P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
結局のところ、私の他に立候補者がいなかったためグリフィンドールのシーカーは今年も私に決定した。
まあそれはそうだろう。
そもそもグリフィンドールのシーカーはずっと圧倒的な才能を持っていたハリーが務めていた。
そのせいでシーカーの経験がある選手が育っていない。
かく言う私もクィディッチの試合経験があるわけではないが。
だがまあ、学生レベルのスポーツで後れを取るようではこの先到底生きてはいけないだろう。
他のポジションはチェイサーにケイティ・ベル、デメルザ・ロビンズ、ジニー・ウィーズリーの三人。
そしてビーターにはフレッド、ジョージの二人に代わってジミー・ピークスとリッチー・クートが選出された。
どっちも私と同じく試合経験がない素人だが、選抜を見ている限りはセンスを感じる。
鍛え方次第では立派なビーターになるだろう。
「僕、四回目のデメルザのシュートはミスするかもしれないと思ったなぁ」
ハグリッドの小屋へ向かう道中、朝は死にそうな顔をしていたロンが上機嫌で言う。
どうやら無事グリフィンドールのキーパーに選ばれたことで少し自信を取り戻したようだった。
まあ、自信を喪失しているよりかは、少々自信過剰なぐらいがロンにはちょうどいい。
去年あんな大敗の原因を作ったのはロンの精神の弱さだ。
今年は少しは改善されるといいのだが……まあその前に私がスニッチを取れば済む話か。
「でも、マクラーゲンよりかは良かったと思わないか? ほらアイツ、五回目で変な方向に動いただろ? まるで錯乱したみたいにさ」
ロンがそう言った瞬間、ハーマイオニーの耳が少し赤くなる。
なるほど、あの様子ではマクラーゲンはハーマイオニーの錯乱呪文を食らったのだろう。
まあ、それに関しては呪文を避けられなかったマクラーゲンが悪い。
そうしているうちにも私たちはハグリッドの小屋の前にたどり着く。
ハーマイオニーは小屋の前で気まずそうに足を止めたが、私は躊躇することなく扉に近づき、何回か扉を叩いた。
「ハグリッドー、いるのー?」
私はそのまま小屋の中へと耳をそばだてるが、中から人の気配はしない。
「……留守かな?」
ロンがそう言った瞬間、重たい足音が小屋の裏の方から聞こえてきた。
「おいお前らなにしちょる……って、お前らか」
ハグリッドは小屋の裏からじゃがいもの入った大袋を抱えて現れると、私たちと目を合わせることなく足早に小屋の中へと入っていく。
私はハグリッドの足元に紛れると、ハグリッドが扉を閉める前に小屋の中に入り込んだ。
「たっくあいつらどのツラ下げて……」
ハグリッドは足元の私に気づかずそのまま台所にじゃがいもの袋を置きに行く。
私はその隙に扉の鍵を開けると、二人を中に招き入れ、ハグリッドがこちらを振り向く前にテーブルへと座った。
「どのツラ下げてって、あんまりな言い方じゃない?」
私がハグリッドに向かってそう言うと、ハグリッドはわかりやすく大きな体をビクつかせる。
そして慌ててこちらを振り返り、私たちの姿を見て頭を抱えた。
「お前ら勝手に……それにどうやって?」
「なによ。ダメ? ダメなら帰るわ」
私は椅子に座ったまま後ろに体重を掛け、椅子をゆらゆらと揺らす。
そしてハグリッドに対して微笑みかけた。
ハグリッドはそれを見て毒気を抜かれたように首を振る。
「まったく、お前さんってやつは」
「私たちとハグリッドの仲じゃない」
ハグリッドはヤカンを暖炉に掛け、紅茶を淹れる準備をし始める。
私はそれを見てバッグから大きなかぼちゃのパイを取り出した。
「その割には誰も俺っちの授業を取ってねえじゃねえか。え? サクヤ、お前さんだけでも授業を取ってくれると思っとったんだがなぁ」
ハグリッドは茶葉やポッドを用意しながら冗談交じりに文句を飛ばしてくる。
「必要ないもの。付き合いで授業が選択できるほどNEWTは甘くないって貴方もわかってるでしょ?」
「その割にはスカーレットの誘いで急遽占い学を取ったじゃねえか」
「……よくご存知で」
私は小さくため息をつくと、ハーマイオニーとロンの方をチラリと見る。
そして少し声を小さくして言った。
「校長先生から言われてるのよ。スカーレット先生とは懇意にしておけって」
意味深に呟いたが勿論嘘である。
「ダンブルドア先生が?」
「騎士団関係でね。まあ、スカーレット先生が強い力を持っているのは確かだし、仲良くしておくに越したことはないわ」
まあ、仲良くしておくに越したことはないというのは本当だが。
「それに、ハグリッドもレミリア・スカーレットという吸血鬼の性格はよく知っているでしょう?」
「ダンブルドアがあのお嬢様をホグワーツの教師に据えるという発表をなされた時は流石の俺もダンブルドアの正気を疑ったわい」
「つまりはそういうことよ。あのお嬢様の我儘に無理に反抗するより、やりたいようにやらせた方がいいわ」
と、ここまで言っておけばハグリッドも納得するだろうか。
私は話を逸らすために軽く小屋の中を見回し、部屋の隅に大きな幼虫が何匹も入った桶を見つける。
「そういえばハグリッド、その幼虫はなに? 次の授業で使うの?」
私が桶を指差すと、ハグリッドは目に涙を浮かべて話し始めた。
「そいつはアラゴグにやるために取ってきたんだ。あいつ……この夏から元気がなくてな。死にかけちょる。しょっちゅう具合を見には行ってるが、ちっともよくなんねぇんだ」
「アラゴグ?」
私が聞き返すと、ハグリッドが鼻を啜りながら答える。
「大きなアクロマンチュラだ。俺が学生の頃から世話しちょる。今は禁じられた森の中で生活しとるがな」
「え、アクロマンチュラって肉食……それも人肉を好むんじゃ……」
ハーマイオニーがそう言うと、ハグリッドがとんでもないと言わんばかりに手を振った。
「そりゃ餌が他になければ人も食うが……ここの奴らは森の奥から出てはこん。それが俺とアラゴグの約束事っちゅうやつだ。アクロマンチュラは頭がいい。人と会話ができるほどにはな。だから俺とアラゴグの群れとの間にはいくつも約束事がある」
「今群れって言った?」
私が聞き返すと、ハグリッドが何を当たり前なことをと言わんばかりに頷いた。
「ああそうだ。ひとりぼっちじゃ寂しかろう? 俺がお嫁さんを連れてきて、今じゃ森の中で大家族だ」
「いや、危険生物……まあ、ハグリッドが面倒見てるなら大丈夫なんでしょうけど」
「勿論だ。……なんにしても、あの様子じゃもう長くはねぇだろうな。少しでも安らかに逝けるといいんだが……」
啜り泣き始めるハグリッドの背中をハーマイオニーが優しく撫で始める。
その様子を見ながらロンが私の耳元で囁いた。
「あの、アクロマンチュラってなに?」
「馬車ぐらいの大きさの蜘蛛よ」
私が答えると、ロンの表情が引き攣る。
そういえば、ロンは蜘蛛が苦手だったか。
その後も何気ない雑談を交わし、ハグリッドの小屋を出る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
私たちは足早に城の中へと戻ると、夕食を取りに大広間へと向かう。
だが、いざグリフィンドールテーブルへ座ろうというタイミングで、横から声が掛かった。
「おお、なんともタイミングがいい! まさに君を待っていたところだよ」
私に声を掛けたのはスラグホーンだった。
スラグホーンは髭の先端を指で弄りながら朗々と話す。
「夕食前に捕まえたかったんだ。どうかね? 今日の夕食はここではなく、私の部屋でというのは。ちょっとしたパーティーをやるんだ。君の他にも何人か来る。マクラーゲンやザビニ、それにメリンダもだ。メリンダは知っているかな? 家族が大きな薬屋を営んでいてね。それに……ミス・グレンジャー、君にも来て頂けると大変嬉しい」
スラグホーンはロンには目もくれずにそう言った。
私は値踏みするようにスラグホーンを見ると、やれやれと肩を竦める。
「その申し出は大変嬉しく思いますが……正直マクラーゲンやザビニじゃ私と釣り合っていませんわ」
私の返答に、スラグホーンは困った顔をする。
「おっと、そうかな? ふむ、君がそう言うなら、次はもっと招待客を厳選する必要があるな……」
「それでは失礼致します。私はこれから友人二人と楽しいご飯の時間なので」
私はハーマイオニーとロンの肩をがっちりと掴む。
その様子を見て、スラグホーンは慌てたように言った。
「参考までに、君がもし人を誘うとしたら一体誰を誘うか聞いてもいいかな?」
「そうですね……ハーマイオニーは勿論のこと、レイブンクローのチョウ・チャンとか、スリザリンのドラコ・マルフォイなんてどうです? あと、ネビルとか。彼は血統もそうですがかなり優秀な薬草学者ですよ」
「ふむ。君がそう言うなら……参考にさせてもらおう」
スラグホーンは髭を撫でながらのっしのっしと大広間を出ていく。
私は二人と一緒に今度こそグリフィンドールのテーブルへ座った。
「ねえ、僕は?」
ロンがキドニーパイを切り分けながら私に聞く。
「貴方何か尖った才能ないじゃない」
「ひっどいなぁ。これでも特技がないわけじゃないんだぜ。ほら、チェスとか得意」
「まあ確かに。でも、なに? 行きたいの?」
私がそう聞くと、ロンは少し考え、首を横に振った。
「ならいいじゃない。凡人サイコーってね」
「ちょっと面白くなかっただけだよ」
私はロンが切り分けているキドニーパイを横から攫うと、口の中に放り込む。
「あ、それ僕が食べようと思って切り分けてたのに!」
私は憤慨するロンを見てクスクス笑うと、新しいパイの皿を自分の元へと引き寄せた。
クィディッチの選手選抜が終わったこともあって、グリフィンドールチームも本格的に練習が始まった。
グリフィンドールのキャプテンになると熱血馬鹿になるという呪いでもあるのか、新キャプテンのケイティはオリバー・ウッドやアンジェリーナ・ジョンソンが乗り移ったかのようなスパルタスケジュールを立て始めた。
だが、その練習全てに付き合っていられるほど私も暇ではない。
シーカーはチームワークがあまり必要ないポジションではあるので、私は週に一度だけ、チームのみんなと認識を合わせる程度に練習していた。
練習の参加率が低い私に対し、ケイティは多少不満を持っているようだったが、表には出してこない。
きっとあれこれ文句をつけたら、私がチームをやめてしまうとでも思っているのだろう。
「デメルザ、もっと全体の動きを意識して。ロン! 次止めなきゃ居残りよ!」
私はハリーの箒でスタジアムを飛び回りながら練習の様子を眺める。
チェイサーの動きは悪くない。
新人のデメルザもケイティの熱烈な指導によりだいぶ動けるようになってきていた。
新人ビーターの二人もまだだいぶ荒削りだが試合までにはある程度も仕事はできるようになるだろう。
私はビーターが打ち損じて飛んできたブラッジャーを片手で受け流すと、そのまま軌道を変えビーターに投げ返した。
「こっち飛んできたわよ! 気をつけなさい!」
「ご、ごめん! それどうやったんだ?」
ピークスがブラッジャーを追いかけながら首を傾げる。
「どうも何も、普通よ」
私は急加速でピークスに追いつき、軽くウインクしてそのまま抜き去った。
クィディッチの練習帰り、私はチームの女性陣と一緒に大広間を目指して校庭を歩いていた。
ケイティは練習でエネルギーを使い果たしたのか、すっかりいつもの落ち着きを取り戻している。
「そういえば、来週はホグズミードに行ける日ね。みんなはどうするの?」
「友達と一緒に回る予定よ。ケイティは?」
「ハッフルパフのリーアンと一緒に回る予定」
私はケイティとジニーの会話を聞きながら、今日の夕食は何を食べようかと考える。
そうしているうちに大広間に到着し、私たちは固まってグリフィンドールのテーブルへと腰掛けた。
「サクヤは? いつもの三人組?」
ケイティがサラダをボウルごと抱え込みながら私に話を振ってくる。
私は負けじとハンバーグが山盛りにされた皿を自分の手元に引き寄せながら言った。
「まだなんにも決めてないけど、多分そうなるでしょうね」
「貴方たち本当に仲がいいわよね。入学の時からずっと一緒じゃない」
「ええ本当に。ありがたい限りですよ、本当」
こんな私と仲良くしてくれるのだから。
私は大皿のままハンバーグを切り分けると、口いっぱいに頬張る。
もしあの時ハリーを殺さなかったら、どうなっていただろうか。
まだ、仲良し四人組を続けられていただろうか。
「やあやあ、探したよ」
私がそんなことを考えていると、横合いから声を掛けられる。
そこにはスラグホーンがにこやかな笑顔で立っていた。
「食事の招待に来たんだが、どうかね? もう食べ始めてしまっているようだが……まあ些細な問題だ。それに、今日は君が推薦していたメンバーを集めたんだ。ミス・チョウにミス・グレンジャー、それにミスター・マルフォイも」
「それはそれは……」
私はチームのみんなに軽く目配せするとナイフとフォークを置いて席を立つ。
「是非お呼ばれしましょう」
「ほっほう! ではレディ、こちらへ」
スラグホーンは少々大袈裟な態度で私をエスコートし始める。
私はケイティやジニーに軽く手を振ると、スラグホーンに連れられて大広間を後にした。
設定や用語解説
シーカー選抜
ほぼ負けることがわかっているので誰もシーカーには立候補しなかった。
レミリアにあまりいい印象を持ってないハグリッド
ハグリッドだけではなく、ホグワーツにいる殆どの教員がレミリアのことをあまりよくは思っていない。諸手を挙げて喜んだのはトレローニーぐらい。
アクロマンチュラ
成長すると馬車馬ほどの大きさになる毒蜘蛛。肉食で、人肉を好む傾向がある。また、人語を理解することができ、会話が可能な個体もいる。
アラゴグ
ハグリッドが学生の頃に卵から羽化させたアクロマンチュラ。現在では禁じられた森の奥に巣を作って生息している。原作では二年生の頃に出会う存在だが、今作では色々あって出会っていない。
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