貴方、盾の呪文は使えるわよね?」

 

「うん、去年グリム先生から習ったから」

 

「私が今から貴方に軽度な痛みを与える呪文をかけるわ。それを貴方は盾の呪文で跳ね返す。勿論、魔法で口は塞ぐからズルは許されない。貴方が本気で私の呪文から逃げようとする時、たとえ貴方が一言も発さなかったとしても盾の呪文は発動するでしょうね」

 

「け、軽度な痛みってどれぐらい?」

 

 私は杖を取り出すと、無言でネビルに火箸の呪いをかける。

 ネビルは呪文が当たったところを反射的に押さえると、鋭く短い悲鳴を上げた。

 

「まあ、私の全力ビンタぐらいじゃない?」

 

「う、うーん……普通に頑張るよ。予想以上に痛かったし」

 

 ネビルは呪文が当たった場所をさすりながら答える。

 

「そう。まあ無理強いはしないわ」

 

 私は肩を竦めると、杖を仕舞って教室の隅にある椅子に座る。

 

「好きに魔法をかけて頂戴な。適当に防ぐから」

 

 そして大きな欠伸を一つすると、そのままうたた寝を始めた。

 

 

 

 

 闇の魔術に対する防衛術の授業の次は占い学だ。

 去年はロンも履修していたが、流石にNEWTレベルには興味がないらしい。

 まあ、興味がないのは私も同じなのだが。

 レミリアに招待されている以上、無視するわけにもいかないだろう。

 私はロンとハーマイオニーの二人と別れると、ホグワーツの南塔の最上階へ移動する。

 そして沢山の女子生徒と共に、新しく用意された占い学の第二教室へと入った。

 教室の中はトレローニーの教室とは違う意味で異質だった。

 天井には豪華なシャンデリア、教卓と思わしき机には様々な小物が置かれている。

 その周囲には生徒用の机が十数個。

 そして、窓を隠すように飾られた絵画には、生きたまま串刺しにされた人間がもがき苦しむ様子が描かれている。

 幸いなことに魔法界のものではないのか、その絵画が動くことはなかった。

 

「……先生はどこかしら」

 

 隣で縮こまっていたラベンダーが小さい声で囁く。

 私は部屋を見回すと、部屋の隅に立てるように置かれた小さな棺を指差した。

 

「アレじゃない?」

 

 その瞬間、ガコンと何かが外れる音がして、棺の蓋が外れ、地面へと倒れる。

 そしてその蓋を踏み締めるようにしながら、レミリア・スカーレットが棺から出てきた。

 

「私の教室へようこそ。その辺にある椅子に適当に座りなさい」

 

 レミリアはそう言うとしたり顔で教卓へと歩いていく。

 きっとレミリアなりの演出だったのだろう。

 私はレミリアに悟られないように小さく肩を竦めると、教室の後ろの方の席に腰掛けた。

 

「さて、まずは簡単に自己紹介でもしようかしら。まあ、NEWTレベルの占い学を選択するような者に自己紹介が必要だとは思えないけど……」

 

 レミリアは教室にいる生徒たちを見回し、満足そうに頷く。

 かなりの占い狂のラベンダーやパーバティはその視線を受けてうっとりとしていた。

 占い学のトレローニーは、レミリアのかなりのファンだ。

 きっとあの二人もトレローニーの影響でかなりのレミリア信者なことだろう。

 

「夜の支配者にして千年に一度の占い師、レミリア・スカーレットよ。対抗試合の時に審査員を引き受けた縁で、数年の期限付きでホグワーツで占い学を教えることになったわ。このクラスの目標はただ一つ。本物の占い師を輩出すること。貴方たちの才能が本物であることを心から願っているわ」

 

 レミリアは得意げな顔で羽をバタつかせる。

 

「NEWTレベルの占い学では、基本的には今までやってきた占いを更に掘り下げる授業になるわ。紅茶占いや、水晶占い。タロットカードに夢占い。トレローニーから基礎の基礎は教わっているでしょう?」

 

 教室の何人かがレミリアの言葉に頷く。

 

「ただ、貴方たちはまだ占いのやり方を教わっただけに過ぎない。クィディッチで言えばルールと箒の乗り方だけ知っているような状態ね。ままごとでしかない貴方たちの占いが、本物になるかどうかは貴方たちの才能次第。それじゃ、占い学の授業を始めましょうか。っと、その前に」

 

 レミリアは忘れていたと言わんばかりに言葉を足す。

 

「助手を紹介するわ。まあ私の家の従者なんだけど。小悪魔、入りなさい」

 

 レミリアがそう声を掛けると、部屋の奥にある扉を開けて一人の女性が中に入ってきた。

 白いYシャツに黒のベスト。

 そこまでならパブでよく見るバーテン服だが、下は膝まである黒のロングスカートだ。

 髪の毛は赤く、腰までの長さがあり、それだけ見れば美鈴の親族に見えただろう。

 だが、一見人間にしか見えない美鈴と違い、その女性には明らかに人間にはない部位が存在していた。

 頭と背中に蝙蝠のような羽が生えている。

 レミリアほど自己主張の強い羽ではないが、人間でないことは明らかだろう。

 

「紹介に預かりました。レミリア・スカーレットと契約している悪魔です。まあ、力が弱いのでお嬢様からは小悪魔だなんて呼ばれていますけど……どうぞ好きに呼んでください。私としては大悪魔なんて呼び方を推奨しているんですけど──」

 

「小悪魔よ。授業の助手をするわ。よろしくね」

 

 小悪魔の自己紹介を遮るように、レミリアがそう紹介する。

 小悪魔はそれを受けて少ししょんぼりとした。

 

「では早速授業に入りましょうか。小悪魔、ティーセットを」

 

 レミリアがそう指示すると、小悪魔は懐から細く黒い、まっすぐな見た目の杖を取り出し宙に向かって振る。

 その瞬間、私たちの前に人数分のティーセットが出現した。

 なるほど、レミリアが授業に助手を連れてきた理由が分かった。

 おっとりとして見えるが、かなりの魔法の腕だ。

 きっと魔法が不得意なレミリアに代わり、魔法を行使するのが仕事なのだろう。

 

「まずは紅茶占いから始めていくわ。みんなまずはトレローニーに習った通りにティーカップを読める状態にまで持っていきなさい」

 

 私は言われた通りティーポットの中に入っている紅茶をカップに入れ、時間をかけてゆっくりと飲み干す。

 そして水気を切るために逆さにしてソーサーに伏せた。

 教卓のほうを見ると、レミリアも同じように占いの準備を行っている。

 その様子を見て、ふとレミリアと最初に会った時のことを思い出した。

 確かあの時に行った占いも紅茶占いだった。

 レミリアはあっけらかんとした表情で私に死の宣告をした。

 あの時のことを、レミリアは覚えているだろうか。

 

「さて、準備は整ったかしら。ティーカップを開けなさい」

 

 私はカップをソーサーから持ち上げる。

 そしてカップに残った茶葉の形を読み解き始めた。

 

「えっとどれどれ……月に太陽が正面衝突ってところかしら?」

 

「実に平面的ね」

 

 いつの間にか私の背後に回り込んでいたレミリアが私のカップを覗き見ながら言う。

 

「でも、着眼点は悪くないわ。宙に浮かんでいる太陽と月はあまりにも距離が離れているから重なることはあってもぶつかることはない。でも、カップの表面は平面だもの。そりゃ月と太陽もぶつかるわ」

 

 まあなんにしても、とレミリアは付け加える。

 

「大切なのはそれが示す意味よ」

 

「近い将来あの人とダンブルドアが一騎打ち、なんていうのはどうです?」

 

「それはもう占いじゃなくて推測でしょうに……まあいいわ。で、どっちがどっちなの?」

 

 レミリアの言葉に私は首を傾げる。

 

「どっちとは?」

 

「どっちが月で、どっちが太陽だと思う?」

 

「そうですね……月がダンブルドア、太陽があの人ではないでしょうか」

 

 レミリアはそれを聞くと、少し意外そうな顔をする。

 

「へえ、普通の感性だと逆だと思うけど……そう考える理由は?」

 

「月に近づいても危険はありませんが、太陽は少し近づくだけでその身を焦がしますから」

 

 レミリアはそれを聞き、なるほどと頷く。

 

「でも、少し惜しいわね。月が示しているのはダンブルドアではないわ。太陽が示しているのもヴォルデモートではない。でも、未来に何か大きなものがぶつかるというのは概ね正しい。サクヤ、あなた占いの才能があるんじゃない?」

 

 レミリアはそう言うと私のカップを覗き見る。

 そして少し首を傾げ、ボソリと呟いた。

 

「なるほど……次の授業、少し恥を掻くかもね」

 

「え?」

 

 私が聞き返すよりも先に、レミリアは他の生徒の元へと歩いていってしまう。

 私はその後ろ姿を見ながら、手元のカップを綺麗にした。




設定や用語解説

教師としてのパチュリー・ノーレッジ
 パチュリーの授業はかなりつまらない。魔法史のビンズといい勝負であり、実習がある分魔法史よりかは居眠りが少ないが、それでも居眠りをする生徒が出るレベル。

火箸の呪い
 相手に突き刺すような軽微な痛みを与える呪文。全力で掛ければそれこそ火箸を突き刺したかのような痛みを与えることができる。

ラベンダーとパーバティ
 年頃の女の子らしく、占いに御執心。伝説的な占い師であるレミリアの授業が受けられて一番喜んでいるのはこの二人。

小悪魔
 ついに登場小悪魔さん。レミリアと比べると背は高いが、美鈴ほどではなく小柄な体型。腰まで伸ばした赤い髪に、背中と頭には悪魔の羽が生えている。レミリアの従者という話だが、レミリアと小悪魔が一緒にいるところを見たことがある者はいない。一体何者なんだろうか……

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