P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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敵意とネックレスと私

 スラグホーンが言った通りスラグホーンの私室にはレイブンクローのチョウ・チャンとハーマイオニー、ネビル、そしてマルフォイの姿があった。

 この中ではチョウだけが七年生で、あとはみんな六年生だ。

 

「やあやあ待たせたかな? お待ちかねのサクヤの到着だ」

 

 スラグホーンは上機嫌で私を自分の横に座らせると、杖を一振りしテーブルに料理を並べていく。

 屋敷しもべ妖精に特別に作らせたのか、テーブルの上には大広間とは違う料理が並んでいた。

 

「古い伝手からいい海鮮が手に入ったのでね。是非楽しんでくれ」

 

 スラグホーンの言葉に皆カトラリーを手に取って食事を始める。

 この中でスラグホーンの食事会に呼ばれたことがあるのは私とネビルだけだ。

 私の思いつきで呼ばれた三人は何を話していいかわからないと言った表情で無言で料理を口に運び始めた。

 

「さて手始めに……ネビル、聞いたよ。随分薬草学の成績がいいらしいじゃないか。やはり君もロングボトム家の血を継いでいるということか」

 

 スラグホーンに声を掛けられ、ネビルがわかりやすく肩をビクつかせる。

 

「そんな、僕なんて全然……」

 

「何を言う。スプラウト先生も褒めていたよ。決して要領が良い方ではないが熱意なら誰にも負けないとね。植物は好きかい?」

 

 私はスラグホーンとネビルの会話を聞きながら子牛のステーキを頬張る。

 ふとその時正面から視線を感じ、私はフォークを咥えながらその方向を見た。

 

「──ッ、……」

 

 視線の主はチョウだ。

 チョウは私が視線に気がついたことを悟ると、慌てて視線を逸らす。

 一瞬のことだったので開心術をかける暇はなかったが、チョウの視線には明らかな敵意がこもっていた。

 同じクィディッチのシーカーということもありライバル視されているのだろうか。

 

「ねえ、チョウ?」

 

「な、何?」

 

 私が呼びかけるとチョウが表情を取り繕いながら振り向く。

 私は今度こそチョウに対し開心術を仕掛けた。

 

「ふふ、『読んで』みただけ」

 

 チョウの心にあるのは深い悲しみと憎悪。

 そして私に対する明確な敵意と殺意。

 敵チームのシーカーとしてライバル視されているには過ぎる感情だ。

 彼女は、機会があれば私を殺すだろう。

 原因はなんだ?

 そもそも、彼女とは今まで殆ど接点がない。

 今回名前を挙げたのだって、成績が優秀でシーカーとしての技能も高いと噂されていたからだ。

 そのことについて話しかけ、もっと深いところまで潜ることができれば何かわかるかもしれないが、スラグホーンの前でするには少々リスクを伴う行為だ。

 私はチョウを分かり合うことを諦め、向かい側に座っているマルフォイに声を掛けた。

 

「授業では何度も会っているはずなのに久しぶりなような気がするわね。ドラコ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ドラコは私から声を掛けられたことに少々驚いているようだったが、すぐに呆れたような笑みを浮かべる。

 

「サクヤも大変だな。あのように担ぎ上げられちゃ」

 

「ほんとよまったく。いい迷惑だわ。私は静かに暮らしていきたいのに」

 

 私は小さくため息をこぼす。

 

「でも、ハリーが死んだ今、その代わりを務められるのは私しかいないもの」

 

「そうか……そうだよな」

 

 マルフォイは小さく噛み締めるように言うと、フォークをテーブルに置く。

 そしてもう用はないと言わんばかりに椅子から立ち上がった。

 

「ん? ドラコ、どうかしたのかね」

 

「もう帰ります」

 

「もう? まだ始まったばかりじゃないか」

 

 マルフォイは引き留めるスラグホーンには目もくれず、テーブルを回り込むようにして部屋の扉へと歩いていく。

 そして私の横を通り過ぎる時、小さな声で囁いた。

 

「待ってて」

 

「え?」

 

 私は咄嗟にマルフォイの方を振り向くが、マルフォイは何事もなかったかのように横を通り過ぎ、そのまま部屋を出ていった。

 

「あー、どうもお腹が痛いみたいです」

 

「ほっほう。ならば……まあ、そういうことなら」

 

 スラグホーンは取り敢えず納得したのか、今度はハーマイオニーに話題を振り始める。

 マルフォイは一体ホグワーツで何をするつもりなのだろうか。

 ダンブルドアの話では死喰い人は私のことを裏切り者だとは思っていないらしい。

 マルフォイはもしかして、私をホグワーツから助け出そうとしているのか?

 もしそうだとしたら、マルフォイはヴォルデモートにいいように使われているということだ。

 マルフォイの動きには警戒しておいた方がいいだろう。

 私はステーキの最後の一切れを口の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 食事会の終わり、私はハーマイオニーとネビルに先に帰るように促すと、一人スラグホーンの部屋の中に戻る。

 スラグホーンも私がわざとぐずぐずしていることを察したのか、チョウが部屋を出て行ったのを確かめると、そっと扉を閉じた。

 

「何か話があるといった顔をしているね?」

 

 スラグホーンは先程まで腰掛けていた柔らかそうな椅子にどっぷりと体を沈める。

 私は座っていた椅子から立ち上がると、鞄の中から新品の『上級魔法薬』を取り出した。

 

「借りていた教科書をお返ししようと思いまして」

 

 私は教科書をスラグホーンへ渡す。

 スラグホーンは返された教科書が新品であることを確かめると、それでいいと言わんばかりにニコリとした。

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ」

 

「やっぱりわざとだったんですね」

 

 私は小さくため息を吐く。

 それを見てスラグホーンは少し不安そうに私を見る。

 

「サプライズのつもりだったんだ。私なんかが持っているより、君が持っている方がいい。違うかな?」

 

 サプライズか。確かに読みものとしては面白い。

 それに書かれている内容も興味深いものだ。

 

「先生がそれでいいのでしたら。……先生はこの教科書に書かれているレシピを試してみたことは?」

 

「何度かある。実際に成功させたこともね。その教科書に書かれているレシピはまさに芸術だ。彼女はまさに天才だった。だが──」

 

 スラグホーンは真っ直ぐ私の目を見る。

 

「君なら彼女を超えられると信じている。これからも精進したまえ」

 

「……はい。そうさせていただきます」

 

 私はスラグホーンに軽く会釈をし、スラグホーンの部屋を後にする。

 この本に書かれている以上のレシピを私が開発することをスラグホーンは望んでいる。

 そこまで目を掛けられている理由は正直謎だが、まあほどほどに頑張ることにしよう。

 

 

 

 

 

 十月の二週目の休日。

 私とロン、ハーマイオニーの三人はホグズミードにあるパブ、三本の箒でバタービールを飲んでいた。

 

「やっぱり休みの日はゆっくりしたいよな。ほんとケイティがホグズミード行きの日まで練習するとか言い出さなくてよかったよ」

 

 ロンがバタービールをチビチビやりながら小言をこぼす。

 

「あら、自分から立候補しておいてそれはないんじゃない?」

 

「なんだよ、サクヤはそもそも練習に参加しないじゃないか」

 

「そりゃ、私は飛べるし、捕れるもの」

 

 私がそう言うと、ロンは肩を竦める。

 

「サクヤがそう言うなら、本当にそうなんだろうけどさ」

 

「でも、練習にはちゃんと参加したほうがいいわ。クィディッチはチームプレイでしょ?」

 

「そりゃチェイサーやビーターはね。シーカーである私にとってはチームメイトなんて障害物でしかないわ」

 

 私がハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーは信じられないと言わんばかりの顔をする。

 

「いや、そんな顔しないでよ。これに関しては私は悪くないわ。クィディッチってスポーツがそういうルールなんですもの。勿論、チームのことは大切にしているわよ? チームプレイが必要無いってだけで」

 

「それはそうだけど、そういう言い方は良くないわよ」

 

「へいへい気をつけまーす」

 

 私は手をひらひらと振ると、椅子から立ち上がる。

 

「ちょっと、どこ行くのよ」

 

「トイレよ」

 

 私は二人にそう言い残すと、テーブルを縫うように移動し店の奥にあるトイレを目指す。

 ハーマイオニーに先程言ったことは半分冗談だが、逆に言えば半分は本音だ。

 シーカーにチームプレイは必要ない。

 私はただ、シーカーとしての役割をこなすだけだ。

 そのまま店内の奥へと歩いていき、トイレの扉を開け中に入る。

 その瞬間、扉の陰になっていた場所から小さな声が聞こえてきた。

 

「インペリオ、服従せよ」

 

「──ッ!」

 

 私は咄嗟に杖を引き抜こうとするが、その前に私の精神を暖かいものが包む。

 全身に多幸感が押し寄せ、私の脳内を埋めていった。

 

『こちらを向け。こちらを向くのよ』

 

 ぼんやりとした思考の中、私はゆっくり顔を上げる。

 そこには三本の箒の店主である、マダム・ロスメルタが立っていた。

 

『この小包をダンブルドアへと届けるのです』

 

 ロスメルタは懐から小包を取り出し、私へと差し出す。

 私は両手でそれを受け取り、ローブのポケットへと仕舞いこんだ。

 

「はい。かしこまりました」

 

 私は多幸感に支配されながら、トイレを後にする。

 そしてテーブルの間を縫うように移動し、そのまま二人の待つテーブルへと戻った。

 

「さてさて……」

 

「随分早くない? もしかして個室が全部埋まってた?」

 

「いえ、違うわ。トイレに入った瞬間マダム・ロスメルタに服従の呪文を掛けられたの。それで、これをダンブルドアに渡せって」

 

 私は薄れゆく多幸感に若干の名残惜しさを感じながら、ポケットの中の小包をテーブルの真ん中に置く。

 

「ちょっと待って、聞き捨てならないこと言わなかった? 誰に何を掛けられたって?」

 

「マダム・ロスメルタに服従の呪文を掛けられたわ。でも、この様子じゃロスメルタも何者かに操られているわね」

 

 私はカウンターに戻って働き出したロスメルタを見る。

 もしロスメルタが死喰い人で、自分の意思で服従の呪文を掛けたのだとしたら、今の私の様子にもっと何かしらの反応を示すはずだ。

 

「当たり前のようにそう言ってるけど、サクヤは大丈夫なのかよ。服従の呪文を掛けられたんだろ?」

 

 ロンは信じられないものを見る目で私を見る。

 私はそんなロンに肩を竦めてみせた。

 

「何言ってるのよ。服従の呪文の破り方は四年生の頃に授業で習ったでしょ。それに服従の呪文で操られている者が掛けた服従の呪文だったし」

 

「それはそうだけど……」

 

「今問題にすべきはこれよ。ロスメルタを操った何者かはこの小包をダンブルドアに渡そうとしていた」

 

 私はテーブルの上の小包を杖でつつき、中身を取り出す。

 そこには綺麗なオパールのネックレスが入っていた。

 

「サクヤ、気を付けて。これは──」

 

「即死級の呪いが掛けられています。手にとってはいけませんよ」

 

 不意に背後から声が聞こえ、私たち三人は咄嗟に振り向く。

 そこにはレミリアの使い魔がにこやかな笑顔で立っていた。

 

「えっと、使い魔さん。どうしてここへ?」

 

「どうしてって……学生が休みだということは授業もないということです。お嬢様は眠っていらっしゃいますし。暇なので村に遊びに来たんですよ」

 

 小悪魔は空いている椅子に腰かけるとおもむろにネックレスを手に取る。

 

「で、これをどちらで? ホグズミードじゃ手に入らないはずですが」

 

 小悪魔に指摘され、ハーマイオニーはうろたえたように私を見る。

 

「どこの誰かは存じませんが、どなたかがこれをダンブルドアにプレゼントしたいみたいで」

 

「それは何とも素敵な……っと、いけないいけない。もしそれが本当なのだとしたら結構な事件ですね」

 

 小悪魔はベストの内ポケットから細くて黒い杖を取り出すと、ネックレスに対し厳重な封印を施す。

 

「ロスメルタの身の安全のためにも、首謀者が判明するまでは服従の呪文を解かないほうがいいと思います。ネックレスは私のほうでお預かりします。悪魔の私でしたら呪いの影響は受けませんし。貴方は私と一緒にこのことをダンブルドアに」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 私は小悪魔に対し軽く頭を下げ、席を立つ。

 

「ということだから私は城に戻るわ。二人は休日を楽しんで」

 

「そんな……私も一緒に──」

 

「ついてこられても困るだけ。貴方はロンと一緒にホグズミードを楽しんで」

 

 私は二人に対しひらひらと手を振ると、小悪魔と共に三本の箒から出る。

 そしてホグワーツ城へ向けて歩き出した。

 私は少し前を歩く小悪魔のぴょこぴょこ動く頭と背中の四枚の羽を見ながら考えを巡らせる。

 今回の事件、死喰い人が関わっていることは想像に難くない。

 だが、ヴォルデモートが仕掛けたことにしてはあまりにもお粗末だ。

 

「そういえば、小悪魔さんはレミリア先生からどこまでお話を?」

 

「分霊箱の話は大体聞き及んでいますよ。美鈴と同程度には事態を把握していると認識してもらって大丈夫です。逆に、ダンブルドアは周囲の人間にどこまで分霊箱のことを話しているんです?」

 

「私は把握していません。ですが……いや、もしかしたら、私以外には話をしていない可能性も」

 

 それを聞き、小悪魔は足を止めて振り返る。

 

「それはそれは……ダンブルドアは随分部下に信頼を置いていないのですね」

 

「万が一にも分霊箱を捜索していることをヴォルデモートに感づかれてはいけない。ダンブルドア先生はそうお考えのようです。ですので、先生と一緒に動く私と、分霊箱の捜索を任されているレミリア先生にのみ情報を明かしたのかと」

 

「確かにそれは用心深くはありますが、同時に不用心でもありますね」

 

 小悪魔は再びホグワーツ城に向けて歩き出す。

 

「もしダンブルドアや貴方、それにレミリアお嬢様が一度に殺されたらどうするおつもりなのでしょうね」

 

「それは……いや、そのためのレミリア先生では? 彼女の吸血鬼としての不死性は人間にはないものです。ダンブルドア先生はそれを見込んでレミリア先生に分霊箱のことを話したのではないでしょうか。それに彼女ならばダンブルドアが死んでしまったとしても問題なく後を引き継げます。それだけの権力や人脈、力をレミリア先生は持っている」

 

「まあ、そのような理由がなかったらお嬢様を味方に引き入れませんよね。お嬢様はあくまで時間が足りなかったときの保険か」

 

 小悪魔は苦笑いを浮かべる。

 だが、私は保険という言葉以上にあることが気になった。

 

「時間が足りなかったとき? 分霊箱集めに明確な時間制限があるという話は聞いていませんが」

 

「え? ああ、ダンブルドアは話してないのですね」

 

 小悪魔は歩調を合わせ私の横へと来ると、私の顔を覗き込んで言った。

 

「ダンブルドアは一九九七年の六月に。貴方は一九九八年の夏に死ぬと予言を受けているではありませんか」

 

 その時私は、レミリアから死の予言を受けていたことを思い出すと同時に、同じような予言をダンブルドアも受けていたという事実を知った。




設定や用語解説

服従の呪文に対抗するサクヤ
 サクヤは体質だけ見れば服従の呪文に対する耐性は低い。だが、それはそれとしてちゃんと解き方はムーディ(クラウチ・ジュニア)から教わっている。

レミリア・スカーレットの死の予言
 レミリアの占いはよく外れるが、死の予言だけは今まで一度も外れたことがない。レミリアが予言する死は絶対であり、過去多くの者が恐怖に打ちひしがれながら死んだ。レミリアの私の予言が外れる時は、レミリアが死に至る時だろう。

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