P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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金庫破りと双子の呪文と私

 一九九六年、新学期が始まって二回目の土曜日。

 私は大広間でトーストを齧りながら今日の予定を確認していた。

 今日はダンブルドアと共にグリンゴッツへ侵入する日だ。

 目的はヴォルデモートの魂のカケラが収められている分霊箱の捜索。

 長時間時間を止めての捜索になるので、今のうちにしっかりカロリーを取っておいたほうがいいだろう。

 私がトーストにいそいそとバターを塗っていると、今にも死にそうな顔をしたロンがハーマイオニーに連れられて大広間へとやってきた。

 私は二人分のミルクをカップに注ぐと、二人の前に差し出す。

 

「朝からどうしたのよ。ベッドに巨大な蜘蛛でも出た?」

 

 私がそう尋ねると、ロンの顔が一層青くなる。

 

「もうサクヤ忘れたの? 今日はグリフィンドールのクィディッチチームの選手選抜の日でしょ」

 

 そういえば、そんな張り紙を談話室で見た気がする。

 

「あー、大変ねぇ。でも大丈夫よロン。自信を持って!」

 

「ほんと他人事のように……サクヤだって出るんだろ?」

 

 ロンは私の注いだミルクをチビチビと飲みながら言った。

 

「出る? 何に?」

 

「選抜だよ。……え? もしかして出ないのかい?」

 

「なんで私が選抜に出るのよ?」

 

 私がそう聞き返すと、ロンは言葉も出ないといった表情で口をパクパクさせた。

 それを見て、ハーマイオニーがため息を漏らす。

 

「サクヤ、だって貴方去年からグリフィンドールのシーカーじゃない。貴方目当てで選抜に参加しようって生徒が山のようにいるのよ?」

 

 正直ディゴリーを殺した時に除名されたものだと思っていたが、それは私の思い込みだったようだ。

 グリフィンドールの中では、私は秘密兵器のような扱いらしい。

 

「てっきり僕は今年のシーカーはサクヤで決まりだと思ってた。キャプテンのケイティもそう言ってたし。一応形だけシーカーの選抜もする予定って言ってたけど」

 

「それじゃあケイティに伝えておいて。今日の選抜は出れないって」

 

 それを聞いて、ロンが意外そうな顔をする。

 

「どうして? 何か用事があるの?」

 

「ダンブルドアと少しね。不死鳥の騎士団関係で」

 

 私はトーストのカケラを口の中に放り込み、席を立つ。

 

「まあでも、私の用事が終わった時、まだ選抜をやっていたら参加しようかしら」

 

「あー、うん。それじゃあシーカーの選抜は最後に回すように言っておくよ」

 

 ロンの言葉に私は軽く手を挙げて返事をし、そのまま大広間を後にしようとする。

 そこをハーマイオニーが呼び止めた。

 

「それと……あの……サクヤ?」

 

「ん? どうしたの?」

 

 私が聞き返すと、ハーマイオニーは少し遠慮がちに言った。

 

「選抜が終わったらハグリッドの小屋に寄ろうと思ってるんだけど……サクヤも来るわよね?」

 

「ええ、別にいいけど。でもどうして? ハグリッドに何か用事でも?」

 

 私がそう聞き返すと、ハーマイオニーは気まずそうにもじもじする。

 

「ほら、私たち三人とも魔法生物飼育学を取らなかったでしょ? それで……ハグリッド気を悪くしてるんじゃないかって」

 

「うん。……え? それがどうしてハグリッドに会いに行くことに繋がるの?」

 

「もう、仲直りする機会が必要でしょ!」

 

「仲直りって……どちらかといえば言い訳じゃない?」

 

 私はやれやれと肩を竦める。

 

「NEWTレベルに入ったんだし、遊びや付き合いで授業を選択する余裕がないことはハグリッドも重々承知なはずよ」

 

「それ、あなたが言うの?」

 

 ハーマイオニーにそう言い返されて、私はキョトンとする。

 そしてポンと手を打った。

 

「あ、そういえば私付き合いで占い学を選択したんだったわ」

 

「サクヤってたまに抜けてるよな」

 

 ロンは呆れたように後頭部を掻く。

 私は誤魔化すように咳払いを一つした。

 

「なんにしても、貴方たちがハグリッドの小屋を訪ねるなら私も付き合うわよ」

 

 私は二人にそう告げると、今度こそ大広間を後にした。

 

 

 

 

 大広間を出た私は階段を二つ上がり三階の廊下を歩く。

 そしてガーゴイル像の前まで来ると、ガーゴイル像に向かって合言葉を唱えた。

 

「糖蜜ヌガー」

 

 私がそう言うと同時に、ガーゴイル像はぴょんと脇にどき、その奥に校長室へと続く螺旋階段が現れる。

 私は螺旋階段を上ると、校長室の大きな樫の扉の前に立つ。

 すると校長室の扉が一人でに開き、私を中へと招き入れた。

 

「おはようサクヤ。よい休日じゃの」

 

 部屋の奥の椅子に座っていたダンブルドアは、私が入ってきたことを確認すると椅子から立ち上がる。

 

「ええ本当に。金庫破り日和ですね」

 

 私はダンブルドアにそんな軽口を返すと、歴代校長の肖像画が全部眠りについていることを確認してから時間を停止させた。

 

「それでは参ろうかの。準備はできておるか?」

 

 ダンブルドアの問いに私は頷く。

 ダンブルドアは私の肩に手を置くと、そのまま付き添い姿くらましをした。

 狭い水道管の中に無理矢理体を押し込めるような感覚の後、一瞬で周囲が真っ暗になる。

 きっともう既に金庫の中なのだろう。

 

「杖灯りを灯すのじゃ」

 

 ダンブルドアの指示通り、私は杖を抜き、その先端に灯りを灯す。

 そこにはガリオン金貨や金細工、いかにもいわくのありそうな調度品など、様々なものが山のように積まれていた。

 

「……ここは誰の金庫なんです?」

 

「マルフォイ家じゃ」

 

 なるほど、マルフォイ家がお金持ちだとは聞いていたが、これほどだったとは。

 私は今は疎遠になりつつあるドラコの顔を思い出しながら一人感心したように頷いた。

 

「さて、分霊箱を探すとしよう。と言っても、この金庫に分霊箱がある可能性は低いとわしは考えておる」

 

「どうしてです?」

 

 私は近くにある金のゴブレットを拾い上げながら言った。

 

「ギルデロイ・ロックハートに取り憑いた日記帳の分霊箱、アレの元々の持ち主はルシウス・マルフォイだからじゃ」

 

「では、ドラコのパパがロックハートに日記帳を渡したと?」

 

 私の言葉にダンブルドアは首を横に振った。

 

「スネイプ先生からの情報での。あの日記帳はヴォルデモートがルシウス・マルフォイに預けたものらしい。勿論、分霊箱のことは伏せての。四年前、ルシウス・マルフォイはヴォルデモートが完全に消えてしまったと思い込んでおった。そんな時に、マルフォイ家に抜き打ちの家宅捜査が入ったのじゃ」

 

「それって、ロンのお父さんが行っていたやつですよね」

 

「その通り。ボロが出てもまずいため、ルシウスは少しずつ家にある闇の魔術に関わる道具や骨董品を処分し始めた。その中の一つがあの日記帳じゃ。じゃが、あの男は狡猾じゃ。ヴォルデモートに関わる品を処分すると同時に、アーサー・ウィーズリー氏とわしを失脚させるための策を練った」

 

 私は持っていたゴブレットを元あった位置に置き直すと、ダンブルドアの方を見た。

 

「失脚させるための策? まあダンブルドア先生は分かりますけど、アーサーさんもですか?」

 

「いかにも。本来あの日記帳はジニー・ウィーズリーの手に渡る予定だったのじゃ。実際、ルシウス・マルフォイはダイアゴン横丁の書店でジニー・ウィーズリーの大鍋に日記帳を入れた。じゃが、巡り巡って最終的にはロックハートの手に日記帳は渡ったわけじゃが」

 

 私はあの時のことを思い出す。

 確か書店ではロックハートがサイン会を開いていた。

 そして確かに私はドラコのお父さんと会っている。

 あの時だったら確かにジニーの持ち物の中に日記帳を紛れ込ませるのは可能だろう。

 ……いや、あの時は確か私も大鍋の中に教科書を入れていた。

 その後私はダイアゴン横丁の道の真ん中でトランクをひっくり返し……。

 

「もしかしたらその日記帳は一度私を経由してロックハートの手元に渡ったのかもしれません」

 

 私はあの時の書店での出来事をダンブルドアに話す。

 ダンブルドアはそれを聞くと納得したように頷いた。

 

「ふむ。ではその時に日記帳をトランクに詰め忘れたのじゃろうな。そして、道に放置された日記帳をロックハートが拾い、ヴォルデモートに取り憑かれた」

 

「運命を感じますね。もしかしたら、日記帳は私の手に渡っていたかもしれないと考えると」

 

「そうなっていたら、わしは本格的に校長の職を追われていたかもしれんのう」

 

 私にヴォルデモートが取り憑いていたらどうなっていたのだろうか。

 少なくとも、今とは全く違う未来になることは想像に難く無い。

 

「でも、なるほど。ダンブルドア先生が言いたいことは分かりました。ルシウス・マルフォイには既に一つ預けているから、二つ目がある可能性は低いと。そういうことですね」

 

「左様じゃ」

 

 私はガリオン金貨の山を一掴み自分のポケットに突っ込みながらダンブルドアに聞く。

 

「でも、どうしてそんな話を先生が知っているんです?」

 

「スネイプ先生じゃよ。先生は夏休みの間、ヴォルデモートの近くにいた。先生曰く、ルシウスがヴォルデモートの持ち物を私的に利用し、そして損失させたことでヴォルデモートの反感を買い、死喰い人内での地位を大きく落としたというのじゃ」

 

 その持ち物というのが日記帳であると。

 

「まあ、あの人からしたら知らなかったこととはいえ、自分の半身を利用されたわけですもんね。というか、スネイプ先生今でもあの人の下に潜入していたんですね。今向こうはどんな様子なんです? 私に対する認識は?」

 

「君がヴォルデモートを裏切った。そう考えておる死喰い人は少ないそうじゃ。ヴォルデモート自身がサクヤの裏切りを否定しておるのも大きいじゃろう。死喰い人の中では、君はあくまでわしに身柄を拘束されている囚われの姫という認識のようじゃ」

 

「それはなんともまあ。お可哀想に」

 

 つまり、ヴォルデモートはまだ私を諦めていないということか。

 もし本当に私のことを切り捨てる気なのだとしたら、私を敵と判断し、私を殺すよう死喰い人に命令するはずだ。

 まあでも今更ダンブルドアを裏切ってヴォルデモートにつこうとは思わない。

 ヴォルデモートを相手取るよりもダンブルドアを相手取るほうがよっぽど厄介だ。

 

「そういうわけじゃから君が死喰い人に命を狙われることはないじゃろう。むしろあるとすれば、君を奪還するために死喰い人が攻めてくる可能性じゃな」

 

「ホグワーツにですか? それはそれは恐ろしいことです」

 

 私は冗談交じりに肩を竦めて見せる。

 

「もしそうなった場合、先生はどうするんです? 被害が出る前に私をヴォルデモートに差し出しますか?」

 

「そうなる前に、分霊箱を探さねばの」

 

 ダンブルドアは私の問いをはぐらかす。

 

「まあ、ご安心ください。先生が裏切らない限り、私も先生を裏切りませんから」

 

 私は笑顔でダンブルドアにそう返した。

 

 

 

 

 マルフォイ家の金庫の捜索が終わった私たちはその後も順番に死喰い人の金庫を見て回る。

 金庫の中身や量は様々で、中にはほとんど空に近い金庫もあったが、今のところ肝心の分霊箱は見つかっていない。

 

「ルシウス、ドロホフ、カロー、クラウチ、クラッブ、ゴイルと見てきましたが当たりは無し……」

 

 私は今まで捜索してきた金庫の持ち主を順番に挙げていく。

 

「で、この金庫は誰の金庫なんです?」

 

「ブラック家の金庫じゃ」

 

「ブラック家?」

 

 ダンブルドアの予想外の答えに、私はつい聞き返してしまった。

 

「シリウス・ブラックは無実だったということで決着がつきましたよね?」

 

「シリウス・ブラックは、じゃ。ブラック家は純血主義の家系で、ヴォルデモートとも関わりが深い。それに、直系の一族から一人死喰い人を排出しておるしの」

 

「それってベラトリックス・レストレンジのことですか?」

 

 私の問いにダンブルドアは首を横に振る。

 

「シリウス・ブラックの実の妹じゃ。ヴォルデモートがハリー・ポッターに敗れた次の日に闇祓いによって殺されておる」

 

「ああ、もう死んでいるんですね。だとしたら、金庫の最後の持ち主はどっちにしろシリウス・ブラックでは?」

 

「確かに最後の持ち主はシリウス・ブラックかもしれん。じゃが、シリウスは持ち主になってから一度もこの金庫を訪れてはおらんじゃろう」

 

 ああ、そうか。

 シリウス・ブラックはヴォルデモートが敗れてすぐに冤罪でアズカバンに収監されたのだ。

 脱獄後も容疑が晴れたわけじゃないのでシリウス・ブラックとしてグリンゴッツを訪れたというのは考えにくい。

 

「だとしたら、金庫は十数年前から手付かずである可能性が高いと」

 

「そういうことじゃの」

 

 ダンブルドアは杖を一振りし、金庫の中に小さな灯りをいくつも浮かべる。

 私は一度杖をしまうと、手当たり次第に金庫の中を漁り始めた。

 

「にしても、ブラック家も相当裕福な家系だったんですね。どこもかしこも金貨の山。それに……これは魔導書ですかね?」

 

「魔導書には触るでないぞ」

 

 金貨をチョロまかす程度なら注意すらしなかったダンブルドアが、はっきりと釘を刺す。

 私は伸ばしかけていた手を引っ込めると、少し頬を膨らませた。

 

「はいはーい。わかってますよー。でも、金庫に保管されている本なんて、よっぽど貴重か、よっぽど危険かのどっちかですよ?」

 

「わかっておるなら手を触れるでない。今はカップ、ロケット、髪飾りじゃ」

 

 私は小さく肩を竦め、分霊箱の捜索を再開する。

 だが、肝心の分霊箱が見つかることはなかった。

 

「うーん。やっぱりこの金庫にも分霊箱はなさそうですね。これで残るは……」

 

「レストレンジ家。次で最後じゃ」

 

 ダンブルドアは私の肩に手を置くと、次の金庫へと付き添い姿現しをする。

 そして先程と同じように小さな灯りをいくつも浮かべた。

 レストレンジ家の金庫の中はブラック家やマルフォイ家には敵わないが、それでも少なくない数の金貨や宝石が積まれている。

 

「さて、ここになかったら今日は骨折り損って感じですけど……あ、これとかどうです?」

 

 私は近くにあった宝石のはまったゴブレットを手に取る。

 だが、その瞬間ゴブレットを掴んだ手に鋭い痛みが走った。

 

「あ゛っつ!」

 

 私は思わずゴブレットを床に投げ捨てる。

 するとゴブレットは床を転がりながら二つに分裂し、数秒後時間が止まって動かなくなった。

 

「双子の呪文と燃焼の呪いが掛かってるみたいです」

 

「そうみたいじゃな。下手に触らない方が良いじゃろう」

 

 私とダンブルドアはそう広くはない金庫の中で目を凝らす。

 数分もしないうちにダンブルドアが金庫の隅の方で声を上げた。

 

「これじゃ」

 

 私はダンブルドアの元へと駆け寄る。

 ダンブルドアが指差す先には小さな金のカップが置かれていた。

 二つの取っ手がついたカップで、側面には穴熊が彫られている。

 

「それじゃあこれが……」

 

「ヘルガ・ハッフルパフのカップで間違いないじゃろう。問題はこれが分霊箱であるかどうかというところじゃが」

 

「でも、これがもし分霊箱だったら、他の分霊箱もホグワーツ創始者の遺品である可能性が高くなりますね」

 

 ダンブルドアはカップを魔法で浮かすと、ローブの端で包む。

 そして杖で何度か魔法をかけ、双子の呪文と燃焼の呪いを解いた。

 

「これでよし。さて、ホグワーツに戻ろうかの」

 

 ダンブルドアは私の肩を掴むと、そのまま付き添い姿くらましをする。

 そして、ホグワーツの校長室へと姿現しした。




設定や用語解説

グリフィンドールの幽霊部員兼シーカーサクヤ
 シーカーが幽霊部員な時点でだいぶ終わっているが、サクヤの代わりが出来る生徒がいないのでそのままになっていた。

優秀な二重スパイスネイプ
 原作と同じように死喰い人に潜伏している。サクヤが死喰い人として活動していた時はサクヤのこともダンブルドアに報告していた。

ガリオン金貨をちょろまかすサクヤ
 手癖が悪いのは割と昔から

ブラック家出身の死喰い人
 ブラック家からは、分家のベラトリックスとは別に、本家にも死喰い人がいた。シリウス・ブラックの妹であり、クラウチ・ジュニアと同期。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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